※この作品はR-18です。

黒のテスカトリポカ   作:被害者宅

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第三十七話 零達の特権

「そう言う事…か」

 

「……聞いていましたか」

 

 

 

同じ場所で生き、ともに仕事をした者同士、世話話も不思議ではない。むしろ、当然の事…

 

ハイドが騎士団に入団してそう長くない頃のこと。

 

『へぇ、結婚してるんだ』

『まぁな…』

 

いつものように訓練した後の休憩時間の事だった。

 

『子供の頃から…仲が良かった…』

『フーン』

『…この魔具は、彼女がくれた物なんだ…』

『気になってたんだが、グスタフはなんでこの騎士団に入ろうと思ったんだ?』

『……彼女は本当に居るのかどうかわからない魔王を…恐れてた…』

『約束してな…国と、里と、君を守ると…』

『うわ、なんか俺が恥ずかしいわ』

『…』

『す、すまん』

 

それが…

 

「君か…」

 

グスタフの攻撃は止んでいた

 

まるで、彼女を傷つけないように

 

「…ハイドさん…ですよね?」

「…君がセイム•ヴィンクラーか…」

ふらつくが、立ち上がる

「…こうも聞いたぞ…"子が宿ってる"って」

「…はい」

「…彼を、戻せると思うか?」

「……」

「そうか、そうだな。覚悟を決めた筈なんだが…まだ、できていなかった」

 

「お願い…彼を、助けて、下さい…」

 

 

グスタフの鋭い目が、ハイドを睨む。

 

「俺を待っていたんじゃなく、彼女を待っていたんだな」

 

風が吹く

 

「だが、それももう、終わりか…」

拳を握り締める

 

過去の光景がフラッシュバックする

 

仲間と笑いあった光景が

仲間に助けられた光景が

仲間が倒れていく光景が

 

 

鏡の骸骨が

 

これまでに数回現れた、謎の黒い煙

 

黒い煙は、全て目の前で消えた

 

そして、傭兵の街で出会ったあの男…

 

"お前には無い物"

 

「……あの骸骨は…他の魔物に自身の魔力を与えられる…」

 

"お前は俺と同じ匂いがする"

 

 

「お前と、似てるってことだな?」

 

 

 

 

 

 

お前が"与える"なら、俺は"奪う"

 

 

 

 

 

 

 

全身に走る、感じた事のない感覚

 

全身を纏う"黒い煙"

 

 

"身体強化魔法"

 

 

「!?」

 

一瞬のうちに消えるハイド

 

彼は既にグスタフ…大鳥の懐に飛び込んでいた

 

羽を掴み、飛ぶのを防ぐ

 

「……だよな。分かってたさ。"この力"は奪えない」

 

"ヤツ"の力しか奪えない

 

 

 

 

「じゃあな」

 

 

 

刀を、振り下ろす

 

 

 

「あぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハインツ!足場が無くなる前に、早く!」

炎が燃え広がり確実に、着々と世界樹を蝕んでいく。

「いや、まだだ…」

「え?」

「"二体"いる。確実に」

 

霧の向こうを見据える二人

 

「…先ずは逃げるのが一番だと思うんだけど…」

「僕達を殺すチャンスはいくらでもあった。そして今、これほどの殺気を向けてきているんだ…なら受けて立つまで」

 

その言葉を聞いてなのか、霧に二つの影が浮き上がる。

 

「…」

 

只者では無い。

それはハインツもオリーヴァも、気付けていたが。

 

「!」

 

ハインツは構わずに向かい、剣を突き放つ。

彼は決して冷静では無かったのだ。

 

「ハインツ!?」

 

が

 

「ッ!」

 

霧から伸びる一本の人間の腕。

 

瞬時に魔人だということを理解し。そして…

 

霧が晴れる

 

 

「…離せよ、魔人」

 

そこに立つは輝く鎧を着た男と…

 

輝く、鏡のような骸骨だった。

 

男は口角を上げ、言った。

 

 

 

 

 

「僕を雑兵と比べるなよ、小僧…"ティトラカワン"」

 

「うむ…」

 

「!?」

 

一瞬の間…ハインツの脇腹に、骸骨の拳がめり込み始めていた。

瞬時に肉体を強化し、後ろに跳ぶ。

 

「へぇ、今のに反応したのか」

「なかなかやるではないか…"勇者の剣"だな。間違いない」

大きなため息を吐く

 

「"僕を負かしたあの勇者"はもう死んだってことかい?」

「何度も申しただろう」

「本当だったのか…寿命で…?ふむ、まぁいい。目的はまだ他にもある」

 

「さっきから…喋ってる場合かよッ!!」

「ハインツ、ここは退くべきよ」

オリーヴァは腕を掴み静止する

 

「そこの人間はお利口さんだね…一つ教えておいてあげるよ、勇者君」

 

 

 

 

『"本能には従え"よ』

 

 

 

 

 

「うッ…!!」

 

背筋を走る悪寒…

 

恐怖…

 

"勝てない"と…

 

本能が、理解した。

 

 

 

 

 

「おい、ティトラカワン」

「なんだ」

「足に何かついてるぞ」

「ムッ?」

 

視線を落とすとそこには、木が巻き付いていた。

 

「ウーラの力ではないか」

「違うね。魔力の質が違う」

 

新たに現れる、気配。

 

 

 

 

「見つけたぞ、骸骨」

 

そこに立っていたのは、植物を操る魔具の持ち主

 

「フレイ!?」

「ふん!」

 

フレイが拳を世界樹に叩きつけると、骸骨に向かい木の槍が飛び出す。

 

「…ほう」

 

受け止める

 

「貴様はいつぞやの小僧か…探し物は"姉"か?」

「あぁ、そうだ。今すぐ場所を吐け」

「貴様の姉なら"飛び降りた"ぞ」

「だれ?」

 

向こう側のオリーヴァと目を合わせるフレイ

 

「…ハインツとオリーヴァだったよな!?」」

「え、えぇ!」

「逃げるぞ!」

 

再度、拳を叩きつける

 

「えぇ!?」

 

木の足場が砕け散る…男と骸骨を残して。

 

彼は脱出に落下を選んだ。

 

 

「逃げられたな」

「僕らは…"前進"するか。ここ暑いし」

「今度は勝利だな、魔王」

 

 

 

大穴ができた衝撃で、辺りも崩れ始める

 

当然、ハイド達のいた場所にも影響は出はじめる。

 

 

「こ、これは?」

「…ハインツの炎だな。潮時だ」

 

人の姿に戻り、倒れるグスタフに歩みよる二人

 

「…今は…やめておきましょう」

「ま、そうだな…貰ってくぜ、グスタフ」

 

布を拾う

 

「あの世に戦はないだ…ろ…!?」

「どうしたんですか?」

「…魔具は使えない訳か…」

「え!?じゃ、じゃあ」

「頼んだ」

「えぇ!?ちょっと!」

 

セイムに布を強引に着せ、走りだす

 

「風が一番大きく吹いてる方向だ!こっちが一番端に近い!」

 

「って事は!」

 

「飛ぶんだよ!」

 

 

 

 

 

 

青く燃え盛る世界樹。

エルフが守る筈だった"柱"

 

 

それが堕ちた今、何が起こるか、何が目的か…

 

 

 

 

『勇者は負けた』それは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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