※この作品はR-18です。

太陽系魔法少女隊 触手エロパワーで人類を守り隊   作:purufeido

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出会いと変身

普段どおりの低重力環境、空気循環装置の音が低く響くなんの変哲もない倉庫。

 

ただ指示されたものを探すことに集中していた少女の耳に、突如として大きな衝撃音が鳴り響く。

 

少女は、異様な出来事に混乱しつつも、鼓膜に伝わる音が急激に減衰するのを知覚した。

 

 

 

音の媒質となる気体-低気圧だが地球大気並みの酸素分圧のガス-

 

文字通り肉体を構成するあらゆる細胞の生命線が部屋から失われていく。

 

 

 

その流体の奔流に質量50キログラムの少女が流され浮かび上がった。

 

しまった、と瞬間的に少女は自らの過ちを悟る。

 

このままでは気体もろとも外に吸い出されてしまう。

 

 

 

15歳の少女は長袖の青いフライトスーツに包まれた両手足をバタつかせた。

 

衝動的な自己防衛本能として命綱になり得る何かかを探す。

 

 

 

しかし、直前の衝撃で浮かび上がった磁気吸着靴はすでに地面には届かない。

 

直ぐ側の壁面は掴みどころがなく、また固定具も装着しそこねていた。

 

わずか14分の1G(地球表面重力)の引力は彼女を捉えるには非力すぎる。

 

故に、減速することも叶わず釣り竿に捕まったようにように引き上げられていく。

 

 

 

少女の網膜には間違いなく、遠ざかっていく生存可能空間が映し出されている。

 

にもかかわらず、どこか理知的さを感じさせる青い瞳は、不思議と平静さを残していた。

 

 

 

彼女は短髪の黒髪がガスの流れとともになびくのを気にせず回復を試みる。

 

両腕を閉じつつも股を大きく開いて、年の割に丸みを帯びた腰をくねらせた。

 

反作用と角運動量保存によりモーメントが生じ、全身が腰の動きと反対側に緩やかに旋回する。

 

 

 

こちら側には取っ手のある格納棚などが置かれていたはずだ、

 

どうにか室内のガスが抜けきって流れが消え去るまでそれに掴まれるかもしれない。

 

そう判断し姿勢制御を行った少女は、その先の光景を見て息を呑んだ。

 

 

 

天井から灯りが灯される人間の居住可能空間。

 

アルミニウム合金の軽量金属で形成された地上露出型の機材格納室。

 

居住地の地表部分に出たときには日常的に目にする平常通りの光景。

 

 

 

唯一、普段と違うことといえば、大きく切り裂かれた外壁だけ。

 

高速で物体が衝突したような鋭利な切断面へ、固定されていない軽量物が吸い出されるのが見える。

 

それは、気密機能がまったく失われていることを示していた。

 

 

 

急激な気圧低下により気体中の水分が急速に凝固して霧が生じ視界が霞む最中

 

 

 

通りで人間一人が吸い出されるほどの減圧が起きるはずだ

 

むしろ破損による破片飛散などで負傷しないだけ幸運かもしれない

 

 

 

…などと、少女は自分事ながら意外なまでに平静に現状を受け止めていた。

 

 

 

地球表面気圧の5万分の1にも満たない低圧の外気へと放出されても

 

この程度の高さと速度なら15秒もあれば重力加速で地表に戻ってこれるはずだ

 

ならば、およそ時速36キロメートルで摂氏マイナス240度の大地にぶつかることになる。

 

重要部位の骨折で致命傷とならないよう防御姿勢でなければならない。

 

と、パニックに陥ることなく冷静に呼吸を抑制して自由落下を待ち構える。

 

 

 

ほとんど外気圧となる場所まで吸い出されて、かろうじて聞こえていた音がほぼ完全に消え去った。

 

目線の先には太陽光の殆ど届かない漆黒の冷え切った大地

 

絶対零度をわずか40度しか上回らない凍った窒素の地表面が

 

およそ秒速0.75メートルづつ毎秒ごとに速度を増して徐々に迫ってくる。

 

 

 

--せめて加速・減速用ガス銃だけでも持っておくべきだった

 

などという思いが衝突時の負傷への予感とともに脳裏をよぎる。

 

少女が衝突に身構えて歯を食いしばったその時、腹部への圧力を知覚した。

 

 

 

突如、腹部のみが引っ張られるように急減速し空中で動きが止まる。

 

慣性で落下を続ける手足を置き去りにしたため

 

少女の肉体感覚ではむしろ腹部を急激に後ろへ強く押されたと認識する。

 

 

 

唐突な出来事に驚いた少女は、未だに圧迫感のある腹部に手を当てようと身をもがく。

 

それと同時に首を回し周囲の様子を伺うと、視界入った光景へ驚愕する。

 

 

 

それは異形の人形とでも形容すべきであろうか。

 

台座の上に人間の胴体を抽象化したような構造体

 

その頂点には強くデフォルメされた横長の頭がつながっている。

 

顔と髪の毛の境目は単純に色味のみが異なるだけで質感は同質。

 

全体が産毛でささくれだったフェルト生地のような表面。

 

「顔」のみが薄橙色で、それ以外は淡青色のツートンカラー。

 

 

 

その中で異質なのは、胴体に見える部位から生える腕と思しき部位。

 

他の部分とは質感からして異なるブヨブヨとした紫色の軟体生物めいた表面。

 

2対の長い「腕」が蛇が獲物を捕らえるように少女の腹部に巻き付いている。

 

--地球外生命体ではあるまいか

 

と、少女は混乱の中で必死に観察した。

 

人間の脳が持つ先入観-パレイドリア:見知らぬものを見知った物へと当てはめて理解する-

 

故に「顔」や「頭」と見えているのだとしても、あまりにも「生物」を感じさせられた。

 

特に先程から掴んでいる「腕」など、その下に機械が隠れているにしては柔軟に過ぎる。

 

 

 

少女は生まれてから15年の間、肉眼ではヒト以外の生命体を見たことがない。

 

だとしても、知識として知っている数々の生物と比較してあまりにも異質である。

 

 

 

そんな少女の混乱にさらに拍車をかける出来事が起きる。

 

「やっとみつけたネプ」

 

それは明確に「言葉」として少女の脳内に響いた。

 

まるで成人男性が裏声で女児の声を模しているかのような奇妙な声色。

 

しかし、それは紛れもなく「言語」として理解できてしまう。

 

 

 

-英語が通じるのか、いや、どうして耳から声が聞こえるのだ。

 

というのが少女の率直な驚きであった。

 

異質な生命体が人間の言語を解することも

 

ほとんど媒質のないも同然の環境で耳から声が聞こえることも不可解でたまらなかった。

 

 

 

困惑するばかりで身を捩る少女に次なる言葉が浴びせられる。

 

「落ち着いてほしいネプ、あなたの心のなかに直接的に意味を流してるネプ」

 

意図は不明だが、どうやら対話を試みようとしているらしい。

 

どのような原理かは一切理解できないが、事実として言語による交流が可能だというのだ。

 

 

 

考えてみれば、昼面であっても地球昼面の900分の1しか太陽光が届かない外惑星帯で

 

羽毛らしき構造が認識できるほど鮮明に体表面が視認できるのだ

 

これも脳に直接的に情報を発信している傍証ではないか…と少女は素早く判断する

 

 

 

--ならば、私の思考も直接的に読み取ることができるというのか?

 

と、少女は意識的に脳内で言葉を思い浮かべてみる。

 

 

 

すると、それに対する返答がなされる。

 

「もちろんネプ、それどころか感情の動きもある程度は把握できるネプ」

 

 

 

どの程度まで読み取れるのかはともかく、何らかの手段で人間の思考活動を読み取れるらしい。

 

少女は相手の正体を探りたいところであるが、今はそれほどの余裕がない。

 

少なくとも意思疎通自体は可能であることを確認ができればまずは十分と判断する。

 

 

 

それよりも、早急に呼吸可能な環境に戻らねば死亡してしまう、こんなところで問答している暇はなかった。

 

はやく体の拘束を解いて自由にしてもらわなければならない。

 

--それとも、この正体不明の知的存在には呼吸という概念がなく、私が危機的状況だと理解していないのだろうか?

 

 

 

「それは理解しているネプ、でもいま戻るほうが危険ネプ。君たちの住処は、攻撃されているネプ!」

 

その発言を受けて少女はさらに動揺し、思わず相手の顔-に相当すると推測される場所-を凝視する。

 

心当たりが無いわけではなかった。どうして施設はあれほどの減圧を起こすほど大規模に破壊されたのか。

 

それが何者からの攻撃によるというのならば、たしかにその危険は無視しうるものではない。

 

 

 

とはいえ、だからといって呼吸ができないでは確実に死に至る。

 

であるならば、危険を顧みずに何が何でも戻らねばならなのではないか?

 

 

 

胸のうちから沸き起こる苦しさ、本能的に肺を膨らませてしまいそうになる横隔膜。

 

酸素不足のため徐々に警告を発する肉体からのシグナルに焦る少女に

 

「ボクはあなたたちを助けに来たネプ! だからボクの言うとおりにすれば助かるネプ」

 

などと持ちかける謎の存在

 

 

 

---助ける? どのようにして?そもそもお前は何者なのか。

 

と、疑問の言葉が次々と思いつく。

 

しかし、仮に救命の方法を対話相手がもっているならば、選択の余地は無いように思われた。

 

 

 

「まず大声で叫ぶような意気込みで、心のなかで「メタモルフォー マギアス ヒッペエア トウ ポセイドノス」と唱えるネプ」

 

---英語ではないな、ギリシア語か?

 

と、素朴な疑問が少女に一瞬浮かび上がる。

 

少なくとも人間の言語であることは間違いなさそうにおもわれた。

 

 

 

心のなかで叫ぶだけなのであらば、行動のコストは大したものではない。

 

現状は一刻を争う事態とはいえど、その程度なら躊躇う理由はなかった。

 

少女は素直に指示に従い、喉の奥底から振り絞るような発声をするイメージを脳裏に浮かべる。

 

 

 

「メタモルフォー マギアス ヒッペエア トウ ポセイドノス!」

 

不思議なことに、声が脳内だけでなく周囲に響き渡るように少女は感じられらた。

 

直後、腹部に巻き付いていた触手が瞬時に解け、少女の体は重力に引かれ落下を始める。

 

体を重力加速度に任せるがままの感覚が少女にもたらされるが、そんなことなど気にならなくなる事態が進行する。

 

 

 

少女の視界が幽かな青白い光に包まれ、暗闇のはずの個体窒素の地表が照らされてキラキラと光沢を返している。

 

驚いて周囲を見渡すと、地面からの反射光は自身から遠ざかるほど弱くなり、つまるところ光源は少女自身の他に思い至らない。

 

 

 

---なんだ、この光は、私の体が発光している?まるで私自身が燐光のようではないか。

 

少女は眼前に両手を差し出して自らの身体を確認するが、見ればみるほどそうとしか思えなかった。

 

素肌やフライトスーツや手袋など関係なく、とにかく体全体から発光しているという不可解な現象。

 

 

 

しかも、少女の意思とは無関係にどんどん光が強まっている。

 

眩しさに少女は目を瞑り腕で目元を覆うようにするが、その眼前で更に信じがたい光景が目に入ることになる。

 

 

 

右手にバトンのような棒状の物体が現れ、自然と少女の手中へと収まる。

 

樹脂とも金属ともつかない、どちらかといえばセラミックのような質感。

 

その表面を複雑な幾何学模様が青いライン状に発光している。

 

 

 

こんなもの一体どこから、と驚く暇もなく

 

ノーメックス-デュポン社純正の難燃性アラミド繊維-で編まれた強靭なフライトスーツが、一瞬の煌きと共に消え失せた。

 

少女の年相応にきめ細やかな柔肌が闇夜にぼんやりと浮かび上がり

 

膨らみかけの乳房や、くびれはじめた腰つきなど、まだ幼さが抜け切れていない肢体が現れる。

 

 

 

全身が外気に露出した驚きと羞恥に、少女が反射的に体を手で覆うより先に

 

今度は先ほどまで着ていたはずのインナーウェアまでも消失する。

 

入れ替わるようにして、新たな下着らしき構造が現れ、成長途中の硬さが残る双球と産毛の映えたデルタエリアを覆い隠した。

 

続いて純白を基調として青色のラインで飾られたニーハイソックスが少女の脚を包み込む。

 

腰からは花を模したように複数の花弁で構成されたミニスカートがふわりと広がり、少女の下半身を華やかに彩った。

 

胸部は鎖骨だけを露出させた長袖ブラウスと、それを中心で彩る大型のリボンが主役のように鎮座する。

 

両手首にはブレスレット状のアーマーリングが装着され、華奢な印象を与える指先は透けたレースのグローブに覆われている。

 

首元はチョーカータイプのネックレスとドレスアップされたタイによって装飾され

 

両足は青いリボンで結ばれた膝下までのロングブーツで覆われた。

 

最後に、短く切りそろえられられた黒髪は、光を放つと同時に見る間に伸びていき、腰辺りで緩やかなカーブを描いて止まる。

 

青色のリングが2つ出現すると、ツインテールの形にまとめられ、髪型が完成したことを教えてくれた。

 

 

 

全身からの発光が、変化の完了を伝えるように減衰し暗闇を取り戻す。

 

---服装が変わった?なんだこれは?

 

不思議そうに自らを彩る衣装を見つめながら、少女は呆然としていた。

 

 

 

ニーハイソックスと素肌の境目が外から視認できるほど外側に広がった花弁のミニスカート。

 

装飾が豪奢な割に可愛らしいヘソが露出する程度しかない丈のブラウス。

 

歩行に支障をきたしそうなほど底が高いロングブーツ。

 

恐る恐る触って質感を確認すると、ポリエステル繊維のような艷やかな質感-少女はシルクという物を連想できなかった-

 

どれも実用品とはとても思えない姿は、少女に映像記録で見ただけのパーティやパレードを思い起こさせた。

 

 

 

---いや、それよりも……!

 

少女は見慣れたはずの風景…普段ならざる様子に衝撃を受けた

 

---どうしてこれほど”明るい”のだ!

 

 

 

どこまでも広がるなだらかな地表面

 

それを構成する個体の窒素、二酸化炭素、氷の境目がはっきりと視認できる。

 

太陽からの距離は地球-太陽間の30倍、しかも夜面側である。

 

通常ならば巨大な漆黒の大地としか認識できないはずだ。

 

 

 

極めつけは、地表から視線を空にずらせば、巨大な海王星が目の前にある。

 

半径およそ2万5千キロメートル、衛星トリトンからの見かけの大きさは8度-地球から見える月の15倍の見た目-の存在感。

 

普段は弱々しい太陽光を反射して儚く浮かび上がるだけの海王星が、美しいシアン色で輝いて見えた。

 

その青色は大気中のメタンが赤色を反射するためだが、硫化水素の雲が白い帯を巻いて流れる光景はあまりにも幻想的だった。

 

ガス惑星によくみられる巨大な対流による渦が彩り、大暗斑のアクセントが球体全体を鮮やかにしている。

 

球体の外側を氷と塵の集まって形成されたリングも不思議なまでに強調されて視認できた。

 

 

 

それだけでも凄まじい光景だというのに

 

更に巨大な存在に気がついてしまい、射手座の方向に自然と目線が向かう。

 

そこには厚さおよそ1000光年の円盤-銀河系バルジ-

 

太古の人々がミルキーウェイ-乳の流れ-と呼んだ乳白色の帯が天を横切っている。

 

 

 

輝きから目をそらそうにも全天が星星で明るく輝いて見え

 

それが星の海という比喩表現がすっと少女の頭の中に浮かんでくる。

 

肉眼では見えないような恒星も見えているのだろう、普段の数十倍の密度で満たされた満点の星空。

 

---6等星でさえ1等星でのように見えているのではないか?

 

まるで、天が落ちて来てしまったかのような、圧倒的な質量感。

 

 

【挿絵表示】

 

 

---なんなのだこの景色は?私がおかしくなったのか?

 

少女は半ばパニックになりながらも、意識を強く保ち、自らの身に起こっている異変を確かめようとする。

 

すると、少女は明らかな変化に気づいた。

 

先程まで覚えていた息苦しさを一切感じないのだ。

 

 

 

「やったネプ!変身成功ネプ!これで当面の生命維持は問題ないネプ!」

 

謎の生命体からの声が少女の脳に直接響いた。先程の現象といい、明らかに人智を超えた存在である。

 

生得的な能力なのか何らかの技術的手段によるものなのか、どちらにせよ理解の範疇を逸脱していた。

 

しかしながら、少女の生命の危機を脱する手助けをしてくれたことは確かであった。

 

 

 

礼を言うべきではないか…と少女が思い至る前にさらなる要望が告げられる。

 

「じゃあ早速、現在の驚異を排除してもらうネプ!」

 

 

 

---驚異を排除?居住地への破壊活動を行っている何者かを、私個人がどうにかしろということかね?

 

驚異というのが何者なのかさえ少女は未だ把握できていないが

 

さりとて施設の建屋そのものを破壊しうる存在だということは間違いない。

 

であるならば、一人の人間がほとんど生身で対処しうる相手だとは到底思えなかった。

 

 

 

「とりあえず習うより慣れるネプ!右手の杖、マギアス・ラーブドスを高く掲げるネプ!」

 

ここまで来たら少女には従うしか選択肢はなかった。

 

どのみち、このままでは少女の生存は絶望的である。

 

恐る恐る、少女は指示に従い、青白く輝くロッドを頭上に掲げると、青いリングが発光し、先端に光の粒子が集まっていく。

 

そして、そのまま、一切原理は不明だが、急激に体積を増し、少女の身長よりも長く変形する。

 

 

その後に現れたものは、形状こそ違うものの、少女には映像記録で見たことがある二輪車を連想させた。

 

全体的には直線ではなくS字カーブを描いた細長い姿。

 

先端の太くなった部分から左右に向けて二輪車のバーハンドル状、というよりほとんどそれそのものの構造体が伸びている。

 

カーブの中央部分は他と異なり柔らかな質感の盛り上がり、これが二輪車とすればサドルに相当するのだろう。

 

しかし後端部の構造は車輪で動く車とはまるで違っていた。

 

目につくのは青く光る5つの球体、中心軸から直接伸びた中央の球体を囲うように密集して配置されている。

 

中心軸についていない外側の4つの球体からは細い管状の構造が螺旋を描きながらサドル後端付近へと収束し束ねられる。

 

そして球体のそれぞれからは、先端を尖らせたリベットのような金属光沢に輝く構造物が4つづつ後方に先端を向け伸びていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

少女は恐る恐るハンドル-であろう構造-を握りしめようと手を伸ばす。

 

あつらえたかのように、それは少女の手のひらにぴたりと収まった。

 

 

 

---なんだこれは!

 

瞬間的に、少女の脳裏に走馬灯のような感覚が走った。

 

体験したことのない様々な情報が押し寄せて、その処理が追いつかないのか周囲の感覚が失われる。

 

視覚でも聴覚でもなく、純粋に情報を情報としてインプットされるかのような奇妙な感覚。

 

その時間はほんの1秒にも満たないものだったが、少女にとっては数分程度にも感じられた。

 

少女の視界が通常に戻る頃には、既にバイクの形状をした何かに跨っていた。

 

少女は不思議なことに、この乗り物に跨って初めて呼吸が楽になったようにさえ思える。

 

 

 

---解る、理解できる、私は、飛べる

 

 

 

そう思った瞬間、「杖」の後端部におかれた突起状の構造から輝くような赤い光がきらめく。

 

真紅の輝きが推力を発生させているのか、杖に跨った少女へと強烈な加速度が与えられる。

 

その凄まじさは、わずか1秒間で秒速100メートルにまで加速させる程-すなわちおよそ10G-。

 

 

 

少女の体重と杖の質量を合わせれば100キログラムの質量へこの加速度を与えるのだから

 

推力は計算上10キロニュートン、これは小型ロケットの推力にも相当する。

 

 

 

これほどの加速度では少女の肉体へは猛烈な負荷がかかるはずである。

 

しかしながら、少女には全くと言っていいほど苦痛を感じなかった。

 

むしろ心地よい浮遊感すら覚えるほどである。

 

 

 

どんどん速度を増す爽快感に任せて加速をつづけ1秒、2秒、3秒

 

わずか4秒と少しの間に地表との距離は1キロメートルを超えるまでに遠ざかってしまう

 

 

 

「このまま目標の周回軌道面と合わせるネプ!」

 

謎の生命体の声が聞こえ

 

---目標とは何処だ?

 

と疑問を浮かべると、少女の視界をオーバーライドするように様々な情報が浮かび上がる。

 

不思議なことに少女は「目」の情報と上書きされた情報を完全に並列に処理することができていた。

 

脳内でデフォルメされたトリトンから少女自身を表す点が飛び立ち

 

「目標」であろう記号へと向かう加速方向の調整を、歩くような自然な感覚で処理する。

 

 

 

少女は恐怖や不安といった感情を一切抱いていない。

 

秒速数百mで疾走する少女の目前は先程まで気にしたこともなかった輝く星々で満たされている。

 

背面で急速に遠ざかるトリトン地表はともかく、正面の遥か遠い光源たちの前には些細な距離変化に過ぎない。

 

ゆえに速度感覚は、常人には耐え難い激烈な加速度の持続のみによってもたらされる。

 

 

 

---もっと速く!

 

少女の加速から9秒、10秒、

 

11秒目には速度は秒速1100メートルを超え、トリトンの第一宇宙速度を上回り

 

この海王星の衛星を周回する孫衛星としての軌道要素を得るにまで至った

 

 

 

トリトンの冷えた地表面から、高速で星々輝く天空に向けて飛び立っていく。

 

杖から迸る赤い光は発光後もしばらくとどまり

 

少女が飛び去ったあとの地表面からは、赤い帯の軌跡が星空へと伸びていくように見えた。

 

 

 

『海王の守人』

 

 

【挿絵表示】

 

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