※この作品はR-18です。

催眠アプリがインストールされました   作:ぬいカス

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19日目

 

 ベランダから聞こえる雨音が、静かな部屋に響く。しとしと、ぽつぽつと降り続けるそれは、ひとりぼっちで作業をしている私にとって、とても心地よいBGMだった。

 無音よりも、少しくらい雑音があったほうが集中できる。特に、自然の織りなす旋律は、心を落ち着かせる作用があると思う。一人でいると、どうしても寂しくなるから。

 

 周りには、私が作ったぬいぐるみが沢山あって賑わってるけど、やっぱり彼には敵わない。毎日のように顔をあわせて、話して、触れあって、愛しあっているのに、少し離れただけで孤独感に苛まれる。

 でも私の中で、彼の存在がどれほど大きいのかを改めて実感できるから、こうして離れている時間も嫌いじゃない。依存しすぎている自覚はあるけど、それだけ彼を愛しているってことだもん。私の心のほつれを縫い直してくれるのは、たった一人のあなただけ。

 

「ふう、あとはこれで……」

 

 生地を縫い終えて、ほっと一息つく。あとは糸を切ってしまえば完成。私はハサミを手に取って、パチンと糸を切った。

 

「ふふっ……! 私の国へようこそっ!」

 

 出来上がったぬいぐるみを、顔の前へと掲げて確かめてみる。スーツを着た彼を模したそれは、自分でも良い出来栄えだと思えた。

 

 前々から作りたかったけど、踏ん切りがつかなかったんだ。形にしちゃったら、内に秘めた感情が溢れちゃいそうで。

 だけど、想いを伝え合った今なら、もう大丈夫。私の愛情を、全部込めてあげられる。物には作り手の魂が宿るっていうから、中途半端な気持ちで進めるなんて、絶対に嫌だもん。

 

「んん〜!」

 

 いつも作業するときに着けている眼鏡を外してから、大きく背筋を逸らす。結構集中してたから、身体中が凝り固まってるなぁ。特に肩のところが。

 

「……飾るなら、あそこかな」

 

 ある程度ほぐしたあと、ぬいぐるみを持ちながら立ち上がり、寝室に移動する。

 扉を開けて、薄暗い室内に照明をつけて、それから壁際にある棚の前へと向かった。

 

「……うんっ」

 

 その上には、三つのぬいぐるみが置かれている。アルストロメリアのユニット——私と甘奈ちゃんと甜花ちゃん、それぞれを模したぬいぐるみ。私の手作りで、以前旦那さまに贈ったものだった。

 

「ふふっ」

 

 私が真ん中で、その両隣に二人が寄り添っていて、仲睦まじく見える光景。眺めているだけで、幸せな気持ちになれる。

 旦那さまには、私たちがこんな風に見えてるみたい。かわいい双子の女の子に混じって戯れる、大人の少女。アルストロメリアの関係性を表現してるみたいで、彼らしいなぁ。

 

「でも、今は……」

 

 私は、私のぬいぐるみを手に取って、間の空いた甘奈ちゃんと甜花ちゃんをくっつける。そして、私と旦那さまのぬいぐるみを、その左隣に置いた。

 

 ——彼・私・・・甘奈ちゃん・甜花ちゃん。

 

 この並び順と間隔こそ、私たちの関係を表すに相応しいものだと思う。彼はもう、アルストロメリアのプロデューサーさんじゃない。私の、私だけの旦那さまなの。

 だから、私たちの間に他の子が入る余地なんて、ない。たとえ、大好きなあなたたちでも。

 

「この人の隣は、私の専用席。一つしかないんだから……」

 

 二人のぬいぐるみを撫でながら、ぽつりと呟く。

 いいよね? あなたたちは、二人で支え合っていけるけど、私には彼しかいないんだもん。独り占めしたって——

 

「きゃっ……!」

 

 突然、窓の外が光ったかと思うと、雷の轟音が鳴り響いた。その音を聞いて、ビクッと身体を震わせてしまう。

 やがて、ザーザーと雨足も強くなって、一段と部屋が騒がしくなる。

 

「びっくりしたなあ、もう……」

 

 私はベッドに腰掛けて、薄いカーテン越しに外を眺めた。ガラスに打ち付けられる水滴たちが、まるで泣いているかのように見えて、少し切ない気持ちになっちゃうな。

 

「んっ……」

 

 感傷的な気分を紛らわしたくて、ベッドに横になって目を閉じた。真っ暗な視界の中、雨音だけが耳に入る。そんななか脳裏に浮かぶのは、やっぱり旦那さまの姿だった。

 

 今、何してるのかなぁ……? お仕事忙しいだろうし、私のことなんて頭にないよね。かわいいアイドルの子たちに囲まれて、優しさを振りまいて、笑顔にして、幸せにして——

 そんなことを思っていると、どんどん寂しさが込み上げてきて、胸が苦しくなる。独占欲に駆られて、いてもたってもいられなくなる。

 でも大丈夫。この衝動を抑える方法を、私は知っているから。

 

「んーっ!」

 

 枕に顔をうずめて、大きく息を吸う。すると、鼻腔いっぱいに旦那さまの匂いが広がって、心が満たされていく感じがした。

 そう、これが一番手っ取り早くて、確実な方法。彼の匂いに包まれることで、ひと時だけ抱きしめ合っているような心地になれるの。

 

「……ふー」

 

 ただ、一瞬で気持ちがリセットされるけど、代わりに身体の芯まで熱くなるような感覚に襲われちゃう。鼓動が速くなって、息が荒くなって、全身が火照って、汗が滲んでくるのがわかる。

 こうなると自然には治まらないから、気持ちよくなって鎮めるしかないのよね。つまり旦那さまが居ない今、私は自分で自分を慰めないといけない。

 

「んっ♡」

 

 私は、うつぶせのままお尻を高く上げて、スカートの中に手を伸ばす。そして下着の上から指でなぞると、もうそこは湿り気を帯びていた。

 彼の残り香を嗅いだだけでこんなに濡れちゃうんだから、自分がいかに彼を愛して、求めているのかがよくわかる。

 

「んん……くふっ……!」

 

 布越しにクリトリスをすりすり擦れば、そこから下腹にかけて甘い痺れが走った。

 敏感すぎる私のお豆さんは、皮と布を隔ててもしっかりと快感を拾ってくれる。でも腰が勝手に揺れて、芋虫みたいにウネウネと動いちゃうの。

 

「ふう……っ♡ んんっ……♡」

 

 空いた片手でシーツを握り締めながら、夢中で指を動かす。引っ掻いたり、突っついたり、捏ねくり回したり。

 慰めるというより、虐めるといった方が正しいかも。旦那さまの匂いに満たされてるせいで、彼にされてるところを想像しちゃって、動きを激しくしてしまう。

 

「……っ♡ っ〜……♡」

 

 布越しなのに、自分の弱いところを責め続けているせいで、すぐに限界が近づいてくる。そのまま、快感の波にのまれていって——

 

「ひっぐぅ……ッ♡」

 

 私は枕に顔を埋めたまま、くぐもった声を上げて絶頂を迎えた。クリトリスが沸騰しそうなくらい熱を帯びて、そこ一点に快感を凝縮させているみたい。

 腰はビクビク震えて、足の指先がピンッと伸びてしまう。イッた瞬間は、身体がいうことを聞いてくれなくなるほど強烈な快感に包まれるの。

 

「ふっ……! ふっ……! ……ふーっ」

 

 でもそれは一瞬のことで、波が引くように快感が薄れていくと、途端に虚しさに襲われた。

 私を労る言葉もなくて、私を撫でる感触もなくて、私を抱き締めてくれる温かさもない。パラパラと窓に打ち付けられる雨音が、孤独感を強めていくみたいで煩わしい。

 

 今まで何回もオナニーはしてきたけど、こんな尾を引く気持ちになることはなかった。こうなったのは、やっぱり旦那さまに告白されたあの日からだと思う。

 催眠アプリの効果なんて万に一つもないけど、彼には私を縛る力があるんだ。彼のことばかり考えちゃうのも、身体がえっちになっちゃうのも、全部あの人のせい。

 

 好きが愛に変わった瞬間、私は身も心も支配されてしまったのかも。ある意味、催眠にかかったときよりも、深いところまで堕とされちゃったんだ。一筋の光しか見えない、真っ暗闇の底に。

 だから、その光を求めてしまうのは当然のこと。あったかくて優しくて、私を満たしてくれる存在に縋りたくなるのは、自然なことなの。

 

 好きっていうのはね、自由だと思う。でも、愛は不自由なものなの。愛するものは、愛せる人は、一つだけだから。

 

「……たりないなぁ」

 

 私は仰向けになって、手の甲を湿った額に当てながら、ぼんやりとする。身体の疼きはおさまらないのに、心は冷え切っていて寂しい気持ちでいっぱい。

 結局、オナニーでは満足できなかった。不完全燃焼というか、中途半端というか……とにかくモヤモヤが残る感じ。旦那さまにされたときの感覚を身体が覚えているせいで、自分でしても全然物足りないんだと思う。

 私の心は、旦那さまを求めているだもん。彼の温もりを、外にも中にも欲しいの。口やアナルじゃ全然足りない。女の子が一番愛を感じられるのは、やっぱりおまんこの奥——

 

「……まだ、帰ってこないよね」

 

 定時で帰られるほど、彼は暇じゃない。そして、壁に掛かった時計の短針が指し示す数字は、まだ小さいまま。数時間っていえば大したことないけど、今の私にとってそれはとても長く感じられた。

 このまま性欲を抱えていたら、もどかしくてどうにかなっちゃいそう。旦那さまの家には夕飯を作りに来ているのに、頭の中がピンク一色で献立も描けない。少しでも薄められたら、我慢できそうなんだけど……。

 

「あっ、そうだ」

 

 ふと、あることを思い出した私は、一旦寝室を出て、リビングに向かう。

 そして自分のショルダーバッグの中から、いくつかの物を取り出し、それらを腕に抱えながら寝室へと戻った。

 

「せっかく借りたんだし、使ってみようかな……」

 

 ベッドの上に並べた物を見下ろしながら、私はつぶやく。

 色とりどりの、様々な形をした道具たち。共通しているのは、どれも電動の製品で、振動によって刺激を与えるものだということ。

 

『毎日はやり過ぎ〜。そんなにしてたら、プロデューサーさんが倒れちゃうでしょ? 今まで知らなかった分、ハマっちゃうのはわかるけど、少しは自分で解消しなくちゃ』

 

 この前、はづきと一緒に食事をした際、そんなことを言われたことを思い出す。私たちの恋仲を応援してくれるけど、お節介を焼きすぎる私の友達。

 旦那さまとの関係を話したら、少し引かれ気味に呆れられたなぁ。私の性欲は、はづき視点だと異常みたい。男性とのお付き合いも初めてだし、確かに今まで我慢してた分が爆発してるのかも。

 

 そんな彼女から昨日、半ば押し付けるように渡されたのが、このローターやバイブなどのアダルトグッズの数々。バッグにしまったままになってたんだ。

 使い方は、旦那さまから没収したビデオで見たことがあったから知ってるんだけど、実物を見るのはもちろん初めてだった。

 

「ん……」

 

 私は衣服を全部脱いで、全裸になる。少し汗ばんでいるせいか、空気が肌に張り付く感覚がした。

 それから、掛け布団を端にやって、ベッドの真ん中に女の子座りをする。

 そして、まず手に取ったのはピンク色のローター。スイッチのある持ち手からコードが伸びていて、その先に卵の形の物体が付いている物。

 

「わっ……!」

 

 試しに電源を入れてみると、ブーンという低い音と共に卵が震え出した。指先に伝わってくる振動に、思わず声が出てしまう。見た目は可愛らしい形だけど、思った以上に力強い刺激。

 これを敏感なところに当てたらどうなるんだろう……。そんな好奇心に突き動かされて、それを固く尖った乳首に押し当ててみる。

 

「んんっ……!」

 

 途端にビリビリとした快感が走って、反射的にローターを離してしまった。今まで感じたことのない刺激に驚きつつ、もう一度近づけてみる。

 

「っ……♡ ふうぅ……♡」

 

 二度目は少しだけ慣れていたおかげで、当て続けることができた。擦ったり舐めたり吸ったり押しつぶしたりとは違う感覚に、私はどんどん夢中になっていく。

 刺激が一定で緩急がないから、ずっと同じ気持ちよさが続いて休む間もない感じ。気持ちいいけど苦しいような……でもそれがクセになりそうで、ちょっと怖いかも。

 

「あそこに当てたら、もっと……」

 

 それでも私は怖いもの見たさで、ローターを下の方へ持っていく。近づくにつれて、振動が空気を震わしている細かい感覚が肌を差し、ゾワゾワとお腹の辺りに鳥肌が立ち始めた。

 そして、とうとう股の間に到達して、震える卵を小さなお豆に押し当てる。その瞬間——

 

「〜〜ッ……!?♡♡♡」

 

 言葉にならない声を上げながら、背中を弓なりに反らせてしまった。頭が理解する前に、本能的な反応が出てしまったのだと思う。それほどまでに衝撃的で、気持ちがよかったの。

 アクセルをそっと踏んだら、たいした加速もなしに、いきなり60キロのスピードが出たような感覚。そんなの、身体も心もついていけるわけないじゃない?

 

「……かっ……はっ、はーっ! はーっ!? はーっ……! っはー!」

 

 天井を仰いで口をパクパクさせながら、一瞬で失った酸素を必死に取り込もうとする。でも、身体は余韻に浸っていて、まともに動かせそうにない。

 まるで快楽の海に溺れて、顔だけ水面から出して息継ぎをするかのような苦しさ。それに波が不規則に押し寄せてくるせいで、呼吸が整うまでしばらくの時間が必要だった。

 

「……はあぁ」

 

 そして、ようやく落ち着いたところで、ゆっくりと視線を下ろす。それから、手放してしまったローターを手に取って見る。

 どうやら、強弱の値が最大になったまま稼働していたみたい。つまみを下の方に弄ると、卵の振動が微弱なものになる。

 

 おかしいと思った。ビデオで見た女優さんは、こんな反応してなかったし、いくら私が敏感だからって、ちょっと触れただけでイッちゃうわけないもん。

 

「これなら、大丈夫かな……?」

 

 さっきのは快楽を味わうというより、無理矢理詰め込まれるような感じだったから怖かったけど、これなら安心して楽しめそう。

 そう思った私は、ふたたび下へ持っていき、今度はクリトリスに直接当てるんじゃなくて、その周辺を軽く撫でるように触れさせた。

 

「ひゃん……っ♡」

 

 さっきみたいな強い刺激ではないけれど、ピリッとした甘い電流が走る。それだけで十分気持ちよくなれることを実感しながら、円を描くようにローターを動かし続けた。

 

「気持ち、いいぃ……♡」

 

 自分でするのより何倍も心地良くて、ついついだらしない声が漏れちゃう。快楽で描かれた頭の中のキャンバスはピンク一色で、まともな思考なんてできそうになかった。

 だからかなぁ。手が勝手に動いて、直接クリトリスを虐めだして、より快感を受け取ろうとするの。しっかりと慣らされた敏感なそこは、揺さぶられて悲鳴をあげながらも、逃げようとはしない。

 

「ふっ……くふぅ……っ♡」

 

 でも、こんなに簡単でいいのかな。だってこれを使えば、いつでもどこでもすぐに気持ちよくなれちゃうんだよ? 一人でも満足できて、旦那さまに頼ることもなくなるんだから。

 

 そう考えると、なんだか怖くなってきた。彼との触れ合いが、味気ないモノになってしまうんじゃないかって。彼の温もりを感じられない日が、くるんじゃないかって。彼がそばにいなくても、生きていけるんじゃないかって。

 一度芽生えた不安は、あっという間に大きくなっていく。胸の中に暗雲が広がり、心がざわつき始める。

 

 快楽は、あくまで愛を育むための手段でしかない。なのに、私は一人で勝手に盛り上がってしまって……。

 このままじゃ、旦那さまと愛し合うより、自分が気持ちよくなるほうを優先させちゃうかもしれない。私は、イケナイことを憶えようとしてるのかもしれない。

 

「……っ! やめっ、なきゃ……!」

 

 後戻りできるうちに、この快感を手放さなくちゃいけないと思った私は、慌ててローターを離そうとする。でも——

 

「なん……でぇ……っ♡♡」

 

 私の思いとは裏腹に、クリトリスに吸い付いたそれは離れてくれない。それどころか、より一層強く押し付けられて、私に反発するように震え出す。

 

「……イっ! ……ッ〜♡♡」

 

 ローターによって感電した私の身体に、快感という名の稲妻が駆け巡って、否応なく絶頂へと導かれていく。

 それにイッてる最中も止まらない振動のせいで、だんだん視界がぼやけてくる。

 

「やっ……♡ いやぁ……っ♡」

 

 イッた後の敏感になったクリトリスに、容赦のない追い討ちをかけるような責め苦。それは旦那さまの愛情じゃなくて、道具による無慈悲な凌辱。

 私は今、彼にされているんじゃない。無機物に犯されてるんだ。その事実が、私の心を蝕んでいく。私という存在を、快楽で侵食していく。

 

「ふううぅ……ッ♡♡」

 

 その恐怖から逃れるように、私は夢中でローターの持ち手を探して、振動を止めようとする。そして手探りでそれらしい物を手に取り、電源をオフにして——

 

 

 ブウウウンンンッ!!!

 

 

「ッ……!?」

 

 何故か強まる振動。その衝撃で、手に持っていた持ち手がシーツの上に転がってしまう。それを見た私は、愕然としてしまった。

 

「どうっ……してぇ……ッ!?♡♡♡」

 

 そこにあったのは、強弱が最大値に設定されたスイッチだった。慌てていたから、弄る場所を間違えてしまったみたい。

 最初に味わった意識が飛ぶようなあの快感をふたたび叩き込まれながら、私は絶望に打ちひしがれる。またイかされるんだって。また、旦那さま以外でイかされちゃうんだって。

 

『——こうしたかったんでしょ?』

 

 不意に頭の中で響いた声に、ビクッと身体が反応する。その声は、私の声そっくりで、それでいてどこか冷たい雰囲気を持っていた。

 それに何かに見られているような気配もあって、辺りを見回すけど誰もいない。当然、この部屋には私一人しか……。

 

『気持ちよければ何でもいいんでしょ?』

 

 今度ははっきりとした気配。それは壁際……棚の上に置かれたぬいぐるみから、発せられているみたいだった。

 四つのうちの一つ……私を模したぬいぐるみが、不気味に身体を横へ傾けて、蔑むようにこちらを見下ろしていた。それはまるで、私の心を見透かしたように……。

 

「ちがっ……♡ わた、し……はぁっ♡♡」

 

 否定しようと必死になって首を振るけど、下腹の奥底から湧き上がってくる疼きと痺れが、私の思考を邪魔してくる。

 

『本当は彼じゃなくてもいいんでしょ? 愛を盾にして、ただ欲望を満たしたいだけなんだよね?』

 

 その囁きは、私の中にあった黒い感情を呼び覚ますには十分すぎた。今まで目をそらしてきた事実を突きつけられて、反論できない自分に気づいてしまったから。

 確かに私は、旦那さまのためだと自分に言い聞かせることで、本当の気持ちを誤魔化していたのかもしれない。えっちが大好きな卑しい自分を、彼を愛しているから仕方ないんだって言い訳して、正当化して……。

 

『でも彼は優しい人だよ。あなたがどんなにワガママ言っても、笑って受け入れてくれるから』

 

 うん。だから彼を愛しているはずなのに、私はいつも甘えて、自分勝手なことばかりしてしまうの。抑圧してきた性欲を解放させるのが、こんなにも気持ちいいなんて知らなかったから。

 この前も我慢できなくて、事務所で隠れておちんぽおしゃぶりしちゃったし、ライブ前に食べさせて頂いて、旦那さまを中に感じながらステージに立ったこともある。そうしないと、心に隙間があるような気がして、目の前のことに集中できないから。

 

『見境ないなぁ。あなたは愛情より性欲を優先させちゃう、万年発情期の淫乱女みたいね。恋人らしさを履き違えてる自覚が足りないわ』

 

「そんな……そんなこと……ない……っ! 私は、何よりも旦那さまを……んん……ッ♡」

『じゃあなんで、こんなに濡らしちゃってるの? なんでオナニーをやめないの? それに、あと少し待てば彼と愛し合えるのに』

 

 ……返す言葉がない。あと数時間で旦那さまは帰って来てくれるのに、どうしても我慢できなかった。今すぐ欲しいという衝動を、抑えられなかった。

 

『ほら、もう三回もイッちゃった。でもまだまだ足りないでしょ? もっと気持ちよくなりたいよね? ならどうすればいいか、わかるよね?』

「いやぁ……っ! 私は、もう……あぁっ♡♡」

 

 さっきからイキ続けて、頭はもう限界を迎えようとしていた。これ以上したら壊れちゃうって思うくらい、何度も何度も道具にイかされて……。

 それでも、ローターは止まってくれない。むしろ激しさを増して、私の身体を虐めてくる。

 

『ふふっ、すごい顔。涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃになってる。ほら、甘奈ちゃんと甜花ちゃんも見てるよ?』

 

 私のぬいぐるみに釘付けになっていた視線が、意図せず隣のぬいぐるみへ向いてしまう。姉妹のそれは、まるで汚らわしいものを見るような視線を、こちらに向けていて……。

 

『大人って汚いもの。あなたたちが慕っていたお姉さんも、身体を使って男を誑かす売女のような人なのよ?』

「仕方、ないじゃない……っ! わた、わたひはぁ……! もうっ……負けたくっ、ないのおぉ……ッ♡♡♡ あの人は誰にもっ! 渡ひたくにゃいッ……! わらひらけのぉ……ッ!」

 

 何を言われようとも、私には譲れないものがあって……それを得るためには、たとえ嫌われるやり方だとしても……道を曲げるつもりはないの……!

 

『ふぅん。身体が快楽に支配されても、彼のことを第一に想えるんだ』

「イッ……イク……ッ! イクイク……ッ♡♡ いっ……きゅううぅぅ〜〜ッッ♡♡♡♡」

 

 視界が真っ白に光って、頭の中の雑音が轟音に掻き消される。身体中にビリビリと振動が伝わってきて、気持ちいい以外の感情が浮かんでこない。

 

「…………あっ」

 

 ゆっくりと後ろに倒れていく感覚と共に、私は意識を手放していく。最後に感じたのは、ボトっと何かが床に落ちる音だった。

 

『都合よく少女と大人を使い分ける、したたかな女。よかったね、そんなあなたを愛してくれる人に出会えて。まあ、彼が正しく愛してあげなかったから、こんなに歪んじゃったのかも……?』

 

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