カレイドシリーズは嫌いじゃないですがイリヤはSNの方が好きです。
…………
……………………
…………………………
………………………………ぴちょん。
「――ぅ」
――ぴちょん。ぴちょん……ぴちょん。
水音が聞こえる。
額に、頬に雫が当たる。
淀んだ思考と、全身を包むけだるさを振り払うように少女――
美遊・エーデルフェルトは小さく頭を振って、身体を捩った。
「(こ、こは?)」
意識が戻った美遊が最初にしたのは、状況を把握しようとすることだった。
――暗い。何も見えない、暗闇の中にいる。どくん、どくんと、何かが脈動するような音だけが響いている。
加えて、身体の自由がない。
両手両足の感覚が曖昧だ。
無理矢理に力を入れて動かそうとしても何かに縛り付けられたように動かない。
「……っ、頭が……」
前後の記憶が、定かではない。
自分の事はわかる。美遊・エーデルフェルト。
カレイドステッキ・マジカルサファイアの魔法少女。
「(――サファイア?)」
――そう、自分はマジカルサファイアの魔法少女の筈だ。
だが、今手元にマジカルステッキは無い。
しかし、自分が身に纏っているのは私服や制服ではなく、間違いなく魔法少女のそれ――
見慣れた、薄紫色と白のレオタードだった。
薄暗くて見えはしないが、肌を包む水着にも近い布地の感覚でそうだと分かる。
そもそも自分はどこで何をしていた?
記憶を遡るも昨晩に自分のベッドで眠った記憶までしかない。
それ以前の記憶も、学校に登校して友人であるイリヤと話していた、他愛のないものだ。
「(――そうだ、イリヤ、……イリヤ達は?)」
思い出せた昨晩の記憶。
イリヤと、その姉――妹かもしれない――の、クロエ。
彼女達が泊まりに来ていた、彼女達の言う所の「お泊り会」というもの、女学生はみんなするらしい。
――を、していた筈だ。
大きなベッドでイリヤとクロエと三人並んで。
イリヤとは手を繋いで三人で「川」の字になって仲睦まじく眠った……筈だ。
もし、自分が何者かに誘拐――拉致されたと仮定するならば二人もまた同じ様な状況にある筈だ。
自分やクロエはまだいい、変身できなくとも多少の耐性や抵抗がある。
だがもしイリヤが杖――マジカルルビーを取り上げられた上で同じ状況にあるなら、非常にまずい。
変身することができない彼女はただの女子小学生でしかない。
「(私だけなら、まだいいけどっ……!)」
イリヤが、なにかひどいめにあっているのならばすぐに助けなくては。
そう思い感覚が曖昧な四肢に力を入れて動かそうと試みる。
意識して強く力を入れようと思えば――「ぬるり」とした感触を感じた。
「(……これは……?)」
力を入れることで感覚が戻ってきたのだろうか。
両手、両足が、なにかに包み込まれているのがわかる。
ぬるめのお湯に浸かっているような感覚だった。
水のような、泥のような――そんなものに肘と、膝の先からが包み込まれている。
「んっ、この……っ」
四肢をよじり、全身に力を入れてなんとか振りほどこうとする。
だが力を入れれば入れるほどにぬかるみ、しめつけは強くなっていくようだった。
ただ体力だけを消費しているような気がしてくる。
……深く息を吸い込み、吐き出す。落ち着かなくてはいけないと、美遊は思った。
今重要なのは状況を正確に把握することだ。
自分が置かれている現状を理解しなくては脱出も、同じ様な状況にあるかもしれないイリヤ達を助ける事もできない。
少しずつ、暗闇に目が慣れて来た。
ぼんやりとしているが、周囲が見えてくる。
「(……赤?)」
最初に目に入ったのは、赤色だ。
床、壁、天井――全てが赤い。肉肉しい、血液を思わせる赤。
それがゆっくり、大きく脈動している。視界に伴って、どくん、どくんと鼓動を打つような音も聞こえてくる。
ぱちん。
「……っ!?」
なにかが瞬くような、あるいは弾けるような音が耳に入る。
薄紫色の光が居る空間を照らしたのは、その音とほぼ同時だった。
「これ、は……――なに、……?」
――視界一面に広がるのは脈動する肉、肉、肉。
生きているかのように脈動し、鼓動を打っている。
ひどくグロテスクな光景。
そういった耐性がないものが見れば、それだけで卒倒してしまうようなありさまだった。
「!……はっ……!!」
美遊は左右に、そして自身の薄い胸元を越して足元に視線をやる。
両手、両足を縛り付けるのは空間を埋め尽くしているもの――肉塊と同じ材質、存在であろう物体だった。
生ぬるくぬかるんだ感触は肉塊と、おそらくはそこから生じているなんらかの粘液だ。
それを自覚してしまえば、途端におぞましさを感じ背筋を寒気が走っていく。
「くっ、ううっ……!」
先程よりも強く身をよじる。
だが拘束は強く硬く逃れる事はできない。
それどころか、力を入れれば入れるほどに強く締め上げられるような感覚がある。
「(魔術で生成された生物……っ)」
「(けど誰が、何のために?)」
「(――ううん、そうじゃない、私は”家で眠っていた”)」
そう、エーデルフェルトの邸宅だ。
即ちルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト――エーデルフェルト家の魔術師の工房である。
そこに居た自分が、魔術的な生物に拘束された状況にあるということ。
それはつまりエーデルフェルト家が襲撃を受けたという事になる。
なにかあれば警報が作動する筈。
実行犯はそれを掻い潜って自分を拉致した事になる。
なにより、こうなれば被害を受けているのは自分とイリヤ達だけではない。
ルヴィアや、屋敷のメイド達も被害を受けている可能性がある。
事態は、一刻を争う。
今更ながらにそれが実感を伴って襲ってくる。
額を、頬を冷や汗が伝っていく。焦りだけが美遊に募っていく。
「(落ち着け――落ち着いて……声は――出せる。 得策じゃないかもしれないけれど……)」
「……イリヤ!クロ! ……ルヴィアさん!?」
声を張り上げて叫ぶように同じ様に囚われている可能性のある友人を、保護者――のような人の名を呼ぶ。
反応ない。近くに居る可能性はあっても肉に満たされた空間で音が閉ざされているのか。
あるいは距離のある場所にそれぞれ囚われているのか。
「(一人っきり……サファイアも無い……、どうしよう、どうするべき……?)」
――残念だが、囚われていないという可能性は低いだろう。
流石に、この状況でそんな希望的観測はできなかった。
「(――けどっ)」
諦めるわけには、いかない。
他の皆が捕らえられているとして、まだ意識を取り戻していない可能性がある。
だとすれば、今動ける――思考を巡らせ、脱出の道をたどる事ができるのは自分だけだ。
「(……お兄ちゃん、力を貸して)」
心の中に兄の姿を思い浮かべ、自らを奮い立たせる。
――こんな状況に負けたりはしない、くじけたりはしない、と。
「――ゆ……美遊――、いるのー……!?」
「……!! イリヤ!?」
聞き慣れた声がする。美遊にとってなによりも大切な、自分の手をとってくれた、親友の声だった。
「イリヤ、どこにいるの!?近くにいるの!?大丈夫!?」
「美遊!やっぱり美遊だぁっ、よ、よかったぁ……!」
「わ、私起きたらこのグロキモの中にいて、る、ルビーもいなくてぇ……!」
「落ち着いて、落ち着いてイリヤ、大丈夫、大丈夫だからっ……!」
声に怯えが混じっている。怖い思いをしたのだろう、と美遊は思う。
当然だ、マジカルステッキ――ルビーが手元に無いのだとすれば、彼女はただの少女でしかない。
その小さな身体の中に、気高く高潔な正義の魔法少女としての心があったとしても、だ。
厳密には違うのだが、いくら大きな器に水が満たされていようとそれを出力するツールがなければ無意味に過ぎない。
だからこそ、自分がしっかりしなければ。
自分とてステッキ無しに魔術が扱える訳ではない。
それでも、そういった事柄に対しての知識も、対処法も、イリヤよりは多くの知識がある。
――クロエがいれば力になってくれたろうが、反応がない事から考えるに、近くにはいないのだろう。
「いい、イリヤ、落ち着いて聞いて。 私達は多分魔術師かなにかに拉致されて――」
近くに居て、声のやりとりが出来るイリヤに説明をしながら自分でも状況を整理する。
自分達は何者かに拉致されたであろう事。
外部との連絡手段は現状存在していない事。
マジカルステッキ、ルビー、サファイア、共に自分達の手元には無い事。
敵の目的がなにかはわからないが、少なくとも碌な事ではないであろう事。
エーデルフェルト家に居てこの状況になっているという事は、凛やルヴィアの助けも期待できない、という事――。
「ふぇええええっ、つ、詰んでるよぉ~~!」
「落ち着いて、イリヤ」
「はっ、そ、そうだよね……ごめんね、美遊だって不安なのに」
「私は平気、イリヤがいてくれるから……」
――それでも、イリヤの存在が救いになっているという事。
本当に一人きり――攫われたのが自分だけだとすれば、いつか心は折れてしまっていたかもしれない。
だがイリヤが、友達がいれば、そうなることはない。
守るべき相手、支え合う相手がいるという事だけでも美遊にとっては充分だった。
「そ、それで美遊、これからどうするの?」
「うん……できることは少ないから一つずつ確実に……まずはこの空間がどういう場所なのか、把握しないと……」
どこか、物理的な空間をこの肉塊で満たしているのか。
あるいは、魔術的な生物の腹の中などの異空間になるのか。
はたまた、魔術によって造られたある種の異次元空間にあるのか。
ルヴィアに気付かれず――あるいは制圧しこの規模の事が為せる相手だ。
どれだけ最悪の想像を巡らせても、その上を行く可能性はある。
なによりルビー、サファイアキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作り上げた魔術礼装。
第二魔法を応用したとんでもアイテムだ。
単体でその力を行使する事はできずとも、人工精霊であるルビー、サファイアが悪意や魔術に気付かない筈もない。
――つまり、下手人はそれら全てを掻い潜る事ができると考えていい。
「……イリヤ、そっちはどう? 手足、動かせそう?」
「ううん、無理そう……ぬかるんで気持ち悪いです……」
そして、ステッキを持たずただの少女となっている自分達に対する油断も無い。
「(なにをするにも足りてない……っ、力も情報も……)」
どうする、どうすれば、どうしたものか。
そんな言葉ばかりが頭の中を駆け巡っていく。
――そんな時だった。
「きゃ、あっ!」
「! イリヤっ!?」
悲鳴。
美遊のものではない、イリヤのものだ。
肉壁で隔てられた先から確かに聞こえた。
「イリヤ!イリヤっ!?」
「み、美遊――ンンンーーッ!?」
壁が、天井が、床が――肉塊が蠢いている。
そうしてイリヤの悲鳴はすぐに聞こえなくなる。
別の場所に移動されたのか、肉塊の中に閉じ込められたのか。
美遊にそれを知る術はない。
だが諦める道もない。
自分達がこうして、拘束以外はダメージのない状態で目覚めたという事はそうする理由――
いうなれば、殺さない理由がある筈だ。つまり、イリヤも自分もすぐに殺されることはない。
その先でどうなるか、までは分からないが一先ずイリヤも、命の面で言えば無事である筈だ。
「(けど)」
こうして分断された、という事。
それはつまり下手人が自分達が目覚めた事をなんらかの方法で知ったという事だろう。
ならばこの後はどうなるのか? 美遊は焦りを理性で抑えつけ、努めて冷静に思考を巡らせる。
分断するという事は二人が一緒に居るとなにか不味い事があるのか。
あるいは、精神的な動揺を誘うためにそうしたのか。
ステッキにのみ用がある――という可能性は低いだろう。
そうだとするなら自分達はすでに殺されている。
だとすればイリヤにだけ、あるいは自分にだけ用があるのか。
どちらも、可能性はある。
そう、”自分達の出自を考えれば”。
そうだとするならば相手は自分達の出自を、秘密を知っている存在になる。
「(まさか、……)」
ある、魔術師の家の名が浮かぶ。
けれどと美遊はすぐにノイズとしてそれを思考から打ち払う。
そうだとするならこんな回りくどい手は使わない。
もっとわかりやすく、――物理的に来る筈だ。
だから、これは違う。
――違う方が問題かもしれない。
自分の、自分達の出自を知る相手が他に居るということだ。
「(いったい、何者――)――っ?」
思考を巡らせていく中で、美遊は違和感を覚える。
腕を、足を拘束する感覚に変化がある。
肌を包む感覚が、おかしい。
くすぐったいような、かゆいような感覚。
「(な、に?)」
――見れば、手足を包む肉塊が形を変えていた。
ひとかたまりのそれから、両手足に絡みつく「つる」のような形状に。
”ぐじゅる――ぅ、ぐじゅるっ……にちっ、ぬちっ……っ”
「っ……!?」
次に感じたのは、肉塊が肌の上を這い回っているような、
生ぬるいものに全身を舐られているような、そんな感覚だった。
”――にゅ……るっ”
「ひ!?」
ジェルが、あるいは日焼けのクリームかなにかが肌に染み込んで来るような感覚。
いや、実際にそうなのだと、美遊は全身を襲うそれを理解させられる。
肌にある毛穴から、あるいは皮脂腺から。
極微細な突起が身体に侵入してきている。
酷く不愉快で、おぞましい感覚だった。
「あ、ああ……っ!? や、やめっ……!」
侵入した突起――触手と言うべきだろうか。
それが、体の内側に何かを注入している。
血管を、神経を通して何かが身体を作り変えている。
「あ、あ、あっ、くうっ」
身体をよじる。
「つる」の――触手の形になったことで拘束そのものは先程とは比べ物にならない程度に緩まっていた。
もちろん強く、締め付けるものであるがこれなら自分でも脱出の芽はある。
……逃れたからどうできる、どうなるという訳ではないだろうが少なくともこの状態に在るよりはマシだ。
幸い、触手の動きそのものは美遊の目から見ても非常に緩慢だった。
壁や床の肉塊が力で引き千切ったり、押しのけたりすることができるものであるなら道はある。
”――ぐじゅつ……”
「っ、そんな……!」
ある――と思い抵抗していた美遊の視界に、何かが映る。
それは天井から"生えた"幾本かの、両手足を拘束するものと同じ「つる」――触手だった。
楽観視していた訳ではない。
むしろ、予想はできていた事だった。
手足を縛る肉塊と、上下左右を満たす肉塊が同じものなら、同じものが生えてくるのは当然のことだ。
「やっ、何をっ……な、あ!?」
触手が、美遊に伸びる。
その先はすでに拘束されている手足ではない。
「ン、グゥッ!!」
美遊は堪らず悲鳴を漏らす。
だがそれもすぐに物理的に塞がれ、音とならない。
息苦しさに呼吸を荒げる姿は他の者が見れば酷く滑稽に見えただろう。
触手が伸び、触れたのは、頭。
より正しく言うのであれば左右の耳穴、そして顔にある鼻孔と、口。
丁寧にもそれぞれの穴の大きさに合わせた合計五本の――
――先端が細かく分かれているため、正しくは五本ではないが――の触手が、美遊の身体に侵入する。
「ンンッ、ングゥッグッ」
「(噛み、きれないっ……)」
耳と鼻を襲う、ぬめりとした不快な感覚と息苦しさに耐えながら美遊は口内の触手に必死で歯を立てる。
だがひどく軟体のそれは小さな歯を僅かに食い込ませるだけで傷の一つも付くことはなかった。
”ずりゅん――ぐにゅぃぃぃん”
「ン、ンンッ!?――ンンンンンンッ!!?!?ンーーッ!!!」
どころか、奥へ、奥へ、奥へと。
口内を、喉を通って美遊のナカへと侵入する。
鼻から侵入した小さなものも同様だった。
「オ、ゴオッ、ングゥッッッ!!!?」
息苦しさに美遊が酷い痛みと、嘔吐感を覚えようとも、触手の侵入が止まる事はなかった。
「(しッ――ぬ、……っ、いき、いきがっ……のど、さけっ……)」
肉が裂けるような感覚がする。
本来食物や空気を取り込む為の器官にそうではない遺物が無理矢理に侵入しているのだから当然だ。
「―――――ん、ッッ……!……ッ……?」
その痛みがだんだんと、不自然に和らいでいく。
まるでステッキを使っている際に自動で行使される治癒魔術や、痛みを軽減するそれらと同じ様に。
「(……! ち、がう……っ)」
だが、それらとは違う、と美遊は感覚的理解する。
”ちき、ちき、ちき、ちき。ぐちゅ、ぐり、ぐちゅ、ぐり、ちゃぷ、ちゃぷ”
音が聞こえる。何かが弄られている、何かが書き換えられている。
聡明な美遊がそれが外からの音ではなく、自分のナカ――頭のナカからの音だと気付くのに時間はかからなかった。
耳だ。
耳から侵入した触手が脳に達して、何かをしている。
脳内麻薬の分泌をしているのか、感覚そのものを書き換えているのか。
細かな理屈を断言して判断することは美遊にもできなかったが――
「――オ、ンンッ、ンン、オ゙ッ、オ゙オ゙ッ゙!?」
体中を駆け巡る電気信号がたしかに狂わされている事は理解できた。
鈍痛が、不快感がひいていく。代わりに齎されたのは熱――熱狂だった。
「ハ、ンオッ、オオンッ、オッ――ンンッ、オゴォッ、ハッ……!」
身体の内側が熱い。――内側だけでない、外側も熱い。熱を持っていない箇所はなかった。
四肢を拘束し絡みついている触手が触れた箇所も、触れていない箇所も。肌にふれる空気ですらも熱い。
”――ぐじゅんっ”
「オ゙ッ゙♥!?」
触手の一本が、美遊の背中をつぅとなぞった。
ただそれだけで身体が内側から弾けるような衝撃が美遊を襲う。
「――ヒッ♥ハッ♥ギッッッ♥♥!!?!?」
今度は、全身に電撃が走った。
比喩ではない、耳から脳に侵入した触手が脳から全身に電気信号を送ったのだろう。
脳を通して快楽中枢が刺激され、強制的に快感を与えられている。
同時に、神経が過敏になっているのが分かる。
四肢を拘束する触手の、毛穴に侵入した一本一本の感覚が感じてるようだった。
知覚過敏、感覚過敏――あらゆるものが過敏になっている。到底普通の人間が耐えきれるものではない。
美遊も、ステッキがない今意識を失う、筈だった。
それを許していないのは触手が美遊の全身に注ぎ込み染み込ませた薬液の効果だろう。
媚薬にも似たそれと、直接弄くり回された脳が、美遊の身体を文字通り作り変え、強靭なものにしている。
何のために――? 現状を見れば考えるまでもないことだった。
美遊の身体を弄び、堕とす事。
精神を破壊して”あるべき形に戻して使用する事”。
目論見としては、こんな事だろう。
人格を完全に破壊するか、あるいは快楽や暴力で完全に屈服させてしまえば目的は達成だ。
後は好きに使えば良い――実に効率的で、なんとも魔術師らしい。
「(でも――まけ、ないっ、負けないぃ……っ!)」
つまり、そんなろくでもない相手にここで負けてしまえば自分やイリヤだけでなく、周りの人達……
イリヤの家族や、イリヤの「おにいちゃん」、学校の友人達、先生――。
そんな、何の関係もない人達にまで被害が行く可能性がある。
それは恐ろしく――この世界で、この場所で温もりを知った美遊には許容し難く、耐え難い事だった。
自分一人の身を差し出して魔術師の暴挙が止まるというのなら美遊は喜んでそうするだろう。
だが既にイリヤも、おそらくはクロやルヴィア達も巻き込まれているのだ。
だから、自分から降伏する理由は無い。
――最も、下手人が直接接触してこない以上仮に降伏しようと思ってもできないのだが。
「アッ゙――ンンンギイイイイッンッ!!!♥♥」
悲鳴と共に、美遊の全身が跳ねた。
海老反り、細い首と薄い布地に覆われた腹が曝される。
なんて事はなく、触手が薄紫色のレオタードの上から美遊の小さな胸を”軽く”なぞっただけだった。
ただそれだけの事で美遊は絶頂に達していた。苦しい程の快楽。
作り変えられた肉体は単純な接触だけで発狂する程の快感を得る。
「(痛い!痛い!気持ちいいのが、痛いッ♥♥!?」
痛いのが気持ち良い、という性癖を聞いた事がある。
クロエとの雑談だっただろうか? その逆だった、快楽が許容量を越えて苦痛になっている。
だが、同時にその苦痛も快楽として感じてしまう。
既に「そう」なるように変えられてしまった。
「ンン、ゴ――ォ゙゙゙ッ゙♥♥!!?」
触手をねじこまれた口から濁声が漏れる。
今度は、快楽とは違うもので美遊の身体が痙攣した。
「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ゙ッ!?!?!」
触手が口を、喉を超えて内臓に侵入している。
本来そうなっていてもわかりようがない筈だが、感覚として理解できた。
胃の中を、触手が舐め回している――胃の中にあるものをこそぎとっている。
更には、中で触手が二股、三股、四股……いくつにも分かれて他の臓器に侵入していく。
そうしてねぶり、こそぎとったものの代わりとでもいうように何かを放出している。
液体のような、なにか。
レオタードに包まれた美遊のほっそりとした腹部がみるみるうちに膨れ上がっていく。
ともすればこのまま内側から注がれる液体によって破裂するのではないか――そんな風に思わせる光景だった。
「ア゙ッグッッごぉげェッ」
それだけでは、終わらない。
四肢を覆い肌から血管に、神経に侵入していた極微細な触手達も美遊の「ナカ」を動き回っている。
十二指腸から大腸、小腸、盲腸、体中のありとあらゆる臓器に触手が侵入している。
内側から、侵され、犯されている。
臓器を圧迫される苦痛、呼吸ができない息苦しさ、絶えず脳から全身に送られる快楽と苦痛のシナプス。
まだ、普通に身体を弄ばれる方がマシだったかもしれない。
美遊は堪らず意識を手放した。
「――! ギイイイイイイイイイイイッ!!?!イイイイッッギ、ッッツ!? ッ~~♥♥♥!!?!?!」
だが、直後に引き戻される。
「ナカ」を支配する触手が、内蔵を内側から擦ったのだ。
激痛が美遊の世界を満たす。
視界は白く染まり、白目を剥いて泡を吹く。
レオタードの股布からはプシュッ、と液体が噴き出した。
失禁。
薄紫色のレオタードにじんわりと染みができていく。
無理矢理覚醒された美遊の瞳からは羞恥と苦痛による大粒の涙が流れていた。
「――お、ッ、ご――ッ!、……ン゙ゥッ!?」
ぴたりと。
美遊の身体のナカに侵入していた触手が一度動きを停止させる。
美遊に訪れたのは一瞬でも責め苦が止まった事に対する安堵よりも、何故止まったのかという疑問だった。
肉体に対する何らかの措置が終わったからか、あるいはこちらの反応を見て停止したのか。
何らかの目的があるはずだ。理由もなく、この行為が終わるとは思えない。
「ぉ、ッ――」
”ぐ……”
静止していた触手に、力が入るのがわかった。
自分のナカを侵し、外でも絡みついているそれらが、同時に、動く。
「~~~~~~~~~~~~~~~ッッッガあ゙」
「ぎぃああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙♥ ♥ ♥ッ゙!!!」
「お、ぼおッ、おおオッ、おおおおあああッげぼぉッ、ギッ、がぼッ!!」
そして、同じタイミングで美遊のナカから引き抜かれた。
耳から脳に侵入したもの、鼻と口を通って内蔵に侵入したもの。
四肢に絡みつく触手が皮膚の毛穴、脂腺から侵入して全身、細部の至る所までに入り込んだもの。
それら全てが美遊のナカから引き抜かれていく。
内側を擦る激痛、内臓器官の内側の肉壁がこ削ぎ取られていくような――ような、ではなく。
実際に削られたのだろう。
恐るべきところに血も出て居なければ骨も折れてはいない。
ゴムのように、スポンジのように、あるいはスライムを思わせる軟体の触手は器用にそういった事を避けていた。
あるのは人間が本来感じる事はないであろう筆舌に尽くし難い苦痛と、絶望的なまでの快感。
端正な顔が歪み胃に注がれた液体が、口から、鼻から吐き出される。
涙腺まで改造されたのか、それともわずかに残った正常な肉体の反応か。両目からは止めどなく涙が溢れている。
繰り返し身体が絶頂し続けている。がくんがくんと全身が震えていた。
「げ、ぼォッッ、おおゔぇえッ、あ、っふッ、ぶえぇッ」
咳き込みながら、真下――床だけを見て胃液と触手が吐き出した液体の混合物を吐瀉し続ける。
地に落ちた吐瀉物は白く濁っていて、どこか桃色がかっている。
ぱっとみてもわかる程度には人体の――人間の胃には到底収まらないであろう程の量だった。
涙や鼻水と混じっているせいか、それとも元々の性質か粘性を帯びているように見えた。
がくん、と美遊の身体から力が抜ける。
白目を剥いての失神。
当然の結果だった。
耐えられる筈もない。
ブレーカーが落ちたかのように美遊は意識を手放し――……少しして、ゆっくりと戻ってくる。
いっそ気絶したままの方が、美遊にとっては幸福だったかもしれない。
そうして、しばしの静寂が訪れる。
「(………………お、わ……ッ……たの……?)」
苦痛と、快楽と、全身を走り抜けた衝撃とで呆然とした意識で美遊は考える。
触手から開放された――四肢は拘束されているが――という事は、終わったという事なのだろうか。
「(まだ、……折れて、ない、私は……)」
そうだとするならば、自分は耐えきる事ができた、と。
美遊は力の入らない手で小さく握りこぶしを作って瞳を閉じる。
狂いそうだった。
死んでしまいそうだった。
おかしくなってしまいそうだった。
身体の方は、もうおかしくなってしまっているし。
もしかすると本当のところとっくに狂っているのかもしれないが。
少なくとも自分はまだ、堕ちてもいなければ諦めてもいない。
イリヤを、友達を助けてここを脱出するという意思は強く抱いたままだ。
「(――耐え抜いたなら、脱出の道を、探せる……)」
「(すこしでも、拘束が緩んだときが、チャンス……っ)」
ぐっ、と体に力を入れて唯一自由な首を、顔を上げて正面を向く。
口元が気持ち悪い、何かで拭いたい気分だったが両手が動かないので拭えない。
「――ぇ……っ」
不快感に耐えながら瞼を開ければ、そこには先程と違った光景があった。
「か、がみ……?」
鏡だ。 鏡そのものであるかどうか、は定かではないが正面の壁一面が鏡面となっている。
写っているのは無様な自分の姿だ。瞳は濁り、疲れ切った様子の酷い表情をしている。
「どうして、こんなものが……、っ!?」
口をついて出た疑問の回答は、眼前から伸びてくる触手によって与えられた。
壁と床から生えて来た新しい触手が、今度は太腿から上へと美遊の全身に絡み付いてくる。
自分の痴態を、見せつけられている。
身体の陵辱だけでは飽き足らず無様極まりない様を見せつけて心まで踏みにじろうとしているのだ。
「く、ぅっ……誰が、思い通りになんか……っ!」
今この場で出来るせめてもの抵抗。
美遊は強く瞼を閉じて歯を食い縛る。
子供じみた抵抗だが、しないよりはマシだ。
「……、!?」
だが、それができなかった。
瞼が閉じてくれない、より正確に言えば身体が言うことを聞かないのだ。
瞬きは出来ても目を閉じ続けている事ができない。
ならば、と目を逸らそうとしても首が動かなかった。
美遊の瞳は真正面の鏡面に映し出された自分の姿を捉えて離さなかった。
そこで美遊は、思い至る。
――先程の触手だ。
耳から、脳へと侵入していたそれら。
既に引き抜かれてはいるが、おそらくはもう「終わって」いるのだろう。
美遊の身体は既に、美遊の支配下にない。
触手の――ひいては、その創造主、支配者の思うがままなのだ、少なくとも肉体的には。
「ひっ!?――ぎッ♥♥」
太腿から下半身に絡み付いてた触手がレオタードの内側に入り込んで美遊の薄い胸に巻き付いた。
触手の全体から分泌される粘液が、薄紫の布地を溶かして裸体が露わになっていく。
生ぬるい空気が胸に触れるのがひどくあつい。
まだ絡み付いてぬめっているだけの触手の触れる感覚だけで美遊は絶頂に達した。
「あぎッッ♥♥」
それで触手が止まれば良かったのだろうが、当然そんな事にはならない。
薄くなだらかな双丘に絡み付いた触手は”ぎゅぅっ”と胸を絞りあげる。
本来ならば痛みしか感じない筈のそれも、今の美遊にとってはどんな愛撫よりも甘い毒だった。
「ッ、ッ!?ッ!!?♥♥」
そうして美遊は鏡に写った姿を見て、気付く。
――絡み付いた触手の先端が細かく分かれている。
なんだか海月のようにも見えるそれが胸の先端の桜色の突起――乳首に近づく。
そうして肌に、耳に、――他の穴に侵入したのと同じ様に乳頭から美遊のナカへ侵入していく。
「ギッ゙ッ゙ッ♥♥!!ビッギィ♥♥」
脳が焼ききれる様な快楽を美遊が襲う。
鋭敏になった感覚に、性感である胸をキツく絞り上げられた上に外部からだけでなく内部からも刺激を与えられているのだ。
ぶつん、とブレーカーが落ちたかのように美遊は意識を飛ばす。
「――!? ピギィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ッ!!!??♥♥♥」
”ばちん”
しかし、美遊を取り巻く現状は無慈悲だった。
雷光、電流。
四肢と胸、全身に絡みついた触手達から美遊へと、容赦なく電撃が流される。
快楽とは異なる純粋な苦痛により強制的覚醒。
目をそむける事が許されていないのだ、当然意識を失う事など許されるはずもない。
「あ゙あッ♥ふーッ、ふーッ……♥♥!!――ひ♥、ぴぎっ♥な、にッ?♥」
意識を取り戻して――取り戻させられて最初に美遊が感じた事。
胸が熱い。より具体的に言えば胸の先端の突起、乳首が酷く熱を持っている。
胸のナカが押し広げられ、弄くり回されている。
直前に全身を流れた電流よりも更に熱く、激しいものだ。
「む、ねッ♥ひッいッ♥こわ、れッ♥あああッ、なにッ!?なにぃッ!?♥♥♥」
頭の中で何度も光が瞬いている。壊れた電球が明滅を繰り返すように意識が途切れ、接続される。
その繰り返しのさなかで身体に大きな違和感が生じる。
「あ、あああッ♥ひ……ぃッ!?♥ なん、なにッ、なぁ、あああッ♥♥」
なだらかな双丘がぷっくりと膨れ上がっている。
幼い少女のそれが、まるで妊娠でもしたかのような豊かさに。
先端の突起とそれを囲む乳輪は黒ずみ、大きく存在を主張している。
"――ぐりゅんっ"
「お゙んッッッッ♥♥♥」
そうして、まるで一つ仕事が済んだとでもいうように乳首のナカに侵入していた触手が乱暴に引き抜かれる。
その刺激は美遊を絶頂に押し上げるのに充分なものだった。
まるで発情した雌犬のような叫び声にも似た喘ぎ声を上げて、美遊は背を反らす。
"ぴゅるっ……"
「――え、ひっ……」
"ぴゅるっ、ぷしゃっ――ぷしゃあっ"」
「ひっ♥ひっ♥なにっ、これっ♥なんでッ、なんでえええええっ♥♥♥♥」
触手が引き抜かれた胸の先端から、白い液体が溢れ出す。
まるでペニスのようにいやらしく肥大化して勃起した乳首から母乳が溢れ出している様は男の射精のようだ。
それが止まらない。びゅうびゅうびゅうと下品に噴乳し続けて床と美遊自身の身体を汚している。
「ああわッ♥やだああツッ♥♥とまっ、ほまっへえぇぇええぇ♥♥♥」
それは美遊に途方も無い恥辱と共に、耐え難い快楽を与えていた。
母乳が吹き出す度に断続的に絶頂に押し上げられ、それが止まる事がない。
止めどなく溢れる母乳と共に、止めどない快楽が強制的に与え続けられている。
美遊にとっては極楽と地獄が同時に与えられているに等しかった。
悪夢とはこういうものをいうのだろうか。そんな考えが美遊の頭を過る。
最も、悪夢というのならばこれはまだ結果的に始まりに過ぎなかったのだが。
「あ、ッ――ひッ♥」
快感に悶える美遊の意識が一瞬正気に戻る。
何故か。自分を取り囲んでいた触手の一つの先端が美遊のあるところに押し当てられたからだ。
「や、やめ、やだ、いや……それだけは、いやぁ……っ!!」
粘液によって既に殆どが溶解させられたレオタード。
隠すものがなくなったことによって露わになった、たていっぽんすじ。
まだ男を知る事のない無毛の女性器。
未だ触手に穢されていなかったそこに美遊の手首、足首よりも太い触手があてがわれている。
見た目だけで言えば到底、挿入る訳もないサイズだ。
無理矢理に押入れれば肉が裂け、快楽よりも前に激痛が走るだろう。
そもそも美遊の年齢からいって、そこはまだ異物を受け入れる準備が整っていない器官だ。
「おね、がい、やめて、そこはいや……っ、い、やぁぁっ……ひ、ぃぃッ♥♥」
だが、そんな事は関係ないとでもいうかのように触手は秘部への刺激を続ける。
触手の先端をブラシ状のいくつもの突起に変化させ、ごりごりと秘部をなぞる。
美遊の全身に回った媚毒と合わせても、異常な刺激だった。
肉体そのものと、脳が作り変えられている事も関係しているのだろうか。
未熟な陰核と、いっぽんすじを撫でるように、あるいは削るように刺激するそれは美遊の意識を狂わせていく。
「(たえ、たえなきゃ、たえ、たえっ、あへっ、あひっ、ひぃっ、いりやっ、いりやぁっ)」
脳裏に友人の姿を思い浮かべ、美遊は歯を食い縛る。
狂いそうな快感を耐える為の支えはひとえに友人たちの事だった。
自分がなんとかしなければならないという責任感と、厚い友情だけが美遊を奮い立たせる。
「あひッ♥ひーーっ♥ふーッッ♥ ……ほッ!? おお゙ッ!?♥おお゙ーーーーーッ!?!?!♥♥」
けれど現実と、美遊を責め立てる触手はそんな事を構いはしない。
秘部を刺激していた触手、その先端の突起が更に細かく分かれて美遊のナカに侵入する。
膣口からではない。
女性器の上部、尿道から。
非常に微細な触手が侵入していく。
放出する器官を遡り、美遊のナカを掻き回し、刺激する。
「あああぅッ♥ぅぅぅああッ♥はひーッ♥はひぃぃぃいいぃんッ♥♥」
えもしれぬ快感に、美遊はのたうち回る。
四肢が拘束されているため、正しくは身悶えなのだが、全身を反射と本能で動かしている。
拘束により快楽の逃げ場が与えられない事が、ことさら美遊を追い詰めていた。
「(しぬっ、しんあう♥♥しんじゃ、うっ♥♥うううッ♥♥)」
精神の限界が近付いている事を美遊は感じていた。
肉体よりも先に、心が壊れてしまいそうだった。
友人たちの安否を心配する前に、自分の心配をしなければいけない。
魔法少女として戦い、特殊な生まれを持つ美遊とて肉体そのものはただの少女だ。
一般的な女児よりあらゆる面で優れているとはいえ、大差は無い。
「(ぅーッ、ふーッ♥♥ふーッ……ぅぅぅぅ~~ッ……!!♥♥♥)」
イリヤ、イリヤ、イリヤ。
胸中で唯一無二の友人の名を繰り返し呼ぶ。
「(大丈夫、まだ耐えられる、まだっ……)」
それは幼稚な自己暗示だった。
だが、それでも美遊に後一歩を踏みとどまらせるには充分だった。
もう少し、後少し現状に耐える勇気を与えてくれて、
"――ず、ぷんっ"
「―――――――お゙♥」
それを踏みにじるように触手が動いた。
「―――――――♥ ♥ ? ♥ ぉ♥ ぁ? ♥ ♥」
美遊の視界は白と黒の明滅を繰り返す。
自分の状態が把握できていなかった、わかるのは全身を突き抜けた稲妻のような快感だけ。
"ぐりゅんっ、ずにゅっ、ぐちゅっ、ずぼっ、ぐぽっ"
「お゙♥」
"ぐっちゅっ、ぐちゅっ、ぐにゅっ"
「あひ♥」
"ずぼっ、ずぼっずぼっ――ばちゅんっ♥"
「んお゙ッ♥」
ねばついた、いやらしい水音が立つ。
音の出処は探るまでもない。美遊のまたぐらからだった。
膣口と肛門に触手がねじこまれ、前後に、時には円を描くように蠢いている。
ぐっぽぐっぽと空気が漏れる音も聞こえる、ひどく下品で最低な音楽だ。
それが自分から出ているという事が美遊には信じられない。
自分の身体を触手が貫いているという現実もそうだ。
いずれ好きな男性――ほんとうの兄のように思っている彼や、
あるいはいつかどこかの果てで出会うかもしれない相手に捧げる筈だった処女が、
何の感慨もなく生物なのか、そうでないのかも分からない触手に奪われたという非現実感。
全て夢だと思いこんでしまいたかったが、身体から生じる感覚は全てが現実だと示していた。
「お゙ぶっ゙♥」
"ぐりゅんっ♥"
少女のものとは思えない野太い悲鳴が漏れる。
美遊の声だった。
膣口から押し入った触手が、美遊の一番奥まで達したのだ。
そうして触手の先端を子宮口に押し付けている。
"ぐりぐり――ごりごり――ぐちゅぅっ"
「ひ……♥ む、り、むりぃ……そんなとこ、はいら、な――」
"ごちゅんっっっっ♥♥"
「 ぁ゙ ♥」
ぬめる触手はまるで液体のように自由自在に姿を変化させる。
本来入らない箇所――入ってはいけない箇所にぬるりと侵入り込む。
子宮口を通って、美遊の子宮へと。
"ごぷっ、ごぷっ……どぷっ……♥♥"
「あ゙♥ ぉ゙♥ ひぐッ、ひッ♥いッ♥ぎゅゥッ?♥お゙?♥ほ、おっほっ♥うひっ、あ、へっ??♥♥♥」
そうして小さな――未熟な子宮を先端で咥え込み、何かを注ぎ込む。
聞こえない、聞こえる筈もない注水音が美遊の頭の中に響いた。そうして理解させられる。
注がれているのだ。
触手の――精液に近い何かを。
どうしてそんな事をしているのかはわからない。
だが、何のためにそうしているか、美遊には本能的に理解できた。
この触手は今、自分を孕ませようとしている。
妊娠させようとしているのだ。
どういう仕組みか。
そういう身体に作り変えられたのか。
注がれれば注がれる程に美遊の腹はぷっくりと――子を孕んだように――膨れていく。
この触手は、そしてこの触手を操っている相手は自分に子供を産ませようとしている。
――そこまでを理解して、美遊の心は決壊した。
「い――やああああああああああ!!やだ!!やだ!!!やだああああああああ!!!!!」
発狂。
拘束された四肢を全力でばたつかせて、子供の様に頭を振るう。
心が、身体が穢されるのは耐えられたかもしれない。
現にこうして、頑張って、友達の事を思って、必死に耐えてきた。
頑張った方だ。
だが妊娠は――それだけは許容できない。
徹底的に穢されてしまう事もなにより。
自分の「家」の――自分の出自の事を思えば、許されざる事だ。
「敵」の目的はそこにあったのかもしれない。
考えてみれば「自分」を使うより余程確実だ。
そうでなくても魔術師として考えれば「胎盤」として自分は考えうる限り最高のものだろう。
理屈で理解はできる。
こうなること、こうされる事を考えなかったわけではない。
だが現実として襲いかかってきた時にそれに耐えきれるか、許容できるかは全く別の話だ。
かつての美遊ならば諦観の下に全てを受け入れたかもしれない。
だが美遊・エーデルフェルトはそうではない、そうはできない、そうしたくない。
故に持てる限りの力――少女の全力で抗う。
それでも触手が彼女の身体を離す事はない。
僅かに身体が揺れるだけだ、びくともすることはない。
「(舌っ、……! 舌を、噛み切って……っ!!)」
だから美遊・エーデルフェルトは躊躇いなく死を選んだ。
口を大きく開け、舌を出して一気に口を――
「おごぼッ!?ん゙ん゙ぐゥ゙ーーっ!!?!?!ん゙ーーーーっ!!!!!」
閉じられない。
口の中に触手を捩じ込まれたからだ。
今度のものは先のよりも大きく、口を最大限開いた状態で固定される。
呼吸は、――できる。
触手が無理矢理美遊に酸素を注いでいるのだ。
窒息死の自由すら、美遊には与えられない。
「ご゙♥お゙♥」
肛門に押し入った触手も、美遊を貫いていく。
窄んだ尻穴を大きく広げて――もう元のぴっちりと閉じた穴に戻りはしないだろう――
――直腸まで。直腸の腸壁を擦りながら更に上へ。
腸内の穴から異なる臓器へと。
文字通り美遊の全身を蹂躙する。
「あが♥ッ♥♥♥お♥♥♥ん♥♥おんッ♥♥♥♥っぴィ♥♥ぎ♥♥♥」
そうして信じられない事が起きる。
口に捩じ込まれた触手とは別に、美遊の口と鼻から触手が飛び出したのだ。
尻穴から侵入した触手が、臓器全てを逆上って、身体を貫いている。
本来ならこの時点で即死している筈だ。
あまりにも不衛生に過ぎる。
なにより、臓器の内壁を削られて生きていられる筈がない。
だが作り変えられた肉体はそれを許してはくれない。
どころか、その全てを快楽に変換せしめるのだ。
美遊は絶望を感じながらも、普通に生きていては感じられる事がないであろう快感に夢心地でいた。
瞳から流れるのは随喜の涙、口から漏れるのは歓喜の嬌声。
身体から吹き出すのは汗と母乳、またぐらと尻穴からはねばついた愛液と黄金水がだらだらと溢れている。
「ぉ――」
美遊の目からは、とうに光は消えていた。
平時の、凛々しさをたたえた冷静な表情は見る影もない。
屈辱と恥辱に負けて心折れた少女の姿がそこにはあった。
「ぅ、ぁ♥」
全身を支配する触手が波打つ。
美遊は本能的に理解する。
”トドメ”を刺そうとしているのだ。
心折れた自分を完膚なきまでに終わらせようとしている。
――脳裏に銀色の髪の少女の姿が思い浮かぶ。
「いり」
反射的にその名前を呼ぼうとした。
名前を呼べば、まだ立ち上がれると思ったのだ。
"――ごぷっ"
「ぁ」
だがついぞその名前が紡がれる事はなかった。
美遊の体の中の触手の表皮に小さな穴が開く。
”放出”の前兆だった。美遊の身体は期待と、絶望と共にそれを感じ取って――
"ごびゅうううううううううっっっ♥♥びゅるうるるるるるるっ♥♥♥ぼびゅっ、びゅるるるる~~~~っ……♥♥"
「~~~~~~~~~~~っ か は っ ♥」
体中の至る所から、桃色と白濁の混合液を吹き出させた。
体内に注がれ、到底受け入れる事ができなかった触手の分泌液だ。
妊娠させる作用があるということは、精液のようなものなのかもしれない。
それが全身を満たした上で溢れ出す。
胃も、腸も、空気を取り入れる為の肺も、血管も、脳も。
そうして膣口から、尿道から、肛門から、耳から、鼻から、臍から、口から溢れ出す。
美遊の体の中で触手とその分泌液に支配されていない箇所はもうなかった。
「ぁ」
"――ぐりゅんっ、ぼびゅうっ"
全身から触手が引き抜かれ、美遊は糸の切れた人形のように頭を垂れる。
穴という穴から液が垂れ流されていた。
「ぁ、へ」
美遊は頭を上げられなかった。
自身に迫る触手のうごめく音が聞こえるからだ。
それだけではない。
聞き慣れた人達の、聞き慣れていない声が聞こえてくる。
自分を保護してくれた人の絶望に慄く悲鳴。
褐色の肌の少女であろう、快楽に悶える嬌声。
唯一無二の親友の、堕ちきってしまった「もっと」と懇願する甘い声。
「あ、は、は……ぁ……」
――そうして、美遊は全てを諦めた。
地獄は、続く。
カレイドシリーズは嫌いじゃないですがイリヤはSNの方が好きです(二回目)。