「いやぁ、あなたがアースガルズの次期当主さんの紘汰さんですか」
そう言いながら、学校帰りに俺に話しかける人物に、振り返る。
そこには白い制服を身に纏った小柄な少女がいた。その顔はどこか見覚えがあるような気がするのだが思い出せない。しかし、相手もこちらのことを知っているようだ。とりあえず名乗ることにした。
「ああ、そうだ。そういうあんたは?」
「私はシノアと言います。以後お見知りおきを」
また、変わった人物が出てきたな。
そう思いながらも、俺はゆっくりと戦国ドライバーを構える。
「あぁ、そういう風に警戒しなくても良いですよ。
私、一応はイズン様に仕える戦乙女ですので。
アースガルズの次期当主であるあなたには仕えていますので」
そう言って微笑む彼女に対して俺はどう対応していいのか分からない。
「それで、まさか護衛か?
さすがにこれ以上人数は」
「ふむ…。まぁ、それもありますけどね」
彼女は少し考え込むようにしてから口を開く。
「いえ、単純に暇だったので話し相手が欲しかったんですよ。
私の上司は厳しい方なので中々話す機会もないんです。
それに私達、基本的にあまり他の人と関わらないので」
「いや、俺はもしかしたら上司になるかもしれないけど」
「だったら、今のうちに仲良くなった方が良いでしょう?」
そう言いながら、俺を覗き込むように見る。
彼女の瞳の中に自分の姿が映っていることに気がつく。それはまるで鏡を見ているようであった。
「ではよろしくお願いしますよ紘汰さん」
そんな言葉と共に差し出された手を握り返す。
「はぁ、そうか。じゃあこれから頼むわ」
こうして、奇妙な関係が始まったのだ。
「ところで話は変わるのですが、この辺りで美味しいお菓子屋さんとかありませんかね」
突然の言葉に俺は思わずずっこけそうになる。
「いや、お前何しに来たんだよ」
すると彼女は笑みを浮かべて答える。
「いやー、せっかくですし何か面白いことないかなと思ってぶらついていたんですよ。そうしたらたまたま見かけたのでちょっと声をかけたというわけです」
なるほどな。つまりは暇つぶしか。
とはいえ確かにこの辺はあまり遊ぶ場所はない。せいぜい公園くらいだろう。
そこでふと思い出す。確かあの公園の近くに新しいカフェができたはずだ。
甘いものが好きならばちょうど良いかもしれない。
「それなら案内しようか?」
するとシノアは嬉しそうな表情をして言った。
「本当ですか!?ありがとうございます! ぜひ連れていってください!」
そして俺達は二人でその店へと向かうことにした。
店の雰囲気は悪くなかった。
店内は白を基調とした内装で清潔感があり、とても落ち着く空間だ。
ただ客が少ないのが少し残念だが。店員に席まで案内され座るとシノアはメニュー表を見て目を輝かせる。
「おお、これはなかなかですね。どれもおいしそうじゃないですか」
確かに見た目はとても綺麗だし味も期待できそうだ。しかし問題は値段なのだ。ここ最近バイトをしていないせいもあって財布の中はかなり寂しい状態になっている。しかしここで奢らないというのもなんだか悪い気がする。
仕方がない。ここは覚悟を決めるしかない。そう思いながら注文をする。
シノアはケーキセット、俺はコーヒーだけ頼んだのだがそれでも結構なお金がかかるようだ。
やはり学生の身としては辛いものがある。
「いやぁ、日本のお菓子って結構レベルが高いので嬉しいですよ」
シノアは楽しげに笑う。
「それじゃ、話の本題を出しましょうか。
あなたも気になるだろう、ロキ様が作り出したクローンに関してよ」
その言葉に俺は口を閉ざす。
これまで何度も戦ってきた様々な神獣達の細胞を使ったクローン達。
ロキが俺をアースガルズの次期当主をしない為に送り続けた刺客である。
「そういえば、気になっていたけど、ロキはこれまでクローンを作る為の材料はどこからどうやって手に入れたんだ」
神話に出てくる生物達のDNAを手に入れるのは難しい事だ。
それは例え神であるロキでも難しく、普通に考えれば不可能に近い。
「そうですね。
普通は不可能でしょう。
だからこそ、そのDNAを手に入れる為のルートが重要になってくるんですよね」
彼女は真剣な眼差しで言う。
「禍の団。
私が調査して、ロキが関与している可能性が出てきた組織の名前よ。
あなたも名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃなくて?」
その名前には聞き覚えがあった。
というよりも、俺も誘われたテロ組織だ。
「そこから経緯したと聞きました。
ですから、この夏休み、紘汰さんにはぜひ私達と一緒に様々な勢力に調査に行きませんか」「様々な勢力?」
その言葉に俺は聞く。
「おそらくは、他の勢力でもロキのクローンを問題視しているはずです。
そこから禍の団の繋がり、そしてロキの繋がりを探る」
「・・・なぁ、一つ聞きたいが」
「なんでしょうか?」
「それって、もしかして、ずっと海外か」
「どうでしょうねぇ」
もしも、ずっと海外ならば、少し嫌かもしれない。
「せめて、夏の映画は見たいなぁ」
そう呟いてしまう。