もう自動保存は信じない
あれからアンダイエの城の者にピエラニオが受けた依頼(?)について吐かせた。
突然現れた男が、金と魔具をやる代わりにここを通る勇者一行を始末しろ。
といったものらしいが…
特に良い情報は得られなかった。
彼らは変わらず旅を続けていた
「……」
「……」
「…さ、早く行こう」
次に目指すは、更に北東。
東に直進は地理的に不可能。
大きく危険な海が邪魔しているのだ
「最終的には船に乗ることになると思いますが」
「そうだね」
ハインツが自分の考えとは真逆のハイドと旅を続けるには理由がある。
それは、ハインツはハイド"命の大切さ"を教えたかった
一方、ハイドもハインツの事を変えてやりたがっていた。
「当分街とかは無いです。しかも、魔物数が多い地帯に入るので注意して下さい」
「"魔物の巣"か。色々いるらしいが」
「危険なのが多いですね。気を引き締めて行きましょう」
「ハイド…」
「なんだよ…オリーヴァ?」
耳打ち、小声で話す
「一体ハインツをどうするつもりよ?」
「ハインツだけでなくメリシアもだが…そうだな、"命を奪う大切さ"を教える」
「なによそれ…まぁ、何と無くわかるけど」
「だよな…お前なら分かる筈だ」
「どうしたの2人とも?」
「いや…なんでも」
「また森ですね」
「またか…気分が悪くなる…」
ハイドが頭を抱える。
「無理も無いね、さっさと抜けちゃおう」
森に入る。
特に変わった所は無い
「うん。魔物もいないようです」
探索魔法で森を正確に把握する
「ありがとうメリシア」
「……」
「…どうした?」
「いや…ハインツもそれ使える筈だろ?勇者だし、なんでいつもメリシアなんだ…?」
「良い質問だよ、ハイド」
「……なんだ?」
「ズバリ言うとね、僕は魔力量がそんなに多くないんだよね」
「この際、ハイドさんに魔法の事を少し教えてあげます」
【魔法】
あらゆる人間が使える。
そもそも魔力とは何か
魔力とは人の奥底に眠る意思。精神力。
使えば使うほど精神的な疲労が大きくなり、戦闘中に気絶してしまう事もある。
魔力の回復はただ精神的に元気になることで回復される。
回復は簡単なように思えるが、一度心にヒビが入れば、二度と使えないかもしれない。
そして、魔力は"五代元素"に変換する事ができる。
炎に変換することで炎魔法
水に変換することで水魔法など
これらの五代元素魔法はほぼ詠唱や術式無しで発動できる。
治癒魔法や探索魔法などの特殊魔法は、詠唱、又は術式が必要。
ちなみに身体強化魔法は自信の身体に魔力を流すだけでできる特殊魔法。
どんなに魔法が苦手でもできる魔法だ。
「僕が良く使っている武器強化魔法は、実は魔力をそのまま刃の形に変えているだけなんだ」
「……変換や詠唱をしてないって事か……」
「僕は魔力をできるだけ節約する必要がある。武器強化魔法は特別魔力を使用しない」
「まぁ、魔力をそのまま形にするなんてハインツさんにしかできませんが」
「ふーん…」
(精神力か……なんで俺使えないんだ)
「僕には皆を救う力がある」
「…そうかい」
殺さない力がある。
【魔物の巣】
本当に巣ができている、かつての勇者一行の一人が作った森。
あたりの魔物をこの森に集め、周辺の街に魔物の被害が少なくなる事を狙って作っている。
世界樹の木片と樹液使って集めているらしい。
当然、危険な場所である。
「魔法の実験に使っていたって言う噂もあるんです」
「まぁ、うってつけよね…うん?」
「ああ、来たね。逃げた方が早いかも」
「なんだ……?」
「"スプリガン"だ!あたりに遺跡か何かあるようだよ!」
木を飛び移り、一行の目の前に着地した一匹の人型
【スプリガン】
巨人であり小人でもある。
妖精の一種である。
彼らの身体は木でできており。巨人の状態は成長し、地に根を張った大木の事を言っている
小人は大木から産み落とされる。小人といっても人間とさほど変わらない大きさである。
彼らの役目は財宝、遺跡、自然を守ることだ
枯れ木でできたその見た目は不気味。
「こいつは手強いよ!メリシア!援護を!」
「任せてください!炎…!はまずいですね!」
そう言うと彼女は、手を払う
「"エアロ•ソード"…いま名付けました」
(風か…)
大きな風が起きる
刃状の風がスプリガンに飛ぶ
(…"ボロ布"並みじゃないか)
「…!!ギュイ……!」
スプリガンは腕を地面に突き刺す
持ち上げる。地面を
「…な!?」
「流石は小さな巨人ですね!」
剥がした地面でかまいたちを防いだ。
「僕が!」
ハインツも風の魔法を使用する。
「……すげ」
スプリガンが立っていた場所に大きな後ができる
「……」
「無力化できてない!くるよ!」
片腕のないスプリガンがハインツに飛びかかる。
「うおおおお!」
身体強化魔法。
ハインツの両腕に黒い渦が現れる
「ギュイっ!?」
「飛んでけ!!」
スプリガンを殴り飛ばす。
「…俺以外に吹き飛ぶやつ、初めて見たな…」
「さ、行こう」
「……」
彼は魔物すら、できる限り殺したくないようだ
「……俺は当分…見とくだけにする…」
どんな命でも、消えて良いものなんてない
彼は親にそう教えられたわけではない
いつの間にか、彼の曲げない心得としてできていた。
「かなり…霧が濃くなって来ましたね」
「それは良いんだけど…ずっと魔物の姿が見えないね」
「食事中なんじゃない?どっちにしろ出てこなくていいわよ」
「……!おい、吊り橋だぞ」
「谷か…」
谷を繋ぐ唯一の吊り橋。
谷の底は濃い霧のせいでどうなっているか分からない
見えないのは底だけでなく、吊り橋の向こう側見ることができない。
「ぜ…絶対通りたくないです」
「他に道ないでしょ」
「結構頑丈そうだし大丈夫だって。行こう」
「いやですうううう!」
他に通れるような道もなく、引きずって行く
「……少し…水の音がするな…落ちても大丈夫だろ」
「聞こえる?」
「聞こえないわ」
「……かなり深いみたいだな」
「それより、先に探索魔法使っておいた方が良かっただろ…」
「あうあう」
「今は…無理みたいね」
「精神状態は魔力に大きく関わる……か」
「それより魔物の気配が…ないな」
吊り橋を渡り始めて結構な時間が経つ
「ここで何か来ても対処できるか怪しいよね」
「…ん、待って、この音なに?」
四人の背後から発生しているその音は
吊り橋の上ではあまり聞きたくない音だった
「……!誰かが吊り橋のロープを切ってる!走れ!」
「勘弁してくださいよおおおお!」
こんな状況でもしっかりと立とうとしないメリシア
「メリシア!」
「え!?うわわ!」
メリシアが座っていた場所の板が折れ、落ち始める
落ちれば確実な死が待っている
(最悪だ…!)「ハインツ!メリシアを!」
「うおおおお!」
ハインツが腕を伸ばすが届かない
「…ッ!」
落ちる。
「!」
ハインツもメリシアと共に落ちる。
「大丈夫。僕、いま冷静だよ」
「ほ、本当ですかぁ?」
ハイドとオリーヴァは吊り橋の上から脱出できていた
「………まぁ、大丈夫だろう…二人とも」
「いやいや、底が見えないのよ?」
「魔法って万能だろう?今心配すべきは……」
霧に浮かぶ大きな人影。
「……俺たち向きの敵みたいだな」
「!…最悪ね」
はっきりと姿が見える位置まで来たそれの姿は
羽が生えたトカゲの様な、剣士。
【ガーゴイル】
魔族が人類を監視するために作られた魔物。
ガーゴイルは人間同士の戦闘を監視し、人間の戦闘技術を奪うと言われている。
動きが最も人間に近い魔物とされている。
そしてその魔物が手に持つ二本剣
剣は二本との錆だらけだ。
「行くぞ、オリーヴァ」
「あぁ…」
メリシアとハインツは絶賛落下中だった
「どうするんですか!」
「剣を使う!」
落下しながら剣を抜き、魔力で刀身を長くする
そして崖に突き刺し、落下速度を落とす
「まだ落ちてますよ!?」
「切れ味良すぎるのも考えものだね!!」
だが少しずつ、勢いは落ちて行っていた
「ちょ!ハインツさん!なんか来てますよ!」
「え…ガーゴイルだ、まずいね」
ガーゴイルはもう一体いたようだ
ぶら下がっている二人に向かって、飛行して来る。
「けど…ちょうどいいね」
「え?」
ハインツの身体を黒い影が纏いだす
「!受ける気ですか」
「ちゃんと掴んでてね」
メリシアを守る
ガーゴイルは素手
「…!」
腕を伸ばすがガーゴイル。
「う…おおお…!」
ガーゴイルの手が二人に触れる直前に、逆にガーゴイルにしがみつく
「…!ギ」
「なんて無茶な!」
「このまま!」
ガーゴイルの首を締め付ける
「下は…水だ。運が良かったら…」
彼らは再度、落ちる
谷、崖付近
「…こいつが持ってるの…!魔具か!?」
二人で同時に攻撃を仕掛けるが、全て塞がれる
「いや…!変な感じだが魔具じゃない!」
「なんだよそれ……!オリーヴァ!」
「うおおお!」
ガーゴイルに一瞬の隙が空き、拳を叩きつける
「…」
「……おい、強化したのか?」
「ビクともしてないわね…」
「ゴアアァ!」
怒ったように剣を振り回すガーゴイル
「……は、えぇ…!」
避ける
「…ッ!!威力も相当ね!」
オリーヴァは盾で防ぐ
「距離を取るわよ!」
そう言ったオリーヴァは地面に手のひらを向ける
炎魔法。
少し大きな爆発が発生し、辺りを砂煙が散らばる
「…あのガーゴイル、黒いの纏ってなかったか…?」
霧もあって、簡単にガーゴイルの視野から逃げることができた
「魔法が使える魔物はごく少数よ、ガーゴイルが魔法を使うなんて聞いたこと…」
「けど昔戦ったやつと段違いに動きいいぞ…」
「……まぁいいわ、正面からでは勝てない」
「…なら後ろからだな…」
谷底、川、下流付近
「…ゴホッ…生きてます?」
「なんとか…ガーゴイルがいない?」
「…ハインツさん、周り……」
辺りには大量の木があった
その木は枯れているようだが、確かに緑の葉がしっかりとついていた
「……スプリガン」
「魔法、もう使える?」
「はい。なんとか…」
「待って、誰か来る…?」
木と木の隙間から現れる黒いかげ
「ここに居るって言うことは…」
「ロクでもなさそうです…ね」
黒いフードで顔を隠した人間。
「あなたは…敵か…?味方か…?」
「………敵よ、間違いなく…ね」
案外、あっさりと答える
フードを取る
「……私は魔王の配下。"魔人"よ」
「ですよね」
女性だった。
「ハインツさん…」
「…うん。これは…」
(最悪だ)
「出て来なさい、あなたたち」
「……ギュ…ル」
草を掻き分け、現れる無数の影
スプリガンを含めた様々な魔物だった
「ここは、"魔物の巣"。私が最も生きる最高の条件…」
黒いロープを脱ぎ捨てる。
「バカな魔物は全て…私の手の内よ」
その身体は植物でできているようだった
「おい、ハイド」
「……なんで増えてるんだ?ガーゴイル」
二人を探す二体のガーゴイル。
「こ、これで互角ね」
「ふざけんな…だが…頭は悪いみたいだな」
「そうね」
「やることは一つだぞ、オリーヴァ」