潜入は容易だった。
元兵士だと思われる男たちは数人いたものの、みな眠っていたり、呆然と夜空を眺めていたりと。警備とは到底言えるものではなかった。
「なんなのこいつら……」
外にいた最後の一人が白眼を剥いて地面の倒れ伏した。
「聞いてたより少ないね…って事は中だよね…」
中央に建てられた巨大な建物。しっかりしているものの、所々に時の流れを感じさせる汚れやヒビがあった。
「…まった、誰か出てくるよ」
「!」
オリーヴァとハインツは気絶した男達を影に投げ捨て隠れる。
それと同時に、木の扉から三人の男が現れる。
「おいおい、どこ行きやがった?」
「交代の時間だぞぉー!…仕事熱心だな」
「またどっかで遊んでんのか」
外の奴らより幾分まともそうだ。
「…オリーヴァ」
「一人捕らえて話を聞く。ね」
「うん…」
二人は男たちの背後に立つ。
ハインツは左右の男の首を両手共使って締め上げる。
「ガッ!?な…なん……!」
「…!」
オリーヴァは残った一人の口を背後から押さえ込み、地面い叩きつける。
「!?!?」
「…ちょっと荒かったかな」扉を閉め、男の顔の横に剣を突き立てる。
「質問に答えてもらうわ」
「な、なんだアンタら!?」
「質問しろなんて言ってないよ……生きてる村人は地下だね?」
「……は、ハァ?な、なんの事だよ…」
「オリーヴァ」
腕を締め上げる。
「ちょちょちょ!やめ…!!マジで!知らないんだって!!!」
「うるさいな…分かったよ」
ハインツは男の顎を軽く蹴り上げる。すると男は静かになった。
「……他と変わらないわね。妙に静かだし、気味悪いわ」
「だね…さっさと済ませようか」
扉を開くと中は酒場にような作りだった。
いくつものテーブルと椅子が並べられている。
「…豪邸…って感じだね」
「そうね…あれ村長の肖像画かしら?いい趣味ね」
人の気配はなかった。
「怪しいな」
「進むしかないわ」
中を警備しつつ隈なく捜索したが、あれ以上の人の気配はなかった。
と、なると、残りは地下だった。
「ここだね」
隠す気は無いのだろう。
大きな廊下の先に小さな鉄の扉が付けられていた
「鍵はないわ」
まずオリーヴァが一歩、足を踏み入れた。
中は狭く薄暗く、少し先に下向きの階段が見える。
二人は足元に注意して階段を下り始める。
階段は思ったより長く。目が暗闇に慣れてくると、ネズミの死骸やそれに群がる虫が度々目に映る。
そろそろ百段目といったところで、人の声が耳に入って来た。
「…!いるね」
「どっちでしょうね…?」
「急ごう」
十数段降りると、少し明るくなってきたことに気が付いた。
どうやら松明があるようだった。
「……また扉かい?」
「みたいよ…開けるわよ」
剣をいつでも抜ける状態にし、備える。
「…」
オリーヴァはゆっくりと、扉を押し開けた。
「……大丈夫?」
「!」
両足首を鎖で繋がれた人々の姿があった。どうやら捕まっていた村人のようだ。
「…十二人…」
それに気づいた人々の視線は一気に二人へと集まる
「だ、誰だあんたら!?」
「落ち着いて、助けに来たのよ」
「た、助け?本当なの?」
「ええ、だから……」
「オリーヴァ……」
「なに?」
ハインツには聞こえていた。
奥の男が小声で言った…
"物好きなもんいたもんだ…"
「まったくだねぇ勇者様…」
「「!?」」
振り向いた時。もう遅かった。
「……っ」
オヴィルの剣がハインツの腹部を貫いていた。
二人は思考が遅れていた。
突き刺さっているこれはなんだ?
何故彼はここにいて、笑っている?
時が止まったような一瞬…オヴィルの一言により、時は動き出す。
「…お前ら馬鹿だろ?なんでもかんでも信じやがって…若造が」
「ハインツ!!!」
オヴィルに飛びかかるオリーヴァ。だが
「フライドル、ギーク」
「!」
突然現れた二人は両手に剣を持ち、オリーヴァに斬りかかる。
(何処から!?避けれる!?)
「くそ!!」
温存していた魔力を使い、強化し、避ける。
「ほぉ…今ので強化か。どうやら魔法は苦手みたいだな。その女は頼んだぞフライドル、ギーク」
突き刺さった剣を引き抜く。
「まてっ…!!」
オヴィルの肩に掴みかかる。
「おっと。まだ動けるか」
「何故だ…何が…目的で…!」
「何故って…仲間を救ってもらうためだよ。あっ!あそこの捕虜村人じゃなくて俺の仲間だから!お疲れ様!!」
「……」
「ふん……こんなのが勇者かよ。あそこで無駄死にするところだったぜ…」
「!」
ハインツの手を振り払い、突き飛ばし、オヴィルは捕虜の一人の鎖を断ち切る。
「へへっ!助かったぜ」
「貸しひとつだぜ」
「さっさと俺のも解けよ!」
「わかってるよ…あぁ、そうだ。お前が兵だと思って気絶させてた奴ら…俺が殺しといてやっといたから。安心して逝けよ」
「……」
「ハインツ!立って!!」
襲いかかる四本の剣…オリーヴァは徐々に追い詰められる
(強い…!)
隙ができたと思うと剣が邪魔をする……無口の男二人のコンビネーションは、驚異だった。
「ハインツ…」
自分を呼ぶ声が聞こえる。だが体が動く事はない。
(意識が……これで……終わ……り…………)
いいや違う
まだ、私がいる。
いい加減足手纏いになるのはうんざりだ。
彼女は短剣を取り出し自分に突き刺した。
「!」
二人組はその行動に驚き距離を取った。
その様子を見ていたオヴィルも驚く
「なんだ?血迷ったか?」
「………そう…魔具を持ってるわね。"二つ"」
「?」
「ちょうど私も二つ持ってるのよ…」
「!」
オリーヴァはただまっすぐ…二人組に突進する。
四本の剣が首を掠め肩を切り裂き足を貫くが…
止まらない!!
痛がる素振りも見せず。それどころか、一瞬で怪我が塞がっていく。
(………貰った)
「………ひっ」
その女の形相は……二人組の男の動きを止めた。
「ぐっ!!」
右から一振り…まず右の男の首に食い込み、切り離す
その勢いのまま、左の男の首に刃先が穴をあけ侵入し、血の雨を降らせた。
「…………やっべ」
「お、おい!まて!鎖外せよ!!」
オヴィルは仲間を捨て地上への階段に走り出す。
だが
「うっ!お前…!!」
「……」
ハインツが立っていた。
「………仲間も……送ってやる……だから、安心して逝け……」
「あ…あ…」
「…地獄に…」
オヴィルが喉を鳴らす前に…ハインツの剣が頭から振り落とされ、分断された。
「………後は……よろしく…オリーヴァ…」
「ハインツ!!」
ハインツは前のめりに倒れ、オヴィルの血を全身に浴びる
残り少ない魔力で傷の手当に入る。
「……お、おい。あんたら。俺たちは見逃してくれるよな…??」
「お、お願い…家族が…国に…」
オリーヴァは言葉に耳を貸さずハインツを抱え上げ階段に向かう。
「………どうかしらね」
––––三日後
同所。
彼は目を開けた。
目の前で燃え盛る炎が…頭と両眼に激しい痛みを与えた。
「……安らかに……」
二人は建物の外で死んでいた村人を集め、火を放った。
「……馬鹿みたいね。少し騙されただけで、村が一つ消えるなんて…」
「…あぁ…もう信じないさ…」
"彼はもう一箇所火を放った"