※この作品はR-18です。

ディーヴァと呼べ!   作:フルメタル・ミサイル

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なんだかんだで結構敗走しているエンペラ帝国軍。


苛立つ宇宙恐竜 激戦ドラゴニア

 ーー浮遊島王城・大広間ーー

 

 七戮将及びその麾下の軍団の不甲斐なさにエンペラ一世が怒り、皇帝直轄軍のみを連れてドラゴニア攻めに向かってしまった。しかし、七戮将達がその報告を受けたのは主君が出陣してから大分後であった。

 

『ギ~~……まさか陛下御自ら向かわれるとは……』

『お前達がだらしないからだぞ!!』

 

 任務から戻ってきたグローザムとアークボガールを加え、七戮将達は王城の大広間で協議していたが、5人は頭を抱えていた。皇帝及び直轄軍の強さは承知しているが、それでも1万程度の軍勢でドラゴニアを攻め滅ぼすのはさすがに容易いことではない。

 

『今は言い争いをしている場合ではありませんよ』

 

 メフィラスは右手に持っていたシアタークリスタルを起動する。

 

『実は我が雷電軍のビーコン隊にドラゴニアを偵察させていたのです』

『グオオオオ……今もか』

『はい』

 

 空間に浮かび上がる映像には、ドラゴニアの竜どもを蹂躙する直轄軍と、一旦撃退し油断しきっていたところで現れた一人の女に全員が無力化される醜態が映っていた。

 

『何!? 直轄軍がこうもあっさりと! あの女は一体…!?』

『リリムですよ』

 

 仰天するヤプールにメフィラスは苦々しく告げる。

 

『チッ、だらしねぇ奴等だぜ!! いくらリリム相手とはいえ一瞬でやられやがって!!』

『グオオオオ……獲物が獲物なだけに、勝利の美酒に酔い過ぎたか。我等も気をつけねばな……』

『いや、この醜態を教訓にするのは後にしよう。直轄軍がやられた今、残っているのは陛下と親衛隊というこの状況はまずい』

『ああ、俺達も兵を連れて向かおう。無論、勝手に兵を動かせばお咎めを受けるが、この際仕方あるまい』

『それ以上にまずいのは、これが敵にとってまたとない好機だということです』

『グオ……確かに』

『私が魔王だったら、敵地に僅かな兵だけ伴って深く入り込んでいる敵の首領を逃しはしませんよ』

 

 もしメフィラスが魔王の立場であったら、僅かな兵しか残っておらぬ今、エンペラ一世を仕留める絶好の機会として自らドラゴニアに乗り込むだろう。

 

『で、いくらほど連れて行く?』

『雷電ですぐに動かせるのは10万ほどです』

『爆炎は15万ほどだ』

『氷刃も15万ぐらいだな』

『貪婪は10万程度だ』

『超獣も10万だな』

『合わせて60万ほどですか。魔王本人相手でも、それだけいれば陛下を逃がすまでの時間は稼げますね』

 

 エンペラ一世奪還時、王魔界に投入した戦力よりはちょっと少ないぐらいである。ただし、今回はまだ魔王は現れておらず、また同じ魔界でも王魔界に比べればさすがに魔力の濃度は低いため、その時よりは戦いやすいだろう。

 

『決まりですね。陛下はこのままでは孤立無援になるのは必定、故に事態は一刻を争います。各人、迅速な戦力の招集をお願いいたしますよ』

『『『『応!』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトイーリス様。何故彼等をすぐに犯してはならぬのですか?」

「単純なことよ。彼等ぐらい強情な人間になると、犯したからといってすぐに私達のことを理解してくれるわけではない。

 そして何より、彼等の身の安全を保証してやるためでもある」

「?」

「皇帝直轄軍が魔物に犯され、穢されたと分かった瞬間、皇帝は彼等のことを粛清してしまうだろう。1万人が目の前で皆殺しにされるのを貴公は見たいのか?」

「い、いいえ……」

「残念だが、彼等を犯すのは皇帝がこの国から去り、彼等の身の安全が保証された後の話だ。もっとも、今まで親魔物領の小国や都市をいくつも滅ぼした彼等を受け容れてくれる物好きな魔物娘を探すのが先なのだがね」

「強者、世界最強の集団という看板に偽りはないでしょう。ですが、強さを尊ぶ我等とて此奴等は……」

「あまりに戦い方が邪悪過ぎて受け入れ難い、か?」

「はい」

「確かに。だが、それでも私は彼等を受け容れようと思う」

「隊長…」

「エンペラ帝国軍もあくまで人間の集団。単に我等と主義主張が相容れないだけであって、心があり言葉も通じる以上、別に相互理解や共存が不可能というわけではない。

 彼等は憎しみが高じるあまり、現状と我等魔物娘がどのようなものか理解出来ていないだけだ。時間はかかるだろうが、きっと分かりあえるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーードラゴニアーー

 

 勇敢に戦った末に散った女達の亡骸も、無様に倒れた皇帝直轄軍の身柄も全てドラゴニア軍によって回収された。生き残った疲労困憊のドラゴニアの魔物娘達からこの後の戦いを引き継いだのは、リリムのミラとその配下である王魔界の精鋭達である。

 

「来たわね」

 

 平野で待ち構えるミラ一行の前方で突如空間がひび割れ、破壊される。

 

『なんだぁ? 直轄軍の連中がいないじゃないか』

 

 そこから現れたのはエンペラ帝国七戮将グローザム。彼の背後では各軍団の精鋭達が所狭しと異空間の中でひしめき合っている。

 

『グオオオオ………倒れている間に拐われたか。手柄があるのに驕って普段横柄に振る舞っておきながら情けない奴等だ!』

 

 次いで現れたのはデスレム。

 

『ギシシシシ。今回は生身だが、イケるんだろうな?』

『問題ない。たまには趣向を変えて、生身での魔物殺しも悪くはない』

 

 さらに続いてアークボガールとヤプールが現れる。

 

「ごきげんよう、エンペラ帝国の皆さん。今日は何の御用かしら?」

『おや、ここを治めているのは何とかとかいう大トカゲだと私は聞いていたが、違ったのかな?』

 

 敵地のど真ん中でリリムに出くわしながらも、ヤプールは余裕の態度を崩さない。

 

『情報に間違いがあったか?』

「いいえ、その通りよ」

 

 黒衣の老人へと微笑みかけるミラだが、その目は笑っていない。

 

「もう一度伺ってもよろしいかしら? 一体何の御用でここまでおいでになられたの?」

『しれたこと。我等は陛下をお迎えに来たのだ』

「あら、別にそれは貴方達がやらなくてもよかったのに」

『んん?』

「あの人は今度から私と暮らすの♥ そのための新居も用意してあるわ♥」

『グオオオオ……その冗談は笑えんな……』

 

 皇帝に恋するミラとしては冗談のつもりでない本気なのだが、将軍達にはそう映らなかった。

 

『1万人を空間転移させれば、どんなに隠そうとも、さすがに大気中の魔力に揺らぎの一つも出よう。それが無かったということは、まだ奴等はドラゴニアにいるはず』

『直轄軍が連れ去られているのは予想内だが……どうする? 面倒だが、俺達が取り返しに行くか?』

『グオオ…直轄軍は陛下直属の最精鋭。全員が敵の捕虜になる大恥を晒したとはいえ、我等の一存で勝手に見捨てていくわけにもいくまい』

『取り返すには最後のチャンスだわな…』

 

 彼等の見立ては正しかった。さすがに1万人を一気に別の場所に転移させるのは、いくら魔王軍でも難しい。ましてや捕らえて運び込んでからはそう時間は経っておらず、実際には単に帝国軍の目につかない場所へと移し替えただけに過ぎないのだ。

 未だ直轄軍は意識を失ったままで向こうから逃げる心配はないが、それでも人数が人数なので王魔界へ空間転移をさせるには相応に手間取る。

 

『だが、優先すべきは陛下の方。直轄軍はあくまでその後だ』

 

 ヤプールの言う通り、あくまで最優先は皇帝エンペラ一世。主君は怒りのまま、たかだか1万の兵だけ連れて軽率に敵地へ攻め込み、今こうして孤立しているわけだが、それでも家臣として救援に行かねばならない。

 

『グオオオオ……では最初の方針通り、メフィラスと雷電軍団が陛下を連れて帰還するまで、ここで此奴等を釘付けにしよう』

『『『応』』』

 

 方針は決まった。四軍団は即座に戦闘態勢へと移行する。

 

「ちょーっとキビシメかしら……」

 

 不安そうな様子でリリムが呟く。魔王の次に幻術に長けたミラだが、それでも救世主である皇帝に次ぐ怪物4人が相手では相当困難な戦いになりそうではあった。

 

「ミラ様、我等も加勢を」

「! ありがとう。さすがはドラゴニアの竜、タフだわね」

 

 エンペラ帝国軍第二陣の到来を受け、王都で直轄軍の監視をする者を除き、ドラゴニア軍の生き残りもまたここへ集結していた。直近の死闘で傷を負った者はいないほどであるが、それでも戦闘続行可能なのはさすがと言えよう。

 

『死に損ないどもがノコノコ出てきたか。かえって好都合だ』

 

 両軍が真正面から直接ぶつかる形となるが、都市で籠城されるよりは、この平野に出てきてもらった方が殺しやすい。故にヤプールは陰惨な笑みを浮かべた。

 

「あらあら。そう簡単に勝てると思ったら大間違いよ?」

 

 しかし、その様子を見たミラもまたニヤリと笑った。

 

「いくらリリムとはいえ、援軍が私一人では格好がつかないでしょぉ?」

『あ?』

「カモーン!」

 

 ミラが指をパチンと鳴らすと、エンペラ帝国軍の周囲の空間に突如大軍が現れる。

 

『グオ!?』

『おっ!?』

『ア゛ァ゛!?』

『新手か!?』

「当然お母様から兵は与えられているわ!」

 

 エンペラ帝国軍と戦うため、ドラゴニア軍と自分の配下の部隊だけでなく、ミラは相当数の兵力を魔王より借り受けていた。

 いくらエンペラ帝国が相当の規模の大軍を擁していようと、現在世界の半分以上を制している魔王軍の規模はそれを遥かに上回る。ここ数ヶ月のエンペラ帝国軍の蛮行で大被害を受けたとはいえ、それでも尚凄まじい数の兵力を擁しているのだ。

 

『グオオオオ………予想以上の数だ』

 

 魔王軍も大軍を投入してくることは一応予想の範囲内ではある。しかし、数の方は予想以上、50万の兵力を擁するこちらをさらに上回るほどであった。

 

『なぁに、私達は陛下を逃がすまで時間を稼げばよいだけのこと』

『ケッ。足止めなんてケチくせぇこと言わずに、皆殺しにしちまっても別に構わねぇだろ?』

『確かに。これだけの大軍相手に暴れられるのは滅多にない!』

 

 しかし、臆する者は誰もいない。

 

「成程、貴方達らしいわ」

 

 包囲されて袋のネズミになりながら、かえって猛り狂う敵将達を見て、ミラは苦笑するしかなかった。

 

「では、準備はよろしくて? 魔王軍が全力でお相手仕りましょう」

『『『『応! その首貰い受ける!!!!』』』』

 

 ミラは敵将4人を、アルトイーリス率いるドラゴニア軍と魔王軍の増援は四軍団と激突した。

 

『ハハハハハハ!!!! 【ディメンション・ポケット アイアンストーム】!!!!』

 

 ヤプールは異次元を開き、そこより多数の火器を展開。砲撃と爆撃による“鉄の嵐”を巻き起こす。

 

『ギシシシシシシ!!!! 【マウンテンスロー】!!!!』

 

 アークボガールは重力操作により、なんと近辺の300m級の山一つを持ち上げ、そのまま魔王軍目がけてぶん投げる。

 

『グオオオオオオ!!!! 【大叫喚地獄・十一炎処】!!!!』

 

 デスレムは敵周囲一帯の時空を捻じ曲げ、ありとあらゆる方向より爆炎を噴き出させた。

 

『ハァァァァ【ヘルフローズンブレス】!!!!』

 

 グローザムは巨大な猛吹雪を思わせる猛烈な冷気を口から吐き、射線上の全てを凍りつかせていった。

 

 

 

 

 

『ほう、さすがは七戮将。魔物の大群相手でも、あの暴れぶりとはな』

 

 敵地のど真ん中でありながら、上司達の傍若無人なる暴れぶりを感心して眺める男。

 

「キキッ、よそ見しててイイのかいッ!?」

『ん?』

 

 そんな隙だらけの男に飛びかかるは等身大の猿の獣人。

 

「ホアア~!」

『カク猿か』

 

 身を屈め、男は飛びかかりを躱すも、ニヤリと笑う猿の獣人は尻尾を巻きつけ、そのまま組み倒そうとする。

 

『フンッ!』

「うっ!」

 

 だが、カク猿が組み付いてきたところで、男は右拳で腹を殴る。一瞬怯んで尻尾の拘束が緩んだところで無理矢理剥がし、放り投げるも、カク猿は綺麗にトンボを切って着地する。

 

『“犬猿の仲”という言葉があるだろう? その言葉通り、私は猿が好きではないのだ』

「キキッ! そりゃ残念、カク猿は最も人間に近い魔物娘なのにねっ!」

 

 そう主張し、カク猿は男の周りを素早く跳ね回る。彼女の出身である霧の大陸では猿拳という、猿の軽い身のこなしを真似た象形拳の一派が存在するが、まさに彼女の動きのような拳法なのだろう。

 

「もらったぁ~~!!」

 

 縦横無尽の動きを見せて撹乱した後、やがて右後方側面より襲いかかるカク猿。

 

「………」

 

 だが、男にとって、この撹乱も大した意味がない。ただ愚かな獣が無意味に跳ね回っていただけだ。

 少なくとも、“以前敗れた蝿女”の動きから見ればスロー、幼児の歩くように遅い。それを実感したせいでこみ上げる笑いを噛み殺すように、男の口元は歪んでいた。

 

「!? がっーー」

 

 先に動かれたにもかかわらず、男の【雷光回し蹴り】がカク猿の顔面左側にめり込み、そのままカク猿は宙に跳ね上げられる。

 

『【雷轟烈風拳】!!!!』

「ぎゃがぅッッ!!??」

 

 そして落ちてきたところを電撃を帯びた闘気の塊を叩きつける。カク猿は激痛に顔を歪め、大量の血反吐を吐きながら彼方まで吹っ飛んでいった。

 

『だから言ったろう、私は猿が嫌いだと。まぁ、正確には“犬猿の仲”ならぬ“狼猿の仲”だがな』

 

 エンペラ帝国軍貪婪軍団・軍団長補佐・ウルフ隊隊長

 “餓狼伝説”ウルフ・ミゼーア

 

『フン。こんなザコをいくら相手にしたところで、鍛錬になどなりはしない』

 

 白の道着を纏い、赤の袴を履くは、筋骨隆々なる金髪の餓狼。

 

『私はさらに強くならねばならない。そのためにはもっと強い敵が必要だが……何、困ることはないだろう』

 

 以前敗れた蝿女に雪辱を果たすには、己の実力をさらに高めなければならない。しかし、ここはドラゴニア。強者達なら今日この場でひしめいている。

 

『首を洗って待っているがいい。次こそは必ずや、狼の牙が貴様の喉笛を喰い千切る!!!!』

 

 不敵な笑みを浮かべ、餓狼は歩き出す。

 

 

 

 

 

 オーロラのような極彩色の光が空に煌めき、辺りを照らす。

 

「うおおおお~~~~~~~~!!!!」

「よくも仲間達を!! 許さないぞエンペラ帝国!!!!」

「私達の力!!!! 私達の決意!!!! 私達の正義を見せてやる!!!!」

「夫を…家族を…友を…仲間を…守るんだ!!!!」

 

 ドラゴニアでの決戦ーー魔物娘達はエンペラ帝国軍と死力を尽くし戦っていた。

 

「たあっ!!!!」

「うりゃあ~~!!!!」

「せぇいっ!!!!」

「はっ!!!!」

 

 怒り、さらには使命感は大きく燃え上がり、彼女達に活力を与える。膂力も速さも日頃よりさらに増し、武技も術も普段よりさらにパワーが増す。

 

『うわー、やられるー』

『うぉっ、あぶね~』

『かわすのがせいいっぱいだー』

『これがまおうぐんのつよさかー』

 

 敵もその恐るべき力に戸惑い、反撃すらままならない。

 

「うおおおおおお燃えるぞ~~~~!!!!」

「私達の怒りを知れぇぇ!!!!」

「我が剣技の冴えを見よぉぉぉぉ!!!!」

「あぁん体が熱いのぉ♥♥ エッチさせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ♥♥」

「「「「「「「「燃え足らんが~~~~~~~~!!!!」」」」」」」」

 

 まさにフル回転、スーパーハイテンション。燃え上がる衝動のまま、彼女達はこれでもかと動き回りーー

 

「はえっ」

「ふえ~~」

「ほへっ」

「ひえぇ」

 

 やがて、灰色に見えるほどに突如『燃え尽きて』しまう。魔物娘達はつい今までの行動が嘘のように、力なく蹲り、死んだように呆けている。

 

『おや、どうしたんだい? あれだけやる気があったのに。

 君達の敵は目の前にいるよ? 戦わなくていいのかい?』

 

 彼女等にそう爽やかな声をかけたのは、燃える炎のような意匠を施された朱の鎧を纏った、部隊の中でも一際大柄な男。彼女達の戦いぶりを恐れたのか、魔術によって今この時まで姿を透明にしていたのだった。

 

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

『フフフフ……まんまと罠にハマったな。今、君達の体内時計は10倍の速さで進んでいる』

 

 大男に問われるも、彼女達は返答しない。まるで全ての魔力をこの僅かな時間で急速に使い切ってしまい、今では思考することさえ出来ないようだった。

 

『魔力とは即ち生体エネルギー。それが一気に燃え上がり、そして燃え尽きる。そう、私の【モエタランガウィルス】によってな!』

 

 エンペラ帝国軍爆炎軍団・軍団長補佐・モエタランガ隊隊長

 “燃え尽き症候群(バーンアウト)”モエタランガ・アウトバーン

 

『魔力の尽きる寸前の君達は、辛うじて生きているだけのガラクタにすぎない。死にかけでありながら、最早私達を犯そうと動くことすら出来まい』

 

 一定の空間に散布された、空に輝くオーロラのような【モエタランガウィルス】ーー魔物娘に吸い込まれることによって体内の行動を司る神経系に即座に侵入、精神及び肉体を極度の興奮状態に陥らせる。

 本来、魔物娘は常に大なり小なり魔力を外界に向けて放出しているものだが、ウィルスはそれすら遮断させてまで体内の魔力を浪費させる。この状態になった魔物は肉体的・精神的興奮によって、平常時以上のパワーとスピードを発揮するが、同時に普段の10倍以上の速さで魔力を急速消耗し、やがて『燃え尽きて』しまう。

 もちろん、興奮した魔物は理性が無いに等しく、興奮と魔力消失の結果、時に性交しようと襲いかかってくる。しかし、パワーとスピードが増していても、極度の精神的興奮によって普段の術・技・身のこなしの精細さは見る影もなく、帝国軍の兵士にとって苦戦するようなものではない。

 

『対する私達は気力・体力共に先ほど以上に充実しているがね』

 

 そして、ウィルスの効果はただ魔物を燃え尽きさせるものではない。消耗した魔力をウィルスは濾過・変成し、人間にとって安全なものとした上で、術者及びその周辺の人間へと転送する。即ち、魔物娘が興奮して魔力を浪費するほど、対峙するエンペラ帝国軍の兵士達は強化されてしまうのだ。

 魔物娘達が皆一様に灰色、ほとんど屍同然としか言いようのないほどの無気力な有様。一方、モエタランガ隊は敵地、それも魔物の魔力が充満する魔界のど真ん中でありながら、逆に気力・体力共にこれ以上ないというほどに充実している。

 

『悔しいかい、んん? ああ、フフ、聞いてもムダだったね』

 

 最早犯す力どころかエロいことを考えることすら出来ない女達をモエタランガ達は嘲笑う。完全に無力となった魔物娘達を見下ろし、隊長と部下達は愉悦に浸っている。

 

『では、諸君。彼女等は遺言も無いようだ。速やかに息の根を止めて差し上げろ』

『『『『『『『『イエッサー』』』』』』』』

 

 各人が武器を構え、それが燃え尽き倒れる魔物娘達へと無慈悲に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

 それは音もなく背後より現れて斬りつけ、大地を美女の血で染める。

 

「クソッ……まただ! 一体何処から!?」

 

 一人、また一人と斬り倒され、魔物達へ恐怖を齎す。しかし、彼女等の鋭い五感、あるいは探査魔術を用いても何故か潜り抜け、それは現れる。

 

「ぐあっ!!」

 

 また、辺りに不気味な駆動音が鳴り響き、また1人斬り殺される。

 

「や、やめろ……ぎぃあっ!?」

 

 女達の懇願も、この男の前では意味をなさない。助けを願い、あるいは呪いの言葉を吐こうが、次の瞬間には唸る丸鋸によって等しく切り刻まれ、大地に打ち捨てられる。

 

「うわああああああああああああこっちに来るなぁ!!!!」

 

 硬い甲殻も、優れた体術も、速い逃げ足も、全て無意味だった。1人、また1人と追い詰められ、回り込まれ、回転する刃により真っ二つに斬られていく。

 

「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……ぐぇっ」

『………………』

 

 エンペラ帝国軍氷刃軍団・グロンケン隊隊長

 “八つ切り”グロンケン・バズソー

 

『………うるせぇな……』

 

 両腕にそれぞれ大きな回転鋸を装備した、血塗れの無口な仕事人は、獲物の上げる恐怖の声に辟易していた。しかし、怖がられるのも無理はない。逃げ道に音もなく先回りされ、気づいた瞬間に無言で振り下ろされる死の刃に恐怖せぬ者などいないのだから。

 

『さ~………仕事仕事………』

 

 獲物の悲鳴も彼には届かない。冷酷なる氷刃軍団の隊長らしく、淡々と獲物を斬り捨てていく。時折断末魔のあまりのうるささに辟易しながらも、男は獲物に忍び寄り、己が身と大地を血に染めていった。

 

 

 

 

 

 空に突如穴が開く。赤く染まる異空間の中から、機械化された双眸が敵軍の状態を瞬時に捉える。

 

『ゲァアアアア!!!!』

 

 彼女等がその視線に気づいた時には既に遅かった。

 

『【ユニコー・ボム】!!!!』

 

 男の頭部アーマーより発射された角型ミサイルが着弾し、広範囲が跡形もなく吹き飛んだからだ。

 

『ゲァアア!! 跡形もなく吹き飛んだな!!』

 

 未だ煙の燻る爆心地に男は降り立つと、悠々と闊歩する。生き残っている者がいればとどめを刺す心づもりだったが、未だ原型を留める者に出会わぬことから、それも杞憂だったらしい。

 

『このエリアにこれ以上留まる必要は無さそうだ。他の連中の手伝いに行くとしよう』

 

 もう敵の生き残りはいないと判断したがーー

 

『ーーそうでもないか』

 

 そこで突如小さな地震が起き、焼け焦げた大地から何か巨大な物が飛び出す。

 

『ほう、あの爆発で生きていられるとは。ずいぶん頑丈だなぁ』

 

 長い体をしならせ、鎌首をもたげてこちらを睨むのは30mはありそうな巨大なサンドウォーム。単純な大きさではこの地のワームよりも大きいかもしれない。

 

『俺を喰ってみるか?』

 

 常人なら出くわした瞬間、一巻の終わりである巨大な砂虫と対峙しても尚、男は笑みを浮かべて泰然としている。それどころか、自分を喰ってみろと挑発する始末である。

 

「うああああああああ!!!!」

 

 巨大な口が開き、中から薄桃色の女体が顔を覗かせる。仲間は皆吹き飛んでしまったことによるものか、あまり感情的でないはずの砂虫の叫びには大きな怒りや憎しみといった負の感情が感じられた。

 

『俺は不味いぞ…』

 

 飛びかかる砂虫を見上げる薄ら笑いは、さらに残忍極まりないものに変わる。

 

『なにせ“ミサイル味”だからなぁ!!!!』

「!?」

 

 今度は後悔する時間があったが、手遅れなのは結局同じであった。

 前面は青、背面は橙という特徴的な外装式強化服の全武装を展開。頭部アーマーの2連装バルカン砲及び角ミサイル、両腕部の魔導ビームガン及びバーナー砲、背面からの魔導マイクロミサイルが一斉射された。

 

『ゲァアアアア!!!! 味はどうだ!!??』

 

 エンペラ帝国軍超獣軍団・軍団長補佐・バキシム隊隊長

 “一角紅蓮”バキシム・モノケロース

 

『そうか、断末魔すら上げられなかったほどに美味かったか!!!!』

 

 敵が消え去ったのを確認したバキシムは再び空間を叩き割り、異空間へと消えていった。

 

 

 

 

 

(皇帝だけじゃない。こいつら全てが危険なのだわ……!!)

 

 その強さもさることながら、冷酷・卑劣で、ただ魔物を殺すだけに特化したようなエンペラ帝国軍の異常な戦いぶり。それを見たミラは改めて背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

(その最強の部隊を私だけで簡単に制圧出来たのは相当運が良かったようね……)

 

 皇帝直轄軍は帝国軍の中でも最強の部隊である。にもかかわらず、ミラが簡単に制圧出来たのは彼等が勝利に驕り、その心に隙間があったからこそだ。しかし、今いる帝国軍の軍勢は先ほどとは比べ物にならない数がおり、かつリリムのかけた術の存在を知っており、もうかかってくれることはないだろう。

 

「イヤな予感がする。早くあの人の元へ向かいましょう」

 

 どうにか七戮将4人から逃れると、ミラはポータルを開き、皇帝のいる山頂へと向かうーー

 

「ーーえ!?」

 

 ーーも、何故か山頂でなく、何故か山の中腹に移動してしまう。

 

『淫売め。まんまと逃げられると思ったか?』

 

 いつの間にかリリムを囲む魔術師の群れ。それも全員相当の手練である。どうやら彼等によって強引に術の座標を移動させられたらしい。

 

「へぇ…私の空間転移先の座標をずらすなんてやるじゃない。そう上手く事を運ばせてはくれないようね……」

 

 頭頂部に一本角の生えた兜をかぶった、隊長らしき男と対峙するミラ。一応誉めてやったが、その美しい顔には大きな苛立ちが見て取れた。

 

『本来ならメフィラス宰相がお相手するところだが、閣下もいろいろと忙しくてな。故に、今は我が代わりを仰せつかっている!』

 

 エンペラ帝国軍雷電軍団・ザルドン隊隊長

 “転移自在”ザルドン・アスポート

 

「邪魔をしないで頂戴」

『邪魔をするな、と? それはこちらの台詞だ!』

「今、貴方達と問答をする気はないのよ」

 

 居所の分からなかった想い人がようやく現れたのだ。今を逃せば、次会えるのがまた先になってしまう。故に、一刻も早くリリムは好きな男の許に向かいたかった。

 

「それに、そもそも貴方達で私を止められると思う?」

『確かに我だけでは無理だろう。だが、これだけいればどうかな?』

「っ!」

 

 ザルドンがパチンと指を弾くと、今まで隠蔽魔術で隠れていた、山の中腹を覆い尽くさんばかりの数の雷電軍団が姿を現す。

 メフィラス麾下の雷電軍は、末端の雑兵でさえ魔法使いなのが特徴である。いずれも、魔術戦においてはバフォメット率いるサバト相手であろうと引けを取らない魔術のスペシャリスト達なのだ。

 

『では、リリムよ。雷電軍団がお相手する!!』

「あぁ、もう! この忙しい時に!!」

 

 急いでいるのに邪魔者は激増する始末で、リリムの苛立ちは最高潮に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーードラゴニア、デオノーラの居城付近ーー

 

『贋作よ、また遭うとは思わなんだ。余の前に再び出てきたということは、今度こそ死にたいという事だな?』

 

 冷静だったデオノーラの時と違い、バルベーローに激しい憤りを見せる皇帝。やはり目の前の女が愛する亡妻の姿を模っている、というのが凄まじく腹立たしいのであろう。

 

『いいえ』

 

 一方で、激昂する彼の姿を見つめる彼女は悲しそうだった。

 

『私はただ貴方に会いたくて、ここへ来たのです』

『………』

 

 それでも、彼女は健気に、“夫”へありのままの本心を伝える。

 

『成程。ならば余の邪魔をしに来たというわけか』

『邪魔……』

 

 だが、やはり皇帝は何も感じなかった。

 

『違うのか?』

『そうですね。邪魔、と言えば確かにそうでしょう。

 私は貴方が魔物娘を滅ぼすのを止めようと考えています』

 

 そんな好いた男に悲しみを覚えながら、バルベーローはまた、もう一つの本心を語った。

 

『成程。やはり貴様は偽物だな。“本物”のソフィアなら、そんな事はせなんだ』

『………………』

 

 “本物”と“偽物”。対になる言葉だが、そのどちらもバルベーローの心を深く傷つけるであろう言葉だ。

 

『貴様はただソフィアの姿を模しただけの度し難い贋作よ。その罪深さ、解っておろうな?』

 

 皇帝の言葉から感じられるのは嫌悪。そして亡き妻を想うが故に湧いた果てしない怒りと絶望だった。

 

『分かりません』

『ッ! 貴様…』

 

 だが、皇后の偽物は凄む皇帝を見て臆するどころか、生意気にも反論した。

 

『そもそも私が生まれたのは貴方様の強すぎる想い、即ち皇后様への未練があったからこそ。このままでは永遠に埋まらぬ貴方様の心の空白を埋めるため、私は生まれたのです』

 

 頑なな皇帝を諭すように、バルベーローは再び微笑んだ。

 

『ね、どうか私を受け入れてください。いくら血塗られた覇道を邁進しても、貴方の心の穴は大きく深くなるばかり。いくら血を見て浴びたところで、心は潤わず渇くばかりです』

『……!』

 

 そして一歩、また一歩、ゆっくりと皇帝に近づいていく。

 

(信じられん……)

 

 やや離れた場所で見ていたデオノーラ。先ほどまで彼女と戦っていたエンペラは徹頭徹尾、残忍非情で嗜虐的な戦いぶりであった。

 しかし、今は違う。無防備に近づいてくる魔物娘に、皇帝は手を出そうとしない。

 

(愛する女は例え偽物と分かっていても殺せぬか)

 

 皇帝の態度や言動にこそ出ていないが、その心の内にある動揺、狼狽をデオノーラは敏感に感じ取っていた。

 

(……羨ましいな)

 

 しかし、竜の女王はそれを滑稽だと嗤うのでなく、むしろ羨みさえした。

 

(この男は后を心の底から愛していたのだろう。それは偽物だと分かっていても、同じ姿をした者を殺せぬほどに)

 

 それほどまでに自分を愛してくれる夫が欲しいーー竜の女王は心からそう思った。

 

『ふふ♥』

 

 やがて、両者は互いを抱き締められるほどに近い距離で向かい合う。

 

『ああ、やっぱり。貴方は私を受け容れてくれるのですね♥』

 

 そして、もう見ることのないと思っていた妻の貌で、もう聞けないと思っていた甘い声で女は囁く。

 

『………ッッ!!』

 

 その様に皇帝は歯噛みする。偽物だと解っている、解っているはずなのに、自らでも驚くほどに彼の体は動かなかった。

 

『……♥』

 

 そんな驚くほど、呆れるほどに無防備な皇帝。そんな男の唇に、妻の贋作の唇がゆっくりと重ねられようとした。

 

『やめろ!!』

『きゃっ!!』

 

 だが、そこまで迫ったところで、皇帝はバルベーローをなんとか突き飛ばした。

 

『フー……フーッ………!!』

 

 たったそれだけのことで、皇帝は息を乱していた。竜の女王と戦っていた時でさえ、呼吸は乱れていなかったというのに。

 

「………………」

 

 突き飛ばされ倒れた偽皇后は立ち上がるも、悲しげな目で皇帝をじっと見つめた。

 

『………ッッ!!』

 

 その視線に耐えられないのか、皇帝は非常に苛立った様子で顔を背ける。

 

『陛下』

『! メフィラスか!』

 

 重苦しい雰囲気の中、皇帝の背後の空間が歪んだかと思うと、そこからローブに身を包んだ魔術師が姿を現す。

 

『何故ここに来た? 今回、余が出撃命令を出したのは直轄軍だけだ』

『その直轄軍ですが、今も奮闘している皇帝親衛隊以外は、突如現れたリリムの術で即座に無効化され、まとめて捕虜となりました』

『!? 何だとッ!?』

 

 メフィラスの報告を聞き、エンペラは激昂する。彼は部下にかなり優しい方であるが、さすがにそれだけの醜態を晒した者を庇うほどではない。

 

『さすがにこの状況はまずいと考え、我等七戮将が60万の兵を連れ、陛下をお迎えに上がった次第でございます』

『……そうか。大儀であったな』

 

 そう言われては、無断出撃について罰することは出来ない。それにしても、いくら少数とはいえ帝国軍最精鋭である直轄軍が容易く敗れるとは予想外であった。

 

『それと陛下、あの者は一体…?』

 

 文字通り単騎、孤立無援の主君を救うため慌ててやって来たメフィラス。しかし、目の前には皇帝、敵のドラゴニアの長だけでなく、何故か亡き皇后ソフィア・ヤルダバオートそっくりの女がいたため、さすがのメフィラスも驚いていた。

 エンペラ帝国側でバルベーローの存在を把握しているのはエンペラ一世のみ。初めて偽皇后が姿を現した時、七戮将はギガバトルナイザーの中に収容されていたため、面識がなかったのだ。

 

『気にするな。あれは偽物だ』

『……成程、魔物らしい卑劣な策です。陛下の亡き皇后様への愛を利用するとは』

 

 皇帝の言葉からすぐさま事情を察し、メフィラスはすぐに偽皇后を敵と認識する。

 

『いくら偽物と分かっていても、手ずから始末するのはさすがにご不快でしょう。あの不届き者の処分は私にお任せ願えますか』

『……ああ』

 

 抹殺の了承はしたが、皇帝の言葉にはどこか未練を感じられた。

 

『それと、直轄軍だが……』

『御安心めされませ。我が雷電軍団の半数は現在敵の足止め、もう半数には親衛隊及び直轄軍の救出を命じてあります。既に親衛隊は合流済みで、囚われた直轄軍の方も現在都市に潜入させた者達が向かっております』

「なっ、何っ!?」

 

 都市に敵が潜入していると聞き、驚愕するデオノーラ。

 

『ほぅら、ちょうど火の手が上がりましたよ』

 

 ローブに隠れて見えないが、メフィラスは邪悪な笑みを浮かべて、都市の方角を指差す。

 

『さすがだ。そこまで仕組んでいたか』

 

 皇帝が山頂から見やると、麓の街からいくつもの火の手が上がるのが見えた。

 

『あくまで撹乱のためですが』

〈宰相閣下! 直轄軍の救出完了致しました!〉

『おぉ、噂をすれば!』

〈催眠は解けておりませんが、現地での解呪は難しいため、このまま帝国へ帰還します!〉

『えぇ、あくまで救出が最優先。余計な戦闘をする必要はありません。そのまま帰還なさい』

「バカな……こうもあっさりと!」

 

 あっさりと捕虜を奪還されたことが、デオノーラには信じられなかった。

 

『フッフッフッフッ。いやいや、さすがに麓の警備が手薄だというのはバレバレでしたよ。

 一度目の爆炎軍、二度目のジェロニモン隊、そして今回の陛下と直轄軍。三度の侵攻でかなりの損害を受けて苦しい中、魔王軍の増援ありとはいえ、それでも帝国軍と戦うのは相当兵を割かねばならなかったはず』

 

 他の四軍団は陽動。いくら魔王軍の増援ありとはいえ、それでも最強国家の50万の大軍相手には相当の戦力を割かねばならない。その結果、直轄軍を囚えていた麓の街の防備がかなり手薄になっていた。当然、メフィラスはそこを見越していたのである。

 

『ま、これで勝負ありましたかね。街も燃え、軍も敗北間近。そして貴方の首を穫れば、我等の完全勝利となります』

『三度目、いや援軍を含めれば四度目の正直というところか』

『そこは仕方ありますまい。ドラゴニアは僻地の上、大トカゲどもの世界一の群生地であります。駆除にここまで手こずるのも致し方ないことでしょう』

『そうだな…』

 

 皇帝も宰相の言葉を首肯した。

 

『さて、大方勝負を決したとは思うが、それでも貴様を見逃してやる気はない』

「っ!」

『メフィラス。先ほど申したように、貴様はそこの偽物を始末しろ。余はこの大トカゲを仕留めよう』

『はっ!』

「くっ……!」

 

 最悪の状況である。対峙する敵はエンペラ帝国、いや現人類最強の2人。皇帝1人ならまだ逃げ果せられたかもしれないが、よりによってそこに“魔術師元帥(グランドマスター)”の称号を持つメフィラスが加わった今、逃げられるとは思えない。

 

『………』

 

 しかし、この絶望的な状況にもかかわらず、バルベーローの目はまだ諦めていない。

 

(妙ですね、やたらと落ち着き払っている。肝が据わっているというよりは、何らかの確信を持っているように見える)

 

 その態度にメフィラスは何か違和感を覚えた。

 

(まるで誰かを待っているような……もしや、この女は時間稼ぎか!?)

「待った。大の男2人が婦女子を嬲り殺しにしようというのは感心しない」

『『!!』』

 

 その声に皇帝と宰相は聞き覚えがあった。

 

「おお、エドワード殿!」

 

 その声を聞いた竜の女王は感激し、目を輝かせる。

 

「すまない、遅くなった。ちとレスカティエの方で敵襲があってね」

 

 地面に現れた魔方陣を通り現れたのは勇者エドワードであった。

 

『また貴様か!』

『成程、待たれていたのは貴方でしたか』

 

 皇帝に至っては顔を合わせるのは三度目であるためか、実に忌々しそうに吐き捨てる。

 

「復興途中のレスカティエに、このタイミングで教団圏の連合軍が大挙して押し寄せたのは君達の差し金か?」

『もう少し持ちこたえてくれるかと思いましたが、想像以上に弱卒ばかりだったようで。期待外れでしたよ』

 

 皇帝同様、忌々しそうにそう吐き捨てるメフィラス。エンペラ帝国がフリドニア教国を攻め落としてからというもの、連合軍とは小競り合いを繰り返していたが、やがて向こうが音を上げ、和睦していた。

 そうして手の空いた連合軍は、攻め落としたばかりで意気盛んなフリドニアでなく、エンペラ帝国軍との戦いで大怪我を負っていたレスカティエへと目標を変え、攻め寄せてきたのである。

 

「娘の家(レスカティエ)で狼藉を働く火事場泥棒を見過ごす道理はないからね」

 

 ため息をつくエドワード。連合軍もレスカティエを奪い返す千載一遇の好機と見て、それなりの戦力を投じていたらしく、魔王軍もそう容易く追い返せたわけではないようだ。

 

『だがレスカティエは助かっても、ドラゴニアはこのザマだ』

「人も魔物もまだ大勢生き残っている。またすぐに復興させられるさ」

『そうか。滅ぼすためには、やはり撫で斬りにする必要があったのか』

『それなら問題ありません。エンペラ帝国軍(わたしたち)はそれが大好きであり大得意ですから♥』

 

 ローブに隠れて見えないが、再び悪辣な笑みを浮かべる魔術師。

 

「そうか。そうするつもりなら、全力で止めよう」

『貴様と相まみえるのもこれで三度目。余もいい加減貴様との因縁を断ち切りたいものだ』

「それはこちらも望むところ!」

 

 エドワードは神剣を抜き、皇帝も双刃槍を構える。

 

「バルベーローさん、悪いが無傷では捕まえられない」

『エドワード様、戦う前に私が陛下と話す時間を頂きたく存じます』

「承知した」

 

 いつでもバルベーローとデオノーラを庇える位置に陣取りつつも、そう懇願されたエドワードは偽皇后に話す時間を与えた。

 

『陛下、確かに私は生前の皇后様の姿を模しただけの偽物です。皇后様の御心と私の考えは違いますし、仮に皇后様が魔物の絶滅に賛同したとしても、私の方は魔物娘である以上、逆にそれを諌めます』

『………………』

『ですが、これだけは覚えておいてください。皇后様が皇帝陛下を愛したように、私も皇帝陛下を愛しております』

『……!』

 

 バルベーローはそう本心を告げるが、皇帝の方は心底腹立たしいといった具合に顔が歪んだ。

 

『皇帝陛下。貴方が私をどう思われようと、私は貴方様をお慕いしております』

 

 悲しそうな顔で最後にそう告げると偽皇后は頭を下げ、デオノーラの方に向かって歩いていった。

 

「悲しいな。ここまで愛されているのだから、受け入れてやってもよかろうに」

『魔物に愛などあるものか。亡き妻の顔でそう語られ、余の心は怒りで張り裂けそうだ!!』

 

 エドワードに揶揄されるも、皇帝は怒髪天を衝くほどの怒りを覚えていた。

 

「あぁ虚しい。僕は無力だ。目の前の男を言葉で諭してやることが出来ない」

『貴様が愚かなのは重々承知している。馬鹿女(魔王)に誑かされるばかりか、それを誇るような大馬鹿者だとな!!』

「魔物がかつてのように人を殺さず、喰らわず、人を愛し共に歩むことを未だ認められず、かつてのままだと思い込み破壊と殺戮を繰り返す貴方達にそう言われたくはない!!」

 

 ついに刃を交える勇者と皇帝。

 

『フッフッフッフッ!! 勇者よ。私がいるのも忘れておりませんか?』

「!」

『私も混ぜてくださいよ!!』

 

 鍔迫合う勇者と皇帝だが、勇者の方は実質2対1だと失念していたのか、背後から魔術師の破壊光線をモロに浴びる。

 

「ぐうぅ…っ!」

『ここは戦場なんですよ~~!! 背後から不意打ちを受けるぐらい想定してないんですか!!?? それとも一度破った私は取るに足らないとお考えでしたか!?』

 

 嘲笑うメフィラス。浴びせた光線の出力をさらに上げていく。

 

『挟み撃ちか。単純だが効果覿面だな!』

「!」

『唸れ【エンペラインパクト】!!!!』

「がぁっ!!」

 

 皇帝は左手を槍から放し、そのままエドワードの胸目がけ衝撃波を叩き込む。

 

『フッフッフッフッ! 苦しそうですねぇ!!』

『このまま死ぬがいい!』

 

 万事休す。だがーー

 

『ぬぁっ!?』

 

 メフィラスの背後より赤黒い光線が浴びせられ、メフィラスは仰け反ってしまう。

 

『何だ!? 私の防護結界を…!?』

 

 狡猾な魔術師故、体表には何重にも防護結界が張られていたのだが、それらを複数丸ごと破壊されてしまったのだった。

 

『私は女。殿方の申される軍事(いくさごと)は分かりませんが、この戦い方が男らしくないことは分かります』

『!? 今の光線はまさか皇帝陛下と同じ…』

『メフィラス、何を狼狽えているのです? 私は陛下から産まれし者。その私が陛下と同質の力を扱えることを不思議に思って?』

『『!!??』』

 

 往年の皇后と同じ口調で語るバルベーローの右掌から放たれた赤黒い光線はエンペラ、そしてゼットン青年と同じ性質のものであった。

 

『陛下には敵わぬまでも、メフィラスよ。貴方を道連れにすることぐらいは出来るのですよ?』

『そんな馬鹿な……!! 魔物が“救世主”の力を使ったというのか!?』

 

 メフィラスが驚愕するのも無理はない。光線は“レイオニクス”の中でも最強の力を持つこの魔術師でさえ超えるほどの、高純度の救世主の力を含んだものだったからだ。

 

『……っ!』

 

 さすがに皇帝も驚いていたが、今はエドワードと対峙している状況。下手に動けばこちらがやられる。

 

『!』

 

 背後に悪寒を感じ、右脚による後ろ蹴りを放つ。しかし、ここで拮抗が崩れ、跳び上がった後とんぼを切って後方へと着地した。

 

「あらあら。再会の抱擁もさせてくれないのね」

 

 皇帝はその女の声に聞き覚えがあった。

 

「ミラ」

「ごめんなさいお父様。少し時間がかかってしまったわ」

 

 距離を挟んで対峙する皇帝と勇者だったが、皇帝の背後にはいつの間にかリリムがいた。

 

『リリム!? ザルドン達はやられたのですか!?』

「ああ、彼? 私相手に10分は保ったわよ。ま、私にやられる前に退却しちゃったけど、それでも大金星じゃな~い?」

 

 そう笑いながら言い放つが、リリムの肢体には所々傷があり、さすがに楽勝ではなかったのが見て取れる。

 

(どうするか…)

 

 初めは大トカゲだけだったが、今はエドワードとリリム、さらに謎の女までいる。皇帝も困惑していたのは彼の直観をもってしても、偽皇后の実力が靄がかかったように読み取れなかったことだ。これが皇帝と同質の力を持つからかは分からないが、いずれにしろ雑魚と断じられるほどではない。

 

「まだ戦う気か?」

『!』

 

 エドワードにそう問いかけられ、我に返る皇帝。

 

「戦況は膠着状態に陥ったようだ。このままでは共倒れだが、どうする?」

『貴様等の首を穫れば、戦況はこちらに傾くだろう』

 

 しかし、皇帝に退く気はなかった。

 

『いえ、陛下。ここまでです』

『メフィラス!?』

 

 けれども、宰相はこれ以上戦うのは不利と判断した。

 

『他の四将に連絡を取ったところ、四軍団も消耗が当初の想定より激しいようです。退くならまだ体力のある今が良いかと』

『………………』

 

 幸い直轄軍も救出が完了し、直轄軍脱出絡みで麓の街にもかなりの被害を与えたことで、ドラゴニアにも相応の痛手は与えられた。目標であるドラゴニア殲滅には至らなかったが、ドラゴニア一国のためにエンペラ帝国軍の主力を失い、さらには皇帝である自らも危険に晒すのでは本末転倒である。

 

『……分かった。ここは退こう』

 

 これ以上戦を続けても益よりも損が大きいと考え、皇帝は撤退を決断した。しかし、その顔には悔しさが滲み出ていた。

 

『残念ながら、今日はこれまでのようだ』

「もうお帰りかい? まだ打ち合いは一合と一発だけだぞ」

『もう退くと決めたのでな。貴様と遊ぶのはまた今度にする』

 

 勇者は笑みを浮かべて挑発するが、退くと決めたからには皇帝は応じなかった。

 

『だが、勇者よ。次会う時こそ決着を付けたいものだ』

『では諸君。また会いましょう』

 

 メフィラスが転移魔術を発動し、皇帝と魔術師はその場から一瞬で消えてしまう。さすがに魔術師元帥と言われる男なだけあり、逃亡は誰も阻めなかった。

 

「……二度と来るなよ」

 

 2人が消えた後、デオノーラはそう忌々しげに言い放ち、ため息をついて地面に力なく座り込んだ。

 

 

 

 

 

 こうしてエンペラ帝国軍は撤退し、ドラゴニアはなんとか生き残ることが出来た。損害は多大なものだったが、ドラゴニアはレスカティエ同様、世界でも数少ない『エンペラ帝国軍を撃退した都市』という実績を得たのである。

 しかし、エンペラ帝国軍の脅威は今尚未だ健在。そしてゼットン青年とクレアも否応なく最後の戦いに巻き込まれていくのである……




備考:皇帝に仕える女性達

 『英雄色を好む』の言葉通り、エンペラ一世にも多くの年若い美女が仕えている。皆魔物娘と比しても遜色ない美人ばかりである。

>アリスン・クーゼ(17歳 身長170cm体重54kg B95W56H88)

 コック(料理人。厨房責任者)。浮遊島No.0(首都)“ネオヴァルハラ”出身。北方系(より厳密には極北系)住民。
 彼女の父は帝国でも有数の腕を持つ料理人で、現在はアークボガールの下で料理長として仕えている。アークボガールの推薦で宮廷に仕えたが、近い内に父を超えると目されるほどの料理人の才能の持ち主である。得意なのは肉料理だが、それ以外もほぼ何でもこなせる。皇帝も彼女の料理を大いに気に入っている。
 目鼻立ちのくっきりとした、非常に整った顔立ち。北方系らしく肌は雪のように色白で、細身ながら胸と尻はかなり豊満で、すらりと長い美脚の持ち主。瞳は真紅。髪は艶のある美しい銀色、前下がりのボブレイヤー、後ろ髪の長さは肩に届かない程度。
 性格は明るく、比較的おおらかで社交的。しかし気が強く高慢な自信家、かつ我儘で子供っぽい面もある。自分がかなり美人でグラマラスな肢体の持ち主と自覚しているが、一番の自慢は己の美貌でなく料理の腕である。とはいえ、その美貌は皇帝を感嘆させ、『そなたと比べれば、磨き上げられた宝石もただの石ころだ』と言わしめた。
 また、料理人でありながら、自ら望んで寝所での夜伽役を何度も務めたが、それは皇帝に阿ったからでなく、皇帝を男性として純粋に好いたからとのこと。同僚にして親友のアイシアは、上記の性格を肯定しつつ『それに加えて、好いた男には非常に愛情深く献身的。結果、陛下に対して一番忠実』と彼女を評している。

>アイシア・テレク(17歳 身長165cm体重48kg B92W54H83)

 レディーズ・メイド(主に秘書役)。浮遊島No.2“アアル”(デスレム領)出身。南方系(より厳密にはファラオのいる砂漠地帯)住民。
 目鼻立ちの整った、非常に美しい顔立ち。腰まであるストレートの青髪で褐色肌、透き通るような空色の瞳を持つ。美人でグラマラスな肢体はアリスンと同じだが、そちらと比べるとやや少女らしい体つきながら僅かに引き締まった筋肉質。
 非常に冷静にして真面目で、ほとんど感情を表に出さない。秘書役のため、皇帝の傍らに付き従っていることがほとんどで、その結果最も主人の心情及び機密に通じている。皇帝も美しいだけでなく、賢く機転が利き、洞察力もある彼女を気に入っており、よく話し相手としている。アイシアの方も表情には出さないが、皇帝と話すことを楽しんでいるようだ。
 アリスンとは同期。同じ美少女であっても、肌と目の色から性格まで何から何まで対照的だが、同期ということもあって仲が良い友人同士である。ちなみに彼女からは上記の性質に加えて『暗くて不器用で色々鬱憤が溜まってるタイプ。そのせいか好きな男には依存しちゃう』と評されている。
 皇帝の夜伽役を務めることもあるが、初夜は皇帝の巨体と少女らしい体躯との体格差にかなり苦労した。以降は上手くやれているが、皇帝曰く『気分が高揚すると普段の反動で豹変する』とのこと。

>包平一姫(かねひら・いつき)(22歳 身長175cm体重62kg B102W58H94)

 チェンバーメイド(部屋整備担当)。浮遊島No.3“マグ・メル”(グローザム領)出身。東方系(より厳密にはジパング系)住民。
 目鼻立ちの非常に整った美しく、かなり色気がある顔立ち。琥珀色の瞳で凛々しい目つき、白い肌で、膝まで届くストレートの艷やかな黒髪を総髪で結い上げている。女性にしては身長が高いが、すらりとした肢体と、豊満な胸部と臀部は濃密な色気を漂わせている。
 一見ジパング人らしい真面目で誇り高い性格だが、内心も冷静なアイシアと違い、内に秘めた気性は激しい。職務に対して真面目で手先も器用な方だが、人付き合いが下手であまり同僚と打ち解けておらず、内に寂しい思いを抱えている。アリスン曰く『物凄く男受けする美人なのに独りぼっち』で、まともに話せるのはエリザベスぐらいである。そのことを知った皇帝も内心彼女を心配し気にかけている。
 同僚達と同じく美貌の持ち主だが、彼女と違い、男の好奇の視線を引く自身の容貌にはむしろコンプレックスを抱いている。とはいえ、皇帝からするとアリスン達と同じく『そなたと比べれば、宝石もただの石ころだ』と絶賛するレベルなのだが。
 夜伽役もこなしているが、皇帝曰く『かなりの好き物で驚いた』、『普通の男では搾り殺されるだろう』とのこと。ただし、その時には感情が開放されているせいか、むしろ愉しげでよく笑うため、その様子を見た皇帝も安堵出来るという。

>エリザベス・アネラス(19歳 身長165cm体重63kg B100W60H95)

 パーラー・メイド(接客担当だが、皇帝と接することも多い)。浮遊島No.1“アガルタ”(メフィラス領)出身。西方系住民。
 目鼻立ちのよく整った非常に美しくも柔和な面立ち。目尻の下がった垂れ目でサファイアブルーの瞳、膝まであるストレートロングの金髪で前髪ぱっつん。ぽっちゃりというほどではないが、他と比べると肉付きの良い非常なグラマラス体型。
 先祖はかつてのエンペラ帝国軍の侵略を受けて滅んだ、とある国の王族とのことだが、家は見る影もなく没落し、今の身分は平民である。先祖の性質が残っているのか世間知らずでお人好し、天真爛漫な性格だが、賢くはなく常識知らずで何処か抜けている。しかしそれ故か物怖じしないところもあり、近寄り難い雰囲気の一姫とも唯一まともに話せる仲でもある。
 その性質故に同僚達から大いに心配され、アイシア曰く『何かやらかしそうで怖い』、皇帝からも『阿呆すぎて外での仕事は此奴には勤まらぬだろうから、ここで養ってやるしかあるまい』と半ば諦めた評価を下されている。とはいえ、パーラーメイドが務まるほどの美貌には違いなく、見合いの話は尽きぬであろうとも評している。
 皇帝はある時気まぐれに夜伽役を頼んで以降、時折相手をしてもらうが、『滅茶苦茶過ぎて語る気にもならないが、極上の味わいではある』とのこと。

>モニベル・E・クムール(年齢・出身共に不詳 身長180cm体重58kg B83W57H80)

 宮廷魔術師。メフィラスと同じく救世主レイブラッド・マイラクリオンの遺伝子を受け継ぐ“レイオニクス”の名門、クムール家の出身。
 腰まで届くほどの長いストレートの金髪と褐色肌、黄緑色の瞳、高い鼻、スレンダーな体躯で、胸は普乳。金縁の丸眼鏡をかけている。美人だが、皇帝曰く『剣呑で毒々しい』。アリスン曰く『整形クソババア』、『行かず後家のクソ年増』。
 回復術師にして性魔術師であり、メフィラスの直弟子でもあるだけに魔術師としては一流の部類。自らの才覚と美貌を鼻にかけた驕慢な性格だが、皇帝と亡き皇后に対しての忠誠心は本物。皇帝はともかく、皇后には信頼されており、男性には言いにくい性的な問題をよく皇后に相談されていた。
 実は皇帝に恋慕の情を抱いているが、皇后の手前それを大っぴらに出来ず、押し隠していたが、明らかに態度に出ていたため、周りにはバレていた。また嫉妬深い性格でもあり、かつてはメアリー、現在はアリスンやアイシアといった皇帝の覚えがめでたい女達をいびることもしばしばなため、メイド達からは蛇蝎の如く嫌われている。
 皇后のいなくなった現在、時折夜伽役に立候補するようになったが、魔術に長けているのが裏目に出て、その美貌も整形によるものだと思われていたため、部屋にやって来てもつまみ出されるばかりである。師匠のメフィラスが何度諌めても、こればかりは全く言うことを聞かず、けばけばしい化粧と年齢に合わぬセクシーな格好をして訪ねてきては、皇帝の寝室を警護する親衛隊員達を絶句させている。





 ーー生前と異なり、皇帝が複数の女性に手をつけるようになったのは皇后が亡くなり、無意識にその代わりとなる女性を求めたこと。そして魔物娘の魔力が多少の影響を与えていたことを、魔王はのちに指摘している。“救世主”という出自故か魔物娘に靡かなかっただけで、彼にも性欲はあるのだ。
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