外はもう暗く、月が昇っていた。
「どこ行ってたんですか二人とも!!色々大変だったんですよ!!」
「うるせぇなぁ」
「色々…?」
三人は城内でバッタリと出会った。
こうなる事が予想されたため、明日まで探さずに無視を決め込もうとしていたが、失敗に終わった。
「ロウスちゃんに魔物狩りに無理矢理連れてかれたんですよ〜。もう血だらけで…」
「ほーんそすか。俺はもう寝るから…提供してくれるとは流石ボス様だぜ…じゃあな」
「……それで、何か変わった様子は?」
「無いですよ。心配し過ぎなんです。みんないい人ですよ」
「…それがおかしいんだよ…こんな状況で笑顔で溢れるなんてな…」
「そうですかね?」
「そうなんだよ……嘘で固められてるようにしか見えない…」
「私にはそうは見えません、少しは信用って言葉を信用して下さいよ」
「……トールやお前は…信用してるさ…」
「ヘェ〜…」
「…俺はもう少し起きておく…じゃあな」
「はいはい〜」
話を切り上げ、ハイドは城の外に出る。
魔物の気配は一切なく、遠くで狼の赤い目が光っているのが見える。
「……静かだ」
草が風に吹かれて音を発する。
それがとても…懐かしく感じる
だが彼はその為に外に出たのでは無かった。
「……何で後をつけて来る?」
ロウスを自分の孫だと言っていた老人が、背後に立っていた。
「…………お願いがあります…」
「…本日二度目だ」
「……あの男を、信用しないで頂きたい」
「"ボス"か?…何故だ?」
「………」
「おい!」
「…彼は私の大切な…物を奪いました」
「…何なんだ…アイツ…」
翌朝。
二人はローザを起こさずに塔の扉を叩き、開いた。
そこには数人の屈強な男達が立っていた。が
その中にはあの少女の姿もあった。
「魔物化した時のためにな…こっちだ」
「…?おい、そこ地面だろどう見ても」
「まぁな」
ボスは地面にはめ込まれた大きな板を退ける。そこには、地下へと続く階段があった。
「…上じゃないのか?」
「信用できない奴には本当の事は教えない…君達は信用できる」
「そうかよ…ほら、案内しろよ」
男達は次々階段を降りていった。
「ねぇねぇ…ハイドだっけ?」
「…ロウスだったか?何だ?」
「ハイドは魔具持ってるの?ローザは凄いの持ってるのね!」
「……まぁな」(あの馬鹿余計なことを……)
「見せてよ」
「無理だ。さっさと行くぞ……」
「ケチなのね」
下り始めてすぐに、人の列は止まる。
「ここだ」
地下に付けられた巨大な石の門がそびえ立つ。縦に大人六人分以上はあるだろう。
その扉はボスの手で軽く開けられた
「……魔人…か」
大きな円形の部屋…何処かで見た事のある。"コロシアム"と呼ばれるものを思い出す。
違いは地下にあるという点くらいでは無いだろうか。
その中央に鎖で全身を縛られたガリガリの男が座っていた。
両方の目からは血が流れている。
「何をやってもか…本当みたいだな」剣を抜いてその男に近づくトール。
「これもやったか?」
足の爪先に剣を突き刺す。
男達は見飽きたという表情だった。
「多分な」
「反応なし。やっぱ無理かもな」
「根性ないなーおっさん」
「何でこのクソガキを連れてきたんだよ」
「弓でこいつの右に出る奴はいないぞ?」
「あっそーですか」
「…弓…か…」
「とりあえず。ハイド君だったよな。何かないか?」
「さぁな…」
魔人に近づき、しゃがんで顔を覗き込む。
「……見た事ない…な」立ち上がり、刀を抜く。
「…どういった風に再生するか…もう一度見てみたい」
「まて。両断は無しだ。鎖も切れちまうだろ」背後のボスに止められる
「……そうだな」
「おいハイド、後ろ」
「なに–––––」
背後の魔人の方を振り向くと…足に巻かれていた鎖が切れ
顔に付いた"二つの穴"でハイドを睨みつけていた。穴から血が吹き出す。
そして、口を開いた。
「ごのっ…臭い…強い…やづ…」
「……何の事だ?もっとハッキリ喋れ…」
ハイドは敢えて男に巻かれた鎖を断ち切り、距離をとった。
「ハイド、なにしたんだ?」
「しらねぇよ…」
男達は武器を手に取り、ボスは背負っていたハルバードを構える。
「ロウス。下がってるんだ」
「…!!」
数秒の静寂……
そして。
「…来るぜぇ!!」
魔物化が始まった。
魔人の背中から二本の腕が生え、全身が血の赤に染まり上がる。
「アッ…アァ……アァア…これだ…」
次は足が変化を始める。
馬の後ろ足のような逆関節…だが人間の足のままで、無理やり逆にしたような形だ。
「……そっちだハイド!!」
「ッッ!!」
魔人の速度は尋常ではなく、もう既に、魔人の顔が目の前に迫っていた。
「………この、ガタナの匂い……」
元々付いていた腕が、ハイドの腹部を狙い動く。
「グッ…!!」
刀でそれを塞ぐが、衝撃で吹き飛ばされる。
(強い……!!骸骨以上じゃないだろうな…!?)
(だが…!!!)
((貰った……!))
既にボスの部下四人は魔人の背後を取っていた。
ハイドは体勢を整えると、強化した足で飛び込み。魔人に最速で剣を振るった。
「………違う」
「!?」
ハイドはいつの間にか地面に倒れ伏していた。
(……?何だ?地面が…降って…くる………)
「ハイドッッ!!!」
「クソ…」
ボスの部下四人も、血を流して崩れ去る。
(速い…!!)
腕の軌道は、ハイドの顎を打ち抜いていた。
「………チガウな……こいつ等…じゃ…ない…お前……かッ…」
「ヘッ…!いいぜ、来いよ!!」
挑発するトール。
「バッ…!いや…やるしかないか」
困惑していたボスも、ハルバードを向ける。
「…」
一直線に迫る魔人。
何も考えずに放たれたであろう拳を二人は避け、空いた腹に斬りかかる。
「!」
「…!」
背中の二本の腕が、それを受け止める。
「…………強いなぁ……お前たち……」
「まだまだぁ!!」
魔人の顔を蹴り上げる。
「…ッ!かってぇ…!!」
「……足りない…」
「トール!!」
ボスはハルバードを振り落とすが、避けられる。
「ロウス!!」
「!」
二人の間を通り抜けていく矢が魔人の眉間に突き刺さる。
動きが止まる。
「食らいやがれ!!!」
拳を魔人の腹に叩き込むが、ビクともせず、逆に殴り飛ばされる。
宙を舞って地面に叩きつけられるトール。
「ハッ…!!効くなぁおい!!」
「……いいな……オマエ…オマエも…オマエも…」
満面の笑みを見せる魔人は矢を引き抜き、捨てる。
「俺は…強い奴が…好ぎなんだ……待ってたよ……ずっど……ずっと…」
「黙ってろ!」
ボスはナイフを取り出すと慣れた手つきで投げ付けた。
「ハハッ……」
ナイフは容易く受け止められる。
「……でも……何か……足らないなぁ……」
「?」
「あぁ……アレかなぁ……アレだなぁ…」
(マズイ!)
「トール!!」
魔人も慣れた動きでナイフを投げ返した。
目標はトールでもボスでもなく……ロイスだった。
(間に合わない…!!)
「ッ!?いや…」
「!ハイド!」
ナイフはハイドの刀により打ち砕かれた。
「……」
意識はまだ朦朧とするが…
「…もう起きだのか……根性は…ある……いいな…」
「嘗めるなよ……」
「あ、ありがとうハイド–––「待てよ」!?」
ロイスの首元に刀を密着させる
「…ハイド?ふざけてる場合か?」
「なにやってるんだ!?」
「……どうしてそいつは俺たちに反応した?」
「?何を…」
「……俺は強い奴が…好きなんだ…いいか……?」
「本人が答えてくれるとはな……タイミンが良すぎるんじゃないのか?お前らには反応しなかったんだろ?ボス?」
「そのとおりだが?」
「お前から見てどうだ魔人?その男は強いか?」
「……まぁ……強い……」
「……俺たちを誘き寄せたのか、そいつとグルか、ボス」
「……」
「おいおい、マジか?」
「ちょっと!さっきから何を言ってるのよ!」
「黙ってろ…」
刀身の冷たさが全身を巡る
「ハイド君、誰かに何か言われたのか?どうしてそこまで疑う?今はそれどころじゃないんだぞ」
「……もういいか……?」
「なら…俺を信用させる事が出来るか?」
「……おい……」
「ややこしくなって来たな……」
「 オ"イ"」
いつの間にか間合いまで近づいて来ていた魔人の右手がボスの腹部を貫いた。
「……うっ…グ…クソ…」
「俺は…まだされるのが一番…ぎらいなんだ」
ゆっくりと腕を引き抜く…腹部から赤黒い血が吹き出る
「………俺が…人間ど…組むがよ……」
「…逃げろ…みんな…」
「…この…野郎ッッ!!」
トールの剣が隙だらけの魔人の首を狙う。
「……ふん…」
魔人はその剣に向かい拳を放った。
ボロボロでヒビまで入っている剣は、簡単に打ち砕かれる。
「しまっ––!」
魔人は一歩踏み込み、トールの顔をめがけてもう一度拳を放つ。
避けられない。
重い、重い一撃が、顔面を直撃する。
「……硬い……な……あいつの…力か…」
「残るは………お前ら…ふだり…」
ハイドとロイスを真っ赤な目が睨みつける
「…あんたがしょうもない事言ったせいよ…」
「…みたいだな…この状況…少し…不味いな…」
もう一度、意識が何処かに流されるような感覚に襲われる。
足の力が抜けていく…
「こんなときに…!!」
「全く……だ……逃げろ…」
全身の力が抜け地面に伏すハイド。
「……なんだ……」
(……私が…やるしか…!)
弓を構え矢を抜く
ボスは腹に大穴を開けらた上に既に多くの血を失っている。
(父さん……)
「興醒め…だ……面白ぐない…」
「…え?」
魔人はロイスに背を向けると元いた場所に歩き始めた。
「……助かっ…た?」
翌日––––
ハイドは目覚めると硬いベットの上に横たわっていた。
「…あぁ…気を失ったのか…」
以外なのが一つ、命までは失っていないという点だ。
ベット起き上がって服装を整え、刀を握って部屋の扉を開けると、トールとローザが立っていた。
「よお」
「大丈夫ですか?」
「………あれからどうなった?ボスは?ロイスは?」
「…こっちだ。付いて来い」
トールはハイドに付いてくるように言うと、大きな廊下を歩き出した。
「ガキの話ではお前が倒れた後、魔人がやる気をなくして寝たらしい。その後は気を取り戻したボスの部下と退散……後はロイスに聞け」
特に変哲もない木の扉
「ボスの部屋だ。俺はローザと待ってるぜ」
そう言うとトールはその場を後にした。
数回のノックの後、彼は扉を開けた。
ベットの上に眠るボスと、横に付き添うロイスの姿があった。
少しだけ気が楽になる
「マナーがなってないね全く」
「…すまない…」
「今父さんは危ない状況で生死の境目にいる。説明してくれる?どうして父さんを疑ったのか」
「お前に婆さんや爺さんはいるか?」
「……私は捨て子だったの。いると思う?」
「……!」
「…どんな人、それ?」
「どっちの性別か分からない老人だ」
「この城に老人は数人。そんな特徴の人ならまず忘れない」
「………」
「……"入られた"…?」
「……」
「取り敢えず…父さんはきっと大丈夫だから…私は許してあげる…助けてくれたし…けど、答えて欲しいことがある」
「…なんだ?」
「貴方は味方なの?」
「あぁ……信じて欲しい。俺も…君たちを信じる」