「ウソ……だろ……?」
少年は呟くように言った。
「嘘じゃないわよ」
そんな少年の言葉を、目の前の少女が否定した。ひどく冷淡な声だった。
「いや、ウソだろ……」
少年は少女の言葉を受け入れられず、拒絶した。少女から目を背け、地面を見た。
「だから、嘘じゃないわよ」
少女は少年の前へと移動した。そして少年と目を合わせた。少女の大きな青い瞳が少年を射抜いた。
「いやいや、ウソだと言ってくれ!」
少年は堪らず、すがるように少女に詰め寄った。
「……ええ、嘘よ。これで満足?」
少女はそんな少年を突き放すように言った。人形のように整った顔をわずかに綻ばせる。それはまるで、少年のことを嘲笑っているかのようだった。
「……本当に……ウソじゃないのか?」
そんな少女の反応を見て、少年はこれが現実なのだと悟った。
「さっきから何度も言ってるけど、嘘じゃないわよ」
少女は鬱陶しげに返した。自分の長い金髪をクルクルと指先で弄ぶ。
「……マジか。本当にオレは死んだのか?」
もう一度確認するように少年は少女に聞いた。
「ええ、貴方は死んだ。だから貴方はここにいる」
少女は頷いて、周囲を見回した。少年もつられて首を左右に動かした。白く平坦な地平がどこまでも続いていた。
「ここはどこなんだ? もしかして天国とか地獄みたいなところなのか?」
「そう。ここは貴方の言う天国や地獄のような所――死後の世界」
「……死後の世界」
少年はもう一度辺りを見回した。景色の変化は一切なかった。
「でも、ずっとここにいるわけじゃない。貴方にはこれからまた別の世界へ行ってもらう」
「もしかして転生ってやつか?」
少年は身を乗り出して少女に聞いた。
「ええ。貴方の世界だと輪廻転生とか言われたりしているわね。小説とかになったりさ。でも、勘違いしては駄目よ。転生と言っても貴方だけが特別というわけではないの。どんな生き物でも死後は転生して、また別の世界へと旅立っていくの。修行のためにね」
「……そっか」
少女の言葉に少年は肩を落とした。そして地べたに寝転がった。
「それで、貴方に行ってもらう世界のことなんだけど……」
少年の態度に苦笑しながら少女は言った。
「どんな世界なんだ?」
それを聞いて、少年は素早く起き上がった。落ちた肩は上がっていた。
「そうねぇ……一言で言うなら、海賊の世界ね。」
「海賊? 海賊ってあの船に乗って略奪したりするあの海賊か?」
「ええ、その海賊で合ってるわ」
「そ、それって大丈夫なのか? 海賊なんて危険だろ?」 少年は声を震わせて少女に聞いた。
「そうね、とても危険ね」
ところが、少女は何でもないことのように返した。
「き、危険ねって。どうするんだよ! 海賊なんかいる世界に行ったら、オレ、簡単に死んじまうって!」
「いいんじゃないかしら? 死んでしまっても」
「はぁ!? なに言ってんだよ! 死んだら困るだろ!」
少年は思わず少女に掴みかかった。
「誰が困るのかしら? 別に誰も困りはしないわよ。人一人死んだところでね。それに、貴方が今までいた世界だって、毎日十五万人くらい死んでるのよ。決して安全な世界だとは言えないわ。そこら中に死の危険が転がっている。現に貴方だって死んでるんだからね」 少年に掴まれても動じることなく、少女は毅然とした態度で言い放った。「――っ!?」
そんな少女の辛辣な言葉に、少年は力なく膝をついた。
「それじゃあ、さっさと次の世界に行って貰おうかしら。こんな所にいても退屈でしょうし……」
少女がそう言うと、少女と少年の間に黒塗りの扉が出現した。白い世界に突然現れた扉は、とてつもない存在感を放っていた。
「な、なあ……」
少年が懇願するように声を絞り出した。
「何かしら?」
「他の世界にしてくれないか?」
「駄目よ。一度決まった世界を変えることは、どんな理由をもってしても出来ないわ」
あくまでも冷たく、少女は少年を突き放す。
「頼む! そこを何とか」
「駄目」
「お願いだ! いや、お願いします! 世界を変えてください!!」
少年は土下座して頭を地面につけた。
「はぁ、どうしてそこまで変えたいのよ。」
少女は根負けしたように溜め息を吐いた。
「それは、その……」
「それは、その?」
「……実はオレ、金づちなんだ」
少年は恐る恐る口にした。少年の顔は真っ青になっていた。
「金づち?」
それを聞いて、少女は小さく首をかしげた。
「つまり、泳げないんだ!」
「ふーん、なるほどなるほど。分かったわ」
少女は納得したように頷いた。
「分かってくれたのか!」
「ええ」
「じゃあ、世界を――」
扉がゆっくりと開いた。扉の中には外の世界とは対照的に、どこまでも黒い闇が続いていた。そして扉は少年を吸い込み始める。
「やっぱり貴方、海賊の世界に行くべきだわ」
「……な、なん……で……」
少年の青い顔が青さを増した。腰を落として踏ん張るが、少年はジリジリと扉に吸い込まれていく。
「その方が修行になるから」
「……えっ、……修行?」
「そう。修行」
「それは何――」
言った瞬間、少年は扉の中に吸い込まれていた。扉が閉まり、白い空間から跡形もなく消えていく。
少女はそれをただ悠然と見送った。