「おはようハインツ様。準備は宜しいかしら?」
「うん。魔術の勉強、ちゃんとやってきたよ」
「それじゃあ…見せてもらおうかしら…」
魔術の師…"ララルーフ"
美しい長い金色の髪は、皆の注目を集めていた事をよく覚えている。
話術の次に苦手だった魔術を続けられたのは、この人だったからこそだろう。
その日教えて貰ったのは基本的なもの…
本当にいるのか分からない精霊の力を借り、自身の魔力を捧げて炎や水を生み出すというものだった。
「…ダメね、それっぽっちじゃお湯も沸かせないわ」
「…」
「でも、最初しては上出来かしら?」
「本当に?」
「魔力が少ないのは気になるけど…そこも鍛えられるし、結構いい線いってるかしら」
「魔力って増やせるの?」
「当然よ、魔力は精神。健全な肉体には健全な精神が宿る…要するに余裕を持てばいいのよ」
「へぇ…」
「それではもう一度、祈るのよ」
毎日十時間以上にも渡る訓練…僕は決して嫌いでは無かった。
他の人にこう言うといつも"馬鹿"と呼ばれたが、それも別に嫌では無かった。
何故なら、父に幾度となくこう言われたからだ。
『護りたいものがあるなら、決して人を疑うな。そして、自分を馬鹿にする者の声など聞くな』
『もしもの時の為に…備えるんだ』
今思えばメチャクチャだ。
父は勇者の称号をもらえるだけの実力は確かにあったが、数十年の人生でそれを存分に発揮できるチャンスは無かった…
甘ったれた…何も知らない人…
「父さん」
「どうした?」
それは訓練が終わって、休憩中の事だった
派手に装飾された父の部屋でだ。
「父さんの父さんってどんな人だったの?」
「初代勇者か?そりゃもうみんなの憧れの的…英雄って言葉がよく似合う」
「強かったの?」
「当然だ。最後は一人で魔王を封印したんだからな」
「…会ってみたかったな…」
「何処にいるんだかな。ま、そのうち会えるさ」
父が産まれて六年目、突然姿を消したらしい。
一本の、剣を残して…
「父は私が幼い頃こう言った。"この剣を守れ"と。守る為の筈の剣を…その次の日に姿を消したんだ」
「……」
僕が…何かを言おうとした時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ…急ぎかな?」
「…失礼します。ハイズ•ノード様がお呼びです」
「あいつがわざわざ隣国まで来いって?…断れないな」
「誰なの?それ」
「友人だよ。…少しの間、留守を頼んだぞハインツ」
「母さんに黙って行っちゃうの?」
「もう夜遅いからな……またな」
フレイジアまでは一ヶ月近く掛かる。
父が帰ってくるのが……待ち遠しく感じた。
「ふむ……」
「………」
一ヶ月が経った
父が帰ってくる事は無かった。
いや、帰ってはきたが
「左肩口から斜めに入り腰まで…」
目を開かない
「クリフ…父さん、どうしちゃったの?」
まだ僕には……"死"というものがよくわかっていなかった。
「……死んだんだ、誰かに…切られた…」
「死ぬって?」
「…もうこいつがお前にしてやれる事は…無いってことだ」
「…………」
父親らしい事は何もしてくれたら無かった。
だが、決して嫌いでは無かった。
優しかったのは、間違い無いのだから。
「こいつは……親父に愛情を注がれ無かった。お前を…どう愛せば分からなかったんだろう…馬鹿な奴だよ…」
葬儀は迅速に行われた
城で、盛大に。
父が眠っている棺桶に人々が群がる…
見たこともない人が多かった。
赤い鎧に身を包んだ男性…
何処かの王女様のような美しい女性…
彼は慕われていたのだろう。
「彼は間違いなく初代勇者様に近い実力を持っていた…」
「その彼を仕留めた者……備える必要があるわね」
「そうねェ」
三人のエルフは隠れて話をしていた
「ララ…」
「何かしら…クリフ」
「ハインツに"アレ"を教えるんだ」
「……えぇ」
「アレェ?」
「貴様もわかってるだろう……"詠唱魔法"だ」
数日後、僕は正式に勇者の剣を継いだ。
黒い…剣を。