ハンヴィの言っていた門限は太陽が落ちてからの一時間。
それをわざと破る。
人質を殺そうとする時、探しに行こうとする時
そこを突くのだ。
「村長の家は村の中央だ…頼んだぜ」
「えぇ…」
「日が落ちてきたな…行こうか」
村を覆うように建てられた柵は殆ど意味をなしていなかった
老朽化が進んでいて、何故立っているのかわからないほどだ。
「聞いた通りね。探知魔法を使うのはどうかしら?」
「勘がいい奴にはバレるよ…って聞いたけど」
「それじゃあ…中央まで隠密いかないとダメな訳ね」
「…」
各所に立て付けられた松明はまだ火を纏っておらず、それに加え辺りはもう暗くなり始めている。
「行こう」
同時刻、彼らは進み続けていた。
目的は魔族の重要地点の制圧。そして…
ハイド、トール、ローザの三人は"カルデラーラ"という街に来ていた。
(俺の記憶が正しければ…うちの団長の死体がここで見つかったらしいが…)
「噂や言い伝えでは昔、この辺りに魔王城があったって聞きましたよ?」
「らしいな、けどその気配はないし。ついでに魔人の気配もないぜ」
トールは舌打ちをしながら魔物の頭を蹴飛ばした。
「魔人は貴重な戦力なんだろ?やっぱり前線にいるんだって!」
「……どうかな」
彼らの目的は魔人を見つけ、"お話し"することだった
そもそも敵の拠点を見つけられないと始まらないのだ。
そして
彼らは一つ疑問を抱いていた。
「…ところでこの魔物の名前は?」ハイドは見たことのない四足の魔物の死体を指していった。
「ヴィヴィスですね。この辺りでは珍しくない魔物で、よく犬と間違えられるそうですよ」
「単眼なのにかよ?」
「…知能の方は?」
「全然」 大げさに首を振るう
「やはりな…」
「ですね」
彼らの感じていた疑問、違和感、それは…
「魔物の知能の向上か。俺はあんまりわかんないがな」
魔物のというのは基本的に"馬鹿"なのだ。例外はあるものの、犬や猫の方が何倍も賢い。
「特に獣種は知能低いようですね、でもオーガはかなり良い方です」
「へぇ……」
「ま、これで確信したな。こいつらはかなり連携が取れてた。誰の言葉も命令も気にしない奴らがな」
それでも彼らの敵ではなかった
無数の屍体があたりに散らばっている
「…考えが正しくれば…魔王や、その部下が魔物を操ってるんだろう。あの女の魔人のように」
「だったらその操ってる奴を見つければ良いんですね?」
「魔族特有の言語があるんじゃねぇのか?」
「現状じゃ、分からないな…」彼は面倒そうに道の端に落ちていた布の切れ端を拾い、刀の血を拭いとる。
刀は未だ輝きを失わず刃こぼれもしていない。気味が悪いくらいに丈夫だ。
「俺はそろそろ新調しないとマズイな」ハイドの刀を見てトールは言った。
一部は錆びつき刃こぼれもしている。そのうえ、柄は鉄が剥き出している
「それは酷すぎないですかね」
「うるせぇな、確かこの辺に要塞があった筈だ。行ってみようぜ」
「…この辺りの事知ってるのか?」
「元々こっち側生まれなんだよ、行こうぜ」
彼の考えは捨てられた要塞から剣を頂く事だろう。
彼らは死体の上を歩み始めた
「無人化してるんですかね」
「してないとおかしいだろ?別の場所に避難してる筈だ、それか死体の山かもな」
「あの街が綺麗なのを見るに、人間はかなり早い段階で避難したんだろ…多分…」
城から無断で拝借する事に少し抵抗はあったがこれも人々を救うため…と、割り切りながらハイドもローザも止める事はしなかった。
トールは様子を見るに慣れているようだ
「こっちで合ってるんですか?思いっきり森の奥ですけど」
「記憶ではこっちで間違いないんだがなぁ」
「本当かよ……おい」
「ん?…なんだこれ」
ハイドは"山"を見つけた。
土と岩の山ではなく、死体の山を。
「さっきのヴィヴィス?って奴か。まだ新しいな」
「三十はいますね……あの、あれは?」
ローザが指差した山の向こう側には血痕が続いていた。
「人のだな……追ってみよう」
三人は警戒しつつも、ゆっくりと、血痕の跡を追っていく。
「お!おいっ!あったぜ城!」
「……向かってた方向と違うじゃないか、トール」
血痕はその城の中へ入って行っているようだ。
見た所、城は建てられて三十年以上。
城壁の狭間から覗かせている大砲はまだ新しく、貴族の城ではない事がわかる。
そもそもこんな場所に宮廷は建てない…だが
「…こんな森の中に兵の城を?使用用途がよくわからないな…」
「侵入も容易そうですねぇ…誰かいるようですし。怪我人の可能性もいるので急ぎましょう」
「おうよ」
「!」
数歩。
三人が少し歩んだ所で、"彼女"は危険を察知した
一本の矢がハイドの頭を目掛け飛んで来る…
何者かによるその一手は、彼女にとっては、無駄だった。
「!?」
横方向から来た矢は強風により大きく外れ、遠くの木に突き刺さった。
「……!トール!」
「おう」
トールはボロボロの剣を右手で引き抜き、身体強化を使って矢が放たれた場所に向かって一気に跳ぶ。
「な!?」
「見つけたぜッ!!!」
草むらから顔をのぞかせた人影に向かって一気に斬りかかる。
「あッぶッッ!!!」
「あぁ!?」
脳天に直撃する前に人影は大きく跳び、避ける。
(今のを避けのかよ…)
今度は慎重に剣を構える。
避けたその人影は暗闇で姿を隠し、現れない。だが
「ちょ、ちょっと待って!さっきの矢は無し!勘違いだから!!」
「あぁ!?死合いで待ったは無いんだよ!」
「ごめんってば、魔人だと思ってさぁ…」
両手を挙げながら、ボロボロの服を身に纏った一人の少女が姿を現した。
見た所まだ十代になったばかりのようだ。
「!ガキかよ」
「トール!」
「あれ?女の子!?」
遅れてハイドとローザが到着する。
「それではこれで」
「殺すぞ」
「トールさん!まだ子供ですよっ!!」
「半分同意だトール」
「半殺しか?」
「……拘束しよう」ロープを取り出す
「話聞いてよ!!!」
「逃げようとしたのにかよ」
数秒後、ロープでぐるぐる巻きにされている少女と、それを取り囲む三人の姿があった。
「それで、なんだっけか」
「魔人と勘違いしたの!さっき言ったでしょボケてんの?」
挑発には乗らずにトールは続ける
「お前こそ魔人じゃないのかよ?」
「断じて違う!」
「これだけ言うんだし許してあげましょうよ!怪我も無かったですし」
「ハイド」
「俺かよ……正直信用できないな。だがまぁ…何か理由があるんだろう?」
「おおー…話わかるなぁ」
「魔人と誤解…?何か理由が?」
その少女は少し悩んだ様子だったが、直ぐに返事を返した。
「魔人は、人の姿のままじゃ襲ってこない。もしくは殺す直前で姿を変える…って」
「…いい事を聞いた。信じてやる、解放するよ…」ナイフを取り出し縄に切れ込みを入れ始めるハイド。
「良いのかよ?信じてよ」
「いいの!いやーハイド?さん気に入ったよ。10番目くらいに」少女はトールの事が気に入らないようで一言一言を強調して言った。
「ケッ!所で血痕の件は?」
すっかり忘れてしまっていた血の件について、一番最初に反応を示したのは少女であった。
「あ!その事なら大丈夫だよ、ちょっとした怪我だったみたいだから」
「あー…城に篭ってる訳ですね」
「そゆこと。来る?」
「なんで避難してないんだよ?」
「あそこが一番安全なの。大昔に張られたデカイ結界が残ってるって訳」
「……結界?」
「詳しい話は村長に」
服に付いた砂を払い終えた少女は真っ先に城に向かって走り出した。
「……警戒は解くなよ……」
「わかってるよ」
「え…嘘ついてる様子はなかったですよ!?」
「……凄い結界があるからって敵陣に残ってるのは怪しいだろうが…」
(それにしても…俺やトールが気付けなかった矢を…)
「私先に行きますから!」
「……驚いたな…」
いつからか、常に風が吹いていた。