「それで、ホルンくん。用事はなんだい?」
二人は椅子に座り、向かい合っている。
「どうせそれも把握済みでは?」
「……ところで、なんで私が初対面の君の名前を知ってるか…驚かないのかな?なんなら"本名の方を…」
「その名は出さないで下さい。茶番もやめです。単刀直入に伺います…あなたは…」
「あぁそうだ。私には"未来"見える」
「……!!どこまで先を?」
「すまないがそれは言えない。運命は決まってるんだよ」
「…今の戦況はご存じですね?」
「あぁ…」
「すでに魔王軍の大部隊がフレイジアへ侵入しました。あなたの力が必要なんです…」
「必要ない」
思わぬ断言に、戸惑う。
「私の弟子三人がいる。大丈夫だ…"今"は」
「……何故、未来が見えるのに、行動を起こさないんだ!!」
「"運命は決まっている"…これ以上は話せない…これが"対価"だからね…」
「そうですか…一つ、聞かせてください」
「うん?」
「"妹"は……死んでいるんですか?」
「うん」
「…ありがとうございました。失礼します」
ホルンは椅子から立ち上がり、館を後にした。
「教えた意味わかってるよね…結果は変わらないからだよ」
"フレイジア"
その最南端。国境付近。
今現在の、最前線である。
戦争が始まり急遽建設された城で、大規模な戦闘が起きていた。
その元へ騎乗兵数百人が到着する。
「魔物の数と種類は!?」
「遅いぞ援軍!数は1000を優に超えてる!現在確認できているのは"ゲーシャ"と"グルル"だ!!」
「ゲーシャ!?上級の!?何体!?」
「自分達で数えろ!」
「近づかれたら落とされる!!第二射よーーーーい!!」
大隊長が弓隊へ号令をかける。
「射て!!」
無数の矢が上空へと発射し、魔物の大群へと降り注ぐ。
城付近で白兵戦を担当する兵たちは、基本的に魔力の少ない者が配置される。
横に並び、静かに待っていた。
その内の二人の兵が話をする。
「前の奴ら…結構耐えてるな…」
「じゃないと……困る……親にお別れ言ったか?ソルト…」
「…言いそびれた。あぁ…くそ…」
大盾を携えた兵の布陣が、ゲーシャに崩されるのが見える。
その魔物は槍に突かれても、一人の兵への過剰な攻撃をやめようとしなかった。
すでに形を保っていないものに、何度も巨大な拳を叩きつけている。
「うっ……というか…城の近くで待機しても無意味だろ…此処まで近づかれたら時点で…」
「……魔術師は?まだ戦場にいないのか?魔具使いは?」
「…王の護衛で忙しいんだろうよ……!ちょ!!来るぞ!」
ついにゲーシャが一体、防衛を突破し、こちらに向かってくる。
こちらの装備は全員、槍一本。
ただ、指揮を務める1人の騎士を除いて。
「遅れてご到着…フレイジアの奴じゃないよな…信用して良いのか…」
「今はするしかないだろう…てか、なんだよあの格好は」
とても戦争中とは思えない格好だった。甲冑も着ず、綺麗な普通の布で出来た服を着て、少し大きめの剣を背負っているだけだ。
騎士だと言われなければわからない。
「あぁ!くそ!来るぞ!!」
「………諸君に言って起きたい事がある」
「…は?」
「君たちはどうして逃げない?」
「そんな事言っている場合か!?前見ろ前!!」
「お、おい。ソルト…」
構わず騎士は続けた。
「逃げたい気持ちで一杯だろう。今すぐ重いものを捨てて、振り向いて、走り出したい気分だろう」
(…)
「なのに何故…誰一人として、一歩も退かないのか…」
(…そんな事決まってる)
「"護りたいものがあるから"……当然だ……自身の死よりも、もっと恐ろしいのは……大切なものを、失う事だ…」
剣を引き抜く。
「初対面の俺に…こんな事を言われてもアレだろうが…とにかく…」
こちらに猛烈なスピードで向かってくるゲーシャに対し、騎士は怖気ず、冷静に向かっていく。
「中には…別れを言っていない者もいるだろう…」
「だが、それでいい」
「……生きて、また言葉を交わせ」
目前。
騎士とゲーシャの距離は、ゼロ。
「…私の名は…」
「危ねぇ!!」
拳を振り下ろす。
完全に捉えている。回避は不可能。
「…クリフ…エルフだ」
その瞬間。
ゲーシャの首は吹き飛んだ。
血が噴水のように飛び出す。
全員、僅かな風圧を感じた。
「そして…君たちは…"勇者"だ」
「…す…げ…見えなかった…」
「上級の魔物を、一撃で!一人で…!!」
「さぁ、前進だ」
その場に居た全員が叫んだ。
恐怖を掻き消すように、叫んだ。
すると…不思議と…希望が湧いた。
一歩、また一歩と…足が前に出る。
(死んでたまるか…死んでたまるか…死なせてたまるかッッ!)
今度は数体のゲーシャが防衛を突破し、こちらに襲いかかる。
「…諸君の意思を…見せてくれ」
「「「やるぞぉぉおお!!!」」」
兵とゲーシャが、ぶつかりあった。
「一体に対し、4人以上で挑め!!」
「貫けぇええええ!!」
兵士の彼…ソルトは、強化を施し、槍を心臓目掛け突撃させる。
(刺さった!!)
だが、その皮膚と筋肉はとても強固で、貫く事は出来なかった。
「やばい!!」
「油断すんな!!」
兵士の何人かが、ゲーシャの足に槍を突き刺す。
バランスを崩し、転倒する。
「そのまま槍をねじ込めぇ!!!」
「あ…!!うおおおおおおおぉお!」
渾身の力を込め、槍を押し込める。
魔物は一瞬、起き上がろうとするが、すぐに動きが少なくなり。動かなくなった。
「……や、やった…」
「やれる…俺たちでもやれるぞぉ!!」
もう一体、此方を見ていた。
「来いよ……はは…」
「優勢だぞ!!押せ!押せ!」
「………!…頭上だ!!上から来るぞ!!」
クリフが叫び、近くにいた者は全員、見上げた。
そこにいたのは二体…炎を纏った人間と、長髪の羽の生えた人影が落ちて来ていた。
「人間…!?いや…魔人!?」
「全員、更に前進しろ!!」
「騎士さんはどうする気だっ!!」
「奴らの相手をする」
その魔人達が着地をすると同時に、あたりに熱風が押し寄せる。
「……炎の魔人と…偽天使か…できればもっと上の奴に来て欲しかったな」
「フッ、お前がエルフの戦士だな?首を取って来いとの命令だ!大人しく燃やされてくれ!!」
「……偽」
炎の魔人の全身が更に激しく燃え上がる。
「暑苦しい奴だ……そういうのは…」
「嫌いじゃない」
「ハハハ!!」
足元に落ちていた槍を高速で投げつける。
だが、それを体から発せられた爆風で弾き飛ばす。
「!」
「驚いたか?ただ燃やす強さを上げただけだ。火薬は使ってねぇ。タネも仕掛けも…」
「……お前は俺向きじゃ…なさそうだな……」
「あぁん?なんだって???」
「色々吐いて貰うぞ。魔人」
「なに2対1で余裕ぶっこいてるんだお前?」
「……馬鹿」
「…そっちの方は気付いてるみたいだな。一人じゃない。そしてもう遅いぞ」
「クリフ。遅れてごめんなさい」
その魔人の背後に、いつの間にか現れていた。
「…!!魔術師の片割れか!!」
「ララルーフ…そっちは任せた…羽は俺が殺る…」
「分かってるわ」
「!?な、なんだ!?」
炎の魔人が距離を取ろうとするが、動けない。
焦って両足を見ると、鉄の杭が突き刺さっていた。
「なんだ…これ…!!」
「そこらに散らばっていた鉄くずを集めて突き刺した…簡単な事よね」
「こんくらい…溶かしてやる!!」
「あら…もう遅いわ。貴方は水脈の上にいるの」
「!!」
「じゃあね」
突如、地面を突き破り、"水"で出来た槍が飛び出し。
魔人の下半身から脳天を貫いた。
「助かったわ精霊さん」
「ッッ………が…あ…!」
「終わったか?」
クリフは羽の魔人の首をへし折り、腕に突き刺さった羽根を引き抜いていた。
「毒でもあったらどうするの?」
「お前がいるだろう。それより…あいつは?」
「あんた達で十分でしょ〜?ってね。城に向かったわ」
「……ふん。さっさと加勢して終わらせよう」
「ええ」
二人は兵士達に加勢しようと振り返った。
振り返ってから数歩…背後から"立ち上がる音"がした。
「……居たならもっと早く出てこいよ」
「はぁ…面倒な奴が来たのね」
炎の魔人の方が立ち上がっていた。
明らかに生きていられる傷ではない、更に魔人の状態が解けている。
死んでいる、だが動いている。
「……生命の王」
傷口から真紅の液体が流れ出る。
血だまりが広がり、立っていた死体が崩れ落ちる。
すると、血が一箇所に収束し、それが次第に人の形をとる。
そして、口を開いた。
「相変わらず、魔人の中は窮屈だよ」
「お前がもっと早く出てきていれば、そいつらは死なずに済んだぞ」
「魔人如きが何体死のうが問題はない。ティトラカワンの奴は抜いてね」
「…変わってないな」
「そもそも…屍体がないと何も出来ないのでね…私の部下を返して貰うよ」
「赤結晶の魔人こと…?彼ならとっくの昔にバラバラだけれど」
「なら君達を部下にしよう」
周りにあった屍体…人を含め全てが、起き上がる。
「さぁ、宴の始まりだ」
ゲーシャ
魔物と人との間に産まれたと言われる魔物である。
羊のような頭部が特徴ある。
首から下の形は基本的に同一で、違うのは濃い体毛と身長、サイズだろう。
古くはこの魔物を魔人と呼んでいた。