「野宿か…」
「おい、ローザ」
「何ですか?ハイドさん」
彼ら三人は森で一夜を過ごす事にした。
辺りはすっかり暗くなっている。
「…こいつをお前に預けておく」
「え?これって…」
綺麗に畳まれた布…ボロボロのそれは、一瞬で魔具だという事が分かった。
「なんでよりにもよってこいつ何だよハイド」
「この中で魔具が使えるのはローザだけだから…だ」
「…ふん。どうやらお前も"奪う魔力"の事知ったみたいだな…」
「まぁな…ほら」
「でも…聞いた話では、形見では?」
「使える物は使うべきだ…今日は休もう。数週間したら魔軍の支配地入りだ」
「あ…預かっておきます」
「あぁ、じゃ」
ハイドは無造作に、石と砂だらけの地面に横になる
「だとよ、よかったな」
「なんか変な感じです…」
「頼りにされてんだろぉよ…見張りはお前な、じゃお先」
「はぁ…」
そして彼らも…
「ハインツ。少し急ぎすぎじゃないかしら?」
「…そうかな…」
街を出て半日と少し、足を一度も止めなかった。
「無理は禁物よ。強くなる前に下級の魔物にやられたりしたら、立ち直れないわよ?」
「うーん…」
「そもそも、その洞窟にいたご老人の所に行って本当に強くなれるの?」
「…彼は色々と知っていた。何より…彼も"炎"を出した。僕と同じ…」
「ふーん…」
「できるだけ早くたどり着いて戦況も知りたい…けど…今日はもう休もうか…」
「…えぇ。そうね」
オリーヴァは少し安心した。ハインツの様子は少し変わった程度で、冷静そうではあったが…
(大切な人を…だものね)
「さて…と。オリーヴァ、魔物の気配もないし、ここにしようか」
「えぇ…枝を集めて来るわね」
「うん…」
焚き火のための枝を集めに、木に近づく。
「枯れ木…全部元気ね」
足元は岩と伸びた雑草…自分の膝から下が見えない。程よい大きさの折れ枝が見つからない。
「…もう…へし折ろうかしら…」
それも何だか気がひける…
(ような…)
木はどれも若々しく、美しい花を纏っている。
「…拾えばいいんでしょ」
彼女は黙々と…下を向いて歩き続ける。
「…ん?」
一本の鋭い木の枝が地面に突き刺さっているのを見つける。
その枝には何かの木の実のような物がぶら下がっていた。
「これ…魔術ね。魔除けの類かしら」
少し観察して見るがそれ以上の事は分からなかった。
(警戒した方がいいわね…戻るとしましょうか)
来た道を戻る。
本来の目的は頭の隅に追いやられていた。
足が雑草を分ける音だけが鳴る。
「…?」
妙に静かだった。
不気味な程に…
「…ハインツ?」
歩く速度を速める。
嫌な予感が彼女を襲う。
「……!いない」
ハインツの姿は何処にも見当たらない
警戒を更に強める
「……ハインツ!!」
静寂…
いない。
「……攻撃されてるのかしら」
「ご名答」
「!?」
どこからか響いた女の声…聞いた覚えがある
剣を抜き盾を構える。
「……貴方は…」
「覚えてる?」
女…確かにあった事がある。
ネギエルの街、魔術学校学長の女…いつの間にか消えていたあの女だ。
「確か…アレサル•フード…」
「覚えていてくれたのね」
その女の腕からは黒い液体が流れ出ていた。
「ハインツは?何処にやったの?」
「…何処かで誰かと遊んでるんじゃない?」
「真面目に答えなさい」
「ふふ…」
「…そう」
「私とやる気?」
「えぇ、さっさと狩らせてもらうわ」
腰を落とし、備える。
「…私を…魔人だと思ってる?」
「…なに?」
「やっぱりね。私は人間よ正真正銘の」
思わぬ言葉。
「なら何故私たちの邪魔を!」
「何故人間がみな貴方達の味方だと思うの?」
「…それは…」
「言っておく…人間の王より魔族の王の方がよっぽど人間らしいんだよ」
「…此処で、倒れてもらうわ」
「そうやってすぐ暴力…変わらないわね」
「これは仲間を助けるためよ!」
「!」
オリーヴァは左に思っていた盾をフードに投げつける。
それの速度は強化をして投げたのか、相当なものである。
フードにそれを避けようとする様子はなかった
「…」
(当たる!)
強化を使用していたとしても確実にダメージが入っている
「…ふふ」
当たる。
「…なに?」
それは間違いなかった。
当たったが
「驚いた?"盾は体をすり抜けたって"…」
(今のは…)
"水に向かって投げたような"感覚…血の代わりに黒い液体が飛び散った。
「次は私の番ね」
手を振るう事によって発射される黒い水弾。
"あのとき"、フレイを操っていたものと同じもののようだ。
当たるのはまずい。確実に。
強化を使用せず横にステップを踏む。
彼女は魔力の温存を選んだ。
それが間違いだった。
「……なんで」
オリーヴァの左腕に黒い液体が絡み付いていた。
「液体には形がない。けど、どんな形にも変えられる…空中なら尚更得意なの、私」
その液体は生きているようだった。
(不味い!)
その液体は口に向かってきているようだ。
掴もうとしてみるが、無駄に終わる。
「ふふ、滑稽ですね」
「…今なら許してあげるわ」
「…貴方の頭の中、どうなってるの?」
「…本当よ、あいつの"無茶病"が私にも移ったみたいね…」
「…なんのこと?」
「こういう事よ…!!」
彼女は自身の左腕に剣を振り下ろした。
「!?!?…いくら魔具でくっ付けれるたって……!!」
液体の進行を防いだ。
オリーヴァはただ黙って、歯を食いしばる。
それと同時に、彼女は全身に力がみなぎるのを実感する。
「………大したこと…ないわね…これ…」
「こいつ…!」
「…もう容赦しない…!ハインツは自分で探す…!!」
「…ふん。自分から寿命を縮めただけ」
「それはどうかしらね…貴方は縮められる寿命、もう無さそうね…」
剣を杖の代わりに立ち上がる
彼女には秘策があった。
それは…
彼女は剣を片手に飛び出す
「向かって来るだけ…芸がない」
アレサルは動かない、それが無意味だと分かっている。
オリーヴァは剣を振り上げアレサルの肩口から腰まで斜めに切り抜く。
だが、切り離された部位が即座に連結する。
滝に剣を振っているような…そういう感じだ。
だが、彼女は構わず振るい続けた。
腕を、足を…決して切り離される事はなかった。
「なにやっ…てるのか」
首も即座に再生する。
(ん…?)
斬撃が止む。
右腕に魔力を集中しているようだった。
(諦めた…)
訳ではない
(これに…賭ける)
「あ…」
剣を投げる
フードに向け…いや、目的はそれでは無かった。
体に大きな穴が開く
それで終わりではない
一本の短剣を鞘から抜き出し…切りつける
「…それは…その"魔具"は…!!」
「預かったのよ。"幻想の爪"」
(しまった…!毒が!!)
視界が上下逆さまになる
立っていられない。混乱を鎮めることができない。
地に膝を打つ。
(…幻覚…!実際は変わらない…落ち着いて…)
「…」
毒の量が少なかったのか、それとも毒に耐性があるのか…
「…もう一度これで貴女を切りつける。頭から真っ二つに。悪夢を見てもらうわ」
「っ…まっ…」
「嫌よ」
短剣を振り下ろす。
「…勝った気でいるのかな」
「!」
短剣を振り下ろせない…いや、身体が動かない。
「これは…!!」
オリーヴァの身体に纏わり付く"スライム"
(しまった…今思えば…!)
前に見たときは"水"ではなく"スライム"だった
それの力は凄まじく、強化した身体でもうごかせない。
「…魔力の濃度によって性質が変わる。そして、貴女は不用心に近づいた…」
「くっ…」
「経験不足が招いた…敗因。どうしてコレが勇者一行なのか」
「……」
「動かない相手なら…逆さまでも殺せる」
フードはオリーヴァの首に手を添える。
「利用する価値もない。魔具以外は…」
徐々にその手に力が入れられる、爪が首に食い込む。
「ぐっ…!うぅ…!!」
「じゃあね」
血が溢れる
「まさか…勝った気でいるのかな?」
「えっ」
フードの手はオリーヴァの首から離れ…燃え上がる。
首は潰される寸前、解放された。
「ガハッ!!ハインツッッ!!」
「なんで…!!」
今度は逆に、フードの首をハインツが掴み上げる。
「…!今頃、幻覚を見ている…はず!」
「あぁ、やっぱり…あの魔物は幻覚か…」
「ど、どうして……!」
フードは頭の中を整理する
自分が掛けた筈の…ハインツが一人になり、油断し、無防備な状態で仕掛けた"幻覚魔術"…!!
どのタイミングで、それが解けたのか…
「まさ…か…!オリーヴァ…!!」
「…やっぱりあれ、魔術だったのね。地面に刺さっていた木の枝」
剣を投げたのは…決して、短剣を喰らわせるための囮では無かった
ハインツが消えた…彼女はそれが幻覚か何かの所為だと最初から勘付いていた。
投げられた剣は地面に刺さっていた枝を…いや、一帯の木と岩ごと吹き飛ばした。
「けど、あの程度の物で幻覚を見せられるなんて…どういうことかしら」
「…教えるか」
「…もうお喋りは良いかな?」
「…!」
ハインツの身体から、少しづつ腕に向かい、炎が移動する。
「あぁ、僕からも一つだけ…抵抗しないってことは…やっぱり"諦めてる"?」
「…まって…」
「…魔王の命令でしょ?それだけで…もう僕にとっては敵だよ」
「うっ…」
「"また失う所だった"。もうお前達には…容赦しない」
「!」
業火が放たれ、声を出す間も無く…人だったものは、灰になる。
「…ハインツ、その…その女は…」
「分かってる。何となくだけど…」
想像より、心が痛まなかった。
「こんなものか…大した事ないな…」
事態は変わらない…戦争の、最初から…
ただ…悪い方向へと向かうばかりだ。