これが黒歴史にならない事を願う
視界は黒一色、何も映らない。
意識を集中すると、心臓の激しい鼓動の音が聞こえてくる。
心臓の音は少しずつ落ち着いてきた。
彼はゆっくりと目を開く
差し込む松明の光
目の前には赤く広がる血の海
剣を持ち、鎧を着た男たちの死体が転がっている。
目を背けたくなるが、身体が動いてくれない
そして、その血の海に立っている一体の黒く光る骸骨。
「ほぉ、まだ生きているのか…」
あの骸骨は生きている。この惨状は骸骨が一体でやった事だ
「我の一撃を受けて立っているとは…勇者でも無いのに、驚いたぞ」
そう言って骸骨は此方に歩いて来る。とどめを刺す気だろう。
頭の中がパンクしそうに、あらゆる情報が行き来する
(これが…走馬灯か…何でここで死にかけてるんだっけ…)
一年前、この地で二番目に大きな国
【フレイジア】
この国の城に従える騎士団
【赤獅子王騎士団】
今まさに、騎士団の入団試験が行われている。
試験の内容は単純で、騎士団の団員との模擬戦に勝利すれば入団が許可される。(城の兵のみと言う前提あり)
武器の使用等は自由である。
死亡者が出た場合は事故として処理される
そして、二人の男が今、剣を握り睨み会っている。
(…今日この日のために…)
まだ若い見た目の男が試験を受けていた。
彼の名前は『ハイド•ノード』
今日、この日の為に鍛錬をして来た
両手で握っている一本のショートソード
試験官の団員も一本の剣
武器の性能差は無い。
いや、一つある
見えない武器を、試験官は持っている
強い風が止んだと同時に、ハイドは地を蹴った
ハイドは試験官が見えない武器を持っている事に気が付いている。
だが、どうしようもないのだ
お互いが剣の間合いに入ったと同時に剣を振るった。
お互いが相手に決定打を与えられずに剣と剣は弾け会い続ける。
だが、ハイドの動きが少しだけ遅くなってくる。スタミナ切れだろうか
この様子を試験官は見逃してはいなかった。
少しおお振りな剣を払うと、試験官は後ろに大きく跳んだ
次にハイドが剣の間合いに入ってくる前に…
「"魔法"…!!」
男は右手のひらをハイドに向けると、その手に炎が纏い出す。
(…!来たか!)
ハイドに向かって飛び出す火球。
待っていたかのように走り出すハイド
「おいおい!棺桶用意しといた方がいいんじゃねぇの!?」
この様子を見学していた男たちが笑っている。
(何が魔法だ…!)
火球が接触する寸前に、羽織っていたマントを取り外す
そして、火球が接触する。
試験官は一応加減はしておいたが、直撃すれば死亡は免れない。
火球が炸裂し、熱風が辺りを走る。
煙で見えないが、あきらかに失格だろう。
「…医療班を!」
試験官が背後を見せたその時。
風を切る音が耳元でする
「な!?」
ハイドはマントを使い直撃を避け、衝撃に耐え、もう一度駆け出していた。
油断している試験官の背後から、剣を 首に走らせる。
剣が首の皮膚を切り開く直前
「…負けだ。君は合格…だ」
「…マジ?」
剣の動きを止める
お互い、剣を鞘に入れる
殺伐としていた空気はガラリと変わった
「捨て身か、驚いたな。甘く見ていたよ」
「まぁ、痛いですけど」
「何故魔法か何かで打ち消さなかった?」
「…」
「おい、貴様」
「…お」
声を掛けられ振り返ると、そこには鎧を着た小柄な女性が立っていた。
よく、知っている顔だった。
「ミレラ…」
「今は仕事中だぞ。ミレラ様、又は副団長と呼べ」
彼女は若くして赤獅子王騎士団の副団長の座を持つ天才。
【ミレラ•ソーガ】
「副団長さん、いたのか」
「新人発掘も仕事の内だ。それより試験官、何だあの戦いは」
鋭い目で試験官を睨み付けるミレラ
「あ…いや、最近強い奴が居なくって…油断してました…」
「そうか…それなら一からしごき直す必要があるな…」
「うぅ…ご勘弁を…」
戦っている時とは完全に別人だ。相当恐れられている様だ、この女。
「無駄ばなしはここまでにしておこう…おい、ハイド」
「なんだ」
「私より2年程遅れての入団おめでとう。夢が叶ったな」
「あぁ…そうか、さっきの試験でいいのか…」
彼は15歳の時よりフレイジアの王城の兵として働いていた。
この時代、もっと若い時から働いている奴も居るので珍しくは無かった
彼の父親は、ハイドがまだ産まれたばかりの頃にこの国の最上級騎士団、赤獅子王騎士団を作ったのである。
父の働きは素晴らしかったが、ある戦争で命を落とした。
母から父の話を聞いていたハイドはいつの間にか、城の兵として働いていたのだ。
ミレラとは昔からの友人であった
(死ぬ程努力したかいがあった)
「それで?」
「…なんだよ」
「とぼけないで…"魔法"は使えるようになったの?」
「…使えてたらさっきので使ってる」
「はぁ…やっぱりね」
魔法はごく、身近なあるものである
それは魔物を駆除するための魔法もあれば、日々の日常生活で使える魔法もある
つまり、どんな才能の無い人間でも大なり小なり魔法は使えるが……
この男、ハイド•ノードは一切の魔法が使えないのである。
「んー?やっぱり魔力が少ないって言うより…無いんじゃない?」
「そんな人間居るのか?それならそれで吹っ切れるんだが…」
「ま、いいや。そんなことよりついて来て」
「何処へ?」
「入団祝い」
彼女は満面の笑みを浮かべていた
(油断されていたとは言え、剣だけで勝つなんてね)
「ん?」
「どうかした?」
「いや、でかい鳥が…」
「鳥なんて何処にでもいるでしょ。早く」
「あぁ、すまん」