※この作品はR-18です。

太陽系魔法少女隊 触手エロパワーで人類を守り隊   作:purufeido

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海王星へ 原子力ロケット100メガニュートン

漆黒の宇宙空間を、ほとんど直方体の四角い物体が浮かんでいる。

 

後端部からは4本の円い孔が空いており、その孔は奥に行くにつれてすり鉢状に絞られている。

 

 

 

その高さ110メートル、縦横45メートルの大型の直方体は

 

トリトン居住地の人々が俗称として『トレーラー』と呼ぶ宇宙船だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

これは本来は地球系から投入された物資を回収しトリトンへ搬入するためのタグボートである。

 

 

 

理想的条件下ならば、燃料の消費量を最小で済ます経済的な加速で地球から外側の惑星へ射出された貨物は太陽重力で減速しきって容易に回収できる。

 

地球から見て秒速11.67キロメートル、太陽から見て秒速41.37キロメートルまで加速しても

 

海王星系まで届く頃には、太陽から見てわずか秒速1.4キロメートルまで減速しているのだ。

 

 

 

ところが、この方法では海王星系に届くまで30年以上かかってしまう。

 

コレではあまりにも非効率的だし、太陽系内の天体の影響を大きく受けすぎるため、ある程度は余分に加速させて送り届けられる。

 

だが、余分に加速している分だけ減速も余分に行う必要があった。

 

そのため、重い荷物をより大きく減速させるための大推力タグボートが必要とされたのである。

 

トリトン居住地への物資搬入の大部分を担う重要な船だ。

 

 

 

しかし今回は珍しく、トリトン居住地から貨物を運び出すために用いられていた。

 

 

 

狭苦しい室内に所狭しと必要なモノが設置されている宇宙船内。

 

体積を小さくすることが徹底的に求められるため、

 

通路などは可能な限り狭く作られているしわ寄せが居住性へ来ている。

 

 

 

重力加速で吹き飛ばないようにしっかり固定されているため乱雑ではないが

 

どうしてもゴミゴミとした雰囲気が漂ってしまう。

 

 

 

その船内のコントロールルーム、コンソールとベルトだらけの座席群に船員たちが座乗していた。

 

 

 

「船長、本当にあの子に出発の挨拶をしなくてよかったんですか?」

 

中央の座席へ座るブレリオ船長へ心配そうに顔を向けてグレッグが語りかけた。

 

 

 

加速に備えて座席へ強固に固定された船員たちは

 

体ごと向けて会話するわけにはいかない状態だ。

 

 

 

ブレリオは自らの座席を指差しながら答える。

 

「馬鹿野郎、加速前に船長がココを離れてどうするってんだ。」

 

 

 

「でも、あの子は、我々のために命の危険を犯しているんですよ。」

 

会話しつつも加速前の確認票と照合を入念に行う船員たち。

 

 

 

「だからこそだよ。全員で行ったりしたら、かえって気が重いだろう。」

 

「それはそうかもしれませんけれど…」

 

 

 

まだ引き下がるグレッグに、ブレリオが一呼吸おいて

 

「考えてみろ、俺たちの出発前に居住地の全員が見送ってきたら、そっちのほうが気が気でないだろ。」

 

 

 

と、ゆっくりと語りかけると、グレッグはしばし黙った後

 

「まぁ、たしかに、僕たちもある意味で毎回ごとに命をかけてはいるか。」

 

などと得心がいったように独りごちた。

 

 

 

これに横から40代女性-ロボットアーム操作のスペシャリスト-が

 

「この船がなにかの事故で壊れたらここのみんな太陽系小天体の仲間入り。」

 

と、縁起でもないことを言うものだから、他の船員たちからも笑い声が上がる。

 

 

 

その笑いの中グレッグは

 

---それぞれの職位への敬意というのは、少なくともトリトンでは、

 

  あまり大げさに伝えなくても互いにわかっていてくれるさ

 

と、納得して1人頷いた。

 

 

 

「さて、そうならんように、加速前最終確認だ。読み上げろ。」

 

笑いが収まる前にブレリオが乗員たちへ自らの仕事を促した。

 

 

 

それを受けて、乗員たちは手元の確認票を声に出して読み上げていく。

 

その声が船内に鳴り響く中で、船長だけが1人

 

 

 

「じゃあ、自分は最後にお嬢ちゃんに無線で挨拶するからな。」

 

などというものだから

 

 

 

「船長、ずるいですよ」

 

「ちゃんとその後でご自身でも確認票を読み上げなさってくださいね」

 

確認作業の合間から笑い混じりの文句が発せられるのだった。

 

 

 

ブレリオが端末を操作すると、見慣れた少女の笑顔がディスプレイ上に映し出される。

 

 

 

その様子に、思わず笑みを浮かべながらブレリオは口を開く。

 

「お嬢ちゃん、オレから言えることはこれだけだ。生きて帰ってこい。」

 

 

 

何処か演技じみた口調で言い放つブレリオに

 

少女は思わずといった雰囲気で笑って返す。

 

 

 

「船長、みんなと同じことを仰るのですね。」

 

 

 

これにはブレリオも気まずそうに頭を掻くしかない。

 

そんな船長の様子を見て、また皆が笑う。

 

 

 

「せっかくですので私からも船長へはみんなへと同じことを言います。

 

 私にとって皆さんは先生といった印象だったのですけれども

 

 船の中での「クルー」としての皆さんを見られて嬉しかったです。」

 

 

 

今度はブレリオも素直に微笑んで返した。

 

そして画面ほうへと顔を向きなおすと、姿勢を正す。

 

その表情は先ほどまでの作り物めいたものとは打って変わって真剣なものになっていた。

 

それを察したのか、少女もまた居住まいを正してブレリオの言葉を待つ。

 

 

 

「あまり気張らずに行ってこいよ。またな。」

 

それだけ言うと、ブレリオは通信を切った。

 

 

 

あとに残るは慌ただしく真剣な雰囲気だけ。

 

 

 

加速予定時間直前まで待機の後

 

ついにカウントダウンが始まり、加速操作が始まる。

 

「原子炉制御棒クラスタ、安全引き抜き速度で制御開始」

 

「現在の中性子増倍率1を超えています。全原子炉、臨界を確認。」

 

「第1から第4原子炉温度、すべて正常に上昇中」

 

 

 

ロケットがなぜ高温の気体を噴射して飛ぶのかと言えば

 

噴射する気体が高温であればあるほどロケットの推力は高まる傾向があるからだ。

 

故に、初期のロケットは何らかの劇的な化学反応で高温となったガスを噴射していた。

 

 

 

だが現在人類文明で用いられる核分裂-熱ロケットは核分裂の熱を用いて高温のガスを生成している。

 

つまり「臨界中の原子炉に流体を直接流し込んで温めて噴射する」装置なのだ。

 

 

 

『トレーラー』は最大で毎秒3.8トンの液体メタンを原子炉に流し込む大推力ロケットを4基搭載。

 

全長30メートル近い長大なノズルを経て秒速6.2キロメートルまで加速されたその大量のメタン噴流は

 

24メガニュートン、4本で総推力ほぼ100メガニュートン-最大の化学ロケット・サターンV第1段の3倍-という驚異的推力を発揮する。

 

 

 

一歩間違えれば灼熱の原子炉に船が破壊されかねない緊張感のある操作のなか

 

ついに船長であるブレリオが「加速!」と口にした。

 

 

 

仮に推進剤を流し込まれなくば炉心融解を起こすほどの極限環境となった原子炉に

 

ようやく流し込まれた冷たいメタンは、熱交換により炉心を冷やしつつ、配管を通じ宇宙へと噴射されていった。

 

 

 

その莫大な反作用により重質量の『トレーラー』でさえ乗員たちへ加速度がかかっていく。

 

その加速方向は、遠い彼方の海王星を公転する目標の軌道と平行、進行方向対し23.2度右側…ではない

 

 

【挿絵表示】

 

 

宇宙空間での速度変更は、移動したくない方向の速度成分を完全に殺す必要がある。

 

その上で移動したい方向の速度成分を操作するのだから、単純化すればこれはそのままベクトル差の計算。

 

この場合は進行方向に対し161度右側、ほぼ斜め後ろの向けて秒速2.42キロメートルの加速をすることになる。

 

 

 

しばらく後、大量のメタンを宇宙へと捨てて目標軌道へ遷移した『トレーラー』は

 

普段は更に重い貨物を回収するためのパッドから、小型の宇宙船を分離した。

 

 

 

初期加速から慣性で十分に離れた後、再加速して離れていく『トレーラー』を片目に

 

海王星の重力へ引かれて加速しながら落ちていく船こそ、戦いに赴く少女の乗る方舟だった。

 

 

 

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-トレーラーとタクシーの分離から3日後

 

少女の乗る、トリトンの人々が言うところの『タクシー』は

 

もとはといえば海王星の衛星群を少人数で高速移動するためのロケットだった。

 

 

 

ところが、トリトン居住地の維持で精一杯だというのに

 

初期の科学調査を除いて他の衛星に行くことなどほとんどなかった。

 

 

 

一方で、それに比べればトリトンの各地を移動する需要はまだ多い。

 

実際にはもっぱらトリトンを高速移動する『タクシー』として用いられたのである。

 

 

 

推進剤はトリトンで大量に補充できるH2O。

 

水のような重比重液体は単純な推力では他の液体に劣るが、誘爆も火災もしなければ

 

他の液体と比べて貯蔵タンクを軽量かつ高耐久度にしやすいという利点がある。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その原子力ロケットとしては比較的気軽な『タクシー』を

 

トリトンの中央制御区画では、かつてないほどの真剣さで追跡していた。

 

 

 

「目標の軌道に変化なし。このままなら予定通りの時間に会敵する。」

 

そう言って画面上に表示された海王星を中心とする軌道表示を確認するのはコルトンである。

 

彼は同じことをつい5分前にも口にしたばかりだが、それを揶揄する人間はここにはいなかった。

 

 

 

トリトンは今、これまでに無いほどの危機を迎えていた。

 

なによりも、皆の長女とでも言うべき子供の命がかかっているのだ。

 

 

 

その正面の座席に座るハーパーも『タクシー』内の空気環境の情報を目を離さずに見守っている。

 

ハーパーは、心の何処かでもし仮にあのとき、あの場所へ行かせなければという仮定がのこり続けていた。

 

おそらく無意味な仮定であるにしても、どうしても消えてくれないのだ。

 

 

 

そんな思いを頭から取り払うように、ただひたすらディスプレイへ向けて情報を見続けている。

 

4時間近く目を逸らさずに休憩も取らずというのだから、驚異的な集中力と言わざるを得なかった。

 

 

 

そんな彼女の心情を察してか、休憩から戻ってきたばかりのサミュエルが肩を叩く。

 

「ハーパーくん、君も休憩をとりたまえ。かえって効率が落ちるばかりだよ。」

 

 

 

「…それは上司としての業務上の命令ですか?」

 

ハーパーはゆっくりと振り返って返事を返した。

 

その表情はどこか疲れてみえて、それもこの一日のことではなさそうな様子である。

 

 

 

それでも、サミュエルは首を横に振った。

 

彼の立場上、休息を取れというのは業務命令だ。

 

だが、その言葉はそれ以上に、彼女自身を心配しての言葉でもあった。

 

 

 

「僕もあのときのやり取りを見ていたから、なんとなく理由はわかるよ。

 

 けれど、彼らはどうしてか15歳の少女だけを選んでるんだ。

 

 君がなにもしなくとも、たぶん何かしらの経緯でこうなったんじゃないか。」

 

あえてその疑問に直接答えず、気休めとも取れるような言葉を返す。

 

 

 

その意図はハーパーに伝わったようで、彼女は小さくため息をついた。

 

そして、その視線は、再び画面に注がれる。

 

 

 

「私とて理解してはいるのですよ。しかし、だからといって心が納得するかどうかは別の話です。

 

 …いけませんね、こんな学生のような悩みを上司に言っているのでは。」

 

その弱々しい声には、普段の彼女らしからぬ、強い感情が込められていた。

 

彼女がここまで強く自分の気持ちを口にするのは珍しいことだった。

 

 

 

その様子を見かねたサミュエルは

 

「次の休憩時間には交代要員を連れてくるから、その時には休みなさい。」

 

とだけ言い残し、その場を後にした。

 

 

 

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本来、少人数の移動のために設置された狭い居住空間。

 

『タクシー』の与圧空間は直径と高さともにわずか2メートル前後の円筒形にすぎない。

 

その円筒の下部に付け加えられるように

 

同直径かつ高さ40センチメートル程度の最小限の循環装置が備え付けられている。

 

 

 

その中で、非常事態のときAIではなく人間が単独で動かす1人用の操縦室と一体化した

 

たった5名前後しか座れなさそうな横長のシートが備え付けられたキャビン。

 

 

 

これが、少女がおよそ3日間を1人きり-異存在の相方をくわえても二人-で過ごす

 

そのための生活空間の全てであった。

 

 

 

少女は、その狭い室内で、ただじっとその時を待っていた。

 

出撃のために、この常人として宇宙で生き延びることができる空間から飛び立つ時を待っていた。

 

 

 

その間にしていたことといえば、脳内で何度も敵との戦闘をシミュレートすることである。

 

超常の力を得てからというもの、あらゆる能力が研ぎ澄まされているのが体感として理解できている。

 

 

 

まるで実際に戦闘しているのと錯覚しているかのような精緻なシミュレーションを

 

ただ脳内で思い浮かべるという形で行うことが出来ている事実。

 

 

 

もし、この力が無ければ、自分はどうなっていただろうか。

 

少なくとも、今のように、誰かを助けるために戦うことなど出来なかっただろう。

 

 

 

---良いにせよ悪いにせよ、利用できるものは利用するしかないだろう。

 

というのが、少女の素直な思いであった。

 

 

 

現在の海王星との距離はおよそ17000キロメートル、

 

軌道速度は秒速16.7 キロメートル。

 

 

 

『トレーラー』と分離してからすでにおよそ丸一日が経過している。

 

楕円軌道において焦点となる天体のいない側、

 

すなわち海王星から遠い側の円弧を一日かけてここまできた。

 

 

 

しかしここからは近寄るほど強まる海王星の重力により急激に加速し、

 

目標となる近海点まではわずか1時間で到達できてしまう。

 

 

 

いわゆるケプラーの第二法則であるが、それはともかくとして

 

『タクシー』のまま敵と交戦しては、せっかくの生存空間が破壊される恐れがある。

 

 

 

それを避けるため、この段階で『タクシー』とはいちど分離して

 

交戦後に『タクシー』そのもののロケットによる軌道変更能力で再び会合することになっている。

 

そのための通信以外は、緊急時でなくばはしないように少女は予め要望していた。

 

 

 

そして、唐突にディスプレイが点灯し、その時がやってきたことを告げる。

 

その画面に写っていたのは、代表者としてのベンジャミンだった。

 

 

 

かつて空軍軍人だった時代のメダルをフライトスーツに備えた厳粛な装い。

 

その表情は真剣そのもので、その顔つきにふさわしい口調で話し始めた。

 

 

 

「ミッション中断の権限はいつでも君に留保されている。

 

 現時点での判断は、決行か、あるいは中止か(go or no-go)」

 

 

 

それは、少女にとって、もはや考える必要のない問題である。

 

少女は、既に覚悟を決めていた。

 

その言葉は、ただの宣言に過ぎない。

 

 

 

少女は、静かに、しかしはっきりとした声で告げる。

 

「行きます(go)」

 

 

 

その表情は、今までにないほどの決意に満ち溢れたものだった。

 

 

 

その言葉を聞き届けたベンジャミンは

 

「行って来い。そして必ず戦闘後評価検討書を提出しろ。以上だ。健闘を祈る。」

 

そう言って教科書どおりの敬礼の後に通信が打ち切られる。

 

 

 

しばし後、宇宙空間での開放防止処置をオーバーライドして開かれたエアロックから

 

先程までの機能的なフライトスーツから、華美なほどに幻想的な魔法の衣装へと姿を変えた少女が飛び出した。

 

 

 

直後に少女の目に現れたのは、視野角にして67度の巨大な海王星。

 

人間がはっきり物を見れる角度-中心視野角-はおよそ左右に35度-合わせて70度-と言われている。

 

67度といえば正面に海王星を捉えれば、それ以外のものはほとんど認識できないといっていい。

 

 

 

そのあまりの巨大さに圧倒されつつも、少女はその瞳を閉じて意識を集中する。

 

少女は、その手に握られた杖をかざす。

 

杖はかつてと同様に少女のための騎馬となりて、その身を宙に浮かせる準備を始める。

 

 

 

いまだ推力を発生させていないが、海王星の重力でどんどん「落下」速度を増して駆け抜けていく。

 

その姿はまるで白馬にまたがる姫君のようにも見える。

 

 

 

そのファンタジー的な光景の背後を、呼び名通り『タクシー』としての役目を果たしたロケットが

 

ごくごく微量の漏れ出す中性子と、原子炉で熱された水を吹き出しながら遠ざかっていった。

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