型月作品書いた時だけPixivのランキングとか載るんですけど
キレそう。
……
………
「――ああっ♥はあっ♥あっ、ああっ♥はぁ♥ああああーーっ♥♥!!」
「おっほwww式ちゃんまたイってんじゃんウケるwwwwっw」
「あ、ああ♥ぐっ♥いッ――って、な、あ、あ、あああああああ!!!♥♥」
がくん、がくん、がくん。
寝バックの体勢で男に後ろから組み敷かれた式が悶え喘ぐ。
ベッドはどちらのものかもわからない汗と淫汁で大洪水を起こしている。
どちゅんっ♥どちゅんっ♥どちゅんっ♥ぱんっ♥ぱんっ♥ぱんっっっ♥♥
「ほ、おおおおおおおおおおおおっ!!!お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っ!!!♥♥♥」
「オラッ逃げてんじゃねぇッ!!w膣内射精でイっちまえッ!ww」
「い゙ぎっ!!?!?!?!♥♥♥~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
絶叫にも近いアクメ声を上げて式が背を反ら――そうとして上から抑えつけられる。
逃げ場の無くなった式は悲鳴を上げて枕に突っ伏して絶頂する。
――ずるぅ……っ、ぐ、ぽんっ♥ぷ、びっ♥びゅるっ♥
淫汁塗れのペニスが膣から引き抜かれ、精液と空気が逆流して下品な音を立てる。
男に押し潰されていた式の身体はビクンビクンと震えていた。
「っはぁ~~www射精した射精したァ~www今日も良いマンコだったぜ、式ちゃんwww」
「は、あ……あ、ああ……っ♥……そう、かよ……っ♥」
息も絶え絶えに返事をする式。
必死で呼吸を整え、正気を取り戻して行く程に羞恥と屈辱と、それ以外のもので頭がぐちゃぐちゃになるようだった。
――あれから数日、数週間、あるいは数月が経った。
”今回限り”と宣言した筈の男達との関係は続いており、今日もまた式はホテルで男に抱かれた。
幹也とする時の、甘ったるく退屈なセックスの比ではない暴力的な快感を押し付けられ、
メスとして、オスに屈服する喜びを身体に刻み込まれる日々。
「ああ、今回もちゃんと動画は彼氏クンに渡してやっから心配すんなよwwwwたっぷり見せてやんなww」
それもこれも、幹也があれ以降も何度も、何度も、似たような事を頼んでくるからだ。
だから決して自分の意思ではない――と。
式はそう考えていた。
「つーかさぁwww式ちゃんもほんと物好きだよなwwwwいい加減別れちまったら?そんなやべー性癖の男www」
「う、るさい……っ、お前に、関係……ない……っ」
全ては好きな男が願っているから。
男の言葉を聞きながら必死にそれだけだ、と。
熱に浮かされて蕩けきった頭で、ほんの僅かな理性を保ちながら自分自身にそう言い聞かせる。
「(そう、……私――俺……私は、別に……っ)」
「生意気な口ききやがってwwwwもうちょっと犯してやらねぇと立場わかんねえかなwwww」
「あ……や……!?ぁ……ああああ……~~~~……っ!!♥♥」
うつ伏せになっていた身体を引き起こされ、脚を大きく開いた姿勢で無理やり組み敷かれ。
暴力的な快感に翻弄されながら。
必死に、式は自分に言い聞かせ続けていた。
…
……
………
「そろそろさ、マンネリじゃないかと思うんだよ」
「…………は?」
「いや、ほら、最近同じ相手ばっかりじゃないか、例の……不良くん達の」
「は?」
「だからそろそろ違う相手でも良いんじゃないかって――」
「は ?」
「顔が怖いよ、式」
幹也の家。狭い部屋。
事を終えた閨の中。
隣で横たわる男の言葉を聞いて、世間話をするかのような調子でそう言い出した幹也の顔を、
式は視線だけで人を殺してしまえそうな――比喩ではない――目で、真横から見た。
目だけでなく表情全体からありありと「こいつは何を言ってるんだ」という感情がにじみ出ている。
黒桐幹也。
長年の付き合いがある伴侶だが、その性癖が「寝取られ/寝取らせ」と呼ばれる――
自分の女を他の男に抱かせるものだと知ったのは最近の事だ。
そもそも頼まれでもしなければ他の男に抱かれる事などするものか、と式は常々思っている。
決して、自分の意志ではない。
あくまでも好いた男の性癖に応えてやっているだけ。
――それにしても、だ。
「……一回だけ、って言っただろ、何を当然みたいに話してるんだ、お前」
「でもあの後も抱かれてるじゃないか」
「あれはっ……お前が言うから仕方なく……あいつ等もしつこいし」
「なら少し相手が増えても一緒じゃないかなって思うんだ、それにマンネリなのは式も感じてるんじゃないかい?」
「そんな訳あるかっ、毎回殺されそうに――――」
「楽しんではいるんだね、よかった」
「良い訳あるか、このバカっ」
「あ痛」
布団から起き上がった式が軽く幹也の頬を叩く。
小さな悲鳴をあげる幹也を見下ろしてそっぽを向けば、はははと懲りた様子のない笑い声が聞こえてきて。
式は、想像してみる。
あのチャラチャラとした男達以外をまた誘って、また抱かれて――例えば、同年代の別の男だとか。
あるいは年下の男だとか。
そういったものに抱かれるとして、自分はどう思うだろうか、どう感じるだろうか。
正直な事をいえば「快楽」という意味では幹也との行為と男達との行為は比べるべくもない。
断然男達とする行為の方が上だ。
女を弄び拐かす事に慣れたもの。性行為と書くよりセックスと書いたほうが似合うような暴力。
先日もどれだけイかされたか、どれだけ射精させたか、数では覚えていない程だ。
ただ――自分もそれに慣れてきていない、幹也が言うところの「マンネリ」を感じていないか……と言えば、嘘にはなる。
決して飽きているわけではない。慣れきった訳でもない。
自分の痴態を思い出してしまえばそんな事は口が裂けても言えない。
だがそれ以上を求めていないかと言えば……。
「っ……一回、死ねっ、お前っ」
「うわ、今何も言ってないのに、あ痛、痛いよ式」
そこまで考えた後、式はまた幹也を叩く。
自分の中に湧き出てしまった考えを掻き消すように頭の中で何度も「違う」と繰り返して。
「とにかくさ、折角なんだしまた街を歩いて探してみないかな、式が気にいるような相手が居るかもしれないし」
「なにが、折角なんだ、……本当に、どうかしてるぞ、お前」
「ははは、それじゃあ……そうだな、明日の夜にでも出てみようよ、ね」
「…………もう知るか、勝手に言ってろ」
「うん、そうするよ。おやすみ、愛してるよ、式」
幹也の言葉を、懇願を拒否するように吐き捨てて顔を見ないよう背を向けて布団に入り直す。
なにがとにかく、せっかくだ。なにが愛しているだ。よくほざくものだと式は胸の中で毒づく。
――私はそんな言葉で良い気になって素直に従うような軽い女ではない――。
人の好意を利用して好きに動かそうなどと、最低の男のすることだ。
「(調子に乗りすぎだ、明日は一日、外になんて出るものか)」
…
……
………
翌日、日も暮れきった刻時。
和装にジャケットといった装いの式と、これから葬式にでも出るかというよな黒の装いをした男女――
式と幹也がネオンに照らされた街中を歩いていた。
「なんだかんだと頼みを聞いてくれて嬉しいよ、もしかして式も期待してる?」
「黙れ、死ね、バカ」
かけられた言葉をにべもなく切り捨て、式は一人で先を歩く。
結局連れ出されてしまった――言われるままに服を着て、促されるまま街まで出歩いて。
自分は何をやっているのかと思考の海に落ちていく。
最悪の気分だった。
同年代のどの女達よりもバカになった気がしてしまう。
実際、男達との行為や幹也からの頼みなんて聞いてしまっている内に既にそうなってしまっているのかもしれない。
今の自分を、かつてのマンションの主が見れば嘲笑するかもしれない。
いっそこの男の妹の方に告げ口してやろうか――などとバカなことも考えてしまう。
それをやっても結局、最終的に困るのは自分の方だろう。
「一人で歩くと危ないよ、式」
「お前が一番危ないだろ、この変質者」
「ひどいなあ」
「言われて当然のことしてる自覚持ったほうがいいぞ、お前」
軽く言い合いながら、人の行き交う街を進む。
見掛けるのは、様々だ。
疲れた顔で上司に媚びへつらうサラリーマン。
酒を片手にヘラヘラと笑い語り合いながら歩く中年達。
路地裏への入り口に陣取り煙を燻らせる少年、青年達。
露出の多い衣装で蛍光色の看板が付いた店へ呼び込みを掛ける女達。
腕を組み笑い合うアベック。
警官に出逢えば補導されるだろう制服のまま歩く女学生。
それに声を掛ける下衆な顔の男達。
色とりどりだ。
が――
「……」
特に目のつくような男はいないな、と式は思う。
別に探していた訳ではない、ただ幹也の言葉が頭に残ってしまって、つい視線で追ってしまっていただけだ。
大体、今日街に来たのだって幹也がしつこいから仕方なくだ。
「(……本気でそう思ってるなら、さっさと帰ってしまえばいいのに)」
それをしない自分に、勝手に苛立つ。
ほんの僅かにでもそういった行為に期待してしまっている自分に、式はどうしようもない嫌悪感を抱いていた。
「式」
「……なんだよ」
「あれ見て、ほら」
「だから、なんだよ」
追いついていた幹也に手を摑まれて、もう片方の手でいずかを指さされる。
指された先はなんてことはない、この辺りにはどこにでもある「そういった店」だった。
客引きの男に案内されて中に入っていく脂ぎった、小太りの男が見える。
ああいった場所ぐらいでしかまともに風呂に入らないのだろうか。
服は洗濯されているのだろうが汗が滲んでおり全体的に小汚い印象だ。
別にそういった事に拘りのない式ではあるが、健全な美醜感覚というものはある。
普通に過ごしていれば会話する事も、関わる事もないだろうな――というような。
そんな男だった。
「あれが?」
「うん、あの人とか良いんじゃないかな」
「は?」
「あの人とか、良いんじゃないかなって、前にも見た人だよ」
「……」
「式?聞いてる」
「耳を疑ってる所だ、……アレと?冗談言え、お前、本っ当に気持ち悪いぞ、イカれてる、狂ったのか?知らない間に頭でもぶつけて来たんじゃないか」
「ううん、そんな覚えはないかな」
「じゃあマジュツかなにかにでも掛けられたんだ、正気じゃない」
「人をそこまで言うのは失礼だよ」
「じゃあ、なんであいつが良いんだ」
「どうせなら思いつく限り最低の相手の方が取られてる、って感じがすると思って……かな」
「…………お前の方がよっぽど失礼だろ」
「そうかな?兎に角、あの人はどうかな、今日はもう無理みたいだけど」
そういう幹也の視線の先では、男が呼び込みに案内されて店に入っていく様子が見えた。
脂ぎった、整っているとは口が裂けても言えない顔に女性なら誰もが嫌悪感を感じるであろう笑みを浮かべている。
下品、下劣、下等、そういう言葉が非常によく似合う絵面だ。
――無理。
その二文字が式の頭に浮かび無言で首を横に振る。
「あれなら、犬にでも犯された方がマシだ」
「そういう性癖はないかなぁ。……どうしてもダメかい?」
「頼めばなんでも聞くと思うなよ、あんなの、俺じゃなくたって、誰だって嫌だ」
例えばの話にはなるが、いくら金を積まれたって無理なものは無理だ。
人間には許容できる事とできない事がある。
式は、自分は特別そういった敷居が低い方じゃないだろうか――とは思っていた。
嫌いな相手でも、必要であれば一緒にいられる、そういう「たち」だ。
なんだか問題があっても、好意が持てる相手なら問題を含めて許容できる。
だが何事にも限界というものがあるし、自分にだって好きと嫌いをはっきり区別する嗜好というものはある。
あれは、論外だ。
好き好んで小汚い訳でも、自分から脂ぎっている訳でもないだろうが、それを自制できないのであろう人格が無理だ。
それを問題点として認識せずにそのままにしている思考も許容できない。
というか、恐らくではあるが近付けば臭いだろう。
汚いのは我慢できても、臭いのは無理だ。
臭いというのは人間に生理的嫌悪を抱かせる。
女性であれば特にで、「今」でこそこうしているが元来式は女性的な人格であり、それは当人――自分自身も認めている事だ。
つまり、何をどう言われようと無理なものは無理なのだ。
というか、イヤだった。本当に。
「どうしても?」
「しつこい」
「今回だけだから」
「前にも聞いた」
「これが最後にするよ」
「嘘つけ、どうせまた似たような事を言うだろ」
「本当さ、今回が最後で、二度と他の男に抱かれてくれなくても良い」
「くどい」
「式」
「……」
「ね」
「…………」
「本当に最後、これっきりだから」
「………………本当に最後にするんだな」
じとり、と。
殺意すら籠もっていそうな視線で式が幹也を睨む。
式の「眼」の事を考えると文字通り射殺せそうな視線だった。
「うん、本当に最後だよ、もう二度と無しでいい」
「二言は無いな、これで同じ事言うようだったら――」
「その時は、君に殺されるよ」
キッと穏やかな顔を引き締めて。
自信を持って、嘘だと一分も感じさせない眼で、幹也がそう言う。
こんなシチュエーションで聞きたくはなかった言葉だ。
もっとロマンティックな場面が良かった。それぐらいは式だって考える。
「……はあ」
これみよがしに、大きく、式は息を吐き出す。
肺の中空気が全てなくなるのではないかと思う程の盛大の、特大の溜息だった。
「……今回、だけだからな」
…
……
………
数日後。
式は一人で街を訪れていた。
当然ながら幹也の姿は無い。
ビデオカメラを渡されて、しっかりと録画、録音するようにと、
「いってらっしゃい」という言葉と共ににこやかに送り出された。
股間が膨らんでいたように見えたのは気の所為ではないだろう。
「(なにがどこにでも居る人間だ)」
ここまで性癖を拗らせた男なんて探してもそう居ないだろう。
むしろ居て欲しくない、と切に願う。
あんな変態が大量に居るようでは世も末だ。
もしそうなのであれば滅んでしまったほうがいいんじゃないだろうか、人類。
「(バカバカしい)」
我ながら益体もないを考えてしまっている――現実逃避だろうか。
式は今日何度目になるかもわからない溜息を吐いて、目当ての人物を探して視線を彷徨わせた。
幹也の話では、目当ての男はこの時間帯、この通りにやってくる、との事だが……
「……最悪だ」
目当ての男は、顔から流れ出る汗をひと目見て洗ってないと分かるハンカチで拭きながら歩いていた。
できれば居ないでほしかった。
そこに居なかったのであれば「会えなかった」と体の良い言い訳ができる。
探しものが得意なのは知っていたが、特技の悪用が過ぎる。
溜息が重なる。
今日一番のものが出たかもしれない。
……これが最後、――これが最後、と頭の中で繰り返す。
もしまた頼むような事があれば絶対に殺してやる、とも誓う。
「……おい、そこの、あんた」
「ん、ああ、ん、ぶ、ふんぅ?な、な、あな、あな、あ、なにかな??」
風俗店の前で立ち止まった男に、意を決して話しかける。
吃音がひどい。聞き取るのが大変な程だ。声が籠もっているのも拍車を掛けているのだろう。
人間、良いところが一つはあるもの――容姿が悪くても例えば声だとか、立ち振舞だとか――が、あるものだが
目の前の男からは全くそういった印象を感じない。
まさに見た目通りの男、といった感じだ。
顔が顰まるのを感じる。
これから、この男を誘って一晩を共にするのだと考えると流石の式でも嘔吐感がこみ上げてくるのを隠せない。
近寄って分かる事だが、思った通り――あるいは思った以上に、臭う。
体が滲み出ている油と、汗と、服に染み付いた汚臭と、体臭とが混ざってひどいことになっている。
擦れ違った通行人は皆顔を顰めるだろう。
式は風俗店については詳しくないが、思わず出禁のような制度は無いのだろうか――と考えてしまう程だ。
「あ、ああのあ、あ、あ、えおええ、ええと、な、ななな、なにかな?い、いそ、いそが、忙しいんだけどな、ぼ、ぼ、ぼくっ、ふゅっ、ふふふひゅっ」
過剰に吃り、視線を風俗店とこちらと彷徨わせながら男はそういう。
そういった店以外で女に話し掛けられる事に免疫がないのだろう。
いや、男に話し掛けられる事も少ないのかもしれない。
こちらだって用事がなければ話し掛けたくも無い、臭いから何処かに消えてくれ――とは言えない。
なにせ、この男に抱かれなければならないのだ。
「……あんた、あの店行くのか?」
「ひゅっ!?そ、そそっっそっ、そそ、うだけどな、なにか……?」
さっさと本題に入って終わらせたい、と思いながらも生理的嫌悪感で世間話の様に話してしまう。
時間の無駄だと式自身わかっている。だがここまで来てもまだ嫌悪感が、抵抗が勝る。
幹也には悪いが――いや、一片も自分悪いとは思えないが――本当に、イヤなのだ。
臭いだけならまだ我慢できたかもしれない、臭いだけならまだ我慢できたかもしれない、
気持ち悪いだけならまだ我慢できたかもしれない。
だが、全て揃っているのだ。兼ね揃えている。
かつてここまで人を嫌悪した事が数える程あっただろうか――と思う程には、イヤだ。
だが、一度やる、と言ってしまったの自分だ。
ここで全て反故にして帰って幹也の頬を引っ叩いてやるのは簡単だが……
「…………はあああぁぁぁ……」
「あ、あのあ、あ、よ、用がないなら、い、いくけど???」
……意を決しよう。式はそう決めた。
自分も大概頭の螺子が外れていると思いながら、男の方を向く。
鋭い視線に男の体が怯えるように跳ねた。
「用はある、……あんた、あの店入るつもりなんだろう」
「そっ、そうだけど、そ、それが、な、なにか?」
「……いくらだ。店でやるより、安く買われてやる」
「へ、ぇえっ?」
「買われてやるって言ってるんだ。女を買うんだろ、あんた」
「え、えええっ、えっ、い、いや、そ、そう、だけどぉ……え、えええ」
男が疑いの眼差しで式の――式の体をじろじろと見る。
いつもの和服にジャケットという装いのお陰で体のラインは見えはしない。
だが、その容姿は街を歩く女や、店の前に並べられたパネルに写った女達と比べても抜群だ。
切れ長の瞳。
美しく艷やかな黒髪。
ほっそりとした手足。
冷たいながら、何処か気品さを感じさせる佇まい。
男より容姿や、内面が遥かに優れていたとしてもそうそう触れ合う機会も無いだろう極上の女。
そんな女が「自分を買わないか」などと突然小汚い男に話し掛けてきたのだ。
誰だって警戒はするだろう。
特に普段女と話していないような男であれば尚更だ。
その割には、視線は胸や脚を警戒混じりながらもジロジロと舐め回しているが。
「つ、つつつっ、つつ、美人局と、とかじゃ、な、いの、か、金なんて少ししか……」
「そういうんじゃない、買うのか、買わないのか?ハッキリしろ」
実のところ断られると困るのは式の方なのだが――――式にも最低限の矜持はある。
誇りやプライドというのには無縁な式ではあるが、そういった拘りだとかに関しては強いほうだ。
それに、無縁といっても「ない」ワケではない。人間として最低限のものはある。
目の前の男に「抱いてください」などと頭を下げる。
流石に、そんな事はそう、それこそ「死んでも」ごめんであった。
「ええ、ええ、えっと、いやでも……」
「でもなんだ」
「ほ、ホホホ、ホテル、ホテル代とか、ないし、お金、そんな持って無くて、店は、一括で、ク、クーポンもあるし……」
吃りながら視線を彷徨わせる男に式は小さく舌打ちをした。
臭い汚い気持ち悪いに、金が無いが付け加えられた。
貧乏を笑うような品性は無いし収入で人間の価値は変わらない――が。
他の要素重なり合えばそれもまた別だ。
「(と、いうか、金が無いのにそんな店に頻繁に行くのか、こいつ)」
それとも頻繁に行っているから金がないのか。
などと考えて式は思考を打ち切る。これ以上どうでもいい事で時間を無駄にしたくなかった。
さっさと終わらせて帰りたい。そして幹也をぶん殴った後何もかも忘れたい。
「……じゃあ、お前が店に出す金だった半分でいい、場所も、……お前の家とかでいい、それでどうだ」
「え、えええっ、い、いい、いいけど、な、ななな、なんで……?」
「理由なんてどうでもいいだろ。とにかく、そういう気分だってだけだ」
男にとっては破格の条件だろう。
思っていた出費の半分で済む上に、家なら万が一何かあったとしてもすぐに通報なりできる。
ごくり、と男にとっては非現実的とも言える状況に、男は生唾を飲み込む。
興奮によるものか緊張によるものか、単純に暑いのか。顔と首元からは滝のように汗が流れていた。
ワイシャツがじっとりと濡れて黄ばんでいるのが生理的嫌悪感を抱かせる。
「それで、どうなんだ。これで断るなら他を探す」
「あ、ああああっ、か、買う、買います買うよっ、買う……へ、へへへ、へへ……!」
”ニチャァ……”。
擬音にするなら、こんなところだろうか――そんな風に男が笑みを浮かべて離れるフリをした式の手を掴む。
思わず強く振り払いそうになるのを堪えて、式は出来る限り嫌悪感を顔に出さないよう努力した。
「じゃあ、さっさと行くぞ、先歩けよ」
「あ、あああ、あう、うん、へ、へへ、じゃあ、こっち、すす、少し離れてるんだ、アパートだから、ハ、アハ」
にへら、にへら、へらへら。
笑顔で人をここまで不快にさせることができるのは大したものだな、と式は思う。
――だがそれ以上に、ここまで嫌悪感を抱く相手にこれから抱かれようとすると自分もよっぽどだな、と思うのだった。
…
……
………
「……うわ」
歩いて数分。
式は男の家へと招かれていた。
小さなアパート。多少古いが、外観はそこまで悪くなかった。
角部屋で昼間はさぞ日当りも良いだろうし、中に入ってみてもリビング兼キッチン、和室、洋室――3部屋はある。
部屋の中にシャワーとトイレもあるし、洗濯機が置いてあるのも見える。
それでも尚、式は喉から漏れ出た悲鳴に近い声を抑えられなかった。
汚いのだ。
部屋は人間性を映し出す鏡――というのは誰の言葉だったろうか。
どこかで聞いたような、聞かなかったような、あるいは本で読んだのかもしれない。
実際自分の部屋は私物も少なく割と殺風景だから、あながち嘘でもないのだろう。
そうするとこの男の部屋はどうだ。
靴は、靴箱があるというのに土間に無造作に転がされて一切の収納がされていない。
リビングには洗濯物が散乱しており洗濯機からは洗われていない――いや、随分前に洗ったのだろうか?――とにかく、汚れた衣類がはみ出している。
キッチンはなおひどいものだ。
カップ麺やレトルト食品であろうと思われるゴミに、未洗浄の食器でごった返した上に蝿まで湧いている。
極めつけは、部屋を埋め尽くしているゴミ袋だ。
雑多に物が詰められたであろう黒いゴミ袋が室内の至る所に積み重なっている。
玄関から正面にあり覗き込める洋室には、それこそ天井までごみ袋が積まれているのが見える。
そして、やはり、なによりも、臭いが、酷い。
食品や生活臭も加わって殊更だ。
保健所を呼んだ方が良い。
用がなければ一秒だってここに居たくない。
なんなら、ゴミ捨て場やゴミ収集車の中、廃棄物処理施設なんかの方がマシに思える。
血の匂いや死の匂いなんかより余程地獄だ。
部屋が死んでいる。
おおよそ、人間の住む場所には思えない――というのが式の感想である。
「物置として使っている」と言ってくれればどれだけ良かっただろうか。
「ど、どどど、どうぞ、へ、へへ、部屋に人をあ、あ、あげるなんて、は、はは、初めてだよ、ぶ、ぶひゅぅ」
だが男は部屋の「惨状」をさも当然のもののように靴を履き捨てて部屋に上がっていく。
当然脱いだ靴を揃える事もない、靴が転がっているのを気にする素振りすら見せない。
それどころか自分の靴であるというのに靴を踏みつけて足場にする始末だ。
「きょ、今日はちょっと、ち、散らかっててね、た、たまにママが来て掃除してくれるんだけど」
片手に持っていた鞄をゴミ袋の山に放り投げて、散乱している服やゴミを摘み洗濯機の方に放り投げながら、男が笑う。
ちょっと?ちょっと、と言ったのだろうか。式は自分の耳と目を疑った。その後の言葉にも頭が痛くなる。
汚物で足の踏み場も無いこの現状が「ちょっと」というのならば酷い時はどんな様相になっているというのだろう。
加えて、見た目から察するに30~40代であろう男が「ママが来て掃除してくれる」などと宣っている。
…………地獄だ。
「(人探しも、捜し物の範疇なのか?)」
――どうせなら思いつく限り最低の相手を――、と幹也は言っていた。
大当たりだ。
あらゆる意味で、これ以上は中々いないだろう。
「じゃ、じゃあ、こ、こっち、和室にふと、布団があって……あ、っ、シャ、シャワー浴びる?」
「……良い、ここで浴びたって無駄な気がする」
どうせ直ぐに汚れる。
なによりも風呂場やトイレに近付きたく無かった。
台所で「これ」なのだ。
水場は尚酷いことになっているのは見なくとも分かる。
この部屋を掃除に来るという男の母親に同情――――しそうになるが。
こんな生き物を世の中に生み出してしまった罪で帳消しだろう。
極力男と、部屋の惨状を視界に入れないようにしながら和室――寝室に踏み込む。
リビングも、洋室も地獄だが、こちらも地獄だ。
いつから使っているのか、いつから洗っていないのか分からない酷く汚れた煎餅布団。
その周りに散らばっており、屑籠から溢れた大量の黄ばんだティッシュ。
食べかけのまま放置されて乾燥してそのままにされたのだろう袋菓子のゴミ。
部屋の隅に積まれた淫猥な写真が載ったポルノ雑誌と、ポルノビデオの山。
それで全てを帳消しにしているつもりなのかと正気を疑いたくなる、まるで効果をなしていない部屋の片隅の部屋用消臭剤。
この家事態が人間の住む場所ではないが、この部屋には一秒も居たくない。
そう思わせてくれる最低の部屋だった。
ふっ、と式はいつだか雑誌だか何かで見た情報を思い出した。
スカンクという猛烈な悪臭を用いて自衛する生き物は、自分の匂いで苦しむ事は無いらしい。
むしろ自分達と同種であるという事を示すフェロモン的な役割を果たすそうだ。
実のところこの男――いや、生き物もそうなのかもしれない。
一般的な人間とは異なる特殊な生き物であり、匂いで自分の同族を判断しているのだ。
でなければこんな環境で生活できるワケがない。
そうであってくれた方が救いになる。謎の生命体に犯される方がまだマシと思えるからだ。
「じゃ、じゃあ、でゅふ、ぶふふっ、ひゅっ、さ、ささ、早速、し、しようか、へへ、えへへ」
「……ああ」
だが人間の言葉を話している以上、残念な事に人間なのだろう。
――いっそ今日のことだけ記憶でも失えればいいのに。
そう思いながら式は自らの衣服に手をかけた。
…
……
………
「お、おおおお、おっほ、おおおおっ、お、お、お、お、おお……!」
「……呻くな、うるさい」
据えた臭いがして時たまパチパチと明滅する白熱球が照らす、一人で暮らすには充分だろうが
女を連れ込むのには向いているとは言えない、そんな広さの和室の中で式が産まれたままの姿を晒していた。
身に纏っていたジャケットと着物は、少しでも汚したくないという一心から綺麗に畳んで部屋の隅に置いてある。
床の汚れがつくのすら躊躇したが、他に置く所が無かったのだから仕方がない。
こんな部屋だ、とわかっているのなら鞄でも持ってきてそこにしまえば良かったと一瞬思うが、
その鞄が二度と使えなくなりそうだと式は思った。
「へ、へへ、ちゅー、チューしていい?い、いいい、いい、よね、チュー、へへ、へ」
「……好きにしろ」
手をわきわきと動かしながらにじり寄ってくる男にそう返す。本音で言えば冗談でも御免だった。
許されるなら今すぐこの男を殴り倒して服を着て外に出ていきたい。殺していいなら殺しているだろう。
男が顔を近付けて来るとツンと鼻につく臭いが押し寄せてくる。近付けば近付くほど酷い匂いだ。
人間から発せられているという事を加味すると気分的には汚れた排水溝、ドブ川、下水道なんかの方がマシかもしれない。
「んぶちゅぅぅうううっ、んぢゅぅっ、うぶぶぶっ、うぶっ、うぢゅぅううっぶっ、うぢゅぶっ、う、へへっ、うひっ」
「……っ……お゙ぇ……っ」
薄汚れた唇が重ねられる。キスに慣れていない――というかした事もないのだろう。
漫画やドラマで見たのであろう唇を重ねるだけのキスを何度も繰り返され、その度に臭いが鼻をつく。
本人から放たれているのだから近付けばより一層酷くなるのは当然なのだが、口の匂いは更にひどい。
ドブ川の方がマシかもしれないと思ったが訂正する、ドブ川の方が確実にマシだ。
一日に出る自分の家中の、いや、街中の生ゴミを集めたってここまで酷い匂いにはならないだろうという確信があった。
それが無遠慮に押し付けられる不快感は想像を絶するものがある。涙まで浮かんで来てしまいそうだった。
それを必死に堪えて思わず目を閉じる、目の前の生き物相手に視界を閉じる事も不安だったが、
不安以上に拒否感、拒絶感が上回っていた。
「ぶはぁ、っ、ぶひぃっ、ぶふぅーっ、ふぅーっ、うふぅーっ」
唇を離した男が荒くなった呼吸を繰り返す。息が口に掛かる。失神しそうだった。
酷い匂いで頭がクラクラしている、男の匂いが自分にこびり着いてしまいそうなのが本当に不快だ。
叶うものならいっそ意識を飛ばしてしまいたい程だと式は思った。
「きっ、ききききっ、キスっもっとするぞっ、うおっ、おおおっ、んぶぶっ、んぶぅぅいっ、ぬっべぇっ、んぶぶぅっ」
「ぉ゙ぇ゙」
調子に乗ったのだろう。
男が式の肩を赤塗れの手で掴んで引き寄せ、後頭部に手を回してがっちりとホールドする。
その状態で美しい唇を水気のないカサつき黄ばんだ唇で塞いでは舌を押し込んでくる。
ねろねろ、れろれろ、べろべろ、そんな音が口の中から響いてくる。最悪だった。
舌垢がでっぷりと付いた舌で口内、舌、歯を舐め回される。文字通りクソを食らう方がマシな気分になる。
なんだったら髪に触られているのも気に入らない、こんな汚物に触られる為に普段手入れをしている訳ではないのだ。
「んぶぶぅぅっ、うぶぅっ、ふううっ、べろぉっううっ、うううっれるぢゅっ、うぢゅぅううっぶっ、うぶうぅっ、うふっ、ぶふふうぅっ」
「ぅ゙……ぐぅ゙……ぐ゙ぃ゙ゃ゙……っ」
キスが途切れて顔が離れる。酷い匂いがする唾液の糸が互いを伝う、無色透明の筈のそれですら黒ずんで見えるのは感じる不快感のせいだろうか。
だが唇が離れてくれたと思えたのも束の間、まるで犬か何か――犬に失礼だろう――のように、男が式の顔を舐め始める。思わずうめき声が漏れた。
大抵の事、それこそ痛みや苦痛なら耐えられる式だが生理的嫌悪感と不快感だけはどうにもならない。
意識を出来る限りカットして男の成すが侭にされるつもりだったかが、思わず拒絶の言葉が出て男を突き飛ばしそうになる。
「や、やだ、やだっていった?な、なんで、ぶふぅ、っ、ぶふぅーーっ、い、いいだろ、いいよね、ねえ、なあっ」
興奮か、あるいは元々そういう性質だったのか、調子に乗り過ぎているのだろうか。
はねのけようとする手が赤くなる程に力を入れて男が式を抑え込もうとする。
いくらでも投げ飛ばせるし、突き飛ばせる程度の贅肉ばかりで筋肉などまるで無い無駄に肥えた音だ。
押し返そうと思えばいくらでも押し返せるそれをぐっと堪える。ここまでやったのだ。
最後までしてもらわなければ困る――などと我ながらわけのわからない理由で。
「……痛いんだ、力を入れるな」
「ぶふぅっ、ふぅぅーっぶうぅぅふぅっ、ふぅぅううぅっ、ぶぶっぶ、ぶぅぅぅつ」
人間の言葉を忘れたのだろうか。 式の言葉に男は見た目通りのなきごえを上げている。
それでも意味自体は通じたのか腕を掴む力が弱まっていき式は少しだけ安堵した。痕になるところだ。
こんな生き物と行為をした痕跡など出来る限り一欠片も残したくない。
「うぅうぅっぢゅっ、うぢゅぅううっ、ぢゅううっ、れろぉっれるるうっぶひっふひぃっぶひぃっ、ふーっふーっ」
「(終わったら記憶から消しましょう)」
可及的速やかに。何もかも無かった事にしてしまいたい。
今日あった事、された事を幹也に話したら全てお終い、無反応、無感情に徹する。
「ね、ね、ねね、ねえ、さささ、さ、さっきからさあ、ま、マグロは、ど、どうなの?」
「……………………鮪?魚が何だっていうんだ」
式がそう固く心に誓って少しして、唇を離した男がそんな事を言い始める。
この状況で何故回遊魚の名前が出てくるのか式には分からなかった。
性行為に対して無反応、無感情な者の事をマグロと言うのだという事を式が知ったのはこの後の事になる。
「せ、せっせっかくこっちがやってるんだからさああ、お、おお、同じことしてもらわないと」
「お店、おお、お店の女の子たちはしてくれてるよ、き、きき、君かわいいのに、お店のビッチ共以下じゃ、なな、ないか、ね、ねえ」
「し、ししし、しかも、そんな、嫌そうに、し、ししし、失礼じゃないか、ぼ、ぼくぼくがこんな、こんなさあああ」
……人間の言葉に翻訳した上で要約して理解するのに時間が掛かったが、どうも男は式が無反応な――
耐えているような反応である事が気に食わない、気に入らない様子だった。状況が気に食わないのはこちらも同じなのだが
しかも時間を掛けてようやく耐え抜く決心がついた矢先にこれである。
吃音だらけの喋り方も合わせて、式でなくとも苛立つ事だろう。
匂いも合わさって、くらくらとしてくる。
沸き立つ苛立ちは目の前の男と、自然頭の中にずっといる男にも向けられた。
そもそもあの黒尽くめがバカな事を言い出していなければこんな事にはなっていないのだ。
そう思うと耐えようとしている自分も、この現状も、目の前の男も。
なんだか何もかもがどうしようもなくバカバカしくなってくる。
何もかもがどうでもいい。
「……ぶ゙え゙」
「ふっ、ふひひっ、そう、そうっ、ふへぇっ、ふひ、そっ、そそそそっう、それで、い、いいい、いいんだよっ」
男に言われるがまま、促されるままに男と同じ行為をし返す。
舌を伸ばして顔に這わせて唇を、口周りを舐め、頬を舐めて、それを繰り返す。
舌先がピリピリする、顔事態が汚物なのだから当然だろう、垢や汚れが溜まって毒にでもなっていれうのかもしれない。
それでも、一心不乱に男にされたように続けた。吐き気を催しえずきそうになりながら顔を、鼻を丹念に舐る。
頭が呆けて来る。自分が何をやっているかわからなくなるようだったし、それでよかった。
こんな事をするなんて頭がおかしい、人を殺すよりよっぽど狂っている。それもこんな男に。
常人の趣味ではない。気違いの所業だ。こんな事を好んでやらせる男も、そうなると解っていて抱かれるように言った男も。
言われるがままやっている自分もみんな狂っている。狂人だ。気持ちが悪い。
「ん゙……ぐ……お゙ぇ……っ゙……っ゙……ゔゔ……ぇ゙……っ」
今、この行為に耽ってしまっている自分もその仲間入りだ。
いくら愛した男に頼まれたとはいえ言われるがままに自分から汚物を摂取するなんてどうかしている。
――どうかしている筈のその行為に、気が付けば式は没頭していた。本当に気が触れてしまったのかもしれない。
舌で垢をこそぎ取りながら腹の奥の方が触れられてもいないのに疼いているのを感じる。
鼻孔から気管を通って肺と血液を満たし脳に溢れていくドブ川の底の様な、まともな感性をしていれば嫌悪するであろう、
その匂いに興奮を覚えてしまっている式が自覚したのは、男と顔を舐め合いはじめて暫くしてからのことだった。
「ぶふぅぅーっ、ぶふぅぅううぅぅーっ、い、いいい、いい、よお、式ちゃん、へへ、へへ」
「(何も、こんな所まで狂ってなくたっていいでしょうに)」
唇を、舌を離して生ゴミを湿らせて十日程放置してもそうはならないだろうという臭い息を顔中で受け止めて、
脳が揺らされる感覚を覚えながら式は胸中で自分への嫌悪感と共に履き捨てた。
ただでさえ色々とおかしな事になってしまっている自覚がある中で、また一つ自分が異常である事を知った気分は如何程のものだろうか。
しかも、それが汚物を好むような特殊なものなのだ。自己嫌悪の程は筆舌に尽くしがたいものがある。
「そっそそそっ、それじゃあっ、ふひっ、ふひゅぅっ、し、ししし、しよっか、へへ」
「おたが、おたっ、おたがいお互い気持ちよくならないとね、こっ、こここ、こういのは、へへ、ふひっ、うふっ」
そう言って男が布団の上に座り込む。促されるまま式も座れば辛抱堪らずといった様子で布団に押し倒された。
上から覆い被さって来る男の匂いと黄ばんで汚れた、自分の家にあったのなら即刻捨てているだろう粗大ごみ以下の煎餅布団が発する匂いに挟まれる。
逃げ場がなくなってツン、とした感覚が鼻をついて思わず咳き込む。
「だ、だだいじょうぶかな、い、今お、お、おおおおお薬をあげるからねぇええ」
唾液で粘ついた声が降ってくる。
歯磨きなどした事がないのだろう。
容姿や脳足りんな話し方からするに「清潔」だとか「潔白」という単語を知っているかすら怪しい。
見上げれば大きく開かれた口には小汚い唾液の糸が何本も伝わっていた。
「カァァアアーーーーーーーーーッ……ペッ!!」
「お゙ぇ゙」
あろう事か。
口にたっぷりと溜めた唾と痰が式の口の中に吐き捨てられる。
これを「薬」と言っているのが本気なら今直ぐに頭か心の病院に行った方がいいだろう。
そんな事を考えながら式が男を見上げていると、ぐちゅぐちゅと唾を溜めてまた痰を出しているようだった。
ホンモノらしい。
口内にある痰をごくりと飲み込んで、――餌を待つ雛鳥のように式は口を開けた。
なぜそうしたのか式自身も理解できていなかった、いや、理解したくなかった。
「匂い」に興奮を覚えるならまだ良い――決して良くはないが理解、許容は出来る――が、
汚物を口で受け止めて、それを飲み干して興奮するなどと女として以前に人間として許容できない。
正気だとか狂気だとか綺麗だとか汚いだとかの話ではなく、無い。動物でもそんな事はしない。
そんな趣味だとか、性癖だとかを持っているのは人間以下、畜生以下だ。少なくとも式はそう認識しているし、していた。
「カァーッ、ペッ!ペッ!!」
「ゔ」
そんな当たり前の事を認識して思考しながら吐き出されるそれを口で受け止めて、ごくりと喉を鳴らして飲み込む。
口の中に不快感が広がる、脳が当然そうすべき反応として嫌悪感を湧き上がらせ飲み込んだそれを吐き出しそうになる。
なるが、また口を開ける。意識しての事ではなく自然とそうしていた事を自覚して気が遠くなる。
本能で求めているのだ。
汚物を。
気狂いのような事をしている内に本当に気が狂ってしまったらしい。
吐き落とされる痰を咀嚼して、味わって、飲み込む。
戻しそうになる感覚も、嘔吐感も何処かに消えてしまっている。肉体が正常な反応を返していないということだ。
心に連動して肉体もおかしくなっている。ヘタな魔術だとか幽霊だとか。
そんなものより余程奇妙で狂っている出来事が自分自身の肉体に起きているのだと、式はそう感じる。
「ぐぶぶっ、ぐぷぅううっ、ぐふっ、ぐふふぅっ、げぇぇぇええ……っぷ」
げっぷ。
痰を吐いていた男に暖気を吹き掛けられる。
こうなるまでの自分だったら耐えきれなくて殺していたかもしれない――式はそう思いながら、それを受ける。
しかし既に式自身完全に壊れてしまっていた。殺すどころか抵抗する気もおきない。
理性で否定しようとしても肉体は吹き掛けられるこの世に両儀式として生を受けて以降最低の匂いで間違いなく歓喜していた。
「ぷ゙ぅ゙ぇ゙」
悲鳴なのか嗚咽なのか分からない音が式の喉から漏れる。
言葉を発する気にはならなかった、もしかすると発するだけの理性が残っていないのかもしれない。
目の前の男は豚だが、自分もそれと同等かそれ以下の豚畜生に成り下がっている。
そんなものが人間の言葉を発するべきではないと感じているので、そのせいで声として音が出ないのかも知れない。
「ぶふぅ、ぶふぅぅぅっ……うひ、うふふっ、ぶふっ、そ、そっそそそっ、それじゃあ、次は下だね、ふふぅっ、ぶひぃぃっ、ぶふううーっ」
息を荒げているのか陸上で窒息でもしてるのか何なのか分からない様を見せながら男が笑う。
歓喜を表す満面の笑みのつもりなのだろうがミンチになった豚か蛙かなにかの更に出来損ないの様な有様だった。
式から離れた男が、その身体を持ち上げてひっくり返す。
幼児のおむつを変える時に取らせるような屈辱的な姿勢だった。
”何故か”濡れて湿り密を垂らす膣穴と、ひくひくと震える尻穴を隠すこともできず男の視線に晒す――
式は後に知ったことだが、男が行くような見せでは「まんぐり返し」だとか「ちんぐり返し」と呼ばれる姿勢らしい。
「これ」の相手をすることにならなければ一生知ることのない知識だったろう。
いや、どうだろうか。今知る幹也の倒錯的な性癖を考えるにいずれは知る事になっていたかもしれない。
「よい、しょぉお」
「ゔぶ゙」
男の唸る絞り出すような声の後に式の感覚が塞がれる。視界が垢焦げた薄汚れた色で塞がる。
視界だけではなく嗅覚も実質的に無い。鼻を満たしているのは男の、ぐずぐずに腐りきった匂い、
それとひどいアンモニアの刺激臭――もっと言えば排泄物の、解りやすく言えばクソの臭いで満たされたからだ。
男が、式の顔に汚い尻をそのまま乗せていた。
コンビニの入口前に屯する不良達――それこそ普段式を抱いているような――が、するような座り方。
俗にヤンキー座りだとか、うんこ座りだとか言われるそれでもって式の顔を塞いでいた。
無論男の体重が全て式の華奢な身体に掛かれば潰れてしまうから、力は入っているのだろうが。
まるで式の顔を便器に見立てたかのような扱いだった。
あまりにもひどい扱いに物理的な物以外で式は視界が真っ暗になるのを感じた。
「んべぇれろれっろおおぅぅつ、んぶぅぅうううっふぐぅうぶちゅぶぢゅづづぅぢゅぢゅぅうっぶぢゅぅううっうぶじゅじゅぶぶうぼぉっふぶひぃっ」
「ぎ゙び」
無様な姿勢で男に跨がられて尻を抑えつけられた式の身体が跳ねる。
嫌悪の問題ではない、生理的な反射である。
尻穴を舌で舐り回されればそうもなるだろう、不良の男達ですらそんな事はしなかった。
自分の尻を顔に押し付けた豚が、こちらの尻を舌で舐っている。
みずみずしく美しいまさに桃の様な柔尻の表面を貪る様に尻で舐めたくる。
シミひとつない肌が黄ばんだ唾液でたちまちに穢されていく様は新雪が踏み荒らされるようだった。
「ぃ゙」
尻の下で式が呻く。
男の垢だらけでごつごつと節くれだった両手が桃尻を掴んで大きく開いている。
尻の表面を舐っていた男の舌が、開かれて露わにされたきゅっと窄まった尻穴に伸ばされている。
尻穴の皺を一本一本なぞるかのように丹念に舌を這わせと思えば、ぴっちりと閉じた排泄用の穴が舌先でつつかれる。
「れろぉおおおっ、ふっ、ふひゅっうっぶひっ、うはっ、き、きき、綺麗にしてるんだねぇ式ちゃん、うぶぶっ」
「…………」
男の言葉に式は何一つ反応を返せなかった。何を返せばいいのか本気で理解できなかったからだ。
自分が「そう」だと自覚して汚物愛好だとか、目の前の生き物だとかに対して若干の理解をすることはできたと思っていた式だが、
こればかりは本当に理解できない。尻穴を弄る事もそうだが況してやそこに舌を這わせる、伸ばすなど。
人間ではない人間ではないと思っていたが本当に人間ではないのかもしれないと思うほどだ。
そこまで考えて「まさか」と思い至る。式は頭に浮かんだ男が言うであろう言葉を必死に掻き消そうとした。
「じゃ、じゃあ、し、しししっ、式ちゃんは、ぼっ、ぼぼぼっ、僕のを舐めてね」
「へへへ、へ、さっき会社でうんこしたばっかりだからちょ、ちょっちょ、ちょっと汚いかもだけど、うぶっ」
ぐっ、と。
男の足に入れられた力が僅かに抜けて最低の臭いと肉の重みと共に汚尻が押し付けられる。
「あ、そ、そそそ、その位置だと舐めづらいかな、ぶひっ、うふっ」
尻を顔に擦るようにしながら男が位置を調整する。尻の表面に生えた毛が式の整えられた眉を擦る。
上半身以上にまともに洗っていないのだろうびっちりこびり着いた垢が擦り付けられる。
やがて鼻に、口に、舌の届く距離に男の尻――尻穴が押し付けられる。
「こ、こここ、これでいいかな、へへ、じゃ、じゃあたぁっぷりりぃ舐めてねぇ、うひゅっ、うひっ」
臭い。地獄。
それ以外の言葉が出てこなかった。
間近で排泄器官を見せつけられている。
剰え「舐めろ」などと命じられて。
「死ね」と言われて従う方がまだマシかもしれない。
尻穴にはティッシュペーパーや糞の残骸がこびり着いているように見えた。
――舐める?これを?
式の思考が停止、全身がフリーズする。
起源を目覚めさせる魔術師だとか、幽霊マンションだとか。
超常の現象に関わる何やらに立ち向かうほどの方が余程勇気が必要な出来事だった。
「ほ、っほほほらぁっ、はやくしろよなぁっき、きがかっ、気が利かないっ、ぐ、ぐぐず、ぐずおんなぁ」
「ぅ゙ぶ゙ぅ゙」
男の足に入れた力が抜かれて体重が掛けられる、尻が顔を圧迫する。
鼻先が尻に埋もれて汚物の臭いと男の体臭しか感じられなくなり、まともな酸素を求めて口を開ければ
尻穴からプスッ、プスッと漏れる汚気を浴びせかけられた。それを思い切り吸い込んでしまい気絶しそうになる。
汚物から出る汚物を浴びせかけられたのだ。
自分でなければショック死していたかもしれない――と思うと共に、
普段この男が行く店の女達……そういった店で働く人間はこんな事をさせられてるのかと思うと、
なんだかどうしようもなく式は泣きたくなって、
あろうことか、ほんの僅かに、「羨ましく」思った。
……開いた口で呼吸をして促されるままに舌を伸ばすと、舌先が男の肛門に触れる。悪夢の味がした。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。
伸ばした舌先を男の尻穴の皺を数えるように丹念に這わせていく。
そうすると男が豚の鳴き声に似た笑い声を上げて式の尻にも同じようにした。
身体に確かな快楽が走る事を感じながら男にやられた事を同じ様に、式は繰り返す。
人間以下畜生以下の生物として最底辺の行為を繰り返し、没頭する。
汚部屋に水音と荒い呼吸だけが響いている。
畜生以下の汚物趣味の豚の呼吸と、それと同等以下に堕ちた女が出しているものだった。
「ぅ゙……ぐ、ぅ゙」
「あああ、ああああーあああーああーああああ、あ、あ、あぅぅあ、はあ、うう、イ、イク、いくよぉ、うひふっ、ぶひっ」
「し、し、し式ちゃんのアナルなめでイ、イ、イ、イイイ、イクからね、ちゃんと飲むんだよ、うぷっ」
暫くして、尻で潰している方の畜生がかろうじて人間のものだと聞き取れる吃音だらけの言葉で呻く。
そうして腰を浮かせて体勢を変えたかと思えば自分でシゴいていたのだろうか、ギンギンに張り詰めてカウパー塗れの、
皮を一度も剥いた事も店以外でまともに洗ってもいないのだろう黒ずんだペニスを式の口に突っ込んだ。
「あ~~~~いくいくい、い、いく、いくぅ、いぐ、いぐぅっ、うううっ、うおおおっうううっぶぅぅぉおおっ、うふぅぅぅっううううっ」
「お゙、ぉ゙、ぁ゙」
「おおおおおおっっっ、ういうううううううっ、ういいうううううっ、ううふうぅっっっっっ」
ぶゆるるるっ、どぶううっ、ぶりゅうっ、ごびゅううっ、どろおぉおっ、ごびゅ、ごっぶっどぼおっ。
式の可憐な口に突っ込まれた汚黒ペニスの鈴口から粘ついた汚泥の様な精液が吐き出される。
式には見えていないが、男の食生活と日常から黄ばんでいて酷く汚れたものだった。臭いも事更に酷い。
精液を吐き出す喜びに男の皺だらけの陰嚢が震えて式の顔にびたんびたんとあたっている。
無限に続くかのように吐き出される吐精を、式の喉と胃はごくりごくりと音を鳴らして受け止めて、飲み込んでいた。
肺のみならず、喉が、食堂が、胃が、式の中のあらゆるものが、男に汚染されドス黒く塗りつぶされて行く。
「お、おおほほ、おほ、おほおおおほ、おほほお、ほぉおおぉおおぉ……っ」
尻の下で潰れて汚物を飲まされるという人生最大の屈辱と陵辱の憂き目にあっている式とは対象的に、
吐精を続ける男の表情は快楽に忘我を覚えたこれ以上ない幸福そうなものだった。
無理もないだろう。
極上の女を好きなように使って精を吐き出しているのだ。
肉体的にも精神的にも店でとうのたった商売女相手にそうするのとは比べようもない。
「ぅ……ぷっ……げぇ……っ」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、で、でる、でりゅぅ、う、うほ、おぉお」
「ぉ゙……、 ……っ……っ……!!? ……お゙ご゙ぼ……っ!!?」
吐精が終わって、男が小さく身を震わせたと思えば声を上げて式の頭を両手で抱えるようにしてがっしりと抑え込む。
何事かと式が酸素を求めて身動ぎすれば、喉奥までぐっと汚ペニスが捩じ込まれて、ペニスの先端から咽返る程吐き出された白濁とは、
「違う液体」が勢い良く吐き出され始める。
じょろろろろろろろ……じょぼぼぼぼぼぼ……じゃああああああーーーーーーっ。
排尿。
真っ黄色の液体が式の口内に注がれる。
勢い良く吐き出されるそれは式の口の中に収まらずペニスを突っ込まれた隙間、唇の端から溢れ出して布団を更に汚す。
飲みきれなかったものが鼻の穴から逆流して来る。
口、鼻、喉。
全てが汚水に穢されきった所でペニスが引き抜かれた男が立ち上がり、式を見下ろす。
「ぶ、ぶふ、ぶひゅぅう……あ、あああ、あーあー、こ、こぼしちゃって、き、きたないなぁ」
「そっ、そそそっ、そうじ、掃除するの、ぼ、ぼぼぼ、ッ、僕なんだからね、めめめめっ、迷惑、迷惑料、払ってももらわないと、おっ?……へっ、ひひっ」
ぐち、ぐち、ぐち、ぐち。
「は、……あ……ふー……ぅ……ふうう……ゔゔ……ぅ゙ぅ゙……ぅ゙……」
音の出処は式だった。
自分の片手指を秘部に伸ばして自慰に興じている。
もう片方の手は男の匂いが染み付いた布団を引き寄せて、それを顔に押さえつけて鼻先を埋めている。
平時凛とした美しさと清廉さを併せ持ち部屋に入った時に是迄のどんな修羅場に足を踏み入れた時よりも後悔をした、
そんな両儀式とは思えない程の無様で下品な痴態だった。
脳が壊されてしまったとしか思えない狂行。
酷すぎる仕打ちと臭いで実際に狂ってしまったのかもしれない。
今や式にとって男の臭いは興奮を掻き立てる極上の香りとなっていた。
百人がその事を聞けば百人誰一人余す事なく理解できないと言うだろう。
それほどに今の、潰された蛙かなにかのように足を大きく広げて、隠されても居ない秘所に手を伸ばし、
汚物を抱きかかえながら秘部を一心不乱に擦る式の様は「ひどい」ものだった。
「ふっ、ひひっ、ぶひゅっ」
それを見下ろして男が笑う、万人が見るに堪えないと感じるような笑みだった。
誰もが直視したがらない笑みを浮かべたまま男が式に覆い被さる。
肉と肉がぶつかる音がし始めたのは、すぐのことだった。
…
……
………
「ぶ、ぶふぅ、ぶふぅぅーっ……」
数時間が経っていた。
時計の針は頂点を周り深夜帯を指し示していた。
部屋の中にはむわっとした空気、淫気が漂っている。
行為を続ける中で隙間風が流れ込み、男がストーブに火をいれたせいだ。
窓はぴっしりと閉じられただでさえ最低な空気は籠り淫臭と混じり部屋を満たしている。
式と男の肌にはびっしりと汗が浮かび、響いているのは男女の荒い息遣いとちゅこちゅこという小さな水音だけだった。
「ん…………、ん……ぶ……」
満足気に布団の上に横たわった男の上で、寄り添うように式が隣に寝そべっている。
口は男の耳元に寄せられ、れろれろ、ねろねろと舌で耳を舐っていた。
その秘部からはどろりと濃厚な精液が溢れ出だしており、白魚の様な細い手指は互いの淫汁に塗れたペニスを、
ゆっくりと上下に扱きたてていた。
激しい行為後の甘くとろけたピロートーク、恋人同士が睦み合うような蕩けた時間。
そうなるだけの快楽と――未だに信じたくないのに気付かされてしまった、自分の癖と――を与えられてしまった。
言葉少なく決して自分から認める事は無いだろうが式は男のいいなりだ。
男に言われれば、表面上拒絶の態度を浮かべて胸中で文句を呟くだろうが、最終的にはそれを受け容れる。
受け入れてしまうだろう。
汚臭や汚物に興奮を覚え男に従うだけの見た目だけ整えられた下品で低俗な雌。
それが今の両儀式だ。
「ね、ねね、ねえ、し、し、し、式ちゃんは、さ、さああ、かれ、彼氏いるんでしょ」
「……ん……いる……」
「そ、そそそっ、そそ、そいつにめい、命令されて、男にだっ、だだっ、抱かれてるんだよねぇ、し、式ちゃんはぅぅおほっ」
「ん……」
男の言葉に答えながら、式は一心不乱に手指と舌を動かす。
男の臭いと、耳に溜まった耳垢を鼻と舌とで味わう事に夢中だった。
聞かれた質問に反射的に答えているだけであって、まともに思考しているかも怪しい。
言われるがまま、問われるがまま答えるだけだ。
「じ、じ、じゃあ、さあ、そ、そそそ、そういう趣味、なんだよね、そいつ、だ、だったらさあ、ぶ、ふひっ」
「……?」
「そ、そそそ、そいつの前でさあ、……ヤってみない……??」
「ぼく、ぼぼ、ぼくと、式ちゃんのセックスさあ、じ、じっさいにやってるとこ、み、見せてやろうよぉ」
「きききき、きっとその方がその男もよろ、喜ぶと思うんだよ、ね、ねえ?」
思いもがけない男の言葉に、式の責め手が止まる。
抱かれる?この男に、幹也の――恋人の前で?
有り得ない、とほんの一瞬だけ式の頭に理性が戻って、そんな言葉が浮かぶ。
だが、と。直後にその言葉を否定する、否定してしまう。これだけの事をやらされているのだ。
既に式自身「戻れなく」されてしまった。「そう」であるという事を自覚して踏み外してしまったのだ。
それに男の言うように、あの変態の事だ。
別の男に乗り換えられてがっかり――するという事もなく、本当に喜ぶ事だろう。
なにせこんな事をやらせる男なのだ。
ちゃら付いた男達に自分の女が抱かれる動画を見ながら魔羅をいきり立たせるようなドのついてしまう救いがたい変態なのだ。
喜びこそすれ落ち込む事など考えられない。
――だから、と式は自分の中で答えを出した。
………
……
…
「やあお帰り式、どうだった――って……その人は……」
「…………連れてきた、コイツが、お前の前で、抱かせろって、言うから」
「ぶ、ふふひ、ひっ、は、ははじめまして、き、君がし、式ちゃんの彼氏クン?そ、そそそ、そういう趣味なんでしょ?」
「だから、ぼぼぼっ、ぼきっ、僕が君の前でセックスしてあげるよ、ど、どどど、どうかな、い、いいだろ?ね、ねえ」
式は、少しだけ期待した。
目の前の男――好きな男、好きだった男、愛している男が「やめてくれ」とでも言ってくれるのを。
その言葉が聞ければ全てが元通りになる気がしたからだ。
狂ってしまった自分の癖も、目の前の男の拗れた癖も、豚畜生以下の男にされた事も、全部。
そうして待った、幹也の反応は、果たして式の――予想通りのものだった。
「うん、素晴らしい、ぜひお願いします。映像で見るより生で見る方が良いのは勿論だから」
「ありがとう式、まさかここまでしてくれるなんて思ってみなかったよ、彼はいい人だね」
「あ、じゃあ少し待ってもらえますか?ベッドと道具と……それからカメラも用意しないと」
自分程では無いにしろ普段表情を対して変えもしない、深く喜びも深く悲しみもしないような男が。
喜色満面といった様子で自分達に礼を言っててきぱきと動き始める。
隣の男も少し困惑した様子を見せた後、ぶひゅっ、と豚が鳴いたように笑う。
――ああ、何もかも戻らない。
後は、どんどんどこまでも呑底までも、狂って墜ちていくだけなのだ。
式は、聞こえてくる畜生以下の男達の声を聞きながらそう思い、瞳を閉じた。
終
キレそう。