※この作品はR-18です。

黒のテスカトリポカ   作:被害者宅

58 / 64
第五十八話 接触と馴染

 

「あと少しだ…」

「少しってどれくらいよ」

フオンは川を横断をした際に濡れた両足を拭きながら、ハイドのつぶやきに反応を示した。

「半日…夜には城が見える筈だ」

「へーえ。結構近くまで来たのね」

「火焚こうぜ。橋が落ちてるなんてついてないな」

「まったくですよ…ん?」

「どうかしたか?」

「今、揺れてません?」

 

シテンの言葉で一様に口を閉じる。

 

「…確かにな。お前の姉が何かしてんのか」

「私はここ最近、魔法自体使ってないわ」

「……地震…ではありませんね」

「だったら何だよ…ローザ、わかるか?」

「…心当たりは」

そう言うと、いつもの魔物の事が載っている本を取り出して開く。

数ページ捲ったのち、手を止める。

 

「…土竜…ですね」

「どりゅう?」

 

"土竜"

 

この世の地を創ったとされる"竜"。

普段は人の手のどどかない辺境の地で大人しくしているが、人類に友好的で姿を見た事がある者は多い。

 

その姿は巨大な蛇である。

「ちなみに私は言葉を交わしたことがあります」

「そうか」

「…」

 

「…明らかに向かって来てますね。狙いが我々じゃなければ良いんですが」

「竜が人を襲うことはないですって」

「まるで竜博士だな」

「魔物博士です」

 

 

そうしている間にも振動の大きさは増していく。既に立っているのが困難な程だ。

「全員備えろ!」

ハイドの号令でトールは剣を抜き、他は魔法、魔具の準備をする。

 

「……?」

「あら?」

 

振動がピタリと止んだ。

 

「止まりました?」

 

「いや…」

 

ハイド達が囲んでいた広場の中心に、"蛇"が顔を現した。

 

巨大な蛇の顔が地面から飛び出したのだ。

 

「…蛇」

 

 

「いま蛇つったのは誰だ?」

 

 

「ッ!蛇が喋ったッ!」

「俺は竜だ!殺すぞ!」

「…喋ってる…よな?」

人を丸呑みに出来るような大きな口で、確かに人の言葉を発している。

明らかに話すのには不便な形だが、聴き取りづらいということも無く、むしろハッキリとしている。

 

「私が喋ったことあるって言いましたよね!?」

「むっ…何時ぞやの小煩い娘か」

「お久しぶりです」

 

(魔物に顔が広い奴なんて初めて見たぞ…)

 

 

 

「それで 、なんでこんな所に?」

蛇…土竜はそのままに、それを囲むように話を聞き始める。

「……我々の一族がある魔物に襲われた」

「土竜の方達が?魔王でしょうか」

「俺たちの血の者だけではない。"竜そのものが壊滅寸前なのだ」

「それでどんな奴だ」

「……魔物を操る魔物。其奴らに操られた奴が仲間同士でな」

「そいつは今どこにいる?急いで行くぞ」

「ほお………面白い奴だな。そう遠くはない。案内してやろう」

「…助けてって事か」

「あ?殺すぞ?」

 

(王達と同じ純血の魔物を前にしてこの態度…この人達に付いてきて正解でしたね…)

 

 

 

「…城から少しずれた方向か。無理じゃないな」

六人全員が土竜に"乗っていた"。

森の中を進んでいく。

 

「バチが当たるぞ、貴様ら」

「…これから仕事をやってやるんだぜ…少し多めに見ろよ」

「………先に言っておくが。俺の仲間が数体いる。無駄死にになる可能性が高いぞ」

「…その操ってる奴を何としても仕留めたい。そいつさえ殺ればなんとかなる筈だしな」

「……貴様、何処かで会ったか?」

「…いや?」

「そうか…あの辺りだ」

大量の木が粉々にへし折れている。確かに、巨大な何かが暴れまわったような感じだ。

「……いるな。奥だ」

「…いいか。同胞を殺めるのは最後の手だぞ」

「……必要の無い心配だ」

森奥から二匹の土竜が姿をあらわす。

「…これが終わったら手を貸してもらう」

「聞いていないぞ」

「私が操ってる奴を探して来ましょう」

シテンはそう言うと、土竜から飛び降り闇へと溶け込む。

「……フレイとフオンが土竜の動きを止めてくれ。出来るだろ?」

「楽勝だぜ」

「私一人で十分だけど」

「トールは俺と囮だ…ローザは操ってる奴を見つけたら殺れ。迷わずな」

ローザを残して全員が土竜から飛び降りる。

「俺はどうする?」

「見とけば良いんじゃないか?」

 

(この面子でどこまでやれるか…確かめるのに良い機会だ)

 

「んじゃ…片方は俺がやるぜ」

「ああ」

 

ハイドとトールは剣を抜く事はない。

殺さないと約束してしまった以上、それに従うしかない。

 

どうやら竜と魔王達は敵対関係にあるようだ。もしも竜達の協力を得ることができれば、間違いなく有効な戦力になるだろう。ここでその恩を売っておく。

 

二体の土竜がハイド達に突進する。

「速いな…上だ」

「分かってるよ」

だが簡単にさけられる程度のものだ、垂直に跳躍し、突進してきた土竜に着地する。

「本当に役に立つのか?こいつら」

「聞こえてるぞ!神聖な竜に向かってこいつらとはなんだ!」

「……まぁ…いないよりマシだろ」

後ろにいるフレイ達に辿り着く前に止めるべく、そのまま土竜の頭に強化した足を打ち付ける。

だが、頑丈な鱗にヒビが入る程度で効果的では無いようである。

「硬いな」

もう一撃……繰り出そうとしたその時だった。

「…!」

森の中から突然飛び出したのだ巨大な影が、二体の土竜の頭を引き裂いた。

「なっ…!!"グローラー"かっ!?」

「グローラー!?超珍しい魔物ですよっ!写生…!」

一匹の薄白い光を全身から放つ、巨大な狼。

「…死んでる。台無しだな」

「…!!俺の仲間を…」

グローラーは今にも襲いかかろうと、牙を剥いている。

「あいつも操られてるのか?」

「みたいだな」

「おいおい…お前ら呑気すぎるだろ!」

フレイが焦りを見せる。

「……あの二人なら余裕じゃない?」

一方、フオンは理解しているようだ。

 

二人の持つ剣は魔力を有さない唯の剣。

ならば…

 

「よっと」

「!?」

 

グローラーが動こうとした瞬間に、トールはその頭へと足を叩き込んだ。

 

強化した五体さえあれば良い。

「はぁ…俺たちが片付けて悪かったな。土竜」

「い……いや…良い」

「今のうちに拘束してくれよ、フレイ、フオン」

「ええ。やるわよ」

「殺さないのか」

「…まぁ、良いだろ。別に…」

「シテンの奴はまだか?」

 

 

 

 

「…見つけたのは良いのですが…まさか子供とは」

少し離れている場所に生えている一本の木の根元に、小さな子供が二人、座り込んでいた。

全身を布でグルグル巻きにしている。

 

「……見つかっちゃった。どうする」

「どうしようか」

「魔人じゃないですね。純血ですか。種族はなんです?」

「……魔王様の血…あなた魔人?なぜ魔人が」

「…どうやら少々、誰かに記憶をいじられていたみたいで…魔物だからと、魔王の味方とは限りませんよ」

「……ふーん」

「それにしても…魔王の一族ですか………残念です……子供は殺すのは少し厳しい……」

 

 

 

「いや、むしろ殺したい気分ですね」

「ゲフッ…」

片方の子供の胸に棘が突き刺さる。

「魔王の血は容赦なく根絶やしですよ。気持ち悪い」

「………やばい奴だ」

「そうですかね」

もう片方の首を切り落とそうとした、その時。

「…ん?」

その背後にいつの間にか一人の男が現れた。

「重労働…だ•な。遅れた」

「…遅いよ」

「護衛…は?」

「全部やられた」

そして、いつの間にか姿を消す。

(…?いったい何処から何処へ?気配が消えた…?)

消えた位置をよく観察するが、なんの痕跡もない。

「…こちらの方は…死んでますね。良かった」

倒れた魔物はピクリとも動かない。

「…まさかですが。影武者ですか?」

あの二体は、今地に伏せている者を一切、助けようとしていなかった。

死んでも問題ないと判断したのだろう。

二体いたのは敵を惑わすためか…片方は囮か…それとも何か?

 

「………誰かいますよね」

 

シテンがそう言うと、倒れていた魔物の指先がピクリと動く。

 

「……あなたですか。魔王の狂信者よ」

 

死体の傷口から大量の血が噴き出す。

そしてそれは、人の形にとって変わっていく。

 

「…お前も元はそうだろう。影の王よ」

「"元"王ですね。生命の王」

 

「なぜ、人間どもに手を貸している?」

「利害の一致ですよ」

「嘘だな。何かある」

「………何かが私の記憶をいつの間にか変えていました。どのタイミングかわかりませんが…」

「率直に頼もうか」

「……魔軍を離反した後。私は……子を作ったようです」

「…は、人間と?」

「私はある国の王に成りすまし、好き勝手やっていたようです」

「他人事みたいだな」

「実感が湧きません」

「それで?」

「それがバレてボッコボコにされました。以上です」

「誰に」

「勇者一行の剣士ですよ。あの不死の道を選んだ男です」

「そうか……では、そろそろ…」

死体が起き上がる。

「やりますか?」

「……いや…今日の私の仕事は、こいつらの監視だけだった」

「ほう。貴方が敵を見逃すとは珍しい」

「ここだと不利だ。次に自分の縄張りで会ったら殺る」

「……そうですか」

「自分の一番の使命は死なないことだからな。不利な道は選ばん」

王の体が、死体に血液として吸い込まれていく。

「遅いぞ」

「忘れて…た」

またあの男がいつの間にか現れ、消える。

「厄介な新人さんですね」

 

 

 

 

「生きている者を操るなんてセンスがない」

「イパルネモアニ。なぜそいつを助けなかった?」

「彼らの魔法は美しくない。できれば片方にも死んでいただきたかった」

「はぁ…理解できぬな」

「何より魔王様の血は…魔王様だけでいい」

「……」

「おっと。貴方は違いますよ。魔王様の半身は魔王様。二倍忠誠が誓えるとは……鼻血が……」

「我にはどれも美しく見えんがな」

「……おやおや。私の魔法にケチをつける気ですか、ティトラカワンさま」

「……好きにすればいい」

「そうしていますよ」

 

ティトラカワンはその場から立ち去った。残ったのは生命の王だけだ。

 

「……邪魔だな。ティトラカワン。魔王様は一人で良い」

 

 

 

「何を考えているか分からないしな…消そう。そうしよう」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。