【インモラルのんのんびより】新任教師の戸惑い 作:エルサイズ
「...」
「...」
車内に響くのは静かな走行音だけ。最初に口を開いたのはこのみだった。
「これ...勇太の車...?」
「ああ。他にも何台か持ってるよ」
「す、すごいね...」
確かに思い切って買ってしまったとは思う。まあ、ほとんど中古で購入したんだけどな。
「このみ...ちょっと回り道してもいいか?」
「あ...うん。家に電話するね」
少し...どこかでゆっくりと話がしたい。
「...うん...うん。大丈夫。ちょっと部活で遅れるだけだから...うん。ありがと。ご飯も大丈夫だから」
携帯電話の電波が途切れる寸前で電話を終えたようだ。
「大丈夫だった?」
「うん...ちょっとくらいなら遅れても大丈夫」
そこで会話は途切れてしまう。
「ここでいいか...」
山道の途中の駐車場。奥の階段から公園に行けるらしい。駐車場には自販機と公衆トイレが設置してあるだけで、俺たち以外に誰も居ないようだ。
「その...本当に久しぶりだね。5年ぶりくらいかな...?」
「...それくらいだな」
当時はこのみは中等部2年生、俺は高等部3年生だった。このみと俺は昔から一番仲が良かった。というのも、駄菓子屋の楓や一穂ちゃん。そして...彼女が年齢が比較的近いこともあってよく遊んでいたのだ。
...いつの間にか、このみが俺に向けている視線が今までのモノと違うことに気づいたのが高校に上がった頃だった。あの時のこのみはまだ6年生だったか?...正直なところ俺はそういう目で彼女を見ていなかった。
しかし、このみは成長してどんどん綺麗になっていった。幼いころの一時の迷いだろうと思っていたが、彼女の想いはどんどん強くなっていた。
...いつの頃だっただろうか。同級生の女の子が目に入らなくなったのは。その時はもう...1年の内に何度かしか会えないこのみの事ばかり考えてた。
しかし、その思いは引き裂かれることになる。それは...お互いの両親が原因だった。
このみのご両親は特に反対だったわけではないが、うちの父が猛反対していたのだ。...こんな田舎の、しかも5歳も年下の女の子に手を出すつもりか、と。...実際にはもっと酷いことを言っていた。それもこのみとその両親の前で。
それに激昂したのがこのみのご両親だ。当然だろう。俺はというと、親父のあまりに酷い言葉に対して絶句してしまっていた。
幸い、富士宮家の人たちは俺個人に恨みは無いと言ってもらえたが...当然のことながら関係は悪化してしまった。
...この話は周りに広がらなかった。その場にいた一穂ちゃん、楓、このみとこのみの両親だけしか知らない。
しかし、このみとは穏やかに終わらなかった。
親父に連れられて東京に帰る直前に、俺はこのみに直接謝ろうと思い、こっそり会いに行った。
『ごめん。俺はそれでもこのみが好きだ』と伝えるつもりだった。...でも上手くいかなかった。
俺の親父が彼女に対して暴言を吐いてるときに、俺が何も言わなかったことに不信感を持っていたのだ。...大人びていたとはいえまだ精神的に未熟なこのみ。親父の暴言で精神的に不安定になって勢いで言ったのだろう、と今なら思えるのだが...それなりに強い言葉で罵倒された。
同時に未熟だった俺はこのみにそのまま言い返してしまったのだ。...その時の泣き顔が脳裏から離れずに、今まで中途半端な恋愛を繰り返して今まで生きてきた。
「あのとき以来、こっちに来てなかったんだよね?」
「ああ...母さんが亡くなったあとは行く理由がないだろって親父がね...ばあちゃん達とはこっそり電話で連絡取り合ってたんだけど」
親父が死んだあとは大学の事や遺産の事。親父の会社の引継ぎの事などいろいろあったと思えば、あっという間に自分も職を持ってこっちに来ることも無くなっていたのだ。
でも...戻ってこれた。そして...このみに会えた。
「このみ...本当にごめん。親父から君を守れなくて...」
深く頭を下げる。お互いに未熟で勢いで言ったのかもしれない。でも俺は好きになった子を守れなかった。このみは俺の事なんてなにも思ってないかもしれない。だからこれは俺のわがままだ。俺の心の整理の為だ。ただの自己満足だ。
「勇太...そんなに頭下げないで...」
上からこのみの声が聞こえる。少し揺れている声が。
俺は姿勢を直して、彼女に向き直った。
「私も...ごめんなさい。私も勇太に酷いこと言ったから...ずっと大好きなのにあんなこと言って...」
でも、と彼女は続ける。
「また会えてよかった...このまま謝れなくてお別れのままじゃなくて良かった...」
灰色の瞳からは、あふれ出した感情が頬を伝っていた。
その涙に濡れた笑顔を見て俺は安心した。頭では理解していたつもりだった。あの時の彼女の言葉は本心ではないだろう、と。でも今この瞬間に心で理解できた気がする。...そして気づく。
ああ...俺はやっぱり今でも彼女に恋しているままなんだな...と
「勇太...私、やっぱりあなたの事が...」
「ああ...俺は今でも君が好きだ。ずっと前から好きなままだ」
「うん...うん...!私も大好き...ずっと前から大好き...!」
彼女の涙が見たくなくて謝ったつもりだったけれど、余計に涙を流すことになってしまった。
俺は彼女の柔らかい頬に手を添えて指で涙を拭った。
「ありがとう...このみ」
「うん...」
視線が絡み合い、徐々に2人の距離は短くなっていく。
「勇太...」
「このみ...」
俺は身を乗り出して大きなセンターコンソールという2人の距離を乗り越えた。
「...ん...」
「...ん..っ...!」
やがて2人の距離はゼロになる。
ビクッと身体を揺らすこのみ。成熟した身体や精神の割にキスは不慣れだった。
「...んぅ...ふぁ...キス...しちゃった...」
このみの瑞々しい唇が離れてしまい少し寂しいが、彼女の口から出たのはかわいらしい感想だった。
「...ひょっとして初めてだった...?」
彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「...うん。ずっと...勇太が好きだったから...」
そう小さく答えた。
これはまずい...
ずっと俺の心に居続けた少女が同じ思いを持っていたことが分かっただけで飛び上がりそうなのに...その少女が、俺との口づけでこんなに幸せそうな顔になっているのだ。しかも、これが初めてだというのだ。
嬉しすぎて叫びそうだった。
「...ありがと。大好き」
そしてこの笑顔だ。...俺はたまらずに再び彼女の唇を奪った。
「勇太?...んんっ...!?...んっ...んぅ...」
深くはない愛を伝える口づけ。
次は最初より長い時間、彼女を逃がさなかった。
「ふぁ...はぁ...はぁ...」
次に離れたときには銀色の橋が2人を繋いでいた。
「ねえ...ゆうた...もう一回...っ...!」
その後、何度もこのみと無言で唇を貪りあっていたが、気づけば1時間近く経っていた。
「そ、そろそろ帰らないと...!」
「...そうだな。家まで送るよ」
そしてご両親にも改めて謝りたい。
俺は座席に座りなおして、車を発進させた。
―――――――――――――――――
「ここだったか?」
「うん、そうだよ。案外覚えてるね」
うろ覚えだったが、なんとか到着できた。
「ほら」
リアシートから取り出した彼女の荷物を手渡す。もちろん、俺が重いモノは運んだ。
「ありがとう。お母さんたちに会っていくでしょ?」
「ああ。是非とも。改めて謝りたい」
「もう...お父さんもお母さんも勇太のことを悪く思ってないのに」
「大人としてのけじめだよ」
そう。これは自分自身のけじめの為だ。
このみは玄関を施錠の確認もせずにガバっと開けた。
...この辺りが蛍ちゃんとの違いだよな。
「ただいま~」
「お帰り。遅かったわね。...あら?そちらの方は...もしかして勇太くん!?」
「うん。勇太に車で送ってもらってたんだよ」
「はい。ご無沙汰しております。おば様」
「まあ...こんなに立派になって...とにかく上がって上がって。お父さんもいるから!」
良かった...とりあえず嫌われてはいなかった。
そして、改めてリビングに通された。すると、ソファに腰掛けていたこのみのお父様と目が合った。
「お?ひょっとして勇太くんか!?...立派になったなぁ...」
お父様からも嫌われてはいないようだった。
...では早速だが、ここでいうべきだろう。
「おば様おじ様、まずはここに来るのが遅れてしまいました、すみません。そして、あの時は父が大変無礼な言動をしました。本当に申し訳ございませんでした」
正座して深く頭を下げる。
「そんな...頭を上げてくれ。勇太くんは悪くないよ。亡くなった人の事を悪くは言えないけど、あの時のお父様の言葉に勇太くんも怒ってくれていたじゃないか」
「そうよ。それにこのみにあんなに良くしてくれたじゃない。最後はこの子の意地っ張りでちょっともめたみたいだけど...」
「ありがとうございます...これからもよろしくお願いします」
「ああ。これからもよろしく」
「このみのこともよろしくね。この子ったら勇太くんのことが忘れられなくて彼氏もできたことないのよ~」
「ちょっとお母さん...!」
顔を赤くしてうろたえているこのみ。
そこまで思ってもらえるなんて...
「ありがとう。このみ」
「勇太まで...うぅ...」
...可愛すぎるだろ...
その後はもういい時間だったのでお暇することにした。
「ではこの辺りで失礼します。今日はありがとうございました」
「いつでもいらっしゃいね。このみも楽しみにしてると思うから」
「もうお母さん...!」
今日は可愛いこのみを何度も見れて幸せだった。
最後に挨拶を済ませて車に戻る。家に対して右向きに停めたので運転席は反対側だ。
と、そこにパタパタと足音が近づいてきた。
「勇太っ」
「このみ。どうした?」
「忘れ物してたよ」
おっといけない。しかし何を忘れたのだろうか...?車のカギしか手荷物は無かったと思うけど...
「何を忘れ―――んぅ...!?」
突然、目の前にはこのみの愛らしい顔。そして口元には瑞々しい唇の感触が。
「ん...さよならのちゅー、忘れてるよ?」
少し赤い頬でほほ笑むこのみ。
...確かに大切な忘れ物だった。
「ありがとう。これからは忘れないようにするよ。...んっ...」
このみの頬に手を添えてもう一度口づけを交わす。
「んっ...うん...!じゃあね」
このみと別れて俺は帰路についた。
...明日はお休み。さて何をしようかな。
蛍ちゃんが経験豊富でこのみちゃんが経験が無くて純。これもありではないでしょうか。