【×月×日】
ついに届いてしまった。
いくら一人寝が寂しいからってナニ買ってんだろな私。
さっそく使ってみたけどこれやばい。なんだこれ。
【×月×日】
今日も課長の小言がうざい。休み明けで眠いくらい大目に見ろ。
睡眠不足は別の理由だけど。
いつも眠そうじゃない、って
うっさい。仕事はちゃんとやってるし。
イライラするので今日も使ってしまった。文明の利器やばい。
【×月×日】
久々にうっかりやらかした。文がフォローしてくれたけど。
あいつってホント人のミスに気付くの早いな。
見張ってるのか? 助かるけどさ。
お礼はいつもどおりジュース一本。
あいつもこんなの持ってるのかな。ちょっと想像できない。
:
:
:
【×月×日】
アソコにオモチャを挟んで会社に行ってみた。
エロコミの読みすぎだったといまさら思う。
でもすごい興奮した。変態だ。
トイレは流石に落ち着かないけど、資料庫は滅多に人が来ない。
癖になりそう。やばい。
なぜか文に心配された。
熱っぽそうだったって。死にたい。
【×月×日】
今日は普通に出勤。バカはほどほどにしないと。
普通なのに文が心配してくる。お母さんかあんたは。
今日は早めに寝る。文に言われたからってわけじゃないけど。
:
:
:
【×月×日】
新しいオモチャが届いた。アレっぽいアレ。
中から外からですごい気持ちいい。
つい声が出そうになる。出てたかも。
終わった後ちょっと空しくなるけど、ハマりそうで怖い。
【×月×日】
なんかアレしてばっかな気がする。
社会人になってから男と縁がないせいだ。
でもあの子らみたいに露骨に同僚狙う気にもなれない。
真面目すぎる自分が恨めしい。
文はぜんぜんそういう感じがないけど。
あっちも彼氏いないって言ってたし。類友か。
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:
【×月×日】
文に見られた
死にたい
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
文に謝られた。なんであんたが謝んの。頭おかしい。死ぬ。
別に軽蔑しないよ、だの、言いふらしたりなんかしないから、だの。
私もたまにそういうのするし、だの。
自己申告は聞いてない。聞かされても困る。
あいつが顔赤くしてるとことか初めて見た。恥ずかしいのはこっちだ。
職場でするのはやめたほうがいいよって言われた。死にたい。
【×月×日】
なんか文の視線がキモい。何か言いたそうにチラチラ見てくる。
でも他の連中からの視線は普通だ。本当に黙っててくれてるらしい。
不気味。普段めっちゃ口軽いくせに。
【×月×日】
私も使ってみたいからやり方教えてって
なんなんだあいつ
なに考えてんだあいつ
とり入手方法と簡単な使い方だけ教えた
死にたい
:
:
:
【×月×日】
相変わらず文の視線がおかしい。
仕事の会話は普通だけど。休み時間の空気が重い。
まだ何か聞きたいのか。聞くな頼むから。死ぬ。
っていうかあいつも本当にアレ買ったのか。
アレやってるのか。私の教えた通りに。もしかしたら今。
ダメだ頭おかしくなる。風呂入って寝よう。何もしないで寝る。
久々に指だけでした。
あいつの顔が浮かんだ。死にたい。
【×月×日】
うまくできないから教えてって。頭おかしい。
私よりずっと頭いいくせになんでできないんだよ。
なんで私に聞くんだよ。聞くならまだしも実際に教えてって。
職場でやるなって言ったのお前だろ。死にたい。
文のことなんか何もわからないから自分と同じように当ててやった。
文はイッたあと、長い間放心してた。
それから見たことのない眼で私を見て、私の名前を呼んだ。
アレを投げ捨てて資料庫から逃げた。私も濡れていた。死にたい。
でもこれで弱みはお互い様だ。もう知らん。
午後の文はいつもどおりの文だった。
私は具合でも悪いのかって何度も聞かれた。ちくしょう。
:
:
:
【×月×日】
文の匂いが気になる。
今まで気にしたことなんかなかったのに。
近くにいるだけで気になる。
良い匂いなわけない。気のせいだ。
どうせシャンプーかソープだし。
資料庫に行くたびに文の匂いがする気がする。死にたい。
【×月×日】
シャンプー変えた?って聞かれた。なんで気付くんだよ。
そんなに私の匂い意識してるのか。死にたい。
:
:
:
【×月×日】
同じシャンプー使うのやめろ。死にたい。
◆
【×月×日】
どう考えても文の態度はおかしい。
おかしいっていうかアレだ。学生時代にたまにあったアレ。
そんな歳じゃないだろもう。
絶対おかしい。イライラする。
イライラして、モヤモヤする。
なんでこうなった。
【×月×日】
イライラの根本をド直球で聞いた。
ド直球の答えが帰ってきた。
そうなのか。やっぱりそうなのか。やめて死ぬ。
文からもド直球の質問をくらった。
嫌いじゃないって答えたけど取り返しのつかない失敗だった気がする死にたい
【×月×日】
やっぱり私をオカズにしてるらしい。即答だった。
聞かなきゃよかった。死にたい。
毎日してるとまで言った。そこまで聞いてない。死にたい。
【×月×日】
お友達からお願いします、の挨拶はなくていいよねときた。
友達だよってそういう意味で言ったんじゃない。
友達オカズにした報告するやつがいるか。死にたい。
:
:
:
【×月×日】
最近、文との距離がやたら近い気がする。
文がどんどんこっちに寄ってくるからだ。
別に嫌じゃないけど。
クッションを抱きしめて寝ることが増えた。
【×月×日】
なんでそんなにグイグイ来るんだ。普通もっと悩むだろ。
そう言ったら、もう飽きるくらい悩んだとあいつは言った。
入社した直後からずっとって。うそん。
私がしてるとこを見て抑えられなくなったとさ。死にたい。
嫌い、気持ち悪い、無理、そう言われたら泣いて忘れるって決めたって。
今からでも嫌いって言ったら諦めるのかと聞いた。
私の目をまっすぐ見てあいつは頷いた。
私ができたのは目をそらすことだけだった。
:
:
:
【×月×日】
映画のチケットもらった。確かにヒマだったけど。
なんで受け取ったんだろう。文の仕草が可愛すぎるのが悪い。
よく見たらホラー映画だこれ。
今からでも断りたい。断れない。死にたい。
【×月×日】
何が面白いのかわからない。心臓に悪いだけじゃん。
それがいいんじゃない、って文は言った。あいつの趣味はわからない。
内容はさっぱり思い出せない。思い出したくない。
ただずーっと文の手を握ってた気がする。死にたい。
カフェのクレープがめっちゃ美味しかった。
文はコーヒーをブラックで飲んでた。意外。
:
:
:
【×月×日】
ただのチケットのお返し。貰いっぱなしは気が引けるから。
私の好きな恋愛映画。最後はお約束のハッピーエンド。
なんだかいつもより感動したかもしれない。気のせいだと思う。
気がついたら文の手を握ってた。死にたい。
ベタなお話って言われた。やっぱり文とは感性が合わない。
今日は私のお勧めの喫茶店。相変わらずクラシックのチョイスが渋い。
あそこのパンケーキはきっと文も気に入ると思ってた。
帰りにいつものアップルパイを買った。文も同じのを買った。
つい、部屋で一緒に食べない?って言ってしまった。
私と文の使った皿とフォークとカップ。
片付けなきゃいけないのに、なぜか手が伸びない。
今もまだ文がそこにいるみたいな気がして。
:
:
:
【×月×日】
なんで追い返さなかったんだバカ私。
いくら明日休みでも大きめのベッドでも。駄目だろこれ。
変なことするなって釘は刺したけど、絶対寝れない。寝れるかこんなの。
【×月×日】
熟睡してしまった。ありえない。なんでだ。
自分のベッドから自分じゃない匂いがする。死にたい。
朝飯が美味い。冷蔵庫ろくなもの無かったはずなのにクソ美味い。天才様か。
食器も全部洗ってった。女子力の権化か。死にたい。
ベッドからいい匂いがする。死にそう。
:
:
:
【×月×日】
文と目が合うことがやたらと増えた気がする。
恥ずかしくてすぐに逸らしてしまう。
でも文が近くにいるとついつい顔を見てしまう。
だからまた目が合う。死にたい。
今日の発見。文は手がキレイ。
【×月×日】
目を逸らした先によく文の手がある。
ちっちゃくて綺麗だからつい見とれる。
温かかったなぁってつい思い出す。
なんとなく恥ずかしくなって目を上げた先に文の顔がある。
なんなのこのトラップ。恥ずい。死にたい。
【×月×日】
今日も文の顔と手ばっかり見てた気がする。
私だって、人並みの女の子らしい青春を送ってきたつもりだ。
かっこいい男子や芸能人にきゃあきゃあ言って。
席替えやバレンタインデーに一喜一憂して。
何人かと付き合いもしたし、処女でもない。
だから、そういうものがどういうものかくらい知ってるはずだ。
だったら、文のことを考えると感じるこれは、なんなんだろう。
呼吸と動悸が苦しくなる。
頭が熱くて、ぼーっとする。
目がしょぼしょぼしてくる。
布団を引っかぶって寝てしまいたくなる。
病気じゃん。
そうだ、きっとこれは何かの病気なんだ。
:
:
:
【×月×日】
また文のことを考えながらしてしまった。死にたい。
こんなのおかしいはずなのに、なんでこんなに気持ちいいんだろう。
もうベッドから匂いはしない。
なのに鼻の奥から匂いが取れない。死にたい。
◆
【×月×日】
いつにも増して課長がハッパをかける。
言われなくてもやってます。無駄に疲れるからやめてほしい。
明日は社員旅行で温泉。楽しみだ。
でも今年はちょっと不安だ。
【×月×日】
今回も文がカメラを持ってきて、色々と撮っていた。
あんまり気にしたことなかったけど、聞いてみたら趣味だとか。
私の顔も何枚か撮られた。恥ずいからやめてほしい。
温泉、宴会、また温泉。それから女子部屋でダベり。
上司の悪口やら、どこの課の男が狙い目やら、誰々が付き合ってるやら。
適当に相槌うつのも疲れてきたから、また温泉と言って部屋を出た。
私も、と文がついてきた。待ち構えてたろ。すけべ。
ついつい目が文の体に向いてしまう。何やってんだ私。
文も私の裸をチラチラ見てくる。恥ずかしい。やめて。
文って小柄な割にはおっきいよなあ。
【×月×日】
早起きしすぎて皆まだ布団の中。
文だけがいなかった。
温泉かな、と浴場に行ったらやっぱりいた。
文しかいなかった。貸切状態。
強引に背中を流された。
文の手は柔らかいけど、触り方がやらしい。でも嫌じゃない。
文の背中も柔らかくて、流す必要なんかないくらい綺麗だった。
うなじが妙に色っぽくて、お尻は丸くて白かった。
静かな露天風呂に並んで入った。
早朝の空は透き通った薄い青で、ちょっと赤かった。
気持ちは変わってないのか聞いたら、うん、と返事。
迷惑だったら諦めるよ、と文は言った。
私は嘘がつけなかった。
:
:
:
【×月×日】
文が普段撮ってるやつを見せてもらった。
焼き増しした温泉の写真を配るついで。
街中の風景が多かった。たまに山とか。
よくわかんないけど綺麗だったと思う。
私の写真も何枚かあった。
温泉でのじゃない。会社での休憩中とか居眠り中とか。
何してくれてんだまったく。
報復に口引っ張った顔を携帯で撮って待ち受けにしてやった。
◆
【×月×日】
文の感性がわからない。主に私の人物評。
綺麗なとことか優しいとこってなんだ。
凛々しいってどういう表現だ。そんな風に見えてるのか私が。
私もお前みたいな、ちっちゃくて柔らかくて可愛い顔に生まれたかったよ。
私なんて子供っぽいだけだよ、って文は笑った。
かわいい。ちくしょう。
:
:
:
【×月×日】
私も髪伸ばそうかな、でもあんまり似合わないかも、と文が言う。
文だったら何でも似合うよ。
そう言うと、えー、と恥ずかしそうに笑う。かわいい。
私も短くしてみようかなと言ったら、絶対ダメ、もったいないと言われた。
そういや最初のころから、私の髪が長くてキレイだとよく言ってた。
だから切るのやめたんだっけ。
:
:
:
【×月×日】
文はコーヒーをブラックで飲む。
ミルクと砂糖をだばだば入れる私が子供っぽく見える。ちくしょう。
飲んでみる? って笑った眼が大人っぽくて、ドキっとした。
カップを交換して飲んだ。メチャクチャ苦かった。
あれが文の飲んでいる味。やっぱり文の好みはわからない。
文は、甘くて舌が溶けそう、と苦笑いしていた。
カップを交換しなおした。
いつもの私のコーヒーから、ちょっとだけ文の味がした。
◆
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
昨日の書き忘れ。
ちょっとだけのつもりだったのに、酷く酔ってしまった。
文に部屋まで送ってもらった。あいつはああ見えて強い。
タクシー代出すよ、って言ったのに。
いいよそんなの、その代わり、とあいつは私の
思い出したら頭痛くなってきた。
甘酸っぱかったのは、きっとワインの味だと思う。
:
:
:
【×月×日】
抱きついていいかって。
抱きつくだけだからって。
それだけ、何もしないからって、あいつはもう。
文はあったかくて、やわらかくて、いいにおいがした。
何もされなかったけど、心臓が破裂するかと思った。
:
:
:
【×月×日】
文に抱きつかれると、自分の体が小さくなったみたいに感じる。
つい血迷って文の背中に腕を回してみた。
文との距離が、マイナスになった気がした。
:
:
:
【×月×日】
抱きつく以上のこと、したいんだよね。
そう聞いたら、うん、と言いながら背中をさわさわされた。
ぞくぞくした。けど、それだけだった。
されること、期待してたんだろうか。
自分の気持ちが、もうわからない。
:
:
:
【×月×日】
どんなことしたいの、って聞いてしまった。
事細かに説明された。聞くんじゃなかった。
文が帰った後、それを思い出しながらした。
もう止められない気がする。
:
:
:
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
昨日の分。
文がしたいなら、いいよ。
ついにそう言ってしまった。
何を何回されたのか、もう思い出せない。
思い出したくない。思い出したくないってのに。
一日中、布団の中にいた。
自分で触るたびに、文の手を思い出した。
明日、会社で文の顔を見るのが怖い。死にそう。
【×月×日】
文は普通だった。
私も、思ったよりは普通だった。
土曜日また行っていい?って言われるまでは。
◆
【×月×日】
文に付き合って朝から街を歩いた。
文は意外と足が達者だ。写真趣味って足を使うらしい。
青空に浮かぶ小さな雲。なんだか知らない大きな鳥。
堤防から見える川と橋。林に生えた電波塔。
ファンキーなラーメン屋の看板。猫のいる静かな裏路地。
色んなものを撮っていた。私も携帯で何枚か撮った。
この街って、こんな場所だったっけ。
街は毎日違うよ、と文は笑った。
不意打ちで何枚か私の顔も撮られた。
恥ずかしいからやめてって言ってるのに。
:
:
:
【×月×日】
休みの日は文と過ごすのがすっかり日常になった。
今日はカフェでお喋りのあと、レコードショップに付き合ってもらった。
私の部屋でドーナツ食べながら二人でCDを聴いた。
文の唇も、ドーナツみたいに甘かった。
文の声は、どんな音楽より素敵だった。
私の声はとてもかわいいと言われた。死にそう。
:
:
:
【×月×日】
隠しておいたもう一つのオモチャを文に見つけられた。
使われた。自分で動かすのとぜんぜん違った。
なんか変な声が出た気がする。死にたい。
:
:
:
【×月×日】
私にもこれ使って、と言われた。
文はそんなつもりないんだろうけど、試されている気がした。
思ったより血は出なかった。
苦しそうに笑う文を綺麗だと思う自分がいる。
また一つ、後戻りができなくなった。
◆
【×月×日】
文は実家住まいだそうだ。
大したことないよと言うけど、聞く限りじゃ、割と良いとこのお嬢様だ。
普段の品のよさが納得できた。
入社したのもコネって言うけど、絶対普通に受かったと思う。
なかなか家を出るって言い出しにくいらしい。
よくわからないけど、そんなものだろうか。
私と一緒に住みたいと、ぼそりとこぼした。
つい腕に力が入って、痛いよ、と文は笑った。
おやすみなさい、といつもの笑顔で文は帰っていった。
いつもの部屋が少し暗く見える。
:
:
:
【×月×日】
今日も私の部屋でたくさんキスをした。
キス自体にはもう抵抗がない。
外でも、人目がないとついしたくなる。
たまに我慢できずにしてしまう。やばい。でもドキドキする。
:
:
:
【×月×日】
久々のお泊りの日。
同僚の女友達の家に泊まる、そう言ってるらしい。
嘘じゃないけど。
でも
二人の夜は長くて短い。
もうベッドから出たくない。
明日文が帰る、その寸前まで。
:
:
:
【×月×日】
あいにくの大雨で、お出かけは中止。
ずーっと部屋で裸で過ごした。ただれてる。
オモチャもいいけど、やっぱり指でするほうが、文を感じられる。
ナカの感触とか熱さとか、イくときの動きとか。
指と耳から文の快感が伝わってきて、私までイッちゃいそうになる。
オモチャでされるのも嫌いじゃない。
文に弄ばれてるような気がして興奮する。
でもやっぱり、文の指で優しくイかされるほうがいい。
おねだりさせられるのは、ちょっと恥ずかしいけど。
:
:
:
【×月×日】
文はきっと麻薬でできている。
すべすべの肌も、さらさらの髪も、桃みたいな匂いも、柔らかい唇も全部。
でも一番ヤバいのは声だ。回避不能の甘い毒薬。
文はその声で呪文を唱える。何度も何度も。
それが耳に入ると、私の頭はフワフワに融けてしまう。
文のことしか考えられなくなる。
だから私も、その呪文を何度も唱える。
それを聞いた文の幸せそうな顔が、またとびっきりの麻薬になる。
他の誰にも言えない秘密の呪文。
すで始まってきで終わる言葉。
◆
【×月×日】
私だ。私が悪いんだ。私がもっと人目を気にしていれば。
私のせいだ。
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
ただの友達、ふざけてただけ、で押し通せばよかったんだろうか。
でも私は絶望的に嘘が下手だった。
文は最初から、嘘をつく気がなかった。
【×月×日】
何も考えたくない
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
実家にまで話が回ってた。
なんでだ。ふざけんな。
ふざけんなみんな死んでしまえ
【×月×日】
頭が痛い。
喉が痛い。
腹が痛い。
文、ごめん。ごめんね文。ごめん。
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
玄関あけたら文がいた。
親とは縁を切ってきた、と赤い眼で言った。
私との縁こそ、切るべきだったのに。
泣いて忘れて普通の人生に戻る。そうさせるべきだったのに。
私はどうしようもなく馬鹿で、弱かった。
泣きながら文を抱いた。
:
:
:
【×月×日】
なんで前の仕事やめた理由なんか言わなきゃいけないんだろう
:
:
:
【×月×日】
今日も何とか終わった。疲れた。
時給計算がピンとこない。
数字より長く働いてる気がするのに、ぜんぜんお金にならない。
でも生きてかなきゃ。文と一緒に。
【×月×日】
帰ったらテーブルに突っ伏して文が寝ていた。
私に気づかないくらい疲れてたみたい。
ご飯は冷めていたけど、美味しかった。
文の寝顔は相変わらず可愛い。
起こさないようにベッドに運ぼうとしたけど、失敗。
でも、やっぱりすぐに寝てしまった。
一人で帰ってこい、と家族だったやつからのメール。くたばれ。
:
:
:
【×月×日】
管理人の態度がよそよそしい。
他の住人から避けられてるのも、やっぱり気のせいじゃなかったみたいだ。
視線が怖い。他人の顔が見られなくなる。
文の笑顔を見ると、泣きそうになる。
:
:
:
【×月×日】
噂がすぐに広まる。
やっと見つけた仕事なのに。もうやだ。
【×月×日】
現実逃避に、気晴らしのために文を抱いている。
終わるたびに罪悪感で狂いそうになる。
こんなセックスしたくない。でもやめられない。
狂うのを止めてくれるのも、文のぬくもりしかないから。
いっそ狂ってしまったほうがいいのか。
:
:
:
【×月×日】
また喧嘩をした。
出てけ、帰れ。絶対帰らない。いつもの押し問答。
やっぱり今日も私が先に泣いてしまった。
文はどうしてそんなに強いんだろう。
その強さを、私なんかのために使わなければよかったのに。
むしろ私が、文を捨てて逃げ出せるほど強ければよかったのに。
【×月×日】
文と一緒に買ったおそろいのグラスが、ただのゴミになった。
感情が抑えられない。最低だってわかってるのに。
:
:
:
【×月×日】
最近は文のほうが、ごめんなさい、と言うことが増えた。
文は何も悪くないのに。
誰が悪いんだ。私か? あいつらか? この世界か?
【×月×日】
管理人がわざわざ部屋に来た。
一緒に住むことさえ、私たちには許されないんだろうか。
どこへだって一緒に行くよ、と文が私の手を握った。
私たちは、どこに行けばいいんだろう。
どこに行くことができるんだろう。
私には文の手を握り返すことしかできない。
:
:
:
【×月×日】
灰色の夕焼けを見ていると、部屋の中がひどく寒くなる気がする。
握った文の手だけが暖かかった。
子供のころに聞いた歌を、なんとなく歌った。
文も歌っていた。子供でも歌える、簡単な歌。
背中に翼をつけて、空へ飛んでいきたい。そんな陳腐な歌詞。
陳腐すぎて忘れたはずの歌を、何度も歌った。
何度も何度も二人で歌った。
部屋は寒かった。
文だけが暖かかった。
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
灰色の朝の中でも、やっぱり文のご飯は美味しかった。
ブラックコーヒーは、やっぱり苦かった。
文は砂糖とミルクをたっぷり入れて、すっごい甘い、って笑っていた。
カップを交換して飲んだ。何度も交換しながら飲んだ。
私も久しぶりに笑った。
やっぱり文は食器をぜんぶ洗った。洗い終わってから部屋を出た。
文の持ち物はカメラ。私はこの携帯。
後は少しのお金と、お互いの手だけ。
車窓から見る空は、だんだん透き通っていった。
透明に色のついた空は綺麗だった。
写真を撮った。そんな私を文は撮っていた。
小声であの歌を歌った。文も歌っていた。
私たちが、私たちのままで幸せになれる場所に行きたかった。
でもやっぱりそんな場所は、私たちの足で行ける距離にはなかったんだ。
私たちの背中に、白い翼はなかった。
赤く染まった大きな山が見えた。
綺麗だね、と文が言った。
あれにしようか、と私は言った。
そこで電車を降りた。
赤い山道をひたすら歩いた。
ときどき休みながら他愛もない話をした。
歩いて、休んで、また歩く。
どこまでも続く二人だけの道。
ちらりとありえない夢想をした。
道がなくなって、空があった。
足元から広がる山と水と空。めちゃくちゃ綺麗な夕焼け。
写真を撮った。文も撮っている。どうせ残らないのに。
でも残したかった。残そうとする心を残したかった。
それがきっと、この空のどこかに残ってくれると信じた。
この日記も、ここで終わり。
私は文と行く。この空の中へ。
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
(データがありません)
【×月×日】
ようやく気持ちが落ち着いたから書く。
気がついたら、よくわからない暗い場所にいた。
天国じゃないよね、と文が言った。
地獄かな、と私は言った。
どちらでもない、と女が言った。
いつのまにか、変な女がそこにいた。
あなたたちの命を私にちょうだい、とそいつは言った。
悪魔か何か?と聞いたら、そうかもね、と言って笑った。
世界を作るのに、命が欲しいのだ、と。
どうせ捨てる命だったんでしょう。せっかくだから再利用したいの、と。
文が訊ねた。命を助ける、じゃなくて?
そいつは答えた。あなたたちは消えてなくなる、体も心も全て。
使うのは命だけ。命を元に新しいモノを作って、新しい世界に住まわせる。
それはあなたたちの命からできているけど、あなたたちではない。
大体そんな風なことを言った。
断ったらどうするの、と聞いた私に、使えないなら捨てるだけ、とそいつは答えた。
捨てられた後どうなるのかは、説明されなかった。
少し考える時間をあげる、と言って、そいつはどこかへいなくなった。
何もない空間で、時間が過ぎていった。
お腹は空かなかった。それ以外の色々も必要なかった。
過ぎたんじゃなくて、止まっていたのかもしれない。
文は、あいつの提案を呑もう、と言った。
私は言った。自分が無くなってしまうなんて怖い。
私の全部が消えて別な何かになる。それは死ぬのと同じじゃないか、って。
文は言った。じゃあどっちでもいいじゃない。
空に行くのも、別な何かになるのも同じでしょ、って。
やっぱり、文は私なんかよりずっと頭がよかった。
私はまだ、どこかで覚悟ができていなかった。
文はさらに言った。記憶や感情なんて所詮は幻想だよ、と。
私は言い返した。二人の思い出も、文への想いも幻想だっていうの。
そうだよ、と文は言った。
頭がおかしくなってしまった私に、でもね、と文は続けた。
記憶も想いも幻想だけど、その幻想を夢見ているのは、私たちという存在そのもの。
だから記憶が洗い流され、想いが蒸発しても、きっとまた私たちは同じ夢を見る。
そう言って笑った。
それを信じてるの、と私は聞いた。
信じてるよ、と文は私を抱きしめて言った。
私も、それを信じることにした。
文は最後まで、どこまでも暖かくて、柔らかくて、強くて、優しかった。
【×月×日】
私たちが何になるのかは、わからない、まだ決めてない、とそいつは言った。
雑すぎると思ったけど、どうせ何も覚えていられないなら、どうでもいい。
同じ世界、同じ空の下に住むものにすることだけは、約束してくれた。
約束が守られる保証は何もないけど、私たちはそれを信じた。
最後までそれなの?と文が覗きこんでくる。うるさいな。
そう、なんだかんだ最後まで、これは私の一部だった。
文だって、そんな私の写真なんか撮っている。
だからもうちょっとだけ書かせてよ。
私たちが私たちであった痕跡は、すべて消えてしまうと言われた。
この携帯も日記も全部、消えてしまうんだろう。
だから、最後に。
愛してるよ、文。
また愛してね、文。
なんてことを書いても、消えちゃうんだから、いいのだ。
これが今度こそ最後の日記。
さよなら、私たちという幻想。
「……なんだこれ」