※この作品はR-18です。

黒のテスカトリポカ   作:被害者宅

46 / 64
第四十六話 信頼と試練

「…ロイス、大丈夫か?」

 

「うん……大丈夫?父さん?」

 

「大丈夫…多分…なんつって…」

 

辺りを見渡す。

 

「みんなは?無事だったのか?」

 

「何人か……またあの魔人を仕留めに行ったんだけど…」

 

「ハイド君は?」

 

「一人で奴の所に…」

 

「………」

 

「父さん?」

 

 

 

 

塔に向かうハイドの元に、トールとローザが駆け寄る。

 

 

「おいハイド!俺も行くぜ」

 

「当然私も!」

 

「いや、あいつは俺に任してくれ」

 

「「はい?」」

 

「これは試練だ…正直言って俺は思い上がっていた。鏡の骸骨のことしか眼中になかった…」

 

「…」

 

「あの魔人の首を取ってくる。信じて待っててくれ」

 

「…ま、ハイドさんなら大丈夫でしょう。また除け者にされるのは癪ですが待っててあげますよ」

 

「依頼主の頼みなら……二度とあんな馬鹿みたいな真似するなよ」

 

「分かってる…もう一つお願いがあるんだが…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

"敵に背を向けるな"

 

 

 

母の口癖だった。

幼い頃から幾度もそう聞かされて来た。

 

 

今がその時だ。

 

 

彼は俺のせいで傷ついた。

 

つまらない戯言に惑わされ、皆を危険に晒した。

 

あの時、彼を信じて、力を合わせておけば……

 

 

母の言っていた"敵"とは…"罪"の事だろう。

 

 

 

 

 

彼は重い扉を押し開ける。

 

「……」

 

中は血の海…

 

腕を捥がれ、足を捥がれ…

 

一方的だっただろう

 

 

だが、誰一人として扉の方に頭を向けていない。

 

 

 

彼らは逃げなかった

 

「死ぬ時は前に…か」

 

勝てるかどうか分からない

 

 

死ぬのが怖くないと言えば嘘になる

 

 

だが…それでも

 

 

「……仇は取る…アンタ達の分も…騎士団の分も…戦争で失われた分も…全部…」

 

 

血の上をゆっくりと踏み歩く

 

千年刀を鞘から抜く。

 

 

 

「ぎたか……目付きが…変わった……な」

 

全身が赤く染まった魔人が、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「……名前は?」

 

「必要が?」

 

「これは"決闘"だ」

 

「……ない……いや……昔は……"犬"と……お前は?」

 

「俺はハイド•ノードだ。今からお前を殺す」

 

「……いいね……」

 

四つの拳を固く握り締める

 

 

「もう一つ…鏡の骸骨を知ってるか?」

 

「"ティトラカワン"か…?わがるぞ……お前と…さっきの男も自分の魔力をもっでないだろ…?」

 

「その骸骨の居場所は?」

 

「……勝ったら教えてやる」

 

犬と名乗った魔人は足元に転がっていた槍を一本拾い上げ、ハイドに向かって投げつける

 

それを弾くと同時に、全身に強化を施す。

 

魔人はこちらまで迫っていた

 

背中の二本の腕が襲いかかってくる。

 

刀で受け逸らすが、拳はとても強固で。まともに受けると此方の体力が削られていく一方だ。

 

だが、魔人はこれといった決め手を持っていない

 

 

どちらが先に砕けるか…

 

 

"持久戦"

 

(こいつに息切れの概念があるか分からないが……)

 

幸い魔人のリーチは短い。

 

 

 

魔人が攻撃を与えようと踏み出した右足を、此方も一歩踏み出して右足で踏みつける。

 

 

 

「!」

 

それに気をとられた魔人の胴体に肘を打ち付け、衝撃が走った瞬間、踏みつけていた足を退かす。

 

「……おぉっ!?」

 

バランスを失った魔人は大きく後ろに重心が傾く。

 

「!」

 

その隙に首に一太刀加えようとするが、二つの拳がそれを塞ぐ。

 

失敗に終わる……が

 

「……!」

 

魔人は一旦距離をとった。だが、確かに確認した。

 

背中の二本の腕の拳に、ヒビが入っていた。

 

(………やってやる)

 

 

 

 

「……??なんだ……??」

 

ハイドは刀を鞘に納める。

 

しかし、右手は柄をしっかり握ったままで。

左手は鞘口を軽く握る。

 

そして…腰を少し、低く構える。

 

 

 

「…………いいね………」

 

 

(魔力はあと少し………この一撃で……)

 

「行くぞ………!!」

 

(決める!)

 

 

魔人は此方の様子を窺う気もないのだろう。初手と同じく、ただ真っ直ぐと向かってくる。

 

背中の二本を突き出して。

 

「……止めてみろ……!!!」

 

(……)

 

この魔人は戦いを楽しんでいる。

 

 

 

「……気に食わないな」

 

 

 

 

一瞬で刀を抜く

 

(!!きたっ…!)

 

真っ直ぐ突き出された二本の腕に向かい、目にも留まらぬ速さで腕に向かう。

 

(……!)

 

それは明らかに失敗だった。

 

魔人の目がしっかりと刀を捉えているのが、しっかりと見える。

 

(見えるのか……これが……)

 

固く握られていた拳が開き、刀身を握り止めた。

 

「くっ!!」

 

動かない。

 

「捕まえたぁ!!!」

 

「………こいつは見えなかったか?」

 

「?……ッッ!!」

 

左に握った鞘が魔人の顎を強く打つ。

 

「あがッ…!!」

 

刀から手が離れる。

 

 

 

刀は囮……魔力を使うことなく振るい、左手に魔力を使った。

 

手応えはある。

 

「……ふふっ……いいね、努力の剣だ……俺にははっぎりわかる」

 

口からダラダラと血を流し出す。それだけだった。

 

 

 

「犬…か。由来はあるのか?」

 

今度は自分が距離を取る。

 

「…番犬だっだ。それだけだ」

「番犬?」

「……城を…守ってた…」

「魔王の城か?」

「……違う……あそこより綺麗だ……」

「なんだと?」

「……俺は……必死に戦った…だが…」

 

様子が明らかに変わった、魔人は地面を見つめ続ける。

 

「……お前達が攻めてきたんだ。俺は…残された…」

 

(…隙を突く…か…?)

 

「……ハイド•ノード……名前の由来は……?」

 

「あ?……分からないな。聞く前に死んだからな。二人とも」

 

「…そうが……行くぞ……」

 

"犬"は…今度はゆっくりと近づいてくる。

 

今度は冷静だ。

 

 

(……魔力は一瞬…次で…今度こそ…決める!!)

 

 

 

 

 

月は木々を、草を、城を照らし、影を生む。

 

 

暗い草原の中央に老人が一人で立っていた。

 

そして、トールとローザの二人も。

 

「おい老人。こんな夜中に一人で何やってるんだ?」

新調した剣を手に持ち近づくトール。

 

「結界があるからって…危険ですよ?」

ぼろ布を風で靡かせながら近づくローザ。

 

「………まぁ。流石にバレますな」

老人の顔は気味の悪い笑顔だった。

 

 

「本性出しやがったなぁ。血の匂いがして来たぜ」

「じゃあ、容赦はしませんよ。魔人さん」

 

「全く……事は上手く進まない、君達が来たせいで全部無駄になった。全く…」

 

「事…か。詳しく聞かせて貰うぜ!!」

 

「それはどうかなぁ…ん?」

 

強い強い向かい風…

 

 

 

老人の両腕が落ちる。

 

「これは…」

 

 

「うわ。本当に容赦ねぇな……ローザ」

「仲間を騙した罪は大きいです」

 

だが老人は冷静を保ち続けていた。

 

「全く…普通の人間だったらどうするんだ」

 

「普通の人間は血を流します」

「だな」

 

「お二人にはここで消えて貰います」

 

老人の肌が黒く染まっていく。

 

肌が闇と同化する。目の鋭い光がハッキリ見える。

 

(…いや)

 

その老人から闇が広がっていた

 

落ちていた筈の二本の腕が闇に飲まれる。

 

ローザの目に見えぬ槍が闇を貫く。

 

「!」

 

大きな穴が空く…向こうの景色がハッキリ見える。

 

ダメージは…ない。

 

「おいおい。加減すんなよローザ」

「…ちょっと黙ってて下さい」

「気を付けろよ」

「トールさんも…」

 

「…終わりかな?」

 

"闇"から鋭い"闇"が飛び出す。

 

「!」

 

それを剣で弾く。

 

 

「…速い…!」

「触れるのかよ…厄介な奴を押し付けやがって!!」

 

闇に向かい、剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハインツ。その人ってあの洞窟にいるんでしょう?」

 

「いや。魔術学校で間違いないよ」

 

「そう…ならいいんだけど」

 

「オリーヴァ、君は門でで待っててくれ。僕一人で会ってくる」

 

「…気を付けてね」

 

「うん…」

 

 

"ナワルピリ"

 

彼は……炎の形をとても綺麗に、正確に剣の形に変えていた。

 

色は違うが、自身の魔力の刃と似ているのだ。

 

何かヒントがある。

 

あの時理解できなかった言葉も……

 

 

「……強くなってやる。絶対に…」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。