"体外に展開された魔法、魔力は、使用者の体と接していれば、魔力の消費を抑えることが出来る"
「魔力そのものを形にできるのは君くらいだがね。ハインツ」
「勇者の剣があってこそです」
「魔力の刀身か…消費も少なく強力か…こういう使い方もあるんだな」
「…それで、修行って何ですか?」
「……一つ、簡単な事だ……君の記憶を引き出す」
ナワルピリはそう言うと椅子から立ち上がった。
「はい?」
「…君は旅にでる直前まで、三人の師と修行を行っていたな?」
「えぇ。それが何か?」
「彼らから、少し昔事になるが…君の記憶の一部を消すように頼まれた」
「…え!?記憶を消すって…!そんな事ができるんですか!?」
「あぁ。君が忘れている記憶に関係がある……と、言うわけでオリーヴァ君は館の外で待っててくれたまえ」
「え。は、はい…」
オリーヴァは言われた通りに外へとでる。
(記憶を消すって……魔法で?聞いたこともないわね…)
「それじゃ…すぐに済む。目を閉じるんだ」
「は、はい…」
(……"聞いたことがない"……まさか……)
「"禁術"…?」
下りた階段を急いで駆け上がり、先ほどまで話をしていた部屋まで走る。
("禁術"には"対価"がある!もしも使用された側にもたいがあったとすれば…!!)
扉を叩き開ける。
「ハインツ!」
「いや。もう終わったぞオリーヴァ君」
「え……」
椅子に座っているハインツに変化はない…先ほどまでと一緒だ。
「安心しろ。これに危険性はない………うん…」
「…!!あるだろ何か!絶対に!」
「いや。大丈夫だよオリーヴァ。僕は平気さ」
「…本当に?」
「うん…そっかぁ…"禁術"かぁ…消すわけだね」
「禁術……またの名を…」
「 "詠唱魔法" 」
「言葉の持つ力は凄まじい…ただの魔法は精霊の力を借りて効果を発揮するが…詠唱魔法は違う。"神"から力を借りるのだよ」
「…えぇ…」
「言葉は思い出したな?ハインツ君」
「…"勝てる"…」
「…禁術が禁止されているのには理由がある筈です。そんな物を使用して…無事なわけ…」
「確かに対価はある…だがそれは人によって違う…現に私は"神様のお気に入り"だ」
「お気に入り?」
「……次は君の番だよ。オリーヴァ君…その魔具の上手い使い方を教えてあげよう」
「……変な意味に聞こえる…」
「………………至って真面目だ」
(詠唱魔法…僕の記憶から消したのは、不用意に使わせない為か……急がないとな……)
「この鎧の上手な使い方って、どういう事でしょうか?」
「かつての勇者一行の回復担当…まぁ大体君のお婆さんに位置する彼女は…触れていない、離れている者まで治癒する事ができた」
「…す、凄いですね」
「ここで一つ質問するよ。君はその魔具に"感謝"をした事はあるか?」
「え?感謝…?」
「…エルフが使う。一般的に矢避けの加護と呼ばれているものは、そこらにいる精霊に"感謝"をしているから使える物だ」
「さっきも言ったように……言葉は重要だ。基本的に魔力を対価に精霊は魔法を発動するのに助力してくれる…が、感謝すれば加護を受けられるのだ」
「その加護を受けられるのは、エルフだけだと聞いた事があります」
「そう。直接助けるのはエルフだけだ…理由は…とにかく、魔具は精霊の力を借りず、自身の魔力を直接注ぐ事で使う事ができる…が!ここでもう一つ…"魔具の場合、何に感謝するか"…だ」
「魔具そのもにするのでは?」
「惜しいね………全ての魔具って訳じゃないけど、魔人が自分から魔具になるのを受け入れた場合。その魔具に少しだけ"意識"が宿る場合がある」
「自分から…初耳です…この鎧には意識があると、そういう事ですか?」
「そう。心の底から感謝しろ。できるなら言葉に表せ。そうすれば…君の一族とは長い付き合いだからな。喜んで力を借してくれるだろう」
(感謝って……なんか…恥ずかしいような…だって魔具だし…)
「……まぁ今じゃなくてもいい。たが忘れるな」
「はぁ…はい」
「……正直言うと、今の君たちに教えてあげられる事はそれ位だ……今日はここに泊まっていけ。その後はここに残って自主練するなり、魔王の首を狙いに行くなり…好きにすればいい」
「…え、これだけって事!?」
「ああ。私は寝るから後はお二人で適当に…」
「めちゃくちゃだわ…」
「いや、十分収穫はあっただろう」
ハインツはいつの間に立ち上がり、側まで来ていた。
「まぁ…そうよね…何より、そんなにゆっくりはしてられない」
「そう……けど、記憶が復活したせいか、凄い眠たいんだよね…明日、出発しよう…戦場の最前線まで」
「えぇ、そうね」
(ハインツ…また様子が変わった?)
その後、深夜。
二人は館の中ではなく、外で火を焚いていた。
この辺りは、魔物が容易には入られないようになっているらしい。中より外で火を起こした方が暖かかった。
「あの人はまだ、絶対に何か知ってる」
「私もそう思うけど。教えてくれる感じじゃないわね」
「何か考えがあるんだろう……信用して良いのか?あの人の事を」
「少なくとも魔王の配下だとかでは無いでしょう」
「だと良いね」
「それで…」
「ん?」
「禁術って…どんなの?」
「あぁ…いくつか戦闘向きな奴が…」
「……へぇ」
「とにかく、戦う為に必要な物は揃ったはずだ…僕は寝るよ…」
ハインツは地面に無造作に横たわった。
「えぇ…おやすみなさい…」
彼女も、深く考えないようにして、横になった。
翌日。
日が昇り始めた頃に、二人は目を覚ました。
「…ふぅー。行こうかぁ」
「えぇ」
「お、出発かな?」
ピエラニオが館から眠たそうに出てくる。
「ナワルピリさん。少しだけどお世話になりました」
「いや…また会う事だろうし。急ぐのだろう?礼は良いからさっさと行きなさい」
「はい…」
準備を素早く完了させ、道につく。
「それではこれで」
「うむ」
オリーヴァとハインツは、目的地へと向かい歩き出す。
ナワルピリは、その二人の背中が見えなくなるまで見つめる。
「彼らは行ったぞ」
「お気付きでしたか。ナワルピリさん」
館の陰から、ロープを被った男が現れる。
フードを深く被り、顔を見る事は出来ない。
「結界に侵入されれば嫌でもな…昨晩からいたのだろう?」
「えぇ。少し、彼らの様子を伺いたく…」
「敵ではないか」
「"半分"だけ」
「魔人か」
「……」
「で、私に何か用事か?君は魔術師だな。弟子志望かね」
「……貴方の秘密は知っている」
「……どれの事かな?」
「僕に協力してくれ」
「そう来ると思ったよ」
「"ホルン"くん」