自宅から徒歩で十数分の場所にある公園。そこのベンチに腰掛けた俺は、自販機で買った缶コーヒーを片手に、ぼんやりとしていた。
夏を迎えようとしているこの時期は、日が昇る時間が早い。まだ薄暗いと感じる時間でも、空は白みはじめている。
ふと腕時計に目を落とすと、時刻は午前六時前。今朝は普段より早起きしたこともあってか、まだ少し眠い気がする。
それでも二度寝せずに、こうして外出しているのは、外の空気に当たりたい気分だったからだ。
そうなった原因は、千雪にある。
というのも、初めて千雪を自宅に招いて以来、彼女はすっかり入り浸るようになってしまい、衣服や化粧品などの私物を持ち込むようになったのだ。
もともと千雪手製のぬいぐるみで埋め尽くされて狭かった自室に、今では彼女が持ち込んだ様々な物が溢れ返っている。そのどれもが、千雪の存在を意識させるものばかりだ。
四六時中、彼女と一緒にいるような感覚に陥り、心休まらない日々が続いていた。そこで俺は、気分転換のために外出したわけである。
「このままだと、まずいよなぁ……」
しかし、それでは根本的解決にならないことも分かっていた。
この状況が続けば、周囲への言い訳も効かなくなるだろうし、何より催眠が解けたあとの事後処理が、非常に面倒になる。催眠中の記憶を失った千雪に、何と説明すればいいのか見当もつかない。
そもそも俺自身が、この状況を心地良いと感じてしまっている節があるのだ。千雪から合鍵を返してもらえば済む話なのに、それを躊躇ってしまう自分がいる。
だがそれも当然の話だ。あんなにも美しく魅力的な女性が、自分のことを好いているという事実を知ってしまったら、欲望に抗えるはずがない。
帰宅すると、食事を作って出迎えてもらえる生活に慣れてしまえば、なおさらのこと。そして誰にも邪魔されずに彼女と二人きりになれる時間は、この上なく甘美なものなのだ。
そんなことを考えているうちに、徐々に思考が熱を帯びていく。それと同時に、股間に血液が集まり始めてしまう。
「はあ……」
これがいけない。自宅にいると、このような生理現象が起こってしまうから、外に出てきたというのに、これでは本末転倒ではないか。
今朝は早起きしたのも、千雪と淫な行為をする夢を見てしまったせいだ。彼女に組み伏せられて、ひたすら騎乗位で犯されるという内容の夢だったが、やけに現実味のある感触が生々しかったことを覚えている。
肉と肉がぶつかり合う音。彼女の吐息混じりの声。解いた髪を振り乱し、快感に歪む表情。目の前で暴れる二つの乳房と、吸い付くように密着してくる膣内。
願望夢というものだろうか。俺が千雪とのセックスを望んでいるからこそ、あのような内容になったのかもしれない。ベッドに染み付いた彼女の淫臭も、それに拍車をかけていたのだと思う。
おかげで、目を覚ましたときに下着の中が濡れていたほどだ。
自慰で欲求を発散できない身としては、不用意に勃起しないよう気を付けなくてはならない。いたずらに催眠深度を上げるだけだからだ。
俺は頭を振って邪念を振り払うと、缶コーヒーのフタを開けて、一口飲む。無糖のブラックコーヒーは苦味が強く、覚醒にはちょうど良かった。
「んん……?」
しかし、いつも購入してるメーカーの品なのに、味が違うように感じられた。物足りないと言うべきか、旨くないというべきか。とにかく違和感を覚える味だ。
寝起きで舌が鈍くなっているせいかもしれない。そこまで考えたところで、ふと視界の端に見覚えのある人影が映り込んだ。
噂をすれば何とやら。そちらに視線を向けると、つい先ほどまで思い浮かべていた相手——桑山千雪の姿があった。
彼女も俺の存在に気づいたのか、こちらに向かって小走りで駆け寄ってくる。見慣れたジャージ姿なのは、ランニングの途中だからだろうか。
千雪は普段から自主トレを欠かさないらしいので、その可能性は高いと思う。そういえば、以前にも似たようなことがあったな。
「はあ……はあ……。ふふ、おはようございます、プロデューサーさんっ!」
「……ああ、おはよう」
息を切らせながら俺の前までやってきた千雪は、汗で額に張り付いた髪を指先で払いながら微笑んだ。
その笑顔は爽やかなもので、朝に相応しいものだったが、火照った頬が妙に艶めかしくて、色っぽく感じられる。
「朝から精が出るな。今日はオフの日なんだから、ゆっくり休んでてもよかったのに」
「いえ、最近は元気があり余っちゃってますから。それに、早起きは三文の徳と言いますし、こうして朝からプロデューサーさんと会えたのも、きっと何かの縁ですよね? ふふっ……」
千雪は嬉しそうな笑みを浮かべると、すっと俺の隣に座ってきた。肩が触れ合うほどの距離感で、恋人のように寄り添いながら、こちらを見つめてくる。いや、実際恋人なんだから、別段おかしなことはないのだが、さすがに場所を考えてほしいものだ。
「プロデューサーさんは、どうしてここにいらっしゃったんです? お仕事には、まだ早い時間ですけど……」
千雪からの質問を受けて、俺はどう答えるべきか迷う。
自宅を抜け出したのは、千雪のことで悶々とした気持ちになっていたからだ。しかし、それを正直に告げるのは憚られる。
「いや、たまたま今日は、早起きしてしまってな。二度寝する気にもなれなかったから、何となく外の空気を吸いたくて、散歩をしてたところだよ」
「わっ……それって、運命みたいだなぁ……! 私も、プロデューサーさんのことを考えながら走ってたら、いつの間にかここまで来ちゃってましたから……。偶然じゃなくて、必然だったのかもしれませんよ?」
千雪が少し恥ずかしげに俯きながら言う。彼女の顔が真っ赤に染まっているのは、運動していたせいなのか、それとも別の理由によるものか。
「離れていても惹かれ合うなんて、私たちは相性が良いんですよ、きっと。こんなにも強く心が引かれてるのが、何よりの証拠だと思いませんか……?」
千雪はそう言って、俺の腕にギュッと抱き着いてきた。腕を包む柔らかい胸の感触に、心臓が高鳴ってしまう。
「お、おい……! 誰かに見られたらまずいだろ、こういうことは……!」
慌てて周囲を確認するが、朝早いこの時間帯には、まだ人の気配はない。とはいえ、いつまでもこうしているわけにもいかないだろう。
「ふふ、そうでしたね。私ったら、プロデューサーさんに会えたことが嬉しくって……。ダメだぞ千雪っ。ふふふっ……!」
俺の言葉を受けた千雪は、悪戯っぽい表情で笑いつつ、ゆっくりと俺から離れた。まったく、彼女の大胆さにも困ったものだ。
「うーん、今日は絶好調な気分ですっ! 今なら、どんなオーディションでも、良い結果が残せそうだなぁ……」
そう言いながら、千雪は軽く伸びをした。すると、彼女の豊満な乳房が張り詰めて、服越しでも分かるほどに存在感を主張し始めた。
ジャージの生地を押し上げているそれは、とても窮屈そうである。思わず凝視してしまいそうになるのを、俺は必死に抑え込んだ。
「ははっ……。調子が良さそうで何よりだ。自主トレの邪魔しちゃ悪いし、俺はそろそろお暇させてもらうよ」
俺は平静を取り繕いながら、缶コーヒーを一口飲んでから立ち上がる。これ以上一緒にいると、変な雰囲気になってしまいかねない。
そう思って、早く退散しようと思ったのだが——
「んっ?」
不意に、袖を引っ張られた感覚があって、足を止める。振り向くと、無表情になった千雪が、俺の顔を見上げていた。
「どうして、逃げようとするんです? せっかく会えたんだから、もう少しだけ一緒にいてくれても……いいじゃないですか……」
声のトーンはいつも通りだが、どこか威圧的な雰囲気を感じる。
そして千雪は、俺の袖を摘まんでいた手を離すと、今度は両手で俺の左手を包み込んできた。
「逃げるだなんて、そんなつもりは……」
「嘘。また私のこと、避けようとしてます。ダメですよ、自分の気持ちに正直にならないと。まだ、それができないっていうのなら——」
そこまで言ったところで、千雪は口をつぐんだ。彼女は俺の手を握ったまま、じっとこちらの目を見つめてくる。
その瞳は潤んでいるように見えて、妖しい輝きを放っていた。まるで獲物を狙う肉食獣のような視線に射抜かれた俺は、金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。
千雪は、いったい何をするつもりなんだろうか。俺は、いったいどうなってしまうのか。不安と緊張が入り混じった感情が渦巻いて、鼓動がどんどん速くなっていく。
「ふふっ……。そんなに怖がらないでください。別に、責めてるわけじゃありませんから」
千雪は意味深な微笑みを浮かべると、握っていた俺の手を離し、そのままゆっくりと立ち上がった。
「プロデューサーさん。今日のお仕事のご予定は、どうなっていますか? もし、空いているようでしたら、お願いしたいことがあるんですけど……」
「えっ……。ああ、予定ね……」
唐突に尋ねられて、俺は戸惑ってしまう。
千雪の頼み事というのは、何となく想像がついた。恐らく、性的なお誘いなのだろう。これまでも何度かあったことだ。
事務所で致してからというもの、千雪は仕事中でも隙あらば迫ってくるようになった。他者の目を盗んでキスをしてきたり、胸を押し当ててきたり、股間をさすってきたりと、積極的すぎるアプローチを受けているのだ。
俺も最初は拒もうとしたのだが、結局押し切られてしまうことが多かった。最近では諦めて、なるべく人目につかない場所で行為に及ぶようにしている。
彼女からの誘惑には抗い難い魅力があり、それに溺れてしまっている自分がいることもまた事実だった。あの甘い声で囁かれるたびに、脳髄が痺れるような快感を思い出してしまい、抵抗しようという気力が薄れていくのだ。
「昼過ぎには先方との打ち合わせで、出かけないといけないから、午前中なら時間を空けられると思う」
だから、こうして流されるままに答えてしまった。忙しいからと断ることはできるはずなのに、どうしてもできなかった。
これは、プロデューサーとしては失格の行動かもしれない。しかし、男としては当然の反応だと言わざるを得ないだろう。
「でしたら、自主レッスンに付き合っていただけませんか? プロデューサーさんが見ていてくださると、すごく頑張れそうな気がするんですっ!」
千雪はそう言って、上目遣いでこちらを見た。甘えるような表情が可愛らしく、つい何でも言うことをきいてやりたくなる。
「そのくらいなら、かまわないよ。俺がレッスン室の空きを確認して、予約を取っておくから、後で待ち合わせしようか」
「はいっ、ありがとうございます! ふふっ、楽しみだなぁ……!」
浮かれる千雪を見て、思わず笑みがこぼれる。こんな風に喜ばれると、無下に断ることができないのが、男の性というものだ。
「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。引き止めちゃって、すみませんでした。また、あとで会いましょう? んっ……♡」
そう言い残すと、千雪は軽く背を伸ばして、俺の口元に唇を重ねてきた。ほんの一瞬の出来事だったが、柔らかで瑞々しい感覚が、はっきりと伝わってくる。
千雪は名残惜しそうに身を引くと、小さく手を振ってから立ち去っていった。
「やばっ……」
残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていたのだが、やがて我に返って周囲を確認する。
幸いなことに、近くに人影はなかった。どうやら、誰にも見られていなかったようだ。
俺は安堵のため息を漏らして、ふたたびベンチに座り、額に浮かんだ汗を拭う。
今のやり取りを誰かに見られていたりしたら、大問題になっていたことだろう。俺たちだけでなく、283プロの皆んなに迷惑をかけるのは、絶対に避けなければならない。
とはいえ、千雪の気持ちをないがしろにするわけにもいかないので、何とか折り合いをつけなければいけないだろう。
手立てとしては、千雪と二人きりのときに、できる限り欲求を解消してやることだろうか。しかし、俺は千雪を前にすると、いつもされるがままになってしまうから、なかなか難しい。
せめて主導権をこちらが持つことができれば良いのだけど、俺の浅い経験では到底不可能のように思えた。だが、それをいうなら千雪も処女なんだし、似たようなものだと思う。
愛情の差が、こういった行為における技術差に直結してしまうのだろうか。アナルセックスを行った翌日には、アナルに関する知識を蓄えていた千雪のことを思うと、そういった可能性も考えられる。
性行為は愛情を示す手段の一つだと考えている節がある彼女にとって、相手の男性に気持ち良くなってもらうことは、重要な命題なのかもしれない。
だとすれば、勝てるわけがない。あんなにも重い愛情をぶつけられたら、優位に立てるはずがないのだ。
「男として情けない、か……」
ふと、以前はづきさんに言われた言葉を思い出す。
あの日から、彼女は俺に対して、少し距離を置くようになっていた。事務的な会話しか交わしていないし、視線を合わせてもくれない。完全に避けられてしまっている。
当然のことながら、原因は俺にある。いくら情欲に酔っていたとはいえ、はづきさんの目の前で、みっともない姿を晒してしまったのだから。
ただ、嫌われているという雰囲気ではなく、どちらかといえば哀れまれているといった感じだった。
はづきさんの中にあった俺への心証は、おそらく最底辺にまで落ち込んでしまったはずだが、それでも彼女なりに気遣ってくれているのだろう。
「ははっ……」
女性から下に見られたり、同情されたりするのは、男にとっては屈辱以外の何物でもない。でも、俺にはそれが心地よかった。自分が惨めであればあるほど、いい知れない快感を覚えてしまうのだ。
自分としてもちょっと引いてしまうけれど、仕方がないことなのだと思う。
だって、俺はそういう人間だから。どうしようもなく屑で、救いようのない男だから。
今日も千雪に絞ってもらえることに期待して、下半身を膨らませてしまっているような、最低の男なんだから。
「ふう……」
残っていた缶コーヒーを飲み干すと、ゴミ箱に放り込む。それから、すっかり明るくなった空を見上げて、大きく伸びをした。
暑くならないうちに、事務所に行くとしよう。それと、早めにレッスン室の利用状況を確認して、予約を入れておかないといけないし。
俺は股間の疼きを感じつつ、事務所へと向かった。
時はゆるやかに流れて、現在の時刻は十時前。
俺は、レッスン室があるビルの前までやって来ていた。
昼前だが日差しは強く、気温も高くなってきており、長く歩くと汗が滲んでくる。
ハンカチで額の汗を拭いながらビルの中に入ると、冷房の効いた空気にほっと一息ついた。
それから、受付に社員証を見せて許可を得たのち、エレベーターに乗り込んで三階のボタンを押す。
やがて、チンッという音とともに扉が開くと、そこはもう目的のフロアだ。誰もいない廊下を歩き、目的の部屋の前に立つ。
ここは283プロが間借りしているテナントビルなので、外部の人間は出入りできないようになっている。つまり、現在このフロアに居るのは、俺と千雪の二人だけだ。
「ふう……」
俺は軽く深呼吸をして心を落ち着けると、部屋の中へと足を踏み入れた。途端に、むわりとした熱気が全身にまとわりついてくる。まるでサウナの中にいるようだ。
「あっ、プロデューサーさん! お待ちしてましたっ!」
先入りしていた千雪が、ぱたぱたという軽い足取りで駆け寄ってくる。彼女のほうもかなり汗をかいているようで、頬を紅潮させていた。
「な、なんだこの暑さは……。エアコンはどうしたんだ?」
思わず声に出してしまうくらい、室内の温度は高い。空調機は取り付けられているので、普段なら快適な室温になっているはずなのに。
「いっぱい汗をかきたい気分だったから、オフにしておきました。それに代謝がよくなって、健康的かなぁと思ったので」
そう言って、千雪は悪戯っぽく微笑みかけてくる。
確かにその通りかもしれないけど、わざわざレッスン中に暑い思いをする必要はないだろう。一歩間違うと、脱水症状になりかねないし。
「やっぱり、冷房をつけたほうがいいんじゃないか……? あと、せめて換気ぐらいは……」
「ダメですっ! そんなことしたら、私が楽しみにしてたことが、台無しになっちゃいますからっ!」
語気を強めて言う千雪。その迫力に気圧されて、俺は押し黙るしかなかった。
「納得してくださったみたいですね。じゃあ、さっそく始めましょうか」
そう言って千雪は、自身のジャージのファスナーに手をかける。そのまま下まで降ろすと、タンクトップ型の黒いブラトップに包まれた、二つの大きな胸の谷間が見えてきた。
そこには汗の雫が溜まっており、白い肌はほのかに赤味が差していて、見ているだけで息苦しくなるほどの色香を放っていた。
それに、腹部丸見えのヘソ出しルック。さらに腋の下も晒されたノースリーブ姿というのは、露出度が高いという意味で、下着と同じくらい過激な格好と言えるかもしれない。
「ふふっ、どうです? このスポーツウェア。動きやすそうだったので、自主レッスン用に選んでみたんですけど、似合ってますか?」
千雪は挑発的な笑みを浮かべながら、俺に流し目を送ってきた。俺はゴクリと生唾を飲み込みながら、こくりと首肯する。
「よかったぁ……! 旦那さまに気に入ってもらえて、嬉しいですっ! それから、こちらも気に入っていただけたら……」
千雪は妖しく目を細めると、ゆっくりと両腕を上げて頭の後ろで手を組み、腋を見せびらかすようなポーズを取った。
途端に、むわっとした熱気が押し寄せてきて、俺の鼻腔を刺激する。蒸れたような酸っぱい匂いは、千雪の腋臭だろうか。陰部の匂いとは違う刺激臭に、頭がくらくらしてくる。
「私、結構汗っかきで、体臭も強くって……特に、腋は……。普段は制汗剤とか香水を使っているんですけど、今はあえて使ってなくて……」
そう言いつつ、俺の反応を窺うように、千雪はチラチラと視線を投げかけてくる。
「旦那さまとはこの先、身体を重ねることも多くなっていきますよね。そうしたら、誤魔化せなくなると思うので……」
なるほど。だから今日は、こんな状況にしたのか。つまり自分のコンプレックスを、俺に受け入れてほしいのだろう。
しかし、今さら体臭がキツいからといって嫌ったりしないし、むしろ興奮材料になる。
花のような甘い香りがしそうな雰囲気なのに、実際はすえた汗臭いニオイがするというギャップが、たまらないのだ。
それに、こうして俺にだけ素の姿を見せてくれるのが嬉しかった。他の人には見せない一面や秘密を、自分にだけは明かしてくれたという事実が、たまらなく愛おしい。
それはつまり、それだけ愛されているということなのだ。そう思うと、ますます千雪への想いが募っていく。
「俺は好きだよ、この匂い。ありのままの千雪を感じられるし」
「……本当ですか? 自分でも、けっこう不快に感じるときがあるんですけど……」
千雪は不安げに眉をひそめている。確かに、好きな人の前では綺麗で居たいものだろう。でも、それなら俺だって同じだ。
……ああ、だから千雪は、俺の身体を積極的に嗅いだり舐めたりしてきたのか。自分が汚臭を受け入れることで、俺にも自分の体臭を受け入れてもらおうとしたのだろう。
本当にいじらしい女性だ。ただの変態女ではなく、どこまでも健気で一途な愛情を向けてくれて。そんな彼女だからこそ、俺は惚れてしまったんだ。
そして彼女のことを理解してあげられるのは、世界中で自分しかいないという自負もある。俺だけが千雪の身体を味わえて、彼女のすべてを受け入れてあげることができる。
そう思った瞬間、目の前の女性を抱きしめたいという衝動に襲われた。言葉では伝えきれないほどの愛を込めて、全身全霊で彼女を包み込んであげたかった。
「千雪、そのままで」
「えっ? ……あっ」
俺は千雪の腋に顔を寄せ、鼻息を立てて芳香を吸い込んだ。直後、ツンとした独特の匂いが、脳天を突き抜けるような衝撃を伴って、嗅覚を刺激してくる。
「やっ、旦那さまっ!? そんな、いきなりっ……!」
慌てふためく声を聞き流しながら、舌を伸ばしてべろりと腋のくぼみを舐める。すると、千雪はくすぐったそうに身を捩った。
その反応を見て、俺は何度も責め立てる。汗の塩味が染み出した、しょっぱくて濃厚な味わいが、口いっぱいに広がっていく。
「ひゃあぁん……♡ く、くすぐったいですぅ……!」
今度は反対側の腋を味わうべく顔を移し、くぼみの深いところを中心に突っ込むようにして、思いっきり深呼吸をする。鼻から入ってくる空気は、熱気がこもっていて、少し湿っていた。
正直、臭い。女性器よりも強い刺激臭に、思わず吐き気が込み上げるほどだ。ワキガと言っても過言ではない。
だが同時に、この腋臭が癖になりそうな中毒性を持っていることも事実だった。
雄を蠱惑するフェロモンが凝縮された、淫靡極まりない体臭。それが腋の一点に集まっているから、こんなにも強烈で濃密な匂いを放っているのだろう。
「んっ……♡ 旦那さまの中に、私の匂いが入って……染み込んで……! なんだか恥ずかしいです……!」
千雪は羞恥を感じながらも、決して嫌がっているわけではないようだ。むしろ、俺がより深くまで匂いを堪能できるように、腋窩を差し出してくれている。
しかし、いくらなんでもやりすぎかもしれない。女性の腋に鼻を押し付けて、荒々しく匂いを嗅ぐなんて、普通に考えればドン引きされる行為だろう。
「……すまん、ちょっと調子に乗りすぎた」
「あっ……いえ、謝らないでください」
俺が顔を離すと、千雪は名残惜しそうに声を漏らした。そして物欲しげにしている表情が、あまりにも艶っぽくてドキッとする。
「旦那さまと交わるたびに、なんだか体臭が濃くなっていくような感じがして、いつか幻滅されてしまうんじゃないかって、ずっと不安だったんですけど……。今はもう、安心できました。旦那さまが、ありのままの私を愛してくれているって、わかったから……」
千雪はそう言って、ジャージの下を脱ぎ捨てた。
身体のラインがはっきりとわかるピチッとした灰色のヨガパンツが下半身を覆っており、豊満なお尻と太腿の形がくっきりと浮かび上がっている。
普段から千雪の裸を目にしているものの、恥部が見えないというのは逆に扇情的だ。なので、つい舐めるように視線を這わせてしまう。
熱気のこもった室内に、千雪の生々しい肉感が溶け込んでいて、妙に淫靡な雰囲気を醸し出している。そして汗で湿った肌は、ほんのり赤らんでいた。
「旦那さまも、脱いでいただけませんか?」
「えっ、俺もか?」
「はい。レッスンを見ていただく前に、柔軟体操を手伝ってほしいんです。着衣のままだと動きにくいでしょうから……」
確かに、運動をする前に身体をほぐしておくことは大切だ。しかし、脱げと言われても、俺は運動用の服など持っていない。
「下着姿で結構ですよ。ここには私たち以外誰もいないので、恥ずかしがる必要はありませんし、補助をするだけなので」
「……ん。まあ、そうだな」
千雪は俺の困惑を見て取ると、ふっと微笑んで言った。
まあ今さら恥ずかしがることもないだろう。俺はそう判断して、彼女の指示に従い、下着を残して衣服を取り払った。
それから、壁際にあるベンチに衣服を畳むようにして置いて、千雪の元へ向かう。
その間に千雪は、どこからか持ってきたヨガマットを、部屋の中央あたりに二人分敷いていて、そこに座っていた。
「わあ……いつ見ても、素敵なお体ですね」
「ははっ、まあな……」
俺が近寄ると、彼女はこちらを見上げながら、うっとりとした声で呟いた。
「まずは、開脚前屈から始めましょうか。私の前に座ってください」
俺は言われた通りに、千雪と対面してヨガマットの上に腰を下ろす。すると千雪が、両足を左右に開いて伸ばしてきた。
「旦那さまも同じ体勢になっていただいて、足は私の足を支えるように広げてくださいね」
そう言うので、俺は座ったまま足を開いて伸ばした。ちょうど千雪の足首の辺りに足裏を置いて、彼女の足を固定するような形になる。
「じゃあ、私の手を取って、ぐう〜っと引っ張ってみてください」
「わかった」
差し出された彼女の両手を優しく握ると、彼女を自分の方へ引き寄せるようにして引っ張った。
少しずつではあるが、千雪の上半身が俺の方に倒れてくる。
「ふう〜」
息を吐きながら、千雪がゆっくりと身体を曲げていく。普段から柔軟を欠かさないであろう彼女の身体は柔らかく、難なく上体を前に倒すことができた。
しかしその内に、あることに気付いた。このままだと、千雪の顔が俺の股間に近づいてしまうのだ。
その事実を認識した途端、一気に鼓動が速くなる。下腹部に血流が集まり、そこが硬くなり始めるのを感じた。
「……どうしたんです? 私はまだいけますから、もっと強く引っ張っても大丈夫ですよ?」
そして、俺の興奮を知ってか知らずか、千雪は挑発的な笑みを浮かべながら、そう言ってきた。
十中八九、分かっていてやってるんだろうなぁ……と思う。だが、ここで引き下がると千雪の欲求を溜め込む悪手になりかねないため、俺は大人しく従うことにした。
さらに身体を後ろに倒し、千雪を引っ張り続ける。すると、ついには股間と顔との距離が、数センチにまで縮まってしまった。
「ふふっ……。しばらく、このままでお願いしますね? すう〜……はあ〜……」
俺の股間のそばで、千雪が深呼吸を始める。下着の中で蒸れた匂いを嗅がれているかと思うと、恥ずかしさで頭が沸騰しそうになった。洗っていないそれは、室温が高いのも相まって、とても酷い匂いになっているはずだ。
そして、彼女の熱い吐息が触れるたび、敏感になった愚息はピクッと反応してしまう。それがまた恥ずかしくて、どうしようもない気持ちになるのだ。
「……くふっ!」
千雪は何を言うまでもなく、楽しげに笑うと、そのままの姿勢を維持し続けた。時間にして数十秒ほどだろうか。
やがて満足したのか、ようやく体勢を戻した時には、すっかり下半身が臨戦態勢になってしまっていた。
「私の身体、結構柔らかいと思いません?」
「……ああ。さすがは現役アイドルだな」
「ふふっ。でも旦那さまのは、とっても硬そうですね……?」
千雪はそれを見ると、口元に手を当てながら小さく笑い声を漏らす。それから、悪戯っぽい表情でこちらを見つめてきた。
「ついでだから、旦那さまも柔軟しちゃいましょうか」
「えっ?」
そう言って千雪は、俺の手を掴んで引き寄せると、ぐっと後ろに体重をかけ始めた。
連れて俺の上半身が、彼女の方へ傾いていく。
千雪ほどではないにしろ、俺の身体もそれなりに柔らかい。つまり、容易に千雪の股間へ顔を近づけることができるわけだ。
「わっ、意外と柔らかいんですね。お身体は大丈夫ですか?」
「ああ、平気だよ……」
「……くふっ。じゃあこの状態を、しばらくキープします。辛いとは思いますけど、頑張ってくださいね……?」
眼前に、ヨガパンツに包まれた千雪の女性器がある。ピチっと張り付いた生地のせいで、その輪郭が薄っすらと浮かび上がっていた。
そこの部分には明らかな染みができており、そこから熱気が立ち昇っている。なので呼吸を繰り返すたびに、むせ返るような雌の香りが鼻腔をくすぐり、脳髄が痺れるような感覚を覚えた。
「はあ……! はあ……!」
痛い。とても痛い。それは柔軟による痛みではなく、股間に集まる血液によって引き起こされる、激しい勃起のせいだった。
あまりの苦痛に、思わず荒くなった息を吐き出してしまう。そして息を吸おうとすれば、千雪の濃密な雌臭が肺を満たしていくのだ。
まるで媚薬のような快楽に、どんどん思考力が奪われていく。このままではいけないと思いつつも、どうしても目の前の秘所に吸い寄せられてしまうのだ。
「ふふっ……」
そんな葛藤を続けていると、千雪がゆっくりと身体を起こしていった。俺は名残惜しさを感じながらも、彼女に合わせて起き上がることにする。
永遠に続くかと思われた時間は、実際には三十秒にも満たなかっただろう。だが、その短い時間の中で俺は、匂いだけで射精してしまいそうになったのだ。それほどまでに淫靡な時間が、確かにそこにはあった。
「そんなに息を切らして……。やっぱり無理をなさってたんじゃないですか。かたぁ〜いお身体をほぐしてさしあげようと思ったのに、逆に疲れさせてしまったなんて、本末転倒ですね? ……ふふふっ」
「いや、面目ない……」
「……柔軟、続けましょうか。まだ始まったばかりですから、ゆっくりいきましょう。ね? 旦那さま……♡」
それから俺と千雪は、互いの身体をほぐし合った。千雪の身体に触れ、千雪に触れられる。ただそれだけで幸福感が湧き上がり、全身が多幸感で満たされていくのだ。
しかし同時に、股間はさらに膨張を続け、はち切れそうなほどに膨らんでしまう。それを千雪は、見て感じているはずなのに、一切触れようとはしなかった。
ただただ意味深な笑みを浮かべて、俺の反応を楽しむように見つめてくるだけだ。それが辛くて、恥ずかしくて、俺は頭がどうにかなってしまいそうになる。
「私、最近はヨガにハマってるんですよね〜。それが身体を柔らかくする秘訣といいますか……」
俺が悶々としているのを知ってか知らずか、ある程度柔軟をこなしたところで、千雪は世間話を始めた。
確かに、アイドル活動で忙しい千雪にとって、身体を動かすのは大事なことだろう。だから、朝からランニングをしたり、こうして自主レッスンをしているのかもしれない。
それにヨガなら健康にも良さそうだし、いい趣味だと思う。
「……ヨガか。いいんじゃないか? 千雪には似合ってると思うよ」
「そうでしょう? 精神統一も兼ねてますから、お仕事の前とかはよくやるんです。おかげで最近は、前より少しだけ肩こりがマシになりましたし」
言いながら、彼女は自分の胸を持ち上げるようにして腕組みをする。すると当然、彼女の大きな乳房が、ぎゅうっと圧迫されるのだ。
それは彼女の柔らかさをアピールするように形を変え、深い谷間を見せつけてきた。そこに汗が流れて溜まっていくのが、千雪の体温と興奮した身体の発情具合を如実に表していた。
「ふふっ……。よかったら、旦那さまもやってみます?」
「ヨガをか……?」
「ええ。私がお手本を見せて差し上げますから」
そう言うなり、千雪はヨガマットを背に寝転んだ。そして両膝を胸に抱えるように折り曲げ、膝から先を天に向けてピンと伸ばす。
いわゆる、まんぐり返しの姿勢だ。千雪は俺の方を見つめながら、その姿勢を維持していた。
「これ、ハッピーベイビーってポーズなんです。ご存知です?」
「ハッピーベイビー……」
「ふふっ、アイスクリームじゃないですよ? 股関節を柔軟にする効果があるんですけど、ちょっとえっちな格好かもしれませんね……?」
千雪は悪戯っぽく笑うと、その体勢のまま足裏を掴んで、みずからグッと開いた。
それによって、彼女の尻にヨガパンツが張り付き、むちっとした肉付きが強調された。そして股間の割れ目が浮き上がるほど、生地が食い込んでいく。
またしても千雪の淫裂の形がはっきりと浮かび上がったことで、俺は思わず生唾を飲み込んだ。
現役アイドルの扇情的な光景を見せられて、平静を保てる男がいるだろうか。少なくとも、俺にとっては無理だった。
「ふふっ……」
千雪の視線は俺の顔を捉えていたが、それはどこか別の場所を見ているような気がしてならなかった。
俺の顔のずっと奥にある、別の何か。それを見透かすようにじっと見つめてきて、妖艶な微笑みを浮かべる。
そして訴えかけてくるのだ。あなたは今、何を考えているのですか? なぜ、なにもしないのですか? 私は、こんなにも無防備なのに……と。
千雪は気付いている。俺が彼女に劣情を抱いていることを、当然知っている。
その上で、この挑発するような態度を取っているのだ。俺に……俺から手を出して欲しくて。
思えば、俺から千雪にアプローチを仕掛けることは少ない。それは催眠をかけてしまった手前、自分から手を出すことに対して、躊躇いがあるからだ。
……いや、違う。本当は怖いだけなのだ。一度抱いたら歯止めがきかなくなりそうで、千雪に溺れてしまいそうで、それが怖かった。
催眠をかける前から、俺は彼女を避けていた。自分の気持ちから目を逸らすために、わざと彼女を遠ざけるような行動を取っていた。そして催眠をかけた後も、結局は欲望を押さえ込んでしまった。
でも今は違う。千雪との度重なる交わりを経て、いい加減たがが外れかけている。それに千雪がここまで誘ってくるのだから、応えないわけにはいかないだろう。
なにより、彼女が好きだという想いは本物で、抑えきれないほどに膨れ上がっているのだ。
「お次は、猫のポーズをお見せしますね……?」
俺の心情をよそに、千雪はそう言って身体を捻るように反転させた。今度は四つん這いになって、腰を高く持ち上げる。
筋の通った綺麗な背中と、丸々とした尻のラインがくっきりと見えて、俺はもう辛抱たまらなくなっていた。
「ん〜」
千雪はそんな俺の感情を知ってか知らずか、誘うように臀部を振ってみせる。求愛ダンスの如き動作によって、彼女の股間から発せられる匂いが強くなっていくのを感じた。
天の岩戸に引き篭もった俺を誘い出すため、彼女は自らの身体を差し出しているのだ。それに抗うことなど出来るはずもなく、俺はふらふらと吸い寄せられていく。
そして、両手を伸ばして、千雪の尻に触れた。
「あっ……」
千雪はその動きに反応して、ピクリと身体を震わせたものの、抵抗する様子はなかった。それどころか、みずから腰を上げて、俺の手がもっと触れやすいよう配慮してくる。
その期待に応えるべく、俺は遠慮なく彼女の柔らかい肉を掴んだ。しかし布越しだと感触が鈍く、もどかしい。
「私は旦那さまのものだから……好きにしてくださって構わないんですよ?」
千雪は俺を煽るかのように、甘い声で囁いた。そう言われると、もう我慢できなかった。
俺はヨガパンツに手をかけて、そのまま太ももまで一気にずり下ろす。
その瞬間、むわっと鼻をつく淫臭が漂ってきた。
千雪の秘所から発せられた、甘酸っぱいフェロモンだ。汗と雌汁の入り混じった、濃密な女の香り。それを嗅いだだけで、頭がクラクラして正常な思考ができなくなってしまう。
そしてその強烈な誘惑に逆らうことなく、俺は露出させた千雪の尻を鷲掴みにした。指先が埋まるほどの柔らかさと弾力を兼ね備えた尻肉は、揉むたびに形を変えて、俺を楽しませてくれる。
深い谷間を作っている尻肉を左右に広げれば、少し黒ずんでいるシワと、薄桃色の粘膜が露になった。そこから一層強く、淫猥な臭いが溢れてくる。
「千雪……すごい匂いだ。俺に見られながら、こんな恥ずかしい格好をして、興奮していたのか?」
俺はわざと羞恥心を煽り立てるような言葉を選んで、口に出した。
すると千雪は、俺のほうを振り向いて微笑む。
「はい、そうなんです……。桑山千雪は、旦那さまにいっぱい可愛がってもらえたおかげで、すっかり卑しい女になってしまいました。体臭も濃くしてごめんなさい……」
そして申し訳なさそうに眉尻を下げつつも、どこか嬉しそうに頬を赤らめていた。
その表情は俺の言葉を肯定していて、自分の変態性を受け入れているように思える。千雪は自分が淫乱であることを、恥じていないのだ。
「どうか、この浅ましい雌豚に、お仕置きをしてください……♡」
千雪は切なげに息を漏らしながら、俺に向かって尻を突き出し、媚びるような視線を送ってくる。
それに、どうやら卑猥な想像しているらしく、膣口からはダラダラと愛液が垂れてきている。
まるで俺に犯されることを望んでいるかのような仕草に、ゾクッと背筋が震えるのを感じた。
千雪は、俺に主導権を握らせようとしているのだろう。俺から千雪を求める口実を作るために、あえて誘い込んでいるのだ。だから今日は、彼女から手を出すのを避けていた。たまには男らしく、己の欲望に従って欲しいのかもしれない。
そこまで理解してしまうと、もう止められなかった。
千雪の尻を撫で回し、割れ目に沿って指先を走らせてから、ぐいっと広げる。そして現れた尻穴をツンツンとつついた。
「ふっ、ううん……♡」
肛門への刺激に反応するように、千雪の身体が小さく跳ねる。しかしそれでも彼女は逃げようとせず、むしろより強い快楽を求めて、俺の方に腰を突き出してきた。
そんな千雪の態度に気をよくした俺は、さらに大胆になる。秘所から溢れ出る雌汁を指に絡めると、そのまま尻穴へと挿入した。さして抵抗なく、人差し指がアナルの中へ飲み込まれていく。
「ひぐぅ……!? あっ、あぁん……♡」
千雪は一瞬だけ苦しげな声を上げたものの、すぐに艶っぽい喘ぎに変わる。
俺が開拓するまでは、排泄にしか使ったことのないはずの器官だが、今では立派な性器として完成されていた。
「ふぅーっ、ふっ、うっ、ふっ……!」
千雪は俺の指の動きに合わせて、荒い呼吸を繰り返す。
それが苦痛によるものなのか、快感によるものなのかは分からないが、少なくとも嫌がっているようには見えない。それどころか、尻を左右に振りながら、もっと激しくして欲しいとねだってすらいるようだ。
「ひぅ、あっ、ああ……! 気持ちいいです、旦那さま……もっと、もっといじめてくださいぃ……♡」
漏れ出る嬌声には、明らかな悦びが混じっていて、その言葉が嘘ではないことが伺える。千雪は尻の穴を弄られるのが好きな変態だからだ。
お望み通り、俺は中指も加えて二本同時に挿入する。千雪はビクンと大きく痙攣したものの、痛みを訴える様子はない。それどころか、ますます甘い声で鳴き始めた。
腸壁は熱く、ぬるりと湿っていて、軽く指でピストン運動させるだけでも、千雪は気持ちよさそうだ。
千雪の身体はどこもかしこも柔らかいのだが、その中でも尻穴は特に格別だった。硬い肉棒を突き入れても傷つかないようにできているし、感度も高い。
腸内に快楽を感じる神経は通っていないはずなのに、千雪の肉体はそれを凌駕している。尻穴をほじくり回されるだけで、絶頂を迎えてしまうほどに。
男なら前立腺があるから理解できなくもない。しかし女である千雪がここまで感じているのは、異常なことだった。
自惚れかもしれないが、俺にされているからという理由が大きいと思う。オキシトシン——愛情ホルモンなる脳内物質が分泌されると、性的興奮を高めると聞いたことがあったから。
「おしりぃ……すごぉ……♡ 旦那さまにぃ……ずぽずぽされてぇ……気持ちよくなっちゃってますぅ……♡」
千雪はだらしのない笑みを浮かべながら、夢見心地で呟く。その顔は淫蕩そのもので、とても普段の清楚な彼女からは想像できないものだ。
実はこの体勢からでも、レッスン室の壁一面に張られた鏡を通して、彼女の表情をうかがえる。見られていると分かっていないのか、千雪は気にすることなく乱れていた。
しかし、ここまでの痴態を見せつけられてしまえば、もう我慢できるわけがない。俺も限界まで昂ぶっていた。下着の中で、はち切れそうなくらいに膨張し、痛いぐらいに勃起している。
「ひゃんっ……♡」
俺は尻穴を穿つ指をいったん引き抜くと、代わりに包皮を剥いた肉棒を押し当てた。
尻穴は物欲しげにヒクついており、亀頭の先端を少し押し込んだだけで、ちゅうぅ……っと吸い付くような動きを見せる。
「あっ……おちんちん、挿れてくださるんですね? アナルは綺麗にしてありますから、思う存分犯していただいて大丈夫ですよ……♡」
「えっ、綺麗にって……」
「……浣腸です。ここはレッスン室ですし、この前みたいにお漏らししてしまうと、後片付けが大変なので、ちゃんと準備しておきました」
つまり、初めから俺に抱かれるつもりで来たということか。なんて卑しく、それでいて可愛らしい女性なんだろう。
「ですから、遠慮なさらずにどうぞ♡ あのとき以上に、激しく愛していただけると嬉しいです……♡」
千雪は甘ったるい吐息を漏らしながら、こちらを振り向いて微笑む。その表情は淫らな期待に満ちていて、俺のモノを受け入れることを心待ちにしているようだった。
その証拠に秘所から溢れ出た蜜液が太ももを伝い、マットにまで垂れている。そして千雪自身も腰を動かして、俺が抽送しやすい角度を調整しているようだ。
「挿れるぞ、千雪……」
「はい♡ きて……くださいっ……♡」
俺が声をかけると、千雪はうっとりとした声色で応じてきた。
ゆっくりと少しずつだが、確実に肉棒を埋没させていく。丹念に前戯したのと、我慢汁で濡れそぼっているのも相まって、肛門の抵抗は少ない。
それでも狭いことに変わりはなく、ぎゅうぎゅうと締め付けられる感覚はあった。膣とはまた違った感触。腸内というのは本来、そういうものなのだ。
しかし千雪の尻穴はまるで歓迎するように、いやらしく絡みついてくる。俺のものを受け入れたくて仕方ないようだ。
やがて一番太いカリ首の部分が入ったところで、一旦動きを止める。すると千雪が不満げに唇を尖らせた。
「……どうされたんです? まだ全部入ってないじゃないですか」
「ああ……」
確かに挿入はまだ半分も進んでいない。しかし、これ以上奥へ進めば、より強い刺激が待っていることが分かりきっている。
実のところ、長らく焦らされたことで、俺の射精欲は限界に近かった。このままでは挿入即暴発という情けない事態になりかねない。
だからといって、ここで休憩したところで状況が変わるわけではないのだが。
むしろ、中途半端な状態で放置するほうが、辛いのかもしれない。
なぜなら、千雪の括約筋が早く奥まで挿れろとばかりに、きつくカリ首を締め上げてくるからだ。それに加えて、千雪の媚びるような視線が、俺の性欲をさらに煽ってきた。
「くっ……!」
腹を決め、一気に突き入れる。浣腸で空になった直腸に、俺のものが勢いよく侵入していく。
パンッ……! っと互いの肌がぶつかる音が室内に響き、肉棒が根元まで入ったことを知らせてくれた。同時に狂おしいまでの快感が、背筋を駆け上がっていく。
「うぐっ……!」
その瞬間、俺は堪えきれずに射精してしまった。
どくっ、どくっ……と脈動に合わせて精液が噴出し、千雪の腸内にぶちまけられる。
やはり暴発は避けられない運命だった。情けない気持ちになるが、限界まで焦らしてきた千雪にも責任はあるはずだ。
「ふふっ、奥までずっぽり入っちゃいましたね……♡」
しかし千雪は、そんな俺を咎めることもなく、むしろ嬉しそうに尻穴をひくつかせていた。腸壁が熱くうねるようにして肉棒を包み込み、きゅうきゅうと搾ってくる。
射精後の余韻に浸る暇もないまま、肉棒は萎えることなく硬度を維持していた。
暴発に気づいていないのか、もしくは気づいていないフリをしているのか。どちらにせよ、俺にとっては都合の良いことだ。
誤魔化しが効くうちに、腰を前後に動かし始める。千雪の腰を両手で掴み、肉棒を抽送させた。
「んんっ……はっ、はあっ……♡」
先走った精液が潤滑油となり、ピストン運動を助けてくれる。そのおかげでスムーズに動かすことができた。
とはいえ、未だに射精後の敏感な状態だ。あまり強く擦ると痛みを感じてしまう。
俺は手加減しつつ、慎重に出し入れを繰り返した。
「んっ……やっぱり旦那さまのおちんちんが一番です♡ 指よりも、うんちよりも、ずっと太くて硬くて……あぁん♡」
尻穴を使うのは二度目だからか、千雪の方も慣れた様子で受け入れてくれている。それにしても、適応力が高すぎるような気がするが。
とにかく苦痛を与えないように、ゆっくりと優しく動くことにしよう。暴発したおかげで、いくらかは冷静になれている。
それからしばらくは、ゆったりとしたストロークが続いた。時折、カリ首が良いところに引っかかったりして、そのたびに千雪は甘い声を漏らす。
そして俺も、肛門の粘膜に包まれて、亀頭を舐め回されるかのような快楽を味わっていた。
「んっ……優しくされるのも、いいですね……」
千雪が艶っぽい吐息を漏らしながら言う。俺としても激しく責め立てるより、こういったスローセックスのほうが好みだ。
いつも激しく絞られすぎて、最後は痛いくらいなんだよな……などと考えていると、不意に千雪がこちらに振り向いてきた。
「……ふふふっ♡」
目が合うと、彼女は悪戯っぽく微笑む。
そして千雪は、ゆっくりと尻穴を引き締め、俺のものを締め上げた。腸内の圧力が高まり、ぎゅうぎゅうと圧迫してくる。それは今までのような緩慢なものではなく、明らかに意図的なものだった。
「うぁ……!」
突然の強い刺激に、思わず顔をしかめる。
千雪はそれを見てクスリと笑うと、さらに肛門を窄めて、腰をぐりぐりと押し付けてきた。口には出さないが、もっと激しく動けということだろう。
それならば、望み通りにしてやろうじゃないか。快感の波が引いて、少しばかり落ち着いてきたところだ。俺は一度深呼吸すると、力強くピストンを始めた。
「……っ! あっ……♡ はっ、はっ、はっ……♡」
パンッ、パンッ、パンッ……!
艶かしい水音とともに、肉同士がぶつかりあう乾いた音が響く。腰を打ちつけるたびに千雪の巨尻に波紋が広がり、汗ばんだ肌が揺れ動いた。
彼女の尻はシミの無い綺麗なもので、毛穴一つ見当たらないほどに滑らかな肌触りをしている。照明を受けて輝いているように見えるのは、きっと汗のせいだけではないはずだ。
それが俺の動きに合わせて形を変え、いやらしく震える様はなんとも扇情的だった。そんな極上の尻肉に、俺は腰を何度も叩きつける。
「やっ……! ふっ、深いぃっ……♡ はっ……あっ♡」
肉棒が奥深くまで入り込んでいるためか、千雪の声に苦しげな色が混ざった。だがそれも一瞬のこと。すぐにまた甘美な響きを奏で始める。
「くっ……くふぅっ……はっ、はっ……♡」
パンッ、パンッパンッ……!
俺は欲望のままに腰を振り続けた。結合部からは、空気を含んだ下品な音が漏れ続けている。
排泄器官である尻穴を犯しているという背徳感も相まって、ますます興奮が高まっていくのを感じた。千雪もそれは同じようで、腸内は熱く蕩けそうなくらいになっている。
「おくっ……! あたって……あぁっ、すごいっ……♡ こんな、だめっ……! すぐっ、にぃ……んんんっ……!」
千雪は上体を反らし、ビクビクと身体を痙攣させた。どうやら絶頂を迎えたようだ。同時に肛門がきゅうっと締まり、肉棒を強く包み込んでくる。
しかし俺は、それでも抽送を止めることはしなかった。むしろさらにペースを上げて、ピストンを続ける。
「えっ……!? あっ、ま、待ってください……! まだ、イッてるっ……からぁ……! ふっ……! くぅん……♡」
千雪は戸惑いながらも、腰をくねらせて肉棒から逃れようとする。
俺はそれを許さず、彼女の腰を押さえつけて引き寄せた。そして、そのまま激しく打ちつけ続ける。
「ひゃあぁぁぁっ♡ あっ、んんんっ……♡」
千雪の口から、ふたたび甘い声が溢れ出した。
いつもいいようにされてばかりなので、こうして彼女を屈服させるようなセックスは新鮮だ。俺は征服欲を満たしながら、容赦なく責め立てていった。
心の持ちようなのか、それとも単に刺激に慣れたからなのか。射精欲をある程度コントロールできるようになった俺は、千雪をじっくりと味わい尽くす余裕ができていた。
抽送しながら尻の谷間を割り開き、その中央にある肛門を眺めてみる。
そこは俺のモノをがっつりくわえ込み、卑猥に拡がっていた。そして白く泡立った汁が、抽送に合わせて溢れ出ている。
俺だけが知っている、彼女の恥部。他の誰も知らない、俺だけの場所だ。そう思うだけで、胸の奥底から愛おしさが湧き上がってきた。
それと同時に、もっと千雪を感じたいという欲求も高まる。そこで俺は、あることを思い付いた。
「千雪、少しだけ辛いかもしれないけど……我慢してくれ」
「えっ……ええっ!?」
俺は千雪のトップスを上にずらして、胸を露出させる。それに伴って、窮屈に支えられていた二つの果実が、たゆんっとまろび出た。
それから、四つん這いになっている千雪の両腕を掴み、ぐいっと引っ張った。すると、彼女の上半身が自然と反る体勢になる。
「こんな格好……なんだか怖いです……!」
千雪は不安げな表情を浮かべるが、構わずに腕を引っぱり続けた。
この姿勢は千雪にとってかなり苦しいだろう。それに俺が腕をいきなり離せば、彼女は支えを失って顔から床に突っ込むことになる。
しかし、その不安要素を補って余りあるメリットがあった。
「千雪、鏡を見てくれないか?」
「鏡……? あっ……」
千雪に正面にある姿見を見るよう促す。そこには、豊かな乳房を暴れさせながら、獣のように後ろから犯されている雌の姿があった。
「千雪の恥ずかしいところが、前も後ろも丸見えだ」
「……やっ、やだぁっ……♡」
羞恥心を煽るような言葉を投げかけると、千雪の直腸がキュッと締まった。
やはり千雪も女だ。自分が恥部を曝け出しながら犯されて感じているという事実を突きつけられ、興奮しているのだろうか。彼女の身体はさらなる快楽を求めて揺れ動く。
「腰を突くたびに、胸がいやらしく揺れてるぞ。陥没乳首も、こんなに勃起してるじゃないか」
俺は腰の動きを止めないまま、千雪に囁いた。
俺の言葉通り、千雪の大きな双丘は上下前後にぶるんっ、ぷるんっ……! っと跳ね回っている。それに乳頭は痛々しいほどに膨らみ、存在を主張していた。
「みっ、みないでぇ……♡」
千雪は顔を真っ赤にして、涙目になりながら懇願する。だが、それが本心でないことは明らかだった。
なぜなら、彼女の直腸は悦びに打ち震えるようにうねっているからだ。まるで男根に媚びを売るかのように、肉壁が絡みついてくる。
それに、視線は鏡越しに俺を見つめていた。それは期待するような眼差しで、千雪自身も言葉とは裏腹に、俺に痴態を見てほしくて仕方がないようだ。
そんな千雪が可愛く思えて、俺は情欲のままに腰を打ち付けた。
「はぁ……んっ……! あっ、あああっ! 違うとこっ、あたって……! そこぉ……っ! あっ、だめっ……♡」
肉棒を突き入れる角度が変わり、新たな性感帯を刺激したようだ。千雪の反応が大きくなる。
細かい脈動を繰り返す腸内。その動きは、千雪が絶頂を迎える寸前であることを示していた。
俺はラストスパートをかけるべく、抽送のペースをさらに上げる。ごりごりと腸壁を抉るように亀頭を擦り付けていく。
「はげっ……しぃっ……! あぁっ、あっ……♡ またっ、イっちゃいます……♡ でもっ……だ、旦那さまとぉ……! ふぐっ、ぅ……いっしょじゃなきゃ……あっ♡ い、いやですぅ……!」
「……分かってる。一緒にイこうな、千雪」
その言葉を合図にするように、俺は最後のひと突きを最奥へと叩き込んだ。
汗で濡れた尻たぶが潰れるほど強く腰を押し付けると、熱い精液が尿道を通って飛び出していった。
どくんっ! どぴゅっ……!! どぶっ……!!!
「ひぐっ! ひぐうぅっ……!! あっ、ああぁっ……! なかっ、あちゅいっ……! おっきいのっ、びりびりぃ……きてまふぅ……♡」
俺が射精した瞬間、千雪も達していたらしい。背筋を大きく仰け反らせながら、呂律の回らない甘ったるい嬌声を上げる。そしてガクガクと全身を痙攣させ、力なく頭を垂れた。
俺は絶頂を迎えながらも、なおも搾り取ろうとしてくる腸圧に負けないよう、歯を食い縛る。二回目の射精にも関わらず、勢いは全く衰えていなかった。
「……千雪?」
「はっ、はひゅ……」
吐精にしては長い時間が経過しても、千雪は荒い呼吸を繰り返していた。どうやら、まだ快感の余韻に浸っているらしい。
普段交わるときは、余裕ある態度を見せる彼女だったが、今日は様子が違った。こんな風に果て続ける彼女を見るのは、初めてアナルセックスをしたとき以来だ。
尻穴が敏感なせいだろうか。いや、敏感なのは乳首やクリトリスもそうだから、やはり単純に性質の問題だろう。
攻め手にまわると強気になる千雪だが、受け身にまわるとその反動が来るのかもしれない。
最強の矛に、最弱の盾というわけだ。矛盾はしていない。
そう考えると、このギャップも愛しく思える。そして、どこまでも男に都合の良い女だと思った。
俺は千雪の腕を引っ張って抱き起こす。どんな惚けた表情をしているのか確かめたかったのだ。膝立ちになった彼女は、力なく俺に背を預けた。
「あっ……♡」
しかし予想に反して、千雪の顔には笑みがあった。彼女はうっとりとした瞳で、鏡越しにこちらを見つめてくる。
汗が浮かぶ額に髪を張り付かせて、頬を紅潮させた淫靡な顔。そこには、もはや恥じらいの色など微塵もなかった。
「旦那さまぁ……素敵です……♡ あんなに激しく、私のことを求めてくださって……♡ 乱暴に腕を掴まれちゃったりして……♡ もうっ、思い返すだけで……きゅんっ、ってしちゃいます……♡」
千雪は陶酔しきった様子で呟き、自身の腕を後ろ手にして、俺の首元に絡めてきた。
密着した彼女の身体は熱を帯びており、汗ばんだ肌はしっとりとしている。俺もまた、千雪と同じぐらい汗を流していた。
「んっ……?」
途端に鼻につくような、すえた匂いが漂ってきた。汗臭さとはまた違う種類だった。俺は思わず眉根を寄せてしまう。
これは嗅いだことのある匂いだった。なんだったか。いや、思い出すまでもない。千雪の腋の臭いだ。
先ほどまで行為に没頭していたため、まったく気にならなかったが、千雪の身体から独特の刺激的な香りが発せられている。腋を露出するように腕を上げたことで、より一層強く感じられた。
「……やっぱり、気になります? 制汗剤をつけていないと、どうしても……。それに旦那さまに愛されたら、こんなにキツくなっちゃうんです……」
雰囲気で察したのか、千雪は苦笑いを浮かべた。確かに最初嗅いだときよりも、かなり強烈なものになっている気がする。
とはいえ、俺はそのことに言及するつもりはなかった。むしろ興奮材料にしかならない。その証拠に、肉棒は再び硬度を取り戻しつつあった。
「だから、好きだって言っただろう? 俺はアイドルとしての、偶像としての千雪じゃなくて、一人の女の子として千雪を愛しているって」
「ひゃんっ……♡」
俺は、おもむろに千雪の胸を鷲掴みにした。柔らかな双丘は指の間から溢れ出しそうなほどのボリュームがあり、揉むたびに形を変える。
千雪は小さく喘ぎ声を上げながら、悩ましげに身を捩らせた。
「ワキガだって、千雪の魅力の一部だよ。俺にとっては、この胸と同じくらいに魅力的な性癖だ」
俺はそう言って、両手で左右の乳房を同時に弄ぶ。
手のひらに収まりきらないサイズの爆乳を、下乳のほうから持ち上げるように、ゆっくりと。そして時折、乳首を摘んでコリコリと擦り合わせるように動かした。
「ひゃうん……! あっ、あぅっ……♡ ちくっ、びぃ……♡ そんなっ、一緒に触られるとぉ……♡」
千雪は切なげに声を漏らす。その顔は、もう蕩けきっていた。
千雪の弱点は、既に知り尽くしている。彼女はこうやって、先端を虐められることが大好きなのだ。特に、カリっと爪先で引っ掻くのがお気に入りらしい。
「好きだ……千雪……。千雪の全てが好きだ」
「あっ、ああっ……♡」
耳元で囁いてやると、千雪の肩がビクッと震える。
そのまま首筋に舌を這わせていく。しょっぱい味が口の中に広がっていくが、不思議とそれすらも美味しく思えた。
同時に両方の乳首を強めにつねると、彼女は一際大きく身体をしならせた。
「やっ、あぁっ♡ だ、だめぇ……い、いくっ……! わ、私もっ……しゅきぃっ♡ 旦那ひゃまのことっ、愛してましゅかりゃぁ……!」
腸内をキュッと食い締め、浅い絶頂を迎えた千雪の身体から力が抜けていき、崩れ落ちそうになる。しかし俺はそれを許さず、さらに責めを続けた。
乳首を片手で軽く引っ張り上げつつ、もう片方の手を秘所へと伸ばす。そこは、すっかり濡れそぼっており、指で割れ目をなぞってやれば、ぬちゅりと淫猥な水音が響く。
「ひゃうぅ……♡ そこ、弱いんです……♡ んっ、んん……♡ はぁ……! んっ、んっ……♡」
言われなくとも知っている。弱点の多い千雪だが、中でも一番敏感なのは、やはりここだった。
クリトリスを優しく撫でてやるだけで、膣口からは愛液が大量に分泌され、小陰唇が小刻みに痙攣する。
千雪は身体を支えるので精一杯なのか、鏡越しに見える瞳からは理性が失われつつある。俺はそれを確認すると、指の動きを早めた。
「ふぅ……んっ……♡ んんっ……!」
陰核を人差し指と中指の間に挟み込み、左右に揺らしたり、押し潰したりする。すると、千雪の声色に艶が増し、尻肉壺がギュウゥッと締まった。またしても達したのだろう。
天性の美貌と肉体を持つ代わりに、千雪には致命的な欠点があった。
それは快楽に対して、あまりにも脆すぎるということだ。普通の人間なら、ここまで感じないようなことでも感じてしまう。
俺が愛を囁けば、それだけで達してしまうし、こうして乳首や陰核をいじめ抜いているだけでも、簡単に絶頂を迎えてしまうのだ。
もちろん、そんなことは俺にとっては都合が良いことこの上ないのだが、同時に男にとっても無防備すぎて心配になってしまう。
もし誰かに千雪の性質を見抜かれたらどうなるか……。手練れの軟派に堕ちた千雪の姿など、想像したくもない。
「……動くぞ?」
「ひゃい……♡ いっぱい突いてくだしゃいっ……♡ 旦那ひゃまのおちんちんでぇ……千雪のお尻おまんこっ、滅茶苦茶にしてくだしゃいっ……♡」
だから俺は、千雪は俺だけの女だと身体に刻み込むために、彼女の腰を掴み直して膝立ちのまま、ふたたび抽送を開始した。
二回も射精したというのに、その勢いは全く衰えていなかった。むしろ、ますます硬さを増しているような気さえする。
挿れっぱなしの肉棒は、千雪の肛門括約筋によって、きゅうっと締め付けられており、亀頭から根元まで隙間なく密着している。
抜こうとすればカリ首が引っかかり、入れようとすれば奥まで容易く飲み込まれていった。
「ふっ……♡ くふぅん……♡ しゅごっ……♡ 私のアナルッ……! おちんちんの形になってますぅ……♡」
俺専用に開発された千雪の尻穴は、ピッタリと粘膜に吸い付いてくる。そして、腸壁全体が意思を持っているかのように、ぎゅむっと絡みついてきた。
まったく情欲を萎えさせてくれない。そのことが嬉しくもあり、また恐ろしくもある。一度はまったら二度と抜け出せない沼に沈んでいく感覚が、そこにはあった。
千雪は、人間の持つ五感全てを満たしてくれる。美しく可憐な容姿はもちろんのこと、その性格も、肉体も、肌触りも、匂いも、味も、声も、何もかもが最高なのだ。
もう何度惚れ直したことだろうか。千雪は俺にとって、何よりも大切な存在だ。彼女を失うことなど考えられない。
俺は改めて、千雪への想いを強く認識しつつ、激しいピストン運動を繰り返した。
「おっ……♡ ほっ……! あぁっ……♡ いっ、いきなりぃ……♡ 旦那ひゃまぁ……♡ んっ、んっ……♡ しゅごいぃ……っ……!」
尻穴をほじくり返されるたびに、千雪の口から下品な喘ぎが漏れる。それが、さらに興奮を掻き立てていく。
もっと気持ち良くしてやりたい。俺は、右手を秘所へと伸ばし、肉芽を摘み上げた。左手は暴れ狂う乳肉へと持っていき、潰れるほど強く鷲掴みにする。
「はあぁぁぁっ……♡ あっ、ああぁっ……! それっ、ダメですっ……! イキっぱなしっ……♡ ひぅっ……! んんっ……! イクっ! イッてるからぁ……! んっ、んんっ……!! ゆっ、許してくださいっ……♡」
千雪はあらゆる液体で顔を汚しながら、何度も絶頂を迎える。その最中、鏡越しに俺の顔を見つめると、蕩けた表情で許しを請うた。
しかし、手を緩めてはいけない。千雪の身体が、もっと激しくして欲しいと求めているのだ。男根を通して千雪と繋がっている俺には、それがよく分かる。
だからこそ、もっともっとイカせてやるのだ。徹底的に快楽漬けにしてやる。お前の欲求を満たせるのは、俺だけなんだということを理解させなければならない。そうすれば、千雪が他の男に靡くこともないだろう。
「ああっ……♡ お尻ッ……♡ クリぃ……♡ おっぱいッ……♡ どっちもっ……♡ しゅごいぃ……♡ んんっ! イグっ……♡ またっ……! おっきいのっ……♡ 来ちゃいますぅ……♡ おッ……! ぁっ……♡ ンっ……んんん~ッッ……♡♡」
弱点の三点責めで、絶頂を極めさせる。千雪の直腸が収縮し、痙攣し、そして再び弛緩した。それでもなお、俺の抽送は止まらない。千雪に休む暇もなく、連続した絶頂を味わわせ続けた。
「ほッ……♡ おぉっ……♡ あにゃりゅっ……♡ ひぎッ……♡ じぇんぶっ……イっへまひゅ……♡ ひぐッ……♡ も、もう……ゆるひっ……ゆるひてくらひゃいぃ……♡」
もはや、千雪はまともに喋ることもできないようだ。呂律も回らず、意味のない言葉を漏らすだけだった。
だが、それでいい。今、千雪の頭の中は、快感と俺への愛だけで埋め尽くされているはずだからだ。それは、とても喜ばしいことだと思う。
俺は、そんな千雪を愛しく思いながら、ラストスパートをかけた。三回目で鈍感になっているとはいえ、さすがに限界が近づいてきたのだ。
腰の動きを加速させ、腸壁の奥まで突き刺していく。すると、千雪の尻穴がキュッと締まり、俺から精液を搾り取ろうとしてきた。
どこまでも貪欲で、淫らな穴だ。食いしん坊で、卑しん坊な千雪らしい。
「出すぞっ、千雪……!」
一際大きなストロークを繰り出し、最奥部に亀頭を密着させた。そのまま、溜め込んでいたものを一気に放出する。
ドクンッドクンドクンッ……。
射精と同時に、全身が震え上がった。まるで、脳が痺れているような感覚に陥る。視界が明滅し、何も考えられなくなるほど強烈な快楽が押し寄せてきた。
「はぁああっ……♡ あっ、あちゅいいっ……♡」
千雪は甘い嬌声を漏らしながら、ビクビクと身体を震わせる。そのせいで、彼女の内にある俺のモノにも振動が届いた。
俺は、千雪の中にたっぷりと注ぎ込んだあと、まだ繋がったままの状態で、千雪を抱き寄せる。それから、ゆっくりと後ろに座り込んだ。
あぐらをかいた俺の上に、千雪が乗っかる形になる。いわゆる背面座位というやつだ。
「んんっ……♡ はぁ……♡ 旦那ひゃまぁ……♡ んっ……♡ しゅきぃ……♡ だいしゅきれすぅ……♡♡」
千雪は俺に背を預けて、小さく縮こまる。その姿が、たまらなく可愛かった。互いに汗ばんだ肌を重ね合わせ、呼吸を整えていく。
しばらくして落ち着きを取り戻した千雪は、おもむろに俺の手を取り、自身の手と重ね合わせた。
「旦那さま……とっても気持ち良かったです……♡」
「ああ、俺もだ」
「ふふっ。まだ夢見心地って感じです。でも、ちゃんと現実ですよ? だって、こんなにドキドキしちゃってますもん……」
千雪はそう言って、俺の手を自らの心臓に押し当てた。
その鼓動は未だに早鐘を打っており、俺と同じぐらいの脈拍だった。行為中はもっと早かっただろうし、それだけで俺たちがどれほど興奮していたのかが、よく分かる。
「今日は良い日になりました。こうして旦那さまと深く繋がれて……本当に幸せです……。お互いに、早起きした甲斐がありましたね?」
「……まあ、な」
「ふふふっ……。旦那さまも殻を破ったようですし、また一歩前進ですね。私、それがとっても嬉しいんです……」
千雪はそう言うと、俺に身体を預けたまま、嬉しそうに微笑む。
「あと少し……かなぁ? なんだかワクワクしちゃうっ……! くふふふっ……!」
「……何のことだ?」
「ん〜? ……んー、それはぁ……まだ内緒ですっ! それより、そろそろお仕事の時間なんじゃありません?」
千雪に促され、俺は壁の上に掛けられてある時計を見る。時刻は既に正午の前になっていた。
「そうだな。でも、自主レッスンに付き合う予定だったのに、なんか悪いことをしたな……」
「いえ。レッスンは先ほど、お付き合いいただいたじゃないですか」
「えっ?」
「ダンスやボーカルレッスンなんて、ひと言も言いませんでしたよ? 私はただ旦那さまと、愛し合いたかっただけですから。強いて言うなら……そう、ビジュアルレッスンでしょうか? それとも、セックスレッスン……? ふふっ……!」
千雪は悪戯っぽく笑いながら、そんなことを言う。
「女の子は好きな男性と結ばれれば、自然と綺麗になれるんです。だから旦那さまには、私をもっと求めて欲しいんです。そして、私のことだけを考えてくださると、とっても嬉しいなって思えますからっ。だから、これから毎日、朝昼晩、愛してもらえるように頑張りますので、よろしくお願いしますね、旦那さまっ♡」
なるほど、まったくしたたかな女だ。だが、そんなところも魅力的だと思うのは、俺が彼女に惚れ込んでいるからだろうか。
「さて。後片付けもしなきゃですけど、先にシャワーを浴びませんか? 一緒に洗いっこしたいですし」
「……そうしようか。じゃあ、どいてくれるか?」
俺は千雪の提案を受け入れ、立ち上がろうとする。しかし、彼女は一向にどこうとはしなかった。
「どうした?」
「あの……できればまた、抱えながら連れて行ってほしいんです……。ダメですか……?」
「……浣腸したんだから、漏れるとしても俺のものくらいだろう。なんでまた……」
「うーん、なんでしょうか……。旦那さまに抱っこされるのが好きだから……かなぁ?」
「……なるほど」
お姫様抱っこに憧れる少女みたいな理由で、俺はまた千雪を抱え上げることになった。以前と異なるのは、千雪と向き合うか、後ろを向くかという違いだけ。
しかし、普通の駅弁より俺にかかる負荷が大きいため、かなりキツい体勢だ。尻穴に挿入したまま、M字開脚をしている千雪の膝裏に腕を通して持ち上げるのだが、なかなか骨が折れる。
彼女の身体を支えているのは、俺の肉棒と腕だけだ。自重によって深く刺さっているので、千雪は身動きすら取れない状態だった。
「わあ……♡ 恥ずかしいとこ、丸見えですね……♡」
壁一面に張られた鏡には、千雪の痴態が全て映し出されていた。
拘束するように抱えられているから、恥部を隠すことは叶わない。しかし、千雪は恥じらうどころか、興奮気味に頬を紅潮させている。こんな下品極まりないお姫様抱っこで、満足なのだろうか。
「……あっ♡ 旦那さまのおちんちんも、元気になってきましたね……?」
千雪の言葉通り、俺のモノは先ほどよりもさらに大きくなっていた。恋人を物のように扱って興奮する性癖などなかったはずなのだが、なぜかこの状況で興奮している自分がいる。
それはきっと、千雪が嬉しそうにしているからだろう。俺に辱められて喜んでいる千雪を見ると、俺自身も気持ち良くなってしまうのだ。
「……いいですよ?」
「えっ?」
「して、いいです。いえ、してほしいなぁ……なんて」
ふと、千雪がそんなことを言った。何をすれば良いのか分からず聞き返すと、千雪は続けて言う。
どうやらこの体勢で、千雪を犯せということらしい。
しかし、蒸し暑い室内で三回も射精した後だから、体力的にも体位的にも厳しいものがあった。それに行為中に力尽きてしまえば、千雪に怪我をさせてしまうかもしれない。
「それはさすがに……な?」
「どうしてです? こんなにおちんちんを大きくしておいて、我慢できるんですか……?」
「まあ、十分出したから……」
「……もしかして、私が重いからいけないんです? やっぱり、太ったのかなぁ……。うぅ……ちゃんと走ってるのに……」
まずい方向に話が進んでしまった。女性に体重の話をするのはタブーだと言うのに。
確かに千雪は重い。それは豊満なバストとヒップを見れば明らかだ。
全体的に引き締まって見えるものの、どうしても胸や尻が大きく目立つし、身長もそれなりにある。平たく言えば健康的な体型なので、アイドルにしては重い、という程度の話なのだが。
「千雪は重くないよ。仮に太っていたとしても、俺の気持ちが変わることはないさ」
これは本心だった。千雪はスタイル維持のために運動をしているわけだし、日々のレッスンだって頑張っている。俺にとっては、むしろその努力こそが美しくて愛しいのだ。
「……本当ですか? 私、結構食べる方なのに……体重だって、実際は——」
か細い声で千雪が呟いた。
「そのくらいなら、気にするほどじゃないと思うけど……」
「でも、他のアイドルの子と比べたら、ちょっと……。甘奈ちゃんとか、甜花ちゃんのほうが、ずっと痩せてますし……」
その二人と比較するのは間違いだと言おうとしたが、すんでのところで飲み込んだ。
千雪にとって身近に居るライバルが、彼女たちなのだろう。変なところで対抗心を燃やしているのが、なんとも彼女らしかった。
そもそも比較するなら、同じような体型の月岡や和泉が適任だと思うのだが、そこには触れないことにしよう。
「俺が気にしなくていいと、言っているんだ。仕事中以外は千雪しか見ないし、考えない。だから、俺を信じてくれないか?」
「あっ……♡ そ、そうですねっ! 私ったら、旦那さまのこと疑っちゃって……ごめんなさい……!」
毅然とした態度で言い放つと、千雪はようやく納得してくれたようだった。
なんとかこの体位で事を行うことを避けられたのだが、のちにシャワー室で第二ラウンドが始まることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。
◆◆◆
『おまけの後日談・非エロ』
身を清め、着衣を整えた俺たちは、レッスン室の後片付けを済ませてビルを後にしたところだ。時刻は昼時で、まだ時間に余裕があるから、二人で昼食を食べようということになった。
「今日は、私が決めてもいいですか?」
「ああ。いつも俺に合わせてくれているし、なんでも好きなものを言っていいぞ」
俺がそう言うと、千雪は嬉しそうに微笑んで、歩き出した。行き先は決まっているらしく、迷いなく足を進めている。
「美味しいスイーツを食べられるお店があるんです〜。前から行きたかったんですけど、結構混んでて……」
「そうなのか」
「中高生に人気のお店で、平日でも並んでるんですよね。でもお昼なら、そんなに待たずに入れますから!」
そうして歩くこと数分。
辿り着いたのは、いかにも女の子が好きそうな可愛らしい外観と内装をした洋菓子屋だった。客層も女性ばかりで、男性は今のところ俺一人しかいないようだ。
「わあ……今日は空いてますよっ。早速並びましょう……!」
「あ、ああ……」
千雪に手を引かれて、五人ほど居る列に並ぶ。少しばかり居心地が悪いが、これも仕方のないことだ。
「ここのスイーツ、見た目がすっごく可愛いんです! 飾りつけも凝っていて、食べるのが勿体ないくらいなんですよ〜」
「……ははっ、それは楽しみだな」
実のところ、俺はこの店に来たことがある。それも、甘奈と二人でだ。
別にやましいことではない。担当アイドルと交流を深めるために、食事に誘ったり、逆に誘われたりするのは、職業柄よくあることだった。
しかし、千雪にそのことを話すつもりはない。むやみに対抗心を焚き付けるのも良くないと思ったからだ。
「いらっしゃいませ〜!」
しばらく待つと、順番が来た。
入店後、女性店員の明るい声に迎えられる。店内には焼き菓子の甘い香りが漂い、女性客の食欲を刺激していた。
「店内でお召し上がりでしょうか? お席は空いておりますが」
「はい、二名でお願いします」
「かしこまりました。……二名さまご案内ですー!」
にこやかな笑顔を浮かべながら、店員が問いかけてくる。俺が答える前に、千雪が返事をしてしまった。
手慣れた様子の店員に連れられ、窓際の席へ通される。外が見える位置で、一部ガラス張りの壁からは通りがよく見えた。
「わあ、いっぱい種類がありますよ! なんだか目移りしちゃうなぁ……! ううん、どれにしよう……?」
メニュー表を見ながら、千雪が楽しげにしている。しばらくして互いに注文が決まり、店員を呼ぶボタンを千雪が押してくれた。
「お待たせいたしました。ご注文をお伺いします……」
注文を取りにきたのは、先ほどとは違う女性店員だった。見た目から察するに、大学生くらいの年頃だろうか。
「えっと、アプリコットプリンと……ミルクレープと……ガトーショコラと……あと、エクレールショコラ、プレミアムカスタードシューをお願いします。それと紅茶のセットで」
千雪が次々と品名を口にしていく。頼みすぎだと思ったが、あれだけ汗をかいたんだから、糖分が必要なのかもしれないと思い直した。
やがて店員が注文の確認を済ませて、俺の方を見る。
「……あれ、お客さん、前にもいらっしゃいましたよね?」
その言葉を聞いて、思わずぎくりとした。まさかとは思ったが、甘奈と来たときに居た店員だろうか。彼女は不思議そうに首を傾げている。
「……いえ、初めてですが」
「えっ? ……見間違えかな。可愛い彼女さんを連れたカッコいい人だったから、はっきり覚えているんですけど……」
「違いますって。それより注文を——」
やたらと突っかかる店員を冷静にあしらいつつ、なんとか注文を済ませた。
ふと対面を見ると、千雪は柔かな笑みを浮かべてこちらを見ていた。……なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「ふふふ。可愛い彼女さんかあ……」
「……いや、人違いだからな?」
「甘奈ちゃん? それともぉ、甜花ちゃん? こういうお店に来たがるのは、やっぱり甘奈ちゃんかなぁ……?」
千雪は怖いくらいに上機嫌で、そんなことを言い出した。これは、どう弁明してもダメそうだ。
「……すまん。前に甘奈と二人で、来たことがあったんだ」
「ふぅん……。でも、別に隠すようなことじゃないですよね? 甘奈ちゃんにおねだりされて、仕方なく付き合ってあげたんですよね? プロデューサーさんだから、断れなかったんですよね?」
まずい。完全に怒っている。というより、拗ねているのだろうか。
「そう……です」
「ふふふっ。じゃあ、私からは何も言いません」
千雪はテーブルの上に頬杖をつき、笑顔で俺を見つめていた。
笑うという行為は、本来攻撃的なものだと聞いたことがある。つまり今の千雪は、俺を責めているのだ。
「今日の私は、とっても気分がいいんです。プロデューサーさんと一緒に、いっぱい運動できましたから。それに、今から美味しいスイーツを一緒に食べられると思うと嬉しくて……つい、頼みすぎちゃったんです」
千雪の言葉を聞きながら、俺は冷や汗を流し続けていた。
「でも、アイドル活動をする上で、太っちゃうと困るじゃないですか。レッスンで消費できるカロリーなんて、たかが知れていますから……」
言葉に含みを持たせ、千雪は意味ありげに微笑んでいる。俺に何かを求めているのは明らかだった。
「……わかった。俺でよければ、いつでも付き合うから……」
「ふふっ。では今日、私たちの家でお待ちしますから、早く帰ってきてくださいね?」
どうやら今日は、リカバリーソーダのお世話になりそうだ。