「…そういえば…ハインツ」
「なんだいハイド」
森の広場で夜を過ごそうとする"四人"
焚き火の炎に使う木の枝を折りながら、ハインツに質問する
「あの魔物…グローラー?は、お前を狙ってたな、心当たりは?」
「無いよ、この辺りは変な魔物が多いし…ローザさんに同行を頼んだのもそれが理由だし…」
「…そうか…戻って来たみたいだな…」
「戻って来たわよ……っと」
「お、お待たせしました……疲れた…」
草むらを掻き分け出てきたオリーヴァとローザ。
抱えているのは今晩の食料、猪。
「女性にこんな事させるなんてね」
「…剣持ってる奴が言える事かよ…第一、今は動けないしな…」
「僕はそうでもないけどね…殺すのは…あれだけど…」
「…お前は雑草でも食ってろ… まてよ」
残念だが、彼らの食料は底を尽きていた、だから狩った。
「……お前、肉食ったことないのか?いつも葉っぱ見たいなの食ってるが…」
「そんな事は無いけどね、死体を食ってると思うと……」
「変なこと言わないでよ…はい、ローザちゃん」
「はい……ちゃん?」
翌朝、彼らは旅を続ける。
次の目的地は
「えっと…"エルフの里"もっとも近い街」
「鉄の国ですね、ハイドさんの鎧も壊れたし、ちょうどいいんじゃないですか?」
「…いや」
グローラーに貫かれた軽甲冑。
それは、
「それって騎士団のだよね」
「…そうだな、これを着るのは昔の夢だったんだが…もう邪魔だな」
「いいの?」
「…無い方が動きやすいよ…」
「ここからだと、世界樹がはっきり見えますね」
山を幾つか超えた先に見える柱
それは神が世界を作った証拠であり、世界を支えるもの
そして、もうすぐ戦場になる
「いや…もうなってるかもな」
「だと最悪だけど…」
【鉄の国】
神々すら驚いた、"技術"を持つもの達が集まっていたと言われる
それは魔力的なものではなく、正真正銘、"技"だったとされる
傭兵が集う国である。
「…なんだ?」
辺りを走り回る多くの人間。
中には剣を背負うもの、家具を背負うものや様々だった。
「……戦場に行くみたいだな…」
「なるほどね…そこに鍛冶屋の看板出てるわよ」
「…みたいだな…」
「あなたの刀、見てもらいなさいよ」
「うん、結構ボロボロじゃない?それ」
「……」
「なんだ?今の時期に客か?」
中にいたのは小柄な男性だった
「…この剣の…"鍛え直し"を頼む」
鞘から引き抜き、手渡す
男性はじっくりと刀身を眺める
「…"刀"か…どこで手に入れた?」
「プレゼントにもらったんだよ…できるか?」
「当然だ、うちの"家系"が作ったもんだからな」
「…本当かよ?」
準備をする男性、小柄だがしっかりした身体だった
「家系って?鍛冶を継いでるのか?」
「あぁ。結構長いぜ此処はな」
「此処は?」
「弟が出て行ってな、"フレイジア"で鍛冶やってるよ」
「……なぁ…年は?」
「あぁん?…もうすぐ60も終わるな。どうした?」
「…そうか…弟さんに息子は?」
「いるが…最近あってねぇな。鍛冶を継がずに赤い騎士団に入ってな…離れてろよ」
「…」
「ただ噂でな、あの…赤獅子王?騎士団の奴らが処刑されたって噂があってな…」
「…は?」
「噂だよ噂。あのバカ弟のバカ息子が死ぬとは思えん」
火を起こす
「……名前は?」
「お前さっきからなんだ?名乗るなら自分からだぜ」
「…ハイドだ」
「……"ノイベルク"だ、火散るぞ」
「……」
「おい?」
「…」
「なんだよ?」
「ついでに直してもらいたい物が…もう一つできた」
そう言ってハイドが取り出したのは…
穴が空いた、赤い鎧だった
「てめぇ…スティーブを知ってるのか」
「……いや…ただ…背負い直す必要が…ある」
屋外
「ハイドが戻ってくるまで…ぶらつこうか」
「けど何もないわよ?ここ」
「休める場所くらいならありますよ、多分」
「あ、酒場だね…今は飲まないけど」
「仕方ないわね」
暗闇、あるのは剣を弾く鎚と火
叩くたびに音が弾ける
「こいつを…!ここまでボロボロにできるなんてな…!」
「…」
「いったいどんな使い方をした?荒いんじゃないか?」
「そうでもしないと…勝てない」
「騎士団の奴がここに何をしに来たんだ」
「…なんだろうな…敵討ちか…守れなかったからな」
「何を」
「全部かな…1を捨てて10を助ける…1すら救えなかったがな…」
「暗いな…色々と…と」
「勇者なら…あいつなら救えるのか…」
「…1も10も救える奴はそうそういないさ…圧倒的力を持ってるなら別だが…」
「…もう一度…頑張るか…」
酒場
「…ガラガラですね」
「失礼だな…お客さん」
カウンターにいる男性に聞こえたようだ
「す、すいません…」
「いいよ、なんか注文するならな…」
「じゃあ水を」
「坊やにはミルクがお似合いだぜ……いや、一度言ってみたかっただけだ、ほらよ」
大勢の客が集まる酒場。今は三人だけだが
そこで働くと必然と、あらゆる情報が集まる。
(はず)
「いま魔族との戦争がどうなってるか、聞いたことない?マスター」
「マスター……いい響きだ…いや、そんな話はまだ…世界樹までは来てないだろ、多分」
「そうですか」
水に口をつけるハインツ
「…あんな人いたっけ?」
「え?」
水を飲むとき、視界の端に映った人影。
角の席に座っている。
「しまった気が付かなかった…ご、ご注文は…」
すこし話しかけづらい雰囲気をしている。
(騎士…?)
髭と髪が伸びた、中年の男性
傭兵かと思ったが、綺麗なプレートメイルを着込んでいる。
「……オリーヴァ、あの紋章に見覚えは…?」
男のマントに縫われた紋章
花のようだ
(似合って無い…)
「無いわね……ローザちゃん?」
「あの紋章って…この国の貴族のものじゃないですかね…?」
「……まぁそりゃそうかな」
「行きましょうか」
「おっとお金を…」
「おい、そこの」
話しかけて来た
「うっ……なんでしょうか…」
正直関わりたくなかった
「気づいてないのか?」
「…?何が…」
「ないんだな?」
腰にかけていた剣に手をかける
「え?一体何を…!!」
店員が声を上げる
「黙れよ…!」
「ッ!!」
店員の体が赤く染められる
剣圧があたりの小物を吹きとした。
倒れる、血溜まりができる
「あッ…アンタなにやってんだ!!」
「知ってるぞ、あんたら勇者一行だろ?」
「なんで…!」
「指名手配。似顔絵をよく覚えている…いない奴と知らない奴がいるが」
刀身の血を振り飛ばす
「あなたの目的は?彼を殺した理由はなに?」
オリーヴァが一歩前へでる
「知ってるだろ?……"魔人"はこの程度じゃ死なない」
その言葉に反応するかのように、倒れていた店員の体が少し動いた
「……そうみたいね」
「魔人ですか…」
鍛冶屋
作業は半分まで完了していた
「あんた、旅をしてるのか?傭兵か?」
「旅だよ…殺したい奴がいるんだ」
「物騒なこった。まぁこいつを使い込む時点で…変な奴だが」
刀身を水につけ、冷ます
「後は組み立てだ…鎧もあるか」
「早いな」
「あったりまえよ」
「……なんで…グッ…分かった」
やはり、生きていた
喉に血が溜まって喋りにくそうだ
「匂い、人間とは違う…さっさと魔物になれ、ダルマにするぞ」
「へっ……後悔するぜ」
「ここは…援護するべきかな…?」
「放って置くのは…ちょっとね…」
「ローザさん。ハイドを呼んで来てくれ」
「わかりました!」
「あー…いい気分だぜぇ…」
血だまりで足掻いていたとは思えないほど元気な、魔物。
見た目の変化は少ない。
肌の色が薄い赤のように染まり、頭に角が生えている
そして、筋肉質。
「あいつが勇者だったかー…毒でも盛っとけば良かったぜ」
「それ、ヤギの頭か?悪魔でも気取っているのか、馬鹿面」
「挑発に乗るほど馬鹿じゃねぇよ」
「素直な感想だ」
その言葉が戦闘開始の合図だった。
魔人が足元で倒れているテーブルを、男に向かって蹴り上げる
テーブルの影に隠れるように全身。
突き蹴りを入れ、テーブルごと砕く。
予定だった
「その程度かよ、ド三流」
(上!?早すぎ–––)
「くっ!!」
何も装備していない両腕で防御しようとする
男は構わず、長剣を両腕で振り下ろす
当然、両断。
「ああああぁああ!!てめええぇッッ!!」
血が吹き出す。
「まだ終わりじゃないだろ?」
剣の血を拭う
「あったりまえだあああぁあ!!」
小さい何かが弾ける音
魔人の二本の角が何かを帯びていた
「痺れて焼け焦げやがれええぇえッ!!」
まだ謎が多い"雷"の魔法
離れていても目に捉えられない速度で攻撃できる。
「ッッッ!!」
直撃
「…なんでまだ立ってんだよお前…全力で行ったぞ…!」
倒れていない
「いっ…てえええなああああ…!」
痛みを憎悪に、力に変えるように
一歩大きく前に踏み出し
「まっ–––
首に向かい、振り払う
だが、止められる。
「なにやってんだ勇者様ぁ?」
魔人を庇った、
鍔迫り合い。
「もう戦意喪失してる…これ以上は意味がない…!」
「殺す事に意味があるんだ。そこをどけよ」
「無理だね!」
「ふんっ!」
男はハインツを押し飛ばす。
「そいつはまだ生きてるぞ?何されるか。背中向けてていいのか?」
「…オリーヴァ、拘束を」
「分かったわよ…」
「まぁいい。勇者の首をとるのも俺の目的の一つだ」
「…?賞金稼ぎか?」
「そんなところだ」
「ありがとよ、爺さん」
「おう、また来いよ。折るなよ」
「それじゃ…」
修復した赤い軽甲冑を身に纏い、鍛えられた刀を腰にさす
「なんか気分が明るいな、今」