※この作品はR-18です。

未題 - 巫女トノ猥談ヨリ着想 ソノ後   作:荒木田久仁緒

4 / 4
四 してはいけない約束


 

  寝たら気分が良くなったから、大丈夫。

 

  心配して引き止める霖之助さんを、そう言い張って振り切って、私は香霖堂を飛び出し、神社へ向かって飛んでいた。

 

  歩いて帰るのは到底ムリだったし、できたとしても時間がかかりすぎるから。

  だけど空中に浮いていても、やっぱりお尻に居座っている圧迫感は、とても重くて大きくて、どうしてもそこへと意識を引っ張られてしまう。うーうー唸りつつ飛行に集中し、できる限り速度を上げる。どうか知り合いやら記者やらに声をかけられたりしませんように、と祈りながら。

 

  まだ、着かない……神社が、遠い。こんなに遠かったっけ……?

 

  吹く風にゆらゆら揺らされ、あっちこっちへフラフラしながら、夕焼け空の中を飛び続ける。

 

  魔理沙みたいなスピードで飛べたらな……と、普段からときどき思っていることを、今日は特に強く思って、それでも必死に飛んでいるうちに、なんとか日が沈みきるより早く、私は神社へと帰りついていた。

 

  そっと着地し、乱暴に靴を蹴り飛ばして、壁に寄りかかるようにしながら風呂場へ向かう。

  歩きなれた廊下が長い。あと少し。もうちょっと。

 

「あう……。はぁ、はぁ……」

 

  悶える体をなだめつつ、服やら何やらを引っぺがすように脱ぎ捨て、洗濯籠へ入れることすらせず放り散らかしたまま、風呂場の中に転げこんだ。

 

「はー……あっ、ふぅ……」

 

  ぺたんと腰を下ろすと、挿さったままのアレが床板に当たって、またも私の身をよじらせた。

  ……しょうこりもなくイケナイ衝動が頭をもたげるけど、流石にガマン。温泉の引き込み口を開き、浴槽にお湯を溜めながら、手桶ですくって体に、そしてお尻にかける。

 

  孔のまわりに、じわっと熱がしみる感じがした。

 

「ふぁあ……」

 

  その場所へ、少しだけ体内から突き出たアレへ、手を伸ばす。四つん這いに近い格好でお尻を突き出し、後ろ手にソレを掴んで、ゆっくりと引っ張った。

 

「んっ……あっ、んぅっ……」

 

  ……ちょっと、入れてる時間が長すぎただろうか。すんなり出てこない。なんか、粘膜が貼り付いて、引きずられてるみたいな……お尻がめくれて、裏返りそう……。

 

「はぁ……ん、あ、あっ……」

 

  何度かお湯をかけて濡らしながら、ねじるようにして孔を湿らせ、少しずつソレを引き出す。ややあってようやく、ぬぽん、と全体が抜け、風呂場の床に転がる音がした。

 

「はふぅ……」

 

  抜いてもまだ、そこを中心にお尻がじくじく熱くて、しばらくのあいだ身動きできなかった。少し呼吸を落ち着けてから、お湯で体をざっと流す。ドロッドロのベットベトだったアソコも、お尻も。……洗う指先が変に沈んで、なんだかそこに深い裂け目ができているような気がした。

 

  やっと気だるい体を持ち上げたときには、窓から見える空はすっかり群青になっていて、風呂場の中は真っ暗だった。明かりをつけ、もうだいぶ溜まっていた湯船に身を沈める。全身がふわぁとあったまった。ようやく人心地ついた気分。

 

「はーぁ……」

 

  なんていうか……本当にいろいろ、ヤバかった。

  怖かった……。怖くて、恥ずかしくて、ドキドキして、気持ちよかったけど……ヤバすぎた。

 

  やっぱり駄目だ、こんなこと。

  霖之助さんの前であんなこと、しちゃいけない。いつか本当にバレて、嫌われちゃう……。

 

  ……いやいや、そうじゃないでしょ。あの人の前以外でも、どこでもダメだってば。

  うっかり新聞に載るとか絶対ダメ。今日でやめよう。やっぱりエッチなことは、一人でこっそり隠れてやらなきゃ。

 

  ごつん、と額に拳をぶつけて、その約束を頭に打ちこむ。そうしてまた溜息をついた後で、ふと違和感に気付く。

 

  身体が、妙に温かい。

 

  お風呂に入ってるんだから、温かいのは当たり前……だけど……。

  何か違う。ええと、身体の外側じゃなくて、内側がなんか……。腰の……お尻の内側が……。

 

「……はぁう!?」

 

  お、お尻の中に、お湯が入ってきてる!?

 

  慌てて触って確かめると、ひどく柔らかく緩んだ穴の中に、指があっさり滑りこんでしまった。締めつけてすらいない。空洞の中で、指先が泳いで、中のお湯がゆらゆら揺れてる。

 

  うわわわわ。これはまずい。ぐっと力を入れてみても、あんまり閉じないし。

  まいったなあ。やっぱりちょっと長く入れすぎてたせい?

 

  そのうち、閉じるよね……?

 

 

  ……もし、このまま閉じなくなったら、どうしよう。

 

  ふと頭をよぎったその考えに、風呂が氷水になったみたいな悪寒が走る。

 

  嫌だ。そんなの、困る。困るなんてもんじゃない、最悪だ。

  そんなことになったら、外も歩けない。霖之助さんにも、誰にも会えない。そうなった理由すら、誰にも言えない……!

 

  どうしよう、どうしよう、一体どうしたらいいの!?

 

 

  ……お……落ち着け。落ち着いて。これは、そう、まだアレを抜いたばかりだからだ、きっと。

  しばらく触らず、そっとしておけば、だんだんすぼまってくる。そのはずだ。

 

  今までだって、時間が経てば元に戻った。これもそのうち、ちゃんと閉じる。大丈夫。大丈夫だ。そう信じよう。そうでないと、怖すぎる。

 

  もし仮に、そんな事態になったとしても……恥を忍んであの薬師を頼れば、たぶん何とかしてくれる。想像しただけで死ぬほど恥ずかしい上に、大きな弱みを握られることになるけど。でも、お尻が開きっぱなしの人生よりは、遥かにマシだもの。

 

  ああ、もう、本当にダメ。お尻で遊ぶのも控えなきゃ。

  少なくとも当面、しばらくの間は。お尻がちゃんと元に戻るまでは……。

 

  改めてごんごんと額を殴りつけて、湯船を出る。

  ……お尻から、入っていたお湯が流れ出してるのがわかる。うう……どうしよう。本当に大丈夫かなぁ……。

 

  そこの状態がどうにも心配になって、私は風呂場の床に座りこみ、頭と背中を壁にもたせて、お尻を前に突き出した。

 

  大きく足を開いたその向こうに、そっと指を伸ばす。

  おそるおそる、手探りで触ったその場所は、相変わらず柔らかく拡がったままで、押し当てた指がするりと二本、三本……よ、四本も……。

 

「あうぅ……」

 

  やっぱり、ダメになっちゃったのかも……私のお尻の穴……。

  自分の愚かさに、涙が出そう。

 

  ……そう、そんなどうしようもない後悔に、泣きそうになってるのに。

 

  くちゅくちゅ、とその孔から、音がした。

 

「……んっ……」

 

  ぱっくり開いて、ユルユルになった私の孔が……だけど同時に、とってもふわふわと温かくて、敏感になっていて、それがとろけるほど気持ちよくて……つい私は、そこを指先でいじってしまっていた。

 

 

  馬鹿。馬鹿。ほんと、救いようのない淫乱。

 

  頭のどこかで、どうせダメになったんなら同じだよね、なんて考えてる馬鹿。

  むしろ……ダメになっちゃったことに、興奮してるのかもしれない……変態。

 

  でも……。

 

  ……ちょっとだけ……ちょっとだけだから……。

  お風呂から出るまで……ちょっとだけ。出たらもう、絶対いじらないから……。

 

 

  拡がったいりぐちを、指で更に押し広げるように(こす)り、こりこり引っかく。

  重ねて突っこんだ指の隙間から出る水音が、どんどん大きく、粘ついてくる。

 

「あぁ……ん……。きもち、い……よぉ……」

 

  でも、もっと欲しい。

  もっと奥まで……欲しい。

 

  そう思った一秒後にはもう、床に転がしたままだったアレに手を伸ばしていた。

  押し当てる、という感覚すらほとんどなく、ぬるんとそれがお尻に呑みこまれる。

 

「ああ……」

 

  すごい……こんな、簡単に……入っちゃった……。

  お腹の奥まで、あっつくて……じーんと重い……。

 

  また……入れちゃった。こんなの、もうやめようって、思ったばかりなのに……。

  せめて……入れるだけ。そう、動かすのはやめよう。刺激するのは、こっちだけで……。

 

  奥まで差しこんだまま、アレから手を離す。そして、その棒でいっぱいに広げられ、ねっとり(うごめ)いているような気もするお尻の孔の手前、小さく震えるアソコに向かって、私はゆっくりとお腹の上へ手を這わせ────

 

 

「……ん?」

 

  下腹部を撫で下ろした指先に、ちらりと何かが触れた。

  なんだこれ?

 

  何か、生えてる。

 

「っ!」

 

  慌てて顔を下げ、体を曲げて、そこを見下ろす。

  薄明かりの中、目をこらした先に、何かの影。

 

  割れ目の、少し上のあたり。薄茶色の、細い細いものが、何本か。

  これ、って。

 

 

  どきどきどきどき。

  心臓が高鳴る。

 

  そっと、その一本を、指でつまんでみる。

  ゆっくりと、慎重に、やさしく手を持ち上げると。

 

  肌が引っ張られる、かすかな感触がした。

 

 

「……毛、だ」

 

  生えた。

  ついに私にも、毛が生えたのだ。

 

  まだ、ちょろっと、ほんの少しだけど。でも、生えてる。……やったあ。

 

  私は……私のカラダは、着実に、オトナに近づいてる。

 

  そうだ、これからも、もっともっと……背だって伸びて、いろいろ膨らんで、女らしく魅力的になって。霖之助さんに似合う相手になって……一緒に歩いて、一緒に過ごして、一緒に暮らして……そして、一緒に、いっぱい、そういうことをして……そしたら……。

 

 

  毛の生えたところの、少し上を撫でる。

 

  想像する。そこが大きくなって、その中に何かが宿っていることを……いつか、きっと。ううん、絶対────

 

  ついさっきまで、お尻の惨状に嘆いていたことなどすっかり忘れ、そんなちょっと人には言えない空想に胸をときめかせながら────同時に私は、別な意味でとても人には言えない妄想を、頭の中に巡らせていた。

 

 

  ────その間は、確か……できないんだよね。

  そんな話を、どこかで聞いたような気がする。

 

  霖之助さんが、求めてきても……そう、前では、できないから……だから────

 

 

  入れっぱなしだったアレを、また手で掴む。

  ゆっくりと、それを前後させる。ぬる、と入り口をこする感触が、お腹の奥に、頭の奥に、ぞわぞわ響く。

 

 

  ────だから……そのときは本当に、こんなふうに……お尻、で……。霖之助さんの、アレを受け入れて、満足してもらうの……。

 

  ああ、でも、そうしたら……バレちゃうのかな……。そっちは初めてじゃないって……ずっと前から、エッチな遊びしてた、って……。

 

 

────簡単に、入ったね。……もしかして、前から自分でしてた?

 

────そんなこと……。ただ、今日のために、少し、慣らしてただけ……。

 

────そうか、ありがとう。動くよ、霊夢……。

 

 

  ……それで、信じてもらえるかなぁ……とか。

  バレちゃったら、恥ずかしいけど……それはそれで、エッチな子だねっていじめられるの、興奮しちゃうかも……とか。

  そんなことをチラと考えて、すぐに頭から追い出し、私はアレを動かす手の動きを速めていった。

 

「ふーっ、う、はぁ……。っあ、んっ、はぁ……」

 

  じゅぽじゅぽ、ぐぽぐぽ、いやらしい音がお風呂場に響く。

  膨らんだ先端の段差が、何度も孔をひっかけて、その度にそこがじんじん熱くなっていく。

 

「あーっ……はっあ、んんんっ……! あっ、あっ、んぁあっ……! 霖之助、さんっ……霖之助さぁんっ……!!」

 

  お尻だけじゃない。アソコもぱっくり開いてて、そっちはいじってもいないのに溢れたお汁がトロトロ流れ落ちて、お尻をドロドロに濡らしてる。

 

  気持ちいい。

  お尻が気持ちいい。

 

  お尻で、えっちするの、気持ちよすぎる。

  手が止まらない……。こんなの、やめられるわけ、ない……。

 

  ……そうだ、私が悪いんじゃないもん……おしりが、きもちよすぎるのが、悪いんだもんっ……!

 

  お腹の中、ぐちょぐちょになった穴の入り口から、アレの先端が当たっている場所までが、じわじわ熱くなってくる。

  その熱はお腹全体、身体全体に広がっていき、頭の奥までがぶわーっと熱くなって、ふらふらぐらぐら揺れ始める。

 

  なんだろう、これ……。

 

  なんだっけ……?

  自分の芯が、甘く融けてくみたいな、これ、この感じ、どこかで────

 

  あっ……これ、って……

  なにか、来る……

 

  そうだ、夢の中の、あの感じ……

  あれ……あのときの、あれが、来るっ……

 

  アソコも、お豆も、触ってない、のにっ……お尻の、お腹の奥、だけでっ、あれが、来ちゃうっ、あ、おしりでっ、わたしっ、イッ────!!

 

「────ッッッ~~~~~~~~……!!!!」

 

 

  頭の中が、桃色に沸騰する。

 

  お尻が、お腹が、背骨が燃えて、とろけて、したたり落ちて砂糖菓子になる。

  きもちいい。きもちいい。キモチイイ、キモチイイ、キモチイイ────

 

  あ……あ……

  これ……やっぱり……すご……い……

 

  てっぺんから、おりて、これないっ……

  あっつい、ねとねとが……いつまでも、あたまの、なかで、ゆらゆら、して……

  きもち、いー……

 

 

  お尻に深く突きこまれた棒を、両手でしっかり押さえたまま……その棒に突かれて粉々に砕かれ、崩れて人間でいられなくなった私は、ただべちゃりと床に広がってぷるぷる揺れてる、快楽だけで出来た軟体のイキモノになっていた。

 

 

  どれくらいの時間、その甘い沼に沈んでいただろう。

 

  長いあいだ高止まりしていた快感の波が、ようやく少しだけ落ち着いてくる。

 

「っ、はっ、はーっ……はーっ……ひぃーっ……」

 

  何度も大きく、深く、呼吸を繰りかえす。胸と頭に空気が入って、意識を覆っていた霧が少しずつ晴れてくる。

  それでも消えない余韻の中で、ひくひく震えるお尻の穴が、今もそこを深く埋めるものに、ふんわり吸いつこうとする感じがした。

 

「……ん……ふ、ぅ……っ」

 

  力がうまく入らない腕で、またちょっとだけ、それを動かしてみる。粘液に濡れた表面が、()れきった肉孔をぬるりとこすり上げ、押しこまれた先端が、お腹の奥をぐにゃりと刺激して……冷めかけていた頭と体が、また熱く沸き立ってくる。

 

  ……たった今、こんなに深く、イッたばかり、なのに……。

  ホント、どうして私って、こんな……。エッチで、スケベで、淫乱で……。

 

  ……ううん、違う。違うの、これは、私のせいじゃなくて。

  そう、シたいのは、私じゃ、なくて……。

 

 

────ああ……霖之助さんの、まだ、こんなに、硬い……。

 

────霊夢の中が気持ちよすぎて、治まらないんだ。……もう少し、いいかい?

 

────うん……私の体は、ぜんぶ霖之助さんのものだから……何度でも、好きなだけ、していいよ……。

 

 

  ……閉じたまぶたの裏で、そんな都合のいい会話をして。

  それから改めて、大きく足を広げた、その中心で。

 

  太くて長いかたまりが、再び私のお尻をえぐった。

 

「んぁっ……!」

 

  全身を貫く快感に、体がのけぞり、びくびく跳ねて、燃え上がる。

  ぐちゃ、ぶちゅ、といやらしい音がまた、恥ずかしい穴からあふれ出す。

 

  それから、私は……(  )霖之助さんが満足するまで(  )、何度も、何度も、お尻を差し出して、激しく腰を振って、はしたない鳴き声を風呂場じゅうに響かせて、快楽に濡れた穴がめくれかえり、ぐちゃぐちゃに融けくずれて、ぽっかり開ききってしまうまで、イッて、イッて、イき続けて、そして────

 

 

  見事に、風邪を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

  穏やかによく晴れた、うららかな昼下がり。

 

  ちゃぶ台に頬杖をついて、縁側の向こうを眺めていた私の視界に、すとんと白黒の影が舞い降りた。

 

「よっ。どうした? ぼーっとしちゃって。まだ風邪が抜けてないのか?」

 

  手の先でくるくる回した箒を立てかけ、するりと入ってきて正面に座る。

 

「んー? いや、そっちはもうぜんぜん……つか何日前だと思ってんの」

「何日も寝込んだから心配してるんだぜ。また泊まりで看病なんてさせないでくれよ?」

「うん。ありがとね」

 

  にっかり笑って言う魔理沙に、素直にその時の感謝を伝えて、それからいつもの世間話。

  何か起きたか、妖怪の動向は、里の様子は、明日の天気は、お酒の出来は……。

 

  今日も、特に何にも変わらない。平穏な、いつもどおりの、変わらない幻想郷。

 

 

  ……何も変わらない、か……。

 

  でも、本当に何もかも変わらないなんてことも、ない……よね。

 

  そんなことを、ふと思った弾みで。

 

「ねえ、魔理沙ってさ、毛、生えてる?」

 

  他愛もないお喋りのさなか唐突に、はっきり聞いてしまってから、なに言ってんだ私は、と思う。

 

  魔理沙は、とっさに意味がわからなかったようで、首をちょっとひねってから、自分の髪を両手でつまんで、ひょいと顔の横に持ち上げる。

 

「カツラに見えるか? これが」

「そうじゃなくてさ。あの下の……あそこの毛、生えてるかって、聞いてんの」

「……はぁ!?」

 

  大口から大声を出した魔理沙の顔が、なんとも言えない素っ頓狂な表情になった。なんだこれ。左右ちぐはぐで、口がかくかくして、見開いた目が微妙に泳いでて……おもしろ。

 

「い……いきなりなんだよ、そんな……生えてないよ、まだ。お前だって、そうだろ?」

 

  一転ちょっと顔を赤くし、眉をひそめて、なに言ってんだお前、という顔をする。まあ、私もそう思うけど。でも。

 

「私は生えてるし」

 

  流石に真正面から口にするのは恥ずかしくて、あさっての方に顔を向けながら、そう言い放ってやった。

 

「……はぇっ?」

 

  そんな声がした方へ、ちらりと横目を走らせたら、ぽかんと開いた口と、ぱちくりする丸い目が見えた。

 

「嘘だろ」

「嘘じゃないもん。生えたの、この前」

 

  少しの間、何かを言おうとして口をぱくぱくさせていた魔理沙が、いきなり立ち上がる。

  そして、すぐ隣へと飛びこむように座ったその手で、私を床に突き倒した。

 

「あ!? ちょっ、なにすんの!?」

 

  倒れた私のスカートを掴んだ魔理沙の手が、そのままそれをまくりあげ、中に頭を突っこんで……まてまてまて、こら!

 

「やっ、やめてよ! やめろっての! 脱がせんなっ!」

「ほんとに生えてるなら見せろよ! 減るもんじゃないだろ!」

「やだ! もし減ったら困るから、見せない」

 

  ったく、なに考えてんの、こいつ!

  必死にスカートとパンツを押さえて、なおも潜りこもうとしてくる魔理沙を蹴りはがす。

 

「証拠を見せなきゃ、信用しないぜ!」

「別に信用しなくったっていいけど? 事実は変わらないし」

「うぐぐっ……」

 

  私の言葉に歯噛みをし、心底くやしそうな表情を浮かべる。

 

  ふーん、そうかぁ。

  魔理沙は生えてないのかぁ。うんうん、そうだろうと思った。ふふん。

 

「あー!? なんだよその勝ち誇った顔は! ついこないだ看病してやった恩を忘れたのかよ!」

 

「それはありがたいと思ってるってば。お礼だって何度も言ったでしょ。でも、それとこれとは別ー」

 

「んなろっ……!」

 

  眉を逆立てて、魔理沙はすっくと立ち上がる。

  どたどた縁側へ駆け出して、立てかけてあった箒をひっつかむと、びしりと私を指さし、

 

「いい気になるなよ! 私だってなぁ、毛なんてすぐ生えるんだからな! 見てろよ!」

 

  そんな捨て台詞を残して、勢いよく青空の中へすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

  魔理沙は、誰かを怒らせたとき、追いかけられたときには、一目散に逃げるけれど、負けて悔しいから逃げる、ということはしない。

  あれは逃げたのではなく、一時撤退。つまり、勝つ方法を探しに行ったのだ。

 

  早くオトナになる方法。

 

  魔法の森へ何かを求めてか。それとも、あの引きこもりの図書館だろうか。

  まあ、そんな都合のいいモノ、そうそう見つかるとは思えないけど。もしあったら、とっくに誰かが見つけて広めてる。それに多分────きっとそれは今なお、外の世界で信仰を集め続けている、強固な幻想に違いないのだから。

 

  それでも、あいつなら見つけ出すかも。そう思わされてしまうのが、魔理沙というやつなんだけど。

 

 

 

  けど、まあ、とりあえず。

 

  ちょびっとだけど、毛は生えた。背だって私の方が高い。胸も……えーと、魔理沙よりは、大きいはずだし。

  だから、私のほうが、ずっとオトナに近い。

 

  つまり、霖之助さんにも、近い……はず。

 

  まだまだ、子供としてしか見られてないだろうけど。でも、すぐに大きくなる。絶対なる。ならなきゃ。

  ただの妹分から、霖之助さんに似合う大人の女になって。もっともっと、心の距離を縮めて。そして、そして……体の、距離も……。

 

 

  ……だからっ!

  どーしてすぐ頭がそっちに行くのっ!!

 

  あー、もー……ほんとダメだ、私。

  ヒマさえあれば、エッチなことばっか考えて。自分が嫌いになりそう……。

 

 

 

  ……でも。

 

  ちゃんと、我慢はできるし。

 

 

  今日で、もう一ヶ月。

  そういうことを、しばらくしないって決めて、我慢できてる。お尻だって……心配してたけど、ちゃんと元に戻ったし。

 

  そう、私は自分を律することのできる、オトナ、なのだ。

  それは、自信を持っていい……はず。

 

  だから……。

 

 

  ちょっとだけ。

 

  自分との約束をしっかり守ったごほうびに。

  一回くらいなら……いいよね。

 

 

  明日からは、またしばらく我慢するから。

 

  一回だけ。絶対、一回だけだから……。

 

 

  そう誓いながら私は、高く晴れた真昼の空を隠すように、障子をぴったりと閉じた。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。