世の中勘とノリと勢い、なんとかなる。
人生楽に楽に適当に、渡る世間はチョロかった。
……なんて、うまくいけば良いんですがね。
行動すれば結果は問わず全て成功で、行動しないことだけが失敗だ。そんな綺麗事を信じ込めるような心の清い人は、一度東京タワーなり断崖絶壁なりから飛び降りてみれば良い。
死のうがどうしようが行動の結果だから成功だった、と地面に激突してから言えたなら、私は土下座でもなんでもしてやるさ。
行動の結果には正否があり、人を巻き込んでしまう。だから慎重にならざるを得ない。迂闊な事をやらかしてろくでもない結果を叩き出し、そこでようやくそれを痛感したのだから、私も相当だけどさ。
さて、どうしたものか。大喜くんとの関係も含めて、あまりにも人生が不透明過ぎていけない。
そんなにも気にしていた、とは思わなかった。あの日、忘れもしない誕生日の夜。大喜くんは真剣な顔をして、私に謝ってくれた。花火大会にみんなで行くと言ったけど、結果的に「みんな」じゃなかった、と。嘘を吐いた事になってしまった、と。
あの夜蝶野さんと二人だったのは、偶然の産物だったというわけだ。そっちは明言しなかったけど。……正直いうと、それはそこまで気にしてはいない。むしろ蝶野さんが「告白して良かった」とか言ってた事について話して欲しいけど、それを言うと盗み聞きしてたみたいだし。
でも、まあ。――少しだけホッとしたのは確かだ。蝶野さんは大喜くんが好き、でも大喜くんが蝶野さんを好きかどうかはまだ分からない。だから、私からも一つ謝ったのだ。線を引いてしまったことを。
「良くないこと、って言ったの撤回させて欲しい」
それは私の、偽らざる気持ち。私と大喜くんが近づくことは、
これで再び、スタートラインだ。
お互い「そんなことで謝らなくても」と笑いあって、ロビーにあったボードゲームを楽しんで。何事もなく、爽やかにその夜は過ぎていった。……のだけれども。
猪股家に戻り、大喜くんと二人で由紀子さんにお説教されて。そして夜が来て――気付いてしまった。
気まずい、これは気まずい。
一ヶ月くらいずっと意識してきた心の壁が、溶けて消えてしまった。そうなると、意識しすぎてしまうのだ。
ベッドの位置的に、私たちは殆ど隣り合って寝てるようなもの。私たちの部屋は居間の真上だから、なにかおかしな音がしても由紀子さんたちの寝室まではそうそう届かない。だから、もし――。
「いやまあ、それは、うー……」
大喜くんが我慢できなくなって、はそこまで心配しなくても良いかもしれない。あの民宿でも、私は清らかな身体のままだったんだし。遊び疲れて私が床に着いた時、大喜くんは「片付けてから寝ます」とまだ起きていた。後々考えたら、寝てる間に好き放題される可能性だってあったんだけど、大喜くんは私に指一本触れていない。……多分。
座ったまま天使みたいな顔で寝ていたから、思わず見惚れてしまったけどさ。あれは可愛かったなあ。
だから問題なのは、私だ。正確には、私の――まあ、そういう部分。
一度大喜くんを遠ざけた反動か、大喜くん分が不足するとスゴい勢いで求めてしまう。ジャンプを借りに入った部屋の匂いに、隣室から漏れてくる物音に、大喜くんを感じてしまうのだ。そうなると、もう止められない。
なるべく大喜くん側の壁からは離れ、万が一にも聞かれないように、……オナニーをしてしまう。こんなのはそれこそ良くないことだ、と思いながらも身体が止まらない。ショーツ越しにテーブルの角を股間に押し付け、腰を振っている自分が酷く醜く感じられる。小さい頃お母さんに何度も怒られて、それでもやめられなかった悪癖。バスケに熱中し出してからは、回数が減っていたのに。
こんな生臭い気持ちを大喜くんに向けたくない、大喜くんはあまりにもピュアなんだから。なのに思い浮かべるのは、大喜くんの姿ばかり。擦り付けているのが無機質な板の角じゃなく、大喜くんの身体だったなら。押し付けるだけじゃなく、私の
妄想が加速し、身体の奥が燃え上がっていく。口を固く閉じても、呻くような喘ぎは完全には押さえきれない。
もしもこの喘ぎが、聞かれてしまっていたら。体調を崩したのかと心配した大喜くんが、様子を見に来たら。
私のこんな酷い姿を見たら、きっと大喜くんは幻滅する。この家にもいられなくなる。それがわかっていて尚、止められない。
「ぉ"、ぁ……っ!!」
血が出るほどに唇を噛みしめ、声を殺しながら絶頂を迎え、私はテーブルへと崩れ落ちた。
身体の疼きは日増しに強くなり、どうしていいか分からなくなりつつある。
バスケへの情熱が失せたりはしない、でもオナニーの回数は増えていく。自分で撤回しておいて再び距離を取るわけにもいかない、大喜くん可愛いから離れたくないし。でも近くにいると、オナニーしたくて仕方がなくなる。ぬう、これは困った。匂いとかでバレたら嫌だなあ、とか思うけれど我慢が効かない。堪え性の無い女だな私は。
そして更に問題なのは、私の気持ちがどんどんエスカレートしだしている事。バレたら大問題だと分かっている一方で、大喜くんに私をさらけ出したい気持ちも芽生えつつあるのだ。
どうしよう。どうしたら良い。
考えていても良い手は浮かばず、むしろ現実逃避でオナニーが捗ってしまう。違う、そうじゃない。そんな見下げ果てたパイセンでどうする、私。
本当に、どうしよう。
あれこれ無い頭で悩んでも上手くいかないまま、暫くが過ぎて。私には、限界が近付いていた。
大喜くんがお風呂に行った隙に部屋へ入り込むのは、もう日課になりつつある。見付かったら見付かったで漫画借りに来たとか言えば良いや、と軽く考えてそれを疑わない。すっかり色ボケだな私。
大喜くんの匂い、男の子の匂い。それを吸い込みながら、勉強机に身体を寄せていく。普段大喜くんが触れているそこに、私の――オンナノコを押し付けて。最近は直に当てないと満足出来なくなってしまって、先が思いやられる。まあ、良いけど。
「ん、……ふっ」
大喜くんは意外と長風呂だから、その間にオナニーして片付けまでしても時間には余裕がある。出来れば時間ギリギリまで楽しみたいけど、でも快感の昇り方は恐ろしく急だ。
ゴリゴリと腰を擦り付けながら、目の奥には火花が瞬いていく。
「大喜くん、大喜くん、大喜くん……っ」
頭の芯が蕩けて染み出していく感覚と共に、ガクッと身体が崩れ落ちる。一気に上がりすぎて、落差で意識が飛びそうだ。それでもなんとか根性で踏みとどまり、どうにか理性を絞り出す私。自分の部屋じゃないんだから、このまま寝ちゃうわけにはいかない。いや自分の部屋ったって借り物だから、そうそう汚すわけいかないけどさ。
そろそろ戻ってくるだろうし、一通り拭いて消臭剤撒かないと。急げば一分もいらない、早く終わらせよう。そう決意し、ティッシュを取ろうと振り向いたその時。まさにその姿勢のまま、私は固まってしまった。
「あ、……終わりました?」
気まずげに曖昧な顔で微笑む大喜くんが、そこにいたのだ。
見られた、ガッツリと見られた。しかも部屋に忍び込んでオナニーして名前まで呼んで、数え役満だ。これは、もうどうにもならない。
いやむしろ、これはある意味チャンスかもしれない。すぐに制止するなりなんなりしないで見ていたという事は、興味があるという事ではないか。私は無防備で、丸出しで、つまりは据え膳。大喜くんだって、男の子なんだから。これはもう、そういう展開以外にはあり得ないじゃないか。私から手を出すならともかく、向こうから来たなら蝶野さんだって私を責めはすまい。
まったく動揺もどこへやら、胸の中には期待が渦巻いていく。さぁ来なさい、と心のなかで歓迎の声をあげてしまう私がいるわけだ。
しかし、現実はいつだって予想を越えてくる。
「まあ先輩だって人間ですから、そういう欲求があるのは分かります。でもあんまり汚さないでくださいね」
あと下穿かないと風邪引きますよ、と大喜くんは滔々と私を諭し出したのだ。
うん、言ってることは正しいだろう。確かにさ。
でも、だ。どういう事だろうか、この真面目ぶりは。これはピュアと言うより、一周回ってバカなんじゃないか。
いろんな感情が噴出し、固まったままの私。それをそっと退け、大喜くんは机を拭き始めている。いや、いやいや。いやいやいやいや。待て、ちょっと待て。
なんだこの淡白さ。淡白でもいい、わくましく育って欲しいとか由紀子さんが願ったのか。そりゃ女子女子してないけどさ、もっと派手に戸惑うなり照れるなりしてくれないか。
瞬間、意識がさっきとは違う方向へと吹き上がる。激情が身体を貫き、そして。
「え、……うぁっ!?」
――私は大喜くんを、彼のベッドへと叩き込んでいた。それも低空からのタックルで、だ。
そのまま風呂上がりの温もりが伝わるその身体へのし掛かり、背中を打って困惑する大喜くんの腰に手をかけて。
私は躊躇い無く、それを引きずり下ろしていた。
「――っ」
知識としては知っている、私だって樹の股から生まれた訳じゃない。それでも、見たことなんか有るものか。それもこんな間近で、その――オトコノコを。
他にイメージしようもない、独特な形状。濃く立ち込める、男の子の匂い。触れてみると驚くほど熱く、そして硬い。こんな器官が人間の一部だとは、信じられない。……まあ男の子がオンナノコを見たら、同じ風に思うんだろうか。大喜くんは私のを見て、どう思ったかな。
そう思ってようやく、気が付いた。この硬さと熱さの意味を。
これはつまりあの、勃起というやつだろう。つまり大喜くんは、興奮している。私のオナニーを見て平然としているようだったのは、単に隠していただけなんだ。
大喜くんの癖に、私に恥をかかせるなんて生意気な。
そう思うけど、苛めてやろうとかお仕置きをしてあげなければ、とかは不思議と考えが及ばない。
まあ、良いや。どうせだし、
あうあうと暴れようとする大喜くんの腰を半分ベッドから引きずり、股を開かせて。机の角にそうするように、私は大喜くんのオトコノコへと自分を押し付けていく。
ガチガチの幹、何か中に感じる袋。それらの感触を楽しみながら、ゴリゴリと腰を叩きつけていくんだ。
いつものやり方ではないけれど、これも悪くはない。大喜くんの喘ぎ声を聞きながら腰を振っていると、不思議な感情が込み上げてくる。支配する快感、とでも言うのだろうか。
支配、か。もし私が、
一旦身体を離して大喜くんを押し戻して、それから。天井を向いたままのオトコノコが私の真下に来るように、大喜くんを跨いでいく。
このまま腰を落とせば私のオンナノコで、大喜くんを食べてしまえる。大喜くんをモノに出来る。
遠慮も配慮も頭から消えて、ただ勢いに任せて。私は大喜くんの上へと、舞い降りた。
「あの、先輩……。大丈夫です、か?」
遠慮しいしい聞いてくる大喜くんの声が、なんだか苛つく。こっちは股を押さえて痛がってるんだから、見ただけで大丈夫じゃないのは分かるだろうに。
そりゃ異物が入ってくるんだから痛いんだろうな、とは思っていたけどさ。裂けるわ、これは。
「後でひっぱたくからね、大喜くん」
「えー……俺のせいですかー……?」
先輩が勝手に乗ったんじゃないですか、と生意気を言う大喜くん。それはそうだけど、本当の事でも言って良いことと悪いことがあるでしょうに。まったく、生意気な。
――そうだ。前に聞いたのを、試してみようか。良い機会だし。いや良くはないか、でもまあ。
「まだ痛いから大喜くん、――舐めて。そうしたら多分楽になるから」
さっきとは逆に私が股を開いて、大喜くんがよく見えるようにオンナノコを晒す。渚が言ってたけど、舌って結構気持ちいいらしい。さすがにこれは一人じゃ出来ない、誰かにしてもらわないといけないから今まで一度も試せなかったけど。
じゃあ失礼します、と跪いた大喜くんの頭が、私の脚の間へと入り込む。
少しだけ間をおいてやって来たのは、今まで感じたことがない独特すぎる快感だった。軟らかくしなやかなモノが、私を掻き分けるように蠢くのが分かる。これが舐められる、ということか。内側にも少しずつ食い込んでくるのは、堪らなく気持ちいい。
それに何より、大喜くんを従えているこの背徳感。身体の中でも一番穢れた部分を口で浄めさせている、という事実。私はそこそこ毛深いし、さっきから何度も愛液を垂れ流してドロドロだから、大喜くんとしてはかなり苦しいだろう。だからこそ、私は気持ちよくて仕方がない。
「もっと奥まで……、そう、そこもぉ……」
大喜くんの頭を掴んで股に押し付け、さらに激しい愛撫を求める。浅ましい女だとは自覚するけど、これを止めろと言う方が酷だ。
沸き上がる性感は、あっという間に頂点に達してしまう。
「う"ぁ、お"……っ」
低く上がる獣のような喘ぎと共に、下半身がまるごと溶けてしまったかのように潮が溢れ、大喜くんの顔を汚していくのを、私は恍惚としたまま見据えていた。
汚さないでくださいねって言ったのに、とショゲ返る大喜くん。それに関しては悪いと思うけど、だからって私はブレーキをかける気なんか無い。さっきまで大喜くんが舐めてくれていた場所を拡げ、内側を見せ付けるようにして。
「ほら大喜くん、おいで」
手招きして誘うと、まるで名前を呼ばれた犬のようにこっちへと来てくれた。
大喜くんが入れ方なんか知っているわけはないから、何度も上滑りはしたけれど。ほんの数分の後、大喜くんのオトコノコは再び私の中へと入り始める。
解れたお陰か一度痛い思いをしたせいか、今度は殆ど痛みはない。熱い塊が私の中を突き進んでくるのが、むしろ心地良いくらいだ。何処か呆れていた大喜くんの顔も快感に蕩けきり、普段よりも可愛らしく見えてしまう。
部屋に忍び込んでオナニーして、見つかったから押し倒して。そして恋人同士でもないのにセックスをして、私は何を考えているんだろうな。まあ、良いか。今が楽しいんだから。
慣れてきたのか大喜くんの方からも腰を動かしてくれて、中が抉るように掻き回されるのも良い感じだ。きっと一人では触れることさえ無かったような奥まで、大喜くんが抉じ開けてくれる。どっちがどっちを支配しているんだか、もう分からない。分からないけど、気持ちよすぎて頭が焼ききれそうだ。
お互いの口からは呻きに近い声だけが漏れ出て、私たちはただただ身体をぶつけ合う。それ以外の全てが、消えていく。
目の前さえ見えなくなり、瞼の裏にバチバチと火花が飛び始めた、その時だった。
「あ、の"っ、出ま……すっ」
大喜くんの身体が、そのオトコノコが爆発するかのように震えたのだ。言葉が私の耳に届いた数瞬後、お腹の奥で何かが迸った。ドクドクと脈打つオトコノコが、私の中に何かを注ぎ込んでくる。
ああ、射精か。男の子がイクと、射精するんだっけ。そうか、こんななのか。
オトコノコの拍動に合わせて持ち主もガクガクと震え、そのまま支えを失ったように私の上へと倒れ込んできた。
顔と顔が近づき過ぎて一瞬心臓が張り裂けそうになったものの、私はそれよりも大事な事に気づいてしまう。私の中で存在を主張していたオトコノコが、だんだんと力を失いつつあることを。
これはもしかして、もしかすると。「萎える」というやつか。一仕事終えたからって、気を抜き始めたのか。なんて生意気な子だろう、まったくもう。
「たーいーきーくーん、何してるのかなー?」
これは流石に怒ろうかな、と揺さぶってみる。しかしどういうわけか、反応がない。
気になって覗き込むと、なんと。天使のように可愛らしい顔で、大喜くんはスヤスヤと寝息を立てているではないか。
終わったからって即寝とか、どんだけだこの子は。私はまだイケてないのに、こんな半端な所で終れと言うのか。
そうこうしてる間にもオトコノコは萎えきって抜け落ちたけど、大喜くんがしっかり乗っているせいで動くに動けない。
……どうしよう。それこそひっぱたいて起こそうかな。でもまあ、……良いか。イキそびれたとは言え散々暴れたせいか、私もだんだん眠くなってきてしまったし。
考えても仕方ない、寝よう。明日どうにかしよう。
「ごちそうさま」
何故か口を突いて出た、その言葉だけを残して。私は意識を手放した。
「どうしようかなぁ……」
あのらんちき騒ぎから半年ほどが過ぎて、私は色々と悩んでいる。勿論、モノを考えずに突っ走った事が原因で。
そして私は忘れていたのだ。大喜くんに嘘を吐く頭なんか無い、という基本的なことを。
態度がおかしいことを蝶野さんに指摘された末、あの大馬鹿さん太郎は洗いざらいゲロってしまったらしい。こないだクリニックで蝶野さんに糾弾された時は、生きた心地がしなかった。それでも同居の事なんかを周囲に漏らさない辺り、あの子も良い子ではあるんだよね。死ぬほど怖かったけど。
それに関してはまだ、どうにか出来るかもしれない。
「問題は、こっちだよね……」
私の手の中にあるのは、一見すると体温計。しかしてその実態は、二本の線が浮かんだ……妊娠検査薬。かけてる最中に線が出てくるとは知らなかった、しばらく待つものだと思っていた。元々不順だから遅れたり来なかったりはあって、そういうのかと思ってたのだけれども。
連続で来なかったからおかしいなあ、と思って試してみれば、これだ。
ちゃんと考えて生きないといけないな、今さら思っても遅いけど。
どうしたものか、本当に。
「考えるの苦手なんだよなー……、まあ良いか」
とりあえず、どうにかなるだろう。色々とメチャクチャだけど、死ぬわけでなし。
私はいつだって、どうにかしてきたんだから。
気楽にいくしかないから、悩むのは止めよう。
そうとでも思わないとおかしくなるわ、あまりにも無計画過ぎて。
窓の外には、星が瞬く冬の夜空が広がっている。私は今日も考えるのを止め、ベッドに転がるのだ。
幸せな結末を、夢に描くために。