「記憶を書き換える、そんな事が可能なのか?ナワルピリ」
「不可能な事をわざわざ口にはしまい。魔法が最初から"あった事"にするんだ」
「なぜそんな事を?」
「……人類の進化のためだ。"本当に必要な物"に気付かせるため」
「はぁ…回りくどい方法だが…まぁ大体分かる。魔法が現れてから人類の技術の進化は著しい。最後の驚愕の発明品は火薬か?個人的には最近の戦術が……」
「はいはい多分な。手伝えよ、ハイズ」
「なぁ…なんでエルフのお前が人類の進化なんて言葉を」
「…例の男に、幾つか力を貰った。それと同時に…声が聞こえた」
「あいつが…声?とうとう呆けたか」
「真面目な話だアホが…こう…ひとこと…」
「"神を創れ"と」
「…………何から始める?」
「この程度ではない筈だ。ハイズ•ノード」
「…ガハッッ…!!」
口と鼻の両方から泥のような血液を吐き出す。
「何故だ…何故、手加減する?」
「…俺が…わざわざ死んだふりまでして…ここまで生きた理由は…"お前らを倒すためじゃない"…」
「…なに?まだ何か…」
「…渡すためだ」
笑う。
剣を杖になんとか立ち上がる。
「俺には扱い切れないこの魔力を…」
" 届けるため "
…彼は自身の胸に剣を突き立てた。
「…!!ほう…」
「なっ…!!なにやってんだ馬鹿野郎!!」
「受け取れ…ハイド」
魔力が傷口から少しずつ漏れ出し始める。
「……ナワル…ピリは"全て"知ってる…全部…奴に聞け…"ぜん…ぶ"…な……」
(なんという量…!恐らくは我が力が、まだ魔王の元にあった頃から…魔物を狩り続けたか…!)
彼はもう一言も発する事なく。地に体を打ち付けた。
「死ん…だ…?あっさりすぎる…この野郎…」
ハイズの体から抜け出た魔力が、全てハイドに乗り移った。
「………」
感覚で分かる。
"勝てる"と。
そうだ、意識など置き去りにすればいい。
ただ…正面に立っている敵に、当たるように突っ込めば良いだけだ。
"避けられない速度で"
(……消えた?)
ハイド•ノードは確かに目の前に、間合い内ではない、剣を振っても届きようのない距離…
なのに。
前面からの強烈な一撃に、ティトラカワンは吹き飛ばされる事を余儀なくされた。
(ほう……!!速いな…だが…)
肋骨の幾つかにヒビが入っている…受け身を取りすぐさま立ち上がる。
これでは足りない。
(もう一発…だ)
次は背後…
同じ…いや、先ほどよりも速い速度でティトラカワンの背後に回る。
(これでもまだ10分の1以下…!殺れる…!!)
「…!」
視界の端に一瞬映った…拳…だろうか。
恐らくはそれに顎を打たれたのだろう。
ハイドはその場に倒れこむ。
「理解していないな…」
拳を払う。
「その魔力は元を辿れば我のもの…我が魔力を与え続けている事に疑問を抱いた事は?魔力に"制限"はない。生み出し続けれる…」
「…っ」
「貴様の速度など簡単に超えられる。さぁ、幕引きだ。ハイド•ノード」
彼に声が届いていないのを理解した上で、声を掛け…手を振り上げる。
「残念だ……」
「……………ミレ…ラ…」
「!?」
関節
関節だった。
右腕の、骨と骨の間にレイピアが突き刺さり、動きを阻害される。
「まだ生きて……!!」
ティトラカワンが死んだ筈のミレラへと顔を向けると…確かに、動いた形跡はあったものの、確実に死んでいる。
「残り火……か…」
剣を引き抜く。
「…………立て、ノード…立たねば殺す」
「…………」(なに言ってんだ……敵だぞ……問答無用で…やれよ…)
「貴様が立てば、決着は此処ではなく、城にしてやる」
「………」
「それで良い……」
「…ハイドさんッ!!」
…目を開けると、ローザの顔が目の間にあった。
…目の前…
(俺…立ったまま…?)
「何が……いえ…大丈夫ですか?」
「……みんなは?」
「…………ハ……ハインツ…さん…が…」
「…なんだ…?」
「…この話は…後にしましょう。それより、傷だらけですよ…戻りましょう…」
ローザがハイドの肩に腕を回し支える。
「………まけた……完敗だ……」
「……でも死んでませんよ」
「…殺られてた…ハイズが…親父がいなけりゃ…ミレラが…」
「……」
「………奴には…奪われてばかりだ……何も守れず…取り返せず……」
「…ひとつ提案があるんですけど…良いですか?」
「………?」
「……わ…私…い、いえ。私達の事を、守って下さい。これまで守れなかった分。全力で……いや、ハイドさんは最初からその気だった事は知ってますがその…」
「………寝るから…….」
「え?何キロあると思ってんですか!?勘弁して下さい!」
「魔法で強化しろ……」
「苦手って知ってるでしょう?」
「…クリフさん。ここは僕に…二人は頼みます」
ハインツとクリフの二人は、エンディとララルーフが倒れているを発見した。
命に別条はないようだが、動けないのは間違いない。
「……あら……あのエルフの魔術師は…?」
「…」
彼らの前に立つ、一人の王。
「…毒の王だ」
隻腕の、骨と皮だけの女性。
「…頼んだぞ。気をつけろよ、ハインツ」
「えぇ…任せてください」
「……ナワルピリは?私の腕は…?」
「何言ってるんだ?」
「あなたから…私の腕の匂いがする…持ってるわね…?」
「まさか…"幻想の爪"か…?僕は持っていない。お前らがさらった子が持っているんだけど…なぁ!!」
片腕を払い、魔力の炎の波を放った。
「…」
「!?」
炎に包まれるが、傷の一つも付くことは無かった。
(魔力体じゃない…か)
「……あのハーフエルフの女が……?持ってる…?……ティトラカワン…何を考えて…」
(…何言ってるんだこいつ…次はこれだ…)
目に負えない早さで空いていた片方の腕に魔力の剣を生成。刀身を伸ばして毒の王へ振り下ろした。
「……おっと…」
「くっ…!」
避けられる。
「……まぁ…消えてもらいましょうか…勇者様…?」
そう言うと王は、何処かから無数の針を取り出す。
「…」
その針が紫色に染まっていく。
(…毒…間違いない…)
「…あげる…」
無数の針が、一回の動きで一斉に飛んでくる。
「!!あら…?」
それを魔力の壁で防いだ。
「……見えない魔力の盾ってとこ……か…」
「フゥ……」
奴をやるには切るしかない。直接。
(それか基本的な魔法を使うか…いや、威力が足りない)
(…"あれ"使おう)
彼が選んだのは禁術…詠唱魔法。
思い出した二つのうち一つ…
「あ……そうそう……」
「……?」
「さっきのエルフ…死ぬから…」
「…なんて言った?」
「死ぬと言ったの……解毒不可の"お手製"…じわじわと逝く…」
「……」
「…私を殺せば…解けるけどね…」
「…!本当だな?」
「嘘は言わない……それが私達…」
…これでハインツが逃げるという選択肢を失った。
お互い、どちらかが死ぬまでこの戦いは続くことを意味する。
(…なぜなら此処で消せって命を受けたから…仕事はちゃーんとしないと…ねぇ…)
お互い退かない。退けない。
「ほら…次々…」
先ほどと同じように針を投げる。
(防ぐ…いや…避ける…)
残りの魔力からして、防御の一手ではこちらが追い込まれるのは必須。
ならこちらが攻め、出来るだけ素早く終わらせる。
だが、相手は王の名を持つ。一筋縄では行かない。確実に。
「…なら…」
剣を生成。そして
「こっちもだ…!!」
魔力の剣を投げる。
「!」
魔力の消費は激しくなるが…効果的だ。
「くっ…」
肩を掠め血を流す。
(もう一度…)
今度は剣ではなく短剣サイズ。身体を強化して投げる。
「っ!」
投げようとした瞬間。右足に鋭い痛みが走る。
「これは…フレイ?」
木の枝が突き刺さっていた。
振り向くと二人。
フレイとその姉が立っていた。
「……まさか…!」
「…魔人も魔物…操れない筈がない…ということ…」
数分前のトール、フレイ、フオン、ローザ。
その場に2体の魔物が現れた。
そして、それに気付くのが遅すぎた。
既に片方の魔人がフオンよフレイの身体に触れていたのだ。
「……そっちのは?」
トールを見て片方の魔物が言った。
「あれは…魔力が足りない。早くして」
「わかった…よ」
「…消えた…?大丈夫か?二人とも…!」
二人に歩み寄る。
「ちょっと待ってください。様子…おかしくないですか?」
足を止める。
「……おい、どうしたんだ?」
「…」
「返事が無い時点でおかしいですね…シテンさんが言っていた魔物を操る魔物でしょう。どうします…?」
「……どうって…ん…?」
突然二人が走り出した。
「…!あっちはハインツさんがいた方です!!」
「っ!!止める!!」
トールは剣を抜かず素手のまま二人に向かっていく。
「……?」
トールの視界が一瞬。赤と白で埋め尽くされた。全身が動かなくなり、勢いをそのままに倒れる。
「…ガッ…!?」
「トールさん!?なにが…」
「……クッソ…俺の前を男が通った…お前はハイドの方へ!!俺は二人を追う!!」
「…わかりました!!」
「……なんだ…さっきのは…」
飛びかかったその時、確かに目の前に男が現れた。そいつに肩か何処かを少し触れられた瞬間、全身に衝撃が走り、動けなくなったのだ。
「とにかく…!!」
いまだに痺れは残っているが、動けない程ではない。なんとか立ち上がり、二人を追った。
そして、今に至る。
(…二人は魔人だった…という事か?)
「どうする?勇者様、今の状況…」
(魔物を操る魔物に操られているか…それとも奴の毒か…どちらだ…)
「………それじゃあ…やっちゃって」
王の合図で二人は魔法を発動させる。
雑草は巨大なムチに。種は巨大な木に姿を変える。
そして迫り来るムチに、頬を掠める。
「っ…!!」
それを炎で焼き尽くす。
だが次の攻撃が既に迫ってきている。
恐らくは地中深くに眠っている根も既に動き出している。
「く…っそ!!」
蔦に腕を掴まれる。
「ハインツ!!」
「!」
その蔦が両断される。
「…!!トール!?だったっけ」
「あぁ……すまん。知らないかったみたいだな…あの二人は魔人で…操られてるみたいだ」
「…魔人か…そうか…!!」
ハインツの目に確かに映る。
顔をフードで隠した、フレイの姉の顔を…
植物の魔人。
(……)
彼の"殺し"の対象だった。
「ハインツ?」
「………戻す方法…あると思う?」
「恐らくは…操ってる奴を始末すれば…」
「だよね…探してきてくれる?三体とも…僕が止めておくから」
「…いいのか?わかった。気をつけろよ」
トールは跳躍により一瞬で離れた距離まで跳んだ。
ハインツはトールの姿が見えなくなったのを確認すると、毒の王に言った。
「逃げるなら今のうちだ」
「…お互いに…逃げれない…でしょう」
「あぁ……」
剣を地に突き立てる。
「逃がさない」
圧倒的、攻撃的"詠唱魔法"
この詠唱魔法は彼の父が独学で創り出したものである。
「なにを見せてくれるの……?」
「 " ヨナデスパトリ " 」
ただ一言、心の中と外で同時に唱えるだけで…それは発動する。
勇者の一族特有の、"限りなく神の魔力に近い魔力"。それを持つものだけが使える…
「…!?それは…なに…?」
全身を"白い炎"が包み込む。
「これは…魔力の最大容量を永久的に下げる代わりに…一時的に"血"の記憶を呼び覚ます」
「?なにを訳のわからないことを…」
「……要するに……今の僕は…」
剣を地から抜く。
「初代勇者と同等だ」
「!?」
突然、王の前に"山"が出現する。
(なに!?これは…地魔法!?姿を隠すために?)
どうするべきか思考を走らせる。
これまでの経験から答えを探し出そうとするが…
(…惑わすため…?どこか別の場所から…奇襲…?)
「…?」
一滴の汗が額から頬へ伝って流れ落ちる。
「……?」
…違う、これは同様による汗ではない。今の自分は至って平常心…ならなぜか…
(暑い…)
…そして気がつく。山の向こうに"もう一人の太陽"ができていることに。
「………炎…魔法…?」
「当たり」
「!?」
光が放たれたと同時に。
王が立っていた場所、それと山が爆散する。
「…やりすぎたかな…」
跡形もない。
残るはクレーターのみ。
「…さて…残るは魔人二体…」
「…」
「恩はあるし感謝もしてる…けど…言っておくけど」
「…」
「邪魔をするなら…消えてくれ」
剣を振るう。
…事態は収まった。
兵や市民の死者は奇跡的にゼロ。
だが…
「……フレイとフオンが姿を消しただと?」
「…うん」
気絶から目を覚ましたハイドの隣に座るハインツ。この件での情報を交換していた。
「……死んだ…ってことじゃあ…」
「うん。生きてると思うよ。フレイは強いしね」
「あぁ…そういえば。他はどうなった?」
「…シテンさんと君のお父さん。死者はこれだけだ。奇跡だよ」
「……そうか……」
ベッドから立ち上がる。
「今度はこっちから行くんだろ?」
「うん」
「早くしようぜ」
「うん」
「俺にはわかるぞ」
「なにが?」
「お前の目が曇ってる」
彼は答えない。
いや、答える間を与えずにハイドがその部屋を去ったのだ。
「!」
ハイドは部屋を去ったあと、元城の前に市民や兵が集まっているのを見た。
「起きたか。ハイドくん」
「…クリフ」
「ハインツの変わりように気づいたか?」
「まぁな」
「…アレは禁術の対価だ。魔力の容量を下げる、すなわち精神、感情に影響を及ぼすんだ」
「…本当にそれだけか?」
「…怒り…怒りは感情の中で最も強い。朝飯を食べてすぐに朝飯はまだかと問う老人でも、憎むべき者の事だけはしっかりと覚えている」
「…」
「あいつを狂わしているのは怒りだ」
「………俺より酷いな」
「君が強すぎるんだ」
聞いてみると、二週間以内に全勢力で魔王の城へ進攻を開始するらしい。
それまでに装備と人員を掻き集める必要があるとのことだ。
「二週間…?」
「ああ。回復と立て直しにかかるギリギリのラインだ」
「……他の奴は何処にいる?」
「皆バラバラに休んでる。俺も用事があるんでな…」
クリフはその場から立ち去った。
「…」
集まっている理由が気になったので、足を運んでみる。
「……」
二人の男が何かを叫んでいるのが聞こえる。その声には何処かで聞いた覚えがあった。
更に近づく。消えがはっきりと聞こえるようになる。
「…だから寄るなって!!火傷するぞッ!!」
「横で騒ぐな馬鹿弟者が!」
人ごみの中央に…
「……鍛冶屋のおっさん……」
「!お、ハイドのじゃないか。活躍は聞いてる」
「なに、お前あった事あるのか?」
「そりゃあここの騎士様だぜ…スティーブの奴の同僚だよ」
「…そうか」
ノイベルク兄弟。
弟は"スティーブ•ノイベルク"の父。兄はスティーブの叔父にあたる。
「…やっぱり…血が繋がってたか…てか何でこんな場所で剣打ってる?馬鹿か」
「屋根が無いからだよ馬鹿が」
「よせ集めで工具を揃えた。あとは壁と屋根だけなんだが…」
「…なんでこんなに見物人が?」
「わかるだろ…鎧を作ってんだよ。騎士団のな」
「……赤い…鎧…」
確かに、周りを見てみると…自身が着ているものと同じ物がいくつもある。
「熱が上がり辛いせいで遅い…だが…動き出すまでには…」
「眠った獅子を…」
槌を振り上げ
「呼び覚ますんだよ」
鉄板に振り下ろす。
「…」
「ところでハイド。刀を見せろ」
「…ん?あぁ」
鞘に収めたまま受け渡す。
「…俺が渡した時と全く変わってないな」
「何でできてる?」
「…普通の素材で、何年も掛けてな。これ、元々はお前の親父さんのものなんだぞ」
「…そうなのか?」
「…あぁ。俺がまだ駆け出しの時に…預かっといてくれってな。造ったのはうちの先代らしい」
「ちょっと貸せ」
兄が弟から刀を雑に奪う。
「使った痕跡がないが?」
「…?何を言ってる」
「いやいや…俺がやった細工がだな…」
「細工だと?聞いてないが」
「……あの時、鉄の街で…魔法を付与してちょっとした魔具にしておいたんだが」
「俺は魔力を持ってない。使えないんだよ。魔具はな」
「はぁーー…損した」
「…因みにどんな魔法を?」
「折れなくなる。ま、そもそも必要無かったみたいだが」
「折れなく…?」
「ちょっと語弊だな。身体強化と似てる」
「ふーん…」
「物体強化か?無粋だな。そのままが一番綺麗なんだよ馬鹿兄が」
「おぉ?やんのかオラ」
(そう言えば…騎士団はどういった状況なんだ?やはり解散しているのか…)
と、その時、背後から誰かに肩を叩かれる。それに反応して振り返る。
「…"ドーグ"?お前…!」
「お久しぶりです。ハイド隊長」
ハイドが騎士団で魔具が持てる程に出世した時、一番に下についた部下である。幾度か剣を教えた事があるくらいだが…
「……隊長が去ってから色々ありました。まぁ行ってしまうと騎士団はバラバラに。それでも…みんなに黙って団長達を追った貴方の帰る場所を…守っていました」
「…」
「まぁ要するに"元"騎士の集まりですね」
「……ありがとう」
「それで…王がいない今…どうしようと勝手なんですよ」
「…?」
「騎士団をここに再結成。そして貴方は…」
「騎士団長です」
「あれ…ハイドは?」
トールがハイドの眠っていた部屋の扉を開けた。
「もう起きたよ」
「ハインツだけか?どこに行ったかわかるか」
「いや。そこまでは」
「そうか…じゃあまた後で…」
扉を閉め、去っていった。
「………」
ハインツは見逃さなかった。
揺らめく彼の影を。
「あれ、ハイドさん。もう動けるんですか?」
「ローザか。もう大丈夫だ」
「てか何やってるんです?あの集まりは…」
ハイドは瓦礫に腰掛け、先ほどの集まりを遠くから黙って見ていた。
「…喧嘩だよ。野次が集まってるだけだ」
「えぇ…そんな状況じゃないのに。で、何してるんです?」
「……俺が騎士団長だってよ」
「赤獅子王騎士団のですか?」
「知ってるのか」
「知ってるに決まってるじゃないですか!グスタフさんとハイドさんが私を助けてくれた事覚えてます?」
「魔人との初遭遇の時だろ。覚えてるに決まってる」
「あの時からですよ」
「何が」
「騎士ってかっこいいなって」
「そうか」
「空綺麗ですね」
ローザが空を見上げて言う。急になんだと思いつつも、ハイドも顔を上げて空を見た。
綺麗だった。これまでにも幾度も見た事がある筈だが、特別綺麗だった。
そしてふと、騎士団にいた時の事を思い出した。
この空と同じくらの晴天。いつもの五人で隣の国にまで行った事があったのだ。
「…」
「ハイドさん?」
「そう言えば……お前ってどっから来た?」
「なんですか急に…私は一応フレイジア出身ですよ」
「え、そうなのか」
「ただここの街じゃないですよ。端っこにある中級の街です」
「……」
なんとなく…いや、ハイド自身理由が分からないが、ローザの横顔から目を離せなかった。
(いや、そうだ……似てるんだ。ミレラに)
「…なにかついてます?」
「…!いや、何も」
目をそらす。
「……ねぇ、ハイドさん」
「ん?」
「…好きって言ったら。どうします?」
「…え?」
トールは先ほどからハイドの姿を探すが見当たらない。何やら騒がしいが、ああいう場所はハイドは嫌っている事を知っていたので探しすらしなかった。
それが間違いだった。
「…」
殺意。
首筋に走るその悪寒の原因は、間違いなく先ほどから自身をつけてきている者だろう。
(こんな所で…いったい誰が…いや…)
予想はできる。
フレイとフオンの不可解な失踪。
ハインツを問いただしてみたが"分からない"の一点張り。しまいには操るっているのを止めれなかった君が悪いと言ってきた。
(あいつが殺した…って可能性もある)
だが、ああなってしまっては仕方がないと言える。操られているとは言え殺しにかかって来ていたのだ。
手を抜けばハインツは死んでいてもおかしく無かった。
なら、なぜトールは…
「ハインツ」
彼に狙われるのか。
「わかるんだな…」
理由は単純…
「何か用か」
「魔人には死んでもらう」
剣は既に抜いていた。
(いつばれた…?)
あの一件から自分の中に眠っていた"自分の魔力"が存在していた事に気がついた。
その魔力を自分で制御できていないため、時折自分の影の形がおかしくなる。
(恐らくはそれを見られた)
「……魔人?なんの事だか」
「…」
聞く耳を持たず、問答無用でハインツはトールに剣を振り下ろした。
(…無駄…か…)
それを剣で弾く。
「!」
その衝撃は凄まじく、手に大きな痺れが走った。
「…力任せの太刀。頭冷やせよ。勇者様」
「僕は冷静だよ」
"魔力の炎"
彼は一瞬でトールを消し炭に変える気だった。
「…………なんでそんなに恨んでる?」
「…貴様らは大切な人を二人も奪った」
「二人ね…片方は連れさらわれただけでわかんないんだろ」
「…」
「それに俺がやった訳じゃない。理不尽すぎないか」
「でも殺す」
「"殺したいだけ"だろ。冷静になれよ」
「僕は冷静だ。"ヨナデスパ–––「ハインツ」
「!」
「やめておきなさい」
いつの間にかハインツの背後に立っていたララルーフが腕を掴み、止めた。
「あなたはそれを使う度に人間から離れていく。分かってる筈よね」
「……放っておいてくれませんか。敵が目の前のいるんです」
「彼のことなら敵なんかじゃない。それも理解しているでしょう」
トールは剣を収めた。
「しっかりしなさい…貴方を必要としている人が山のようにいるのよ?」
「……"今"は、やめておきます」
手を振り払い剣を鞘に収めた後、彼はその場を去った。
「…かなり来てるな、アイツ」
「できるだけ顔を合わせないようにして。今の彼の状態が民に知れたら大変だから」
「…なぁ。俺って魔人なのか?」
「言っていいの?」
「あぁ。確認に過ぎないしさ」
「人間の血が濃い魔人といったとこね。肉に染み付いてる魔力が薄いわ」
「気休めだな。あと、俺はここにいて良いのか?」
「みんなを守る気があるなら誰も文句言わないと思う。ハインツ以外…でも、ハイド君には話したのかしら?」
「まだだ…」
「聞いてみなさい。さっきあの集団に混じってるのを見たわよ」
「そうか…ありがとう」
「………」
「……」
ハイドはまた一人で静かに空を眺めていた。
「!トールか」
「あの勇者様怖すぎるぜ」
「何だよ急に」
その隣に腰を下ろす。
「お前が魔物を好いてない事を分かった上でキッパリと言っちまうがな」
「?」
「俺、魔人だったっぽいわ」
「…俺は共存の道もあると思ってる」
「反応うっすいな」
「お前はお前だろ。種族はどうでも良いさ」
「…そういうもんか」
「……だからさ。契約は破棄しよう」
「…魔王討伐までの契約を?」
「あぁ。雇い主と雇われ。上下関係はなし。対等だ」
「お前何かあったのか?」
「あ?何でだよ」
「なんか……ついて行きたい気分だ」
「…」
「勘違いすんなよ」
「しねーよ」
「毒の王が死んだ」
雷の王であるトロケが魔王にそう直接伝えた。
「…そうか…」
「……」
分かっていたかのような様子。だが、悲しんでいる様子でもある。
そう、魔王は毒の王を"必要な犠牲"だと判断した。いや、そもそも攻撃に行かせた時点で命を落すことまで予想をしていた。
全ては相手の力を知るためだ。
「……無駄にはしないさ」
「…」
それを他の者も理解し、納得していた。
彼女は協調性が全くと言って良いほど無く、足手まといだったと言っても過言でも無い。
だが、それでも
魔王は涙を流した。
(……わざとらしいな)
トロケは知っていた。
嘘泣き、悲しんでいる演技に過ぎない事を。
(王が一番信用を置いているのは王自身…それはティトラカワンを含む己だけ…)
それでも…彼のために命を捨てる考えは誰も変えない。
「…さて。防御を固めようか」
「あぁ。俺は何をすれば良い」
「ただ守れば良いんだ。城をね。それはみんな同じ…ただひたすら待つんだ」
「!」
牢屋の中で無言で座り込んでいたオリーヴァの前に、二体の魔物が現れた。
一方は子供のような、残る一方は自分をさらった魔物だ。
「…ティトラカワンは処分したって言ってなかった」
「うん」
「まぁ良いか…協力してくれない?」
「はっ…私が魔物に?嫌よ」
「君だってハーフエルフだろ?魔物だよ」
「私は人間の血が流れてる」
「僕もだよ」
「!…魔人なの?」
「うん…王の血を持ってる」
「魔王と人との子供ってこと?」
「正確に言うと先代魔王と人との子。今の魔王は義理の兄に当たるってこと」
「それが私に何を?」
「話したい人がいる」
「話す…?」
「君の持ってる治癒の鎧は…」
「僕の母だ」