『そういえば聞いてなかったんだけど、アナタの名前って何かしら?』
『……名前?』
そんな事を言われてもわからない。俺には名前が無いのだから。
『……もしかして地上にいた頃のアナタって、ずっと名前が無いまま暮らしてたの?』
『……あぁ』
それを聞いた彼女は頭を抱えており、その様子を見た俺には全然理解出来なかった。名前の有無で苦しんだ事が一度も無いからだ。
『だったら、今から私がアナタに名前を与えます。光栄に思いなさい!』
突然彼女が大きな声を出したせいで俺の体が震えた。今になっても、誰かの大声は苦手だった。
『良く覚えておきなさい。アナタの名前はーーーー』
「それじゃあ、いつも通り見回りお願いね」
「わかった。何かあったらすぐに念話で伝える」
そう言って俺達は別行動をする。冥界に来てから2週間は地形を知る為に彼女と一緒に行動をしていたが、それ以降は離れる事が多くなった。
「地上から落ちて来た魂を捜せとはな……」
彼女と契約を結んだ事で身体能力や五感が多少高くなり、する前と比べて軽い無茶も出来るようになった。
「……どこにいる?」
辺りを見渡すと、岩の近くに4つの魂が1か所に集まっていた。
「こんな所で何してる?そんな風に固まっても意味ないぞ?」
魂達に語り掛けても意味なんて無い。彼らには何を言っても通じないし、俺の言葉は理解されない。
彼女から借りた力の一部を行使して彼らの死因を視る。
「はぁ……。4人の死因は……両親からの虐待か……」
全員は血の繋がりがある兄弟で、両親から受けた理不尽な虐待が原因で死んだと知った時、俺はふざけるなと叫びたくなった。
(何故親の勝手な都合で死ななきゃいけない。子供はただ普通に生きてただけなのに……!)
目の前が真っ赤に染まり怒りで気が狂いそうになったが、彼女の言葉を思い出す。
『死者を想うアナタの気持ちを否定するつもりは無いわ。でも、だからと言ってその感情に呑まれるのは駄目よ?それが続いたら冥界で眠る魂達の管理が出来なくなるのだわ』
頭では分かっていても心で納得する事が出来ないが、今は自分の感情を律して彼らの安寧を優先するのが先だ。
「4人分の檻は……ちょうどあるな。地上で受けた傷、ここで癒えるといいけど……」
そう言って俺は彼らを檻に閉じ込めた。この1日の仕事が終わるまでずっと、魂を見つけては檻に閉じ込めて、それが足りなくなったら作ったりの繰り返しが続いた。
「アナタ、調子はどう?」
彼女がここまでやって来て、俺に優しく語り掛ける。
「今日はこの魂を入れるので最後だ」
目の前にある魂を檻に入れながら俺はそう言った。
「ありがとう。アナタがここに来てから、魂の管理や冥界の見回りが前よりも注意深く出来る様になったから」
彼女から礼を言われて俺は少し恥ずかしくなる。逃げるようにその場から去ろうとすると、彼女に腕を掴まれる。
「待って。今日は……一緒に寝ましょう?」
「……は?」
一瞬彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「最近私達、離れてばかりじゃない。この寂しさを埋めて欲しいのだわ」
彼女は顔を赤くしながら体をモジモジさせる。それを言われて、俺も彼女と一緒にいたいという想いに満たされる。
「お前がそこまで言うなら」
「ふふっ。ありがとう」
俺達は恋人繋ぎをしながら寝床まで向かって行った。