「ハイド、そっちに行ったぞ!」
「任せろ」
轟音をたて切り刻まれる、巨大なサソリのような魔物
「きもい」
「いまので30体目か。記録更新だな。ハイド」
「なんか、調子がいいんだ」
【生命の森】
前勇者一行の一人が作った、魔物が一匹もいない森。
だが、場所の関係上人が住むような場所は無い。
「砂漠が近くにあるなんて思えない…休もうか」
ここにいると、不思議と心が洗われるような感覚になる。
「森って言うか山じゃないか。川もあるし」
「故郷を思い出す…」
「オリーヴァ、どこで育ったんだ?城じゃないのか?」
「あーそっか。ハイドは知らないんだな」
「あー。そうでしたっけ」
「なんだよ?気になるだろう」
「私は人間とエルフのハーフだ」
オリーヴァ自身が言った。
「マジかよ」
それほど驚いていない様子だ。
「まぁ、エルフと人間の明確な違いは無いしね。耳もとんがってないし」
「?」
「エルフの"里"で育ったのか。城じゃないんだな」
「あぁ」
「そうだな。この際。僕の事も話しておこうかな」
「私も話します」
先ずはハインツが口を開く。
「僕はそれほど複雑でもない人生だよ。産まれた時から、魔王復活に備えて訓練してただけで」
「充分じゃないか」
「それじゃ。私が」
メリシアが話し出す。
「私、元々魔術兵なんですよね、下っ端の」
続ける。
「努力したらいつの間にか"最高位魔術師"を持ってました。終わり」
「…」
魔法、剣術が最高クラスの勇者も、魔術最強クラスのメリシアも、
特に暗い過去を持っていないようだ。
(こんなんで世界救えるのかよ?こいつら三人共、人を切ったことあるのか?)
「ハイド?」
「な、なんでも……またか」
「どうした」
「また見られている感じだ」
「またかい?メリシア、探知を」
「はい。オリーヴァさん少し…」
それは一瞬。
「えっ…」
「オリーヴァ!?」
地面をえぐる石
石が反応できない速度で飛んでき、オリーヴァの腕を切り裂いた。
ハインツは即座に行動に移る。
「ハイド!飛んでった腕を回収してくれ!メリシアはオリーヴァを保護!」
「了解!!」
「傷を塞ぐなよ!まだ繋がるはずだ!」
ハインツに向かいもう一つ飛んで来るが、剣で弾く。
(重い!)
投げた奴の正確な位置はわからない
とにかく、的にならないように森の深くに入る。
「!!ハインツ!受け取れ」
オリーヴァの腕を投げる
「え!ちょ!」
「うわぁ…」
「行け!飛んできた方向は分かってるんだ!」
「頼んだ!行こう!」
次々に飛んで来る物を阻止しながら後退する
「ただの石であんなになるなんてな……」
「……」
木の上から降りてきた者に気がついた。
その魔物は
「いや…魔人か?」
「……」
巨大な猿のような形をしている。
得体の知れない猿が、笑みを見せる。
「魔人だな、処分決定だ。早速だが行くぞ」
刀を振り下ろすが、簡単に刀身を掴まれる。
「…しまっ」
からだに拳を叩き込まれる。
なんとか全身を使って受け止めるが、口の中に鉄の香りが充満する。
「てめえ!」
背負っていた予備の剣を空いた手で握りしめ、斬りかかる。
だが、それも簡単に受け止め、折る。
「……」
千年刀にも力が入っているが、こいつでも折れないようだ
(なら!)
縦だった刀身を横にするように捻る。
「ぎ!」
手の平が切れ、刀身に血が伝う。
よほど痛いのか、手の方に気を取られる。
そのまま刀を引く。
血が滑って簡単に引き取れた。
一本の指が皮一枚でぶら下がる。
一旦距離取るべく蹴りを食らわせようとするが
「うお!」
見えていないにも関わらず、足首を掴まれる。
「うおおっ!」
振り回される。
「うわっ!!」
投げ飛ばされ、草むらに飛び込んだ
(こんなんばっかじゃないか…クソッ)
だが、一つ分かった。
(近接は不利だな)
勇者達が逃げた方向とは真逆の位置にいる。
(回って行くか…)
「ぎ…」
「ちっ…追ってくんなよ…!」
かれも森の奥深くに向かって走る。
木や草が多く、簡単に逃げられる
(筈だが…)
どんなに位置がわかりづらくなるように動いても、確実におって来ている。
「これは…まずいか…」
直後に、ハイドの真横に木が飛んでくる。
「まっ、マジかよ!」
振り返ると猿が木を引っこ抜き、持ち上げていた。
当たれば死ぬ自信があった
「くっそがぁぁぁぁぁ!」
次々と休み無く飛んでくる、やがて
「……!」
真横で弾けた木の木片が、足に刺さる。
(脚甲も買っとけばよかった!)
転げる。
小さな崖を転げ落ちる。
「あの……くそ猿……ぶっ殺してやる…!」
草と泥に塗れる。
(……ふー…当分バレないはず…)
「ぎっ!」
「!」
移動速度も相当なもののようだ
顔に向けて刀を突き刺そうとする
「ぎひっ」
手を掴まれる。
「マズイ…」
猿の手に力が入り始める。
ハイドの手首に嫌な音が鳴る。
「う、お…て…めぇ…!」
止めようと殴るが、何一つ聞いていないようだ。
そして、
鳴ってしまう。
人間を支える大事な柱が折れる音が。
「…!!」
声が出ず、汗が噴き出る。
「ぎぎぎ」
笑っているようだった
ハイドはあることに気が付く。
いや、掴まれていた時に既に気がついていた。
猿の指にはめられている、よく知っている物。
(…本能の指輪…)
なぜ、奴が持っているのか気になるが…わかる事が一つ。
魔王の刺客だ
「………わかったよ…猿が…」
逃げる。
勝ち目は無いと、刀を納めて、背を向け走る。
「ぎひっ……」
木に飛び移る。
足からは血が溢れている。長くは走れない。
「なら……」
彼は止まる。
まだお互い視界に入っていない。
なら
彼は座る。
(……音と…匂いで捜索してるんだろう…)
泥を塗る。
(心を無にしろ…そして)
神経に集中する
視界を
聴力を
嗅覚を
触覚を
極限まで集中させる。
彼に、指輪は必要無い。
自然と、同化する。
すると…
木の後ろに、いる。
わかる。
いま、森にあるのは
踏んで折れる枝の音と、生物の声だけ
(……じゃあな)
一瞬で剣を抜き、木ごと猿を、横に斬る。
手応えはあった。
(殺った)
木が倒れ、向こうにあるのは人の姿。
(やっぱ魔人だったか)
「……な…」
刀を落とす。
頭の中に情報が溢れる
魔人は一体何者なのか
魔人は一体どうやって産まれるのか
…
"人だった者は魔人になるのか"
「ハイド!無事か!」
三人が探し出して来た
オリーヴァの腕は無事にくっついたようだった
「…できれば捕獲して欲しかったな」
「ハイドさん?」
「なんで死体を抱えてる?」
「…メリシア…人が魔人になることはあるか?」
「記録には無いですね」
「…だよな」
「なら…こいつは元々魔人だったのか?」
「?なに言ってる」
「こいつは…俺が"騎士団"に入った時から」
「…ハイド?そいつを知ってるのか?」
「あぁ、よく知ってる」
「よく剣の練習に付き合ってくれたよ」
「…もしかして…」
「あぁ…赤獅子王騎士団…幹部…"切り込み隊、隊長"…」
「"スティーブ•ノイベルク"だ」
「「「!」」」
「間違いじゃ!?」
「違う……」
うずくまる。
泥の地面に顔を擦り付ける。
「わかったよ…お前達を助けるために必要なのは……"友情"じゃない……」
「"憎しみ"だ」
この出来事から…彼は変わる。
いや、これから"彼ら"は変わり始める。
【スティーブ•ノイベルク】
代々受け継がれる鍛冶屋の息子。
彼も元々鍛冶屋を継ぐつもりだったが、剣を造るのでは無く、剣を振るのも悪く無いことに気が付き、20代で騎士団に入団する。
入団すると戦闘の才能が開花。幹部にスピード昇進し、満足な生活を送っていた。
彼は一人の妹の事を、最後まで忘れなかった。