※この作品はR-18です。

敗北と服従   作:棒笹

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第1話 困惑

その「反撃」は失敗に終わった。

音を立てて揺れる永久列車の天板には、真新しい潤滑液が飛び散っている。

目の前で動き続ける異重合体を前に、彼女達は敗北を悟った。

 

数刻前、空中庭園より派遣されたグレイレイブンらは異重合体との交戦を開始した。支援としてビアンカが空中庭園より派遣されていたことに加え、アディレ商業連盟からソフィアが異重合体との交戦に参加した。戦況は優位に傾きつつある・・・はずだった。

そして現在。リーは異重合体の攻撃により列車外に吹き飛ばされ、残された構造体らは軒並み異重合体を前に膝を付く。構造体とリンクしていた指揮官がその後ろに横たわり、近くには循環液か血液か判別し難い液体が水たまりを作っている。

残された構造体は、ほとんどの攻撃機能を喪失している。痛覚遮断機能のおかげで意識海はかろうじて正常な状態を保っているが、もう武器を握る力を発揮することはできず、発声さえ難しい。異重合体に向ける明確な敵意だけが、彼女たちの戦意を汲み取れる唯一の要素だった。

異重合体から発せられるパニシングの影響か、空中庭園との通信も遮断されている。これ以上の支援が送られることはないだろう。

 

―圧倒的な戦力差を前に、彼女たちは何を思うのだろうか。

ルシアは、指揮官を守れなかった不甲斐なさを悔やむ。秀でた作戦能力も、圧倒的戦力差の前には何も役に立たない事実を受け入れまいと必死になる。

リーフは、昔目の前で命を落とした構造体の姿が脳裏によぎった。自分もああなるのだと思い、体が震える。

ビアンカは、彼女の信念を曲げないようこらえていた。状況が改善するのはもはや神を信じる他ないが、彼女は神などいないことを知っている。

ソフィアは、アディレの民を守れなかった自分を、ジャミラに報いることができなかった自分を恥じている。常羽のために起動していた支援システムも、とうに機能を停止している。―

 

破壊か隷属か。どちらにせよ彼女たちの意識海はもうじきその役目を終える。きれいに3本残っている異重合体の前足が空に振り上げられたとき、彼女たちは目を閉じた。

 

けたたましい騒音の中、1体の構造体はその目を再び開いた。白色の髪がなびく感覚と、普段彼女が吸う空気とは異なった匂いにより、彼女は自身が列車の外に連れ出されていると理解した。不思議なことに、いままで鉛のように重かった身体が嘘のように動けるように感じられた。

ルシアたちはどうなったのかと周囲を見回そうとしたその時、1本のアームに口と鼻を塞がれた。同時にアームのノズルから噴射されたガスにより、彼女の意識は遠くなっていく。

薄れゆく意識の中、彼女は1体の構造体を発見した。顔はアームによって覆い隠されているが、直後に彼女は困惑した。

 

その構造体の装備がすべて外され、傷1つ無い美しい裸体が露出していたことに。

 

長年使い込まれて腐ったような機械油の臭いに気づき、ルシアは目を覚ました。まだ視覚モジュールが正常に作動しておらず、外界の状況を認識することはできないが、末梢の感覚神経により自分の四肢が拘束されていることはわかった。生暖かい風が体全体を撫で回すようにルシアを取り巻く。構造体となってから今まで感じたことのないこの感覚にルシアは驚いたが、視覚モジュールが正常に作動するまではこの原因を確認することは困難だ。前胸部、それもその頂端から感じる微弱な電流のような感覚、股関節の中心部に感じる異物感、その少し下部からも電流のような感覚がルシアを襲う。やっとのことで立ち上がった視覚モジュールで自分の身体を見たルシアは、自分が人間の女性と同じ裸体となっていることに気づいて思わず声を上げた。

「これは・・・人間の乳房、それに女性器?」

ルシアと時を同じくして目を覚ましていたのか、リーフが震える声を発した。

ビアンカもソフィアも、同様に目を丸くして自分の身体の変化を感じている。

辺りを見回したルシアは、現実を受け入れるのに時間がかかった。

あのとき列車で無惨にも破壊されたと思われた4体の構造体は、異重合体により修復され、乳房と女性器を組み込んだ生まれたままの姿で四肢を拘束されているのだ。当然、彼女たちの元の体は存在しないため、それぞれの体は異重合体により再構成されたと考えるのが妥当だろう。

しかしなぜ、異重合体は彼女たちを再構成したのか。異重合体にとって彼女たちは「敵」であり、殺さなかった理由は何なのか。

「侵食体が、生殖機能を獲得している!?」

リーフは、列車の中でリーが放った一言を思い出した。ルシアもリーフもビアンカもソフィアも、ここにいたるまでに異重合体の「卵」を何度も見ている。

「異重合体の「卵」・・・」

列車に生まれ育ったソフィアは、変わり果てた列車で見た異重合体の卵の形を容易に思い出していた。機械に強いソフィアは、どのようにして「卵」が発生したのかを考えようとしたが、皆目見当もつかない。

「皆さん、気づきませんか?私のデータベースに1つ、見知らぬファイルがインストールされているようですが。」

ビアンカが口を開いた。

「そういえば、私にもありますね。」ルシアが答える。

「確かに。」ソフィアも続く。

「私にも確かにありますが・・・。」人間の生殖に関する知識をすでに持ち合わせているリーフは、なにかを察知しているようだ。

「他に頼れそうなものもないですし、開けて見る他ないでしょう。幸い出撃前にバックアップは取ってありますし、四肢をつなぐ鎖も私の力では千切れそうにないので、何かあっても大丈夫でしょう。」

そう言ってルシアはファイルへのアクセスを試みた。ウイルスではないことを確認し、ファイルを読み込む。ファイルのタイトルは、「女体と生殖」であった。

「人間の女性の身体構造と、人間が生殖を行うときの様子が女性にフォーカスして記されているようです。女性器のことをおマンコ、男性器のことをペニスやおちんちんと呼ぶ・・・といった俗語の解説まで書かれていますね。」

ファイルを読み込み終わったルシアが皆に語りかける。そして、全員がファイルを読み込み終わったあと、ビアンカが口を開いた。

「なぜ異重合体は、私達にこのファイルをインストールしたのでしょう。」

「このファイルの中身、昔構造体になる前に読んだことがある。」ソフィアが答えた。

「列車の平民の中に人体について研究していた科学者がいて、その人が書いた本を盗み見た事がある。その内容がこれだった。あと、本の周りにパーツが転がってたから、もしかしたら私達に組み込まれたパーツの中に組み込まれてたファイルを見つけただけかも。」

「私達に共通で組み込まれたパーツ・・・」

ルシアは思慮を巡らせた。現時点で考えられる候補は、女性器と乳房である。いずれも人間が有するすべての機能を有しているようで、乳腺や膣、卵巣や分泌腺なども存在することがセンサーを介して認識できる。

『もしかして』

 

ルシアとリーフが同時に口を開いたそのとき、彼女たちを拘束している機械から伸びたホースに全員の鼻と口が塞がれた。

鼻へは強い勢いでガスが噴射され、口へ入ったホースは喉頭蓋をこじ開けて食道に入り、重たい液体を流し込んだ。数ミリ秒痛みを感じたが、その痛みはこの後すぐにかき消される。

 

ホースが抜けてから5秒もたたないうちに、彼女たちの身体は小刻みに振動を始めた。

さっきまで微弱にしか感じなかった乳首やクリトリスからの電流が、何十倍にも何百倍にも強大になって彼女たちを襲う。

心臓は大きく、そして素早い拍動を開始し、呼吸が荒くなる。制御できない現象に対し、思わず声が漏れ出す。

 

リーフは、彼女に激しく襲いかかるこの感覚が「快感」なのだと理解した。

 

快感は波となって彼女たちを襲う。その波は、回数を経るごとに大きくなる。

 

ルシアは唇を噛み締めながら。快感に抗わんともがく。しかし、波が彼女を襲うごとに甘い声が徐々に大きくなっている。

 

リーフはすっかり波に呑まれてしまったようだ。目はうつろになり、だらしなく開いた口から舌が出ている。

 

ビアンカは自分のプライドと戦っているようだった。ルシアのように甘い声は出ていないが、さっきまで見えなかった乳首が今は完全に勃起しているのがわかる。

 

ソフィアは快感に体を反らせる。ガニ股となった下半身の先には大きく勃起したクリトリスが露出している。

 

 

そして、最も大きな快感の波が襲った瞬間、彼女たちはオーガズムに達した。

 

 

必死になって抗っていたルシアもビアンカも、すでに波に呑まれたリーフもソフィアも皆大きな嬌声を出し、周期的に激しく体を震わせ目を見開く。

その号哭は、彼女たちにとっての初めての絶頂を象徴するには十分であった。尿道から送り出された液体が激しく吹き出し、彼女たちの足元を濡らす。

 

絶頂は1分ほど続いた。

 

すっかり息があがった彼女たちであったが、自分たちの身に何が起こったのかはリーフを除いてわからないようだ。彼女たちに残った感覚は、しびれるような局部の感覚と、膣内を外性器に向けて粘性の高い液体が移動する感覚だけである。

「この液体は・・・まさか。」

ビアンカはファイルの中身を振り返った。そして、次の内容を思い出した。

「腟内に粘性の高い弱酸性の液体が分泌されることは、女性が男性のペニスを受け入れる準備が整ったことを示す。」

「ペニスを受け入れる・・・精液をこの身に受ける・・・着床する・・・」

 

瞬間、ビアンカの中ですべてのことがつながった。そしてそれは、パニシングと戦う空中庭園の構造体としては最悪のシナリオだった。

 

「あの異重合体から生じるペニスが私達の女性器に入り込み、射精され、汚れた異重合体の精液を子宮に受け、私達の卵子と異重合体の精子が受精し、受精卵が私達の子宮に着床する。」

 

「着床した受精卵は増殖、分裂し、私達は私達の体から栄養を与え、育てる。いずれ生まれ出る異重合体のために。」

リーフがビアンカの言葉をつなぐ。そんなこと、とっくに考えついていたと言うかのように流暢に。

 

「私たちは、異重合体のために奉仕し、異重合体のために痛みを感じ、その寿命が尽きるまで異重合体から快楽を与えられ続ける。」

ソフィアが弱々しく言葉をつなぐ。

 

「パニシングに対抗するために生まれた存在は、パニシングのために一生を尽くす存在に変わり果てる。」

ルシアが、彼女に似つかわしくないくらいのか細い声でつぶやいた。しかしその声は、彼女たちの思考をまとめ上げるためには十分すぎた。

 

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