※この作品はR-18です。

黒のテスカトリポカ   作:被害者宅

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第三十八話 剣力と魔法

勇者一行は無事に世界樹を脱出に成功していた。

ただ一人、メリシアを除いて。

 

地上に着くと、世界樹の欠片が里に降り注ぎ、里を破壊し、魔物の軍団が本格的に進行を始めていた。

 

逃げる他はなかった。

 

 

 

 

 

 

それから数週間の時間が流れる。

 

『鉄の国、傭兵の街』

 

 

 

「…傭兵の街にエルフがいっぱい…変ですね」

「最も…もうすぐこの街にも魔物が来るだろうな」

 

セイムとハイドだった

 

「それで勇者様は?」

「…まだ、一言も喋らない。オリーヴァから一通り話は聞いたが…」

「…」

 

 

仲間の死は相当、堪えたようだ

 

(当然か…)

 

「おい、ハイド。ちょっといいか」

「…フレイか…なんだよ?」

「さっき、連合軍の…世界樹での戦いの生き残りが街の入り口で倒れててな…血だらけで」

「要点言え」

「…惨敗だとよ。あとそいつは死んだとさ」

「……」

 

 

人類の敗北…最高防衛点とも言える、世界樹が完全に乗っ取られた。

 

「ま、世界樹はもうないけどな」

「ここもいい加減、出ないとな…みんな、勇者のお言葉よく聞いてくれるんだが…」

「あぁ、その勇者様なんだが」

「…?どうした?」

「朝方から行方不明だとよ」

「は?」

 

フレイを蹴り飛ばす

 

「それを先に言えよ。おい」

「い、いや、オリーヴァとローザが探しに行ってるから大丈夫だと…」

「…ふん」

「そのうち戻ってくるって…ま、大切な仲間の死なんざ、そう簡単には受け入れられんがね」

「まぁ…な」

 

それだけではない

 

彼は気が付いていた

 

悲しみや、後悔より先に走る衝撃…

 

怒り。

憎悪。

殺意。

狂気。

 

 

「俺も探してくる…お前はそのまま偵察しておいてくれ」

「はいはい」

 

 

 

 

 

町外れの森に一人佇むハインツ

 

「…」

 

あの時は来なかった、悲しみが今、波の様に押し寄せて来ていた。

 

音が出ない声が出ない。

 

頭の中は後悔と懺悔。

 

(あの時…あの森で…あの魔人を殺しておけば…)

 

メリシアは死ぬ事にならなかった。

 

(……)

 

殺せばよかった…と。

 

彼の考えはもう既に変わっていた。

 

"奴らに情は必要ない"

 

情を与えれば、"奪われる"。

 

 

 

 

「………力がいる………」

 

 

 

「ハインツ」

 

「…ハイド…どうしてここが…」

 

「お前は灰の匂いが強いんでな……どうする気だ?」

 

「…奴を…いや…奴らを…魔物を殺す」

 

「まぁ、俺も同意見だが…聞いたぞ、骸骨と会ったってな」

 

「あぁ…」

 

「奴は…俺の…仇みたいなものでな。できれば今すぐにでも殺してやりたいんだが…冷静さを失うな。ハインツ」

 

「…お前がそれを言うか?」

 

「…そうだな。お前に仲間に誘われた時、俺は冷静だった」

 

「?」

 

「あの時…まともに考えず、お前らの仲間になっていなかったら…俺は間違いなく、今頃死んでいただろう」

 

「俺は…冷静だよ。ハイド。だから少し放っておいてくれ…」

 

「嘘つけ…俺にはわかるぜハインツ…俺は、お前たちに感謝してるんだよ。仲間を休ませる事ができたからな。2人も…」

 

「要するに僕に何をしろと?」

 

「一人で行く気なのは分かってる。そうはさせない」

 

「…僕の邪魔をするんだな?」

 

「そうなる」

 

お互い信頼を置いている剣に手を掛ける

それが意味する事は一つ。

 

「剣を仲間の血で濡らす…か」

 

「…強化魔法が使えるようになったと言っていたね?」

 

「ちっ」

 

墓穴を掘っていた。

あわよくば、隙を突けると考えていたが…

 

「そう、手加減はいらないってこったよ。気絶してもらうぞ」

 

腰を低く、相手を見据え、ゆっくりと、刀を抜いた。

 

そして…

 

身体強化魔法。

 

地面が抉れ、ハイドの姿が一瞬。視界から消える。

 

(下!)

 

地面すれすれ。限界まで身体を低くしての切り上げ。

 

それを

 

「うっ…!おおおおお!」

 

弾く。

 

 

「怪我じゃ済まないぞ!ハイド!」

 

「馬鹿が!これは喧嘩じゃない!戦いだ!」

 

一歩下がったハインツに向かい、一歩踏み込むハイド。

 

連撃。

 

弾く弾く弾く。

 

「ほらよ!」

 

真上からまっすぐっ刀を振り上げる

 

だが、それは隙だらけ。

 

(空いた!)

 

ハインツの剣がハイドの脇を捉える

 

「!?」

 

「…馬鹿が…!」

 

両手に走る強い衝撃。しっかりと握っていた筈の剣が宙を舞う。

 

(蹴り!?)

 

「ふんッ!」

 

防御の手段がないハインツに向かい構わず刀を振り下ろす。

 

「ッッ!」

 

後ろに全力で下がり、事無きを得る。

 

「…武器は一本の剣のみではない。お前には両手しか無いのか?何より…」

 

「…」

 

「お前は強化魔法しか使っていない。魔力の壁も魔力の刃も魔力の炎も使っていない」

 

「…炎は…君が強化で全身に魔力を纏っている状態なら…君にも効くぞ?」

 

「あぁ」

 

「僕に人殺しになれと?」

 

「人間一人殺せない奴が、魔王を討つと…?何より邪魔されたくないんだろう?」

 

歯をくいしばる

 

「お前について行こうとする仲間も、危険な目に合わせる訳にはいかない」

 

「君やオリーヴァが付いてくると?」

 

「あぁ、現状じゃ解決できない問題に向かってな」

 

「…」

 

「考え直せ。冷静になれ、ハインツ」

 

「…本能に従え…だ。殺意は消せない」

 

 

 

–––––殺意が全てを凌駕する。

 

 

 

 

 

「奴を殺す邪魔をするなら!!お前も殺すッッ!!!」

 

 

 

「…お前の殺意を殺してやる」

 

 

 

 

次の瞬間。辺りを襲う衝撃。

 

立ち並ぶ木々達が、衝撃で曲がり、倒れる。

 

お互い本気の身体強化魔法。

ハインツは強化だけでなく、炎を纏う。

 

ハイドは落ちていた勇者の剣の刃先を踏みつけキャッチする。

 

二本の刃で炎が接触する前に斬りつける。

 

 

 

 

筈だった

 

 

 

 

「!」

 

ハインツは勇者の剣の刀身を片手で掴み、剣に炎を走らせ、ハイドの右手を焼こうとする。

 

 

 

 

その動作に集中した一瞬の隙。

ハイドは見逃さず、左手にある刀を振り上げ

 

 

右手を犠牲にする事を選び…ハインツの肩口を守る金属の肩当と、分厚い布を切り裂き、肉に食い込ませる。

 

 

 

 

「……なっ」

 

「…ぐうぅッ!………?」

 

 

 

刀が途中で止まる。

 

「まさか…」

 

ハイドの全身に纏っていた魔力が消えていた。

 

右手にもしっかりと感覚があった。焼けていない。

 

 

 

"奪った分の魔力を使い切った"

 

 

 

二人の間に静寂が訪れる。

 

 

 

 

「……ハイド。刀をどけてくれないか」

 

「あ、あぁ……相打ち…か…?」

 

「…戻ろうか」

 

「…」

 

「痛ってぇぇ…オリーヴァに治してもらわないと…」

 

「あ!いた!」

 

「えっ…なんで血が」

 

森の中から草をかき分け出てきたのは、オリーヴァとローザだった。

 

「話は戻ってからで…」

 

 

 

 

四人で街に戻り、オリーヴァはハインツの手当てを行う

 

「…要するに喧嘩って事?」

「まぁ…うん」

 

目を合わせずに答えたハインツ。

 

「ハイドさんは怪我無いんですか?」

「えっ…聞く?そう言う事。喧嘩よ?」

「あぁ!『悔しー』ってなりますもんね」

「もう黙ってろ二人とも」

「なあ。みんな」

 

一切喋らなかったハインツが、突然口を開いた。

三人の視線は当然、ハインツに集まる。

 

「僕は…勇者の称号を捨てるよ」

 

「「「…は?」」」

 

「僕が勇者一行で無くなってしまえば。付いてこなくて良いし、付いていかなくていい」

 

「何言ってるのよ?」

「…君達が、勇者になってくれないか?」

「どうして?」

「…強くなる。それには時間がいる」

「…あてはあるのか?」

「一つだけ、ある」

 

辺りは静寂に包まれる

 

本来の任務

『魔王を討つ』事が"一度"失敗に終わった今…

 

「負けた…完全に。魔王軍の侵攻速度は速くは無いが。確実に人間は消されて行っている」

 

今、勝てないなら強くなる必要がある

 

「君達は強い。僕なんかよりも何倍も…確実に足を引っ張る事になる…」

「え…そんな事無いと思うけど…」

「僕はまだ、未熟なんだよ」

 

「なら…俺たちが侵攻の時間を稼ぐ…お前はその間に強くなる…そういう事だな?」

 

「あぁ…僕はそうしたい」

 

「…」

 

「まぁ…そうだな、勇者様が勝てないなら俺たちに勝てる筈がないしな…俺は…賛成するよ。今回だけな」

 

「…私は勇者一行じゃないですからね。口は出しませんよ」

 

「…私は…」

 

唯一、賛成できていなかったのはオリーヴァだった

 

「…オリーヴァ。頼むよ」

 

「…私も…連れて行くなら…」

 

「!?…はい?」

 

「聞いてなかったのかよ…?いや…だが…」

 

何かに納得したハイド

 

「…お前のこれからの修行内容によっては必要だろうな…オリーヴァの治癒は」

 

「そういうことよ」

 

「…それ以外選択肢は無いみたいだね…」

 

 

 

 

 

 

翌日––––

 

 

 

「俺抜きに話進めたのかよ?ハイド」

「お前は関係ないだろ、フレイ」

「…うーん」

 

 

荷物をまとめるハインツとオリーヴァ

 

二人で修行に向かう事は決定していた。

 

 

「…本当に付いてくるの?オリーヴァ」

「今のハインツは無茶しそうだもの、放っておけないわよ」

 

「"アテ"ってのはどこの事だ?ハイド」

 

「"ナワルピリ"…彼はそう言っていた。覚えてるだろ?」

 

魔術の国"ネギリス"

 

「…嵌められた時の事か。あの洞窟にいたって言う…」

 

「そうだよ…ちょっと早いかも知れないけど…行こうか、オリーヴァ」

「えぇ…気をつけてね、ハイド、ローザ、フレイ」

 

「あぁ…任せろ」

「気をつけて下さいね!二人とも!」

「まじで修行行くのかよ…?まぁ、達者でな」

 

二人は背を向け、振り返らず歩き出す。

 

姿が見えなくなるまでそう長くは無かった。

 

「…呆気ないな。なんか…」

「それにしても本当に良いんですか?侵攻を遅れせるとか…どうやって…」

「何より戦力激減だぜ?」

「あ?お前ら2人も来る気なのかよ?」

 

「はい!」

「いや俺はいかねぇけど」

「なんだよ…」

「俺も用事があんだよ…まだ取り返せてないしな」

「フレイ?」

「いいや、じゃな。俺も急ぐ」

 

 

「……まぁ…戦力の"アテ"は…ある」

 

 

街は、騒がしくなり、住民達は避難の準備を始める

 

 

 

 

 

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