どうして書いたのかは忘れました。
「それはとてもとても幸福な」
窓辺から空を、そこにある姿を眺める。
赤と青の翼、女神の様な美しさの女が二人で空を舞っている。
その翼も衣、炎の思わせる色合いだというに穏やかな気性の女と、氷を思わせる出で立ちと翼だというのに激しい気性の女。
魔王に創り出された魔人、ラ姉妹のハウゼルとサイゼル。
ゼス侵攻での敗走、ホーネット派の敗北、魔人戦争の開始、リーザスでの戦い。
紆余曲折を経て再会し和解もしたというのに今もまた些細な事で諍いを起こしている。
主人とその姉妹ではあるが暢気な物だと思ってしまう。
この大変な時期に呆れたものだ、とか。
一応捕虜という立場なのを分かっているんだろうか、とか。
敵軍の兵士に見られたらまた面倒くさい事になりそうだ、とか。
その姿を眺めながら色々は頭の中で言葉を巡らせているが――……。
「嫉妬してる?」
そこまで考えた所でふと隣から聞き慣れた声がして、振り向く。
一見して赤頭巾の様な印象を思い浮かばせるフード付きローブに裏腹したグロテスクな蜥蜴を思わせる仮面と、それにくぐもっていても可愛らしさを感じさせる少女の声。
それなりに長い時を一緒に過ごして漸く見慣れた同僚の姿だった。
「火炎ちゃんはちょっとだけ嫉妬してるかも、一緒に居る時間減っちゃったかな~とか」
「もちろんハウゼル様が幸せそうだからそれが一番いいんだけど……ユキちゃんはどうなのかな、って」
冗談混じりの言葉を聞いて少しだけ考えて首を横に振る。
羨望こそすれど嫉妬などしようもない、自分と妹君では立場が異なるし向ける感情も別の物だ。
彼女がそう思うのは自分と主人と、彼女とその主人とでは関係性が異なっているからだろう。
それを微笑ましく思う事はあっても羨ましくは無い。
だって。
「うーんユキちゃんはそういうの無い系かなー、キチガイだし?」
自分は愛情も友情も親愛も求めなてはいないし、例えば見捨てられたってどうとも思わないだろう。
今も空を飛び回りながら氷の結晶を振り散らしている騒がしい彼女が、ただ生きて幸福であれば良い。
それだけで、全て満たされている。
美しく舞う主人を見ながらこの胸に抱く感情は一つだけで、それは隣の彼女も同じだろう。
「そっか、ユキちゃんはユキちゃんだね」
「あれ今火炎ちゃんユキちゃんのことバカにした?お?喧嘩か?喧嘩すっか?」
「えぇ!?しないよ!?褒めたの!褒めたんだよぉ!」
全ては主人の為に。
自分達程幸せな使徒も、そういないだろう。