ロキのクローンの謎を解き明かす為に、俺達が向かったのはギリシャ神話の冥界だった。
冥界という事もあって、そこは薄暗い場所をイメージしたが、実際にはそうでもないようだ。
というのも、ここにある建物は白を基調とした建物が多く、ギリシャの観光地のような感じを抱かせる。
そして、その建物の中に入りながら、案内された場所へと向かう。
辿り着くと共に、そこには1人の人物が待ち構えていた。
顔が見えないぐらいにフードを深く被り、足下すら見えない程の長いロープ、そして司祭を思わせる衣服を身に纏った人物がそこにいた。
『よく来られたな、アースガルズの次期当主。
お前の噂はギリシャまで伝わっているぞ』
その声は口から発せられたのではなく、まるで脳に直接伝わるように聞こえてくる。
「今回は、俺の無茶な願いを聞き入れてくれて、感謝します。
ハーデスさん。
俺が、一応はアースガルズの次期当主となっている紘汰です」
『あぁ、噂に聞いている。
人の身で、数々の困難を乗り越えたと聞く。
お前と話をするのは、実に楽しみだった』
そう、不気味な雰囲気とは裏腹にとても友好的な雰囲気で接してくれるハーデスさん。
事前にある程度はハーデスさんの事を調べたつもりだったが、何やら他の勢力に対してはわりと冷たいと聞いていたが。
『どうかしたか、紘汰』
「いや、その、調べた時には他の神話勢力に対して敵意を抱いていたと聞いていたので。
少し驚いたのが、本音ですね」
『なるほどな。
確かにな、カラスやコウモリならば敵意はあっただろう。
だが、君は人間の身で数々の困難を乗り越えてきた。
そんなお前に対して、平常通りに接するのは当たり前だ』
「いえ、別にありませんよ? 人間だろうとなかろうと、俺はただ自分の目的の為に行動しているだけですから」
『……ふっ、面白い奴だ。
人の身でここまで乗り越えただけはあるな』
そう言いながら、ハーデスさんは笑みを浮かべる。
やはり、思っていたよりも悪い人ではないみたいだ。
「ところで、その聞きたい事があるんです。
その『あのロキが奪い去った果実の事か』あぁ」
その言葉を出た瞬間、一瞬でハーデスさんが怒りで声が出たのかよく分かる。
『紘汰、噂で聞いたが、お前はあのロキを倒す事を目的にしているな』
「えっえぇ、そうです」
いきなりの質問に戸惑いながらも答える。
すると、ハーデスさんの雰囲気が変わったような気がする。
もしかしたら、これは地雷を踏んだかもしれない。
そんな事を考えていると、ハーデスさんは口を開いた。
『ならば、このハーデスも協力しよう』
「えっ?」
まさかの協力を申し込んでくれた事に驚きを隠せない。
だって、さっきの話を聞く限りだと敵対していたはずなのに。
俺の反応を見て、ハーデスさんは再び笑い出した。
どうやら機嫌が良くなったらしい。
でも、どうして急に協力してくれる気になったんだろう? 不思議そうな顔をしていると、ハーデスさんはその答えを教えてくれた。
『あのロキに、冥界の力を好きに使われるのが癪なだけだ。
それに比べれば、人の身でここまで戦うお前の方が好感が持てた。
それだけだ』
そう言って、再び歩き出すハーデスさんの後を追いかけるように俺達も歩く。
しばらく歩いていくと、ある部屋へと辿り着いた。
扉を開けると、そこには大きなテーブルがあり、その上に乗せられている物があった。
それは黄金の林檎だった。
見た目こそリンゴそのものなのだが、明らかに普通のリンゴとは違う事が分かった。
なぜなら、リンゴが発するオーラのようなものが違うからだ。
『これはヨモツヘグリ。
ロキの奪った実と同等の力を宿すものだ』
「なるほど、これを調べれば、ロキの居場所が分かるのか」
その言葉を言うと共に頷く。
その言葉にハーデスさんは少し驚いた様子だった。
『果実の力を手にしないのか?』
「えっ?
うぅん、確かにこの果実の力を手にすれば強くなるかもしれない。
けど、この果実はハーデスさんにとっては大切な物だからね。
何よりも」
その言葉と共に俺は手を握り締める。
「俺は、俺自身の黄金の果実で勝ちたい。ただ、それだけだよ」
『……ふっ、なるほどな。
いいだろう、ならば私もお前に協力しよう』
「本当ですか!!」
俺はお礼を言いながら頭を下げる。
そして、顔を上げると同時にハーデスさんは手を差し出してきた。
「ありがとうございます!!」
『別に。
三大勢力に協力するつもりはない。
だが、お前ならばと思っただかだ』
そう言いながら、差し出された手に握手をする。
「あとは、果実の解析だけど、こういうの詳しい奴いたかな?」
「あっあのぉ」
そうしていると、先程までずっと黙っていたロスヴァイセさんが手をあげた。
『……ふむ、ではこちらも用事があるから、失礼する』
「はい、本当にありがとうございます」
そうして、ハーデスさんはそのまま去っていた。
「はぁはぁ、本当にひやひやしました」
「どうしたんだ、ロスヴァイセさん。
そんなに慌てて」
「紘汰さんは、気に入られたから良かったかもしれませんが、私の方は魂を掴まれている感じがして、生きた心地がしなかったんですよ」
「そうなんですか」
そう、ロスヴァイセさんは、結構涙目で訴えてきた。
まぁ、確かにあの人の雰囲気ってちょっと怖いしな。
「それで、どうしたんだ?」
「そうでした。
実は、こういう関係で詳しい子がいるんです」
「本当か!!
だったら、すぐに呼ぼう!
それで、その子の名前は?」
俺はそう言うと、ロスヴァイセはゆっくりと頷く。
「シヴ様に仕えるヴァルキリーで、錬金術を得意としています。
名前はライザリン・シュタウトです」