※この作品はR-18です。

黒のテスカトリポカ   作:被害者宅

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第四十九話 戦争と生命

「それで、ホルンくん。用事はなんだい?」

 

二人は椅子に座り、向かい合っている。

 

「どうせそれも把握済みでは?」

「……ところで、なんで私が初対面の君の名前を知ってるか…驚かないのかな?なんなら"本名の方を…」

「その名は出さないで下さい。茶番もやめです。単刀直入に伺います…あなたは…」

「あぁそうだ。私には"未来"見える」

「……!!どこまで先を?」

「すまないがそれは言えない。運命は決まってるんだよ」

「…今の戦況はご存じですね?」

「あぁ…」

「すでに魔王軍の大部隊がフレイジアへ侵入しました。あなたの力が必要なんです…」

「必要ない」

思わぬ断言に、戸惑う。

「私の弟子三人がいる。大丈夫だ…"今"は」

「……何故、未来が見えるのに、行動を起こさないんだ!!」

「"運命は決まっている"…これ以上は話せない…これが"対価"だからね…」

「そうですか…一つ、聞かせてください」

「うん?」

「"妹"は……死んでいるんですか?」

「うん」

「…ありがとうございました。失礼します」

 

ホルンは椅子から立ち上がり、館を後にした。

 

「教えた意味わかってるよね…結果は変わらないからだよ」

 

 

 

"フレイジア"

 

その最南端。国境付近。

今現在の、最前線である。

 

戦争が始まり急遽建設された城で、大規模な戦闘が起きていた。

 

 

その元へ騎乗兵数百人が到着する。

 

「魔物の数と種類は!?」

「遅いぞ援軍!数は1000を優に超えてる!現在確認できているのは"ゲーシャ"と"グルル"だ!!」

「ゲーシャ!?上級の!?何体!?」

「自分達で数えろ!」

 

 

「近づかれたら落とされる!!第二射よーーーーい!!」

大隊長が弓隊へ号令をかける。

 

「射て!!」

 

無数の矢が上空へと発射し、魔物の大群へと降り注ぐ。

 

 

城付近で白兵戦を担当する兵たちは、基本的に魔力の少ない者が配置される。

 

横に並び、静かに待っていた。

 

その内の二人の兵が話をする。

 

「前の奴ら…結構耐えてるな…」

「じゃないと……困る……親にお別れ言ったか?ソルト…」

「…言いそびれた。あぁ…くそ…」

 

大盾を携えた兵の布陣が、ゲーシャに崩されるのが見える。

 

その魔物は槍に突かれても、一人の兵への過剰な攻撃をやめようとしなかった。

すでに形を保っていないものに、何度も巨大な拳を叩きつけている。

 

「うっ……というか…城の近くで待機しても無意味だろ…此処まで近づかれたら時点で…」

「……魔術師は?まだ戦場にいないのか?魔具使いは?」

「…王の護衛で忙しいんだろうよ……!ちょ!!来るぞ!」

 

ついにゲーシャが一体、防衛を突破し、こちらに向かってくる。

 

こちらの装備は全員、槍一本。

 

ただ、指揮を務める1人の騎士を除いて。

「遅れてご到着…フレイジアの奴じゃないよな…信用して良いのか…」

「今はするしかないだろう…てか、なんだよあの格好は」

 

とても戦争中とは思えない格好だった。甲冑も着ず、綺麗な普通の布で出来た服を着て、少し大きめの剣を背負っているだけだ。

騎士だと言われなければわからない。

 

「あぁ!くそ!来るぞ!!」

「………諸君に言って起きたい事がある」

「…は?」

「君たちはどうして逃げない?」

「そんな事言っている場合か!?前見ろ前!!」

「お、おい。ソルト…」

構わず騎士は続けた。

「逃げたい気持ちで一杯だろう。今すぐ重いものを捨てて、振り向いて、走り出したい気分だろう」

(…)

「なのに何故…誰一人として、一歩も退かないのか…」

(…そんな事決まってる)

「"護りたいものがあるから"……当然だ……自身の死よりも、もっと恐ろしいのは……大切なものを、失う事だ…」

 

剣を引き抜く。

 

「初対面の俺に…こんな事を言われてもアレだろうが…とにかく…」

 

こちらに猛烈なスピードで向かってくるゲーシャに対し、騎士は怖気ず、冷静に向かっていく。

 

「中には…別れを言っていない者もいるだろう…」

 

「だが、それでいい」

 

「……生きて、また言葉を交わせ」

 

目前。

 

騎士とゲーシャの距離は、ゼロ。

 

「…私の名は…」

「危ねぇ!!」

 

拳を振り下ろす。

完全に捉えている。回避は不可能。

 

「…クリフ…エルフだ」

 

その瞬間。

 

ゲーシャの首は吹き飛んだ。

 

血が噴水のように飛び出す。

 

全員、僅かな風圧を感じた。

 

「そして…君たちは…"勇者"だ」

 

「…す…げ…見えなかった…」

「上級の魔物を、一撃で!一人で…!!」

「さぁ、前進だ」

 

その場に居た全員が叫んだ。

 

恐怖を掻き消すように、叫んだ。

 

すると…不思議と…希望が湧いた。

 

一歩、また一歩と…足が前に出る。

 

(死んでたまるか…死んでたまるか…死なせてたまるかッッ!)

 

今度は数体のゲーシャが防衛を突破し、こちらに襲いかかる。

 

「…諸君の意思を…見せてくれ」

 

「「「やるぞぉぉおお!!!」」」

 

兵とゲーシャが、ぶつかりあった。

 

「一体に対し、4人以上で挑め!!」

「貫けぇええええ!!」

 

兵士の彼…ソルトは、強化を施し、槍を心臓目掛け突撃させる。

(刺さった!!)

だが、その皮膚と筋肉はとても強固で、貫く事は出来なかった。

「やばい!!」

「油断すんな!!」

 

兵士の何人かが、ゲーシャの足に槍を突き刺す。

 

バランスを崩し、転倒する。

 

「そのまま槍をねじ込めぇ!!!」

「あ…!!うおおおおおおおぉお!」

 

渾身の力を込め、槍を押し込める。

 

魔物は一瞬、起き上がろうとするが、すぐに動きが少なくなり。動かなくなった。

 

「……や、やった…」

「やれる…俺たちでもやれるぞぉ!!」

 

もう一体、此方を見ていた。

 

「来いよ……はは…」

「優勢だぞ!!押せ!押せ!」

「………!…頭上だ!!上から来るぞ!!」

 

クリフが叫び、近くにいた者は全員、見上げた。

 

そこにいたのは二体…炎を纏った人間と、長髪の羽の生えた人影が落ちて来ていた。

 

「人間…!?いや…魔人!?」

「全員、更に前進しろ!!」

「騎士さんはどうする気だっ!!」

「奴らの相手をする」

 

その魔人達が着地をすると同時に、あたりに熱風が押し寄せる。

 

「……炎の魔人と…偽天使か…できればもっと上の奴に来て欲しかったな」

「フッ、お前がエルフの戦士だな?首を取って来いとの命令だ!大人しく燃やされてくれ!!」

「……偽」

 

炎の魔人の全身が更に激しく燃え上がる。

 

「暑苦しい奴だ……そういうのは…」

 

「嫌いじゃない」

「ハハハ!!」

 

足元に落ちていた槍を高速で投げつける。

だが、それを体から発せられた爆風で弾き飛ばす。

 

「!」

「驚いたか?ただ燃やす強さを上げただけだ。火薬は使ってねぇ。タネも仕掛けも…」

「……お前は俺向きじゃ…なさそうだな……」

「あぁん?なんだって???」

「色々吐いて貰うぞ。魔人」

「なに2対1で余裕ぶっこいてるんだお前?」

「……馬鹿」

「…そっちの方は気付いてるみたいだな。一人じゃない。そしてもう遅いぞ」

「クリフ。遅れてごめんなさい」

その魔人の背後に、いつの間にか現れていた。

「…!!魔術師の片割れか!!」

「ララルーフ…そっちは任せた…羽は俺が殺る…」

「分かってるわ」

 

「!?な、なんだ!?」

 

炎の魔人が距離を取ろうとするが、動けない。

焦って両足を見ると、鉄の杭が突き刺さっていた。

 

「なんだ…これ…!!」

「そこらに散らばっていた鉄くずを集めて突き刺した…簡単な事よね」

「こんくらい…溶かしてやる!!」

「あら…もう遅いわ。貴方は水脈の上にいるの」

「!!」

「じゃあね」

突如、地面を突き破り、"水"で出来た槍が飛び出し。

魔人の下半身から脳天を貫いた。

「助かったわ精霊さん」

「ッッ………が…あ…!」

 

 

「終わったか?」

クリフは羽の魔人の首をへし折り、腕に突き刺さった羽根を引き抜いていた。

 

「毒でもあったらどうするの?」

「お前がいるだろう。それより…あいつは?」

「あんた達で十分でしょ〜?ってね。城に向かったわ」

「……ふん。さっさと加勢して終わらせよう」

「ええ」

 

二人は兵士達に加勢しようと振り返った。

 

振り返ってから数歩…背後から"立ち上がる音"がした。

 

「……居たならもっと早く出てこいよ」

「はぁ…面倒な奴が来たのね」

 

炎の魔人の方が立ち上がっていた。

明らかに生きていられる傷ではない、更に魔人の状態が解けている。

死んでいる、だが動いている。

 

「……生命の王」

 

傷口から真紅の液体が流れ出る。

 

血だまりが広がり、立っていた死体が崩れ落ちる。

 

すると、血が一箇所に収束し、それが次第に人の形をとる。

 

そして、口を開いた。

 

「相変わらず、魔人の中は窮屈だよ」

 

「お前がもっと早く出てきていれば、そいつらは死なずに済んだぞ」

 

「魔人如きが何体死のうが問題はない。ティトラカワンの奴は抜いてね」

 

「…変わってないな」

 

「そもそも…屍体がないと何も出来ないのでね…私の部下を返して貰うよ」

 

「赤結晶の魔人こと…?彼ならとっくの昔にバラバラだけれど」

 

「なら君達を部下にしよう」

 

周りにあった屍体…人を含め全てが、起き上がる。

 

 

 

「さぁ、宴の始まりだ」

 

 





ゲーシャ

魔物と人との間に産まれたと言われる魔物である。
羊のような頭部が特徴ある。
首から下の形は基本的に同一で、違うのは濃い体毛と身長、サイズだろう。
古くはこの魔物を魔人と呼んでいた。
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