魔王の第二目標は"エルフの殲滅"だった。
魔法に強く、人類に肩を持つ彼らは魔族の邪魔物以外の何物でもなかったのだ。
そして彼にとってそれは簡単な事だった。
「これで終わりかな?」
地に伏すエルフの頭を踏みつける。
「大体、50かな…減ったなぁエルフも」
また、別の国へと逃げようとしていたエルフの一団を追撃し、皆殺しにしたのだ。
「後は騎士の三体と…そこらに散ったやつだけかな…後は勇者の剣か」
彼は湧き上がる笑みを抑える事が出来なかった。
「弱くなったなぁ、人類諸君…」
鎧に付着した血を適当な布で拭う。
「勇者は王達に任せて…魔王城へ戻ろうか。待ってれば彼から来るだろうから…"送ってくれ"」
森の奥に歩み行き、姿を消す。
「魔物共が退いて行くぞぉ!!」
エルフの騎士、クリフが率いた軍は勝鬨を挙げていた。
疲れたきった男達の雄叫びが、その疲れを吹き飛ばすように大きく鳴り響く。
(ひと段落…だな)
「遠くの戦場も落ち着いたみたいだぞ!」
「オオオオォォォッ!!」
「それでは、各大隊長に探知魔法を行い警戒を維持するように伝えてくれ」
「クリフ殿は?」
「城の方へ…行きたいが、此処を任されてるんでな。砦で上の奴らと情報を交換してくる」
防衛の本拠地である砦へと彼は向かう。
(思ったより被害が少ないな…)
あたりが平地にはなってしまったものの、死者を跨がずとも歩く事が出来る。
一方、魔物の死骸は数え切れない。
(今日のところはもう来ないとは思うが…数時間で退却するとはな…)
「ん…?」
彼の鼻が魔具の匂いを感じ取った。
嗅ぎ慣れた匂い…嘗ての英雄の匂い。
「…ハインツか」
戦場からそう遠くない、何処にでもあるような村まで、ハインツとオリーヴァの二人はたどり着いていた。
「あら…凄いことになってるわね」
「どうやら魔王軍が此処まで来たようだね。急がないと…」
大きく迂回する事によって魔物と殆ど接触する事はなかったが、その分到着が遅れてしまった。
「この崖を下って、少し遠くに見えてる砦まで行きましょう」
「…城までもうすぐだ」
(相変わらずハインツの様子は…変わり無しね…」
オリーヴァにはハインツが…"人形"のように見えていた。
彼女が犠牲になった事に関しては間違いなく怒っているだろうが…
(何か…中身が空っぽのような…)
「…オリーヴァ?急ごう」
「あ…えぇ、行きましょう…」
「?」
崖を降りるにはまた、少しだが遠回りしなければならなかった。
彼らは急いだ。
「おお、クリフ君」
砦の一室にクリフが入ると、二人の老人が椅子に腰掛けていた。
「……フレイジア軍師のお二人。まだお逃げになられてなかったのですか」
クリフが呆れた口調でそう言った。
そしてそれに一人の軍師が答えた。
「作戦を考えるには戦場に近い方が良いのだよ」
「私に丸投げした割には立派な事を仰られる」
「今回は考える程の規模でもなかったろう?」
「まぁ……奴らは城を手薄にするための"囮"でしょうからね」
「その割には焦ってないように見える」
「どうでしょうね…というか、指揮系統がなぜ一箇所に固まっているんです?仕事をして下さいよ」
それにもう片方が答える。
「言ったろう。これは…本番ではない。本当の戦いは…君達が信頼を置いている勇者一行が合流した時だ」
「……」
「被害が大きいのは奴らも同じだ。多くの人と魔具を失った今。次に叩く時は戦力を一箇所に集める必要がある」
「…世界樹跡に魔王が本拠地を作ったというか話を信じているんですか」
「まぁな。君はさっさと城の方へ戻り給え。多分、ボロボロになっている頃だぞ」
「えぇ…」
クリフがドアノブに手を掛ける。
「…貴方達の目的はなんだ?」
少し強めの口調で、二人に問いかける。
「教える義理はないね。君こそ何か目的があるんだろう?」
「……失礼します」
「フン……魔法に頼りきっているからこうなるんだ」
「…魔法が人類の進化を止めている。という話ですか?」
「さあね…話は終わりだよ」
「…」
彼はその部屋を後にした。
("目的"か……)
拳を筋肉が軋む程強く握りしめる。
彼は、後悔していた。
年端もいかない子供達に殺しの剣と魔法を与え。たった数人で魔王の元へと仕向けた。それを止められなかった事に。
(…彼等は…彼等にしか出来ない事がある)
「俺たちの尻拭い…酷だな…」
勇者が魔王を殺さなかったのには理由がある。
それは、彼が極端に命を奪う事を嫌ったからだ。
周りの人間はそれを良く思わなかったが、数々の功績を残した彼に口を出せる者は…少なかった。
自分自身も、勇者に魔王から命を救われ、拾ってもらった身として、それに納得しようとした。
「無理にでも…殺しておけば良かった…」
永遠に封印する事など出来ない。
誰もが分かっていた筈だ、勇者自身も。それでも殺す事を勇者は嫌った。
(……何か……他にも理由があるのか…?)
これまで深く考えないようにしていたが…
(勇者は魔王から"不死"を"奪い"、ハイズ•ノードに"与えた")
「………分かるわけないか」
一方、ハイド達は…
「ローザ、此処はどのあたりだ?」
「えっと…ちょうど一直線ですね…後ろに行けば、世界樹を通ってフレイジアへ辿り着きます」
「運が良ければ魔王を挟み撃ちか…どうする。ハイド」
「…そうだな…行くか…フレイジア」
「了解…ところで、ちょっと良いか?」
「ん?」
「ここ、村の跡だよなぁ?」
確かに、かなり埋もれているが、足元に建築に使われたであろう木材や岩が埋もれていた。
他にも謎の穴が地面に開いていたりする。
「言われて見れば…確かにそうですね。こんなとこにあったかなぁ…?」
「…ん?」
「どうした。ハイド」
何か、透明な結晶のような物を踏んでいた事に気がつき、それを拾い上げる。
「何がこれ…透明だな。見たことがない…」
「あれ…それは…」
ローザは何か心当たりがあるらしく、一冊の分厚い本をとりだした。
「…それは…ガ…」
「ガ?」
「ガラス?でしょうか…特徴は一緒ですね」
「ガラス…?」
「あれ…よく見れば…あの穴も…下水が発達したもののようです」
「おいローザ。その本はなんだよ?」
「ついさっき拾いました」
「えぇ…犬かよ…何でもかんでも拾うなよ」
「でもこれ興味深いですよ。どうやらこの場所の事を書いているようです」
パラパラとページをめくっていく。
「どうやら魔力を持たない人間が集まってできた場所みたいですね、ここ」
「魔力を…?ちょっと見せてくれ…」
「ちょっと!乱暴に扱わないで下さいよ!」
ハイドはローザから本を奪い。閉じた本を開いてみると…
「………なんだこれ…文字か?どこの言葉だ?」
「あ?ちょっと俺にも…なんだこれ、カクカクしてんなぁ…どこの国だよ、ローザ」
「さぁ?」
「は?」
「いえ、本当に知りませんよ。読めたのは魔法を使ったからです」
「え…そんな便利な事も出来んのか…」
「ふふふ…実は我が家に伝わる特別な魔法でですね。書き手の"思い"を読んでるんですよ。だから適当な文字列以外は何でも読めますよ!!」
「ふーん…さっさと行くぞ」
「おう」
「あれ……」
「一先ず…目指すは"世界樹"だ」
「正確にはお前らが燃やした所為で元世界樹だけどな」
「…待て」
三人が歩き出そうとした、その時…背後から誰かに呼び止められる。
その声は聞いたことがあった。
「うん?人いたんですね」
「そんなわけ…ハイド…?知ってる奴か?」
「……"ホルン"…」
「久しぶりだな、ハイド君」