「お前とミスティオラがこのような愚行をこの時期にするとは思わなんだ」
「申し訳ございませんオリガ様」
貴賓室のソファに座り顎をつくオリガはドアの前に立つカイルを冷たい目で見ていた。
濡れた長い黒い髪に白いバスローブ姿の彼女はより傲岸で雄々しくそして気品溢れる姿に誰もが見惚れようが、カイルは目を細め口を縛るように閉じ申し訳なさそうにしていた。
(彼女を深く傷けてしまった、そしてかつてないほど怒っている)
カイルの話だとオリガ様が一番にミスティオラと俺を心底心配したらしい。
夜になっても帰って来ない二人に捜索隊を率いて喉を痛めるまで大きな声を出し続け藪や川に入りその素肌を石や草で傷付くのを意も介さず捜索を続けたそうだ。
そして見つかった先は立ち入り禁止の聖域でミスティオラと俺が激しくやっている最中。
怒るなという方が無理な話だ。
「飼い犬に噛まれた心境じゃな、妾の命令をよく聞き癒しの存在たる忠犬に癒えぬ傷を負わされ意気消沈じゃ」
ハッと鼻で笑いいつもの様にオリガ様は傲岸な態度をするが瞳を潤ませ涙声になっている。
そんな強がりを見せる彼女を痛々しくて見ていられず俺は反射的に「申し訳ございません」と謝ってしまうとオリガ様は眉間に皺を寄せ怒りを露わにした。
「何度も謝るな、貴様の誠意を疑ってしまう」
と目を伏せ謝る俺にオリガ様の勘に触れたのか火を灯ったように熱くなる。
「アスタリアの花で理性を保てずミスティオラを抱いたのは仕方ないとしてなんじゃ、貴様らが囁いたあの言葉の数々は」
と唾を吐き棄てるように早口で喋るオリガ様。
鋭い目つきを細くして俺を睨む。
まずい、ヒートアップし始めた。
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる、ミスティオラミスティオラミスティオラミスティオラミスティ、好き好き好き好き好き好き好き好きだと屋敷に響く大きさで喚きおって」
とオリガ様は歯を剥き出しにして俺の方へ近づいてくる。
「そんなにミスティオラが好きか、ええ」
「オ、オリガ様」
「なんじゃ?ブラックトロルやオーガら魔物が百鬼夜行をした際も冷徹な表情を崩さなかったくせにか弱い女、元婚約者に詰問されるだけで狼狽しおって」
(いや、貴方の胸が微かに感じるのです)
オリガ様の大きく突起した胸が俺の胸と当たりそうになるほど近い。
見た感じミスティオラよりもデカく揉み応えがありそうだと邪な考えが一瞬頭をよぎり不覚にも高鳴ってしまった。
だが、オリガ様は俺の邪な考えに気付かず金色の目を怒りで燃えらせ俺の目を見据える。
「妾と其方の婚姻はただの政略結婚、元老院の策略じゃ。操りやすいミスティオラを女王に据え置けば彼奴等の都合がいいからに過ぎんが妾はあの時安心もしたし嬉しかった。お前は気付かなかっただろうが」
(知っています、貴方はあの時体を震わせニヤつく口を手で押さえていた。そしてミスティオラは鳩が豆鉄砲を食らったかのように呆然と立ち尽くしていた)
「男の巨人という虚像よりも其方にこの神聖な我が身を捧げたいと思っていた。ニダヴェリーナの為に同胞を救い続けたお前に、この身を捧げたかったのに。そ、それなのに」
言い終えるとオリガ様は力なく俺の胸に頭をくっ付けた。
そしてギュッと俺の服を彼女の精一杯の弱々しい力で握り締め身を震わせ始めた。
何度も味わった心地よいその重みは感じるだけで辛くそしてこれで最後だと思うと寂しく感じた。
「・・・オリガ様」
「ミスティオラが好きなら何故すんなりと了承した。てっきり私はお前も私が好きだと勘違いしたじゃないか、浮かれ上がって花嫁修行をする私は、まるで・・・ピエロじゃないか」
弱々しい女の声で言い切るとオリガ様は顔を項垂れポコポコと俺の胸を叩く。
スンスンと鼻を鳴らし始めポタポタとカーペットに涙が落ちる音も聞こえた。
俺は傷付いた女に対しどのように言葉をかければいいのか分からず気が晴れるまでただ立ち尽くした。