太陽系魔法少女隊 触手エロパワーで人類を守り隊 作:purufeido
トリトン居住地の部屋という部屋は何処も似たような質感に整えられている。
どこも壁面は均一な乳白色で、天井から明るい白色LED電光が差し込む。
本来は生活感を生じさせるはずの各個人の個室や食堂でさえ、どこか無機質なのだ。
その中でも、この部屋は極めつけに冷たい印象を与えていた。
中央に据えられた円卓状の大型会議テーブルと据えられた座席。
これこそが部屋の機能の中心であり、他はその機能を拡充させるための付属品に過ぎない。
「他」といっても、出入り口と反対側の壁面を埋める巨大な情報共有用ディスプレイと
座席に備え付けられた各個人用の情報表示端末くらいのものである。
不出来な低予算の3Dゲームのように情報量の少ない、ただ会議室としての機能のみを追求した部屋。
その共用ディスプレイには、一見するとこの部屋には不釣り合いな映像群が映し出されている。
「まったく、何度見ても現実味がない光景だね。」
と、円卓に座る1人であるサミュエルが大仰な手振りでつぶやいた。
まるでバレエ劇場からそのまま飛び出してきたような綺羅びやかな純白の衣装に身を包んだ少女が
月面の殺風景な灰色のクレーター底面に作られた人工のドームから光帯と共に飛び立っていく姿。
ともすれば悪趣味と感じさせるほど金色を光らせたドレス姿の少女が
煮えたぎった濃硫酸の雲より遥か上の金星大気上層に浮かぶ天空の集落へゆっくりと降り立つ姿。
などなど、どの映像も地球では短期間に何百万回も再生された超常的な映像。
以前ならば単なる記録映像風の作品か何かだとしか思わなかったであろう。
だが、明確な地球外存在とのコンタクトの直後である今となっては違う。
これは現実に起きた出来事を、偶然撮影できた人々が持ち寄ったものなのだ。
「それはみんな同じだ。現実となったからには受け入れるしか無い。なにせ、」
参加者一人一人へ順に視線を送るように見回しながら発言したのは
60代にも関わらず力強い体格を維持している強面のベンジャミン居住地管理主任だ。
ベンジャミンは少し言葉を切って、対面側に座る少女と、その後ろに並んで浮遊する地球外生命体を見つめつつ
「こうして、動かぬ証拠が目の前にあるのだからな。」
と硬い表情を崩さぬまま続けて言った。
普段より背筋を伸ばした少女は緊張しながらも、まっすぐその視線を受け止める。
居住地の大人たちとは良好な関係を築いてはいるが
このような形で上位の責任者たちに公的な場で囲まれるなど初めてのことだ。
サミュエルがそんな少女を気遣うように
「彼は優しい表情という物ができないだけだから、怖がらなくていいよ。」
とフォローを入れる。
ベンジャミンは強面の眉毛をわずかに動かして反応した。
「私だって可愛い子供を緊張させるのは本意ではない。緊張しなくてもいい。」
もちろん、そうはいっても少女にとっていまリラックスしろというのは無理な相談であった。
ベンジャミンは低い声を意識的に和らげようと普段より遅めに
「まず、現時点で確認が取れている情報を述べる---
彼が明かした内容は概ね
・人類は2種類の地球外存在とコンタクトをとった。
・片方は敵対的で人類に攻撃的行動をとり、もう片側は協力的である。
・攻撃的行動の強度は個体によってまちまちだが、現在まで大量殺戮は発生していない。
・協力的な存在は特定の個人へと魔力-人類には現在詳細が解析不能な力-を与える。
・両者とも人類が拠点を築いた太陽系の各惑星系へとほぼ同時に出現した。
・協力的存在が能力を与える個人は皆が満年齢15歳の女性。
・いまだ敵対的存在は複数が太陽系内で存在を確認できている。
・協力的存在との対話の結果、少なくとも彼らが人類に語るには
†地球外存在は時空的に隔てられた「異界」からやってきている
†敵対的存在は人類の「恐怖」を集めようとしている。
†能力を与えられた女性は様々な能力を使用できるが、そのために魔力を消費する。
†宇宙で1日生存するのには秒速300メートルの加速に使うのと同等の魔力が必要。
†個人の魔力をすべて加速に使用すると現在の少女たち1人ならば平均して秒速6キロメートルの最終速度。
†消費した魔力の補充にはヒトが生存可能な空間で最大5時間の魔力回復が必要。
といったような内容である。
長い発言を一気にこなしたベンジャミンが、一息ついてから
「以上が、皆もすでに知っているだろうが、現時点で人類が理解している情報だ」
と締めくくる。
円卓を囲む面々は、各々に考え込む様子を見せていた。
瞬間的な沈黙の後、最初に手を挙げたのは50代前半の中肉中背の男性、宇宙船の船長を務めるブレリオだ。
「まずは、自分から一つ。これらの情報は一通り公開された後だ。
これを聞かせるために会議を開いたというわけでは無いはずだ。
自分のような宇宙船乗員を呼んだのだから、何かお嬢ちゃんを乗せるミッションがあるんじゃないのか。」
と、この場の議長役のベンジャミンに向けて問いかける。
ベンジャミンがブレリオの方を向いて、静かにうなずいた。
「そのとおりだ。具体的なミッションの話をする前に、今朝になって入手できた情報を追加しよう。」
そのままサミュエルへおもむろに目配せし、大げさに頷く彼に説明を引き継がせた。
「太陽系のあらゆる天文観測装置が敵対的存在の捜索に総動員されてるのは知ってるね。
回収して博物館に移送予定だったジェイムズ・ウェッブ望遠鏡なんかさえ動員されてるけれど
それはともかくとして僕たちも必死になってココのところ働き詰めなんだ。」
冗談めかした声色で前置きを置くサミュエルへ「まずは本題を話せ。」とベンジャミンが冷たく催促する。
それに苦笑しつつ「はいはい」と応じたサミュエルが手元の端末を操作すると 会議室の壁面に情報が書き込まれた写真が表示された。
「さて、あの攻撃を受けた日、僕たちは未確認の飛翔体を確認していた。敵対的存在とは思ってもみなかったけれどね。
この赤い丸で囲ってるこの反応だ。この図でマークされた通りこいつは大きいのが一つと小さいのが二つに分離したわけだけれども
あの日、トリトン軌道で破壊された敵性存在は、こっちの小さい方なんだ。」
発言に驚いたように眉を露骨にひそめたブレリオの顔を見て、サミュエルはいたずらげに笑って続ける
「…驚くのはちょっと早いよ、大きい方はこの後に海王星の裏側に入って今日まで再捕捉できてなかったんだ。
どこに行ったんだとコルトンやイザベラと一緒になって探し回って、やっと見つけた。
どこだと思う?なんとね、海王星の大気上層だ。
大気衝突減速も無視できないだろうに、上空600kmを秒速16.5キロメートルで元気に周回してるよ。」
言い終えたサミュエルは、海王星を背面にした反応を示すデータへ壁面の情報表示を切り替えた。
その内容に、ブレリオは驚くよりむしろ困惑したような表情を浮かべる。
「そんな軌道に遷移して、いったいソイツにどんなメリットがあるんだ?
言っちゃなんだが、あんなところ別に楽しい場所じゃないぞ。
連中の推進剤が何かは知らないが、貴重な推進剤を浪費しているだけに思える。」
ベンジャミンはその疑問を受けて
「まさに、その疑問について、我々の協力者に質問したいのだ。」
と返すと、少女の背後で浮かぶヒトならざるモノへまっすぐと視線を向けた。
少女はまるで自分が見つめられているようで、思わず目を逸しそうになってしまう。
しかしその気持を抑えて少女は、成り行きとはいえ相方となってしまった存在へ語りかける。
「私からも頼む。どうして敵はそんな場所にいるのか、推測でいいから教えて欲しい。」
それを受けて、青いマスコットのような不気味な「目」と思しき部位を青く光らせると
「あいつらは核融合推進機を備えてるネプ!ガス惑星から重水素を採取してるに違いないネプ!」
会議室は今度こそ驚きの声が上がった。
海王星上空600kmといえば気圧2センチパスカル-500万分の1地球表面気圧-程度しかない。
故に大気の断熱圧縮による加熱とそれほど急激ではないし、衝突減速も緩やかではある。
だからといって、専門の回収ドローンでさえない大型の船-のような存在-がそんなことをするとは。
なによりも、人類が実現目前で足踏みしている技術を既に持っているという事実。
「そんなことができるのなら別に我々に用事など無いように思えるけれどねぇ・・・」
サミュエルが腕組みしながら呟いた疑問へ
「人間から得られる魔力はかなり良質で効率的に扱える上に、供給量が多いネプ!
それに、あいつらは人間からの魔力を単純なエネルギーだけでなく珍しさにも価値を感じているはずネプ!」
と、自信満々に答えた。
「つまり、人間が宝石やらブランド品を集めるような感覚でもあるというわけか?」
「思ったより人間と似たような価値基準だね。意外と仲良くできるかもしれないよ」
ブレリオの言葉に、サミュエルが冗談めかすように言う。
ベンジャミンが顎に手を当てながら考え込む。
「しかし、そうなると、奴らにとって、我々はいわばクジラ。
資源として鯨油が取れる上に嗜好品として食肉や工芸素材も得られる便利な生き物で、対等な存在とは扱われていないわけだ。」
会議室の雰囲気がどこか暗くなる中、ブレリオは顔を上げると
「ところで、推進剤を補給する必要があるということは、つまりそいつは燃料不足ということなのか。」
と話題をあえてずらすように問いかけると、異界からの客人は触手を動かして手肯する。
「異界とこの世界を行き来するにはそれなりの魔力を使うネプ。
ここの人間の感情から魔力補給するはずが、採集ドローンが撃墜されてアテが外れて困ったと予想するネプ。」
「ならば、そいつが推進剤を補給し終わらないうちに先手を打って海王星の底に沈めてしまうのが妥当に思われる。」
拳で机を叩いてそう述べたベンジャミンにブレリオが同意する。
「そりゃそうだろう。向こうさんが自由に動けないうちに潰さないとかなり面倒だ。
どの程度の性能かはわからんが、核融合推進機を駆動されると俺たちの船じゃ交差さえさせてもらえん可能性だってある。」
一般に核融合ロケットはそれ以外の推進装置を圧倒的に上回る性能と予想されている。
であれば、万全な状態ならば相手側の速度変更能力のほうが優位だとも容易に想像できた。
宇宙船において、速度変更能力が劣る側が勝る側に追いつくのは相当な困難を強いられる。
極端に言えば、相手側の速度変更力を上回る相対速度で遠ざかれば永遠に追いつけない。
この好機を逃すと厄介な事態になるというのは当然の予測だった。
「もちろん、だから僕たちですでにいくつか交戦プランをいくつか立案しておいたよ。
大別して2通り、つまり相手に対し小さい速度差で会合して戦闘するか
逆に速度差を最大にしてごく一瞬のうちに通過して戦闘するかの違いなんだけれども…
どちらのほうが、僕たちみんなの娘が生存しやすいか、意見を伺いたいな」
少女へ向けて微笑みながらサミュエルがそう言い終えると
ディスプレイに二つの例を簡略化した図が投影される。
海王星を表す円形の上に戯画化された目標と少女が同じ地点に描かれているのは同じだが
目標の進行方向と少女の進行方向を示す矢印は
方や両者とも同じ方向に、もう一方はそれぞれ正反対の方向へと向いている。
この問いに対して少女の背後に控える、皆が注目している異存在は
考え込むかのようにしばらく触手をうねらせながら沈黙した後
「…可能な限り速度差があったほうがきっと生存性は高いネプ。
こちらの有利点の一つはわずか1メートル程度とかなり小型で補足されにくいことネプ。
速度差が小さいほど相手の対処可能時間が増えて危険ネプ。
それに・・・」
もったいぶるように言葉を切り、目をチカチカと瞬かせた後
「速度差が小さすぎると、格好の魔力供給源として利用される危険があるネプ。
最悪の場合は捕獲されて帰還不能になる可能性さえあるネプ。」
この発言に、参加者はみな苦い顔を浮かべて黙り込んだ。
居住地の住人なら誰しもが少女を自分の娘の1人として見ている。
その娘がもし帰ってこなかったら? そんなことは誰も考えたくはない。
「・・・わかった。選択肢は通過での戦闘しかなさそうだ。」
ベンジャミンがそう述べると、サミュエルが首を縦に振る。
「じゃあ基本的なプランを説明させてもらおうかな。」
サミュエルが手元の端末を操作すると、画面上におおまかなミッションプランが映し出された。
「まず、第一段階としてブレリオくんの『トレーラー』でお嬢さんの乗る『タクシー』を
海王星からおよそ290,000キロメートルの距離まで運んでもらう。
そこから海王星に対し秒速1.97キロメートルに減速して
軌道長半径およそ170,000キロメートルの楕円軌道に投入。
ここでお嬢さんといったん別れたブレリオくんは再加速して外側の軌道で待機してもらう。
本当に心苦しいけれど、僕たちの船は敵性存在に近づくには脆すぎるんだ。
1人で海王星の重力で加速しながら、だいたい1日かけて秒速22.4キロメートルになる。
このときが海王星との近点で、高度600キロメートル、つまり目標とここで交差するわけ。
その後、撃破できてもできなくても帰路についてもらわなくちゃいけない。
もう一日かけて分離前の地点に帰ってきたら、加速して軌道を膨らましてもらう。
最後の1日かけてぐるりと一周したらブレリオくんたちとちょうど再会できるよ。」
話し終えたサミュエルは、一息ついてから、未だ緊張したままの少女へと視線を向ける。
「ここまでで何か質問は?」
少女は、少し考えてから口を開く。
「これはつまり、私の魔力をなるべく消費せずに会敵するプランという理解でよろしいですか?」
サミュエルは笑顔のまま首肯する。
横からブレリオが
「そりゃあそうだろう。お嬢ちゃんにとっちゃ魔力は推進剤かつ酸素みたいなもんなんだろう。
そんなものを宇宙空間で無駄に使わせたいなんて奴はどこにもいないだろ。」と付け加える。
「たしかに、与圧室ごと軌道に投入してくれるなら、戦闘後に魔力回復もできるかもしれません。」
少女は納得したように小さく何度かうなずいた。
それと同時に
---『魔力回復』、正直に言えばまだ抵抗感があるが・・・致し方ない
との思いが少女の脳裏に浮かんだ。
思春期の少女にとって、具体的に魔力回復がなにか大人たちへ説明することは、心理的に困難を極めた。
悩み抜いた挙げ句、自分に害がないのであれば、人類のために受忍しよう。
そのように自己正当化する他なかったのだ。
あるいは、そのように思考が誘導されている可能性も否定はできなかったが
どちらにせよ結果は同じことである。
ならせめて、なるべく魔力回復は頻度を減らしたい。
少女にできるのは、せいぜいその程度のことだった。