「朝ですよ〜。起きてくださぁい……」
耳元をくすぐる、可愛らしいさえずりで、俺は目を覚ました。
「あっ、お目覚めですね。おはようございます」
「……お、おはよう」
寝起きのボヤけた視界に映るのは、見慣れた天井と、見慣れた女性の顔。四つん這いの千雪が、俺に覆い被さるようにして、こちらを見下ろしていた。
一瞬、なんで千雪が、俺の家に居るのかと疑問を覚えたものの、すぐに理由を思い出した。彼女が、俺の家に来たいと言い出したから、仕方なく招いて、それから——
「あ、あれ……。いま、何時だ?」
「月曜日の朝七時ですよ。プロデューサーさん、よっぽど疲れてたんでしょうね。今まで、ずぅっと、ベッドで眠っていましたから」
そうか。昨日、千雪にパイズリで搾り取られたあと、俺は眠ってしまったみたいだ。疲労が溜まっていたせいか、射精前後の記憶が曖昧で、自分がいつ眠りについたのか、覚えていない。
ただ、彼女の言う通りなら、結構な時間、熟睡していたようだ。それだけ気持ちよかったということだろう。
でも、まてよ。千雪が、まだ俺の家に居るってことは、あのあと寮に帰らずに、一晩泊まっていったということになる。
「……千雪。まさかとは思うが、俺の家にずっと……?」
「はいっ、お泊まりデート、しちゃいました! でも、プロデューサーさんは、寝ていましたから、あまり楽しめませんでしたけど、いっぱい添い寝できたので、それだけでも、私は満足です!」
なんということだ。プロデューサーと、その担当アイドルが、一つ屋根の下で、一夜を共にするなんて。不可抗力とは言っても、こんなことが知られれば、大問題になるだろう。
あれだけの淫行をしておいて、今更そんなことを気にするのは、遅いかもしれないが、それでも世間体というものはある。
「大丈夫ですよ。寮のみんなには、はづきと二人で飲みに行くって、言ってましたから。それから、千雪が酔い潰れたからホテルに泊まらせるって、はづきに伝言してもらったので、心配はいりません」
俺の表情を見て察したのか、千雪はそんなことを言った。確かに、それなら問題はないだろう。しかし、さらに気になることができた。
「……なあ。もしかして、はづきさんは、俺たちの関係を、知っているのか?」
「はい、知られちゃってます。私からは、何も言わなかったんですけど、彼女、勘が鋭いところがあるので、プロデューサーさんが告白してくれた、その日のうちに……。でも、はづきには今まで、色々と相談に乗ってもらっていたので、私たちの関係も、陰ながら応援するって、言ってくれましたよ」
「そ、そうか……」
正直なところ、ほっとした。
はづきさんは、283プロの中で、一番頭の切れる人だ。彼女が味方についてくれるのなら、心強いこと、この上ない。
しかし、よく何食わぬ顔で、俺と顔を合わせられたものだ。あのふわふわとした笑顔の裏では、いったい何を考えていることやら。頼もしいと言うより、敵にまわしたくない怖さが勝るのも事実。
それはともかくとして、いつまでも寝ているわけにもいかない。
俺は、千雪に退いてもらい、ベッドから起き上がった。
寝ぼけ眼を擦ると、腰の奥が鈍く痛んだ。半日以上眠った甲斐あって、疲労はある程度取れていたが、精液を出し尽くしてしまったせいか、下半身に力が入らない。
今日は、デスクワーク中心の業務だから、なんとかなると思うが、もし外回りの仕事があったら、どうなっていただろうか。
「朝ごはんは、私が作りますね。プロデューサーさん、昨日は、何も食べてないでしょう? 朝なので、簡単なものになりますけど……」
「……そうだな。お願いするよ」
そう言うと、千雪はキッチンへと向かった。
彼女の言葉通り、俺は昨日一日、何も口にしていない。不思議と空腹感こそ覚えないが、体力的にも、精神的にも、消耗しきっている今の状態では、栄養補給は必須だ。
俺は昨日のままの、全裸の格好だったので、適当にスウェットを着ておいた。それから、ふらふらとした足取りで、リビングに辿り着いたとき、千雪がこちらに振り向いて、微笑みかけてきた。
「ふふ、すぐにご用意しますから」
まるで新婚夫婦のようなやり取りだが、もちろん俺と彼女は、結婚はおろか、まともな交際すらしておらず、ビジネスライクな関係に過ぎない。
催眠アプリがなければ、一生交わるはずのなかった相手と、こうして一緒に居るという事実が、なんだか信じられなくて、夢心地だった。
「プロデューサーさんの、お借りしますね〜」
千雪はエプロンを着けると、鼻歌を歌いながら、朝食の準備を始めた。
手際良く野菜を切り刻む音を聞きつつ、俺はクッションに座って、ぼんやりとその光景を見つめていた。家庭的な雰囲気を醸し出す彼女を見ていると、アイドルより専業主婦の方が、向いているんじゃないかと思ってしまう。
「お待たせしました!」
やがて、テーブルの上に、二人分の食事が並べられた。
トーストにスクランブルエッグ、ベーコンとサラダという、朝食には定番なメニューだ。千雪が作ってくれたからか、どれも一段と美味しそうに見える。
「トーストには、バターとジャム、どっちをつけましょうか?」
「バターがいいな」
「はいっ、取ってきますね!」
俺は迷わずに、バターと答えた。
すると、千雪は嬉々として、冷蔵庫へと向かい、中にあったバターの容器を取り出して、俺の元まで持ってきた。
そして、俺の隣に、ぴったりとくっつくように座ってくる。肩と腕が触れ合い、互いの体温を感じる距離。食事をするだけなら、邪魔になるくらいに近い。
「たぁくさん、塗りますね〜。ぬりぬり〜」
千雪は、俺の分のトーストに、バターを塗り始めた。そして、たっぷりとつけ終わったところで、容器に蓋をした。
「……ん? 千雪は、トーストに何もつけないのか?」
千雪が持ってきたのは、バターの容器だけだ。ジャムは見当たらない。そのままの味が、好みなのだろうか。
俺の問いかけに、千雪は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐににっこりと笑った。その笑顔には、どこか悪戯っぽい雰囲気が、あるような気がする。
直後、千雪は俺の体に身を預けるようにして、寄りかかってきた。それから、俺の耳元で囁くようにして言う。
「私、ピザトーストが、好きなんです。でも、冷蔵庫には、チーズがなくって……。だから、他のもので、代用しようかと、思いまして……」
そう言って、俺の股座に手を伸ばした。指先が触れると、千雪は優しく撫でるような動きで、愛おしそうに触れてくる。
俺の体は、すっかり千雪に慣らされており、俺の意思とは関係なく、反応を示してしまう。
「ふふっ。プロデューサーさんも、その気になっちゃいましたね? じゃあ、ぬぎぬぎしましょうね〜」
千雪は、俺を膝立ちにさせて、下着ごとズボンを下ろしてしまった。また千雪の身体で、気持ちよくなれるという期待感が高まり、抵抗する気にならない。
そして、彼女もまた、俺の左後ろに密着して、腰から回した右手を、肉棒に添えてきた。
「寝起きですし、いきなり激しくするのは、良くないと聞いたので、まずはゆっくりしますね〜。ほら、こんな風に……」
千雪の右手は、肉棒の先から根元にかけて、ゆっくりと扱いてくる。
彼女の言う通り、激しい快感はないが、じわじわと気持ち良さが広がっていく。ぬるま湯につかっているようで、とても心地良い。
そして左手も、服の中から俺の左乳首に触れた。親指と人差し指で摘んで、くにくにと弄ばれる。乳首への刺激も、微弱なものだったが、それでも、少しずつ性感が高まっていく。
「ふふ、乳首でも、感じてくれてますね? プロデューサーさんも、私と一緒で、乳首が敏感なんですね。やっぱり貴方は、私の運命の人です……。だから、もっと気持ちよくしてあげますね……?」
千雪は、俺の反応を見て、楽しんでいるようだ。くすっと笑うと、右手の親指と人差し指で、輪っかを形作り、カリ首を締め付けるようにしながら、上下に動かしてきた。
皮の外からの圧迫と、内側からの摩擦で、より強い快楽が押し寄せてくる。
俺は思わず声をあげそうになったが、すんでのところで堪えた。だが、そんなことは、お見通しだったらしく、千雪はさらに責め立ててくる。
「我慢しないでくださいね? 出したくなったら、遠慮なく、ぴゅっぴゅしていいんですよ? まあ、我慢なんて、させませんけど……」
小悪魔的な微笑みを浮かべながら、千雪は俺の耳に口を寄せて、吐息混じりに言った。それから、竿の皮を剥いて、亀頭を露出させる。
外気に晒されただけで、ぞくりとした感覚が、背筋を走る。その敏感な先端部分に、千雪の輪っかが被さった。そのまま、亀頭を中心に、上下運動が開始される。
今度は、一気に絞り出すような動きだ。皮の中で、十二分に浸透していた我慢汁が、潤滑油となって、なめらかに扱かれていく。
「ちゅこちゅこ〜って、いやらしい音が聞こえてきますよぉ……? おちんちんも、はやくお漏らししたいよぉ〜って、泣きながら震えてますし……。ふふっ、かわいい……」
千雪は、俺の耳元で囁き続けた。甘い言葉が、脳髄まで染み込んでくる。徐々に思考が鈍くなり、理性が蕩けていく。
「本当は、いい子いい子しながら、優しくぴゅっぴゅさせてあげたかったんですけど……。ごめんなさい、今は少し、意地悪しますね? だって、早くしないと、料理が冷めちゃいますし、それに、プロデューサーさんが可愛すぎるから、いけないんです……」
単調な指の上下運動に、回転が加わってきた。円を描くような動きで、亀頭をなぞられる。
千雪の手の動きに合わせて、俺の腰が意図なく跳ねる。彼女の白く細い指が、自分のモノに触れていると思うと、ひどく興奮してしまう。
「ふふっ。おちんちん、すっかり私に懐いちゃってますね……。もう、私が触らないと、気持ちよくなれなくなっちゃいましたか……?」
千雪の言葉を、否定することができなかった。事実、俺の体は、千雪に開発されてしまっているのだ。されるがままに、快感を受け入れてしまう。
しかし、それでも俺は、彼女に屈服したくないという思いがあった。せめてもの抵抗として、歯を食いしばり、漏れそうになる喘ぎを、必死に抑え込む。
「もうっ、素直になれない、悪い子ですねぇ……。私が、我慢しなくていいって、言ったんですよ……? おちんちんは、こんなにも正直に、ぴゅっぴゅさせてぇ〜って、泣き濡らしながら、お願いしてくれているのに……」
千雪は、右手を上下に動かす速度を、急に早めてきた。絶妙な力加減で、指輪っかが、カリ首を引っ掛け、容赦なく弱点を擦ってくる。
乳首を弄る左手の親指と人差し指も、次第に激しくなってきた。爪先で引っ掻いたり、くりくりと素早く扱かれたりする度、びくっと体が反応する。
さらに、千雪は舌を出して、俺の耳をチロチロと舐めてきた。ぞわっとした快感が走り、力が抜けてしまいそうだ。
「あひぃ……」
俺は、同時に与えられる快感に耐えきれず、つい喘ぎ声を出してしまった。男が出すには、あまりにも情けない声。
だが、千雪はそれを聞いてもなお、手を緩めることはなく、むしろより一層強くしてきた。
「素直にならなかった罰ですよ〜。謝っても、遅いですっ。こゆぅ〜いチーズを出してくれるまで、許してあげませんから……ねっ?」
もはや、限界だった。射精欲がこみ上げてきて、尿道がひくつくのを感じる。
そしてついに、その時が訪れた。千雪の責めに、抗うことができなかった俺は、腰を震わせながら、白濁液を吐き出してしまったのだ。
「は〜い、ぴゅっぴゅっ、ぴゅっぴゅ〜! たぁ〜くさんっ、ぴゅるるぅ〜ってして、いい子になりましょうねぇ……。お残しは、だめですからねぇ……?」
千雪は、まるで子供をあやすように言い、手を動かし続けた。絶頂中の敏感な亀頭を、容赦なく責め立てられ、精液がドクドクと出続ける。俺は、千雪の手に促されるまま、快楽に身を任せるしかなかった。
やがて、長い吐精が終わると、千雪はようやく俺を解放してくれた。
尻餅をつき、射精後の倦怠感に襲われながら、荒くなった呼吸を整える。そんな俺を見下ろして、千雪は妖艶な笑みを浮かべていた。
「んっ、おいしっ……」
手に付着していた精液を、ぺろりと舐めたあと、彼女はそう呟いた。その表情を見ただけで、また勃起してしまいそうなほどだ。それほどまでに、今の彼女は魅力的だった。
「……くふっ、ありがとうございました。おかげさまで、美味しいピザトーストが、食べられそうです……」
俺の出した精液が、たっぷりとかかったトーストを見て、千雪が言う。
それから、トーストを手に取り、指で精液を塗り広げ、美味しそうに頬張った。彼女の口からは、粘ついた糸が引いている。本当のチーズのように見えてしまうのが、不思議でならない。
「んん……! すごく、濃厚です……! どろぉ〜って、喉に絡みついてきますね……!」
味わっているのか、目を閉じて咀噛する千雪。その姿がとても淫靡で、思わず見惚れてしまう。ごくりと音を立てたのは、はたしてどちらの方だろうか。
俺が呆然としている間に、千雪はトーストを食べ終えてしまっていた。最後に指についたものを、ちゅぱちゅぱとしゃぶると、口元を拭いながら、俺に視線を向ける。
「早く食べないと、お仕事に、遅れちゃいますよ……?」
「あ、ああ……」
そう言われて、ようやく我に返る。汚れも気にせず、慌ててモノをしまうと、テーブルに向き直り、朝食を再開した。
しかし、さっきの光景が目に焼き付いていて、なかなか手が進むことはなかった。
「——ごちそうさま」
しばらくして、食事を済ませた俺は、シャワーを浴びようと立ち上がった。すると、千雪が俺に話しかけてくる。
「もう、お出かけですか?」
「いや、さすがにシャワーを浴びてからじゃないと……」
「シャワー……。でしたら、一つお願いがあるんです」
「……なにかな?」
小悪魔めいた千雪の表情をみると、なんだか嫌な予感がする。こういう時の勘は、当たるものだ。
「おちんちんを、おちんちんの皮の中を、洗わないでほしいんです」
「……は、はあっ!?」
嫌な予感と言っても、その範疇を逸脱していた。予想外過ぎる発言に、つい大きな声を出してしまう。
だが、当の本人はというと、恥ずかしげもなく、言葉を続ける
「私、プロデューサーさんの汗の匂いが、好きなんですよ。特に、おちんちんの皮の中で蒸れた、濃厚な匂いが……。それを、近くで嗅いだり、口の中で味わって、楽しみたいんです……!」
千雪は、顔を赤らめながらも、熱っぽい瞳でこちらを見つめてきた。どうやら本気らしい。
「……わかった。ただし、外側は綺麗にするからな?」
「あ、ありがとうございます……!」
もう本番行為以外なら、なんでもしてやるといった気持ちだった。下手に突っぱねたら、催眠深度が上がってしまいかねない。
昨日、隣に座らなかっただけで、半分以上進んでしまったのだ。それを鑑みると、要求を飲まざるをえない。
それにしても、まさかこんな変態的な要求されるとは思わなかった。これも、催眠の影響なのだろうか。
そういえば、千雪は催眠状態になっているんだったな。だから、俺が命令すれば、性的な行為を、やめてくれるのではないか。そんな考えが、頭に浮かぶ。
試しに俺は、彼女に問いかけてみた。
「……なあ千雪。もう、エッチなことをするのは、やめにしてくれ。さすがに、まずいからさ。これは、命令……だ」
「……えっ? 私たち、恋人なんですから、別に問題ないですよね? どうして、やめないといけないんですか? あんなに気持ち良さそうな顔をしてくれたのに、やめてほしいだなんて……」
当然のように、そう答えられてしまった。それに、なんだか雰囲気も変わっている気がする。
「いい子になってくれたと思ったのに、やっぱり悪い子なんですか? でしたら、お仕置きが、必要ですね……?」
小声でぶつぶつと呟くと、千雪が俺に近づいてきた。本能的に危険を感じて、後ずさる。しかし、すぐに壁に追い詰められてしまう。
壁に両手をつきながら、彼女は俺の顔を覗き込んできた。いつもキラキラと輝いている瞳には、どこか濁った光が宿っているように思える。
「……あ、いや、冗談っ。冗談だから! さっき言ったことは、忘れてくれ!」
「……笑えないです。二度とそんなこと、言わないでください。私、本当に、貴方が好きなんです。愛しているんです……。だから、私の想いを拒むようなことは、しないでください……!」
千雪の瞳に、大粒の涙が浮び始めていた。その悲痛な表情に、胸を締め付けられる思いになる。そして、それと同時に、罪悪感を覚えた。
彼女の言う通りだ。ここまで想ってくれている相手を拒絶するなど、最低にも程があるだろう。
自分の軽率な言動を恥じながら、千雪を抱き寄せる。
「……俺が、悪かった。千雪を、傷つけるつもりは、なかったんだ」
「んっ……。一度だけは、許してあげます……」
次第に、千雪は落ち着きを取り戻していった。腕の中の彼女は、とても温かくて、柔らかい。ずっとこのままでいたいと、思えるほどだった。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。名残惜しみつつも体を離すと、改めて、彼女と向き合った。
千雪の目尻に浮かんでいる涙を拭い、微笑む。すると、彼女も笑顔を浮かべてくれた。
「……もう、大丈夫ですから、早く支度をしてください。時間もありませんよ?」
そう言われて、時計を見ると、時刻は既に八時を回っていた。そろそろ家を出ないと、間に合わないかもしれない。
急いでシャワーを浴び、歯磨きをする。髪型をセットしたり、髭を剃ったりする時間はないので、今日は諦めることにした。どうせ事務所にこもってデスクワークだ。多少は乱れたままでも構わない。
着替えを済ませ、リビングに戻ると、千雪は食器を片付けていた。
「準備、できたみたいですね?」
「ああ。時間ないから、もうすぐ出るんだけど……」
「はい、お見送りしますねっ」
そう言って、千雪は俺の背中を、ぐいぐいと押してくる。急かすように玄関まで連れていかれると、そこで立ち止まった。
「千雪は、どうするんだ? 俺より先に出てくれないと、鍵をかけられないし……」
「今日は、午前中の予定はないので、それまでは、ここに居るつもりですよ。お掃除や洗濯物なんかも、やっておきます。なので、合鍵を、頂いても、いいですか……?」
「……ああ」
もう完全に恋人扱いされているなと思いつつ、千雪に合鍵を手渡す。これで彼女は、俺の家に、自由に出入りできるということだ。信用のおける相手なので、防犯上の問題はないだろう。
「……ふふっ。ありがとう、ございます……。やっと、貴方の……くふっ……!」
受け取った鍵を、大事そうに握りしめ、胸に抱いている。まるで、宝物を手に入れたような反応だった。
「じゃあ、家のことは、頼んだぞ?」
「はいっ。……あ、それから、出かける前に、これだけは、しておかないと……」
千雪は、俺の肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけてきた。唇に柔らかなものが触れたまま、数秒ほど静止し、離れていく。
「……いってらっしゃいの、キスです。お仕事、頑張ってくださいね……!」
恥ずかしそうに頬を染めながら、千雪は言った。それは恋人というより、新妻の振る舞いだった。
こんなことをされてしまえば、ますます彼女が好きになってしまうではないか。この調子では、仕事にならないかもしれないなと、俺は思うのであった。
家を出たあと、事務所への道すがら、スマホを取り出して、催眠アプリを起動する。あの様子だと、催眠深度は下がっているはずだが、はたしてどうだろう。
【現在の……催眠深度は……0%……です……】
「おお……」
画面に表示されているハートの中には、一ミリもゲージが溜まっていなかった。今のところ、千雪の欲求は、大いに満たされているということになる。
しかし、催眠深度がゼロということは、催眠の成功率も、ゼロなわけで。先ほど、命令を行った際、まったく千雪が動じてなかったのも、納得がいく。
例えば、催眠深度を80%近くまで上げれば、俺の言うことに従ってくれるのかもしれないが、そこまで欲求を溜め込ませるのは、リスクが伴う。下手をしたら、100%になってしまうからだ。絶妙な調整ができるほど、俺はこのアプリの仕様を、理解していない。
それに、もし失敗してしまったら、また千雪を悲しませることになる。あのように泣いている千雪の顔は、二度と見たくはない。
「……キツイな」
あと27日。毎日仕事をこなしながら、千雪の欲求を、解消していかなければならない。まだ若い年齢とは言え、毎回搾り取られるように射精するのは、応えてしまう。自分でするのとは、わけが違うのだ。
逆に、こちらから仕掛けて、千雪を気持ちよくさせてしまえば、満足するのではないだろうか。
いや、どうだろう。彼女は、俺に奉仕するのが、好きみたいなのだ。
相手に気持ちよくなってもらうことで、自分も気持ちよさを感じるタイプな気がした。共感能力が、高いというか。
むしろ、自分だけ快楽を得てしまったことで、罪悪感を覚え、より過激に搾られてしまう可能性もある。
こうなったら、精力剤に頼るのも、視野にいれるべきか。そんなことを考えながら、重い足取りのまま、事務所へと向かう。今日も、長い一日になりそうだ。
事務所に着くと、そこには既に、はづきさんが居て、書類仕事をしていた。俺の姿を見つけると、笑顔を浮かべて、こちらに寄ってくる。
「おはようございます〜。ゆうべは、お楽しみでしたね〜」
「ぶっ!」
開口一番、とんでもないことを言うはづきさんの挨拶に、思わず吹き出してしまう。慌てて周囲を見回すも、他には誰も居なかったようで、ほっとする。
「な、何をいきなり……」
「うふふっ! この台詞、一度は言ってみたかったんですよね〜!」
能天気にはしゃぐ彼女は、俺の反応を見て、楽しんでいるようだ。本当に食えない人だと思う。
それとも、千雪から相談を受けていたからこそ、こうしてからかってきたのだろうか。
「で、どうだったんですか〜? ちゃんと千雪に、優しくしてあげましたか〜? プロデューサーさんは、初めてじゃないようなので、大丈夫だとは、思いますけど〜」
「ああ、いや……。その、はづきさんが考えているようなことは、してないですよ? ちょっと胸で、してもらっただけです」
「……は? やってないんですか? お互いを好きな年若い男女が、一緒の部屋で、一晩過ごしたっていうのに?」
信じられないという表情をして、はづきさんは目を丸くしている。確かに、普通に考えれば、そういう反応になるよな。
しかし、彼女は催眠アプリのことを、知らないのだ。その辺の事情を、どう説明すればいいものか。
「はあ〜。お互い、変なところで、自制心が強いというか、似た者同士というか……。せっかくお膳立てしてあげたのに、勿体無いですねえ……」
ため息混じりの、呆れ声だった。まあ、言われていることに関しては、反論できないのだが。
「いいですか? 千雪は、あの歳になるまで、恋愛はおろか、キスすらしたことがない、初心な子なんですよ? だから、プロデューサーさんが、リードしてあげるべきなんです。千雪だって、プロデューサーさんにされるなら、嬉しいはずですし。……わかりますよね?」
そう言って、はづきさんは、じっとりとした視線を向けてくる。
わかる。それは、痛いほどに、わかっているのだ。ただ、俺は催眠という卑劣な手段を使った手前、どうしても躊躇ってしまう。純潔だけは、奪えないのだ。
「……さっきから黙り込んで、私の話、聞いてるんですか?」
「……あ、すいません。少し疲れが溜まっていて、ボーっとしてしまって……」
「疲れ……? いつも元気に、バリバリ働いているのに?」
ごまかすように笑ってみせるが、はづきさんは疑わしげな目つきをやめなかった。そして、不意に何かを思いついたように、口を開く。
「ああ、そういうことですか。千雪ったら、加減を知らずに、責めちゃうんだから。……ちょっと、待っててくださいね」
はづきさんは、俺の返答を待たずに、給湯室へと向かっていった。いったい何だろう。
しばらくすると、彼女はダンボール箱を両手に持って、戻ってきた。それを俺のデスクにドスンと置くと、手招きをしてきた。
「これは……?」
「ふふっ、疲労にポンっ! と効く飲み物です!」
中を開けてみると、そこには缶コーヒーと同じ容量の、青い缶が入っていた。
手にとって見ると、ラベルには、でかでかと雷マークが描かれていて、名称は、リカバリーソーダと表記されている。エナジードリンクのようなものだろうか。
俺が怪しんでいるのを感じたのか、はづきさんが得意げに微笑む。
「怪しい物じゃないですよ〜? 日本全国の、アイドルとプロデューサー御用達の、有名な商品なんです〜。地域によって、名前は違うみたいですけどね〜」
俺は、まだプロデューサーとして新米とはいえ、こんなものを見たことがない。それに、どこで売っているんだろう。まさか、コンビニとかじゃ買えないだろうし。
「さあ、グイッと飲んでください。一気に、一気飲みです!」
「はあ」
促されるがままに、プルタブを引く。プシュッと炭酸が抜ける音が響き渡って、甘酸っぱい匂いが立ち上ってきた。
一般的なエナドリと、あまり変わらないようだ。
それから、ゴクリ、と喉を鳴らして飲む。味の方も、エナドリに近い気がする。強めの酸味があって、結構美味しい。
だが、なんだか身体が、ポカポカしてくるような感じがする。特に、下半身の方が、熱を持っているようだ。
「即効性があるでしょう? それ、経費で落として良いんで、遠慮なく飲んで下さいね〜?」
気力が湧いてくるのは、確かだ。しかし、妙に高揚するような感覚もあって、不安になる。
そんな俺の心境を見透かしたかのように、はづきさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「それ、男性が飲むと、一時的に精力増強状態になるらしいんですよ〜? だから、プロデューサーさんは今、ムラムラしてきてるんじゃないですか〜?」
その言葉に、思わず息を呑む。確かに言われてみれば、股間に血流が集まっているような感覚があった。これは、マズいかもしれない。
「あ、ありがたいんですけど、仕事に支障が出てしまうんじゃ……」
「あら、ごめんなさい。仕事前には、飲まない方が、良かったですね〜」
はづきさんは、悪びれる様子もなく、笑顔でそう言った。この人、分かってて、やったな……。
「うふふっ。据え膳食わぬは男の恥、ですよ〜? 私からのお仕置きは、ここまでにしておきますね〜。じゃあ、今日も一日、頑張りましょう〜」
結局、はづきさんに押し切られる形で、俺はリカバリーソーダを受け取ることになった。
元々、精力剤を使おうか悩んでいたところだったし、ちょうどいいと言えば、そうなのだが。
「さすがに、この状態は駄目だろ……」
とりあえず俺は、仕事を始める前に、一発抜いておこうと、トイレへと向かった。勃起したままでは、まともに仕事をできないからだ。
個室に入って、ズボンとパンツを脱ぐ。そして便座に腰掛けてから、スマホを操作して、お気に入りのエロ動画を再生する。もちろん無音で。
それから、右手で肉棒を握って、上下に擦り始める。今日、朝一で出したにもかかわらず、肉棒は硬く反り返って、ドクドクと脈打っていた。
「——んん?」
しばらく扱いていたのだが、中々射精に至ることができない。いつもなら、すぐにでも達することができるはずなのに。
快感はあるものの、どこか物足りないのだ。まるで、絶頂の手前で、刺激を止められているかのような気分である。
俺は焦燥感を覚えながら、さらに激しく手を動かし、敏感な亀頭を扱くが、やはりイケなかった。
その時、スマホが震えて、着信の知らせが鳴る。慌てて画面を確認すると、かけてきたのは、千雪であった。
こんな状況だが、出ないわけにもいかないので、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『……プロデューサーさん、今、はづきから連絡があって……。トイレで、何をしているんですか?』
「あ、いや……」
電話口から聞こえたのは、ひどく冷たい声色だった。なんというか、怒ってるというよりか、拗ねているような印象を受ける。
『私がいるのに……。朝、あんなに出したのに……。それなのに、一人でするなんて、あんまりです……。私じゃ、駄目なんですか? 満足、できませんか……?』
責めるような口調とは裏腹に、その言葉の端には、悲しみの色が滲んでいた。……はづきさんめ、余計なことを。
だが、正直に言うしかないだろう。変に誤魔化せば、彼女に疑念を与えかねない。それに俺自身も、このままだと、おかしくなってしまいそうだった。
「すまない……。でも、疲労をとるために、栄養ドリンクを飲んだら、勃起がおさまらなくなってしまって……。それで、仕方なく一人で、しているんだ」
千雪は、押し黙っている。怒っているのか、悲しんでいるのか。それとも呆れ果ててしまっているのか。ただ、彼女の次の言葉を、待っていることしかできなかった。
それから少しして、彼女は口を開いた。それは俺が予想していたよりもずっと、優しくて甘い声で。
『しているってことは、まだ、出していないんですよね……? でしたら、私が手伝ってあげますね……』
そう言って、千雪はクスリと笑う。手伝うとは、一体どういう意味なのか分からず、困惑してしまう。
そんなこちらの様子など、気にも留めずに、彼女は続けた。
『目を閉じて、私の声だけに、意識を集中してください。それから、私の言葉には、必ず従ってください。いいですか?』
「……ああ、わかったよ」
おれは、ゆっくりと目を閉じる。暗闇の中で、電話越しに聞こえる、千雪の息づかいだけが、脳を支配していた。
『はい、いい子ですね。そのまま、私の言う通りにしていれば、気持ちよくなれますからね。まずは、深呼吸をしましょう。大きく息を吸って……吐いて……』
言われるがままに、何度か繰り返す。千雪も一緒になって、深呼吸をしているみたいだ。
すると、段々と、頭の中にモヤがかかったようにぼんやりとしてきて、全身の力が抜けていくような感覚があった。まるで、催眠術にかかった状態になる。
その状態のまま、千雪は言葉を続ける。
『では、右手で、おちんちんを握ってください。軽く、ですよ? それから、私の声に合わせて、ゆっくり上下に動かしましょう。はい、しこっしこ。しこっしこ……』
俺は操られるようにして、自分のモノを握った。そして、言われた通り、ゆっくりと手を動かす。耳元で囁かれる千雪の甘い声に従って、何度も手を動かした。
『先っぽを重点的に、しこしこしてくださいね。よわよわな頭の部分を、しこっしこっ、しこっしこっ……ですよ?』
自分でやる時とは全然違う。千雪に、手コキされているかのような錯覚を覚えるのだ。
陰茎が熱を帯びて脈打ち、先走り汁が溢れてくる。千雪の指使いを想像しながら、必死に手淫を続けた。
『その調子です。上手にできてますね。切なそうな声を出して、かわいいですよ……。それから、いま、私も貴方と同じように、自分で、おまんこを、弄っているんですよ……。ほら、くちゅくちゅって、聞こえますよね?』
言われてみると確かに、微かに水音が聞こえた気がする。きっと、本当に触っているのだろう。それを理解して、さらに興奮が高まってしまう。
俺はもう、完全に千雪の言いなりだった。
『んっ……。今度は、貴方のおちんちんが、私のおまんこに入ってるところを想像しながら、扱いてみてください……』
俺は、千雪の膣内へと挿入していくところを妄想し、陰茎を握る手に力を込めた。
とろとろにほぐれ切ったおまんこを、指で広げながら、俺の前で淫らに晒す千雪。愛液でぐしょ濡れになった秘裂からは、止めどなく蜜が垂れ落ちていて、ヒクついている。亀頭を近づけると、ちゅうっと吸い付いてくるのだ。
処女のくせに、涎を垂らしながら、男根を求める、卑しい穴。それが千雪の本性。
『はいっ……。私は、貴方のおちんちんが、欲しくて欲しくて、仕方がないんです……。ずっと貴方に抱かれることを思いながら、一人で慰めていました……。みだらで、はしたない、卑しい女なんです……。だから……』
そこで一旦言葉を切ると、千雪は言った。
今まで聞いたことがないくらいに甘ったるくて、どろりとした声で。まるで、媚薬のような言葉を。
『——私のことを、犯してください』
その瞬間だった。射精感が一気に高まる。
我慢できずに、びゅくりと白濁が噴き出した。勢いよく飛び出た精液は、個室の壁や床に飛び散ってしまう。俺の意思とは関係なしに、腰がかくかくと震えた。
しかし、絶頂後の虚脱感があるというのに、陰茎だけは勃起したままだ。まだ足りないと言わんばかりに、硬く反り返っている。
『ああ……すごいです……! 私の処女を貫いて、子宮の奥まで届くぐらいに深く入って……! 熱い……。火傷してしまいそうです……。はぁ、はあ……。プロデューサーさん……。プロデューサーさん……!』
絶頂を迎えたというのに、千雪はまだ、俺のことを責め続けているようだった。ぐちゅぐちゅと音を立てながら、手淫を続けている。
『……んんっ? もっと、貴方の声を、聞かせて下さい……。耳元で、囁いて欲しいんです……。もの足りないんです……』
そう言って千雪は、より一層水音を鳴らし始めた。俺が果てたことを知ってか知らずか、むしろ、それを煽るようにして、喘ぎ声を上げている。
俺は、今現在、俺の家で自慰に耽っている千雪の痴態を想像して、我慢汁と精液でドロドロになった肉棒を、再び扱き始めた。千雪の嬌声に合わせるように、手を上下させる。
『あんっ……! あっ……はげしっ……! ……だめぇ……! そこっ、弱いんですぅ……。おまんこの、上側、コリコリされるとぉ……すぐイっちゃうんですぅ……!』
どうやらGスポットを、刺激されているらしい。俺もそこに狙いを定めて、何度も何度も執拗に攻め立てる妄想をする。
すると、千雪の尿道口から、ぷしゅっ、ぴゅくっと透明な液体が漏れ出して来た。我慢できずに潮吹きしているようだ。初めてだというのに、とんでもない感度である。
『はいっ……! 千雪は、処女なのに、お漏らししてしまう、卑しい女です……! ごめんなさいぃ……! 嫌いにならないでください……! はいっ、はいぃっ! 気持ちいいです……! おまんこ虐められるの、大好きですぅ……!』
千雪はもう、自分が何を言っているのかすら、分かっていないだろう。ただひたすらに快楽を求めて、本能のままに乱れ狂っていた。
『んっ……いいですぅ……! ほんとうに貴方のおちんちんが、私の中に入っているみたい……! プロデューサーさん……。好きぃ……。大好きです……。 私のことだけを見て……私だけを想ってください……! 私だけで、気持ち良くなってください……! んんっ……!』
千雪の息遣いが激しくなり、声も上ずっている。どうやら限界が近いらしい。
それならば、一緒にイこうと思い、ラストスパートをかける。出したばかりだというのに、もう射精寸前になっている。
『きてっ……きてくださいっ……! 一緒に、イキましょう……! おまんこの奥に、いっぱい出してっ……孕ませてっ……! 貴方の赤ちゃん、欲しいんですっ……! 私をっ、ママにさせてっ……! 貴方だけのものにしてっ……! 貴方だけのアイドルに、してぇ……!!』
最後の一押しと言わんばかりの、千雪の言葉を聞いて、俺は二度目の絶頂を迎えた。それと同時に、尿道口から放たれた大量の精液が、再び壁へとぶちまけられる。
『はあっ……! だめっ……イッ……イクッ……!! んうぅー……!!!』
千雪も、同時に果ててしまったようだ。荒々しい呼吸を繰り返している。
俺は、彼女の甘い声を聞きながら、個室に散乱した自分の精液を、呆然と眺めていた。
『……ふふっ、おちんちんは、すっきりしましたか?』
「あ、ああ……」
しばらくすると、千雪はいつも通りの声色に戻っていた。しかし、どこか余韻に浸っているような雰囲気を感じる。
『本当は、直接お会いして、ご奉仕したかったんですけど……。でも、それは、あとのお楽しみに、とっておきますね? まだまだ、時間はあるんですから……。では、また……』
千雪は、まるで焦らすように言うと、電話を切った。
俺はというと、もうすっかり千雪の虜になってしまっていた。これからどんなことをされてしまうのか、期待で胸が膨らんでしまう。
千雪に気持ちよくされる悦びを知ってしまった以上、俺の理性が、彼女に逆らうことなど、できるはずもなかった。
『私のことを、犯してください』
そんなことを、直接言われたら、はたして耐えることができるだろうか。
俺は、個室の掃除をしながら、ぼんやりと考えていた。