授業参観という行事には、俺は正直あまり関係ないと考えていた。
俺の両親は今は、海外の仕事に行っている為、授業参観には参加する事ができない。
その事もあって、俺はその日はいつもと変わらない日だと思っていた。
そう思っていた。
「紘汰さん、頑張ってくださいね」
そう言いながら、俺のクラスの後ろで、他の親御さんと一緒に話しかける女性。
容姿は背中まで伸びる黒髪。
ヘアバンドで留めており、サイドだけ下ろして残りはうなじでシニョンに纏めており、とても綺麗な女性だ。
そんな女性について、俺は知らない。
「えっ、本当に誰」
戸惑いながらも今は授業中。
下手に動けない事もあって、俺はとりあえず様子見をしようと思い黙っている事にした。
すると、先生が突然俺の方を見て言った。
どうやら今日は保護者の方が来ているからか少しテンションが高いようだ。
というよりも、一誠の両親がアーシアさんへの写真を撮りまくっている事で、余計に気分が高まっているようにも見える。
そしてそのまま先生は、話を続けた。
とりあえず、この授業が終わった後、やる事は決まっている。それは、まず間違いなく質問攻めだろう。
だから、今のうちに対策を考えておく必要がある。その為にも今は、目の前の授業に集中しようと思う。
しかし、そこでふと思った事がある。
そして、授業が終わった瞬間。
「それでは授業はこれで終了する。
気をつけ、礼」
「とぅ!!」
その次の瞬間、クラス中に向けられた殺気から逃げるように、俺はすぐに走り出した。
「待てや、紘汰!」
「なんだよ、あの美人ママはっ!」
「くそっ、逃げられたか!」
教室を出ると同時に聞こえてきた声を無視して俺は廊下を走る。そして階段に差し掛かったところで立ち止まり、周りを見渡す。
「さすがにここまで追ってくる奴はいないよな?」
確認するように呟きつつ、周りを見る。
「もぅ、紘汰さん。
廊下は走っちゃいけませんよ」
「っ」
同時に聞こえた声と共に見つめる。
そこには先程まで、俺の教室で母親と名乗った女性。
その言葉と共に、俺はすぐに構える。
「それで、誰だお前は」
「えっ、あぁ自己紹介がそういえばまだでしたね。
私はヨル、ホド様のヴァルキリーとして、あなたの守護に来ました」
「あぁ、なるほど」
これまでのパターンから考えても、そうした可能性は確かにある。
確かにあるのだけど。
「なんで、母親と名乗ったの」
「実はここに来る前に、紘汰さんの親御さんが授業参観できないと聞きましたので、代理に私が来させていただきました」
確かにそれはそうだけれど。いやでもまさかこんな形でくるとは思わないじゃないか。
それにしてもどうしてこの人は俺の母親だと名乗ろうと考えたのか? そもそもどうしてこのタイミングなのかとか色々あるけれど。
それよりも一番の疑問がある。
「どうやって俺の居場所を?」
「ここに来る前にロスヴァイセさん達から聞きました。
その時、何やらモルガンさん達が色々と騒いでいましたが」
「あぁ」
いつものパターンだな。
「それで、これからどうするんですか?」
「勿論、紘汰さんの母親役を最後まで全うします。
どうか、私にお任せください!」
自信満々に言うヨルさんだが、正直不安しかない。
ただでさえ目立つというのに、その上、母親役なんて事をされたらどうなるかわからない。
というか、それ以前にこの人に任せて大丈夫だろうか。
そんな風に考えながら、ゆっくりとため息を吐く。