最初は魔法なんてものも存在していなかったし、魔物もいなかった。
世界の生命は大きく分けて人類と"その他"と言っても過言じゃない。
ある時、そんな世界を"光"が包み込んだ。
ある一つの国が消え、替わりに、別の大きな国ができていた。
それが…"魔界"。
「……ある人に手渡された一冊の本にそう記されていた。嘘とは思えない」
「…ハッ…本に?よく信じられるな」
「……戦争で死んだ両親の名が彫ってあった」
「……本気か」
「そんなもの、私は聞いて…」
「…それも理由がある。本の最後に…こう書いてた」
"魔法をこの世から消せ"
「と、もう一つ」
"お姉ちゃんを守ってあげてね"
「かっこハート…ってね」
「なによそれ…」
「魔はもともと存在しない。その事実が何者かによって改変された。俺たちの親は、それを"この"本に記し、どうにかして残して…戦争で死んだ」
「………」
「やらなくちゃいけない…と俺は思う。父さんと母さんの意思を、継がなくてはならないと思う…だから…」
「…」
「これまで黙ってたけど…協力してくれよ、姉ちゃん」
「でも…」
「ここは…俺たちの居場所じゃない。さっさとやる事やって…本当の家に帰ろう」
「…消すって…帰るって…どうやって?」
「さぁ?まぁ、どうにかなるだろう!」
「…変わってないわね」
(戦争って100年前のか?そういえばこいつら魔人で…百歳近いって事か…恐ろしいな)
「それで…だ。ハイド、俺たち二人も付いて行っていいか?」
「……あぁ、お礼の質問にしっかりと答えてくれるならな」
彼らは、フレイジアへ向けて出発した。
「何かこっちに来てるわね」
少し形が戻ってきた城の司令室として使っている部屋で、ララルーフが真っ先にその存在に気が付いた。
「…え?何かって何ですか」
食事をしていたハインツは手を止めた。
「結界内に何かが…クリフの話を聞いて空に届くサイズの物を貼っていたの」
「ここまで向かってるんですか?」
「…えぇ。そうみたい」
戦闘の準備をしていると休みを取っていたオリーヴァが戻ってくる。
「ん?どうかしたの?」
「オリーヴァ、クリフさんとエンディさんと…ハイズさんを呼んで来て。あと厳戒態勢。鐘鳴らすように!」
「え、わ、わかった!」
オリーヴァは閉めたばかりの扉を開け直し、急いで走り出した。
「板に付いて来たわね」
「ですかね…それより、数は分かりますか」
「一体よ、もっと詳しくはエンディに探索魔法をお願いしましょう」
「えぇ」
残っていたパンの切れ端を急いで口に放り込む。
「よし!」
手入れ中だった勇者の剣を鞘に納め、腰に備える。
数分後に、主要な人物は全員集まった。
エルフの騎士にオリーヴァ、ハイズ…
「それで、エンディ…何かわかったか」
「………一体よ。魔力をそこらに散らばせてるわねぇ」
「魔力を?何体か心当たりあるな」
「…ハイズさん。王達の一人ですか?」
「まぁな…お前らエルフも知ってるだろ。"雷王"だ」
「…厄介だ」
「らい?」
「雷だ」
「雷ですか?空から降る?」
「うん、まぁ…ビリッとくる。静電気って分かるだろ?あれをヤバくした感じだ」
「ピンと来ないですね」
「だろうな。で、どうする?ハインツ」
「……相手は一体ですが油断出来ません。それに囮だったら怖いので、数人で行きましょうか」
「俺たちの中から?」
「はい。少数精鋭です。魔人と魔物に関する経験が多い方が良いですから…ハッキリ言って、今の兵達では魔人や魔物に勝てる人は少ないので、城に警備として全員待機していただきましょう」
「賛成ね」
「そうだな。それじゃあ俺がいく」
「ならハイズさんと僕と…」
「いや、お前はここにいろよ。指揮官が前線で戦うかよ」
「…その通りだ。お前はシンボルで"切り札"だ。出るのは当分先でいい」
「…じゃあ。どうします…?ハイズさん」
「俺と…オリーヴァだったな?」
ハイズは後ろにいたオリーヴァの顔を見て、指名する。
「私…ですか?」
少し意外そうな顔を見せる。
「あぁ、回復役は必要…で。エンディ、お前だ」
「ご指名ありがとぉ」
「……エンディと俺は攻撃役」
「私も付いて行ってはダメですか?」
「ララは城の結界に集中するべきだ」
「そうでしたね…馬車を用意します」
「距離は?」
「…さすが、速いわねぇ…もう近くまで。急ぎましょう」
「よし。行くぞ」
「はぁーい」
「気をつけて…お願いします」
三人は一通りの準備を済ませると、ハイズを騎手に箱馬車を走らせて向かった。
「こっちの方角だな?エンディ」
「間違いないわよ」
「……」
「オリーヴァちゃん、疲れてそうね」
エンディがオリーヴァの両目に隈ができているのに気が付いた。
さらに、欠伸を堪えているのも感じ取れた。
「先日まで怪我人の手当てを殆ど一人でやってもらったからな。当然だろう」
「眠ってて良いわよ」
「いえ…そういう訳には…」
「寝とけよ。敵が近付いてきたら分かるし起こす」
「ね?眠っときなさい」
「そうですか…では…」
「………はや。よっぽど疲れてたのねぇ」
「…だな」
都合よく整備がよくなされている道で、振動も無かった。
「……それで。あなた本当に自分の息子を不死にするつもり?」
「他の奴じゃ駄目だ」
「何で?魔力持ってないなら誰でもいいんでしょう?」
「……そんなに知りたいならナワルピリの奴に聞け」
「いっけずぅ」
「黙れババァ」
「そんなこと言ったらあなたも百歳越えてるでしょう」
「肉体年齢は全然若いからセーフだ」
「なら私も」
「………次に不死になった奴は、死ぬ手段が無くなった今、本当に死ねなくなる。俺はそれを分かった上であの剣を破壊させた」
「でしょうね」
「理由があるんだよ、俺だって…」
「…」
「あいつじゃなきゃ駄目だ」
「会ったこともないのになんで?」
「…残せるモノを残したからだ」
「ふーん…探索魔法をかけるわ」
「あぁ。頼んだ」
「………?」
「…?なんだ?どうかしたか」
エンディの様子が変わったのが表情から分かる。
恐らくは困惑…
「…反応が…もう一つ増えた…!?」
「なに?どういう事だ」
「…魔法を使った瞬間…城に一度戻りましょう。嫌な予感がする…」
「…了解。こんなパターンは初めてだな」
「そうね」
馬車を反転させ、城の方向へ向き直す。
「………なぁ。魔王はどうやってあの時、帰っていったと思う?」
「来た時と同じで、怪鳥や古龍にでも」
「……仮に、点から点へ瞬時に移動できる魔法があったら?」
「聞いた事も無いわねぇ」
「魔人や純血の王たちならありえる。現に魔物を操る王も現れたしな」
「…急ぎましょう。守りを固めるべきだわ」
「急いでる」
行きよりも馬を早く走らせる。
「ハイズ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「……魔力の匂い…」
「どっから?オリーヴァの魔具じゃないだろうな」
「違う」
「ハッキリしろよ。対策できねぇだろ」
「…周りから?」
「なんだそれ……ッ!!」
不自然な振動が馬車に走った。
それと同時に何かがぶつかる音…
「後ろか!?オリーヴァ!」
「…ッなっ!?」
大声で目を開けてみれば、馬車動きを止め、大量の魔物に囲まれていた。
「どっから来た…?」
「…点から点への移動ね。これで確信したわ。相手には瞬間移動を可能にする何かがある」
「これは…どうします…?」
「…さっきの振動からして既に馬車に付かれたみたいねぇ…ここで、その瞬間移動を可能にする魔物だか物をぶっ潰す。残していれば脅威よ」
「賛成だ」
ハイズは馬の綱を投げ、馬車から降りる。
…と、そこで…
「投降を求む」
「…死んでも無理だ」
「なら死すべし」
一体の魔物が特別、違う雰囲気を放っていた。
何年も生きているような風貌。
それに使い古した鎧を着込んでいる。それなりに経験を積んでいるだろう。
「エンディ…魔人か?」
「恐らく…魔力は王達ほど多くないみたいだけどぉ…」
「オリーヴァは馬車の中で待機。治癒をたのむ」
「私も戦いますよッ」
「…お前は後方だ…これまでもそうしてきたんだろう」
「嫌な予感が…するんです」
「大人に任せとけ、"今"はな」
剣を抜く。
「お前ら、どうやってきた?」
「教える義理は無し」
「だろうな」
「死んでないという話は真実だった…決闘を希望す。剣士として」
「珍しいタイプだな。良いぜ」
「…感謝」
「エンディ…周りの雑魚は片づけとけ」
「りょーかい」
刀を構える。
それを見て、魔物も剣を抜き、構えた。
「…」(見た所、普通の剣…少し頑丈そうなだけだ)
「では…さっそく」
最初に斬り込んだのは鎧の魔人。
速度や力は加減から様子見と言ったところか、同程度の速度と力でそれに応える。
「流石。噂に違わぬ剣」
「噂?有名人にだけはならないようにしてたんだが」
「我々の間で人気。100年の剣を味わってみたい者は、沢山いる」
「…ほう。分かってるのにやりたい訳だ」
「それが剣士」
「だな」
もう一度、剣を振り合った。
「もう始まったみたいねぇ。こっちもさっさと…」
「…う•し•ろ」
「!?」
耳元で何かにそう呟かれた。
「エンディさん!!」
広くはない箱馬車の中でオリーヴァは剣を抜き、いつの間にか侵入した魔物に背後から剣を振るった。
「危な」
見えていたかの様に、さけられる。
その避けた勢いで、エンディを馬車から突き落とす。
「ちょっ!」
(油断したわぁ!そりゃ中にも入ってこれるでしょうよ!)
「…と…金髪…魔具…」
「えっ」
「オリーヴァ!!逃げなさい!」
オリーヴァはその魔物の腕に包み込まれていた。
以外すぎるその行動に、エンディもオリーヴァも反応が遅れる。
「…そ•れ•じゃ」
「待て!!」
引き剥がそうと立ち上がり、向かうも…
「……消えた」
「おいおい、なんだ」
魔人と剣を交えながら余裕を見せるハイズ。
「持ってかれた!!」
「はッ…やらかしたなこれは…」
「今は此方に集中して頂きたい」
「…囮か。なるほどな」
「剣士ではあるが、仕事はする」
「……ならもうごっこ遊びは終わりだ」
「…ッ!!」
ハイズの全身から溢れ出す魔力…
圧倒的なその魔力の量に…
(恐怖…いや歓喜…)
「俺は今のでブチ切れたので、お前に…この100年溜めに溜めた魔力の10分の1をこの拳に込めて…打つ。避けろよ」
「来い」
「その前に…どこに連れ去った?」
「言わせてみろ」
「そうか…なら…」
魔物の視界からハイズがなんの痕跡もなく姿を消すと、魔物の胸に腕が突き刺さっていた。
「100分の1にしといたぜ」
「…別格だ」
「おっとまだ死なないよなこれくらいじゃ?魔力が治癒に回ってるもんなぁ…お前の敗けだ」
「…魔王様の城にいるだろう」
「そうか…じゃあな」
…顔を掴み。力を込め、砕く。
「もう一発」
地面へと崩れた魔人の頭踏み潰す。
「……そっちも終わったな。エンディ」
「えぇ」
細切れになった魔物の死骸が散乱している。
「ねぇハイズ」
「なんだ。急いで城に戻るぞ」
「わざとじゃないでしょうねぇ?」
「そんなわけねぇだろ」
「ならいいけど」
「これは怒られるぞ。困ったな」
「………変わったわね。ハイズ」
「やるべき事をやるだけだ。これが運命なんだよ」
「!」
「…死にはしないさ」
「…私が首を突っ込むべきではないみたいね」
「そうだ。文句ならナワルピリに言え」
…ここは…どこだろうか
意識が朦朧とする。
うまく頭が回らない。
(くらい……牢屋?)
少しずつ、暗闇に目が慣れ、その頃には頭の中も落ち着きが出てくる。
(そうだ…!魔物抱きつかれて…それから…なんだろうか?)
まず、自分の状況からまとめる。
(剣は…ない…盾もないし魔具の鎧もない。最悪な状況ね)
「…」
牢屋は比較的綺麗になっている。
掃除や整理が行き届いてるというより、新しく造られた感じだ。
「…魔王の城…よね」
「当たりだ」
「!」
突然の返答に身構える。
「貴様は…」
「…ティトラカワンと呼ばれている」
鏡の骸骨が、牢の向こうに立っていた。
「何故私をさらった?」
「貴様の魔具が必要であった。だが…どうやらこの魔具は貴様に懐いてしまっていたようだ」
「ふん…残念だったな」
「うむ…なので貴様を魔人に変えてやろうかと思ったが…そうすると本当にこの魔具は観賞用になってしまう」
「だろうな。どうする気だ?」
「………貴様にこの魔具だけ返すように言われた。その上で拷問…と言われたが、我が好かんやり方でな」
「ならば?」
「…とにかくこの魔具を着ておけ。方法は後々考える…言っておくが、ここで攻撃的な魔法は使えんぞ」
「もう試したわ」
「ふん…後ほど来る」
ティトラカワンはその場を後にした。
「…見張りもなし…か。よほどこの牢屋に自信があるみたいね」
「……攻撃的な…魔法…」