日は沈んだ。太一郎は耳を澄ませる。船室の前には、やはり見張りが立っているようだ。
寝台から立ち上がり、着物に袖を通す。洒落ているとはとても言えぬが、古びていながらも清潔感がある。お英が選んでくれたものに違いあるまい。そう思うと、胸の奥から温かいものが湧き上がってくるような気がした。
やせ衰えた体は、まだ思うように動いてくれない。粥で突然力が戻るわけもない。だが、お英との触れ合いが精神に良い影響を及ぼしたのは間違いなかった。
思わず笑う。出楠太一郎は、つくづく単純な男であるらしい。たとえどんな状況にあっても、惚れた女のこととなれば途端に元気になってしまうのだから。
「ふぅうううう─────すうぅぅぅぅぅぅ─────」
深く息を吸い込み、吐く。それを繰り返すうちに、体の中で燻っている熱に薪をくべられたような心地になる。全身に活力が漲っていくのが分かった。
太一郎は扉に手をかけ、すいと自然な動作で外に出た。
あくびしていた見張りが、面倒くさそうにこちらを見る。
「なんだよ、飯か? 昨日まで半死半生だったくせに、
「いや、違う」
「じゃあなんだ?」
「女だ」
いつの間にか、太一郎の手には拳銃があった。見張りが腰に挿していたものだ。撃鉄を起こされ、銃口を額に突きつけられていることに気づいた時、そいつは息を呑んで硬直した。
「うお……」
「賢いねえ。お前さん、長生きする方だぜ。俺の着物と武具のところに案内しな。それと、お英ちゃんの居場所も教えてもらおう」
◆◆◆
船室の窓から月が見える。海上で見る月はどこか妖しく、この世のものとは思えぬ美しさを湛えていた。
「かぐや姫は、お別れの時どんな気持ちだったのかなあ」
お英は丸テーブルで夕食の残り物をつまみながら、盃を傾けていた。酒はあまり好きではないけれど、飲まなければやっていられないという気分だった。
天草で買い付けたという伊勢海老や烏賊の刺身は絶品だ。こんな贅沢を味わえるのは、おそらく人生でも最初で最後だろう。太一郎にも食べさせてやりたかったな、と思う。
「亜米利加って、どんなところなんだろ……」
独り言は寂しさの証だ。上等の酒らしいが、何も美味いと感じない。
「おいら、これからどうなるんだろ……亜米利加で結婚して、子供を産んで……それで、幸せに暮らせるのかな……」
お英の声は震えていた。
クリストファーの話では、お英は亜米利加ではなく大坂で生まれたらしい。一度も土を踏んだことのない国で、どんな風に暮らしていけばいいのだろう。言葉は? 食事は? 生活様式は? 何もかも分からないことだらけだ。
何より辛いのは、惚れた男に二度と会えなくなるということだ。
「やっぱり、このまま逃げちゃおうかな……」
できないとは分かっていても、それでも考えてしまう。
だって好きなんだもん。
一緒になりたいもん。
離れたくないもん。
ずっと一緒にいたいんだもん。
だが、自分は既に代償を払ってしまった。男の命を救うため、父に人生を預けてしまった。今さら逃げることなど許されないし、許されてはいけない。
だから、これでいいのだ。これは自分が望んだ結末なのだ。せめてお雪の無事を確認したかったが、あの娘が死ぬところなど想像もできない。太一郎が何とかしてくれるだろう。
そう自分に言い聞かせる。言い聞かせなければならないほどに、別れが辛く感じられたのだった。
「さあ、そろそろ寝ようかな──」
「準備がいいな、お英ちゃん。伊勢海老とは、祝いの日に相応しいぜ」
「ひゃっ?!」
酒で気が緩んでいたのだろうか。いつの間にか、船室の中に男がいる。
「驚いたかい? 俺だよ」
「たいちろー……」
お英は思わずその名を呼んだ。
太一郎はにやりと笑った。頬はこけているのに、その笑顔だけはやけに生き生きとして見える。
お英は咄嗟に自分の格好を見直した。肌襦袢一枚しか身に着けていないことを思い出し、慌てて前を隠す。その様子を見て、太一郎は苦笑した。
「おいおい、今更恥ずかしがることないだろう」
「……どうしてここにいるの……?」
お英は震える声で尋ねる。太一郎はさあて、と言って、テーブルに置かれたままの徳利を手に取った。匂いを嗅いで、顔をしかめる。
「痩せたせいか、どうも鼻につくな。まあ、体なんぞ鍛えなおしゃあ済む話だ」
「そうじゃなくて、どうやってここまで来たのさ! 黒卍の見張りがいたし、おいら、鍵はかけたはずだよ!」
まさか殺したのだろうか。衰えた太一郎に、そんな事ができるとも思えなかったが、しかし他に考えられない。
お英が不安な気持ちでいると、太一郎は「ああ、それなら心配いらねえよ」と言った。
「なあに、痺れ薬でちょいと眠ってもらっただけだ。明日には起きるだろ」
それを聞いてほっと胸を撫で下ろすと同時に、疑問が浮かんだ。何故この男はわざわざここに来たのか。それも一人で。
……様々な思いが去来したが、しかし結局、口から出たのは短い言葉だった。
「馬鹿じゃないの」
「え?」
「もう会わないつもりだったんだよ、おいら。それなのになんで来たりするのさ」
すると太一郎は真面目な顔で答えた。
「馬鹿でけっこう。俺は会いたかったから来たんだ」
「……!」
お英は言葉に詰まった。ずるいと思った。そんな風に言われたら、何も言い返せないではないか。
お英はそっぽを向いてぼそぼそと呟いた。
「馬鹿じゃない、太一郎」
「うん」
「おいら、怒ってるんだから」
「うん」
「忠太郎なんかに負けちゃって」
「うん」
「死んじゃったかと思って」
「うん」
「寂しかった」
「うん」
「怖かった」
「ごめん」
「辛かった」
「ごめんな」
「……本当にそう思ってるなら……責任取ってよね……」
「取るさ。俺は、とっくの昔にお英ちゃんに首ったけなんだからな」
お英は一瞬きょとんとした後、顔を真っ赤に染め上げた。そしてしばらく口をぱくぱくさせた後、小さな声で囁いた。
「……なら許す……」
太一郎は懐から小さな布包みを取り出した。
「これ、は……?」
「包みは堺の商人に頼んで作ってもらったものだ。中を見せよう」
それは一本の
「綺麗……」
「長崎べっ甲だ。海亀の甲羅を加工して作る」
べっ甲の櫛は半透明で、赤みを帯びた黄色に濃褐色の斑点がある。まるで宝石のように美しく、月明かりが深みある色合いを引き立てていた。
「たいちろぉ……」
「お英ちゃん、この櫛はお前のもんだ。受け取ってくれ」
太一郎はそう言って手を差し出した。お英はおずおずと手を伸ばし、櫛を受け取る。指先が触れた瞬間、心臓が高鳴ったような気がした。
「ねえ、つけてみていい?」
「もちろんだとも」
太一郎が優しく微笑むのを見て、お英はゆっくりと髪に櫛を入れた。
「ああ……♡」
鏡に映った自分を見て、思わず溜息を漏らした。なんて綺麗なんだろうと見惚れてしまうほどだった。
太一郎が、背後からお英を抱きしめる。彼はそのまま耳元でささやいた。
「今日から、お前は俺の女房だ。いいな」
「……はい」
顎を持ち上げられる。ゆっくりと唇が重なった。体の幹を、歓喜の稲妻が駆け巡るのを感じた。
お英は夢中で舌を絡ませながら、太一郎の背中に手を回した。ああ、幸せだなあと思う。ずっとこうしていたいなあとも思う。
だが、幸福な時間は長く続かなかった。突然船が揺れ始めたのである。ぐらりと傾いた拍子に体勢を崩し、よろけた太一郎を慌てて支える。
「ななな、何!?」
「おっとっと……何しろ全員眠らせたからな。浅瀬に乗り上げちまったらしい」
「たいちろーの馬鹿! どうするのさ!」
「初日から夫婦喧嘩かよ。勘弁してくれよ」
二人はもつれ合うようにして船室を出た。クリストファーの船はクリッパーと呼ばれる高速帆船だ。脱出艇として全長三丈(約9m)ほどの短艇がある。二人は甲板に向かって進みだした。
「二人乗りにはちょいと大きいが、なんとかいけるだろう」
「どこに逃げるつもりなのさ! 長崎にはお父……黒卍の手下がいっぱいいるんだよ!」
「とりあえずは島原に身を隠そう。天領じゃねえから黒卍党は動きにくいし、あそこにゃキリシタンも多い。お雪ちゃんを探すにはうってつけだろう」
「お、お雪は……」
生死不明だ。だが、太一郎には確信があるようだった。
「十中八九、〈黒いデウス〉に捕まってるだろう。生きてさえいれば、必ず俺が救い出す。約束するよ」
にやりと笑う今日から夫になった男に、お英は何も言えなくなってしまった。ただ、黙って頷くしかなかった。
甲板に出ると、月が煌々と輝いているのが見えた。風も波も穏やかで、降りさえすれば短艇でも充分に逃げられるように思えた。
だが、そこで撃鉄の上がる音。
「待ちなさい、エイミー。その男から離れて、お父さんのところに来るんだ」
地獄の底から這い寄るような、怨嗟に満ちた声だった。振り向くと、そこには拳銃を構えたクリストファーが立っていた。銃口は、ぴたりと太一郎に向けられている。
「……お父さん……!」
「回転式連発拳銃か。亜米利加でも開発されたばかりだそうですが、流石ですな、義父上」
太一郎は平然としていた。その態度が癪に障ったのか、クリストファーは引き金を引いた。乾いた銃声が響き、太一郎は右肩を押さえてよろめく。
「たいちろー!!」
お英は思わず叫んだ。しかし、太一郎はすぐに体勢を立て直す。
「大丈夫、かすっただけだ」
「この野蛮な東洋人が……! お前に父と呼ばれる筋合いはない! エイミー! こっちへおいで! そいつは危険だ! お前まで不幸になってしまう!」
お英は一歩前に出た。そして言った。
「嫌だ! おいらはこの人と一緒になる!」
お英は叫ぶように言う。クリストファーは愕然とし、震える手で一枚の紙を取り出す。
この当時では極めて貴重な、銀板写真である。
「この写真を見せただろう、エイミー! 私と、お前のお母さんであるマリア! そして赤ん坊のお前だ! 嘘じゃない! 私はお前のお父さんなんだ!」
その写真に写る『母』は、お英に生き写しだった。上流の生まれなのか手足はすらりと伸び、髪は豊かで、顔立ちは整っている。
「分かってるよ。もう分かってる。お父さんがおいらのお父さんなんだって。黒卍党も、おいらを探すために作ったんでしょう?」
クリストファーは絶句する。何故知っているのだと言いたげな表情だった。
「源兵衛から聞いたよ。全国の異人を見張って、おいらに似た人を見つけたら報告するように言ったんだよね? 長崎でおいらを見つけられたのも、きっと偶然じゃないんでしょ?」
図星だったのか、クリストファーの顔が強張るのが分かった。それを見てお英は少し悲しくなった。
父は、本当は不器用で、娘想いの良い父親になれる男だったのだ。それを黒卍党の首領という仮面の下に隠してきたのだ。ただ、自分を探すために。そう思うと、やりきれない気持ちになった。
「お父さんには感謝してるよ。だけどおいらはもう、お父さんの子供ではいられない! おいらはこの人の女房になるんだ!」
お英の言葉に、父は二、三歩後ろに下がった。わなわなと震えながら口を開く。
「馬鹿なことを言わないでおくれ、エイミー……! その男は、異国の男は、お前を幸せになんかできないよ! そいつのせいで、お前がどれだけ苦しんだと思っているんだい!? さあ、こっちにおいで……一緒に帰ろう……もう大丈夫だよ……もう何も心配いらないからね……」
「いいや、駄目だ。義父上、悪いがお英は嫁にもらっていく。あなたが何と言おうとも、この娘はもう俺のものだ」
そう言い切った太一郎に、クリストファーは憎悪の視線を向けた。
「黙れ、この
クリストファーが拳銃を連射する。だが、太一郎は一歩も動かなかった。
「船の上で、この距離で撃っても当たりはしません。痺れ薬も抜け切っていないようですし」
「うるさい! エイミー! エイミー! エイミィィィッ!!」
弾切れになっても、まだ引き金を引き続ける。肩で息をしながら、血走った目でこちらを睨みつけていた。
「……あなたは本当に優しい人だ、義父上」
太一郎はそう言うと、お英を抱き寄せた。
そしてそのまま唇を奪う。舌を絡ませ、歯茎を舐め回し、唾液を流し込む。
「うそっ……んん……ちゅ……お、お父さんが……やんっ、見てるぅ……」
長い口づけが終わると、お英はすっかり惚けてしまっていた。頬を紅潮させ、うっとりとした表情で太一郎を見つめてしまう。父の事は頭から吹き飛んでいた。
「なっ……なっ……」
クリストファーは完全に言葉を失っていた。目の前で繰り広げられる光景が信じられなかったのだろう。
「何をするぅ!?」
ようやく我に返ったクリストファーが怒鳴る。太一郎は涼しい顔で答えた。
「何って、求婚の口づけですよ。エイミー・アップルホワイト。貴女を俺の妻に迎えたい。返答やいかに?」
その言葉に、お英の表情がぱっと明るくなる。
「喜んで……エイミーは、出楠太一郎様のお嫁さんになりますぅ……♡」
そう言って自分から口づけをする。舌を絡めあい、唇を貪りあう二人を、クリストファーは呆然と見つめていた。
やがてどちらともなく口を離すと、銀色の糸がつうっと垂れる。それは月光を受けてきらきらと輝いていた。
「ああ、可愛い俺の女房殿。愛しているぜ」
「エイミーも、エイミーも愛してる……好き、大好きぃ……♡」
そう言って抱き合う二人を見て、クリストファーの膝から力が抜ける。銃を取り落とし、その場にへたりこんだ。そして床に拳を叩きつけて叫んだ。
「嘘だぁっ!! エイミー! 私の娘を返せぇっ!!」
「あ、ご、ごめんなさい! でも、その、この人って強引で……!」
お英は必死に弁解しようとしたが、父親の耳にはもはや届いていないようだった。クリストファーは項垂れ、ブツブツと何かを呟いている。
「行こうか、お英ちゃん。長居すると面倒だ」
太一郎はそう言いながらお英の手を引く。彼女もそれに素直に従った。短艇に乗り込む二人を見ながら、クリストファーは小さく呟くのだった。
「……マリア……エイミーが、エイミーが……取られてしまった……どうして……私が何をしたというんだ……!」
その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、二人は無言で短艇に乗り込み、櫓を漕ぎ出した。波を切り裂きながらゆっくりと進んでいく。この日は、雲一つない星空だった。
◆◆◆
浜辺に到着すると、太一郎はすぐさまお英を抱きすくめ、砂浜に押し倒した。
「たいちろー、だめっ……」
抵抗するお英だが、ただのフリだ。一刻も早く、夫と一つになりたくて仕方がない。
潤んだ瞳で見上げれば、すぐに唇が重ねられた。軽いものではなく、舌を割り込ませ、唾液を交換するような激しい接吻。舌を伝って送り込まれてくる彼の味に、頭がくらくらしてくるのを感じた。
たちまち肌襦袢を剥ぎ取られる。月明かりの下で、お英の筋肉質で引き締まった肉体が露わになった。
「きれいだ、お英ちゃん。大きなお尻から、脚先まで肉が引き締まっていて……胸も腰も健康的で、何よりいやらしいな」
そう言われると、恥ずかしいけれど嬉しい気持ちにもなる。自分は彼に欲情されているのだという事実が、お英の心を熱くさせるのだ。
彼は再び唇を重ねてきた。今度は舌を絡ませず、唇の表面を擦り合わせるようにじっくりねっとりと責め立てられる。それだけでお英の股間はじゅんと熱くなり、蜜が溢れてくるのが分かった。
(口づけだけでこんなに感じちゃうなんてぇ……)
恥ずかしさを感じながらも、身体は正直だった。無意識に太一郎の背中に手を回してしがみつくと、彼もぎゅっと抱きしめてくれた。痩せた胸板から鼓動を感じるたび、彼を救えたのだと実感できて嬉しくなってくる。
ひとしきり互いの温もりを確かめ合った後、太一郎は身体を離して彼女の首筋に舌を這わせた。鎖骨に沿ってゆっくりと舐めおろしていくと、お英の口から甘い吐息が漏れる。首筋を舐め終わると次は耳である。こちらは優しく甘噛みしたり舐めたりを繰り返した。さらにハリのある乳房へと手が伸び、軽く揉みしだいて先端の蕾を指で摘まむ。くりくりと転がすように愛撫されれば、口からの甘い吐息が止まらない。
毎日の自慰行為ですっかり敏感になったそこは、大好きな性感帯の一つ。ゾワリゾワリとした快感が背筋を駆け抜けるたびに、身体が小刻みに震えるのが分かる。
「ほら、また舌を出してみろ」
お英は彼の言うままに舌を差し出す。舌先同士を絡めあわせる情熱的な口づけが始まる。
「んちゅっ♡ くふぅっ♡ んふ…………じゅるっ、たいちろのつばっ、おいしぃっ♡」
お英の口から溢れた涎が顎まで伝い落ちる。甘美な味が胃の腑まで女体を占領し、理性を奪い去っていく。もはやここがどこなのかも分からないほどに思考が蕩けていくのが分かった。
(だめっ♡ ぜったい声我慢できないっ♡)
お英の理性は抵抗しようとするが、まるで力が入らない。愛する男の為すがままになってしまう自分を止められない。身体は彼に屈服して、雌としての悦びを待ち望んでしまっているのだ。
砂の上に仰向けにされたお英は両足を大きく開き、両手で陰部を広げて見せる。その様は自らを捧げているようにしか見えなかった。愛液で濡れそぼった秘所は既に準備万端とばかりにひくつき、雄を受け入れる態勢を整えていた。
「はっ、はっ、はっ、来て、たいちろ、きてっ♡ はやくぅっ!」
我慢出来ずに腰をくねらせ、淫らに誘ってしまう。彼女の処女地は、既に熱く疼いて蜜を溢れさせていた。子宮は早く受精したいのだと子種を求めて下りてきているようだ。
太一郎は着物を脱ぎ捨てる。その下から現れた男根は天を衝かんばかりにそそり立ち、血管を浮き立たせていた。お英は思わず生唾を飲み込んだ。今からあれが自分の中に入ってくると思うと、子宮がキュンと疼いてたまらない。しかしまだ挿入はされない。太一郎は意地悪そうに笑うとこう言った。
「欲しいなら、ちゃんと頼みな。お前の亭主に、心を込めて頼むんだ」
その言葉にお英は一瞬ためらうものの、羞恥心はすぐに欲望に塗りつぶされてしまう。両膝を手で抱え、長い足を開くとおねだりを始めるのだった。
「ほ、欲しいのぅ……♡ おいらぁ、たいちろの女にして欲しいのぉ……おっ、おねがいします、どうかこのいやらしい身体に種付けしてください、子種汁で孕ませてくださいぃ……♡」
太一郎の鼻息が、お英の股に当たるほどの距離にまで近づいてくる。それだけで腰が抜けてしまいそうになるほど気持ちいい。割れ目からは透明な液体が溢れ出し、ぴゅっと太一郎の顔にかかった。彼はそれをぺろりと舐め取ると満足げに笑った。
「いいねぇ、最高だ……もっといやらしく言えるかい?」
「いっ、言えますっ! あっ、おいらのおまんこはもうぐちょぐちょでぇ……太くて逞しいお珍宝さまが欲しくてたまりません……! 淫乱女房の発情おぼぼにお情けを恵んでくださいぃぃ!」
「もっとだ! ほら、ここに何が欲しい?」
そう言って肉棒の先端をお英の女唇に擦り付ける。亀頭の先っぽでぐりぐりとこね回されると膣口がパクパクと物欲しそうに蠢いた。その度にぬちゃりと卑猥な音が立つ。耳からも犯されているようでたまらなかった。脳髄が痺れるような快感に思考能力が奪われていく。もうまともなことは考えられなかった。快楽を求める本能のままに言葉を紡いでいく。
「はいっ! はいぃっ! お珍宝さまです! 逞しく立派なお珍宝さまのぶっとい幹で掻き回されて、ジェニーみたいにウテルス突き上げられて膣内射精されたいのっ! たくさん中出ししてもらって赤ちゃん産みたいのぉっ!」
「よく言えたなぁ!」
そう言うなり太一郎は一気に腰を進めた。ずぶりという音がして巨大な剛直が狭い肉穴を押し広げながら突き進んでくる。あまりの大きさに思わず息を飲むが、次の瞬間には破瓜の痛みすら押し流してしまう快感にお英はのけぞった。熱い塊が自分を満たしてゆく感覚に身悶えする。
「あ゛ーっ!! きたぁっ、入ってきたぁっ♡」
太一郎の陰茎は、すでに限界まで硬くなっているようだった。それがまるで生き物のように脈動しているのがわかる。お英は無意識のうちに彼の腰に足を絡めると自分から引き寄せてしまった。それに気付いた太一郎はにやりと笑う。
「おお……積極的だな……そう焦るなよ。時間はたっぷりあるんだからよ」
そう言ってゆっくりと抽送を開始する。雁首がぞりぞりと襞をひっかき、竿全体が余すところなく包み込まれ扱かれる感触を楽しんでいるようだ。気持ちよさそうに鼻の下を伸ばす夫を見て、お英の女が燃え上がる。
「んっ……あんっ……たいちろーの、すご……お腹の中、いっぱいになってる……」
太一郎のそれは、まさに鉄杭だった。大きく張り出したエラが敏感な部分を抉るたび、お英の喉からこらえ切れない嬌声が上がる。
その様子を楽しむかのように、何度も何度も繰り返し執拗に責めたてられた。
「あうっ……ひぐっ……ああっ……すごいぃ……こんなのはじめて……きもち……きもちいいよぉ……」
「いいっ、いいぞお英ちゃん! お前の中も最高だ……熱くて柔らかくてぬるぬるしてて、うおぉっ! 搾られるみたいだ!」
その言葉の通り、二人の結合部からは大量の愛液が流れ出していた。最初はほとんど無色透明だったそれは、徐々に白く濁っていき粘り気を帯び始めている。やがてそれらは互いの肌の間で泡立ち、顔から火が出そうなほど卑猥な音を奏でるようになっていた。
「あんっ、あんぅっ、ああんっ…………あっ、あっ、そこ、だめぇっ! んくっ、うぅぅっ!」
太一郎の逸物が、浅いところを行き来する。その動きに合わせてお英は背中を仰け反らせながら喘ぐ。その反応を見た太一郎は辛抱たまらぬといった様子で激しく腰を使い始めた。
「ひぃっ!? そんなっ……つよっ、おちんこ強いっ、おちんこ強いっ、おまんこ壊れるっ、壊れちゃうぅぅっ!!」
浅くから深くに切り替えられ、あまりの衝撃に髪を振り乱しながら泣き叫ぶお英だったが、その声は甘く蕩けきっている。その証拠に彼女は自ら腰を揺らし、一番気持ちいいところを擦るように誘導していた。
「ああーッ!! イく、イっちゃうぅッ! だめぇっ、おいら初めてなのに、こんな簡単にイカされたくないのにぃっ!! ごめんなさい、ごめんなさい、嫌いにならないでぇっ!」
言葉とは裏腹に、お英の表情は完全に悦楽に染まっていた。目尻に涙を溜めながら舌を突き出し、涎を垂らしながら絶頂の瞬間を待ちわびているように見える。
「誰がなるか! 誰が離すか! お前は一生俺のものだ! 死ぬまで可愛がってやる!」
そう言いながら、太一郎はいっそう強く腰を打ち付ける。パンパンパンと乾いた音と湿った音の両方が響いた。それに合わせるように二人の動きが激しさを増していく。お互いの肉をぶつけ合うような激しい性交であった。
「~~~~っ♡! ~~~~~っっ♡!!!」
声にならない悲鳴を上げて悶絶するお英。そしてその瞬間が訪れる。絶頂を迎えた膣壁がきつく収縮し、肉棒を根元から締め上げた。
太一郎も音が聞こえるほどに歯を食いしばり、最後のひと突きを見舞う。
「ひぎぃ!? ささっ、ささっ、ささってるぅぅぅ……! おいらの奥に、たいちろのお珍宝さまが刺さってるぅぅぅ!!!」
「出るっ……!」
子宮口まで届くかと思うほど深く突き刺さった肉棒の先端から勢いよく精液が噴出した。灼熱の塊が胎内に流れ込んでくる感覚にお英も再び達してしまう。
「あづっ! あづいのっ! あぢゅいの出てるぅっ!! やけちゃうぅっ!! 焼け死んじゃうぅっ!!」
「くぅぅっ……締まる……! まだ出そうだ……! おらぁっ、全部飲めっ!」
お英はピンと両足を張って出来るだけ腰を高く上げ、少しでも多くの精子を受け入れようとする。
びゅるるるるっと音が聞こえてきそうなほど勢いよく放出された白濁液は、あっという間にお英の中を一杯にした。待ち望んでいた雄の子種に歓喜した子宮が震え、もっともっとと強請るかのように収縮を繰り返した。
お英はうっとりとした表情を浮かべ、太一郎を抱きしめながら夢中で舌を伸ばしてしまう。
「んんっ、ちゅぱっ、れろっ、れるるっ……ぷはぁっ、おいらのオマンコに種付けありがとうございますぅ……♡」
「おお、れるっ、じゅぷっ、はぁ、最高だ、さすがは俺の女房だ、ちゅるっ、ちゅうっ、おい、お前は天下一の女だ、ちゅうっ、んちゅっ、愛してるぞ、んちゅっ、お英っ!」
「あふぅっ、ちゅっ、嬉しいっ、んちゅっ、ちゅっ、んちゅっ、大好き、ちゅっ、だいしゅきぃ♡」
二人は唇を重ねながら、睦言を交わしていた。その最中でも二人の腰の動きは止まらない。互いを貪るような激しい性交は終わる気配を見せなかった。
◆◆◆
「んあぁ……おせーし、しゅごい……おなか、ふくらんでる……」
ようやく長い射精が終わり、ずるりと男根が引き抜かれる。栓を失った秘所からは、逆流してきた白濁液がとろとろと流れ出す。
「どうだった? 初めてのまぐわいは」
「すごく良かったぁ……もっとぉ、もっと欲しい……」
そう言いながら太一郎の胸に甘えるように縋りつくお英。だが彼は首を振るとこう言った。
「だめだめ、もう今日は終わりだよ。これ以上やったら腹上死しちまうよ」
「ええーっ、やだぁ、もっとするのお……♡」
駄々をこねる新妻に対して太一郎は少し困ったような顔をした後、耳元でこう囁いた。
「じゃあ明日は朝になるまでずっとハメっぱなしってのはどうだ? どっかの宿場で、どんな飯盛女よりいやらしい女郎になってくれるか?」
その言葉にお英の身体がぶるりと震える。想像しただけでたまらない気持ちになるのだ。早く欲しいと言わんばかりに自ら足を開き、両手で秘所を刺激し始めた。
「……うん、なるぅ……おいら何でもするからぁ……だからはやく行こっ……♡ おいらすぐイクからっ……あ、いく、いくいくいくっ……♡♡♡」
そう言うと同時に身体を弓なりに反らし絶頂を迎えてしまうお英。秘所からは潮を吹き、痙攣を繰り返す。
「ああ~、ああ~♡ またイっちゃったよぉ……♡♡ んふ、んんぅぅぅ♡」
そうして見上げる月は、まるで二人を祝福するかのように美しい満月であった。
(第八回 黒卍の憂鬱 了)