エジプトのルクソール。ホテルの一室。
ベッドのスプリングが軋みをあげていた。
身長190を超える初老の男が、若い女を組みしいていた。
女は誰もが振り返るような美人。とりわけそのセクシーなヒップラインは道行く男を魅了し続けている。
こんなはずではなかった。攻めていたはずなのに、攻められている。落とそうとしていたのに、落とされようとしている。
DIO様以外にそこをゆるしたことは無かった。
それでも、忠誠の誓いに数回抱かれただけ。DIO様は、実験目的だとか以外に女の相手をしないのだろうか。
DIO様にとっては、たくさんいる女の一人。スタンド使いだから、多少の優遇をしてくれるだけ。
それぐらい承知の上で、身も心も捧げてきた。
それにしても、良いアングルだ。マライアみたいな女はバックで突くのが至高だろう。
処女同然の締まりの良さだった。
美しい尻から背中に舌を這わせ、その肩を舐める。その下で揺れる二つの膨らみを下から掴みあげる。
こんな爆発力があったなんて。荒々しくも、繊細なタッチで攻めてくる。
こんなふうに、優しく責められたことなどなかった。
マライアは、手袋を噛んで、声を出すのを我慢しようとした。
始末しにきたはずの敵だったなのに。マライアは、その「男の下」で喘いでいる。その紅潮した頬を隠すことなどできない。
ジョセフに触れられたところが赤くなり、熱を帯びているようだった。
とうに隠者の紫の拘束は解かれている。マライアが本気を出せば、男を突き飛ばし、反撃に出ることも可能なはずだった。
しかし……現実は…
「DIO様……私はDIO様のものです……」
別の男の名を言われて良い気はしない。若い頃の悪戯好きなところが出てきたのか。マライアの片脚を抱き抱えると、より奥へと届かせるように、側位に体位を変える。
ここかな、ここかなと突く箇所を変えていく。
「ほれ、ワシとDIOどっちのほうがいい?」
マライアは、その質問の屈辱さに喘いだ。あのDIO様、”ご自身”と比較することすら、おこがましいのに。
「このエロオヤジが!」
「ほれ…」
「あんッ………ばかぁ…」
まったくどっちが悪役だか、分からない。
今まで誘惑してきた女とは思えない。ギャップがある。
老練な男の手腕に翻弄されつつあった。
男は、ごろりと転がし、女をベッドに仰向けにした。
もはや抵抗することもなく、体はだらけており、その女の顔はどう見ても蕩けていた。
怜悧に彼を責めていた面影はなく、口はだらしくなく開ききっている。
「まったく、どんな顔しとるんじゃ…」
「ジョセフ……あんたなんかにぃ……」
女の股を抱き抱えて、M字に開く。
タイツは伝線してあちこち、破けていた。再び中心部に埋めていく。
いやいやと逃げようとする腰の動きすら、男を楽しませる。
どうにもからかいたく、いじめたくなる。
男は、腰の動きを止めた。
「えっ」
「ほれ、ワシは動かんよ」
「あんたのほうがよっぽど悪い男よ…ジョセフ…」
くっと唇を引き締めて言う。
「このエロオヤジが…」
マライアは、起き上がると、ジョセフに抱きつかんばかりに騎乗位になった。
敵の女を身も心も落としてやらなければならない。
それは、目の前の女を落としてやりたいという本能的な欲求だった。
「あんたなんかにぃ……」
「やめるか?」
「ダメ…よ…」
「誰なら、いいんだ?」
「アアン…ジョセフ…ジョセフが…」
「聞こえんなぁ?」
「…ジョセフがいいですぅ……」
「ちゃんと、言うんじゃ」
「……DIO様、ごめんなさい…わたしはぁ…ジョセフのものになりますぅぅぅぅ…」
別の男に征服されていく。塗りかえられていく。
ジョセフという男に屈服したことを認めた瞬間だった。
マライアは、すとんと腰を落とした。
ミニスカートは腰まで捲くれ上がり、要をなさなくなっている。
黒のタイツはあちこち破れ、腰を振って、快楽を得ようとする。
ジョセフに身体の芯まで突かれる。貫かれる。
月明りが、ホテルの室内を照らす。女は、乱れていた。
「はぁ…はぁ…ああっ…あんっ……」
今まで信望していた男…DIO以外の男に抱かれている。
女の上半身が上下に跳ねる。
豊満な胸がブルンブルンと揺れて、月明かりの下に照らされる。
美しかった。とても、淫らだった。
身も心も堕とされていく。
「吸ってぇ、私のおっぱい吸ってぇ」
DIO以外の男の名を呼ぶ。
「ジョセフぅ…」
興奮が高まっていく。
(まずい、このままでは)
ジョセフは、あわてて腰を引き離そうとしたが、無駄な抵抗だった。
マライアは、長い脚をジョセフの腰にぐいと絡ませた。
『バステト女神』で、男の下半身と己の下半身をそれぞれS極、N極にした。これで、離れられない。
「このまま…このままでイイから…このまま、ちょうだい…」
「い、いかん…」
女に請われ、最後に残っていた理性の砦が崩れていく。
それは、女として屈服させられた男の精液を子宮で受けたいという本能だった。
子宮を、擦りつけていく。
子種を子宮で受けることになる。DIO様以外の男の精液を。
欲しいのだ…主の変わった証を。
「私に、ちょうだい…」
マライアは、ジョセフにキスの嵐を浴びせた。
この男が愛おしいのだと気づいた。
「ジョセ…フ…」
男の肉棒が女の中に精を打ちこんでいった。
翌朝。
ジョセフが起きると、その傍らには、まだ寝息を立てている銀髪の女がいた。
(マライア…)
敵だった女だ。だが、一晩を過ごし、愛おしささえ感じていた。
「ジョセフ……」
マライアは、起きて気付くと目を逸らした。ジョセフの腕を枕にしながら。
昨日は乱れに乱れてお互いを求めてしまった。
とんでもないこと、いけないことを、してしまった。そんな罪悪感と後ろめたさがお互いの中にある。
「どうじゃ、まだ、DIOのところに帰りたいか…わしらと一緒の旅に来ないか」
「いやよ」
「わたしは、あなた達の味方はしない」
「しかし…」
「でも、安心して。DIO様の下にも、戻らない」
DIO様に対する思いは、崇拝とか心酔に近いものだったけれど。一度は、忠誠を誓った方をこれ以上、裏切ることはできない。
これがスタンドバトルでの敗北なら、リベンジの目もあったのかもしれない。
だが、女として、落とされてしまった。
いっそ、DIO様に、首を跳ねていただきたい。
だが、それは女を取られた腹いせに女を始末する事になり、DIO様のプライドをも傷つけてしまう。DIO様にそんなことをさせたくない。
今さら帰ることもしないが、せめてもの義理立てとしてジョセフ達の味方をするつもりもないのだった。
「あんたは、気に病むことはないぞ。ワシみたいなワルい男に引っかかっただけだ」
「ジョセフ、あなたこそ気にすることはないわ。身の処し方は心得ている」
お互い言うまでもないことだった。これは”一夜の過ち”でしかないのだ。
「昨日のことは忘れるわ。さよなら。もう会うこともないでしょうね」
DIO様の部下の報復を避けるためにも、どこかに雲隠れするつもりだった。
誰にも何も告げずに。それが、一番、よい。闇の女は、闇に帰るべきなのだ。
「そうか…悪い男に引っかかるんじゃないぞ」
マライアは、いつものクセで煙草を取り出そうとしたが、やめた。
「煙草は…煙草はやめるわ…」
初めてDIO様以外の男の言うことを聞いた気がする。
「長生きしたいもの」
一夜を朝まで男と共にするのも初めてだった。このわずかなやり取りさえ、貴重に思えた。
マライアは、自分の中に芽生えつつある思いに気がつきつつあった。
ジョセフにとっては、敵。行きずりの相手。気紛れに抱かれただけ。
ただの愛人にもなれない女。
「DIO様以外にもいい男はいるわ」
精一杯のやせ我慢のつもりだった。
(ジョセフ…あんたのことが……)
喉元まで出かかった言葉を押し留める。気持ちなど伝えても、意味が無いことは分かっている。
この思いを煙草で気を紛らすこともできないなら、どうして生きていけばいいのだろう。
「マライア。昨晩とはずいぶんと様子が変わったようだの」
「フン…」
マライアは、男の厚いとんとんと胸板を叩いた。
「うぐっ」
この男は、なにも分かっていないのだ。
「すべてが終わって、行くところが無ければ…いくらでも手助けするぞ」
「…………」
「君は、若くて綺麗だ。いくらでもやり直せるじゃろう」
これから、この男は、DIO様との戦いに赴く。もはやどちらの無事を祈ることすらできないが…。
DIO様相手に戦って、生き残ることすら難しいだろう。
酷な男だ。何もしてやれない女に、せめて、何かしてやろうというのか。最後の最後に、そんな残酷な優しさを見せるなんて。
「いらないわ。そんなもの。二度と会いたくないし、探してこないでちょうだい」
「…そうか…達者でな……」
マライアは銀髪をもちゃもちゃと撫でられる。
(でも、忘れないで。わたしはもうあなたのものなんだから)
彼女は、何も言わずに、ジョセフに微笑んだ。
それは、彼女が今まで、誰にも見せた事のない、ジョセフにだけ捧げられた顔だった。
「お願い…最後に……」
せめて、最後は、濃密な思い出を。
抱き着いたマライアと、ジョセフの腹の間で、次第にあるものが大きくなっていく。
「い、いかん」
「朝から、元気ねぇ。もう、ここ、私の中に入りたいって、言ってるわ」
マライアは、それを掴むと、流れるような仕草で、自らの秘部にぬぷぬぷと沈めていく…。
限られた時間しか残されていないのなら、ぎりぎりまで繋がっていたかった。
「ねえ…ジョセフ……きて」
二人は再びシーツの中にくるまった。
浅黒い肌と褐色の肌が絡み合う。二つは融け合いながら、最後の一時を過ごした。
「あなたって、スゴイわ…♡」
軽くキスをする。
「あなたの孫みたい年だけど…あなたの女になっても、いいくらい…なんてね…♡」
はぁはぁ
深く舌を入れ、互いに貪るようなキスを重ねる。
「マライア…!」
「いいから…」
魅惑的な脚を男の腰に絡ませ、豊満な柔らかい乳房を潰れるほど胸板に押し付けて囁いた。
「……私の中に………だして…♡」
女は男の出すものを、すべてその肚で受け止めていった。
………………………………
………………
………
ノックの音がした。
「なんじゃ?」
「ジョースターさん!報告です」
「隣室に敵スタンド使いが隠れていました。
ぶちのめしてやりましたが。 アレッシーと名乗っていた男です」
アレッシーは、隣室で待機し、動くなと言われていた。そして、マライアから合図も無かったので居眠りしてしまった。
そこを翌朝、寝起きのアヴドゥルに発見された。二人の戦いは…あっけなかった。
アレッシーはセト神の能力を使うこともなく、アヴドゥルにぶちのめされ、再起不能になった。
「ジョースターさん?」
ジョセフはベッドの上を、こちらの言うことなど聞いているのか、放心しているようだった。
アヴドゥルは、彼がその腕の中で、ついさっきまで抱えていた女のことなど知らない。
「アヴドゥル。良い女ってものはいるもんじゃのぅ」
砂漠の蜃気楼のような出会いだった。
「はい?」
「ところで、そいつは、カメラのようなものを持っていなかったか」
「はい?」
「壊しておかんとな」
「9時ぴったりじゃの。朝飯にするかの」
ジョセフは、身支度を始めた。
「なぁ、アヴドゥル。ワシも禁煙しようかの。長生きはするもんじゃ」
「は、はぁ……」
二人が部屋から出て、ホテルのロビーに向かうといつものメンバーが待っていた。
「やっと起きたのかい、ジジィ。ところで、ほっぺに口紅ついてるぜ」
「なんじゃと!?」
動揺するジョセフにポルナレフが答える。
「なーんつってな。なに焦ってんだ、じいさん? 心当たりがあるわけでもねーのによ」
いつものポルナレフのギャグだった。
「このジジィが。にやけてるんじゃねーぜ。なんだか知らんが、無性にむかつくぜ」
「ポルナレフ。こんな旅の途中で、そんなことがあるわけないだろう。
お前さんじゃあるまいしな」
アヴドゥルは咳をして、たしなめた。イギ―はまったくの無関心に大きく欠伸をかくのだった。
男達はたあいもない軽口をかわし合いながら、ホテルを出る。
エジプトの朝の太陽の光が、容赦なく四人と一匹を照らした。
乾いた風が埃を巻き起こさせる。
「あっつ~」
照りつける道の傍で、フードを被った女が、通り過ぎた。ポルナレフはヒューッと口笛を鳴らして囃したてる。
「おい、見ろよ、あの脚。きっと美人だぜ。振り返って見せてくれないかねぇ」
他の男達は、やれやれといったふうに無関心に立ち止まろうともせず、歩いていく。
ジョセフは、ちらりと横を向くと、深々と帽子を被った。
女はそのまま、振り返りもしなかった。
そのフードの下でどんな表情を浮かべていたのかは誰も知らない。
二人の影は離れていく。
男と女は、磁石のように引き付け合い、そして、離れ離れになった。
熱い国のある一夜のことだった。
end.