「!」
ララルーフがベッドから飛び起きる。自身の結界に反応があったのだ。
すぐに全員に声をかけた。
「何かあったか、ララ」
気怠そうにハイズが一番に聞き出した。
「つい先ほど、結界内に何者かが陸路で入って来ました」
「どこまでわかった?」
「恐らく…大きな魔力が幾つかと…人間です」
「なんだそりゃ……エンディ」
「…所で、ついさっき結界が張っていましたね」
シテンが思い出したように突然そう言った。
「……おい、そう言うのは早く言えよ」
「は?気づかなかったのお前だけじゃないか」
「すっかり分かってるものかと…」
「…」
どうやらハイド以外は、結界内に入った事に気が付いていたようだ。それにただ一人気づかなかった。
「どうやらハイドさんは本当に魔法に疎いようですね」
「…なんでトールは分かったんだ」
「そりゃあ…感覚?」
「……ハァ…まあいい…それよりもっと速くならないのか、"土竜"」
「貴様らが振り落とされて挽肉になっても良いなら」
あの後、少なくともフレイジアまでは移動の手伝いをしてくれる事になった。
今は全員、土竜の背中に乗っている。
「人がいるな。警備か」
「…みたいだな」
遠くに鎧を纏い槍を携えた人間が4人ほど見える。
「…!?なんだあれっ!?」
「気づいた様ですね。驚いてます」
「そりゃこんなの見ればな」
「こんなのだと?」
「と、止まれッ!」
「はいはい」
まず、自分達が何者か…次に、土竜についての説明を行った。
「はぁ…?」
「ま、ここらで良いか…ありがとよ土竜様。助かった」
「ここで良いのか?まぁ楽で良いがな」
「あぁ。どこにでも行ってくれ」
「そうか…じゃあ退散させてもらうか」
土竜は別れを告げ、じめんへともぐっていった。
それを見た兵が口を大きく開いて固まっている。
「竜…初めて見た…」
「まぁ落ち着けよ。城ってどっちだ?まっすぐか?」
トールが一人の兵に距離を詰めて馴れ馴れしく肩を組んだ。
「はぁ…道なりに行けば着きますよ。話に聞いてたハイド御一行で間違いないですね?」
「あぁ…」
「では…お通り下さい。もう城は目前です」
「ありがとう」
「勇者様。報告です」
「なにか?」
魔法の訓練を行っていたハインツの下に一人の兵が走り寄ってくる。
「ハイド•ノード、その他の5名がこの城へ辿り着いて来ました」
「増えてない…?誰だろう」
「…形が残ってないな」
城の惨状をみて、ハイドはそう呟いた。背後の街も、まともな形ではない。
元城門の上を通る。
「ハイド!ローザさん!」
「!ハインツ。無事だったか」
「お久しぶりです」
「無事でよかったよ…ところで見た事の無いのが人が数人いるけど」
「こいつらは知ってるだろ?トールとフレイだ」
「おお!フレイ!君もいたのか」
「久しぶりだな勇者様」
握手を交わす。
そのままフレイの隣の男へ視線を移す。
「あの時の傭兵?」
「あたり、雇われた。トールだ」
「なるほど…それもアリか…それで、後ろのお二人は?ハイド」
フレイの背後に見たことが無い老人と、ロープで顔を隠した、恐らくは女性の二人が立っている。
「…」
(丸投げですか、ハイドさん)
「いやぁ、ハイドさんには助けられまして…行く場所も無いので、聞けばついて来て良いと…」
「なるほど…そちらは?」
(…ばれたら殺られるよね…でも、ここは素直に)
「俺の姉だ」
「フレイの?」
「あぁ。ちょっとあってな…人見知りだ」
「へぇ…」
(良いよな?ハイド)
(……俺はこれ以上、お前らに口出ししない…まぁ無駄な事は避けさせたいが…)
「分かった。みんな疲れてるだろ?って言いたいんだけど。急いでるんだ」
「何かあったか?」
「オリーヴァが魔物にさらわれた」
「…!!場所は分かってるのか?」
「魔王の城だよ。世界樹跡にあるのは確認済みだ」
「世界樹跡に…?回り込んできて正解だったな…」
「ハイド、来てくれ」
「俺か?」
「うん」
「分かった。お前らは適当にしておけ」
「了解」
ハイドはハインツについていき、一時的に彼らと別行動に移った。
偶然残ったのか、新しく建てたのか分からないが…ぼろぼろの大きな建物に案内される。
「ここは、住処を失った人々が住んでる場所だ。大体の建物が壊れたから…この街の半分くらいの人がいる」
階段を上がっていく。
「半分?」
「…フレイジアは小さい国だ。街や村は数えれるほどしかなく、人口も少ない」
「かなりの人が命を落とした…と」
「そう。ここに収まるくらいね…まぁ、外に兵舎もあるから…ここだよ」
一つの扉の前で立ち止まり、ドアノブに手をかける。
「ここは主要な人物が集まる時に使ってる。作戦会議室ってとこかな…」
ハインツは手をひねりドアを開けた。
中には想像していたよりも多くの人間がいた。それでも4人だが。
「ハイドが来たよ」
「……」
静かそうなゴツい男一人、美しい金色の髪の女が一人、何だか君が悪い女のような生物が一人…
それに…別に特徴もない、剣を持った男が椅子に座っている。
「君は知らないだろうけど…向こうの三人は…」
長いテーブルを間に、向こう側に立っているエルフの騎士から紹介を始める。
「僕の師匠だ。寡黙なあの人は剣の師匠のクリフで…」
「…よろしく頼む」
クリフはハイドにむけ手を差し出し、握手を求める。
「…あぁ」
思ったより、できた者のようだ
「その隣はララルーフ。魔術が得意」
「若いわね。ララって呼んで」
こちらとも握手をする。
「よろしく…」
「それでもこっちは…色々教えてもらった。エンディ」
「初めましてぇ!エンディよ」
「…………あぁ…」
握手を少し握った程度で終わらせる。
挨拶とは言い難い。
(それが正常な反応かな)
「それでこっちが…どうします?」
「……」
「?」
男は眠っているのか、椅子の上で俯いたままだ。
「…照れてるのぉ?」
エンディがその男にそう言うと、一瞬反応を示す。指先が跳ねたのだ。
(……そりゃ言い出し難いだろうな…会った事もない、死んだはずの父親…)
(お互い、色々と…ギクシャクするでしょうね)
(どうする気かしらぁ…)
「ハイズ•ノードだよろしく」
「??」
(言った!?)
「……」
「……」
「ハイド、僕から説明するよ」
「…あぁ…いや…大体想像つく…話は聞いた、ある奴からな。不老不死で……本当なのか?俺の……あれって」
「マジだ。俺はお前の父親で元不老不死だ」
その場にいた誰よりも、ハイドは驚いていた。
"父親が生きていたから"ではなく…
皆は予想していた。その話をすればハイドは…怒るか疑うか泣くか…何かするだろうと。
だが違った。冷静なのだ、その場の誰よりも。
(驚けないな。ここまで来るのに…不老不死の話を聞いてから、予想はしていた。だからだろう)
「信じるのか?」
「あぁ…それで?」
「……いや…聞くこととかない?」
「……別に」
「冷えてるな……」
「逆に、俺に聞くことは?」
「……母さんは?」
「とっくに死んだ」
「…そうか」
「…いや…やっぱり聞きたい事ができた」
「なんだ」
「"なぜ家族を作った"」
(かなり直球に…さすが息子ね。似てる)
「……この前にハインツに言ったな。ハイドが合流すれば"話す"…と」
「はい」
「…全部話そう。ここで。いいな?お前ら」
「…はい」
「全員座れ」
一方、外では
「………」
「どうかしましたか?トールさん」
「…ん…ローザか…少しな…」
「記憶ですか?」
「あぁ…まぁまだ思い出せないな。全然ダメだ」
「そうですか…」
「シテン」
「…なんでしょうか。フオンさん」
「…もしも、エルフがここにいたら…バレるわよ…どうする気?」
「あなたこそどうする気ですか?勇者様の恨みを背負ってるんでしょう」
「…時が来れば…償うわ…それより気づいてるんでしょう?あの子…」
「……」
「"魔人"でしょう?」
「………私も…正直にに話すべきでしょうね」
「トール」
「…魔法はこの世に元々無かった」
「それは知ってる」
作戦室で、全員が椅子に座り、ハイズの話を聞いていた。
「……魔が現れたのは今から…約だが、130年前の事だ」
「130…」
「…俺が…まだ小さい時だ。世界を光が包んだ」
…光が消滅したあと。世界は変わり果てていた。
巨大な木…あった筈の国が消え、現れたのは広い土地とその中央にそびえ立つ城。
見た事もない生物がその土地から解き放たれ、辺りに散らばった。
そして…
…魔法だ。
魔法が現れた。
ある時、一人の男がフレイジアに現れた。
名前は知らない。
そいつは街の人々に魔法を披露し、驚かせた。ものすごい人数が集まっていたのを覚えている。俺とその友達も、見物にいった。
…その男が、友人に向かっていった。
"君だ"…と。
男は友人の頭に手を乗せ、あの時と似た光を放った。
ただ違うのは、色が綺麗な"青"だった。
男は何も言わずその場から去った…
その時からだ、俺の友人だけでなく。殆どの人間が種も仕掛けもなく急に物を燃やせたり、水を氷に変えたりできるようになった。
だがその中でも友人は格が違った。
誰よりも強力な魔法を操り、突然現れた土地から来た魔物から人々を守った。
彼は時期に…"勇者"と呼ばれるようになった。
俺は彼に憧れた。親友として誇りだった。彼のようになりたかった。
だが俺は、周りの人々と違って魔法が使えない。
だからただひたすらに、剣を振るった。
しばらくしていると…"魔王"を名乗る男が現れた。
"姿形は違えど、共に歩もう"
…分かり合える筈が無い。
人と人ですら殺しあっているのに。それなのに、急に現れた奴らなんかと仲良くできる筈が無かった。
そもそも人を襲う不気味な奴らをばら撒いた時点でもう無理だ。
魔王の力を恐れた人々は、話し合いではなく、魔王への宣戦布告を行った。
そしてそれを魔王たちは受け入れた。
まず、俺と勇者が戦争への参加を希望した。別に兵でもなかったんだが…
次に、突然現れたエルフの長、ナワルピリが志願してきた。
他に、優秀な魔術師と、剣士も現れた。
勇者一行だ。
戦争が始まると俺たちは正面からひたすらに突き進んだ。
道中で死にかけのエルフを三人拾ったり。
魔物と人との間にいる者…王を名乗る魔物…全員敵じゃなかった。
俺たちは強かったが。ただ魔王だけがどうしても倒せなかった。何度殺しても生き返る。
そこで勇者は二つの魔具を作った。
"自身の腕を使って"
"不死を奪う剣"
と
"不死を与える剣"だ。
俺はそれを使って、魔王から不死を奪い、ナワルピリが封印を行った。
俺たちは勇者の誰も殺そうとしない意思を尊重した。その時だけは。
そして唯一、自分の魔力を持たなかった俺が不死になった。
「あれ…勇者が封印したんじゃ無いのか?」
「本人は嫌がっていたが、無理を通して奴が封印した事にした。そっちの方が色々とな」
「…魔物はどこから来たんだ?」
「わからない。魔物も魔王もエルフでさえも、どこから来たのか知らなかった。記憶を消されたんだろ」
「ナワルピリさんじゃ?」
「違う。奴が記憶をいじる力を手に入れたのは…魔王を封印してからだ」
「……魔法を与えた男は?」
「正体不明…魔王を封印してから、ナワルピリの奴が出会ったのが最後だ、その時に…"記憶を操る魔法"と…"未来を視る力"を手に入れた」
「未来を見る?」
「……"これ"はまだ言えないが。ナワルピリと俺はある"目的"がある」
「…」
「聞かないのか?」
「…無駄だろ」
「わかってるじゃないか」
「それで」
「家族を作った理由?単純にあれだろう」
「あれ?」
「好きになったから。それだけだ」
「…はぁ…」
「…で、ここまでにしておくか。作戦の説明を、ハインツ」
「わかりました」
ハインツは立ち上がり、テーブルの上に地図を広げた。
「こちらから動きます。行ってしまうと作戦と言えるものではなく、正面から実力でぶつかるだけです」
地図上のフレイジアから世界樹まで、指でゆっくりと線を引いた。
「……戦力の一点集中ではありません、多少分散して…魔王城を目指します」
「軍を連れて?」
「できるだけ人数は絞ります。ここまで移動するには大量の物資が必要ですから」
「賛成だ」
「それじゃあ…詳しく話していきます」
ハイドは、赤獅子王騎士団の所有するある一室に来ていた。そこはもう以前の姿は無く、陽の光が天井から大きく射している。
「…」
ここは元々、休憩室のような使い方をされていた。
余り物の部屋を誰が言い出したわけでもなく、皆自然と落ち着くのに使っていた。
「懐かしいな」
ハイドに続いてハイズがその部屋に入ってくる。
「…幾つか聞き忘れていた」
「何でも聞けよ」
「あの骸骨は何だ?」
「…奴は100年前はいなかった。恐らく…」
「いなかった…?」
「…ナワルピリが行った封印術には"定員"があった。魔王は恐らく、封印された状態で骸骨を造って容量をパンクさせた」
「造った?魔人を?」
「んー…違うな、あれは多分"魔具"だ」
「…魔具?」
「魔具ってのはごく稀に意思が宿る。魔王は自身の肉体を材料にアレを造った。そして圧倒的な"意思"が宿った"魔具"ができた…ってところだろう。じゃないといきなり魔人があそこから現れた理由がわからん」
「魔具…骸骨が…もう一つ、なぜ魔法を使えない人間がいる?」
「…それは目的に関わるな。詳しくは無理だが、そういう"体質"なんだよ。特別でもなんでもない当たり前だ」
「…はぁ…不死にはどうやったらなれる?」
「いきなりなんだ」
「…話だけ聞いときたい」
「秘密だ」
「それも目的に関わるってか?」
「イエス。もういいか?」
「…あぁ」
ハイドを一人残し、彼は去った。
「ふぅ…」
ハイドは今にも足が折れそうな程ボロボロな椅子に腰をかける。
「…」
思い出す。
彼らの顔を。
出会ってたった一年…その短い時間でどれほど、信頼を寄せ合っただろうか。
「………」
彼は目を閉じ、休む事にする。
「…!!」
城から離れた丘で警戒していた兵の一人が、遠くに蠢く魔物の影に気がついた。
「おいお前ら…何か来てるぞ…」
「…まじか。だから俺は結界内の警備を希望したんだ」
「うるせ…誰か城に向かって報告だ」
「俺が行く。敵影は幾つだ?ソルト」
「…ひとつだけハッキリと。"タイタン"だ」
小さかった筈の影が、"立ち上がる"。
「…!結界が消えたっ!」
ララが立ち上がり、そう叫んだ。
「来たな」
準備を済ませようと、全員が立ち上がった、その時…
「!」
爆発…いや、巨大な何かが空から降ってきたような。
巨大な音と振動が辺りを襲った。
「…外だ!」
「…おいおい」
約10m。
巨大な人間が街の中央に立っていた。
それ以外にも、小さい影に二つほど見えた。
「…なんだよアレは」
「タイタンだ。龍や竜と同じで神聖な魔物…で。どうやら敵らしいな」
「あれが降ってきたのか?」
「そうだ」
「!?」
彼らの背後に、男が立っていた。
(瞬間移動の…!)
「未だになんにも対策…してないなん…て」
(しないんじゃなくて出来ないんだよ)
(ここで消さなくては…!!)
クリフが男に向かって斬りかかるが、いつの間にか一歩後ろに避けられる。
「魔王様からの伝言…"こちらから動く"って…それ•じゃ…」
「待て!」
「ほっとけクリフ。デカイのを処分するぞ。指示を、勇者様」
ハイズがハインツへ指示を仰いだ。
「…タイタンはクリフさんと僕で。他の方は、あれ以外にも来ていると思うのでそちらの相手を…手分けして」
「了解…」
ハインツとクリフは正面のタイタンを。
ハイズとハイドは右に見えた影を。
エンディとララは左に見えた影を。
それぞれ走り出した。
「…ちょっとまて!ハイド!」
「…忘れてたな」
トールがハイドを見つけて呼び止めた。
「他の奴は?」
「バレるとマズイって隠れてる…それよりなんだあれは」
「…」
「…誰だそいつ?俺の顔になんかついてるか?」
ハイズがトールの顔を睨みつけていた。
「…いや」
「どこかで会ったか?」
「………ハイド。さきいってろ」
「…分かったが揉め事は止めろよ。お前ら」
「わかってる」
「…?」
ハイドは二人を置いて、走り出した。
「…消したはずだ。その血は」
「?」
ハイズが先に剣を抜いた。
「どういうつもりだお前?突然すぎるぜ」
「……まさか、自分の事を分かっていないのか?」
「?」
「……伸びてるぜ、影がな」
トールの足元をみて言った。
それにつられて自身も見下ろす。
「……なんだ…これ?」
影だ。
自分の、太陽の光で生まれた影が不自然び動いている。
「ふん…」
「!」
ハイズの剣の鋒がトールの首を薄く裂いた。
「いい反応…治りが遅すぎる。自分の魔力を制御できていないようだな」
「ガッ…!!ゴホッ…!」
流れ出る血を抑える。
(なんだ?いまどうなってる?影?)
「…悪いが死んでもらう。その血は死ぬほど嫌いなんだ」
(来る…!!どうする…!?)
次は間違いなく避けられない。
攻撃の出始めが見えなかった、最初に避けられたのは運が良かっただけだ。
「息子の友達を殺る時が来るとはね」
剣を振り下ろす。
が、影に受け止められる。
「…なんで生きてる?影の王」
「…なんででしょうね」
ゆっくりと、シテンが姿を現す。
「……シテ…ン…!」
「はっ…シテンね…100年前消したはずだ」
「…トール。この景色に見覚えはないですか?」
「?」
広がる影。迫る剣。
「…」
頭の中に電流が流れる。
せき止められていた巨大な川が、流れ始めたように。
全身に衝撃が走る。
「……ッッ!!あぁ…そういう事かよ…」
「!」
トールの首の傷がふさがり始める。
「…そうだ…影が壊したんじゃない…お前が壊したんだ…剣士…」
「…ナワルピリの影響か…」
「ここだ…俺が産まれたのは…100年前のフレイジア…!!」
「ようやくですね…貴方は魔人で…私の"息子"です」
あの時の影は…守ろうとしていた。
目の前の男から。
「…私が王を偽った事を根に持っているのですか?」
「…魔物如きが人間のふりをしてんじゃねぇ」
「…ふっ…もう過ぎた事でしょう」
「もう遅いぜ…元でも魔王の配下だ。消えてもらう」
「私はハイドさんと協力関係にあります。少し落ち着いては…」
「無理だ。これから邪魔になる」
「殺すっ…!!」
トールが背後を見せているハイズへ飛び掛る。
剣を抜き、振り下ろす。
「…」
背後を確認もせず、それを剣で受け止める。
「!」
「そっちこそ落ちつけば良いだろう」
家族を壊した、こいつを…
「…殺す」
「………言っておくがな、お前の親父は元々の王族を皆殺しにし、姿を偽って玉座に座ってたんだぜ、魔王になれなかった腹いせにな…先に恨まれる事やったのはそっちだ」
「!」
「……否定はしません」
「だから…これが罪滅ぼしだ。死ね」
「…わかりました…その代わり…トールは助けて下さい」
「そう言った奴を何人殺した?都合の良いやつだな……良いぜ。こっちの手駒になるならな」
「…感謝します」
シテンが素直に首を差し出そうとするのは、この男、ハイズ•ノードには敵わないという事を理解しているからだ。
自身の命で家族の命の救えるなら安いものだと、彼は判断した。
「いや…待てよっ!まだあんたには何も聞いてないぞっ!!」
「…ハイズさん。ひとつだけ訂正を…私
は魔王に憧れた訳ではありません。"人"に憧れたのです」
「そうか…無意味な事だ。これは俺の優しさだぜ」
「えぇ」
「まっ…!!」
一瞬で、シテンの首が跳ね飛ばされる。
(!)
「……この剣は100年間魔物の血を吸い、ただの剣から魔剣へと昇華した…が、どうやら魔力体じゃ無くなっていたみたいだな」
剣を収める。
「……」
「…お前だけには教えてやる」
「…」
「俺たちの目的は魔法消し、元の世界に戻す事だ。元の世界に戻るって事は…」
「魔物や魔人も死ぬって事だ。最後に残るのは人類。今死ぬか、後で死ぬかの違いしかないんだよ」
「…」
「やるか?」
「いや…アンタには勝てない…無駄死にになる…」
「利口だな」
「…アンタはッ…なぜそんなに魔物を恨む?」
「……人類のため。お前らと同じだ」
ハイドは目を見開き、目の前の敵に準備をする。
手が震える。
この時がくる事は理解していた筈だ。
筈なのに。
殺す覚悟をしていたのに。
躊躇なく斬ると決めていた筈なのに…
(弱いな…俺は…)
「"ミレラ"…」
「………」
戸惑い。
その横には、鏡の骸骨が立っていた。
タイタンの巨大な、大の男を簡単に覆える拳が振り下ろされる。
直撃すれば、強化していたとしても…致命傷は確実。
(だが違う…タイタンの強みはそこじゃあない)
速度は並以下、簡単に避けられる。
勢いのまま地面へと拳を叩きつけ、地面に巨大なクレーターができる。
「ハインツ、来るぞ」
「!」
その跡から、"ゴーレム"が出現する。
大きさはタイタンのちょうど半分。
それが三体、立ち上がる。
(奴は簡易的なゴーレムを容易に作り出せる)
ハインツとクリフの二人は、ゴーレムに囲まれる。
(簡単…)
「クリフさん、跳んで下さい」
「!あぁ」
魔力の剣を作り出し、刀身を伸ばし続ける。
「今!」
ハインツの合図で空高く跳び上がる。と、同時に剣を振りかぶり、薙ぎはらった。
「柔らかい…」
両足を失ったゴーレムが崩れ落ちる。
「!!」
切断までは届かなかったが、足首を深く開かれたタイタンがバランスを崩し、その場に倒れる。
「オオォオオッッ!」
「まだやる気か」
両腕を思い切り地面へ叩きつける。
今度はタイタン自身よりも巨大な土と岩の塊が出来上がった。
「……何度やっても…一緒だ…」
落下を始めたクリフがそのゴーレムの頭部へ剣を突き立てる。
「跳びすぎて正解だった」
…もうひとつの人影へと向かった、エンディとララルーフ。
彼女たちは…
「ただの魔物?手応えなしね」
「囮かしらぁ…これなら兵隊さんに任せても…」
「…いえ…上よ。エンディ」
空を見上げると一匹のガーゴイルが此方を見下ろしていた。
(傷跡や鱗の劣化具合から…かなりの長生き…手持ちの剣も古い)
「長生きって事は手強いって事ね」
「でもぉ…所詮は野生の魔物よ」
ガーゴイルが急降下する。此方に突っ込む気だ。
「はや…」
二人はそれをギリギリで避けると、攻撃をしようと体勢を整える。
「魔術師の仕事じゃ…!!エンディッ!」
「ちょっ!!」
ガーゴイルは突き刺さった剣を抜こうともせず、エンディへ拳を振り上げていた。
(早すぎる!!)
それを両腕で防ぎ、吹き飛ぶ。
「ハイズさんが言っていた鏡の骸骨の"魔力を与える力"…」
「た、多分ね…いっつつ」
もしも…全ての魔物に魔力を与えれるなら…
(真っ先に消すべきはその骸骨…)
「っ!エンディ…!」
「!?これは…!」
小さな針がエンディの首に突き刺さった。
ゆっくりと体を地に伏せた。