「ふ~、着いたよぉ。ここがこのクレアちゃんの暮らす街、アイギアルムだよぉ!」
ココ・ノールの街から北西に250kmほど進んだ所にある城塞都市アイギアルム。
アイギアルムとは、とある古代言語で『輝ける月』という意味である。
その名の通り石造りの家が建ち並ぶ街並みは非常に壮麗で、人・物・金が頻繁に行き交う活気のある姿は、初めて立ち入る者に興奮と感心を覚えさせるだろう。
「ん?」
「……」
「どったの?」
「ウウゥゥゥゥ……」
しかし、ベルゼブブの少女に抱えられているゼットンはその限りではなかった。彼は少女から離れると即座に城門から走り、100mほど離れると、勢いよく吐瀉物を撒き散らした。
「ちょっ、何吐いてんのよ!」
「オエエェェェェッ……!」
ゼットンは胃に残った残滓までをも全て吐き出し、涙と涎を垂らしながら肩で息をしていた。
「んもぅ、大丈夫?」
「ハー…ハー…」
クレアがゼットンの背中をさすってやると、呼吸も落ち着いてきたものの、彼は力無く地面にへたりこんでしまった。
「どうしたの、いきなり吐くなんて」
「……お前な……」
顔面蒼白になりながらも、ゼットンは恨めしそうにクレアを睨みつけた。しかし、クレアには彼が何故怒っているか解らなかった。
「あんなふざけた速度で滅茶苦茶に飛ぶんじゃねぇよ! おかげで酔っちまったじゃねーかバカヤロー!」
「あぁ、乗り物酔いね。ベルゼブブには解んない感覚だなぁ」
ゼットンは重度の乗り物酔いになりやすい体質だった。ならば当然、魔物最速クラスのベルゼブブの荒っぽい飛行を味合わされて、酔わないはずがない。
そして、それを悪いと思ったのか、クレアは申し訳なさそうな顔で頬をポリポリと掻いた。
「うぅ……超頭痛ぇ……」
「乗り物酔いしやすかったんだ……考えてなかったよ。ごめんね」
ゼットンが気持ち悪いので俯いていたところへ、クレアはわざわざ下の方から上目遣いで顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
(大丈夫なわけねーじゃん。見りゃ分かんだろ)
乗り物酔いをしやすい者にとって、酔わない体質の者に症状を軽々しく考えられるのは非常に腹立たしい。
ゼットンもこの例に漏れず、クレアに対して多大な苛立ちを覚えていたのだった。
「う~ん……臭うなぁ……」
クレアは口元に顔を近づけ、鼻をひくつかせた。
黙っていれば美少女だが、ゼットンにとっては彼女の発言の一つ一つが己の自尊心に傷をつける棘のあるもので、しかも彼女はそれを無意識に行なっているのでタチが悪かった。
「そりゃアンタ、ゲロ吐きゃ口は臭いますよ」
「別に私はいいんだけどさ、ゲロ臭いんじゃ街の人達がちょっと困るかな?」
(あー、こいつ超ブッ殺してぇ)
事実ではあるが、悪臭フェチの少女に口がゲロ臭いと言われるのは、非常に腹立たしかった。本当ならば張り倒してやりたいところだが、この少女と闘い勝てる見込みは今のところ無い。
「近くに川あるか……むぐっ!?」
そう言ってゼットンが周りを見渡そうと目を逸らしたところで、クレアの上目遣いで見上げていた顔が一気に近づき、彼の唇を奪った。
そのまま彼の口内に舌をねじこみ、縦横に撫で回したのである。
「!?!?」
「ちゅっ……じゅっ……れろぉ…」
吐瀉物による最悪の後味が、全て彼女の口内の味に変わっていった。それはとても甘く、そして痺れるような刺激があり、ゼットンの脳味噌から痛みを取り去る代わりに形容しがたい快楽を与えた。
そして、気づいた時には股間はズボンを突き破らんばかりに膨れ上がっていた。
「……!」
「んふっ……ちゅるる…えろっ……れるっ……」
ゼットンは口内を蹂躙しながらもクレアが自分に対して、この後の行為を誘うかのように、淫靡に微笑んだのが分かった。それを見たゼットンは彼女に口淫された時以上に欲情し、それと共に先ほどまであった激怒など何処かへ吹っ飛んでしまったのである。
そして、彼女にばかり攻められるのが癪だと言わんばかりに、今度は自分も彼女の口内に舌をねじこんだ。
「……おみゃえびゃっかりしぇめるにゃ……」
「んむう……ちゅっ……ちゅっ……ちゅっ……」
二人は激しく舌を絡ませ、お互いの口内を味わい、貪り尽くした。
そして、それも一段落したところでクレアが突如ゼットンを窒息死させんかの如く激しく吸い付いてから口を離すと、彼を地面に押し倒した。
彼女は興奮と発情のせいか顔が真っ赤で、目には淫蕩さが宿っていた。
(ああ……ついに童貞失っちゃう……)
こんな世の中であるから、自分がいつ死ぬか分からないが、その前にせめて童貞ぐらいは捨てておきたい。
しかし、自分の村の女は皆コブ付きであった上に自分が女との縁など何一つ無かったため、諦めるしかなかった。だが、そんな悩みも今日でお終いである。
(長かった……)
ゼットンの心は溢れんばかりの歓喜に満たされていた。黒髪ストレートロングのムチムチボイン(中略)と添い遂げるなどという非現実的な望みを抱いていたのは、それは童貞など捨てられないと最初から諦めていたが故の強がりである。
しかし、今目の前にいる少女は魔物でありながらも容姿は見目麗しく、体型はともかく顔は十分に及第点であり、何より妄想ではなく『現実』の存在である。これ以上高望みしては罰が当たるというものだ。
「ふぅー……ふぅー……」
「?」
しかし、目の前の少女はただゼットンに跨るばかりで、一向にその先に進もうとしない。
初めは女性上位の童貞喪失に期待を膨らませていたゼットンだったが、やがて少女がこれまでの行為で発情しつつも、挿入を躊躇しているということに気づいたのだった。
「……まぁた生殺しかよ。お前はじらしプレイが好きなのか?」
この後の行為に進めなかったことで一気に興醒めしてしまったゼットンが不満気に呟くと、クレアは申し訳なさそうに俯いた。
「うぅん、パパとママとの約束を忘れてたの……」
「あ?」
「『自分より弱い奴を夫にしちゃダメ』ってパパとママに言われてるの」
勝手なことを言い出したものである。さっさと離れようとしたところ、恐怖をちらつかせて自分の夫になるように言い出したのは一体何だったのか。
はた迷惑な物言いに、ゼットンは呆れてしまった。
「ここまで連れてきておいて何を言ってんだよ」
「……君を鍛えて強くして、大体私と同じぐらいの強さになったところで夫になってもらうつもりだったの」
なるほど、両親は娘より弱い男が夫になるのを禁じただけで、別に男と交際するなとは言っていない。
ただし、自分より弱い男に対して許されているのはキスやフェラチオまでで、挿入は夫婦となってからという事のようである。
「………………」
「ごめんね、期待させちゃって。君の臭いを嗅いでるうちに我慢できなくなっちゃってキスしちゃったんだ。
前にフェラした時も今のキスも初めてだったから興奮しちゃって、どっちも本当は最後までしそうになっちゃったんだけど……」
生殺しにされたことは腹立たしいが、彼女の両親の言い分も理解できないわけではないため、ゼットンはこれ以上クレアを責める気にはなれなかった。
「はぁ……しょうがねーな」
「ホントにごめん」
謝るクレアの口元に右手を添えて黙らせると、ゼットンは立ち上がった。
「もういいよ。んで、お前の両親はあの街に住んでんのか?」
「うぅん、王魔界にいるよ」
「……」
何か不吉な単語を聞いた気がしたが、ゼットンはそれ以上聞かなかった。
「……もうそろそろ暗くなってきた。さっさと街に入ろうや」
「うん!」
物足りなさを感じつつも、ゼットンとクレアはアイギアルムの街に城門に向かって歩いていった。
二人は街に入り、特に寄り道することなくクレアの家にまっすぐ向かった。
そこで一晩明かし、翌朝から街で職を探すことにしたのである。居候の身はともかく、ヒモというのは些か世間体が悪いからだ。
「…………」
しかし、ゼットンにとって誤算だったのは、世話になる家があまりにも散らかり放題で、恐ろしく汚い家だということだった。
足の踏み場もほとんど無く、本だの生活用品だのがそこら中に放り出してあり、辛うじてまともな衛生状態を保っているのはベッドぐらいであった。
「ン、クレア男連レテ来タノ?」
「ピポォ!?」
寝室の中央に何か蠢くものがあるのでゼットンが近づいたところ、何と喋りかけてきた。
よく見ればゴキブリのような格好をした魔物らしく、何か残飯のような物をつまみにしながら寝転がっていたようだ。
「うん。彼氏だよ~」
「ヘェ、オメデト」
「えへへっ」
このゴキブリ少女とは友人なのか、二人は仲睦まじ気に話している。しかし、友人の家に許可無く上がり込んでいることは、ゼットンには図々しく思えた。
「なぁ、そろそろ…」
「ごめんね、今日は彼氏と一緒に寝るんだ~」
「ナラ邪魔シチャ悪イネ。私ハ退散スルヨ」
ゴキブリ少女は立ち上がり、そそくさとドアを開けて出ていった。
「友達?」
「うん。デビルバグのニーノだよ」
「あぁ~、デビルバグっつーのか」
ゴミ屋敷にハエとゴキブリとは出来過ぎた組み合わせである。
如何にクレアが悪臭フェチであるといえど、この家を徹底的に掃除せねばならない。ゼットンにはそれがよく解ったのだった。
「しっかし、風呂入りてえなあ。部屋は汚くても、せめて自分だけは綺麗にしておきたい」
「ちょっと! 臭いが消えちゃうじゃん!」
クレアが頬を膨らませて抗議したが、ゼットンはどうにかなだめ、公衆浴場に行くことにした。服は泥に汚れ、口がゲロ臭いのはいくらなんでもまずいためである。
こんな男が職探しに来れば、大抵の相手は断るだろう。さすがにそうならないためにも準備は必要だった。
夜のアイギアルムはまさに歓楽街といった感じで、酒場や宿屋などが至る所に軒を連ねている。
そんな所でこのような薄汚い格好で出歩くのはかなり気後れするが、ゼットンはこれしか服が無いので仕方がない。
困ったことに、クレアはベッドに入って三十秒で爆睡してしまったため、銭湯の場所を聞きそびれてしまった。
そこで、起こすのも面倒なので部屋に放り出してあった彼女の財布を懐にねじ込み、案内無しで出かけることにした。
「けっこー入ってるじゃねーか」
人気の無い路地に入って財布を開けてみると、紙幣や銀貨・金貨がぎっしり詰まっていた。クレアの職業が何かは不明だが、余程の高給取りだと見える。
正直、女の金を勝手に持っていて使うというのはどうかと思われるが、数々の破廉恥な真似をされていたため、ゼットン青年には彼女に対する同情など微塵も無い。故に悪びれずに彼女の金を使う事にしていた。
「へへっ、運が向いてきたぞ」
ぎっしり詰まった財布を見て、ゼットン青年は破顔する。
お尋ね者になった時はどうなるかと思ったが、今は赤貧に喘ぐ村の生活よりはマシな生活が出来そうな予感がしてきたのだ。これでさらに職さえ見つかれば万々歳と言えよう。
「へへへへ、楽しみだなぁ。人生にこれだけ希望を持てるなんて初めてだ」
「へぇ、良かったね」
「あぁ、これでしばらくはまともに暮らせ…」
言うが早いか、ゼットンは前に飛び退いた。
「だっ、誰だ貴様ぁっ!?」
慌てて後ろを振り返ると、ゼットンの後ろにいつの間にか女が立っていた。
しかもその女は、頭からは二本の角を生やしており、腰まである長髪で、何より薄緑色の肌をしている。
「貴様、とはごあいさつじゃないか。口にゃ気をつけなよチビスケ」
不躾な発言に怒ったのか、女はゼットンの目の前まで近づいてくると、左手で彼の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
(! コイツ…)
恐らく女とゼットンの体重は同じぐらいだろうが、にもかかわらず彼を軽々片手で持ち上げている。
これほどの怪力に加え、持って来た得物も全てクレアの家にある以上、この女と争うのは得策ではない。
「…いや、突然話しかけられてびっくりしてね。気分が悪くなったんなら謝るよ。本当に申し訳ない」
「フン」
身の危険を感じたゼットンが即座に詫びを入れたので多少気が収まったのか、女は手を離した。
「失礼致しました、さようなら」
「待ちなよ」
関わりあいになると面倒そうなのでさっさと離れようとしたところ、左肩を掴んで止められた。
「路地からブツブツ独り言が聞こえたからふと近づいてみりゃ、男が一人いて、しかもアタシの大嫌いな奴の臭いをプンプンさせてるじゃないか」
「え?」
恐らく彼女が言ってるのはクレアのことだろう。彼女は何かクレアに恨みでもあるのか。
「でも、夫とかそういう感じではなさそうだね」
「えぇ、まぁ、はい…」
ゼットンがクレアの彼氏となって一日目だが、それでも彼氏は彼氏である。
それに下手に嘘をついてこの女の怒りを買い、危害を加えられるようなことになるのは御免だった。
「まぁ、ゆっくり話そうや」
こう言われては逃れようがない。仕方なく、ゼットンはクレアと出会うまでの経緯を彼女に話した。
「アッハッハッハッハッ、なぁるほどね。あいつも男の趣味が悪いな」
(余計なお世話だ、この売女が!)
「今何か失礼なこと考えなかったか?」
そう言って女がゼットンを睨みつけると、彼は慌てて首を横に振った。クレアといいこの女といい、彼女等は男の頭の中が読めるのだろうか。
「あなたはクレアとどういう関係なんだ? えっと、ミレーユさん」
「十回ほど殺し合った仲だよ」
「!?」
これはとんでもない奴と出会った、とゼットンは思った。こういう怨恨はしばしば周りの人間を巻き込むものである。
下手をすると、とばっちりを受けて自分が殺されかねない。
「あいつは自分の幼児体形にコンプレックスを持っててねー、あたしが巨乳のナイスバディだからってよくつっかかってきたんだ。
で、しばしば喧嘩がエスカレートして殺し合いに発展したってわけさ。さすがにその内お互い嫌になって、今は出会っても口汚く罵り合う程度だがね」
「はぁ……」
殺し合いをした事を平然と語るこのミレーユという女へも勿論のこと、クレアが意外に気性が荒いことにもゼットンは驚いた。今でこそしおらしいが、やがてその凶暴性をゼットンにも向けるのかもしれない。
魔物の力を向けられたら、自分などひとたまりもないだろう。
「で、では、自分はこれで…」
「待ちなよ。そうつれない態度を取らなくたっていいだろう?」
そう言うと、ミレーユはゼットンを抱き寄せた。
体に当たる感触は、クレアの少女的な体躯とは違う大人の女の魅力に溢れたもので、また違った素晴らしさがあった。
(おっぱい大きいなぁ。あいつは可愛いけど、おっぱいは無いんだよな)
ゼットンはクレアの美しさに感化されつつあったが、幼児体形自体は好みではない。
一方、彼の目の前にある肉体はずばり彼の好みそのものであった。ミレーユもそれを悟ってか、ぐいぐい胸を押しつけてくる。
(やべ、勃っちまう…)
愚息が反応しつつあったが、それ以上進むと惨事になることをゼットンは本能的に感じ取っていた。
自分と仲が悪い女に欲情したことを知れば、恐らく冗談抜きにクレアにはひどい目にあわされるだろう。
「今はここまでだ」
「うお!」
そう言うと、ミレーユは急にゼットンを離した。呆気にとられる彼を見て愉快そうにケラケラ笑い、再び肩を抱き寄せると、耳元に囁きかけた。
「これから銭湯でも行くか?」
「え?」
ゼットンの当初の目的と一致するが、どう考えても何らかの意図を含んでいるお誘いである。
しかし、彼は銭湯の場所を知らないため、案内役がいるならそれにこしたことはない。
「まぁ、いいですけど…」
「決まりだ! 行こうか!」
ミレーユはゼットンの手を引っ張って、路地から連れ出した。
アイギアルムにある公衆浴場『ノトロコ』。性欲増進や精力増進などの効能がある各種薬湯があり、魔物娘とその連れ合いで連日賑わっている。
「………………」
「こんなにいっぱい魔物娘がいて驚いたか?」
ゼットンが脱衣場に入って驚いたことは、本来あるはずの男女の仕切りが無い事だ。これはこの浴場が混浴であることを示している。
しかも女性客は皆魔物で下半身が蛇のもの、獣が擬人化したようなもの、背中に翼が生えているものなど、まさに魔物娘の見本市状態となっていた。
そして、さらに追い打ちをかけたのは、ただでさえ隠す面積の少ないボロ布のような服を脱ぎ、ミレーユが隣で全裸となっていることだった。
「それと、服着たまま風呂に入る気かい?」
「いや、そんな事は…」
早く服を脱ぐように急かされるが、なにぶん強烈な裸体が隣にあるため、愚息が天を衝くほど反応してしまっている。
しかし、ここまで来た以上、脱がないわけにはいくまい。ゼットンは諦めて服を脱衣カゴの中に入れた。
「へぇ…」
全裸になったゼットンの愚息を、ミレーユは興味深そうに凝視した。パンパンに腫れ上がった愚息は天を衝く状態で、完全な臨戦態勢となっている。
「アイツの趣味が悪いって言ったけど訂正するわ。思ったよりはいいよ、アンタ」
貧困に加え元々武術なり農作業なりをやっていた体なので十分に引き締まっており、身長は高くないものの、陰茎のサイズは満足のいくものであったらしい。
顔はまぁ普通の類で、お世辞にも美形とは言えないが、彼女的には問題無いようである。
「後はもう少し身なりを綺麗にすれば、そこそこのところ行けるよ」
「恐悦至極」
そう言って、ゼットンは恥ずかしそうにミレーユから目を逸らした。しかし、愚息は相変わらず自己主張を維持している。
「ふふ、じゃあ入ろうか」
そのギャップがおかしかったのか、ミレーユは笑いを漏らすと、ゼットンの手を引いて浴場へ入っていった。
「おい…マジかよ……」
浴場に入った瞬間、ゼットン青年は絶句した。
薬湯の効能にあてられたのか、そこら中で魔物娘とその連れ合いが交わりまくっており、文字通り『浴場』ならぬ『欲情』状態であったからだ。
淫らな水音と嬌声がそこら中から響き渡り、精液と愛液の臭いが薬湯の臭いと混ざった激臭が充満している。
そのあまりの臭さにゼットンは吐きそうになったほどだ。当然その場にいる事すら耐えられなくなり、浴場から出ようとした。
「待ちなよ。ここまで来て、それはないだろう?」
「ちょっ…」
ミレーユは逃げようとしたゼットンの手首を掴んで引き戻し、洗い場に無理やり連れて行った。
「ふふっ」
ミレーユはゼットンを風呂椅子に座らせると、ボディシャンプーを自分の体に大量にかけ、そのまま彼の体にこすりつけ始めた。
「~~~~!」
「どうかな? 気持ちいいかい?」
最高としか言いようがない。
弾力のある肌に包まれた柔らかい双房がゼットンの体をなぞっていき、それにジェルのぬるつきと人肌の温もりが加わり、絶妙な快感をもたらしていく。クレアも美人だが、残念ながらこのような事は出来ないだろう。
「クレアにはこんな事出来ないだろ?」
オーガに言われるがまま、ゼットンは無言で頷く。
「ふふっ、素直だな。クレアがあんたに惚れたのがなんとなく伝わってきたよ。
初めはあいつを悔しがらせるためにやるつもりだったんだけど、本気になっちまいそうだ…」
ミレーユは頬を紅潮させてながらも、先ほどとうって変わってしおらしい態度を見せる。
それを見たゼットンはつい見惚れると同時に、彼女に純粋な好意をおぼえた。
(クレアの奴、良いダチがいんな。こいつにも惚れちまいそうだよ)
クレアも可愛いところを見せたが、ミレーユも負けていなかった。どちらも魅力的である事には違いなく、彼の心は揺れ動きつつあった。
「あ、ちょっと待って」
「?」
ゼットンはローションプレイを中断させると歯磨き粉を付けた歯ブラシで歯を磨き始め、徹底的に口をすすいだ。それから頭をシャンプーで洗い、徹底的に汚れを落とした。
「さすがに女に体臭とかで不快な思いをさせたくないからよ」
「意外に律儀だね。見直したよ」
さすがにあの口臭では男好きの魔物娘でも不快な思いをさせると考えたのだろう。
好意を持った以上、最低限の礼儀は守ろうと考えたようだ。
「じゃあ改めて……」
ミレーユはゼットンを今度は床に寝かせると、自慢の双房でボディーシャンプーを泡立て、そこに彼の逸物を挟むと、リズミカルに扱き始めた。
「うぅっ…!」
「アンタ、ホントおっぱいが大好きみたいだね。出会った時から、アタシの胸をチラチラ見てたもんな」
先ほどのローションプレイもたまらないものだったが、今度のパイズリはそれ以上のものであった。
彼の体で一番敏感な所を、さらに彼の大好きな物で挟んでいるのである。よって、感じないわけがない。
「はむっ……じゅるるるる……じゅっ」
「うおおああああああ!!」
加えて、ミレーユは肉棒の先端を口に咥え、舌で舐め回した。さらには双房と同時に口も上下させ、下品な音を立てて吸い始めたのである。
もたらされる快感にゼットンは情けない声をあげた。
「ぷはっ……ふ~ん、カリ首が弱いんだ?」
「……そうっす」
より快楽を得たいがため、ゼットンはあっさり性感帯をばらした。最早安っぽい意地も何も無く、ただ快楽を貪る事で頭がいっぱいだった。
「じゅっ……じゅっ……じゅっ…」
「ふああ……」
ミレーユの舌が丹念にカリ首を舐め回し、双房が根本を刺激する。童貞のゼットンにはその二重攻撃に長時間耐えられるはずもなく、すぐに限界がきた。
「で、射精るっ!」
「んぶっ!」
ゼットンは明け方までクレアに弄ばれたとは思えない量の射精をミレーユの口内に解き放った。そして、彼女はそれを余すこと事飲み続け、ついに射精が終わった後も執拗にしゃぶり続けた。
「ふぅっ……やるじゃん」
「……どうも」
「……アンタならいいかな」
「?」
ミレーユは大量の蜜によってドロドロになった自分の秘所をゼットンに向けて開いて見せた。
「アンタのせいでこんなんだよ……責任、とってくれるよな?」
「……分かった」
頷くゼットン。クレアには多少の罪悪感を感じたが、ゼットンはもう我慢の限界だった。
彼女には悪いが、今日この場でミレーユという女の体によって、自分の童貞を捨てることになる。
「じ、実はさ………アタシ処女なんだ」
「マジ?……その割にはやけにそーゆーテクに長けていたような……」
秘所を眺めた際、先ほど見えた白っぽいものがそうなのかどうかは分からないが、ゼットン個人としてはできれば中古の女など抱きたくないため、彼女の告白はむしろ嬉しいものであった。
しかし、その割には彼女は男を喜ばせる手練手管に長けている気がする。
「まあ、魔物娘だからさ、そーゆーテクには長けてんだよ。一応初めは寸止めにしとくつもりだったんだけど、アンタとヤッてるうちに火が点いちゃって……」
ミレーユは恥ずかしそうに自分の両脚を擦り合わせながら告白した。そして羞恥心のせいか、股間からは蜜が先ほど以上に流れ出ている。
「アンタの童貞、アタシにくれよ。アタシの処女、やるからさ……」
「ああ、分かった。お前の処女、くれ」
こうして、両者は初めてを捧げ合う事に合意した。ミレーユはゼットンの上に跨ると、静かに彼の逸物に腰を下ろそうとした――
「ぶっ!?」
――ものの、そうする前に顔面へ何かを投げつけられて吹っ飛んでいった。
「み、ミレーユ!?」
ミレーユを目で追ったのも束の間、ゼットンが何事かと後ろを振り向くと、血走った目でこちらを睨むクレアの姿があった。
「な、なんでここに!?」
「何か嫌な予感がしてここに来てみりゃ、この様だよチクショウ!」
そう口汚く叫んだクレアは後ずさるゼットンに近づいて首を掴むと、そのままネック・ハンギング・ツリーで持ち上げた。
「ぐえぇっ!」
「彼氏になって一日目で速攻浮気なんて、随分人を舐めてるじゃないのさ! 何簡単にいい雰囲気になってあのアバズレになびいてんだよ! よりにもよってあいつと浮気するなんて許せないよ!」
そう一方的にまくし立て、激怒するクレアは掴んだゼットンの首をますます締めあげた。
(ま、マズイ……死ぬ……!)
窒息感が高まると共に視界が段々と白くなっていき、ゼットンは自分がこのまま為す術も無く絞め殺されるのだと感じた。
彼の力ではこのベルゼブブには敵わない。
「ぅ……」
青年はベルゼブブに絞め殺され、そのままあの世行きかと思われた。
「人の男に何してくれてんだよ、この害虫がぁぁ――――っっ!!」
しかし、今度はクレアの顔面に何かが投げつけられてミレーユ同様に吹っ飛び、彼女に掴まれていたゼットンも放された。
「うっ、ゲホゲホッ……! わりぃ、助かった!」
意識を取り戻したミレーユが助けてくれたおかげで、ゼットンはどうにかこの世に留まることができた。
「そういや何投げ……!?」
ゼットンがクレアの方を見やると、倒れているクレアの顔面に人の形をした何かが乗っていた。見れば、それは番台に座っていた半魚人(サハギン)の少女であった。
ようは二人は番台の少女を投げつけ合っていたのだ。少女は投げつけられた際の衝撃で気絶してしまったらしく、目を回している。
「生き物を投げるな!!」
ゼットンは番台の少女を抱き抱えると、浴場から出ていき介抱してやっていたが、再び浴場から多数の悲鳴が聞こえ始めたので、慌てて戻った。
「二人ともいいかげんにしろぉぉ――――っっ!」
そう叫んだ瞬間、椅子が飛んできてゼットンの顔面に命中し、彼はそのまま昏倒した。
二人は他の客の迷惑などよそに殴り合い続け、やがて街の守備隊が鎮圧に駆けつける程の騒ぎになってしまった。そして、二人は守備隊によって拘束され、留置場にブチこまれてしまったのである。
後で分かった事だが、クレアは財布をゼットンに持っていかれたために浴場に無一文で来ざるをえなくなり、そこへ無理やり浴場に入ろうとしたために番台のサハギンと揉めたのだ。
そして、サハギンが頑として通そうとしないので、しびれを切らしたクレアが彼女を黙らせるついでに武器代わりとしたのが、少女が投げつけられた原因だった。
ちなみに、後日ゼットンはサハギンの元へ菓子折りを持って土下座しに行き、『二度と浴場で暴れない』という誓約書を書かされる羽目になった。
尚、二人はその時まだ留置場で拘留中であったため、謝罪に赴いたのは彼一人である。
備考:公衆浴場『ノトロコ』
アイギアルムで人気の公衆浴場。セックススポットとして人気だったが、クレアとミレーユが起こした乱闘のせいで多数の怪我人が出たため、一時期人気に陰りが出た。尚、この乱闘の起きた日を記念日に定め、以降毎年この日は無料で入浴できるようになった。