「……アナタのせいよ。アナタのせいで私は…こんなにも苦しい想いをしてるのよ?」
目の前にいる女神が、俺の首を絞めながら恨み言を吐いてくる。
「だから死んで。死んで永遠に私のものになりなさい。じゃないと私……おかしくなりそうなのよ」
その言葉と共に彼女の両手に掛かる力が強くなり、俺の首は圧迫され苦しくなる。
「止めて…くれ……苦…しい……エレ…シュキ……ガル……」
「気安く呼ぶな……いいから早く死んで!!」
名前を呼ばれたくなかった彼女は思いっきり俺の首を絞めたと同時に、何かが折れる音が聞こえた。
「が……ぅぁ…………」
少しずつ、目の前が真っ暗になっていく。最期に俺が見たものは、俯きながら涙を流す彼女の姿だった。
「…………」
目の前で、彼が死んでいる。私がこの手で直接殺したからだ。
「……これでアナタは、私のものよ」
嬉しい。その感情が私を満たしていく。これで二度と彼を失う事はないし誰からも奪われない。
「あは、あははは……っ」
力の抜けた笑い声が私の口から出ると同時に、目から涙が溢れ出す。意味が分からない。嬉しいはずなのに段々と胸の奥が苦しくなっていく。
「何なのよ…この気持ち……。私は…ただ……」
アナタに恋をした。好きになってしまったの。目の前で誰かに盗られるのが嫌だった。そんな事をされる位ならこの手で殺せば良いと思った。だから殺したの。
「ぐすっ…うえぇぇん……」
今抱いた想いをどうすれば良いのかわからなくなった私は、彼の死体に縋りながらすすり泣く。冥界の女神としての役目が頭から離れる位にずっと……。
「……ぅ」
気が付くとそこは、身に覚えのない場所だった。辺りを見渡す為に立ち上がった俺は、自分が今どんな状況なのか確かめる。
「俺は…何でここにいるんだ……?」
困った事に、俺はここへ来る前の記憶を思い出せなかった。
「……え、待って?俺って…一体……?」
それだけじゃない。自身についても綺麗さっぱり思い出す事が出来なかった。
「こ、ここから出ないと……!でもどこへ行けば良いんだ?」
とにかく行動を起こさなければいけない。何もしないで野垂れ死ぬよりはずっとマシだ。そう思った時、背後から誰かが俺に声をかけて来た。
「ねぇ、待って」
その声はやけに甘ったるく、背筋が凍ると同時に安心感を覚えるものだった。振り返るとそこには、嬉しそうな顔をする金髪の女がいた。
「……誰?」
俺がそう言うと、目の前の女は悲し気な顔をする。それが理解出来ず俺は困惑する。
「……私の事、覚えてないの?こうしてまた会う事が出来たというのに……」
女は俺の事を知ってるようだが、こっちは本当に何もわからない。背を向けて逃げようとしたが、その前に女が動き俺を抱きしめる。
「お願い逃げないで。私の前からいなくならないで。アナタの事をずっと探してたのよ」
女の冷たい体温が俺の体に伝わってくる。誰かに抱擁される何て初めてのはずなのに、不思議と拒む気になれない。
「……離してくれ」
「絶対に嫌」
頼むから離して欲しい。誰かにこんな事されると体が震えてしまうんだ。
「……ぁ。そうだったわね。アナタ、人に抱き締められるのが嫌だったんだっけ」
そう言って女は申し訳なさそうな顔をして俺から離れる。
「正直に答えて。アナタは私が誰で、ここがどこかも本当に覚えてないの?」
その質問に無言で俺は頷いた。
「そう……わかった。なら付いて来て。歩きながら説明するから」
そう言って女は背を向けて歩みを進めていく。俺は今の自分の状況を聞く為について行った。