この世界には、かつてプリキュアという女の子たちがいました。
伝説の戦士と呼ばれた彼女たちは数多くの悪を打ち破り、当たり前の笑顔や幸せを守っていたのです。
だけれど、もうプリキュアはいません。
これは遠い未来、地球の人々が「プリキュア」という言葉の意味さえ忘れた頃のお話。
これから世界を征服する一人の少年と、プリキュア
1/4 (エロ無し)
「ねぇ、ユージ。お前って…………」
不意に声をかけられて、ユージは顔を上げる。
話しかけてきたのは、イースだった。少し背の低い彼女は、隣からこちらを見上げている。
1万2千年ほど前に存在した古代王国、シャンティア。
ユージとイースは、今まさに、その遺跡地下にある迷宮への侵入に成功を果たしたところだ。
「はい、イース様。なんでしょうか?」
そう答えた少年の声には、犬のような従順さがあった。
イースは、世界征服を企む管理国家、〈ラビリンス〉の幹部であり、ユージの主だ。
部下であるユージは、彼女の生真面目な性格や、過剰な自信からくる尊大な態度、ふと見せる優しさなどを含めて彼女に惹かれている。
もちろん、外見だけ見てもイース以上に美しい女性はこの世に存在しないと思っている。
だから、イースと共にこの遺跡に派遣されたことを喜んでいた。イースと二人きりになれる貴重な機会を逃さずに済んで、内心小おどりしていた。
だからだろう。
「お前って、私が好きでしょう?」
♡プリキュア♧じゃない彼女たち
と
◆世界を征服する話◆
第1話 こいのはじまり
イースから突然そんな言葉をかけられたとき、思わず息を呑んでしまった。
そして反射的に答えることもできなかった。
若々しい
「えっと……あの、それは」
「ふうん♪ 本当にそうなのね。サウラーやウエスターが噂していた通りなんだ」
イースは目を細めて笑いながら、セミロングのくすんだ銀髪を掻き上げる。
「あの、その…………」
「それじゃ、お願いがあるんだけど……いいかしら?」
「はい。なんなりとお申し付けください」
ユージは深々と頭を下げた。アメジストのようにうっすら透けた紫の髪。純粋な人間にはありえない色だ。
「私に恋するのは止めなさい。迷惑よ」
「は……」
イースの言葉を聞いて、一瞬頭が真っ白になる。しかしすぐに気を取り直して言う。
「はい。わかりました」
「あっさり引き下がるのね。ふん、本当は好きじゃなかったのかしら」
「いいえ。そうではありません。ただ……」
そこで一呼吸置く。
「私は
国民番号GOP-9362061、識別名称ユージです。
ES-4039781であるイース様とは、身分が違いすぎます。
合成人間の私が、人間のイース様に恋をするなんて、
「ふん、分かってはいるのね。我らが〈ラビリンス〉の社会正義について」
「はい。もちろん理解しております」
「でも、私のことは好きなのよね?」
「……はい」
イースに見つめられると、胸の奥で心臓が激しく鼓動する。頬が熱くなり、うまく喋れなくなる。
「ふうん……♪」
歌うような、鼻にかかった美しい声。
イースは迷宮の奥に向かって歩き出した。
「着いてきなさい、ユージ。我らが〈ラビリンス〉の偉大なる総統、メビウス様のご命令を果たすのよ」
「はい。ありがとうございます」
イースは振り向きもせず、ずんずん歩いて行く。慌ててその後を追った。
◆◆◆
二人は、迷宮を地下へ進んでいく。途中、巨大な扉に出くわした。
「ユージ」
「はい、お任せ下さい」
ユージは手をかざして念じる。すると、目の前で空間が歪み、青い光で作られた鍵が現れた。
その鍵を挿入すると、扉がゆっくりと開いていく。
「さすが、GOP型合成人間ね」
「もちろんです。私はユージ。
ラビリンスの美しき幹部、イース様のしもべ。
どのような鍵でも開いてご覧にいれます。
イース様のために」
本心だったが、イースには
「間違えないで。お前の能力は、我らが偉大なる総統メビウス様のためにある。私に気に入られようなどと考える必要はないわ」
「…………………………………………はい」
絞り出すように言ったユージに、イースは、ふう……とため息をついた。
「……お前は、いつも私の役に立っているわ。さあ、この先へ入りましょう」
「はい、イース様!」
◆◆◆
二人が入り込んだ場所は、地下深い迷宮の中心部だ。
天井は高く、床には複雑な文様の描かれたタイル。壁には何かの壁画が描かれていた。
(……すごい)
壁画の中心には、青い星。これは恐らくユージたちが生きる星、地球だろう。
大半を占めるのは、今まさに地球を覆いつくさんとする、巨大な金色の星。
「妖星ギードラと、それに立ち向かう戦士……でしょうか。すごい壁画ですね。古代の技術とは素晴らしいものです」
「そうね……とても美しい……」
イースも壁画を見上げて感心していたが、すぐに視線をそらし、奥の方を見た。
「宝物庫を探しましょう。妖星ギードラの欠片を持ち帰るのよ」
「はい! そうすれば、我らが〈ラビリンス〉の世界征服は達成されたも同然です」
◆◆◆
世界征服。それこそ、ユージ達がこの遺跡を訪れた理由だ。
この世界、この地球に、主要な国家は3つある。
その一つが管理国家ラビリンスだ。
偉大なる総統メビウスに統治され、世界をメビウスの元に統一せんとする、科学と
ユージたちはラビリンス軍に所属し、他国で
この遺跡を訪れたのは、世界征服のために伝説の秘宝を求めてのことだ。かつて、古代シャンティア王国を滅ぼした妖星ギードラの破片である。
◆◆◆
「これでイース様の評価はさらに高まりますね」
「当然よ。我が名はイース。偉大なる総統メビウス様のしもべなのだから」
イースの顔に会心の笑みが広がる。その美しい横顔を見て、ユージの心に幸せが沸き起こる。
(イース様、あなたが幸せなら……俺も……)
この時のユージは、そんな殊勝な事を考えていたのだ。
身分違いの恋だった。
しかし……。
(ダメだよ……幸せ、ゲットしなきゃ……)
「えっ?」
ユージは耳を疑った。どこからか、聞いたことのない声が聞こえてきたのだ。
(二人で……幸せに……)
「誰だ? 誰かいるのか?」
「どしたの? 急に立ち止まって」
「いえ……なんでもありません」
「なら、早く行くわよ。宝物庫はすぐそこだわ」
「はい」
イースの後を追うように歩き出す。そのときだった。
「うお!?」
大きな音とともに、ユージの前にあった床が抜けた。そしてそのまま落下する。前にいたイースも一緒にだ。
「きゃああぁ!!」
「イース様ァーッ!!!」
悲鳴をあげるイースに、ユージが必死に手を伸ばす。だが、二人の手が繋がることはなかった。
◆◆◆
◆◆◆
「う……頭が痛い……!」
目覚めたイースは、ベッドの上で頭に手を当てて
頭を押さえているうちに、服が変わっていることに気がつく。
怪我をしたのか、体に包帯。ボンテージのような軍服ではなく、治療用の患者衣に着替えさせられていた。
「ここは確か、ラビリンス本部の治療室……。どうしてここに?」
うめく内、徐々に記憶が蘇ってくる。
「そうだ、私は確か……」
遺跡の迷宮で崩落に巻き込まれた、はずだ。
「……その後のことが思い出せない。うう、ユージはどうなったの……」
その時、扉が開かれ医療官の女性が入ってきた。
飾り気の一切ない、ラビリンスの国民服だ。
「お目覚めですね、イースさん。お疲れでしょうが、総統閣下がお呼びです。ご案内します」
言いたい事だけ言って、部屋から出て行く。イースは慌ててその後を追った。
「待って、状況を説明しなさい! 一緒に落ちた合成人間はどうなったの?!」
歩き出した女性の背中に向かって叫ぶ。すると女は振り返もせずに告げた。
「私は国民番号KH-4134542です。あなたの質問に答える義務はありません。全ては総統閣下のために」
そう言い残すと、そのまま廊下の奥へと消えていく。
残されたイースは、なぜか呆然と立ち尽くしいた。
「すべてはメビウス様のために……」
頭がはっきりしない。
イースは言われた通り総統室へと向かった。
◆◆◆
扉の前に立つと、中から話し声が聞こえる。
「失礼致します。イースさんをお連れしました」
「入りなさい」
女の声が響く。イースは疑問を覚えながら、部屋に足を踏み入れた。そして、目を見張る。
「ユージ……なぜ、お前がこの部屋に……!」
目前の光景を信じられなかった。
イースが見たものは、総統の椅子に座るユージと、傍らに立つ少女の姿であった。
「イース様! 目を覚まされたんですね」
ユージが嬉しそうに近寄ってくるが、イースはその手を払い除けた。
「どういうことなの?! なぜ、お前がメビウス様の部屋で、メビウス様の服を身に着け、メビウス様の椅子に座っているの!?」
「イース様……あの、これは……」
ユージは狼狽しているようだ。服はブカブカで、完全に着られている。
「この、おバカ! 答えられないなら質問を変えるわ。何があったの? メビウス様はどこ? ご無事なの?」
イースにとって、メビウスは絶対の存在だ。
生まれた時から機械で
神の存在さえ知らない彼女にとって、メビウスの言葉は神託に等しい。
「イース様……落ち着いて聞いてください。メビウス様は……」
「メビウス様は?!」
「……破壊されました」
「…………は?」
イースの思考が停止する。今、こいつはなんて言ったのだろう。
「破壊……? え、だって、メビウス様は……ご高齢で……ご高齢でお体が……え……死……破壊……?? ……意味が……?」
「ユージさん、わたくしから話しましょう」
今まで黙っていた少女が言った。
音楽のようにすべすべとした、可憐な声だった。
「シャロン……すまない」
「誰……?」
その少女は、ユージの隣に寄り添った。
「このような挨拶で失礼します、イースさん。わたくしはシャンティア王国の王女、シャロンと申します」
美しい。
驚くほどに。何もかもが整っている。
まるで雪で作られた彫刻のようだ。
「メビウスはわたくしとユージさんが破壊しました」
「……え、なにを……言っているの……?」
イースの口から疑問符だけが漏れ出る。
シャロンは紅を塗った唇で続ける。
「総統を
宝石のような赤い瞳がきらめく。
「しかし、あなた達ラビリンスが探し求めていた妖星ギードラの欠片。その魔力の前には、蟻が象を狙うも同じ」
雪のように白い髪は上の方で二つにまとめ、装飾品で飾られている。それで毛先は足元まで伸びているのだから、ほどけば背丈よりも長いのだろう。
「ギードラの力は、メビウスの想像を遥かに超えていたのです。ふふふ……♪」
何より、金色を多用した
「だから、何を言ってるのよ! メビウス様を、お前が殺めたと言うの!?」
「いいえ、イースさん。メビウスはただの狂った機械。ただの電子頭脳です。今頃は再生資源として、リサイクルされていることでしょう。ね♪」
シャロンが、甘えるようにユージの腕を取る。ドレスの上からでも分かる二つのふくらみが形を変えた。
イースのまぶたがピクリと痙攣する。
「ネジとか、バネとか、歯車とか……あとは……ユージさん、なんでしたっけ?」
「シリコンが多かったから、ガラスかな」
「ふざけないで! お前達は……お前たちは……ッ!」
怒りで言葉がうまく出てこない。唇を強く噛み締める。血が出るほど強くだ。
「スイッチ・オーバー!!」
叫ぶと、イースの服が一瞬で軍服に変わる。胸の結晶体から赤いオーラが立ち昇り、全身を包み込んで身体能力を強化する。
「イース様!」
ユージが声を上げるが、イースは完全に逆上していた。視界が真っ赤だった。
「ユージィイ!! この裏切り者ォオ!!!」
イースは拳を振り上げ、ユージに飛びかかった。
「無駄です」
シャロンの右手が黄金に光る。イースの体は、空中で
「離せェ!」
「イース様、落ち着いて! 話を聞いてください!」
「黙れ! この裏切り者ォ! 殺してやる! 私を裏切った報いを受けさせてやる!」
イースが泣き出しそうな声で叫んだ。シャロンは哀れに思ったのか、優しく語りかける。
「イースさん、いえ、イース。
悲しむ事はないのですよ。
この国はユージさんを新総統として再編します。
『シャンティア連合共和国』へと。
そして、改めて世界征服に乗り出すのです。
イースにも、大幹部の席を用意しています。
一緒に頑張りましょうね」
「なにがシャンティアだ! 勝手なことばかり……! 私がいつ、お前達に忠誠を誓ったと言うんだ!」
「ふふ、そうですか……。では、先に頭の中をキレイにしてあげましょう」
そういうと、シャロンは左手をかざした。すると、イースの頭に激痛が走る。
「うあああぁあっ……!? あああぁあっ……!」
「シャロン?! イース様に何をする気だ!」
ユージが叫ぶ。しかし、シャロンは無視して作業を続けた。
「何もしません。
ただ、メビウスが施した洗脳を解くだけです。
安心して、イースの記憶は消えませんから。
これからも、ユージさんの側にいます。
よかったですね、イース。
新しい国のために尽くすことができますよ」
「うぅ……ぐぁ……あぁああ……!」
イースは頭を押さえてうずくまる。
「メ……メビウスはただの機械……ずっとラビリンスの国民をだまし、支配し、搾取してきた……!」
「私の……使命は、人生は、全部ウソ……あぁあっ! うあぁあっ!」
「そうです、イース。ぜ〜んぶ、ウソ♪」
「シャロン!」
イースは涙を流していた。なぜ泣いているのだろうか。自分でも理解できない。
ユージが、苦しむイースをそっと抱きしめる。
「イース様……。
俺は、あなたをずっと見てきました。
だから分かります。
本当のあなたは、ちょっと不器用だけど生真面目で、何事も精一杯頑張る一生懸命な女の子だ。
それはウソじゃなかった。
ウソじゃないんです、イース様」
ユージの優しい口調が、イースの体に染み込んでいく。天井を見上げて涙を流すイースは、ユージの顔を見ることができなかった。
「さあ、イース。
今日からあなたは彼の側近です。
ユージさんとともに世界を征服するのです。
共に新たなシャンティアを、平和で……
平和で笑顔溢れる、幸せな国にするのです!」
シャロンは陶酔したように叫び、イースに手を差し伸べる。
「笑顔だと……虫唾が走るわ……!」
だがイースはユージを突き飛ばし、シャロンの手も振り払った。
「……あら? イース、あなたはもう自由の身です。自分の意思で行動を決めることができるのですよ? それとも……まだメビウスに支配されているのですか? 」
「黙れ、悪魔め……! 新たなシャンティアだと?! 貴様がユージを
イースは涙ながらに叫ぶ。シャロンは口に手を当ててクスクスと笑った。
「あら、まあ♪ 喜んで下さい、ユージさん。貴方達、けっこう脈があったみたいですよ?」
「なにを馬鹿なことを……イース様が俺を心配するわけがない」
「ふふ、そうでしょうか? イース、あなたはどう思いますか?」
「お前なんかに話すことはない!」
イースは叫ぶと、再び拳を振り上げた。しかし、またもや体が動かせなくなる。
「イース、あなたは勘違いをしているようですね。
わたくしは、ユージさんに命令などできません。
彼とわたくしは、契約の上で結ばれたのです。
対等なのですよ」
体が浮き上がる。そのまま、総統室の巨大な机に叩きつけられた。
「きゃっ……!?」
悲鳴が漏れる。机の上に倒れ込んだ体を起こそうとするが、金色の光で押さえつけられる。シャロンの念動力だ。
「さあ、ユージさん。あなたは契約を果たしてくれました。今度はあなたが、願いを叶える番です」
「分かってる……ありがとう、シャロン」
シャロンは、何故かユージに口づけた。まるで軟体動物のように舌を絡めあう。
「……え?」
「ん……ちゅ♡ ……ぷはぁ……」
「シャ……ロ……ン……」
二人はしばらく見つめ合っていたが、やがて離れていった。ユージは照れた様子で頭を掻いている。
シャロンはユージから唇を離すと、今度は呆然とするイースの額に素早くキスした。
「なにを……しているの? ユージ?!」
イースが狼のように吠える。
「これは……「祝福」なのです。とても、気持ちがいいのですよ」
シャロンは微笑んだ。その笑みに、イースは蛇を連想した。
(続く)