※この作品はR-18です。

もんくえ津々浦々【R-18】   作:点=嘘

4 / 7
幕間の枠では初投稿です。詳しくはあらすじ後半の更新部分をどうぞ。
また、こちらが2話連続投稿の1話目です。

推奨読了話数:54話


幕間1-a(推54)

 

 これは、果ての見えないこの体の治療の旅に臨んでいる、俺とウィルム娘との間に起こった荒野での一幕だ。

 

「なに、する……仕事、あるか……」

 

「ああ、いや大丈夫だ。今はちょっと点検をな」

 

 棺桶からむくりと起き上がったウィルム娘のゆっくり開いた虚ろな瞳と目が合う所から、話は始まる。

 以前と比べてプロメスティンと会えない日々がはるかに長く続くようになったこの旅でつくづく大変に思うことは、術式等の管理に要求される諸々の複雑な調整を頼りっぱなしにできる相手がいないということだ。

 

 故に生前とは変わり果てゾンビになってしまったウィルム娘に掛けられた術式や肉体の修繕も、おおむね俺の仕事になる。

 今の俺は複雑な死霊支配の術式を完全に把握できているわけではないが、それでも多少の不備の調整程度は十分に出来ると自負している。深刻な欠陥が見つかれば時々顔を見せてくれるプロメスティンに見てもらえれば済むことだし。

 

 それに”必要なこと”として車椅子から立ち上がって色々と作業ができるのも良い気晴らしになっている──無論、周囲の安全を確保した上で万全の注意を払っての事だが。

 俺は現在とある切り立った断崖地帯の岩陰で小休止をしていた所だ。電動ならぬ魔導動力式とはいえ車椅子での(ほぼ)一人旅は相当疲弊を強いられる。結局は自分の力で動かしてるわけだからな……まあこうして視界も通らない静かな場所に留まれたのはありがたい。

 

「はい、あーん。……う〜む」

 

「あーん……」

 

 脳の働きを直接補助する喉奥の魔法陣に杖を当てつつ観察内容をメモしながら思う。目の前にあるのがあのウィルム娘の死体というのは本当に妙な気分だ、と。

 彼女が死亡した時点でこっそり持ち帰ることを考えてたらしいプロメスティンの仕込みにより保存状態は良好で、ゾンビらしからず目に見えた欠損部位などは見当たらない。流石に大きく裂けた踵の縫い目や致命傷となった胸の刺し傷はそのままだし、血色は悪いを通り越して茶色にまでなってるが……むしろエリックの奥義”弌突(ヒトツキ)”が刺し込んだ爆熱が内臓をごっそり消し飛ばしていたせいで防腐処理がずいぶん楽だったらしい。

 

 んな分析を淡々と語るソイツも、あんな顔しといて実はエグいとかそういう次元ではない技を振り回していたらしいアイツも、それを食らってしばらく生きてたコイツも俺の理解を超えてるとしか言えんが、にしてもこの世界のゾンビってのは不思議だ。

 

「なァ……ご主人さまァ……」

 

「ん……?」

 

「あたし、なんか忘れてる気がする、んだよ……なにかに焦がれて、そればかり……追いかけてた記憶が……なにか、だれかを、さァ……」

 

 はぁ、気が滅入る……。

 

 そうだ、割と生前の記憶があるのだ。このゾンビというものは。都合よく人格をリセットして完全に服従させるとか、そうキチッとスイッチを切り替えるみたいなことは意外にも難しいらしい。まあ命令を跳ね除けて自我を優先する程の記憶なんてものまでは、消すまでもなくそもそも残りにくいという話だが。

 

 というか長期保存した死体のくせにヤケに瑞々しいんだよ。もっとこうミイラみたいなしわしわ加減になって然るべきだろうに、見る限りだと多少劣化する程度で肌にハリはあるし眼球も潤っている。

 本当に死体の姿だろうかとは思うものの、これはプロメスティンの技術力がおかしいわけでもなくゾンビっての自体がそういうものらしい。魔素を湛えた一種の独立生命、二次生体とも区分できる存在であるが故に、操り人形みたく単純に死体を動かされているだけの状態とは場合が違うと考えた方がいいのだそうだ。

 

 ゾンビはゾンビで生きている……生きているというか、存在的には死体の方が近いけど、振る舞いは生者の方が近いというか? ここら辺を噛み砕いて説明するのは面倒だが、まあそういう風に考えておけばいいだろう。にしても……

 

「あー、うー……」

 

 こいつの死に際は俺も見ていた、目の前で。

 

 戦士として、魔物として、エリックという最大の好敵手の腕の中で息絶えた彼女の最期は理想に近いものだったろう。

 その最期を俺は自分の都合で捻じ曲げ、無理やり現世に繋ぎ止めてまで晩節を汚すような仕事を押し付けている。これはウィルム娘という一匹の魔物に対しても、それに相対したエリックに対しても不義理な行いであるということは明白なのだ。

 

「…………」

 

「ぐぁ……?」

 

 だから、そう。いくら筋肉質な肢体と肉感ある素肌を晒したデカ女(ドラゴン属性)が目の前で無防備に首を傾げているからって、それに何らかの情念を抱くことなんてあっちゃならない。

 大体俺にはプロメスティンが、いやそれもちょっとおかしい話だが、しかも相手は冷たい死体で、何より俺たちの元敵だ。俺は一度こいつの一味に殺されかけてすらいるんだぞ。

 

「……ほら脇あげて、はい閉じて。翼膜の筋肉よし……鼠蹊部、の関節よし」

 

「くぁ、ぐるるる……揉むな、くすぐったい……」

 

「ば、馬鹿……解(ほぐ)してるだけだろ、どこもかしこも固えんだよ死体なんだから……」

 

 いくら俺がれっきとした成人男性で、ましてや以前のプロメスティンがいてくれた時の(性)生活水準との格差に体が慣れていないからといって、それだけで滅多なことを考えたりすることなど”絶対に無い”。

 一旦そこは保証させてもらいたい。それは精神年齢込みならとっくに諸々のパワーの衰えを感じ始めるゾーンに足を突っ込みかけてるからだろとかそういう次元ですらなく、マジレスすると「そもそもこんなことで理性が揺れてるようじゃどっかでとっくに廃人にされてる」というこの世界の身も蓋もない現実に帰結するためである。だから俺みたいな甘ちゃんでも否応なしに精神は割と鍛えられんだよ。

 

(ただ……)

 

 ただ、今回のケースばかりはそれだけで話がつくほど単純じゃない。

 

 操り人形みたいに動かしてるわけじゃないってのも良し悪しだ。ガソリンも入れずに自動車を動かすことができないように、いくらゾンビでもノーコストで所有者を献身的に守ってくれるわけじゃない。まあ他にも色々と手はあるんだけど圧倒的に手っ取り早い方法はあってそれがどういう事かと有り体に言えば、

 

 定期的に精液を摂取させる必要がある、ってこと。

 

「…………」

 

 実のところヨロギ村にいた時からそういう仕組みの研究は割としてて、入り用になるたびプロメスティンが搾り取ってくれた、というか搾り取”られていた”んだけど……あまりあいつと会えない今や俺が一人でこいつに精液を飲ませないといけないのだ。

 支配下のゾンビとはいえ魔物の近くで耽るのは危険すぎるので棺の中で眠らせてる間に自慰をして、目覚めさせたら試験管の中に出したそれを飲ませて……そんなことをずっと今まで俺は一人で……

 

 普段は生気の抜けた無表情のウィルム娘がその時ばかりは心なしか嬉しそうな表情を浮かべて、こくこくと喉を鳴らして俺の精液を嚥下する。そんな背徳的な行為を何度も無抵抗で受け入れられると流石に何か変な気持ちを意識してしまう……

 

 なんてのは至極当前な事のはずだ。

 

 そう、当たり前。だからこそ、俺は、それ以上に何か情緒を揺さぶられたりなどをしたりするべきでは断じて無い。いいか分かったか。いいな。よし。

 

「……はい、終わり。あとは経過観察だから処置が馴染むまでしばらく待機だ。お疲れ」

 

「わかった……」

 

 翼を折り畳み、岩肌の上にごろりと丸くなって寝転がるウィルム娘を見ながら俺も再び車椅子に腰を下ろす。

 

 ああ、憂鬱だ。特に定期的にオナニーするのを義務付けられてるってのが地味に嫌だ。世界観はエロエロのくせに暮らしが暮らしだから軽率にネタを手に取ることもできないし……襲ってくる野良の魔物を思い出してするのもなんか敗北感があって嫌なんだよな……

 かといってプロメスティンとの事とかよりいつも見ているウィルム娘の身体を思って抜く割合が明らかに増えてきてるのもヤバい傾向な気がする。だってこいつ乳とか股とか鱗に覆われてないとこ普通に見えてんだもん……なんか着せようとしても野生のサガなのか「そればかりは」と嫌がるし……

 

「はぁ」

 

 重ねて言うが、俺はネクロフィリアではない。だが気分を都度切り替えていく必要は流石にあるということだ。

 

 こんな時はとにかく時間を潰すに限る。そういうわけで俺は山のように付箋を盛り付けられた一冊の冊子を荷物の中から取り出した。

 これはプロメスティンが言うところの「仕様書」で、今ウィルム娘に掛けられている死霊術の構成や仕掛けやらが事細かに記載されているものだ。こんなものが必要になるということは俺の理解がまだ足りていないということなのだが、あまり激しく動けない以上は気晴らしになるだけありがたい。

 

「どこまで読んだっけな、えっと……」

 

 たった一匹の死体を操るだけの方法を書いた冊子でもこの付箋の量、魔の道とはいと深くあるものだ。

 基本的な維持管理についての項目はマスターしたことだし、少し応用を効かせて魔法的な制御を含まない簡易命令系でもさらってみるか。これをきちんと理解しておかないと咄嗟のことで命取りになりかねん……口頭で「取り押さえろ」などと主語を省いた命令をしようものなら目の前の相手じゃなく俺が組み伏せられる、なんてクッソ間抜けな事故が起こる可能性もあるからな。そんな死霊術師は存在せんと思うが……

 

「ん?」

 

 そんな時ふと目に留まった、ある一文。まるで何でもない事のように書かれていたそれを見た瞬間、ページを捲る手がぴたりと停止した。

 


 

 // 私が必要になった場合

 


 

「っえ……?」

 

 なんだ、なに、それって、どういう。

 お前のことを必要としなかった事なんて今まで一度だって無かった。今この瞬間、お前がいないこの旅を続けることをどれだけ寂しく思ってるか……

 

『音声認識:[私の名前] + [任意の呼び掛け(pleaseの意)]に伴い処理を実行, 注* 実行にあたり以下のプログラム文より内容の概略を確認すること……』

 

 息が上がる。心臓が跳ねる。その何とも淡白な文面で俺の頭は一杯一杯になっていた。

 もし今ここでプロメスティンに会えるんだとすれば、それは必要でもないのに天界にいる彼女を不意に呼びつけることになり、それは俺たちを互いに危険に晒すことになるのかもしれなかった。そう、でも、だけど……

 

(……お前が、恋しいよ)

 

 この時の俺は全く冷静ではなかった。極端で軽率なことをしようとしていると後になったらすぐ分かる。それは理性という縁からあぶれた、彼女が最も嫌う類いの習性だから。

 

 だけど、それでも。

 

「……プロメスティン」

 

 縋るような、ほとんど祈るような心持ちで。

 その”指令”を俺は口にした。

 

「頼む……」

 

 そう、俺はこれが『ウィルム娘に組み込まれたもの』に対する指令だということすら頭からすっぽ抜けていた。これがどうやってプロメスティンを必要とする俺の思いを満たすことに繋がるのか、そこを全く考えていなかったのだ。

 

 

「メッセージは自動で再生されています」

 

 

 俺の”指令”を耳にし、脳で理解したウィルム娘が今までの様子と異なる滑らかな口調でそんなことを口にした。

 すやすやと眠るように横たわっていた状態からカッと目を開き、機械的な動きで起き上がる。なにがなんだか分からず困惑する俺に向かって「彼女」は次のようなセリフを続けたのだ。

 

『ガガ、キュ……えー私です。プロメスティンです。まずは当プログラムの起動が事故による物ではないことを願うばかりですが……』

 

 首から上をぐたっとした感じで不安定に曲げたウィルム娘のその口調は、声が違くてもはっきり分かる。プロメスティンのそれだ。口ぶりからしてどうやら会話ができるわけでもなく、一方通行の録音じみた方法で言葉を残しているに過ぎないらしい。

 

 ほんの少しだけ落胆する反面、なんて軽はずみな事をしたのかと焦る気持ち、それが杞憂だったようで安堵する思いが同時に湧き上がってくる。そうだよな、プロメスティンがそんな大胆な仕掛けを何の説明もなく黙って残していくはずがない……こうして声が聞けるだけでも十分だと考えるべきだ。

 だけどどうして? ボイスレコーダーの代わりになるような魔道具なんて俺でも作れる程度のものでしかない。ただ声を残すだけならわざわざゾンビの身体に条件付きのプログラムなんて組み込む必要はないはずだ。

 

 そんな事を怪訝に思っていると、案の定ウィルム娘の声帯を借りてコイツはとんでもない事を言い出しやがった。

 

『それでは音声認識に従い搾精プログラムを実行します。既に衣服を脱いでいる場合はそのまま継続、そうでない場合は脱衣動作に移行します。視認処理ならびに状況把握の終了まで 5、4、3……』

 

「は?」

 

 文字通り死んだ目をぎょろぎょろと動かして俺を見てくる。何だ、今こいつは何て言った!?

 もしかして「私が必要になった場合」ってそういう意味で……ま、まずいぞ。プロメスティン本人にさえ抗えないのにパワーとスピードだけならその何十倍もあるウィルム娘から逃げられるわけが……!

 

「う、うわーーー!!」

 

『ゼロ。はい服を脱がしますねー、これも結構面倒な処理なんですから次からは服を脱いで指令をお願いします。……それとも好きなんですか? こうやって無理やり剥かれるのが』

 

 いや気がついたら体がビッタリ拘束されてる!!? いざ上級妖魔に迫り来られると本当に何が何だかわからないんだな、目と頭が全く追いつかないまま雁字搦めにされたことを遅れて認識させられたぞ!?

 

「や、やめ……おい、ほんとにっ、いい加減にしろっ。死体を使ってこんな事までしていいわけがっ」

 

『この機能は本日が初稼働のため色々と注意事項を確認してもらいますが』

 

 なすすべもなくポイポイと全裸に剥かれつつある俺に向かって、何故かどことなくつまらなさそうな声色でプロメスティンは言う。

 

『貴方の”症状”……『破損に対する拒絶性』を刺激しないよう、この搾精も最新の注意を払って行う必要がありますね。特に衣服等に対するダメージは避けなければなりません。貴方の反応はおおよそ予想できますが、決してこの段階で下手に暴れたりはしないようにお願いします』

 

「…………」

 

『まあもっとも、機能説明でも警告した通り貴方がこの展開を理解した上で起動したのであればこのような確認は元から必要ないとは思うのですけど』

 

「…………」

 

 もっともな事しか言われなくて涙が出てくる。何も考えないで反射的にスイッチを入れたのは俺なんだから悪いのはこっち、そう言われると確かに弱いのだが……

 

『大丈夫ですよ、男の人が色々と持て余してしまうのは分かっていましたから。そのような状況になったのも一部は私の不手際が招いた結果……それじゃ、我慢したぶん、ぜ〜〜んぶ忘れて……』

 

 義務的ながらどこか蠱惑的な、俺の身体を幾度となく反応させてきた声色が優しく耳元で囁かれる。

 

 もはや言い訳の余地も無い、のだが。

 

 死体の喉を震わせているに過ぎないそれがプロメスティンの言葉だから、という理由だけではない。俺の精液を飲み干してきたあの喉から出た声が、無遠慮なまでに脳髄へと流し込まれるものだから。

 

 いけないと分かっているのに……

 

『今はとにかく……楽しみましょう……?』

 

 おかしくなりそうになる……

 頭が勝手に、勘違いしそうになる……っ

 

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