ぼくはふじのんがすきです。
「は?」
「うん、自分でもおかしな事を言ってるのは解ってるんだけど」
「は?」
「あの」
「は?」
「話しを」
「は?」
「……」
「は?」
伽藍の堂――とかつて呼ばれていた場所。
見掛けは廃ビル。
その実態も廃ビルである。
持ち主である人形遣いが街を去った後も、時折こうしてこの場を訪れる者が居た。
別段思い入れがある訳では無い。
立地的な理由などで休むのに都合が良いだけだ。
一人は、両儀式。
絶世のと付いて良いような黒髪の美女。
着物の上に紅のジャケットを羽織るという特徴的な出で立ちのまま最近ボロくなってきたソファに腰掛けている。
擦れ違えば多くのものがその容姿に目を惹かれるだろう。
見目の美しさも何よりだが、纏う雰囲気が多くの人と異なっていた。
ぶっきらぼうに思える振る舞いの中の立ち姿、歩き方に隠せない在る種の育ちの良さが感じられる。
もう一人は、黒桐幹也。式の対面のソファに腰掛けて困り顔をしている。
こちらは何処にでもいるような風体の、何処にでもあるような顔立ちの、何処にでもいるような黒髪の男。
強いて特徴を上げるのならば、服装が黒く、眼鏡を掛けている。
凡庸という言葉を人型にして眼鏡を掛けた様な特徴がないのが特徴と言っていい青年だった。
「…………」
「…………」
二人の関係は今更語るまでもないが、敢えて語るのなら恋人同士という形になる。
付き合いも長い。どのように表現するかは置くとして互いが互いを愛していると確信している。
夜の、「そういった行為」も済ませている。何度も。
甘い蜜月を過ごして来た。
表向きは。
主が離れて薄寂れた、といった印象の廃ビルに暗い――重たい雰囲気が立ち込めている。
表向きはと表現されたからには当然実際の所はそうでなかった、という事だ。
要するに、今二人の間にあるのは――性の問題である。
「一応最後にもう一度聞いてやる、誰が何でなんだって?」
「他の男に抱かれて欲しいんだ」
「は?」
「他の男に――」
「は?」
「式、話が進まないよ」
幹也の言葉に、式は大きく溜息を吐き出す。
何度聞いても現実は変わらなかった。
そういった兆候を式が感じ取らなかったと言えば嘘になる。
行為をしている最中、確かに通じ合っている筈なのに、ここ数日は何処か幹也が上の空になる時があった。
疲れているのかと思えばどうも違う。
だからこそ何か不満や文句でもあるのかと恥を忍んで問い質した。
まさかその結果この汎用な人間から凡庸は思えない捻じ狂った様な性癖が出てくるとは思わなかったが。
「(やっぱり鮮花の兄貴ってことか)」
式は、今日何度目かになるか解らない深い溜息をつく。
怒りを通り越して呆れになり、諦めまでついて目眩までしてきそうな気分だった。
「大体、なんでその……わざわざ、ソレなんだ」
「ソレって?」
「他の男にどう、とか」
「普通だよ?」
「そんな訳あるか!」
強めのの、ほぼ怒鳴っているような口調だったが式としては当然である。
どうして好きでもない男に抱かれなければいけないのだ、という疑問が先に立ってその後に怒りが来る。
”自分が他の男に抱かれてもいいのか?”というものだ。女性として当然はある。
相手が自分を愛していないのか、自分は愛されていないのか、こちらからの一方的な感情だったのか。
そんな考えが頭の中で堂々巡りを繰り返し不安になるのも、仕方ないといえる。
「まぁ、落ち着いて式。これは寝取られって言ってごく一般的な性癖の一つなんだ」
「一般なもんか、聞いたこと無い」
「式はそういうことに詳しくないだろう?」
「それは」
言葉を続けようとして――式は口を閉じる。否定しようのない事実ではあったからだ。
別に極端に性知識が少ない訳ではない……と、式は思っている。
が。実際の所どうかというと事実は事実だ。そういう行為に及んでいる以上最低限のものはある。
保健体育の授業で受けた一定の知識もある。
だがなんといえばいいか、そう、世の男の大半が持っていて男遊びに興じている女なら知っているような――
ディープな知識、というものとは到底無縁だ。
口淫ならともかく胸でだとか、足でだとか――幹也から聞くまでは存在を疑っていたし、
なんなら聞いて、多少実践してみた今も普通ではないと思っている。
「そもそも、そういうの……なんでわかったんだ、その……」
「寝取られ性癖の事かい?」
「……それだ。その……わかりようがないんじゃないか、普通」
悪びれた様子もなく聞き返す様子の幹也に、式が顔を顰めながらも問う。
平謝りしろ、というつもりもないが少しぐらいは申し訳なくしてもいいんじゃないか、と思いながら。
そうしてまた、返ってきた言葉が式の苛立ちを加速させる。
「AVを見たんだ」
「は?」
「いや、これには訳があって――良く行く本屋の成人向けコーナーに最近AV置き場が出来てね」
「そこで見つけたんだよ」
「何を」
「式に良く似てた、着物人妻寝取られ物のAVだよ、見た瞬間になんというか――率直に、ビビっと来たんだ」
「ビビッと」
「うん、中身を見て確信に変わったよ」
少しばかり興奮した様子の幹也が、そこで一拍置く。
そうしてたっぷりとためた後、意を決したように、言った。
「――これだ、と」
「僕は式が誰か、他の男に抱かれているのが見たい」
「いや、見れなくても良い、むしろ見ないほうがいい」
「他の男に抱かれているという事、抱かれた事実を知った上で
「実際に他の男に抱かれてもらってそして、その後の式の感想を聞きたい……」
「間男と比較されたい……!」
「――それが僕の性癖なんだと、……辿り着いたんだ」
……。
場を静寂が包んでいる。
痛いほどの沈黙だった。
当の発言者本人は、真剣な表情で拳を握り締めて式を――
他の男に抱かれて欲しい、などと真面目に請い願った伴侶を見つめている。
ここに至って冗談だ、と言ってくれるのを期待した式だがその様子は無い。
はぐらかすか、罵ってやろうか、そう考えながら幹也の顔を見て、
その表情を見て「はあ」と深くため息をついた。
そうして呆れ返り、若干苛立った様を隠しもせずに――
我ながらどうかしていると思いながらも言葉を告げる。
「一回だけだ」
「! 式!」
「ただし金輪際しないし、その後のお前の性癖なんて知らない、次同じ事を言ったら本当に殺すからな」
「ありがとう、式、本当にありがとう」
「うるさい、こんな事で礼なんて――言われる方が腹が立つ」
ちっ、と小さく舌打ちをして自分の手を取った幹也を振り払う。
それで、と不機嫌に言葉を続けた。
「誰に抱かれれば良いんだ、言っておくが俺はそんな知り合いなんていないぞ」
「うん、僕も居ないよ。だから――探しに行こう」
「……は?」
――
―――
――――
行き交う人。
華やかな街灯、電光看板。
アルコールの匂い。
街の明かりに照らされた街路時計の針は十二時を回っている。
行き交うのは育ちや柄の悪そうな男女や、浮かれた様子のサラリーマン達。
時間帯もあってがやがやとした品が良いとは言えない喧騒が満ちている。
そんな夜式と幹也は隣り合って夜の繁華街を歩いていた。
ホテル街もあるが、肝心の相手が見つかっていない。
では何の為に街に来たのか。
「お前、本当にどこかに頭とかぶつけてないだろうな」
「そんな顔しなくなって僕は正気だよ、式」
「正気のヤツが自分の女を抱かせる男を探すか?」
「探すと思うよ、そういう性癖なら」
幹也の返答に、式は肩を落として視線を外す。
――やり取りの通り。
「探しに行こう」との言葉の通り。
幹也と式は街に繰り出し間男――この場合は間男「役」を探しに来たのだ。
勿論その辺の男ではダメだ、と幹也は言う。
自分が、式を奪われて屈辱だと思う様な相手でなくてはいけない。
寝取らせの醍醐味は敗北感だ。
社会的地位や容姿、財力で劣る相手に女を奪われるという敗北感と屈辱が興奮を煽る。
想像するだけでも堪らなくなる――と幹也は熱く語っているものの式には全く理解できなかった。
「……あそこのオッサンは?」
「ダメだね、小綺麗だし上品な感じがする、スーツの仕立ても良いし」
「まともそうじゃないか」
「まともじゃダメなんだよ、それはそれでいいのかもしれないけど今回はそういうのじゃない」
「訳がわからないぞお前、どういうのがいいんだ」
「そうだな……あの人みたいなのはどうかな」
そういって幹也が指差したのは、呼び込みの女に連れられて建物――風俗店に入っていく小汚い男だ。
背は低く、腹周りはでっぷりと膨れ上がっている。お世辞にも顔が整っているとも言えない。
髪は都会のカラスの様に黒く薄汚れており肌は遠目でも脂ぎっているのが見て分かる。
なにより遠巻きにも分かる匂いがキツい。
つんと鼻をつくような雄臭が離れていてもわかった。
人生の落伍者、底辺の人間とは恐らくこういうのを指すだろう――といった感じの風体だ。
「ぜっっっっっったい嫌だ」
「そんなに?」
「あれに抱かれるぐらいならお前を殺して俺も死んでやる」
「そんなに?」
「そんなにだ――別れるまで考えた、汚いのは嫌だ、年上過ぎるのも嫌だ、ああいう脂ぎったのはもっと嫌だ」
「それは……ダメだね」
困ったような顔をして一瞬だけ考えて、幹也はそう言う。
どこかズレたような反応に式は大きく溜息をついたあと、視線を彷徨わせる。
人、人、灯、人、明、人、人、人――ふとそんな中の暗闇に目が止まった。
「どうかした?」
「ん、ああ――別に、ただ目が止まっただけだ」
幹也に何かあったのか、と問われれば式は言葉にせずに指を指した。
薄暗い路地裏に小さなタバコの光が見える。
なんてことはない、不良達が屯しているだけだ。
数は3人。どれもそこまで年齢が上な様子も無く、むしろ年若い。
見た目の雰囲気としては式達より少し下程度だろうか。
そうするとタバコを吸っているのは法に反する事になるのだが、この繁華街にそんな事を咎める者は多くない。
見回りの警官達程度だろうが、そんなものが近くにいる気配もなかった。
「学生……高校生かな?」
「さあ、どうだろうな、……どうでもいいだろ、行くぞ」
「ああ、――うん」
幹也はちら、と屯する不良達に目を向ける。
脂ぎってもいない。
年上過ぎてもいない。
汚くも――まぁ、ないだろう。
…
……
………
一度、廃ビルに戻って。
なんとはなしに二人揃ってソファにかけていた。
「あの子達にしようと思うんだ」
「……それって、さっきの悪ガキ達の事か?」
「うん、汚くもないし、年上でもないし、脂ぎってもいないと思うんだ、それに――」
「それに?」
「僕よりは、まあ下かなって」
「…………お前」
「だからこそ、式にはあの子達――彼等に抱かれて来て欲しいんだ。勿論見せろなんて言わないよ、彼等に迷惑を掛けるかもしれないし――
そうだな、うん、式が抱かれて、返ってきて、どういう風に抱かれたのかを僕に聞かせてくれるだけでいいんだ、いやむしろそれがいい、そうして欲しい
一晩じっくりあの子達の誰か――いや、全員でもいいな、とにかく抱かれて来て、どうだったか感想を聞きたい、聞きながらしてもいいし――」
「わかった、わかったから……もう黙れ」
「!式、今わかったって」
「わかったからっ!」
「あ痛」
ばすん、と音を立ててクッションが幹也の顔にめり込む。
堪らず式が投げつけたものだった――全力で。
眼鏡がズレて顔からずり落ちていく様が間抜けだ。
ずり落ちたそれを拾って、布でレンズを拭いた幹也がそれを掛け直す。
「あいつらに抱かれてくればいいんだろ、あの……不良の、どれでも」
「うん、――ありがとう式」
「うるさい、二度と礼なんて言うな」
「はは、解ったよ、あ、それでなんだけど抱かれに行く時は――」
「まだ注文つける気か、お前……!?」
「それは、だって、今回一回だけなんだろう?だったら、一回で出来る限りのことをやっておいてもらわないと」
「……お前本当に、どこかに頭ぶつけたりとかしてないだろうな?」
「? どうして?」
「……いや、良い、なんでもない――はあ……聞くだけ聞いてやる、さっさと言えよ」
「うん、それじゃあ――あ、待って、メモにして渡しておくから」
「…………はあああ」
式は、何度目かになるかわからない深い溜息をついた。
…
……
………
翌日。
夜。
前日と同じ繁華街を、式は一人で訪れていた。
服装はいつもの出で立ちだが、ジャケットを羽織っていない。
完全な和装で、加えて着物の色が平時とは違う。
普段は青色が多いが、今日は白に近い薄桃色だ。
勿論式のお付き――執事――のような壮年が見繕ったオートクチュールのものだ。
見るものが見れば直ぐにそれとわかるだろう。
最も、この時間帯の繁華街を行き交うような者達が判るかどうかと言われれば甚だ疑問にはなるが。
――とはいえ、それを美女と言って相違ない式が身に纏って歩いているのだ。
当然人の目は惹く。
式はちっ、と鬱陶しげに小さく舌打ちをして歩みを早めた。
目的地は決まっている。
人をすり抜け繁華街の奥、眩い灯の中から仄暗い方へ。
そうして視線を彷徨わせれば――居た。
昨日の不良少年――青年?
どちらでもいいが、ガラの悪い、頭の出来も悪そうな男達が路地裏の半ばで座り込んで屯している。
手元にはタバコ。銘柄など知らないが嫌いな匂いだった。
「おい、お前等」
「あ?なんだよ……うお」
「すっげぇ美人じゃん、着物高そうだし」
「和服?着物?なんでそんな着てんのオネーサン」
「……服は別に普通だろ、いや、――そんな事いいんだ、どうでも」
見た目通りの軽薄な連中だな、というのが式の感想だった。
ただ、見た目よりガラは悪くない――というか子供だと感じた。
制服は着ていないが、高校生ぐらいだろうか?
大学生といった感じはしなかった。
見た目のガラの悪さと比べて幼い印象だ。
「それよりお前等、今暇か」
「え、ナニナニもしかして逆ナン?」
「暇かどうかって聞いてるんだ、暇なのか?そうじゃないのか、そうじゃないなら他を当たる」
「待って待って、めっちゃ暇、なに、何の用よ」
不良たちの反応に、式は内心で舌打ちする。
むしろ忙しくあって欲しかったと思うのは今更だろうか。
「じゃあ、行くぞ」
「ちょいオネーサン、行くってドコによ、飯?カラオケ?あ、ボーリングも良いネ」
「俺等良い店知ってんだよね~~ダーツとかもやれるトコ」
不良男の一人が軽薄な様子で指揮に近付いて肩に手を回す。
式はうっとうしそうにした後その腕を払う――事はしなかった。
幹也に事前に言われたからだ
「男に求められた事は全部やって欲しい」
「それを余すこと無く覚えていて、返ってきたら伝えて欲しい」
「――出来る限り詳細に」
「それと、勿論相手を怪我させたり強く抵抗することも極力無しで」
「例えば……式の命の危険があるとか、そういう事は除いて、だね」
「いいかい、絶対約束、守ってくれよ」
……と。
むちゃくちゃを言われたものだと思う、どうかしている。
――もっとどうかしているのは、一回だけなんて理由を付けてもそれに従っている自分だ。
二人揃って、頭の病院に行ったほうがいいかもしれない。
この場合だとこころの病院というのに行った方が良いのだろうか?
どちらも調べれば出てくるだろうし、ツテを辿れば知っている相手もいるかもしれない。
「(……現実逃避みたいに考えを巡らせててもダメだな)」
式は小さく頭を振って、頭の中の雑音を振り払う。
ここまで来てしまった以上、やらなければいけないのだ。
「――そういうのは、いい」
「あれ?遊びじゃない感じ?あ、買い物とか?」
「そういうのでもない、……だから……」
眼を閉じて集中して、意識を切り替え/スイッチする。
馴れ馴れしく肩に回された手に触れて――頭の中でお前が悪いんだ、と繰り返し呟いて――眼を開く。
「――ホテルでいいだろ、お前達もそっちがしたいんだろうし」
仄かに光って淡く揺れる瞳で男達を見上げる。
この世のものとは思えない美しさに、男達がごくりと喉を鳴らした。
…
……
………
所変わって。
ここは繁華街のホテル。
安宿ではない。式が金を出したからだ。
抱かれるなり、そういう行為をするならせめて場所ぐらいはまともな所が良い。
幹也に聞き入れられた式の希望だ。
「うわすっげー、お姉さん金持ち?」
「バリバリのキャリウーとか?ヤッベー」
部屋を見回す男達を他所に、式はベッドに腰掛ける。
そこそこ上質なものなのだろう、座り込むと形の良いヒップのかたちに音もなく沈んだ。
こちらの事を興味津々に聞いてくる様子の男達相手に、式はひらひらと手を振って返す。
「俺のことなんて、どうでもいいだろ、するだけだ」
「いやいやいや、よくないって、ヤるのに名前も知らないとか萎えんじゃん」
「そーそー、お姉さん名前はなんてーの?」
「……式」
「式さんね、俺等は――」
「別に良い、こっちはお前等のことを知らなくったって困りやしない」
「うっわークール」
「へへへ、マジでセックスするだけの相手探してんだな、ド淫乱過ぎるっしょ」
ちっ、と小さく式は舌打ちをする。
やはり違う相手にするべきだった――いや、誰でも同じかと思い直す。
もう少しまともな男を指定したらしたで、幹也がうるさく言い出しそうだ。
やる、といった以上、もう自分はこの男達を受け入れる他無いのだ。
「(だったらもう、手っ取り早く終わらせよう)……もう、それでいいから、早くしろ」
「へっへ、じゃあ遠慮なく――」
「――んっ」
肩に手を回していた男が、式を抱き寄せてその唇を奪う。
乾いた感触が気持ち悪い、というのが正直な式の感想だった。
男の方は違う。
極上の、そのへんにいるような女とは違うぷるんとして瑞々しい式の唇の感触に頬を緩め顔をにやけさせる。
「んっ……」
思ったより、口臭は酷くなかった。
見た目よりはケアをしているらしい、ガムかなにかの安っぽいミントの香りがする。
かさついた唇の感触は不愉快だったが、匂いはまだ我慢できた。
「ん、んん」
触れ合うだけのキスを暫く続けていれば、男の方から唇を割って舌を口内に侵入させてくる。
まだ見ているだけの二人の男から揶揄するような声を飛ばし、ヒュウと唇を鳴らす。
「ん、は……んっ……」
うごめく舌の感覚に反射的に男を拒絶しそうになり――理性でそれを抑える。
自然と手を置いていたベッドのシーツを握り締めて、耐える。
今晩だけ、今晩だけの事と自分自身に式は言い聞かせた。
今晩限りで二度と会うことも無い相手だ。
「(それに、こんな奴等で感じるもんか)
交合――セックスというのは気持ちを通わせる部分が多分にある、と式は考えている。
少なくとも強く性感を求めるようなものではない。
実際幹也としている時にそこまで感じた事はなかった。
友人――と言っていいのかは分からないが――が、言うには交合、セックスは精神的な充足だけでなく肉体的な充足感も得られる、
……という話しではあるが、精神的にはともかく肉体的な充足を感じたことはあまりない。
幹也が下手なだけかもしれないと思って自分で慰めてみたが結果はあまり変わらなかった。
――それに精神的充足が得られれば、それで充分だと思っている。
「ん……っ、ぷは……」
「うっわ糸引いてる、式ちゃんヤラシー♪」
「言ってろ、いいからさっさと進めてくれ」
「ノリノリだね~~、んじゃ遠慮なくっ」
「っ……」
「おっほノーブラじゃん、エッロ」
その価値すらまともに知らず男が無遠慮に着物の襟を掴んで大きく開けさせる。
下着の着けられていない、小振りだが慎まやかに主張するなだらかな双丘がぷるんと露わになる。
ざらざらと乾燥した手が胸を鷲掴みにすると、小さく痛みが走った。
気持ちよくもなんともない感覚に、顔を顰めそうになるのを我慢して耐える。
「あれ、あんま気持ちよくない?どんな淫乱かと思ったら全然未開発な感じ?」
「……胸揉まれたぐらいで気持ちよくなる訳ないだろ」
「いやいやいや、胸だけでも全然感じられる女は感じられるし、開発足りねーだけじゃん?俺が開発してやるよ」
「おい、時間掛けてねーで早く回せよ」
「まあ見てろって、トロットロにほぐしてから回してやっから♥」
「おい、いいからさっさと……っ、ん……っ……!?」
手早く行為を終えて切り上げようと抗議しようとする式の声が、男の唇によって遮られる。
再び唇が重ねられ、胸への愛撫が再開された。
――最初の、痛いだけのものとは違う。
式の身体を勞るような優しい――いやらしい手つきだった。
なだらかな双弓の片側が男の手によってぐにぐにと形を変えられていく。
痛く、――無い。
繊細な手付きだった。
式の知るよしはないが明らかに女遊びに「手慣れて」いる者の手だ。
「んっ……く、……ふっ……しつっ……こいぞっ……んァ……っ」
次第に、式の息が荒くなっていく。
吐息には熱が混じり、言葉は途切れ途切れに。
顔は熱を帯びて頬は紅潮している。
その胸中とは裏腹に、式の身体は肉欲の充実を感じている。
有り体に言ってしまえば――幹也は閨事が下手だった。
式以外に女性の経験が無いという事もある。
なによりもその性癖が問題だった。
自分で女を抱くことに集中できず、おざなりになっていたのだ。
当然、それで他に男の経験が無い式が十全に肉の快楽を感じられる筈も無い。
逆に――式の身体は別段感じにくいだとか、性快が未熟だとか。
そういった事は一切無い。むしろ鍛えられ引き締まったその身体は充分な……
セックスをして快楽を得るのに充分な下地が出来上がっている。
それを、でくのぼうの幹也相手ならばともかく、女遊びに慣れた男の手で弄ばれれば――
「んッッ、ふ、ぅぅ……ッッ……!?♥」
「お、イった?」
これまでに式が、幹也とのセックスの中で感じたことの無い感覚――絶頂に、簡単に達する。
口をへの字に結んで必死に声を抑えようとして身震いをする様はどうしようもなく淫らだった。
女を知らぬ童貞であれば見るだけで生唾を飲む美しさだ。
「は、っ、は……っ、……なん、これ……」
「何?式ちゃん胸でイった事無かったの?やっべ、初体験奪っちゃったじゃんw」
「ち、が……アイツとシてるときと全然っ……」
「お、アイツって誰?彼氏?何式ちゃん彼氏いんのに浮気してんの?」
「ちがっ――……っ、関係ないだろっ……!む、胸はもういい――あっ!」
誂うような言葉に、余裕無く返答して男を振り払おうとした式が逆にベッドに押し倒される。
普段の彼女を知るものからは想像も付かぬような弱々しい姿だった。
絶頂の余韻で、身体が弛緩している。
大きく胸元が開けた着物がベッドに広がる。
その姿はまるで――というよりそのものに近しいのだが――これから男に捧げられる生娘のようだった。
「いいわけないじゃんw開発しがいありそうな身体だしたっぷり開発してやるよw」
「あーもう我慢できねぇ、俺にもやらせてくれよ」
「お、この部屋オモチャ置いてあんぜ、折角だし使おうぜw」
「……っっ……」
男達がにじりよる姿を見て、式はごくりと唾を飲み込んだ。
――その胸の内は「やっぱり断れば良かった」という言葉で埋まっている。
とはいえ、最早手遅れであることは、言うまでもない。
…
…
…
「んッ♥ふッ♥――は、ぁ……ッッ……!♥♥」
ベッドの上。
男達に群がられ着物を淫らに乱れさせた式が身体を跳ねさせる。
男達数度目の絶頂。
唇、胸、うなじ、腹から秘部にかけて。
極上の肉体は男達にたっぷりと貪られていた。
ほぼ未開発だった身体は丹念に時間を掛けてほぐされ、時計の針は既に頂点を回っている。
「お、またイった?どーよ式ちゃん、俺等のテク」
「っ……はーっ、はっ……う、るさいっ……♥」
顔を腕で覆って、式は必死に悪態をつく。
声は上擦り、身体は断続的に跳ねている。
顔を隠しているのはせめてもの抵抗だった。
「ほーら顔隠すなってw……うっわ~トロ顔じゃんww」
「……っ~~……!」
だが、腕を掴まれて無理矢理に引っ張られて顔が露わにされる。
瞳は潤んで蕩けて目尻は垂れ、口の端からは涎が垂れて瞳は蕩けきっていた。
今まで――幹也との睦み合いの中で得ることのなかった強い快感に式は完全に翻弄され、狂わされていた。
「(こんなの、知らないっ、なんだこれ……っ)」
「式ちゃん寝てんなってホラ、起きて起きて」
「ん、あ、ぁ……」
「着物も脱がしちまおうぜ、高そうだし、ベンショーとかできねーしよ」
「だな、はーい式ちゃん腕あげてー」
「や、あ、ぬがす、なぁ……っ」
「どっちみち脱がなきゃ続きできねーっしょwwww」
力の抜けた身体を男達に無理矢理起こされる。
開けた着物が乱雑に剥ぎ取られて、白い肌が、淡桃の乳頭が男達の視線に曝された。
絶頂の余韻、快楽によって発情し汗ばんだ身体は艶かしく色っぽい。
「ほら、自分だけ気持ちよくなってちゃダメっしょ式ちゃん、こっちこっち」
「テメーまた抜け駆けかよ」
「良いだろ別に、順番だって。 ホラ式ちゃん、こっち」
「んあ……っ、わ、かった、から……っ……!?」
「お、何?カレシのよりデカかった?」
朦朧とした頭で、男達の言葉に無意識に従い声の方を向く。
そこには眼の前に差し出された陰茎。
「(アイツの、より……)」
普段見ているもの――幹也のものと比べて一回り以上太く、ごつごつしていて、長い。
カリも太く淫水焼けでてらてらと黒光りしている。
怒張したそれは正しく女泣かせと言っていいものだった。
「俺のちんこに見惚れちゃった?鳴き声もだし、マジ見た目と比べてめっちゃかわいい系じゃん式ちゃんw」
「ち、ちが……別に、こんな程度……っ」
「いいからいいから、ホラ触ってよ」
「う、……ん……っ……うわ……硬、アイツのと全然、違……」
「めっちゃ比べてんじゃんウケるwwwwほら、手コキぐらい知ってっしょ?」
「ん……っ」
男に手を取られるまま、式はギンギンに張り詰めた陰茎を握る。
そのまま白魚の様な指を絡めて幹也にたまにやっているように上下に、前後にしごく。
絶世の美女の、とはいえ単調な動きだ。女に慣れた男を満足させるような技巧はない。
「ただ動かすだけじゃなくってさ=、もっと指の強弱とかつけてみてよ」
「そ、んな事言われても……こ、うか……?」
「あ~wwそうそう、上手いじゃん式ちゃんw」
「っ……♥」
男の手が式の頭に伸びて、髪を梳かすように撫でる。
艶のある、手入れの行き届いた美しい黒髪。こんな男に触らせるために手入れしているのではない。
幹也にだって易易とは触れさせてやらないそれを今、男に触れられるだけでゾクゾクとした感覚があった。
「んじゃ次はフェラしてよフェラ、手だけじゃイケねーしw」
「っ……や、やっぱり、しないと、ダメか」
「当たり前じゃんwwえ、式ちゃんした事ないの?w」
「したことはっ……あるけど……」
「カレシのと比べてデカいからビビってる?w大丈夫だって、ペロペロ~ってするだけだからww」
「わかっ……た」
「そうそうwさきっぽにキスしたり、舌で舐めたりwあ~~上手上手ww」
男に言われるがまま。
目の前に差し出されたそれに顔を近付け舌を伸ばして、触れる。
指示されたようにおずおずと先端をなめるように。
恐る恐るながらも繰り返し、口付けをするように男に奉仕する。
「は、は……っ、はぁ……っ」
奉仕をする度に男に褒められ、先を促され、それは次第にエスカレートしていく。
幹を、下から上へ。裏筋を舐るように。
次第に式の吐息は、うっとりとしたものに変わっていく。
幹也のものとは違う、強い雄を主張する陰茎に魅了されていく。
女としての本能が目の前の――品性や人としての質は、幹也より劣るであろう、
愛情も抱いていない筈の男に心を絡め取られていく。
「あ~~いいねwんじゃ次は咥えてみよっかw」
「ん……わかっ、た……♥」
「お、素直www」
一々気に障っていた筈の男の言葉も声も、今は逆でもっと聞きたいとさえ思う程だ。
こんなに自分は浅ましかっただろうか、と式の僅かな理性がそう呼び掛けて来る。
だが目の前の雄を見て、その言葉は直ぐに脳裏から消え去っていく。
――唇を大きく開けて、先端を咥え込む。グロテスクな感触と僅かなアンモニアの匂い。
幹也の時には不快なだけだった筈のそれが今は気にならない。
「んっ……ちゅ、ぶっ……ぢゅっ――んっ……」
「そうそう、そのまま頭動かしてw」
「はっ、はっ……んぅっ、ぶゅ……っ♥ちゅっっ……じゅぶっ、じゅっ……♥」
言葉と、本能に突き動かされるように言われるがまま頭を動かす。
唇を窄めた表情は式が本来持っていた上品を失わせた下品なものになっている。
自身の頭を撫でる男の手を受け入れて、陶酔したように。
誰がどう見ても愛おしげな表情を浮かべ、奉仕を続けて、そして――
「おっ、射精るっwwっwww」
「んっ……!! ぶっ、ん、っぶぅ……ぅぅぅ……っ!!♥♥」
どくん、どくん。どくん。
式の頭を両手で強く抑え込んだ男が口内に精液を解き放つ。
濃さも、量も、幹也のものとは比較にならない。精液を受け止めながら式はそんな風に考えてしまう。
比べるべきではないと理性は訴えているのに本能がそれを許してくれない。
――この男達の方がよっぽど逞しくて、男性的で――「雄」だ。
式の中の「雌」が。「オンナ」がそう繰り返し囁いて来る。
じゅんっ、と身体が火照り疼くのを感じてしまっていた。
「っ……ぶっ、うー……」
「ふぅ、射精したァ~~……、あ、式ちゃんまだ飲んじゃダメねw」
「口ん中でベロでかきまぜるとこ見せてよwwホラ早くww」
「ん……ぅ……あ゙ーー……っ、ぐじゅつ、っ、んじゅ……ぢゅっ……」
言われるがまま、従うがままに。
口を大きく開けて口内を満たす白濁を見せつけて。
一度口を閉じて、ゆすぐように、舌でぐじゅぐじゅと音が立つようにかき混ぜる。
「ぁー……ぇ、あ……っ……♥」
「うは、マジでやってるwwwwエッロwwww式ちゃんエッロwwwww」
「もう絶対キスしたくねーなw」
「でもいいよーエロいよー、んじゃ飲んじゃって、あ、写真撮るわw」
そうして、大きく口を開けて口の中を見せつける。
精液で濯がれ、穢されきった口内。男達のものとして侵略、陵辱された証。
あまつさえその様をカメラで撮影されている。
背徳の快楽が背筋を駆け抜けて行き、式は細い身体を身震いさせる。
――取り返しの付かない段階に踏み込んでしまっている。
式にとって恐ろしいのは自分自身が完全にそれを受け入れてしまっているということだ。
火照りきった身体が、「次」を。
この続きを期待してしまっている。
「は、あ……っ……はあ……っ♥……っ、な、あ……続きは……しない、のか……っ?♥」
「お、やる気じゃんwww式ちゃんもノってきた?w」
「おい、次は譲れよな、俺の番だぜ」
「あー?ま、しょうがねぇな、良いぜww俺は見てるわwww」
「んじゃ順番待ってる間に俺カメラ持ってくるわw」
犬の様に舌を出し続きを乞う式を、男達が取り囲む。
はあ、と式の喉から熱い吐息が漏れる。
――そうして、式は自分を押し倒す男に身を任せた。
…
…
…
『あっあっ!あ、はっ♥は、ああっ♥ああっ♥あーーっ!!♥♥』
『オラ、イけイけっ!休んでんじゃねぇぞ!オラ!!』
『は、あああっ♥イ、イくっ!私、イくぅっ、イくの、やああああっっ!!♥♥』
『いつの間にか俺じゃなくて私になってんじゃん、ウケんなwwwほら、こっちもしゃぶれ!』
『んんっ♥んぶぅぅぅっ♥んっ、は、いっ♥じゅぼっ、じゅぶぅぅっ♥んじゅっっ♥♥』
『式ちゃーん、こっちもしゃぶってーww』
『んっ♥は、っ、いっ♥ちゅっ♥んじゅっ♥じゅぅぅっ♥んぶっあぶっっっ♥』
ビデオに繋がれたテレビに映像が出力されている。
映し出されているのは三人の男に嬲られる美女の、式の姿だ。
一人の男の上に跨り腰を振り乱しながら両手に陰茎を握り、口での奉仕を喜んで自ら行っている。
騎乗位の体勢だった。
幹也とした事など無い。「冗談じゃない」「馬鹿じゃないか」と式に断られたと幹也は覚えている。
そんな式が白い肌を、美しい黒髪を精液で染め上げられている。
口元や髪、接合部から垂れる精液から既に何度も精を受け止めている事がわかる。
何処までも淫靡な姿。幹也が見たこともない式の姿がそこにあった。
『あッ♥イッ!♥イキ、ますっ♥ァあッ!♥いくいくいくいくいくぅぅぅ~~~~っっっ♥♥♥♥』
『いいぞ、イケ!イっちまえ!おおお、出すぞっ、おおおおおおっっ!!』
『ぐっっ、俺も出すぞっ!』
『ぶっかけてやる、ううううっ!!』
『あああああああああ~~~~~~~~~~~っっっっ♥♥♥♥♥♥』
頭の悪そうな男達に嬲られ、映像の中の式が背を反らして絶頂に達する。
男達もほぼ同時に絶頂に達した。
白濁が手を、顔を汚す。どくんどくんと音が聞こえてきそうな勢いで精液が式の膣内に吐き出されていく。
ゴムを付けている様子はなかった。当然の様に膣内射精だ。
『ああぁ……はぁ……ぁ、ぁぁ……っ♥私、こんな、はしたな……っ♥』
『式ちゃん、そっちの口調のが可愛いねww俺等とヤってる時はずっとそっちで話してよww』
『ぁ……は、ぃ……っ♥』
『んじゃ交代ねーww次は俺がマンコ使うわwもちろん中出ししてやっからw嬉しいっしょww』
『ん……っ♥はい、嬉しい、です……もっと、中出ししてください……♥』
『うーわ素直でエロいしかわいいし最高wwwこのビデオカレシにも見せてやんなよ?www』
『わかり、ましたぁ……だから、もっと……シてください……♥』
『オッケーオッケーwwwwセフレにしてやるから安心しろってwwww』
『あ、ぁぁ……っ♥あっ、あっ、あぁぁぁ……っっ♥♥』
男達の要求の全てを受け入れ、媚びる様な顔で式が行為の続きをねだる。
そこには、幹也の知っている式の。
自分のオンナの姿は無かった。
――ぴっ、と。リモコンが操作されて映像が止まる。
場所はいつもの廃ビルで、幹也と式のいつもの二人の姿がそこにあった。
「……この後も結構続くけど、続き見るか?」
リモコンを操作したのは式だ。その顔は紅く染まっている。
自分の痴態を見られているのだ、そうもなる。
対する幹也と言えば、テレビに釘付けになって固まっていた。
反省――したのだろうか、と式は思う。自分の女が実際に寝取られる姿を見て少しは堪えたのだろうか、と。
幹也の視線が、ゆっくりと式へ向けられる。
「――この後……彼等とは?」
「……連絡先は交換した、でもこっちからは連絡してない」
「式は、……どうだった?正直に聞かせてほしいんだ、正直な感想を」
「僕より気持ちよかったのか、彼等とのセックスはどうだったのか、また――したいのか」
幹也の眼は、蘭蘭と輝いていた。
陰茎はズボンの上からでも判るほどギンギンに張り詰めて興奮しているのがわかる。
けれど、それは式をなぶった男達と比べて見るとあまりにも粗末なものだ。
だから反省の様子がない自身の伴侶に呆れ気味に、式は乞われるがまま正直に答えた。
「お前とするより、気持ちよかった」
「今までした事ない事とか、された事ない事をされて……」
「訳わかんないぐらいにイかされて、言わされて」
「……またしたくないって言えば、嘘だな」
式の言葉に、幹也は「そっか」とだけ答える。
場を少しの沈黙が支配した後に言葉が続く。
「続き、見ようか……次は、道具とかも使ってもらってるのが、見たいかな」
「――――そうかよ」
ぴっ。
音を立てて映像の続きが再生され始め、ビルの中に式の喘ぎ声が響く。
この後、式がどうしたか、幹也がどうしたかは語るまでもないことだった。
ちんぽにゃ。