「勇者様のご帰還だぞ!!」
ボロボロの街、ボロボロの兵士。統一されていない指揮。
黒が似合うその街に、唯一の希望であろう一言が大きく響き渡った。
元々は大門だったであろう場所に、人々は集まっていた。
「これは…!城まで魔物が来たって本当だったんだ…」
「そう見たいね…」
その惨状を見て、ハインツとオリーヴァの二人は焦りを見せた。
「おい、二人とも」
「!」
そんな二人の元に、エルフの三騎士でありハインツの師匠…
クリフ、ララルーフ、エンディの三人が目の前に立っていた。
「堂々と振舞え…みんな、お前たちが魔王を獲っていない事を理解した上で…希望を抱いてる」
「…!はい。わかりました」
「こいつが…あいつの息子か…」
「ん…貴方は?」
最初は気がつかなかったが、三人の後ろに一人の男が立っていた。
「えっと…ただの騎士だ。気にしないでくれ」
「ハイズさんは下がってて下さいよ…」
「そうよ」
「わかったよ…」
「?」
「"元"城に行くぞ。仮の建物を急造しておいた。そこで色々まとめるぞ」
「まとめる?」
「情報の交換と戦力の確認…オリーヴァ君も来いよ」
「えぇ」
ついて行ってみると、建物というより、ただの大きなテントだった。
(不思議と落ち着くなぁ…)
「それで、だ」
「…」
「まず…魔王とその部下が、なんらかの方法を用いてここまで入ってきた。それにエンディが対処したが、王は死亡。そしてこの有様…さらに。逃げていたエルフが全員死亡。更に更に…」
「ちょっと待って下さい。多すぎますよ…というか王が死んだって言いました…?」
「…というより王族がな…それで…」
「今は誰がみんなをまとめてるんですか?」
「クリフよ」
「あぁ。だが役交代だ。お前がみんなをまとめろ、ハインツ」
「え?僕が?」
「そうだ……それは後で話すか…そっちは何があった?」
「えっと…色々と…」
「確か…ハイド•ノード君が空いていた席についたって報告があったな…それで…その少し後に連絡が無くなった訳か」
「………」
「大体わかるよ…メリシア君だな」
「…はい」
「ハイド君は?」
「訳あって別行動中です。一応、ここで落ち合うようになってますが」
「……ふむ。それじゃあ。次は敵の戦力をまとまるか…」
話を聞いてみると魔物の大群や魔人だけでなく、魔王まで現れたらしい。
魔物を操る魔人。
鏡の骸骨。
魔王。
更に他の戦場でも、数体の魔人が確認された。
「仕留めたのは雑魚魔人二体だけだ」
「なるほど…」
「…それと。別に話しておく事がある」
「別?」
「あぁ…何というか…あのジイさんにはあったな?」
「じ…ナワルピリ様のことですか」
「そう…言ってしまうと。あの人にお前の記憶を一部消すように言ったのは俺たち三人だ」
「まぁそうでしょうね。理由はなんとなくわかりますよ」
「まあ大方想像は…」
オリーヴァとハインツは頷きながらそう言った。
「それは助かるな。それで…もっと根本の部分だ…魔法がどうとか…そう言う話になる」
すこし言い辛い感じをしていた。
「はっきりと言って下さいよ」
「この話も聞いた筈だ…十数年前の魔物達との戦争…それが人々の記憶に残っていない…当然、消したのはジイさんだ」
「その消した理由が…やはり何か、理由が」
「魔物がフレイジアを攻撃し、王は魔物の姿を晒すことを余儀なくされた。それが多くの人にとって不都合だった。お前の父も、魔人の王が民に受け入れられるとは思っていなかったようだ……というか……」
クリフは軽くため息をついて後ろを振り返った。
「この話をするなら貴方が適任でしょう。ハイズさん」
「あぁ…?俺?」
(さっきの騎士…ハイズってどこかで…)
「隠す必要もないはずでしょう?」
「わかったよ…ハインツくん」
ハイズはハインツの向かいの椅子に腰掛けた。
「?」
「俺はハイド•ノードの父親だ。少し前まで"人柱"の役を背負っていた」
「…ん??父?人柱って確か…不死?」
「そう…俺は100年前の人間で、君の爺さんから親父まで知ってる。君が赤ん坊の時の顔まで知ってる」
「ちょっと思考が遅くなってるんで待ってもらっていいですか」
「無理。時間は有限だ。魔物が襲ってきた理由は…後で…死んだ王も100年前は魔王の部下だった。だが、あいつだけは他の魔人や魔物と違った…」
「はぁ…」
「それで初代勇者の君の爺さんが。一家丸ごと焼かれた本来の王族に変わって、その魔人を王座に座らせた。ナワルピリの記憶を操る魔法を使ってな」
「まさかナワルピリ様も勇者一行だったとか?」
「当たりだ。そして、普通の人間を嫁にして…今の王族が…だがどうやら、あいつの家族が見当たらないみたいでな…それで…だ……」
「……」
「もっと君には知っておいてもらいたい事があるんだが…ハイドのやつが来てからにする」
「そ、そうですか…」
「ハインツ、オリーヴァちゃん。今日はもう休みなさい」
ララルーフが二人の肩に手を置いてそう言った。
「…そうですね。お言葉に甘えて…」
「私も…」
「野宿だけどね」
テントは使わせてもらえないらしい。
頭の中を整理するのに、その程度の事は特に気にならなかった。
…"世界樹"。
「おー。昔を思い出すね…この黒い…何でできてるのかいまいち分からない外壁…これこそが"魔王城"だな」
世界樹が根を張っていた広大な地に、禍々しい…"城"が樹立していた。
「魔王よ」
「おっと…ティトラカワン。不死は?」
「しっかりと。この剣で仕留めてきたぞ」
「ふふ…後は…場を整えるだけだ。彼らが来るのを待とう」
「……」
「…………待て。ティトラカワン。この剣から何も感じないぞ?」
「…何?そんな筈はあるまい」
「…本当に不死を奪ったのか?」
「うむ。力が剣に流れ込むのも感じたぞ」
「…………何か知ってるな?」
「我が嘘をつけない事は、魔王が一番知っている筈だが」
「………………………」
「ま。いいか。大方、勇者君が持っている剣に不死が宿ったという所だろう。もう少しこの術式について詳しく調べておくべきだったね」
「………なるほど」
「もういいから君は城の建造を手伝ってくれ。四王だけでやってるんだぞ」
「雑兵を操る奴は?」
「ああ。彼らを入れると六王か…彼らには攻撃に出向いてもらった。潰さないように、戦力を削ぐようにね」
「そうか」
「……早く楽園を戻そう」
「うむ」
ティトラカワンは姿を変え、綺麗な四角に切り取られた岩を担ぎ上げた。
「頼んだよ」
「……骨肉を捨てた事、後悔はしないのか?」
「なんで今更?みんなとまた逢えただけで十分さ」
「そうだったな」
そして…両軍大きな動きを見せぬまま、少しの時が流れる。
魔物の大群は変わらず攻めて来てはいるものの、脅威になる存在が現れる事は殆ど無かった。
空も暗くなり、その日はもう足を休める事にしたハイド達。
「……」
「ハイドさん。心配してたんですけど平気そうですね」
「だな」
「まぁな。ところで……」
「?」
「良かったら、お前達の事をもっと知っておきたいんだが…」
「なんだよ急に…気色悪いなぁ」
「なんと言うか……あいつらの事をもっと知っておくべきだったと……後悔してる」
「もっと知ってたら戦えなかったんじゃないか」
「さぁ…どうだろうな」
「…別に良いぜ。減るもんじゃないしな…」
「私は別に普通の人生を歩んで来ましたが…」
「あー…じゃあ昔話になるが…」
「あぁ」
焚き火に木の枝を放り込みながら、トールは語り出した。
「ぶっちゃけるとだな…俺は元々、貴族出身なんだよな」
「まぁ予想はついてましたよ。その鎧えらい綺麗ですし」
「俺は剥ぎ取った物かと…で、どこのだ?」
「……それが分かんないんだよなぁ」
「頭打ったか」
「真面目な話だ…俺が小さい時…この鎧を引きずって歩いている所を、ある村に保護されたらしい…そこもほぼ覚えてない」
「へぇ」
「ただ覚えてるのは…豪華な暮らしをしていて…燃え広がる炎と…黒い影だ」
「その紋章からは何も分からなかったのか?」
「何も…誰も見たことがないってよ。ただ…」
トールの目つきが変わる。
「あの時の…影を操る魔人…あいつと会った時、こいつは何か知っていると隠確信した」
「あいつがお前の過去を知ってると?」
「だといいな。次はローザだ。ロクな人生送ってなさそうだが」
「失礼な人だな…まぁごく普通ですよ。魔物を研究する魔術師の一家に生まれました。魔法苦手ですけどね」
「魔物の研究か…初めて会った時、旅をしつつって言ってたな」
「えぇ。二年ほど…」
「魔物の何がそこまで気になるんだか…」
ローザは一冊の本を取り出す。
「私は色んな魔物を知っていますし、知らない魔物は…まぁ少ないと思います。それでも一つだけどうしても分からない事があるんですよ」
「分からないこと?」
「みなさん考えた事ないですか?というか普通は気にならないでしょうが…」
更にもう一冊の本を取り出す。
「この二冊には私が出会ってきた様々な魔物の事が載っています。見てみて下さい」
ハイドに二冊の本を手渡す。
「……シューラにカーフにダゴシ…別に珍しくもない魔物ばっかだが」
「もう一冊の方も」
言われた通り、片方の本を開く。
「……犬に猫に熊に猿に像に…これがなんだ?」
「先に開いた方の本に載っている魔物は…魔力を有していますが…いま開いている方に載っている魔物には…」
「…なるほど…こっちは魔力を持たない奴らか」
「ええ。長年生きた個体を除けばですが、肉片一つにも魔力は含まれていません」
「そういえば確かに……ハイドの炎が狼に効果が無かったな…」
ローザはハイドとトールから本を受け取り、懐にしまう。
「……魔力を持たない魔物と人間が古くから関わってきた記録は多いです。しかし、魔力を持つ魔物に関しての事は…少ないんです」
「要するに。魔物は"何処かから"来た…と。まぁこの根拠が弱すぎる話のせいで家を追い出されたんですがね」
(追い出されたのか…)
「…二人ともなかなか重要な話じゃないか…?」
「お前は何かもっとこういう話はないのかよ」
「確かに。ハイドさん色々経験してそうですもん」
「いや…俺は別に無いな…と言うかもう寝るから。どっちか見張り頼むぞ」
「おい……そういえば雇い主だったなこいつ……ローザ。お前も寝て良いぜ」
「いえ、私はもう少し起きてます」
「そうか」
それから少しの間、沈黙が続くが、ローザがトールにある質問を投げかけた。
「…トールさんって何歳ですか?」
「…さぁ?」
「えぇー…それも覚えてないんですか?」
「まぁな…まあ他人からは結構行ってるように見えるらしいがな」
「うーん…そうですね…30と少しくらいでしょうか」
「さぁ…どうでもいいっての…」
「………その紋章の事、知りたいですか?」
「?」
「この前言ったあれですよ。文字から書き手の意思を読み取る…って」
「これ…文字なのか?」
「いえ、正直、人が書いてさえあれば文字じゃ無くても良いんです…意思までは分からないんですがね…なんというか…かなりどす黒いんですよ」
「黒いって……あいつが関係あるのか…?」
「何か心当たりが?」
「あの影を操る魔人だ…奴と面を合わせてから…何かおかしい…あの時、俺は俺の意思で話していなかったと思う」
「記憶が戻りかけたのかも知れませんね」
「見つけないとな…あいつを…」
「手伝いますよ、私も、ハイドさんも」
「…」
「私ももう寝ます」
「あぁ」
ローザも横になり瞳を閉じた。
「最後に一つだけ…あなたも…ハイドさんと同じ目をしてますよ…」
「……」
焚き火の炎が揺らめき、何故か、吸い込まれるような感覚に襲われる。
血の床に伏せる人々、燃え広がる炎…
「!」
一瞬、そんな光景がトールの脳裏に映し出された。
「なんなんだ…一体…」
そのまま彼らは夜を過ごした。
翌朝…
三人とも出発の準備を整えていた。
「結局朝まで俺一人で見張りさせやがって」
「金は払ってるだろ」
「子守の分の報酬は貰ってないぜ」
「お前全然眠らないしいいだろ…」
「そういう問題じゃねぇよ」
「もう!二人とも早くして下さいよ!」
「はいはい」
「……」
何故か…トールの心の中は不安で満たされていた。
今が特別幸せだという事ではないが、悪くない関係を築けている。
始まりがあれば、終わりがある。
彼の場合、その始まりがどういった場所で、どういったものかはわからないだけで…
終わりは来る。
確実に。
思い出すべきでは無いのかもしれない。
彼らとの日は浅いが…護りたいと思っている。
(護りたい…か…同じ目をしてるってのはそういう事か…?)
そして、始まる。
大きな戦争が。
「わが国、フレイジアはほぼ孤立状態。戦力は少なくは無いが多くもない状態。とてもいいな」
ウレオラ•ヴォル。
軍での作戦を任されていたある軍師、二人。
「ふむ。やはり勇者はシンボルどころか上に立つか」
ジーガ•レーヴェン。
彼ら二人は魔法が使えないという弱点を、"剣技"と"頭脳"でカバーし、軍の上層部まで上り詰めた。
「すべて事の通り、エルフの騎士君たちとも目的が一致しているのは良い意味で予想外だった」
「フフ…彼らも、こんな世界は懲り懲りなんだろう
「だろうな……もう少し…もう少しだ…あと少しで…」
「"魔法をこの世から消せる"」
「ふふっ…」