国と国の境界。
真夜中の山中で、ただ二人、話をしていた。
誰かに見られると面倒、だからこの場所を選んだ。
片方の男が、先に口を開いた。
「魔人がこの国を統治する…それで本当にいいのか?」
「彼は信用できる」
もう片方の男がハッキリと、断言した。
「なぜそう言えるんだ?」
「初代勇者が信用したからだ」
「なら、間違ってるな。イングレッド」
片方はハインツ•イングレッドの父、"ノヴァ•イングレッド"
もう片方はハイド•ノードの父、"ハイズ•ノード"だった。
「僕を呼んだ理由は、王の事かな」
「あぁ…あの王を縛る"枷"を作る」
「枷?」
「騎士団だ。腕の立つ連中を集めた。王が何かをしでかした時、その騎士団が王を殺す」
「それに納得してくれって事かな?」
「あぁ。一応、お前の意見も聞いておく」
「それは僕が口出し出来る事じゃ無いね」
溜息をついてそう言った。
「良かったよ」
「なぁ…一つ教えてくれないかな」
「なんだ?」
「"君は何年生きてる?」
「…君の父の事はよく知ってる。とだけ言っておこうか」
「…そうか」
「それで…だ。話はこれだけじゃない」
「なんだい?」
ハイズは立ち上がり、こう言った。
「"準備"するぞ。魔王はもうすぐ復活する」
「なに?封印が解けると?」
「あぁ。封印は完璧ではない」
「なぜ先代は魔王たちを殺さなかった?」
「彼は生き物を殺すのを極端に嫌った」
「……やっぱり似るものなんだね」
それを聞いたハイズは無言で頷いた。
「…"不老不死"を魔族の下に返す訳にはいかない。魔具を集めろ、戦争だ」
「なぜ封印が解けると?」
「…勘だ」
「君らしいね」
「さて…俺から呼び出して悪いが、もう行くよ。詳細は後日…」
「うん…あ、そういえば…奥さんに子が宿ったって聞いたけど本当かい!?」
「…噂は広まるのが早いな」
「不死の君がねぇ……それじゃあ、今度は僕が呼び出すよ」
「あー、またな」
お互い乗ってきた馬に跨り、その場を後にした。
馬を走らせて数分…ふと、ノヴァは思いだす。
「騎士団の名前…聞いとけば良かったな」
その時だった。
気が付く、気配。
後ろ…?右…?左…?上…?
読みはどれも違った。
(前に何かいる)
暗闇も向こうに、薄っすらと見える人影。
彼は瞬時に察した、"魔人だ"…と。
馬を止め、降りる。
「僕に用があるのかな?」
「うむ…現在の勇者で間違いないな?」
「ああ、君は?」
「我はティトラカワン…魔王の"半身"だ」
「用を聞いてるんだ」
「死んでもらう」
数日後、彼は遺体となって発見される。
彼と共に姿を消していたハイズは当然疑われる。
「どうする気ですか」
「この国を出る。騎士団は任せたぞ、エイセル」
「目星はついてる訳ですか」
「まぁな」
「それでは、赤獅子王騎士団は、私におまかせください」
「あぁ、力を蓄えておけ」
彼は一振りの、どこにでもある剣を手に、旅に出た。
魔力を集めるために。
そして現在…
(魔王は俺の読み通り復活した)
「ティトラワカン、不死は君がやれ」
魔王は骸骨へ不死殺しの剣を手渡した。
「うむ」
それを軽く素振りし、感覚を掴む。
「魔王に魔法が完全に効かなくなったけど…どうするのかしら…」
「お前はさっさと逃げろ」
「どうする気よぉ」
「…あの鎧を破壊する」
魔王が着る鎧…魔王には魔法も斬撃も無力だが、鎧は物理的に破壊できる。
鎧さえ無効化すれば…
「殺れる…」
「随分と自信があるようだな。ハイズ•ノードよ」
「…だな」
「行くぞ」
骸骨の全身から魔力が吹き上がる。
ハイズへ飛び掛り剣を振り下ろす。
それを剣で受け止める。
「ノヴァを殺ったのは貴様だな、骸骨」
「ならばどうする?」
「仕留めることに変わりはない」
「エルフ、君は何もして来ないのかい?」
「相性が最悪なのよねぇ…」
「そうかい。でも僕は容赦しないよ。エルフの殲滅も目標の一つなんだ」
「あら、そう」
エンディはそう言うと、足元に埋まっていた…
柱を片腕で引き上げた。
「お…重い」
「なら置きなよ」
それを魔王に向い投げ放つ。
とにかく、鎧の破壊を優先したのだ。
だが、それは…予想の範囲外のものによって阻止された。
巨大な鳥の脚…
全身を真っ赤な鱗で覆われた、怪鳥。
「紹介しよう」
「…龍?」
「古龍だ。ここに来る前に龍の谷にお邪魔してね」
威嚇をしているのか、巨大な喉を鳴らす音が響き渡る。
「古龍は…こういったことには興味がないはずだけど…」
「注目すべきは龍の背中だよ」
「?」
何かが龍の背中に立っていた。
全身を布でぐるぐる巻きにした、小さな人型が二体。
「僕が魔法の王なら…彼らは"魔物の王"だ」
「魔物を操れるってところかしらぁ」
「ご名答。100年前の戦争じゃあここまで上手くいかなかった…今回の戦争で僕らが優勢なのは、彼らのおかげと言っても過言じゃない」
「……」
(面倒ね)
「さて、僕は第二目標まで…あのエルフと不死は君達に任せるよ」
「逃がさない!」(操ってる奴を先に仕留める!)
掌に巨大な火球を作り出し、龍の背に向け放つ。
そのままなら二体まとめて仕留める事が出来ただろうが、古龍が軽く一歩横にズレるだけで当たる事はなく、背後の瓦礫に直撃し、爆発する。
「あぁ、もう!」
破片が辺りに飛来する。
ティトラカワンとハイズは今だ、互いに決定打を与える事が出来ない状況にいた。
互いの剣がぶつかり合い、火花が散る。
「なぜ、十年前の戦争が民の記憶に残っていないのだ」
骸骨は焦る様子もなく、剣を振りながらそう問いてきた。
「王が貴様のせいで姿を晒す事になったから…だ!!」
ハイズは隙をついて逆の手で突きを放つも受け止められる。
「ほお…"魔人"は信用されないと、あの風の魔人も自覚していたのではないか」
「あぁ…だが、今はそうでもないぜ…奴は民を逃し、ただ自分一人で残った…共存を選んだんだ。貴様達と違ってな」
「ふん…どうとでも言え」
「…俺はまだ信頼している。彼を…な」
「ムッ…!」
ハイズは全身を強化し、骸骨を上空に放り投げた。
(この力…!!どれほどの魔力を溜め込んでいたのだ)
「10年以上ほぼ毎日…お前が各地に放った強化された魔物を狩り続けた…自分の首を絞めてるんだよ、お前は」
「!」
その時、確かに感じた気配…
「風…!まだ生きていたのかッ!!どこからだ…!?」
骨の隙間から大量の魔力が放出される。
「もう遅い」
右方から発生した"風の砲弾"がティトラカワンを直撃する。
「!!」
吹き飛ぶ。
「生きてたか、王よ」
「…当然だ」
瓦礫の下敷きになった王が、ハイズの背後に隠れるように横たわっていた。
「魔人はしぶといな」
「……目的はなんだ?ハイズ•ノード…」
「剣を破壊。タイミングがあれば魔王の殺害…」
「違うな。そういう目ではない」
「そうか?」
「死ぬ気だろう?もう貴様には生きる気力が見受けられん」
「…」
「剣を破壊するタイミングはいくらでもあったはずだ…」
「鋭いな…そうだ。俺には限界が来たんだよ」
「息子に継がせる気だな?」
「…どうかな……まだだな」
ティトラカワンが立ち上がる。
「なかなか効いたぞ…王よ」
「チッ…死にたいなら手伝うぞ、ハイズ•ノード」
「いや…自分から死ぬ気はないさ…ただ、一つ」
「なんだ」
「……俺がもし、やられたら…剣を破壊してくれ、すぐにな」
「…いいだろう」
「それじゃ、二戦目だ。ティトラカワン」
「あぁ。こんなに楽しいのは久々だ」
全身に力を入れるが今ひとつ…なと言ったら良いか分からない。だが、確かに…気力が出ない。
「なんだ?先程までのパワーとスピードはどこに行ったのだ?ハイズよ」
「ッッ!」
周りの親しい人間は自分を置いて死んでいく。
不死になる事を選んだ時、そうなる事は覚悟していた。
だが、それでも…いつからか、生き続ける事が嫌になっていたんだ。
だから人を愛してしまった。
子を作ってしまった。
自分自身で逃げ道を作ったんだ。
「遅いな」
骸骨の鋒があらゆる方向から迫り来る。
弾く、避ける、受ける。
(…死…)
「なら…望み通りにしてやろう」
一瞬の隙をついて骸骨はハイズの腹部を突き刺した。
「これでいいのか?本当に死ぬのだろうな?」
「あぁ…ゴホッ…間違いない…"死"を感じる」
より深く剣を差し込む。
「そうか」
ハイズの腹部から剣へと、禍々しい"黒"が伝っていく。
「返して貰うぞ、不老不死の力…」
「………素直に返すか…馬鹿が…」
「なに?」
「…その剣は…俺たちが作った物…こんな簡単に騙せるとは思わなかったよ…」
口から血の塊が流れる。
「なんだと?」
「それは"不死を殺す剣"だ…!"与える"事はできない…!」
「!」
その瞬間、風の大槍が剣を打ち砕いた。
「……なんで避けなかった…ティトラカワン」
「…」
「お前…知ってたな?」
「…安らかに眠れよ。ハイズ•ノード」
「……息子によろしく言っといてくれ…」
「ここってどの辺りだ、ローザ」
「ちょうど直線ですね。まっすぐ行けば魔王城があったとされる"魔の境界"で、こっから後ろにずっと行けばフレイジアに行き着きます」
「よく知ってんなぁ」
「ま、旅が大好物なので」
「それじゃあ…行ってみるか?"魔王城"」
「偵察ですね」