オリーヴァとハインツ…二人はネギエルへ向かい歩き続ける。
鉄の街を去り、不確かだが一ヶ月は過ぎ去っていた。
道中、幾度か戦場から逃れた兵を見かけたが、誰一人いい知らせを持っていなかった。
国々が力を合わせて築き上げた力は、いとも簡単に魔物に蹴散らされたのだ。
残っている国と言える物は後少し…人類は攻めではなく、守りに入っていた。
だが…いい事かは分からないが、相変わらず魔軍の進行速度は遅いようだった。
「後少しだね、こんなに遠かったっけ」
「ちょうど私もそう思ってたわ」
オリーヴァの左腕は綺麗に引っ付いていた。
ただ、後少し遅ければ…治す以前に死んでいただろう。
「ハイド達はどうしてるだろう」
「そう言えば何処に向かうか聞かなかったわね…フレイジアが集合地点だけれど」
「何もせずに向かうとは思えないしね…待った、オリーヴァ」
「なに…?あれは…」
前方、そう遠くない距離に。
道を塞ぐように数々の岩が落ちている。
「…これは、あれね」
「あれだね。馬車が通れなくしてる…そんな事して得するのは…盗賊だけだね」
「…」
隠れるられる場所は多い
木影に岩陰。
木の上だってあるし地中に潜んでいた事もあった。
「…三人。少ないわね」
「後ろに一人、塞いでる岩に一人、木に一人…」
「聞こえたでしょう?無駄よ、さっさと何処かに行きなさい」
動揺している様子がわかる
草を踏みにじる音や舌打ち、硬い物を殴る音。
気性が荒いようだ。
「僕達はしょっちゅう襲われてる。対処方はよく知ってるけど…どうする?」
「……」
返答は無かった
そして、襲ってくる気配も無い
さらに
立ち去る気配も無かった
少しの静寂の後、一人の男が短剣を鞘に収めながら、岩陰より現れた。
その短剣を鞘に収める動作はわざとらしく、大げさに…敵意がないと言っているよな動きだった。
「待ってくれ、敵じゃないって…」
「あら?そう?なら何故道を塞いでるのかしら?」
「事情があるんだよ事情が…二人とも!出てこいよ!」
少し戸惑いつつも、残りの二人が姿を現わす。
「俺はオヴィル、あんたら後ろの無愛想な二人はフライドルにギークだ」
「あぁ…僕はハインツ、彼女はオリーヴァ。それで、事情って?」
「二人とも黙ってろよ…俺が話す…立ち話もなん「早く」…あぁ」
急かすオリーヴァを見てオヴィルと名乗った男が、一人で語りだした。
「この先には一つの村がある、名はヌーバ。俺達三人はそこで生まれ育った…あまり大きくないし人も少ない寂しいとこだが…」
「それで?」
「賊だよ賊。いつもなら…俺たちの税金で生きてる兵士や、有志が追っ払ってくれるとこだが…」
彼は深いため息をつき、一呼吸置いてから言った
「…先日の魔族との大規模接触の時の生き残りの一部が賊に落ちたんだよ。あそこを生き残った奴らだ、手強いさ」
「…」
分かっていた、いつかこうなると
師達からも幾度も聞かされた事でもある
"遅すぎた"
普通ならとっくの昔に魔王の首を取っているはずだ…少なくとも、初代勇者はこんなに長く戦ってはいない。
「それと貴方達が私達を襲おうとした事に関係が?」
「脅されてる、家族を人質に取られてな。今の俺たちは奴らの駒さ、奴らの為に商人をだったり旅人を襲ってんだ」
「ここにいるのは三人だけかい?見張りは?」
「…門限があんだよ、ガキみたいにな」
「家族を助けようとは?」
「交渉する気は相手がたにないらしい、"魔具まで持ってる"ただ死ぬだけだ」
「………何人いるんだい?」
「…何考えてんだ、あんた」
「私達はここを通りたいのよ、急いでる」
「やる気かよアンタら!?言っただろ!?奴らは魔具を持ってる!」
「馴れてる」
「第一、あんたらにそこまでさせる義理はッ…!」
彼は目を見て感じ取った、彼の彼女の意思を
「これは義理じゃない、義務だよ」
彼が現在最も心掛けているものは…殺す事になれることだ
それが魔王の首を討ち取るための、第一歩だった。
「間違っているかもしれないけど…強くなるには退く必要があるんだ。必ずここを通る、そして村も開放してみせるよ」
ヌーバに流れこんで来た"元"兵士達は全員で十五人。
頭かどうかは判断できないが、魔具を持った人間が一人いるらしい
「そいつを仕留めて、魔具を奪う」
「残りは向こうの出方次第ね…人質は?」
「元村長の家の地下に……数人だ。分かるのはこれだけだな」
「気になってたんだけど…その二人は喋れないの?」
背後に静かに佇む二人は一言も発しない
「実はこいつら昔から喋れなくてな、魔物がどうとか聞いたが」
「呪いの類かしら…誰に聞いたの?」
「村長だ。今は豚の胃袋の中で眠ってる」
「…とりあえず、静かに事を終わらせる。人質を助け、大将の首を抱えて部下の出方を見る…」
「ハインツ、暗殺の訓練ってした事あるのかしら?私は無いわよ」
「あるわけないよ」
彼は知らなかった
『人』という生物の、本質を。